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量子コンピュータ素子の性能評価に世界で初めて成功

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配付) 科学記者会(資料配付)

量子コンピュータ素子の性能評価に世界で初めて成功

-励起子のデコヒーレンス時間の直接観測- 平成18年 3月17日 独立行政法人物質・材料研究機構 独立行政法人科学技術振興機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)、ナノマテリアル研究所(所長: 青野 正和)ナノ物性グループ(ディレクター:木戸 義勇)の黒田 隆主任研究員、黒田 圭司特別研究員、迫田 和彰主席研究員らは、固体量子コンピュータ素子の基本的な性能指 数であるデコヒーレンス時間の直接観測に世界で初めて成功した。 2.量子コンピュータは「量子力学的な重ね合わせ」状態をとることから現在のコンピュータ に比べて優れた計算速度などを実現することが期待されており、この「量子力学的な重ね合 わせ」状態が安定に保たれている時間のことをデコヒーレンス時間と言う。デコヒーレンス 時間は、量子ビットにおける最も重要な性能指数であるが、材料や素子によって千差万別で あり、また一般に固体のデコヒーレンス時間はごく短いため正確な評価を行える手法が無 く、評価法の確立が待ち望まれていた。 3.今回、GaAs 自己形成型半導体量子ドットにレーザーを照射することにより、励起子がある 状態と、無い状態の2つの状態を実現した。この量子ドットが量子コンピュータ素子として の性能を持っていることを検証するため、レーザーを照射した際に発生する単一光子を、機 構で独自に開発した位相安定化自己相関計で検知した。その結果、性能評価の基本指数であ る励起子および励起子の分子状態のデコヒーレンス時間の直接計測に成功した。 4.励起子を利用する量子コンピュータ素子については、今後さまざまな材料や素子が検討さ れることが予想されるが、その際、今回開発した評価法を適用すれば、今まで評価が究めて 困難であったデコヒーレンス時間の長い励起子に対しても高精度の評価が可能となり、量子 コンピュータの実現に向けての開発が加速されることが期待される。 5.本成果は、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)の研究テーマ「単一量子ド ットの多光子量子操作(研究者:黒田隆)」の一環で得られたものであり、米国の学術専門 誌「Applied Physics Letters」の最新号(3 月 20 日)に掲載される。

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研究の背景 量子コンピュータ(量子計算機)は、量子力学の原理に基づく新しいコンピュータのモデルで ある。現在のコンピュータでは莫大な時間がかかる計算処理が、量子コンピュータを用いれば、 ごく短時間に実行可能なことが知られている。現在まで、最大で7量子ビット・レベル1)の、 小規模な量子計算が、特殊な溶液分子を用いて実証されている。しかし、実用レベルの計算処理 には、飛躍的な量子ビットの集積化が必要であることは言うまでもない。そのため、固体材料を 用いた、高性能の量子ビット素子の開発が望まれている。 固体量子ビットとしては、超伝導体を用いたもの、量子ドット2)の電子スピンを用いたもの、 量子ドットの励起子3)を用いたものなどが知られている。この内、量子ドットの励起子を用い た方法では、量子計算の基本操作(量子ゲート)として、レーザー光を用いるのが特徴である。 半導体で作られた量子ドットに、レーザーを照射すると、量子ドットの内部に電子と正孔のペア である「励起子」が生成される。そこで、励起子が「ある」状態と、励起子が「ない」状態を、 レーザーでスイッチできれば、量子ビットの基本操作が実現できる。この方法では、素子に電流 を流す必要がなく、非接触的に計算処理が可能となる。また、超短パルスレーザーと組み合わせ ることにより、数ピコ秒4)ステップの超高速演算ができ、他の固体量子ビット系にはない優位 性を持つ。 量子コンピュータは、量子力学的な重ね合わせ状態を用いるため、重ね合わせ状態が安定に保 たれている間に計算を終了せねばならない。重ね合わせ状態が保たれる時間のことを、デコヒー レンス時間5)と呼び、この数値は固体量子ビットにおける最も重要な性能指数である。一般に デコヒーレンス時間は、材料や素子によって千差万別であり、優れた量子ビットの創生には、個々 の素子を対象にデコヒーレンス時間の評価を行わねばならない。しかしながら、励起子を用いた 量子ビットの場合、デコヒーレンス時間が数10ピコ秒程度と短かいこともあり、直接、高精度 に検出することは不可能であった。そのため、スペクトル線の線幅から、間接的に推定する方法 が一般に行われていたが、この場合、普及型分光器の分解能では、十分な精度が得られないこと が問題であった。また、非線形分光手法を用いて評価する方法も行われていたが、この方法で見 出した数値は、複数の量子ビット集団の値の平均値であり、1個の量子ビットの素子評価は不可 能であった。 成果の内容 励起子のデコヒーレンス時間を評価するためには、励起子から発生する光子のコヒーレンス時 間を観測すればよい。そこで今回、単一の量子ドットから発せられた光子の自己相関信号の観測 6)を行い、単一発生光子のコヒーレンス時間の観測を行った。微弱な単一光子状態の自己相関 を観測するために、位相安定化した自己相関計7)を新たに開発し、量子ドットの励起子および 励起子分子のデコヒーレンスの様子を、世界で初めて実時間的に計測した。

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量子ドットである。 単一の量子ドットから発生する光子を検知するために、顕微分光法 8)を用い、微小空間領域 から発する光を計測する(図2)。単一発生光子は、独自開発の自己相関計に導入し、2光路に 分け、時間遅延をつけられた後再び重ねてから検出する(図3)。干渉計の内部に安定化回路を 組み込むことにより、光路差の乱れを±10 nm 以下まで抑えた。 図4は干渉強度を遅延時間の関数としてプロットしたものであり、発生光子の自己相関関数を 表す。四角形のデータは、レーザー励起強度が小さい場合の自己相関である。時間とともに干渉 強度が小さくなり、光子のコヒーレンスが失われる様子が分かる。ここから励起子のデコヒーレ ンス時間は約 35 ピコ秒と見積もられた。 一方、赤丸は励起強度を大きくした場合のデータであり、自己相関信号に顕著な振動成分が重 畳していることがわかった。この励起強度においては、量子ドット内部には1個以上の励起子が 平均として存在する。この時、励起子が2個存在し、励起子が分子状態を形成している状態 9) と、1個だけ励起子が存在する状態が、確率的に起きている状況となる(図5参照)。そのため、 励起子分子の発光と励起子の発光の「うなり」が時間領域に表出することになる。これから励起 子分子のデコヒーレンス時間が 5.4 ピコ秒と精度よく決定できた。 励起子の分子状態は、多量子ビット処理や、もつれ合い光子源 10)の担い手として、物理的重 要性が認識されつつある。一方、そのデコヒーレンス過程については、従来実験法の困難さのた めに、ほとんど研究例がなかった。今回開発した手法では、励起子および励起子分子の両者にお いて、同時かつ高精度にデコヒーレンス時間を観測することができる。これにより、世界で初め て励起子分子のデコヒーレンス過程を時間追跡することに成功した。 波及効果と今後の展開 固体量子コンピュータ実現へ向けた第一歩として、今回作製した半導体量子ドットが、量子ビ ット素子としての特性を備えている事を確認した。今後、多波長かつ多段的な光励起を用いるこ とにより、多量子ビット演算の実証を行う予定である。 さらに今回開発した量子ビット素子の評価技術は、自己相関計の光路差に関して制限はない。 このため、従来評価が極めて困難であった材料または素子に対しても、高精度の評価が可能であ る。今後、試料作製技術が進歩し、よりデコヒーレンス時間の長い、良質の量子ビットが作成さ れるようになった場合にも、柔軟に対応できる技術である。 謝辞 本研究は独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけタイプ「量子と情 報」領域の研究テーマ「単一量子ドットに多光子量子操作(研究者:黒田隆)」の中で行われた ものであり、関係各位に深く感謝致します。

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用語解説 1)量子ビット 量子コンピュータを構成する基本単位。従来型のコンピュータでは、入力情報を0か1の「ビ ット」に分解して計算処理を行う。一方、量子コンピュータにおいては、量子力学的な2つの状 態(状態 0 と状態 1)の「重ね合わせ」を、計算処理の単位として用いる。現在まで、7量子ビ ットまでの量子コンピュータが実現している。 2)量子ドット 半導体などで作られたナノメートル・サイズの微結晶。量子ドットの内部に、電子を閉じ込め ることができる。そのため、量子ドットの電子状態や光学応答は、顕著な量子特性を示す。 3)励起子 半導体に光を照射すると、光子1個分のエネルギーが半導体に蓄えられる。光照射によって半 導体に励起されたエネルギーの粒を励起子と呼ぶ。励起子は、電子と正孔のペアで構成される。 4)ピコ秒 1千億分の1秒。1 ピコ秒の時間幅のパルス光を用いれば、理想的には毎秒1千億ステップの 量子演算が可能となる。 5)デコヒーレンス、コヒーレンス コヒーレンスとは、波の性質の一つで、2つの波の干渉のしやすさ(過干渉度)を表す。2つ の波の間に位相の乱れがない場合、コヒーレントであるという。コヒーレンスが低減し、干渉し なくなることをデコヒーレンスといい、その時間をデコヒーレンス時間とよぶ。 量子力学では、系の状態を波動関数で表す。量子的な重ね合わせ状態が安定であるには、波動 関数のコヒーレンスが保たなければならない。コヒーレンスが低減する原因には、外部環境から の擾乱によって、波動関数の位相が乱れる場合が考えられる。 6)自己相関信号 光をビームスプリッターで二つに分割し、それぞれ光路長の異なる光路を通過させた後、再び 重ねてその干渉の強さを検出する。光が光路差を伝播する時間、コヒーレンスが保たれていれば、 お互い干渉できるが、コヒーレンスが失われると干渉が小さくなる。これから発光の源である量 子ドット励起子のデコヒーレンス時間が求まる。 7)自己相関計

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8)顕微分光法 微小な空間領域からの光学信号を検知する分光測定技術。通常、倍率の大きな顕微鏡レンズを 用いて、試料から信号を検出する。実験装置の安定度や精度の高い調整が求められる。 9)励起子の分子状態 2個の励起子が結合し安定化した状態。励起子は1対の電子と正孔で構成されるため、水素原 子に類似したエネルギー構造を持つ。2個の水素原子が水素分子を組むことの類推で、励起子の 分子状態が安定に存在する。安定化のエネルギー分、励起子単体が発する光より、分子状態から 発する光は、エネルギーが小さい。 10)もつれ合い光子源 量子的な相関がある、2つの光子を発生する装置。量子暗号通信における誤り訂正に用 いることにより、通信可能な距離を無制限に伸ばすことが可能となる。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 TEL:029-859-2026 〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 独立行政法人科学技術振興機構 総務部広報室 TEL:03-5214-8404 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 ナノマテリアル研究所ナノ物性グループ 主任研究員 黒田 隆(くろだ たかし) TEL: 029-860-4194 FAX: 029-860-4795 E-mail: [email protected] URL: http://www.nims.go.jp/laser_kuroda

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図 1 量子ドットの原子間力顕微鏡写真.

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図4 量子ドットから発する単一光子状態の自己相関関数.

図 1  量子ドットの原子間力顕微鏡写真.

参照

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