教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言 ― 動画を用いた学習とソルフェージュ的側面からのアプローチ ―
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言 ― 動画を用いた学習とソルフェージュ的側面からのアプローチ ― 木村 貴紀・若原真由子* 北海道教育大学旭川校 芸術・保健体育専攻 音楽分野 *. 旭川大学高等学校. A Proposal of the “Play Singing” Guidance in the Teacher and the Nursery School Training Organization-a Study Using Video and an Approach from the Solfege Side KIMURA Takanori and WAKAHARA Mayuko* Department of Music, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education *. Asahikawa University High School. 概 要 保育士養成と教員養成のいずれの機関に於いても,弾き歌いのスキルが求められることは論 を俟たない。そしてその音楽的基盤を固めるにあたっては,音楽的な基礎的能力と表現力を養 う科目でもあるソルフェージュ能力を高めることが有効であることも,併せて改めていうまで もないところである。一方で,この一朝一夕には習得できないスキルを得るために,短期間で 効率的な方策を模索しようとする心情は理解できるところでもある。ならば,弾き歌いの学習 時にこの双方からの側面を反映させた取り組みを称揚・実施すれば,効率的かつ音楽的理解の 向上が期待されることは,一定程度認識される。事実このような異なる方向性による学習作用 は,演奏の基礎的なモデル作りを標榜する点に於いて,そのスキルアップに加担し得る点をい くつも備えているのが認められる。しかし楽曲1曲1曲のもつ性向に鑑みた時,当然のことな がら,どの方法であっても,いかなる場合に於いての決定打になるような万能な方策であるは ずもない。 ここでは,この各側面からの学習がどのような点で適し,また適していない時にはどう代替 的に取り組むかについてを追う。. はじめに. もない。初出時にはただ映像が映し出されるだけ だった動画だが,その後時代とともに発展を遂げ,. インターネットの普及に伴って動画が現れ,そ. また各方面への波及効果を上げてもいる。それは. れが一般的に普及していることは改めていうまで. 音楽の分野に於いても例外ではなく,特に小学校. 243.
(3) 木村 貴紀・若原真由子. 教諭と,幼稚園教諭及び保育士のいずれの養成機. 学習時での効果が期待される。. 関(以降『養成機関』と呼ぶ)でも必須とされて. いわば,弾き歌いに密着して直接的に作用する. いる「弾き歌い」の学習に適用されつつある。今. という「動画」と,習熟が間接的に弾き歌いの基. 「されつつある」という言い回しを用いたのは,. 盤を作るという「ソルフェージュ」という図式と. 養成機関の一部在学生の間で使われているに過ぎ. いえるかもしれないが,本稿では,そのような方. ず,養成機関に正式に導入されているわけではな. 向性の異なる動画とソルフェージュが,その双方. いことと,動画そのものが今後もバージョンアッ. から弾き歌いに対してどう照射し得るかを追う。. プする余地が残されていることによる。よって, ユーザーのニーズに応えるべく,弾き歌いに関連 した動画研究の気運がますます高まっており,現. 1.弾き歌いの必要性. 在進行形で進められている。それでも,質量とも. 表1は,2017年度の各都道府県に於ける音楽に. にいまだ十分とはいえない。. 関する小学校教員採用試験の内容である。. 一方のソルフェージュは,大雑把に「音感教育」 とカテゴライズされることが少なくない。その定 義の是非はともかくとしても,その内容が「音楽. 表1 「平成29年度小学校教員採用試験ピアノに 関する内容」. を学習するための必要な基礎能力と音楽に対する. 都道府県. 理解を深めるとともに,楽曲の音楽的表現力を習 ろと思われる。ソルフェージュに於いて段階的に. 北 海 道・ バイエルピアノ教則本72番から106番 札幌市 まで(86番及び87番を除く)の曲の中 から受検者に1曲を自由に選択させ演 奏する。. 学習する上でのレベルの高低差は決して小さいも. 青森県. 小学校歌唱共通教材(第5,第6学年) の中から1曲を選択し,オルガンで主 旋律に平易な伴奏をつけて,歌いなが ら演奏する。. 宮城県. 第3学年以上の小学校歌唱教材から任 意の1曲を選び,伴奏曲を鍵盤楽器で 弾く。. 仙台市. 小学校歌唱共通教材中の曲から当日指 定の1曲をピアノ伴奏しながら歌唱。 ピアノ伴奏は教科書に記載されている 程度。. 山形県. 5,6学年による小学校歌唱共通教材 から任意の1曲を選び伴奏譜によるピ アノ演奏をする。. 福島県. 次の曲をピアノ伴奏で弾き歌い。小学 校学習指導要領第6学年歌唱共通教材 より「おぼろ月夜」。. 茨城県. ピアノによる弾き歌い(小学校第1学 年から第6学年までの歌唱共通教材の 中から1曲選択)。. 栃木県. 次の曲の中から電子オルガンで弾き歌 い。「ひらいたひらいた」 「とんび」 「ス キーの歌」。. 新潟県. 小学校歌唱共通教材第4~6学年の中 から1曲を選び,ピアノ伴奏。. 得する」といえることについては異論のないとこ. のではないが,それがたとえ初歩的な段階でのソ ルフェージュ学習であっても,そこでの効果は一 定程度確認される。それは段階のいかんに関わら ず,ソルフェージュ課題を解くことがゴールなの では当然なく,課題を解く能力が楽曲の中でなん らかの形で生かされて初めて,ソルフェージュの 意義が認められるということでもある。このこと からソルフェージュという科目は,それ自体が単 体でひとり歩きする性格のものではなく,楽曲を 演奏するという現場に即した極めて実践的な内容 を包括していることがわかる。換言すれば,有効 活用という言い方は語弊があるものの,対象とな る楽曲を理解し表現するおりにソルフェージュが いわば触媒としての役割を果たすという見方はで きるのではないだろうか。このように,楽曲の演 奏に直面するという状況に於いてのソルフェー ジュの有効性は,既に先行研究もあり改めて繰り 返すまでもないが,ならば初歩的な学習者も少な くない教員養成や保育者養成の各機関で必須であ る弾き歌いに於いても生かせないものかという,. 244. 内容.
(4) 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言. 新潟市. 第4~6学年小学校歌唱共通教材の中 から1曲を選び,ピアノ伴奏をしなが らの歌唱。. 広 島 県・ 「バイエルピアノ教則本」の51番から 広島市 103番までのうち1曲を選択しオルガ ンで演奏。. 富山県. 「うさぎ」 「冬げしき」 「夕やけこやけ」 から1曲を弾き歌い。. 山口県. 福井県. キーボード演奏で次の小学校歌唱共通 教材の中から選択した1曲の伴奏を演 奏。 「ふじ山」 「もみじ」 「スキーの歌」 「おぼろ月夜」 。※本格伴奏または簡 易伴奏。. 次の小学校歌唱共通教材「春の小川」 「もみじ」「ふるさと」の中から,1 曲を選択し,簡単なピアノ伴奏をつけ て歌唱。次のいずれかによる任意の楽 曲の演奏。電子ピアノ・声楽・その他 の楽器。. 香川県. 小学校歌唱共通教材から事前に指定さ れた任意の1曲。. 高知県. 「もみじ」「おぼろ月夜」から当日指 定で弾き歌い。. 福岡県. 第4学年~第6学年までの小学校歌唱 共通教材の中から指定する3曲の内1 曲を選択し,ピアノ伴奏による弾き歌 い。. 山梨県. ピアノ弾き歌い「ふじ山」 「われは海 の子」 「もみじ」 「春がきた」から任意 の1曲。. 岐阜県. 小学校歌唱共通教材 第3学年「ふじ山」を,オルガンで伴 奏を弾きながら1番を歌う。. 三重県. 「虫のこえ」を,電子ピアノで前奏を 入れて弾き歌いする。. 福岡市. 滋賀県. ピアノ演奏:バイエルピアノ教則本よ り第46番,第66番,第91番。. 「われは海の子」をピアノ伴奏による 弾き歌い。. 北九州市. 京都府. バ イ エ ル52番,73番,80番,88番, 100番の中から各自任意に選んだ1曲 を演奏(暗譜)また,小学校歌唱共通 教材から選択した学年3曲中からの当 日指定,1曲をピアノ伴奏による弾き 歌い。. 5,6年の小学校歌唱共通教材から当 日指定。. 佐賀県. 「ふるさと」「ふじ山」「春の小川」か らピアノ伴奏による弾き歌い。. 長崎県. 「こいのぼり」 「さくらさくら」 「スキー の歌」からピアノ伴奏による弾き歌い 当日指定。. 熊本市. 学習指導要領に示されている小学校歌 唱共通教材「春の小川」をピアノで演 奏する。. 大分県. 小学校第3学年から第6学年までの歌 唱共通教材の中から受験者が1曲を選 択する。※ピアノ伴奏をつけて,主旋 律を歌唱する。. 宮城県. 「まきばの朝」「こいのぼり」「冬げし き」のうち1曲を,ピアノ伴奏による 弾き歌い。. 沖縄県. 「ふじ山」「ふるさと」のうち1曲を 選択し,オルガン伴奏で弾き歌いをす る。. 兵庫県. 奈良県. 歌唱: 「おぼろ月夜」※無伴奏,任意 の調。 器楽: 「まきばの朝」 ※キーボード, 鍵盤ハーモニカまたはソプラノリコー ダーから,選択して演奏。 歌唱:次の小学校歌唱共通教材の中か ら,当日指示する曲を無伴奏で歌唱。 「ふじ山」 「まきばの朝」 「春の小川」。 器楽演奏:ピアノ,ソプラノリコー ダー,鍵盤ハーモニカの中から各自選 択。. 和歌山県. オルガン演奏。 「ふじ山」 「春の小川」 「とんび」 「もみじ」 「ふるさと」 「冬 げしき」から1曲。. 鳥取県. 「ふじ山」 「ふるさと」のうち,どち らか当日指定した曲を,前奏を入れて のピアノ伴奏による弾き歌い。. 岡山県. 岡山市. 「夕やけこやけ」 「ふじ山」 「さくらさ くら」 「とんび」 「ふるさと」のうち, 当日指定する曲をピアノで弾き歌いす る。 小学校歌唱共通教材「おぼろ月夜」を 前奏付きでピアノによる弾き歌い。. この一覧から,ほとんどの都道府県に於いて, 音楽に関する実技として弾き歌いが実施されてい ることが確認できる。この弾き歌いを課すという レベルについては,様々なとらえ方があるだろう。 それは弾き歌いの課題曲として課されるのは,ど の自治体に於いても歌唱共通教材中からの楽曲だ が,それではその曲に対応できさえすれば,音楽. 245.
(5) 木村 貴紀・若原真由子. 教育上十分なのかという議論が起こり得る点であ. している以上,ことにピアノの指導は十羽ひとか. る。ならば,高い専門性をもった人材こそが適任. らげに施せるものでない性質をもつがゆえに,初. なのかと問われれば,必ずしもそうといいきれる. 心者にも対応した手厚い指導が必要であることは. わけではない。それは,音楽的な技能の高さがど. 論を俟たない。更に,養成機関に於いて在学中に. れほど高くても,それが実地として現場にそぐわ. 得る必要があるスキルのひとつとして,竹内は. なければ,生徒にとっての音楽学習として有用性. 1 と述べている(竹 「譜面を正確に読み取ること」. を欠くからに他ならない。. 内:106)。弾き歌いのメカニズムとして平井は,. また,幼稚園教諭や保育士に於いても,小学校. 「『弾き歌い』とは『楽譜を読む』『鍵盤を弾く』. 教諭と同様,弾き歌いの技能が欠かせないといわ. 『音を聴く』『歌詞を読む』『歌を歌う』という5. れている。ここでは,採用の際の試験に必ず組み. つの事柄を同時進行させるという高度な技能が不. 込まれるというほどの必須性はないものの,保育. 可欠である。更に授業では『学習者の観察』 『学. 実習にも課されるという浸透度から,やはり保育. 習者の支援』といった児童や生徒を指導する能力. 現場で必要とされるスキルであることが認識され. が必要となる」2(平井:92)と述べている。. る。幼児期とは,遊びをとおして様々に学ぶ時期. ここでは以上の内容に更に付け加えて,譜表の. であるが,とりわけ音楽は遊びと結びつきやすい. 読み方に於ける習熟性を挙げたいと思う。. こともあり,保育の中でも多様な音楽活動が取り. ピアノの楽譜は,大譜表が用いられているのが. 組まれてきた。中でも「歌唱」については,取り. 一般的である。大譜表はト音譜表とヘ音譜表から. 組みとしての簡便さや,それによる子どもたちの. なっているがゆえに,それぞれの譜表で示されて. 成長や上達が明確に表れやすいという点からも称. いる音高を同時に読み取り,それを的確に音化す. 揚されている。. る能力が求められる。養成機関には,かつて吹奏. このように,就学前という時期での音楽活動. 楽部や合唱部に所属していたことで,一定程度音. が,就学時での音楽的理解や経験の重要な前段を. 楽に慣れ親しんでいた経験をもつ学生も少なくは. 作る時期であることに鑑みた時,やはりそこでも. ないが,今述べたような大譜表の読譜はピアノ学. 弾き歌いの技能が求められるのは理解できるとこ. 習をとおしてでしか習得できないことでもあるが. ろである。そしてそこでは,扱う楽曲や難易度な. ために,これまでの音楽的な経験があっても,弾. どに於いての相違点はあるものの,習熟を要する. き歌いには十全に対応しきれないというケースは. 弾き歌いとしての取り組みになんら違いはないと. 珍しくない。ただ,そのようなこれまでの音楽的. いえる。. 経験により,単一の譜表ではあってもその読譜が 早いことは,今後の学習の上で有効に働くとは間. 2. 教員養成機関に於いて求められるピアノ の演奏技術. 違いなくいえることである。 また,求められる演奏技術のレベルに言及する と,「1.弾き歌いの必要性」で述べたとおり,. 養成機関に於いても学生がそれまでに音楽的環. 多くの都道府県での小学校教員採用試験に於い. 境で生育されてきたとは限らず,ひいては,幼少. て,歌唱共通教材の弾き歌いによる試験が課され. 時からのピアノなどの実技の経験があるわけでは. ていることに象徴的に表れている。つまり,歌唱. 当然ない。そのため,これまでにピアノ学習の経. 共通教材を,指導書に掲載されているある程度の. 験がない,あるいは,ピアノの学習経験が浅い初. 難易度を備えた高さではなく,簡易伴奏での弾き. 心者の学生(以降『ピアノ初心者』と呼ぶ)が養. 歌いができるというレベルでの演奏技術が求めら. 成機関に多く在学しているであろうことは想像に. れていることがわかる。. 難くない。またそのような差異が既に厳然と存在. 一方,保育での弾き歌いに目を向けると,そこ. 246.
(6) 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言. では必ずしもピアノを用いて伴奏をしなければな. あり,変わることのない現状でもある。. らないわけではない状況が示される。音楽に関す. そのような現況では,いかにポイントを外すこ. る実技に於いて,ピアノ,ギター,アコーディオ. となく,個々のもつ課題に対して焦点的かつ的確. ンの各楽器の中から選択制となっていることが,. な指導を行うことができるかが問われるところで. 保育士資格試験の要項に明記されている。しかし. ある。そこで動画を用いた指導法の意義とは,演. 現実には,保育現場で使用されている楽器は多く. 奏の手本などを見ることによって,自分の中でイ. の場合ピアノである。これは,大人数の子どもた. メージや型を明確にしやすいなどという,一定の. ちの歌唱に合わせて伴奏を行う場合,ピアノ以外. 効果が既に確認されていることが真っ先に挙げら. の楽器では音量などの問題から歌を支えることが. れるだろう。このことからも,初心者が養成機関. 困難であることが主な理由であると考えられる。. に於いてピアノの学習を進める上で,また現代と. そのため保育に於いても,具体的には歌唱がス. いう時代に即しているという理由からも,最も身. ムーズに行えるよう,最低限でも簡易な伴奏によ. 近なツールといえるところである。. る弾き歌いが求められるという考え方が浸透して いる。. 3−2.動画の使用方法. よって初心者の学生には, 「譜面を正確に読み. 動画を用いた指導方法は,先行研究によると. 取る」読譜力と, 「簡易伴奏による弾き歌い」が. 様々な手法があり,その手立ては多岐にわたる. できる程度の演奏面での技能の双方が求められて. が,大きく2つの使用目的があるといえる。ひと. いるといえるのである。. つは授業外での「自己学習」で,もうひとつは「授 業内での使用」である。そのいずれの場合に於い. 3.動画を用いたピアノの指導. てもそこでの動画の内容とは,主に教員が演奏す る時の手元を映した手本によるものである。「自. 3−1.動画を用いた指導法の必要性. 己学習」に於いては,特にピアノ初心者はこの動. 養成機関に於けるピアノ初心者に対しての有効. 画を,主な手がかり,あるいはその動画と同等に. な指導法は,これまでにも数々試みられてきた。. 演奏できるようになるという目標足り得るモデル. だが,近年のインターネットやスマートフォンの. に見立てた上で,練習を進めることになる。そし. 急速な普及により,動画を用いた指導法が様々に. てもう一方での「授業内での使用」だが,そこで. 考案され, また需要も伸びてきている傾向にある。. は自主的な個人練習に加えて一斉指導や個人指導. かつての養成機関での弾き歌いの指導は,主に. がされるのが主たる内容であることから,補助的. ML(ミュージック・ラボラトリー)を利用し,. な手段としての使用となる。つまり,動画は使用. 一斉授業や習熟度などによるグループ分けをした. 環境によって使用方法やその比重が異なるといえ. 上でのレッスンなどを行っていた。しかし,その. る。. ような形態でのレッスン,つまり大人数を対象す. 更に,今述べた「自己学習」と「授業内での使. るという養成機関に於けるクラス授業での弾き歌. 用」に加えて,SNSを「学習意欲向上」の目的に. い指導は,音楽教室などで行われる通常のピアノ. 活用した学習方法が表れる頼りに研究され始めて. のレッスンとは異なり,学生一人に充てる直接的. きている。例えば,田中はSNSを活用した内容に. な指導時間は自ずと少なくなる。養成機関にはピ. ついて,「学生がスマートフォンで録音した自身. アノ初心者が多く在籍していることに鑑みた時,. の実演をアップロードして演奏を振り返る機能. そこでは手厚い指導が求められていることについ. や,他者の実演を聴いて他者へのアドバイスやコ. ては先に述べたとおりだが,個別に指導する時間. 3 (田中:52)と メント等を付与する機能がある」. をどう捻出し確保できるのかが,積年の課題でも. 述べている。そして,iPhoneやスマートフォンな. 247.
(7) 木村 貴紀・若原真由子. どを活用した学習は, 「eラーニング」の一種と いう認識のもと「モバイルラーニング」といわれ. 4.読譜力を考慮した動画の内容. ることから,動画を用いた学習はモバイルラーニ. 読譜力を考慮した動画として,教員の演奏とと. ングにカテゴライズされる。そこには動画を用い. もに楽譜を照らし合わせ,その上で自身の練習に. た学習と,SNSを用いた学習とが平行して発展し. 取り組むといった,図1のような方法がある。. ていったという経緯がある。 本稿の執筆にあたって,この経緯に則って動画 の雛型を作成したが,これを次章で述べることに したい。 3−3.動画を用いた学習効果と課題 小倉が演奏モデル動画を活用した研究に於いて 行ったアンケートによると,取り組む楽曲が増え たことで動画の本格的な運用に至った場合,38名. 図1 「楽譜を照らし合わせた動画」5. 中36名が使用すると答えている4(小倉:82)。こ. 図1は,演奏と同時に楽譜が表示される音とも. のことから,学生自身が動画による学習効果を期. に,打鍵する鍵盤の上に丸印が表示される。初心. 待していることが考えられる。しかし,ここで注. 者は臨時記号を見落としがちになる傾向があるこ. 目に値するのが,学生の動画の使用目的に於ける. とに鑑みて,白鍵は白丸で黒鍵は赤丸,と区別さ. アンケート結果である。そこでは,「『利用の際,. れている。動画で示されている部分の楽譜を見な. 何を参考にしますか』の質問は複数回答可とした。. がら演奏するので,無意識的に「楽譜を読む」と. 回答数の多い順に, 『リズム』『曲の感じ』『スピー. いう過程を踏んでいることになる。. ド』 『指づかい』『歌い方』であった」と小倉は述. 図2は,田中・小倉・鈴木の研究で使用された. 。ここでは,楽譜を読むこ べている4(小倉:83). 動画である。これは同じく楽譜が表示される動画. とが難しい初心者にとって,上位に「リズム」 「曲 の感じ」 「スピード」が挙がっていることから, 動画の使用が楽曲の全体像をとらえるために有効 な手段であると考えられる。 だが,動画の使用にも注意を要する。先の「2. 養成機関に於いて求められるピアノの演奏技術」 に於いて,弾き歌いのメカニズムについて述べた が,その際に「読譜力」に触れた。楽譜を読む力 は,後述するソルフェージュでのトレーニングの 根幹をなすものであるが,楽曲の全体像をとらえ ようとするがために動画への依拠が過ぎると,楽 譜を読むという過程を疎かにしがちになり,ひい ては読譜力向上の妨げにもなりかねない。動画を 導入しつつ,そこで同時にいかに読譜力も養うか という方策が講じられなければならないだろう。 図2 「鍵盤のイラストが加えられた手本動画」6. 248.
(8) 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言. だが,更に鍵盤の絵とともに音名や運指が同時に 表示される点が特徴的であるといえる。ここで挙 げられる利点としては,演奏動画や楽譜の表示に 加えて,このような鍵盤の画像が演奏に合わせて 表示されることで,読譜から演奏へという本来的 な一連の作業へのひとつの支援になるものと考え られる。 本論「3−2.動画の使用方法」で,「動画は 使用時により,使用方法が異なる」と述べたが, 授業外での練習時に疑問が生じた場合などは,動 画を頼りに学習を進めることになる。初心者は 様々な課題をかかえていると考えられることか ら,様々な角度から初心者のニーズに応え得る動 画が必要である。 これを考慮し, 「読譜」という視点に触れつつ,. 図4 「読譜を考慮した動画~左手用~」. 様々なアプローチのひとつとして片手での手本演 奏による動画を, 以下の図3~5のように作成した。 図3〜5は,主に先に触れた先行研究中にある 図2を参考に作成した。その内訳は,手本となる 映像,鍵盤のイラスト,楽譜の配置や鍵盤のイラ ストに運指を記載するなどであり,田中・小倉・ 鈴木の研究で使用された動画の図である図2を参 考に作成している。1曲につき,楽譜に記載され たテンポでの演奏と,指定されたテンポより遅い テンポでの演奏という2種類を用意した。曲は小 学校共通教材第1学年「うみ」を取り上げている。. 図5 「読譜を考慮した動画~両手用~」. 往々にしてみられた,初心者に多いミスとして, 1オクターヴをずらして演奏してしまう傾向が認 められるが,これを防ぐために「中央ド」には赤 い矢印で示した。また,鍵盤の画像は手本の映像 と照らし合わせやすい配置にし,同じく「中央ド」 を矢印で示した。特に図4上には,使用した楽譜 と連携した動画の原案を反映させた。 また,ここで使用する楽譜は簡易伴奏としてい る。それは,初心者にとって取り組みやすいのが 図3 「読譜を考慮した動画~右手用~」. 主要三和音であることから,副三和音を極力使用. 249.
(9) 木村 貴紀・若原真由子. せずに主要三和音のみでの進行によっていること. 定が不可欠であることはいうまでもない。. が理由として挙げられる。そしてその主要三和音. 一方の発達段階的な観点からは,原調の前後の. には,それぞれABCを振ったが,これは初心者. 調に移調するスキルを身につけておく必要がある. 用により楽譜を読みやすくさせたものである。. と思われる。最も顕著なのは変声期を迎えた時期. このように,現時点では立案の域を出ていなく. にある生徒への対応であるが,そのケースのみに. ても,それがさほどの技術を要することなく,近. とどまらず,原調の前後の音高でも自在に歌うこ. い将来に実用化が可能になるであろうだけに,実. とができるスキルを育むトレーニングの意味とし. 用に際しては様々な取り組みが考えられる。. ても重要であるといえる。これらはわずかな例を 挙げたに過ぎないが,肝要なのは,これらがその. 5. 弾き歌いに求められるソルフェージュ的 能力. 行為に特化して行われるのではなく,児童・生徒 に目を配りながら実行するという,余裕をもった レベルでの技術の習得を目指すことが望まれる。. これまでも述べてきたように,養成機関に於い. そしてこれらは,ソルフェージュという科目で常. て習得が必須である弾き歌いだが,今後はソル. 態的に扱われるトレーニングの延長線上にある内. フェージュの視座から,身につけることが望まれ. 容でもあり,その意味に於いても,ソルフェージュ. るスキルについて触れていく。. のスキルアップがそのまま弾き歌いに直結すると. 学校での音楽授業の円滑な運営に於いて,教師. もいえる。. の弾き歌いの技能が有効な手段であることは論を 俟たない。それは児童や生徒の習熟度や実態に対 して,臨機応変で柔軟な対応が求められるからで. 6.拍子感の反映. あり,それが可能である生の演奏の方が,録音媒. 近代西洋音楽中に現れる音楽的要素のうち,日. 体よりも合理的でかつ現実に即していることが理. 本人に最も不向きともいわれる項目として拍子感. 由として挙げられる。児童や生徒の習熟度は,個. が挙げられる。そのゆえか,拍子感が希薄のみな. 人個人によって大きな差異がある。それは音楽的. らず欠落しているとも目される演奏に接する機会. な家庭での生育か否かという環境に起因する場合. は決して少なくない。それは,和声進行を基盤と. もあるし,一方で能力の片鱗を表しながらもそれ. して,音楽はその上に構築されるという建設的な. はいまだ潜在的であるという顕在化していない. 思考でとらえられる近代西洋音楽を,旋律線の抑. ケースも含め,多岐にわたる。そして学校では当. 揚や起伏を主軸として,そこに和声を従属的に扱. 然どの児童や生徒に対しても不利益を生じさせる. うという東洋的な発想に基づいているということ. わけにいかないことから,それがいかなるレベル. は一面的にはいえるだろう。東洋に於けるそのよ. や状況であっても,その実態に的確に対応するこ. うな理解の上での拍子感は,強弱という対立する. とが求められる。. 二項によって機械的に対比させるという方策が折. 卑近な例を引くと,習熟度という観点からは,. 衷案的ともいえる解決策としてとられてきた経緯. 楽曲に於ける何段階にも及ぶ異なる速度が要求さ. がある。そのことは拍子感の一定程度の浸透に加. れるケースが考えられる。習熟度と楽曲の速度と. 担したかもしれないが,一方で機械的あるいは無. は,常に比例する関係にのみあるとはいいきれな. 機的な演奏を生み出す元凶になっていると考えら. いものの,やはり一定程度の習熟性をはかるもの. れる点でもある。それはともかくとしても,確か. さしにはなり得る。もちろん楽曲の性向を勘案し. に弾き歌いの実践に際しては,正確な音高と音程. た時に,いたずらに速度を上げることが曲想を損. で歌うことが目指されて然るべきとは思われる。. ないかねないこともあり,楽曲に見合った速度設. しかし,先にも問題としてきている,ソルフェー. 250.
(10) 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言. ジュをソルフェージュという学習の範疇にとどま. 緩和という図式は,拍子感とは相容れない要素を. らせることなく音楽表現へと昇華させるために. 包含していることが認められる。それは例えば,. は,目の前の楽譜にある情報を額面通り再現する. 非和声音から解決音という行程でみられるし,ま. だけであっては十分とはいえない。. たはドミナントからトニックへ向かうという局面. よってここでは, 「緊張と緩和」の関係に触れ. など,様々なケースで現れるのである。. る必要があると思われる。. 拍子感と終止感のいずれもが,ソルフェージュ. ここに「うみ」という3拍子の楽曲があるが,. の根幹をなす項目であることはいうまでもない。. 終止形に於いて,単なる3拍子による強と弱の力. しかしそこには,各々の方向性を異にするがゆえ. 関係にあてはめる作業に終始したとする。. の齟齬が,相互間に於いて生じてもいる。そのど ちらを選択するかは,その楽曲によって,更には その部位によって,その時々で的確に判断する必 要に迫られることになる。従って,その的確さの 習得こそが,ソルフェージュ教育でのひとつの狙 いでもあり,また成果にもなるといえるのではな いだろうか。 そしてそれはまた,先ほどの強弱関係に於いて でも同様のことがいえる。それは既述した並立す る2つの項目としてではない扱いによることであ り,それによってソルフェージュの機械的な反映 でない音楽表現へと向かわせることができると思 われる。つまり,ここでは単なる強弱の分量を設 定するにとどまるものではないということであ. 譜例1 「うみ」. る。もし強弱の分量のみで解決をはかろうとする のならば,縦線が横の流れを分断してしまう契機. これは一見,3拍子の定型に則っていることか. になりかねない。しかし,最終拍が次小節へのベ. ら,3拍子を体現していると考えられる。しかし. クトルをもって次小節の最初拍へと向かうのであ. 音楽表現としての視座から眺めると,そこには恣. れば,様々な度合いの強弱をもつ各拍を,単なる. 意的ともいえる不自然な流れを生じさせている点. 対立関係のみに終わらせず,音楽に連続性をもた. を看過するわけにはいかない。つまり拍子感とは,. せることに寄与し得ると考えられる。これは弾き. 単なる強弱の対比のみで表すことができないとい. 歌いの楽曲であれば,そこでは当然歌詞を伴って. うことをこの例は物語っている。ゆえに,通例に. いることから,なおさら小節間での連続性を欠く. 倣うことによって,ここでも自然な流れによる終. ことができないことでもある。また,それがたと. 止感の確保が確認できる。. え歌詞をもたない器楽曲であったとしても,それ. 以上から,緊張と緩和という図式を踏まえるこ. でもいわゆる「音楽的な流れ」の確保には,不可. との必要性が生じる。. 欠な意識であると認識できるところでもある。. この視座に立った時,緊張による不安定から緩 和による安定へ向かうという力学から,緊張状態 にある前者に重みがかかるという力関係が生じる ことになる。これをいかして初めて,自然な流れ による終止感を確保できる。この例から,緊張と. 7.ソルフェージュに於けるリズム的な側面 を中心とした練習の効果 入門期のソルフェージュに於いては,初歩的な. 251.
(11) 木村 貴紀・若原真由子. 段階であっても,そこでは音楽的な展開が目指さ. る音による,単なる分布に過ぎない。そのような. れる。それは,このあとのソルフェージュの学習. 原初的な状態にある旋律がリズムという新たな要. 内容が,当然のことながら初歩の段階を基盤とし. 素を得たことではじめて,一般的に認知されてい. て,その上に実践的な取り組みが展開されていく. る旋律という概念を確保できる状態へと至ること. からでもあるのだが,とりわけソルフェージュで. ができるのである。このことから,拍子とリズム. のリズム練習に於いては,拍子とリズムに特化し. を理解する上では,原型の状態にある旋律を伴わ. た学習が往々にして課される。これは敢えてもと. ない,純粋にリズムのみを抽出した形の課題曲を. もと完結している課題用の楽曲から旋律を取り除. 用いた学習が称揚される。. くことで,リズムのみをいわば剥き出しの形で扱. 以上の2点を踏まえると,譜例2のように多様. うものである。そしてこの手法が称揚されるのに. なリズムをもつ楽曲であればあるほど,今述べた. は2点の理由が考えられる。. ような焦点的な学習に有効性が高いことが確認で. 1点目として,旋律とは把握しやすい要素であ. きる。. ることに起因しているという理由が挙げられる。 いうまでもなく,様々な高低差をもつ音高の連 続からなるのが旋律である。その旋律に於いて は,高低差によっては違和感をもたらす場合もあ るものの,特段の逸脱に抵触しなければ,それは 親しみやすさを感じさせる傾向へと向いていき, ひいてはその旋律の記憶を容易にさせることにも つながりやすい。有名な旋律として知られている 楽曲こそがこの好例として挙げられるのは,特に その楽曲を覚えようとしなくても,すんなりと入 り込んでくるような,自然に体になじむような感 覚を伴って認識されるがゆえかもしれない。しか しそれだけに,そのような楽曲が耳に馴染む旋律 をもっているということが,ここでのような学習. 譜例2 「うさぎ」. の際には,却って拍子とリズムを純粋に理解する. しかし一方で,これが譜例3のようなリズムの. ことの妨げになりかねない。つまり本来の特質で. 変化に乏しい楽曲に於いてでは,有用な理解には. もあった点が, その点ゆえに,ことソルフェージュ. なかなか結びつきにくいことが認識できる。. の学習という側面に於いてはマイナスの材料へと. よって,これは多様なリズムを備えている楽曲. 転化しかねない懸念がある。よって旋律とリズム. であるからこそ適用し得る方策であると換言でき. を切り離して扱うことで,学習の有効性を標榜す. る。先行研究の中には,まず音高変化の認知から. るものである。. 始めて,続いてリズムの認知へと進むとの主張も. 2点目は1点目に付随するともいえるが,本来. 見受けられるが,リズムの多様性を欠く譜例3の. の旋律とは不完全なものを指しているがゆえに,. ようなケースに於いてでは,細分化した単位から. その構造を利用した学習の導入が挙げられる。. 発展的あるいは累積的に型を作っていく取り組み. 旋律が旋律として認知されるためには, 「音高. に有効性が認められるのではないだろうか。具体. 7. の高低変化とリズムが複合」(三好:45)される. 的には,ある楽曲の弾き歌いを2人1組で独唱と. 必要がある。これは,旋律がまだ原型である段階. ピアノ伴奏とに分担し,交替し各々のパートに熟. に於いてでは,これは音高の高低変化を伴ってい. 練する方法が挙げられる。また,右手・左手・歌. 252.
(12) 教員及び保育士養成機関に於ける『弾き歌い』指導についての提言. 木:94)のうちの,⑵と⑶の複合的な理解による ものである。 演奏をする上でつまずきが生じてしまうこと は,突発的な事故に近いケースもあれば,起こる べくして起こったと思われるケースまで多岐にわ たる。そしてここで対象としたいのは,後者の, 未然に防ぐか最小限に抑えることが可能なケース である。 これは往々にして,左手の伴奏音型の扱いに象 徴的に表れる。利き腕ではないとか,あるいはヘ 音譜表の読み取りに習熟性が欠けていることでト 音譜表ほど迅速に読めないなど,理由は様々にあ るだろうが,いずれにしてもそこには⑵の音型の 意識の欠如が顕著であるといえる。例えば伴奏音 型として左手のパートにアルベルティ・バスを充 てている楽曲は少なくないが,このパターン化し た様態をもつ音型を,音型として認識せずに,そ こでの一音一音に特化して目を向けるというケー 譜例3 「春の小川」. スがこれにあたる。いわば演奏に於いての「木を 見て森を見ず」という典型でもあるが,視野の範. を個別に練習するという分担をインプットする練. 囲と移動に問題がある。演奏は音の連なりである. 習を下敷きとし,そしてそれらを組み合わせてい. がゆえに,絶えず今演奏しているよりも先の箇所. き,最後に完成形へと進める取り組みなどが考え. を,しかもピンポイントではなく俯瞰的に追って. られる。. いく作業の連続とも換言できるものであるがゆえ. 音高を考慮せず,歌詞とリズムの組み合わせか. に,今の目の前の音のみに固執するわけにいかな. ら始めるという方策は,外国語の歌詞をもつ楽曲. い。. や,未知の楽曲での学習の初期の段階で主に用い. また,演奏上のつまずきは演奏という営為全般. られるものでもある。それは,歌詞なしでの階名. にいえることであって,弾き歌いの際にのみ特化. 唱法を一定程度または期間続け,その後ようやく. して取り組むことではないが,こと弾き歌いでは. 歌詞付きの旋律歌唱に至るという行程を経るもの. 欠くことのできないスキルでもある。これは,弾. である。そしてこの段階的な学習を俯瞰すると,. き歌いという営為を担う奏者本人にとどまらず,. これはやはりソルフェージュにある項目を根幹と. それに合わせて歌う児童や子どもを伴っているこ. して実施している内容であることが改めて確認で. とが大前提としてある。そのように他人とともに. きるところである。. 奏する音楽では,ここでの弾き歌いの奏者のよう. 以上の2点に付随して,リズムという側面に軸. に進行を主導する立場にある場合,その主軸たる. を置いた取り組みとして,音型との連動的な実践. 演奏がつまずくと,なし崩し的に演奏が同じ方向. が挙げられる。これは,演奏に於けるつまずきの. へと進んでしまう。これは傷のない演奏を目指す. 原因を,⑴階名唱ができない⑵音の連なりを適切. ということではない。多少の傷を孕みながらも,. なまとまりとして解釈していない⑶拍が保持され. 先の⑵と⑶の複合的な取り組みを根幹とし,その. 8. ていない,という切り口からのアプローチ (高. 上で音楽の流れを盤石に保つということこそが,. 253.
(13) 木村 貴紀・若原真由子. 歌い手が安心して取り組むことのできる伴奏の担 い手として,または習得すべき弾き歌いのスキル として,そのいずれの場合にも求められると考え られるのである。. ノ指導法⑴」 千葉敬愛短期大学紀要28号 2006 2.平井李枝「教員養成課程学生に対するピアノ『弾き 歌い』指導法の研究」 宇都宮大学教育学部教育実践 紀要第2号 2016 3.田中功一,小倉隆一郎「モバイルSNSを活用したピ アノ学習の試み」『音楽教育実践ジャーナル』第11巻第 2号 2014. おわりに. 4.小倉隆一郎「ML学習に演奏モデルを活用する試み. 動画の面に於いては,弾き歌いで初心者に求め. ~学習者に子どもの歌の弾き歌い映像を提供する~」 『教育学部紀要』文教大学教育学部第46集 2012. られるピアノの演奏技術に於けるメカニズムを明. 5.若原真由子「小学校教員志望者に対するピアノ伴奏. 確にし,これまでの動画を用いた指導方法に関す. 指導に関する試み ―自己練習に資する動画教材の作成. る先行研究をもとに考察することにより, 「読譜. ―『北海道教育大学平成29年度大学院教育学研究科修 士論文』第25号 2018. 力」という課題が見えてきた。また,「読譜力」. 6.田中功一,小倉隆一郎,鈴木泰山,辻靖彦「ピアノ. に考慮した動画を作成し,作成する工程では使わ. 学習プロセスの表出化と変容 ―SCATによる初学者の. れるテキスト(楽譜)と連携した動画の内容にす. 振り返り記述の質的分析―」 電子キーボード音楽研. ることで,より初心者に適する支援方法のひとつ になり得ることが認められた。 ソルフェージュの面では,トレーニングによる 有効な項目として,調性感覚,音高,拍子感,リ. 究 2017 7.三好啓士「ソルフェージュ教育に関する研究⑴」 日本教科教育学会誌 1985 8.高木夏奈子「『ピアノが苦手な学生』の『つまずき』 の分析」 植草学園短期大学紀要第4号 2003. ズムなどのスキルの習得が挙げられる。ならばこ れらのスキルを得るにあたっての教材が味気ない 練習として割り切られたような課題であったとし たら,ソルフェージュとは,トレーニングに特化 した無機的な訓練法であるとの認識を植えつけら れかねない。しかし,弾き歌いの学習では,その ような問題を軽減するだけの楽しさや喜びを実感 できる教材が多用されているだけに,ソルフェー ジュと弾き歌いという相互の視座から,両者のそ れぞれのスキルアップに寄与できるのではないか と考えられる。 動画とソルフェージュという,アプローチの方 向は異なるものの,それぞれの用途の目的とタイ ミングの的確さが,使用を指示する教員に求めら れるところだが,時代や価値観が刻々と変化する 現代に於いては,固定した指導ではいずれ行き 詰ってしまうであろうことには留意しなければな らない。. 引用文献 1.竹内アンナ「小学校・幼稚園教員養成のためのピア. 254. 使用楽譜 1.田中宏明,木村貴紀「小学校音楽科歌唱共通教材《全 24曲》―簡易伴奏つき―」 圭文社 2016. (木村 貴紀 旭川校准教授) (若原真由子 旭川大学高等学校非常勤講師).
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