ミツバチ科学 (1996)17(1):39-42
イスラエルの養蜂
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「乳 と蜜の流れる地」という言葉は,ユダヤ教 徒にとって最 も聖なる書物で, イスラム教徒や キ リス ト教徒 にとって も聖 なる書物の一つであ る聖書の言葉であり,イスラエルがかつてどん な土地であったかを言 い表 している. イスラエルはとて も小 さな国家であるが,罪 常に美 しい国であり,工業,農業 ともに進んだ 国である.農業分野で最 も進歩 しているものの ひとっ に養蜂 を挙 げることがで きる.以下 は 「イスラエルの養蜂 :聖書か ら現代 まで」か らの 引用である. これはイスラエル農業省養蜂局の Yeshayahm Stern 局長が書いたもので,
「乳 と蜜の流れる国」 イスラエルの養蜂を総括的に 見たものである.*
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養蜂の概況
イスラエルでは養蜂 は数千年 にわたって行わ れて きてお り,聖書 に も随所 に引用 されて い る.事実,イスラエルは 「乳 と蜜の流れる土地」 として世界中に知 られている. どこで も同 じよ うに ミツバチの群を集めた り,-チ ミツを採 っ たり, ごく簡単なところか らすべては始 まって いる.本稿では, イスラエルの近代的な,洗練 された ミツバチ産業が,そのような原始的な営 みか らいかに進歩 して きたかを紹介するもので ある. 今 日,イスラエルには70
0
戸余 りの養蜂家が70
000
群 を超え る蜂群 を ラングス トロス型 の 巣箱で維持管理 している (図1). ごく最近 ま で,3
0
年 とさかのぼ らない頃でさえ,ミツバチ は大 きな瓶 や,葦 で編 んだか ごで飼 われて い た.今で もアラブ系住民の村々では,他の国 と 同 じようにそのような巣箱 も用 いられている. 現在のイスラエルの ミツバチはセイヨウ ミツ バチの-亜種 で地域種 (シ リア亜種) であ る Apismelliferasyriacaか ら選抜育種 されたも のである. 過去20
年以上 にわたって, アメ リ カの育種業者か らイタ リア ン系統の ミツパテを 輸入 して,交配 による品種改良が進められて き た. この ミツバチにより,小規模の個人経営の養 蜂家で-チ ミツの収量 は平均 して年20
-
30kg
, 大規模 な商業養蜂家の場合 には50
-
6
0kg
を生 産 している.全生産量 の7
5%
はオ レンジの開 花期に得 られるもので, これが最高の品質であ る.残 りは, アザ ミ類,ユーカ リノキ,亜熱帯 性のラン,マメ類など,野生の花々を蜜源 とし た-チ ミツである.養蜂組織
養蜂産業 はいくつかの機関によって組織化 さ れ運営 されている. 農業省養蜂部 は農業普及課の係官か らなる少 人数のチ-ムとともに,養蜂家の トレーニ ング や,現地での問題解決にあたる. また最新 の研 究報告を行ない,改良品種の試験や普及にも積 極的に乗 り出 している.改良品種の普及 として は省の品種改良所 において人工授精を利用 した 継続的な品種改良を行い,得 られた蜂群の試験 も行 っている. 家畜保健衛生課 は ミツバチの病性鑑定を通 じ て,国内の ミツパテの保健衛生管理に携わ って いる. ミツバチの病気全般,寄生虫,および ミ ツバチや製品の輸出入 に関す る問題を取 り扱 っ ている. 図 1 ラ式巣箱による近代的な蜂場40 ヘブライ大学農学部には ミツバチ生物学研究 セ ンターがあり,基礎,応用両面の研究を行 い, また学生や一般養蜂家のための研修 コースやセ ミナーを執 り行 っている. イスラエル養蜂協会はすべての公的,あるい は実業上の問題 において養蜂家を代表 し,すべ ての蜂異の改善を指導 した り,他国の養蜂関連 諸機関 との連絡をとっている. イスラエル-チ ミツ評議会 はすべての養蜂家 の公的登録を指導 し,公有地 についての厳格で 細かな取 り決めを して, 自然の蜜源や作物を公 正 に分配 している. この評議会 は市場のあ らゆ る段階に関 しても指導を行 う.個人企業の場合 で も組合で もである.余剰-チ ミツの輸出につ いて も責任を持っ. このような種々の活動を調整す るために,あ るいは予算措置や研究の優先順位を付けるため に,養蜂部 に管理委員会が設立 された. これは 上記の機関や省庁か らの代表者,国を代表す る 2名の養蜂家で構成 されている. イスラエルでは他の農業分野 と同 じように, 養蜂 も3種の共同体組織で行われる.ひとつは 数十の村落集合体であるキプツ (集団農場),そ れよりも数の多い, 自営農家の集合体であるモ シャブ (共同農場),および個人経営の農場であ る.三分の 1以上 の蜂場 は大規模企業 の もの で,それぞれ数百か ら千を超える蜂群を有 して いる.その合計 はこの国の蜂群数の四分の3に 達す る. これは,多 くの先進国で大規模企業が 有す る蜂群が全養蜂産業 における蜂群数のわず かな部分を占めていることとの大 きな差で もあ る. この様な背景を持っ ことで,効率を非常 に 高 い レベルで保 ちなが ら,専門的で,部分的に は機械化を取 り入れた蜂群管理 などもいっそう 進んでいることはいうまで もない. 近代的な農業を行 っている他の国 と同 じよう に, イスラエルで もミツバチは作物の花粉媒介 にはなくてほな らないものになってお り, アボ カ ド, メロン類,キュウ リ, ヒマワリ,イチゴ 類や,冬季の野菜類,種子作物 には欠かせない. 花粉媒介を通 じてのイスラエルの養蜂家の食糧 生産 における貢献 は,ハチ ミツや他の養蜂生産 物の生産をはるかに しのいで重要な経済的価値 がある.
養蜂の近代化
野生の蜂狩 りか ら近代養蜂 までの移行 は,早 に新 しい蜂具 とか,改良 された女王蜂 とかが広 まったというようなものではない.実地での試 行錯誤を重ねなが ら, また忍耐強 く繰 り返 され た トレーニ ングを通 じて, ゆっくりと普及 して きたのである.その到達 目標 は,旧来の非合理 的な方法を,近代的で部分的に機械化を含む効 率の良 い方法に置 き換えることにあった. これ は,行政側,研究者側, また篤志養蜂家にとっ て も困難 で献身的な努力 を強 いるものであ っ た.長年の協力の末,努力が実 って,全Eg的な 普及事業の計画 と,それを支える組織的な基盤 が整 って きた. この普及事業 は次のような項 目 を要点 としている. (∋育種事業 在来種の ミツバチは小型で,性質が荒 く,-チ ミツの収量 も少なか った. しか し一方で,悪 条件への適応性 に優れ,病害虫に対する抵抗性 があった.第一段階 として,まず壷や葦か ごか ら近代的な巣枠式巣箱 に この ミツバ チを移 し た. これによって この ミツバチでの試験や給餌 などが可能 となった. これは,おとな しく,坐 図2 電動油圧式クレーンでの巣箱の積載 (移動養蜂家)41 産力のある ミツバチへの選抜の機会を大 いに増 や し,輸入 された 「試験済 み」の女王蜂 との交 配 によ るい っそ うの改良 も行 え るよ うにな っ た.偶然 にも, これは扱 いやす さの上での改良 ももた らしたが,当然,-チ ミツの収量 も増加 した. もちろん全国的にその違 いがわか るよう になるまでには長 い年月を要 した. ②移動養蜂 近代養蜂では巣箱が移動可能 となり,蜂群 を 季節 ごとによ りよい蜜源へ と移動 し,蜂群 を強 化 させ, さらに-チ ミツの潜在収量 に向けて増 加 させ ることがで きる.近代農業の行われてい る世界各地では,野生 の蜜源の保護が奨励 され てお り,たとえ蜂場 の一部 の蜂群で も移動す る ような形の移動養蜂であ って も,商業養蜂 には 必須の手法 にな って きている. (卦機械化 育種 と移動養蜂 によ るハチ ミツ生産 の向上 は,養蜂家 に,作業を簡便化,あるいは省力化 させ る様々な機械の導入のための投資を可能 に した. 1 ラクダや ロバ による牽引車 に代わ る運搬 用の トレーラー付 き トラクタ-,後 には トラッ ク. 2 採蜜時 に ミツバチを巣板 か ら払 いのける ための各種の ブロワー (風力脱蜂器) 3 手押 し車 は, ク レー ンや搬入器 (油圧式 また は電動)装備 の トラ ックに置 き換 わ った (図2). 重 い貯蜜枠を トラックに積 み込むのに 使用す る. 4 手 や木製 の圧搾機 で巣 をっrぶ して- チ ミ ツを採 る方法 に代わ り,手動 の遠心分離器での 採蜜が普通 とな り,後 に放射状型,固定式 とも に電動式の ものに代わる. 5 蜜蓋除去器が加わ る. 最初 は蒸気式, 後 に電熱式 に,最終的には完全 自動化 された (図 3). ④衛生管理 とマーケ ッテ ィング 生産管理での効率 の向上 に伴 って,今度 は経 図3最新の全自動-チミツ分離器(大規模経営向き) 営管理 のあ らゆる場面で,行政の監督が厳 しく な った. ミツパテの病害虫 の伝搬予防や根絶 も 目的 として含んでいるが, そのためには定期的 な内検 と蜂児巣板の更新 を特 に行 っている.栄 板の更新 は蜂 ろう生産 の向上 を助長 している. 生産の向上 は,市場開拓,流通 などの面 にも, 組合組織化,パ ッケージデザイ ンの改良,広域 的な宣伝などを通 じて,集 中的な変化 を もた ら す ことにな った.近代蜂具 の使用 により,開放, 閉鎖のいずれの倉庫で もよ り近代的で衛生的な 貯蔵,保存が可能 とな り,巣板や貯蜜枠の定期 的な消毒 も行え るようにな った. エチ レンブロ マイ ドガスの燥蒸 により, スムシによる被害を 防 ぎなが ら巣板の保存が可能である. スズメバ チ類 は,斬新 な巣の破壊法でめ っきり減 って き た. これは,巣 に直接薬剤 をかける代わ りに, トラップで とらえたスズメバチに,急性ではな いが,持続性 のあ る接触 毒性 の薬剤 を振 りか け,巣 に戻す ものである. ⑤季節管理 以下の条項 は,養蜂で成功す るための簡単 な 秘訣数項 目である. 1 春 の建勢 はで きる限 り早 い時期 に始 め るこ と. このためには蜂児の育成 に必要 な空間 と貯 蔵食糧 を与え ることが肝要 である.給餌 はどう して も必要欠 くべか らざるときにのみ与え,蜂 量 と貯蔵食糧 のバ ランスを隔王板 を用 いて保つ こと. 2 適度 な空間を与え, 造巣を充分 にさせ, 過 密群では人工分蜂 をお こな って, 自然分蜂 を避 けること.
42 3 蜂児巣板の余剰蜜を取 り除かない. 逆 によ く見て必要時には給餌す ること 4 水源を確保 してお くこと 5 主流蜜以 降 は蜂群 を で きるだ け早 く詰 め て,蜂量 にあ った大 きさにす ること.晩夏,秩 季の余分な空間 は餌のむだや換気不足のために 蜂群を弱 らせて しまう. 6 充分 な-チ ミツ (必要 な ら砂糖水) を晩秋 期か ら冬,春 にかけて与え ること.厳冬期 にの み断熱材を用 いるとよい (屋根 を覆 うのが最 も よい). ⑥農薬害の管理 農薬の過剰散布 は,世界 の養蜂産業 自体の将 来を,特 に一連の花粉媒介 を脅か しつつある. いまのところこれ といった解決策 もないが,負 糧生産 の経済的な必要性 は,作物 の生産者 と養 蜂家 に協力体制を強いることになる. それ以外 には何 もないのが実状 であ る. ここで,再 び, 農薬 による ミツバチの被害 を減 らすための管理 の基礎 を以下 に述べたい. 1強 くて健康 な蜂群 は弱 い ものに較べて, 長 時間の散布 に対 して耐えることがで きる. 2 何 らかの防御 を施 し, 水 と花粉 を絶え間な く与えることで抵抗性 を上 げることがで きる. 3 早朝の最 も危険な時間帯 に,網で閉 じた り, 水に浸 した粗布 などでカーテ ン状 に巣門を部分 的に閉 じるや りかたは,薬剤散布がどんな場合 で も通知 され るようになってお り,蜂場規模が ごく小 さい場合 にのみ有効 である. 4 被善をな くす最 も確実 な方法 は蜂群を, 敬 布地域 か ら最低 で も3-4km離 れた場所 に移 動す るものであるが, これ も実際には小 さな蜂 場 に限 られ る.