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英詩を通した英語学習の可能性

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英詩を通した英語学習の可能性

Possibility of English Learning Using English Poems

折 原 真希子

平成31年 4 月10日発行 皇學館論叢第52巻第 2 号 抜刷

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英詩を通した英語学習の可能性

Possibility of English Learning Using English Poems

折 原 真希子

□ 要 旨 英詩の朗読が、英語の基礎力を築く上で有用であるという立場から、英詩を通した 英語学習を、多様な学習方法の中の一つとして、提案する。実際に、2014年から2016 年にかけて三回、放送大学の面接授業にて、英詩を活用した初級英語の講義を行った。 教材としての英詩の意義を考察した上で、英詩を活用した英語学習の講義の一例を挙 げる。 教材としての英詩の意義については、(1)言語を教える手段として文学作品を活用 する理由、(2)文学テクストの特徴、(3)文学を扱う際に必要となるであろう学習方法 の調整、(4)受講生に見合った文学テクストを選ぶ基準、の四つの項目に沿いながら、 考察する。その上で、放送大学の面接授業という特殊な講義において、英詩を活用し た講義が、英語の基礎力を効率よく高めるために、どのように機能し得たかを振り返 る。一般的な大学生だけでなく、今後増えると予想される、幅広い年齢層の学生にも 対応できる、多様な学習方法の一つとして、英詩の活用の可能性を探る □ Summary

This paper proposes English poems aided English learning as one of effective ways of leaning English based on the consideration that reading of English poems can be helpful in developing a general foundation in English. The author gave three lectures on basic English by means of English poems as the schooling lecture of the Open University of Japan from 2014 to 2016. Following an examination of the significance of English poems as English teaching materials, one example of lectures on English learning using English poems is presented.

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The significance of English poems as English teaching materials is examined in terms of the following four aspects: (1) the reasons for using literary works to teach language, (2) some features of literary texts, (3) the adjustments in methods that teaching literature may demand, and (4) criteria for selecting suitable literary texts for our students. After that, the effectiveness of lectures using English poems is evaluated

in enhancing studentʟs general foundation in English under special circumstances of the

schooling lectures of the Open University of Japan. Finally, some thoughts are expressed on the possibility of further utilization of English poems as one way of learning English capable of coping with ever-increasing students over a wide age range as well as ordinary young students.

Ⅰ.はじめに

英詩を通して、英語学習の講義を行うという提案は、ともすると、時代錯誤 で、迂遠な方法であると一笑に付されかねない。高等学校学習指導要領に記さ れた外国語教育の目標は、「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、情報や考えな どを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う」(平 成30年 7 月)とされている。それに準ずる形で、大学での英語教育も、実生活 で活かせる英語力の養成が求められている。そのような状況において、「英詩」 は、目標とすべき実用英語の対極に位置付けられているといってよい。という のも、かつて、大学では、文学作品を始めとした長文を訳読することに終始す る受動的な講義が広く行われていた。そのような講義方法では、実用英語の習 得は難しく、訳読一辺倒の授業形態の弊害が、広く意識されるようになった。 その結果、大学の講義は、大きく方向転換し、現在では、実用英語の運用能力 の習得、資格取得の為の英語力、コミュニケーション力の向上、TOEIC の目 標点達成などが、講義の目標に掲げられる傾向にある。教材も、それらに特化 したものが作られ、講義で多く採用されている。 そういった背景を鑑みると、文学作品を使って英語の授業をするということ

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自体、タブーと言わないまでも、時代に逆行するかの印象を与えるため、提案 することすら二の足を踏むことになる。単純に、「英詩」という言葉自体が、 過去の大学授業の問題点を彷彿させることもあるであろう。しかし、英詩の訳 読ではなく、英詩の朗読に講義の主眼を置くとすれば、どうであろうか。筆者 は、英詩の朗読が、英語の基礎力を習得する上で、効果があるという立場に立 ち、英詩を活かした学習方法について考察を試みた。 そもそも、英詩の鑑賞という観点からも、訳読で完了するという方法では、 不十分なのである。オクタビオ・パス(Octavio Paz)が、「詩人はリズムによっ て言語に魔法をかける。あるイメージが他のイメージを喚起する。このような リズムの支配的機能によって、詩は他のあらゆる文学形態から区別されるので ある。詩とはリズムに基づいた句のかたまりであり、言語的秩序である」1 ) 述べているように、英詩を鑑賞する際、朗読によって、リズムを体感すること は不可欠である。さらに、「詩は原型的時間であり、それは唇が詩のリズミカ ルな語句を繰り返すやいなや発現されるのである」2 )とも述べており、朗読に より得られるリズムの反復作用が、日常的時間ではない原型的時間を再創造す るのだと指摘している。そして、「詩を読むことは、詩的創造との著しい類似 を示している。詩人はイメージを、詩を創る。そして詩は読者から、イメージ、 ポエジーを引き出す」3 )という指摘も重要であろう。つまり、詩の鑑賞とは、 創作に似た、インタラクティブな作業であり、読者自身が、朗読からイメージ やポエジーを自分の内に見出すことなのである。 勿論、テリー・イーグルトン(Terry Eagleton)が指摘するように「韻律、 リズム、イメージ(比喩)、詩語、象徴性などを用いない詩はたくさんある」4 ) のも事実だ。そういった詩の定義にまつわる問題は、詩とは何かを考える上で 重要であろうが、今回は、英詩の英語学習における有用性を考察することを目 的としているため、そういった議論は、控える。 朗読を中心に据えた講義では、受講生は、英詩の鑑賞、すなわち、何らかの イメージやポエジーが自分の内から引き出されるまで、英詩のリズムを意識し ながら何度も朗読を繰り返すことになる。その過程によって、期待される英語 学習の効果は、以下の三つである。第一に、英語独自のリズム、音に、敏感に

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なる点である。第二に、朗読練習により、日本語を話す時にはあまり使われな い口内の筋肉を鍛えられる点である。第三に、流暢に朗読することにより、英 語の速さに慣れる点である。このような、いわば、英語学習の土台基礎となる 力を、朗読を通じて培った後に、受講生は、実用英語の聞き取りや、ペアワー クによる会話を行う。 英詩の朗読が、英語の基礎力を養うことについては、すでに様々な研究がな されている。『英詩朗読の研究~英語教育と英文学研究の融合』では、著者に よって、英詩朗読を通して「いかに英語の発声をするか、いかに英語の発音を するか、いかにして単語の意味を覚えるかなどの英語学習の基本システムが学 べ」、「英会話から時事英語まで実用英語を学ぶ」ことができると指摘され、実 践方法が提示されている5 ) 2014年から2016年にかけて三回、筆者は、放送大学の面接授業、「初級英語~ 英詩を通して」にて、実際に、英詩の朗読を活用した英語学習の講義を行った。 本稿では、非実用的であると敬遠されがちな英詩を、初級英語の講義で活用し た実例を挙げながら、教材としての英詩の意義や、講義の構成ついて考察し、 英語学習における英詩が果たす役割の可能性について検証する。

Ⅱ.教材としての英詩

文学作品を授業で活用する場合に、考慮すべき点を、ジョー・アン・エイバ ソールド(Jo Ann Aebersold)とメアリ・リー・フィールド(Mary Lee Field)は、 4 つ挙げている。

Our approach to using literature in the L2/FL reading classroom includes four considerations: (1) the reasons for using short stories, novels, poetry, and other types of literary works to teach language, (2) some features of literary texts, (3) the adjustments in methods that teaching literature may demand, and (4) criteria for selecting suitable literary texts for our students.6 )

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これは、読解の授業に限定されているため、朗読を中心に据えた筆者の授業 と、状況が同じではないが、文学作品を活用して英語を教えるという点で共通 している。二人が挙げた四つの点は以下の通りである。 (1) 言語を教える手段として文学作品を活用する理由 (2) 文学テクストの特徴 (3) 文学を扱う際に必要となるであろう学習方法の調整 (4) 受講している学生に見合った文学テクストを選ぶ基準 放送大学の面接授業、「初級英語~英詩を通して」の講義において、これらの 四つの点をどのように考慮し、そして、どのように講義に反映させたかをみて ゆく。 ジョー・アン・エイバソールドとメアリ・リー・フィールドは、(1)の「言語 を教える手段として文学作品を活用する理由」に、次のようなものを挙げている。 ① 学生達の関心と動機付けを増大させる ② 多様なテキストを提供する ③ 文化的理解と個人の成長を促進させる ④ 言語能力の向上を促進させる7) 筆者が講義で英詩を活用しようと試みた理由も、二人の挙げたものとほぼ同 じである。実際に講義を行った結果、これらのことは上手く機能した。その中 でも、最も意義深かったのは、①の学生達の関心と動機付けを増大させた点で ある。 放送大学の面接授業の受講生は、年度によってばらつきはあるものの、およ そ30名程のクラスで、年齢層は20代から80代と幅広く、40代以上の学生が 7 割 程占めていた。受講生を対象にとったアンケート結果によると、受講生は、英 語を学習した経験があり、英語に初めて触れるわけではない。英語学習で挫折 を経験したが、英語自体には興味があり、改めて勉強し直して、英語力を身に

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着けたいと希望する受講生が多かった。 そのような受講生を対象に初級英語を教える際、教材選びは容易ではない。 大学で使用されている、いわゆる初級英語の教材は、例文や長文読解に使用さ れる文章が、初級という性質上、表層的な内容のものが多い。一般的な大学生 にも当てはまることであるが、とりわけ、豊富な人生経験を積み重ねてきた放 送大学の受講生の中には、そういった教材では、知的好奇心が満たされないと 物足りなさを感じる人もいるであろう。さらに、高等学校の教材と変わり映え のしない構成であると、勉強方法に新規性を見いだせず、場合によっては、挫 折の経験を思い起こさせる可能性もあり、せっかく芽生えた向学心を削ぐこと にもなりかねない。そこで、求められるのは、受講生が経験したことのない、 異なった角度からの学習方法であり、「外国語を通じて、言語や文化に対する 理解を深め」ることができる教材ではないだろうか。そういった要望に、応え ることのできる様々な教材の中の一つとして、英詩を活用した。 講義を終えた後、「この年になって、初めてシェイクスピアのソネットを読 み、朗読できたことが、嬉しかった」や、「英詩から英語学習を進めるやり方 が自分には合っていると感じた」や、「このような学習を続けていけば、発音 が上達すると思った」といった意見が上がった。最も多かった意見は、「英詩 が好きになり、朗読によって、英語のリズムや、発音する際の口内の動きに慣 れることができた」というものである。 ②の多様なテクストの提供に関しては、英詩に初めて触れる人が多かったた め、物珍しいテクストとして受け入れられた。また、テクストの多様性だけで はなく、それに付随して、思考の多様性も、講義で重視したことの一つである。 朗読を達成した後、英詩について気づいたことや感じたことを聞く時間を設け た。その際、詩の鑑賞には、一つの正解があるわけではなく、どのような意見 も貴重であり、大切であることを伝え、自由で多面的なものの見方を促した。 英詩を始めとした文学作品の魅力の一つは、多様性に対する寛容さと言えるで あろう。英詩は、受講生から多様性を引き出すにための、格好の教材である。 実際に、受講生からは、様々な独創的な意見が、活発に出た。例として、『早 春の歌』(Lines Written in Early Spring)8 )を扱った時の意見を、挙げる。それは、

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詩の三連目に関するものであった。

Through primrose-tufts, in that sweet bower, The periwinkle trailed its wreathes;

And 'tis my faith that every flower Enjoys the air it breathes.

「periwinkle という単語は、四音節あり、強弱強弱とリズムを刻むため、読 む時に苦心したが、それがいかにも、ツルニチニチソウが、蔓を這わせている 雰囲気を詩に添えていると感じた」といったものである。黙読だけでは得られ ない気づきである。リズムと音と内容、それに受講生の経験とが、融合したこ とがわかる。それにより、生命力にあふれ、力強く蔓を這わせる植物が、彼の 心の中で発現したのであろう。 ③にも指摘のある文化的な理解は、受講生の知的好奇心を満たす上でも重要 と考え、詩を解説する時間に文化的な背景に触れた。しかし、あくまで英語学 習が目的であるため、補足説明に留めるよう心がけた。例えば、シェイクスピ アのソネット18番を読む時には、ソネットや『ソネット集(Sonnets)』につい て解説を加えた。ソネットについては、ソネットの形式は、14世紀にイタリア でペトラルカによって確立されたこと、イギリスには遅れて入ってきたこと、 サリー伯が英語に適した形式を編み出し、そのイギリス形式で、シェイクスピ アは全てのソネットを書いたこと、などを説明するに留める。『ソネット集』に 関しては、154篇のソネットのうち、 1 番から126番が、パトロンの美貌の青年 貴族にあてたものであり、127番から152番は、女性に当てたものであるといっ た説明をし、講義で扱う18番は、パトロンの青年に当てたものであるとった説 明を余談の形で行った。 最後に、④の言語能力の向上についてである。先に述べたとおり、講義では、 実用英語の聞き取り能力や会話能力を、効率よく向上させるための、基礎力を つけることに主眼を置いた。面接授業の受講生は、文法や読解にはある程度自 信があるものの、聴き取りや会話に苦手意識を持つ傾向にあった。しかし、英

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詩の朗読によって、英語を声に出すことに慣れ、すらすらと美しく朗読できる 自信が付くと、ペアワークにも力が入り、積極的に会話することができた。ま た、英語の自然な速さに慣れたため、聴き取りの演習問題にも、十分対応でき るようになった。 次に(2)の「文学テクストの特徴」と(3)の「文学を扱う際に必要となる であろう学習方法の調整」についてみてゆく。ジョー・アン・エイバソールド とメアリ・リー・フィールドは、(2)で、情報テクスト(informational texts) と文学テクストを読む際の重要な相違点について考察している9 )。その上で、 (3)において、授業で活用する際は、情報テクストを扱う場合の学習活動に修 正を加えることが必要であると指摘している。英詩は、情報テキストと異なる ことは勿論だが、散文の文学作品とも異なっている。そのため、英詩を授業で 活用する際には、英詩独自の約束事などを説明する必要がある。ただし、 ジョー・アン・エイバソールドとメアリ・リー・フィールドも強調しているが、 講義の目的は、文学の研究ではなく、あくまでも、英語学習の向上であり、そ れを忘れてはいけない10)。必要最低限の説明に留め、その後、単語、文法の説 明をして訳し、最終的に朗読へと移行していくことになる。朗読を受講生に促 す際には、朗読によって、実用英語の聞き取りや会話に活かせる基礎力が身に 付くことを説明することが、動機付けといった観点から、肝要である。具体的 な英詩の特徴と講義の調整については、次の章で述べる。 最後に(4)の「受講している学生に見合った文学テクストを選ぶ基準」に ついてである。ジョー・アン・エイバソールドとメアリ・リー・フィールドは、 学生の英語力のレベル、学習の動機付け、どういったことを必要としているか、 どういったことに関心を抱いているか、そのようなことに配慮して、適切な文 学テクストを選ぶよう提案している11)。筆者も、それらの点に心を配り、講義 で使用する英詩を選んだ。受講生にとって、知的好奇心が満たされるもの、そ して、没頭できる面白さがあるもの。それでいて難解と感じるものであっては ならない。特にこの三つの要素を兼ね備えた作品を選んだ。 具体的には、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)のソネッ ト18番(Sonnet 18)(『ソネット集』(The Sonnets))、『ロミオとジュリエット』

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(Romeo and Juliet)の劇中のソネット、ウィリアム・ワーズワース(William

Wordsworth)の『水仙』(The Daffodils)、『早春の歌』(Lines Written in Early Spring)、

トマス・グレイ(Tomas Gray)『田舎の教会墓地にて書かれた挽歌』(Elegy in a

country church-yard)、エミリ・ジェイン・ブロンテ(Emily Jane Brontë)の『高

く波打つヘザー』(High waving heather)、アルフレッド・テニスン(Alfred, Lord

Tennyson)の『クリスマス・ベルズ』(Christmas Bells)、『ニューイヤー・ベルズ』

(New Year Bells)といった作品である。長い作品は、一部を抜粋して使用した。

シェイクスピアは、受講生の関心が最も高い作家であった。シェイクスピア 作品の名言を知っていたり、あるいは、シェイクスピア原作の映画を観たこと があるという人が多数であった。そのため、シェイクスピアの作品は、受講生 の興味を引き付け、知的好奇心を満たすことのできる、面白い教材と言えよう。 ソネット18番は、ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)が歌っている楽曲もあ り、講義中に一度流し、リズムについて理解を深めた。『ロミオとジュリエッ ト』に関しては、ソネットの箇所の映像を流して、発音とリズムの確認をした。 次に知名度が高い作家は、ワーズワースだ。ビアトリクス・ポター(Beatrix

Potter)のピーター・ラビット(The Tale of Peter Rabbit)の関連で湖水地方(the

Lake District)について知識のある受講生も多かった。彼の作品の中には、英 語も難解ではなく、リズムをとり易いものがいくつかあり、初級英語の教材に 適している。エミリ・ジェイン・ブロンテは、小説『嵐が丘』(Wuthering Heights) の作者として、知っている人がある程度いた。『高く波打つヘザー』は、弱強 調ではなく、強弱弱調のリズムを刻む。これは弱強調の詩が多い中で、異なる リズムを味わえるという点で貴重である。講義では、二番目に学ぶ詩として利 用し、最初に学んだ弱強調の英詩と比較する機会を持った。テニスンは、音楽 美が特徴ということもあり、読んでいて気持ちがよくなるといった意見が多数 出た。初めて朗読する者でも、朗読の心地よさが味わえる貴重な作品だ。作品 によっては、英語も非常に平易である。そういったことから、テニスンの作品 も、初級英語の教材の条件に適っているといえるであろう。英詩の中には、難 解なテクストもたくさんあるが、このように、初級英語の教材として適切なも のもたくさんあるのである。

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Ⅲ.英詩を活用した授業の実際

先の章で引用した、ジョー・アン・エイバソールドとメアリ・リー・フィー ルドの提案する、文学作品を教材として使用する時に考慮すべき点の(2)と(3) の項目は、英詩を活用して講義をする上で、非常に重要で、要となるものであっ た。というのも、(2)の「文学テクストの特徴」、すなわち、英詩というテク ストの特徴を生かし、さらに、(3)の「文学を扱う際に必要となるであろう学 習方法の調整」をいかに工夫するかが、講義の成否を決定するからである。実 際に、放送大学の面接授業、「初級英語~英詩を通して」の講義で、どのよう に英詩のテクストの特徴をいかに活かし、そして、どのように学習方法を展開 したかを、具体的に振り返る。 最初に、放送大学面接授業の講義日程の特徴を確認しておく。面接授業では、 85分の講義が 1 限から 4 限まで続き、それを二日連続で行う。つまり、集中的 に二日間で 8 回の講義を行う。各回の講義内容は下記の通りである。 一日目 一限:英語特有の音、リズム、イントネーション 1 二限:英詩 1 の解説 三限:英詩 1 の朗読 四限:英語の聞き取り演習、英語で会話練習 1 二日目 一限:英語特有の音、リズム、イントネーション 2 二限:英詩 2 の解説 三限:英詩 2 の朗読 四限:英語の聞き取り演習、英語で会話練習 2 8 回の授業を連続で行うということは、別の表現をすると、 2 日間で、約11 時間30分もの間、英語学習をすることになる。教える側としては、受講生が、

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興味、意欲、集中力を持続できるよう配慮する必要があるであろう。その一方 で、講義にとって良い面もあった。それは、連続で教えられるので、前の講義 で学んだことを受講生が忘れてしまう懸念が少ないことである。これは英詩と いう、受講生に馴染みのないテクストを使う講義にとっては、好都合であった。 1 週間に一度という講義日程では、上記のような時間配分での学習は功を奏さ ないであろう。両日とも、「英語の音、リズム、イントネーション」から初めて、 「英詩の解説」、「英詩の朗読」を行い、その後「実用英語の聞き取り演習、会 話練習」へ移行していく。二日目は、一日目よりも、難易度を上げたものを行 うようにした。 英詩というテクストの特徴を、受講生に認識してもらうために、両日の一限 目では、「英語の音、リズム、イントネーション」を扱う。この時間は、英詩 の初歩的な知識を習得しながら、英語特有のリズムについて理解を深めること が目的である。日本語が、音節の数でリズムをとる言語であるのに対して、英 語は音節の強弱でリズムをとる言語であるといった比較から説明を始める。実 際に、和歌と英詩の読み比べをし、音でリズムの違いを確認する。 その際、「日本語とは異なるので、英語の強弱のリズムに親しみを感じない、 難しい」と感じる学生が多い。そこで、日本語という言語が、強弱でリズムを 取ることは稀であるが、その一方で、身の回りには、強弱のリズムが溢れてい ることを指摘する。例えば、蛙の鳴き声、波の音、心臓の音、包丁で何かを刻 む音、電車の音、スマートフォンの呼び出し音、さらに大きな意味では、季節 や星々の巡りに至るまで、すべて一種のリズムであることなどを説明する。そ ういったことを考えると、強弱のリズムは、決して親しみを感じないものでは なく、むしろ身近なものであり、難しいことではないと強調をする。 次にリズムの種類について説明をする。ジョー・アン・エイバソールドとメ アリ・リー・フィールドが念を押しているように、講義は、英詩の研究自体が 目的ではなく、英語学習が目的であることを忘れてはならない12)。受講生の集 中力を途切れさせないためにも、聞き慣れないであろう専門的な用語は使わな い方がよいであろう。例えば、アイアンビック・ペンタミター(iambic pentameter) といった用語は、英語学習といった観点からみると、特に知っている必要はな

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く、弱強のリズムが一行あたり 5 回繰り返されている、とだけわかれば十分で ある。

例 え ば、『田 舎 の 教 会 墓 地 に て 書 か れ た 詩』(Elegy Written in a Country

Churchyard)の一節を引用し13)、解説する例を挙げてみよう。弱音節の上には

ˇ

のしるしをつけ、強音節の上には

́

のしるしを付け、リズムを視覚化したも のを受講生に提示する。

Thě cúrfěw tólls thě knéll ǒf pártǐng dáy, A Thě lówǐng hérd wǐnd slówľy óʟer thě léa, B Thě plóughmǎn hómewǎrd plóds hǐs wéaryˇ wáy, A Ǎnd leáve thě wórld tǒ dárkněss ánd tǒ mé B 受講生は、これを見ると、

ˇ

́

(弱音節と強音節)が繰り返されているこ とに気付く。その上で、このリズムの最小単位(

ˇ

́

)を、歩格(foot)と 呼ぶことや、一行あたりの歩格の数を数えると、全ての行に、 5 つあることを 確認する。さらに、各行の最後の音に注目すると、一行目と三行目がともに [ei]で終わっており、さらに二行目と四行目は[iː]で終わっていることも説明 する。この程度で、説明は留めておく。 次に、詩の構造について確認をする。リズムの最小単位である歩格を繰り返 すことにより、心地よいリズムが発生すること。歩格がいくつか集まり、行と なり、その行がいくつか集まり連となる。最終的には、蓮がいくつか集まって、 一編の詩となる。そういったことを一通り説明した上で、一限目では、 4 行ほ どの詩の一節を引用し、実際に、韻律を調べていく。その後、音を聞いて、リ ズムを確認する。一限の最後には、実際に、受講生が一人一人、自分のペース で、詩の一節を声に出して読む練習をする。 両日の二限目では、「英詩の解説」を行う。一編の詩を取り上げるのだが、 この詩は三限目の講義で、受講生が実際に朗読を行うため、朗読が円滑に進む ように、時間をかけて解説する。ともすれば、英詩というだけで難解なイメー ジを持たれかねないため、単語の意味、発音から、文法、訳に至るまで、丁寧

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に説明をする。詩の中には、日常、あまり使わないような、難易度の高い単語 が使われることもある。必要に応じて、そういった単語は、時間を割いて発音 を繰り返し、学生にも練習を促す。その後、受講生が、英語の意味、発音、文 の構造をしっかり理解した上で、その詩を筆者が朗読し、リズムを確認しても らう。また、先の章で述べたように、文化的背景の説明は、この時間に行う。 両日の三限目では、二限目で取り上げた詩を受講生が流暢にリズム良く朗読 することが目的である。一連ずつ、韻律を説明し、読む練習を各自行う。一連 ずつ、練習をした後、全ての連を一気に朗読する。何度も練習できるよう、あ る程度時間をとる。学生は、自分のレベルに合わせて、自分の好きなペースで 練習することができる。その間に、筆者が、一人ずつ朗読の状態の確認をし、 改善点があれば指摘する。三限目の講義の最後には、ペアを組み、お互いに詩 を朗読し合う。 両日の四限では、実用英語の聞き取り演習や会話練習を行う。一日に 4 回の 講義がある中で、1 回しか実用英語の時間を割かないことに関しては、少々バ ランスが悪いと感じられるかもしれない。しかし、先にも触れたが、面接授業 は、一般的な大学の講義と性質を異にしている。2014年度の講義を例に、受講 生の年齢の分布を確認してみよう。 20歳代: 4 名 30歳代: 7 名 40歳代:13名 50歳代: 7 名 60歳代: 5 名 70歳代: 1 名 80歳代: 1 名 最も多いのが40歳代であり、40歳以上が全体の約70%、30歳以上では約90% の割合を占めている。特に、40歳以上の学生は、訳読を中心とした教育を受け てきた世代である。つまり、聞き取り演習やペアワークの会話練習等を経験す る機会に恵まれなかった世代ともいえる。そのため、英語を聞き取ることに対 する苦手意識や、ペアで会話をすることへの抵抗感が、一般の大学生よりも強 かった。そういった受講生の特徴も、文学テクストの特徴と同様に、講義の構 成を考える上で、配慮や調整が必要であろう。 そこで、唐突に、他者と英語で話すペアワークから始めるのではなく、個人

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練習が可能な、英詩の朗読に多くの時間を割いた。朗読を成功させるために、 個人練習の時間は余裕を持って設ける。そして、受講生が朗読を通して、英語 を声に出して表現することの楽しさを、経験できるよう努めた。さらに、英語 の基礎力の強化という点では、集中的に朗読を行うことにより、英語特有の口 内の動きが身に付いた。それによって、会話練習をする際に、円滑に舌が動く ようになった。また、流暢に朗読ができるようになると、英語の速さにもつい ていくことができ、リスニング能力の向上にもつながった。

Ⅳ.終わりに

「初級英語~英詩を通して」では、英詩の朗読を中心に据えて、英語学習を行っ た。実用英語という種を蒔く前に、英詩の朗読を通して、種を育むための豊饒 な土地作りを目指した。勿論、英語のリズムやイントネーションは、英詩でし か学べないわけではない。当然、コミュニケーションに特化した教材でも扱わ れ、大学の教室でも練習が行われている。例えば、以下は、大学で使用されて いるテキスト、Interchange からの抜粋である14) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ When people get married in Japan, they sometimes have a ceremony at the shrine. ○のついた箇所を強く読み、英語のリズムを身に付けるよう指示される。続い て次のような文章が続き、CD で音声を確認した後、リズムに気を配りながら 音読練習をする。

After the ceremony, thereʟs a reception with family and friends. Before the guests leave, the bride and groom give them presents. The guests usually give money to the bride and groom.

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実用英語を通して、リズムやイントネーションを身に付けることができると、 短時間でコミュニケーション能力の向上が望めるであろう。そういった練習を 繰り返すことで、英語の発話に必要な口内の筋肉を鍛えるともできる。しかし 一方で、画一的な学習方法に、興味を持てなかったり、挫折を感じる学生が、 一定数いることも、まぎれもない事実である。多様な人間がいる以上、学習方 法にも多様性が求められてよいであろう。講義で使用したエミリ・ジェイン・ ブロンテの詩の一節と比較してみよう。

High waving heather, ʟneath stormy blasts bending, Midnight and moonlight and bright shining stars; Darkness and glory rejoicingly blending,

Earth rising to heaven and heaven descending, Manʟs spirit away from its drear dungeon sending, Bursting the fetters and breaking the bars.15)

初級英語で扱うには、少々難解な単語も入っている。heather という植物は、 ブロンテと切っても切れない重要な植物であるが、関心のない人から見ると重 要な単語ではない。blast や fetter や dungeon も初級英語には適さない単語で ある。合理性といった視点から見ると、Interchange の例文が勝るといえる。 しかし、音の美しさでは、どうだろうか。英詩は「舌の快楽」と呼ばれること があるように、読んでいて心地よくなるよう作られていることが多い。どちら が何度も朗読したくなる文章かと言えば、英詩の方に軍配が上がると言えよう。 では、Interchange の例文と英詩とで、その内容を比較してみよう。 「日本では結婚する時に、神社で結婚式をあげる人がいます。」 「結婚式の後、彼らは、家族や友達と披露宴をします。」 「招待客が帰る前に、新郎新婦はプレゼントを渡します。」 「招待客は、通常、新郎新婦にお金を渡します。」

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高く波打つヘザーは 嵐のような突風に折れ曲がる 真夜中と、月光と、煌めく星くず 暗闇と栄光は、嬉々として溶けあい 大地は天に上がり、天は下り 人間の霊魂は、わびしい牢獄から解き放たれて 足枷をくだき、牢格子を折る16) Interchange の例文は、日常生活ですぐに使えそうな文章であるのに対し、 英詩の方は、内容が形而上学的なもので、日常生活では使い難いものである。 即 戦 力 が 付 く の は、Interchange の 例 文 で あ る の は 一 目 瞭 然 だ。た だ し、 Interchange の例文に、興味を感じることができない人もいる可能性があり、 そういった人の中には、英詩の内容の方が、心揺さぶられ、知的好奇心を抱く という人もいるであろう。 大学生の中には、合理的な学習方法に馴染めず、中学生時代、もしくは高校 生時代に、挫折し、苦手意識を持った人もいる。そういった学生が、大学にお いても、中学、高校と、似通った学習方法で学ばなければならないのは、苦手 意識を助長させる可能性がある。それまでに経験したことがない新たな角度か らの学習方法を提示することも、教える側の勤めであろう。 また、一般的な大学生だけに限った話ではない。今回は、放送大学の面接授 業の講義で行った、英詩朗読を通した英語学習についてみてきた。受講生の 7 割が40歳以上という、特殊なクラスで、この学習方法は、一定の効果があった のである。少子高齢化が進む中、人は、生涯学習へと目を向けるようになった。 今後は、様々な年齢層の人が、英語学習に励むことが予想される。そのような 状況になった時に、多様な学習方法があったほうが良いのは間違いない。その 一つとして、英詩を通した英語学習の可能性について、検証してきた。 註 1 .オクタビオ・パス,牛島信明訳『弓と竪琴』(筑摩書房 2001),82 2 .オクタビオ・パス,94

(18)

3 .オクタビオ・パス,36

4 .Terry Eagleton, How to Read a Poem. (Oxford: Blackwell Publishing Ltd, 2007), 25 5 .清水英之,『英詩朗読の研究』(近代文藝社 1996),7

6 .Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, From Rreader to Reading Teacher: Issues and strategies for second language classrooms (New York: Cambridge University Press, 1997), 156

7 .Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, op. cit.「言語を教える手段として文学作品を 活用する理由」について,以下の 6 つが挙げられている。しかし,本稿では,章末 において,これらを 4 つにまとめられていたものを引用した。

・To promote cultural understanding ・To improve language proficiency

・To give students experience with various text types ・To provide lively, enjoyable, high-interest readings

・To personalize the classroom by focusing on human experiences and needs ・to provide an opportunity for reflection and personal growth

8 .William Wordsworth, Selected Poems of William Wordsworth, (London: Penguin

Classics, 2005), 53 題の邦訳は,田部重治訳,『ワーズワース詩集』(岩波書店 2007)

を参考にさせていただいた。

9 .Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, op. cit. 10.Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, op. cit. 11.Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, op. cit. 12.Jo Ann Aebersold & Mary Lee Field, op. cit.

13.Tomas Gray, The Poetical Works of Thomas Gray (California: Forgotten Books, 2012)

14.Jack C.Richard, Jonathan Hull& Susan Proctor, Interchange 4th edition (New York: Cambridge University Press, 2013), 53

15.Emily Jane Brontë, The Complete Poems of Emily Jane Brontë, ed. C.W.Hatfield (New York: Columbia University Press, 1995), 31

16.Emily Jane Brontë, 中岡洋訳,『エミリ・ジェイン・ブロンテ全詩集』(国文社 1991),7 (おりはら まきこ)

参照

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