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猫内在性レトロウイルス(RD-114ウイルス)に関する研究

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Title 猫内在性レトロウイルス(RD-114ウイルス)に関する研究(本文(Fulltext) ) Author(s) 成嶋, 理恵 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 乙第124号 Issue Date 2013-09-24 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/47370 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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犬用生ワクチン中に存在する猫内在性レトロウイルス

(RD-114 ウイルス)に関する研究

2013 年

岐阜大学大学院連合獣医学研究科

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目次 緒論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第1章 犬用生ワクチン中からのRD-114ウイルス検出のためのReal-time reverse-transcription-PCR法の開発・・・・・・・・・・・・・・・・5 1.要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 2.緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3. 実験材料及び実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (1)ワクチンからの RNA 抽出と逆転写(RT)反応 (2)プライマーとプローブの設計 (3)リアルタイム PCR (4)定量分析

(5) Taq-Man-MGB real-time reverse-transcription-PCR法の特異性とRT 効率 (6)LacZ マーカーレスキューアッセイ法

4.実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 (1)定量分析

(2) Taq-Man-MGB real-time reverse-transcription-PCR法の特異性とRT 効率 5.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 第2章 イヌを用いたRD-114ウイルスの感染試験・・・・・・・・・・・・・16 1.要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2.緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 3. 実験材料及び実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

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(1)ウイルス準備 (2)供試動物 (3)血液検査及び臨床観察 (4)PCR 試験 (5)統計解析 (6)中和抗体の検出 4.実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 5.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 第3章 逆転写酵素活性に基づいた感染性RD-114ウイルスの検出・・・・・・26 1.要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2.緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 3. 実験材料及び実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (1)細胞 (2)ウイルス (3)PERT 法 (4)LacZ マーカーレスキューアッセイ法 (5)Real-time reverse-transcription-PCR 試験 (6)RT-ELISA アッセイ (7)PERT 法と RT-ELISA アッセイの比較 4.実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 (1)PERT 法 (2)LacZ マーカーレスキューアッセイ法

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(3) Real-time reverse-transcription-PCR 試験 (4)RT-ELISA アッセイ (5) PERT 法と RT-ELISA アッセイの比較 5.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

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1 緒論 レトロウイルスは大きく,外来性レトロウイルスと内在性レトロウイルスに 分けられる。外来性レトロウイルスは体細胞に感染し,個体から個体へ「感染 によって」伝搬するレトロウイルスである。一方,内在性レトロウイルスは外 来性のレトロウイルスが生殖細胞に感染し,親から子へ「遺伝によって」伝播 するレトロウイルスである。 RD-114ウイルスは, 1972年にヒトの横紋筋肉腫 由来の細胞(RD細胞)から分離されたウイルスであり(13),数百万年前にヒヒ のレトロウイルスがネコの祖先動物に感染し,内在化したものと推察されてい る。ネコには少なくともRD-114ウイルスと内在型のFeLVの二つの内在性レトロ ウイルスが存在する。レトロウイルス科(外来性レトロウイルス)は7つの属(ア ルファレトロウイルス,ベータレトロウイルス,ガンマレトロウイルス,デル タレトロウイルス,イプシロンレトロウイルス,レンチウイルス,スプーマウ イルス)に分類されており,さらに内在性レトロウイルスは一部の例外を除き クラスⅠからクラスⅢの3つに分類されている。クラスⅠはガンマレトロウイル ス属とイプシロンレトロウイルス属に近縁なもので,クラスⅡはベータレトロ ウイルス属とアルファレトロウイルス属に近縁なウイルス及びクラスⅢはスプ ーマウイルス属に近縁なウイルスである(15)。RD-114ウイルスはgag-pol(ウ イルスの殻蛋白質と酵素)領域がガンマレトロウイルス(クラスⅠ)であり, env領域(エンベロープ蛋白質)がベータレトロウイルス(クラスⅡ)に属する キメラウイルスである(31)。 一般的にレトロウイルスは,生殖細胞内に内在化する過程で弱毒化又は不活 化される。しかし,最近になってコアラの内在性レトロウイルス(KoRV)がコ アラにリンパ腫や免疫抑制を起こすこと(28),マウス由来のレトロウイル

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2 スであるXMRVが人の前立腺ガン発症と関係があること(4)が報告され(後に 行われた多くの研究から関連性がないことが結論づけられいる),内在性レ トロウイルスが感染因子として注目されるようになってきた。また,非感染 性の内在性レトロウイルスが感染性の外来性レトロウイルスと宿主体内で組 換えを起こすことにより,病原性をもった感染性ウイルスが新たに出現する こともネコやマウスで明らかになっている(15)。例えば,ネコは外来性の レトロウイルスである猫白血病ウイルス(外来性FeLV)に類似した内在性レ トロウイルスのエレメント(内在性FeLV)をもっており,内在性FeLVには感 染性はないが,外来性FeLVと組換えを起こして,病原性が高くなることが報 告されている(15)。 動物用ワクチンは,その製造にさまざまな動物由来細胞を用いており,動物 由来の内在性レトロウイルスがワクチン中に混入する可能性があると考えられ ていたが,検出方法が確立されておらず,実際の混入報告はこれまでになかっ た。また,RD-114ウイルスは,全ての猫由来培養細胞中にプロウイルス化して いると考えられているが,一部の猫由来培養細胞からのみウイルスが産生・分 泌されていることが明らかとなった(21)。例えば,猫胎子線維芽細胞由来であ るFeline embryonic fibroblasts cells(FEA細胞)や同じく猫胎子線維芽細胞由 来であるAH927細胞及び猫胎子株化細胞であるfcwf-4細胞等はRD-114ウイルス を産生せず,Crandell-Rees feline kidney cells (CRFK細胞)及びFeline fetal fibroblast cells (FER細胞)等はRD-114ウイルスを産生すると考えられている (21)。CRFK細胞は主にイヌ及びネコのパルボウイルス等のウイルスの分離やワ クチン製造において最も一般的に用いられる細胞であり,多くの製造販売業者 が当問題に直面することになった。しかしその一方で,問題が発覚した当時は RD-114ウイルスに関する知見は少なく,リスク評価に資するための充分な情報

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3 が無かった。 RD-114ウイルスについては現在までに以下のことが知られている。①RD-114 ウイルスはすべてのネコの生殖細胞及び体細胞に内在化しているウイルスであ る。②RD-114ウイルスのネコに対する病原性に関する報告はこれまでに全くな い。③猫用生ワクチン中にRD-114ウイルスが混入することによるリスクは不明 である。④当該ワクチンが製造・販売されている欧米においては,本件に対す る規制措置は講じられておらず,更なる情報収集に努めることとされている。 ⑤猫用3種混合生ワクチンの副作用報告において,RD-114ウイルスに起因すると 考えられる事例は認められていない。⑥現在の技術では,製造工程中における RD-114ウイルスのクリアランス技術は確立されておらず,除去は困難である。 ⑦RD-114ウイルスが絶対に産生・分泌されない猫由来培養細胞は理論的に存在 しない。また,RD-114ウイルスの出芽が人為的に阻害された猫由来培養細胞も 確立されていない。また,近年,Sakaguchiらによって,感染性RD-114ウイルス の検出方法であるLacZ マーカーレスキューアッセイ法(25)が開発され,猫由 来培養細胞を用いて製造された一部の犬及び猫用生ワクチン中からRD-114ウイ ルスが検出されたことから(16),猫用3種混合生ワクチンに含まれるRD-114ウ イルスの混入状況調査を同法により4製剤,計30ロットについて試験を行った結 果,供試ワクチンのおよそ30%から感染性RD-114ウイルスを検出した。①~⑦の 事実関係と得られた試験成績に基づき,猫用3種混合生ワクチンに混入する RD-114ウイルスのネコへの安全性評価を試みたところ,現時点における基本的 な対処方針として「現段階では猫用3種混合生ワクチンの使用に関して特段のリ スク管理措置を講じる必要はなく,今後とも関連情報の収集に努める必要があ り,また,RD-114ウイルスの病原性等に関する新たな情報が得られた際には, 再度検討する必要がある」との見解をとりまとめた。なお,この取扱い方針は

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4 薬事・食品衛生審議会薬事分科会動物用医薬品等部会に報告され,了承された (19)。 一方,犬用生ワクチンの多くも同様に,その製造に猫由来培養細胞を用いて おり,同様に RD-114 ウイルスのワクチン中への混入が推察された。すべてのネ コは RD-114 ウイルスが内在化していることから,ネコと RD-114 ウイルスは, ホモ-ホモの関係であるが,イヌは RD-114 ウイルスを内在性レトロウイルスと して持っておらず,イヌと RD-114 ウイルスはホモ-ヘテロの関係であり外来性 レトロウイルスに相当する。RD-114 ウイルスを異種であるイヌに接種するこ とはイヌに猫白血病ウイルス(FeLV)を接種することと同じ意味をもってお り,ワクチン中に存在する RD-114 ウイルスをイヌに接種することに対する安 全性評価が必要であることから,次に犬用生ワクチン中に存在する RD-114 ウ イルスに関する調査・研究を開始した。第 1 章においては,既存の方法である LacZ マーカーレスキューアッセイ法及び多検体処理能力に優れていると考え られた Real-time reverse-transcription-PCR 法(RT-rtPCR 法)を開発して犬 用生ワクチン中における RD-114 ウイルスの混入量の状況調査を行い,日本国内 で流通している犬用生ワクチン中に含まれる RD-114 ウイルスの混入状況や混入 量を明らかにした。第 2 章では,これまでに RD-114 ウイルスの病原性に関する 報告が無いことからイヌを用いた RD-114 ウイルスの感染試験を行い,In vivo でのイヌへの感染性,急性及び亜急性の病原性及びウイルス増殖性に関する評 価を行った。第 3 章では,感染性の有無が明確であり,汎用性及び感度の面で よい手法とされているレトロウイルス検出方法の 1 つである逆転写酵素活性検 出法である Product Enhanced Reverse Transcriptase assay(PERT 法)を開発 し,RD-114 ウイルスの検出を行い,RD-114 ウイルス検出のための PERT 法がワ クチンの品質管理を行う上で有用な手法となり得ることを示した。

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5 第1章 犬用生ワクチン中からのRD-114ウイルス検出のためのReal-time reverse-transcription-PCR法の開発 1.要旨 日本で承認されている犬用生ワクチンは,その製造に猫由来培養細胞が用 いられているものが多く存在する。近年,開発されたLacZ マーカーレスキ ューアッセイ法は感染性RD-114ウイルスを検出するが,Real-time reverse- transcription-PCR法(RT-rtPCR法)は,感染性ウイルス粒子と遺伝子断片を 含む不完全なウイルス粒子の両方を検出する。猫由来培養細胞を用いて製造さ れた犬用生ワクチンであり,LacZ マーカーレスキューアッセイ法で陰性を示し た8製剤は,RT-rtPCR法で全て陽性を示した。 今回,開発された手法は,短時間で行うことができるという利点を持つこ とから,ワクチン中のRD-114ウイルスRNA検出の為のスクリーニング手法とし て有用であると考えられた。 2.緒言 感染性RD-114ウイルスは,猫腎臓由来であるCRFK細胞,大顆粒リンパ腫由 来であるMCC細胞,猫胎子線維芽細胞由来であるFER細胞等から産生される。 一般的に内在性レトロウイルスは宿主に病原性を示さないが,いくつかのウ イルスは新しい宿主に病気を起こす(20,29)。 LacZ マーカーレスキューアッセイ法は感染性RD-114ウイルス粒子の検出

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6 法であるが,RT-rtPCR法は感染性ウイルス粒子と遺伝子断片を含む不完全な ウイルス粒子の両方を検出する。RT-rtPCR法の開発は,ウイルス感染症の診 断においても迅速で特異的な結果をもたらしてきた(5,32)。RD-114ウイル ス検出のためのいくつかの手法が開発されたが(24,25),RT-rtPCR法に関 する報告はこれまでにされていない。 加えて,最近開発された手法である MGB(Minor groove binder)プローブ法はターゲットテンプレートと非特的 な核酸増幅の間で高い特異性を得るために,より短いプローブ長によりTm値 差がより顕著になることを可能とした(11)。また,MGBプローブは高い感度 を得るために,NFQ(Non fluorescent quencher)を付加させることから,バ ックグラウンドが低くなるため定量解析にも効果を発揮する(11)。そこで 犬用生ワクチン中のRD-114ウイルスRNAを検出するためにMGBプローブを用い たRT-rtPCR法を開発した。 3. 実験材料及び実験方法 (1)ワクチンからのRNA抽出と逆転写(RT)反応 日本で承認されて流通している主要な犬用生ワクチンを用い、それぞれの ワクチンの有効期限内に試験を実施した。供試ワクチンは各製造販売業者に よって製造された全20種類の製剤であり,その多くは単味ではなく混合ワク チンであった。生(凍結乾燥)と不活化成分(液状)が組み合わさったワク チンの場合,生の成分のみを検査対象とした(Table 1)。また,猫由来培養 細胞は主に犬パルボウイルスの増殖に用いられることから(ワクチンJ,K及び Lについては犬パルボウイルス及び犬コロナウイルスの製造用細胞として猫 由来培養細胞を用いていた。)各ワクチンのパルボウイルス製造用細胞につ

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いても記載した。猫由来培養細胞を用いて製造されるワクチンが多く存在し たが,犬腎臓細胞やミンク肺の株化細胞であるMustela vison mink, lung, fetal cells(Mv1Lu細胞)を用いて製造されているワクチンも存在した。ウイ ルスRNAは,それぞれのワクチン(犬用生ワクチンは全製剤 1 バイアル=1 dose であり,生ウイルス成分に製品に添付されている使用書に従って140μ lの滅菌精製水で全量溶解した液体)からスピンカラム (QIAamp Viral RNA Mini Kit™, Qiagen, CA, USA)を用いて,最終的に60μl抽出した。 その後, 抽出したRNAテンプレート(12μL)に,2μlのgDNA wipeout buffer及び2μl のRNase free waterを加えて,ゲノム由来のDNAを除去するために42oC 2分間

のDNase処理を行った。このインキュベーションの終了後に,Reverse

transcriptase (RT) (Quantitect Reverse Transcription™: Qiagen, CA, USA) を用いて,42oC 30分間で逆転写反応を行い,RNA鋳型からcDNAを合成した。

RT反応の試薬の構成(計6μl)は,0.5μl アンチセンスプライマ-

5’-gtaccggataagacttggac-3’ (10 pmol/μl), 0.5μl RNase free H2O, 4μl

5×RT buffer及び1μl RTであり,これをDNAase処理後のRNA テンプレートに 加えた。DNaseとRTは,逆転写反応後95oC 3分間で不活化させた。

(2)プライマーとプローブの設計

RD-114ウイルスのenv遺伝子の配列は,GenBank (accession No; AB559882) から得た。BLAST検索の結果,設計したプライマーとプローブの配列はRD-114 ウイルスの配列以外に一致しなかった。Primer Express Software Version 3.0 (Applied Biosystems, Tokyo, Japan)を用いて特異的なプライマーと

TaqMan-MGB蛍光プローブを設計し,プローブの 5’末端側にレポーター蛍光 色素(FAM),3’末端側に非蛍光性消去剤とMGBを付加した。プライマーとプロ

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8 ーブの配列は,センスプライマー 5’-ccattcctgccattgatcatta-3’,アン チセンスプライマー 5’-ggtgattcccagtccagctagt-3’及びプローブ 5’-FAM-tacatagacctaaacgagctgt-3’MGBで,増幅産物のサイズは83 bpであ る。 (3)リアルタイムPCR リアルタイムPCR試薬(計20μl)は, 10μlのマスターミックス(TaqMan Gene Expression Master Mix™, Applied Biosystems, Tokyo, Japan), 1.8μlの センスプライマー(10 pmol/μl), 1.8μlのアンチセンスプライマー(10 pmol/μl), 1.0μlのTaqManプローブ(5 pmol/μl), 4.4μlの滅菌精製水及 び1μlの各cDNAで構成された。リアルタイムPCRは96ウェルプレートを用いた StepOnePlus™ システム (Applied Biosystems, Tokyo, Japan)で行った。反 応条件は,TaqMan標準モードのガイドラインに従って,50℃ 2分間,95℃10 分間の反応後,95℃ 15秒間及び60℃ 1分間を40サイクル行った。それぞれ のアッセイは,少なくとも2ウェルの陰性コントロール(cDNAの代わりに滅菌 精製水)を設定し,データの解析は,40サイクル終了後に行った。 (4)定量分析 リアルタイムPCRのスタンダードサンプルには,RD-114ウイルスのターゲット 遺伝子の配列を含むPreparative Purification by Gel Electrophoresis(PAGE) 精製された合成cDNA(93 bp)を用いた。スタンダードサンプルは,検量線を作 成するために,101~1010のRD-114ウイルスcDNAコピー数になるように10倍階段希

釈し,各サンプルを前述のリアルタイムPCR試薬中,cDNAの代わりに1μlずつ 加えた。また,それぞれのサンプルを,2ウェルまたは3ウェル使用して検量線

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9 を作成した。 (5)Taq-Man-MGB RT-rtPCR法の特異性とRT 効率 逆転写効率を確認する目的で,RD-114ウイルス持続感染細胞である (TE671/RD-114細胞)からRD-114ウイルスを分離し,ストックウイルス液とし た。RD-114ストックウイルス(LacZ マーカーレスキューアッセイ法でおよそ105.3

Median tissue culture infectious dose (TCID50)/ml)をRNA抽出前に細胞培養

液を用いて100 から10-10 に10倍階段希釈して,特異性とRT効率の試験に供した。 (6)LacZ マーカーレスキューアッセイ法 犬用生ワクチン中から感染性RD-114ウイルスを検出するためにLacZ マーカ ーレスキューアッセイ法を用いた(25)。この手法に用いるTE671細胞(ヒト横 紋筋肉腫細胞由来)は,犬パラインフルエンザウイルスに感受性があり,CPEを 示すため,多くの犬用生ワクチンの含有成分である犬パラインフルエンザウイ ルスのTE671細胞への感染を防ぐ為に,ワクチンを抗犬パラインフルエンザウイ ルス血清を用いて予め中和した。37℃ 5%CO2 インキュベーターにて1時間の中和 を行った後に各サンプルをLacZ 遺伝子が導入されたTE671細胞に接種した(25)。 4.実験結果 (1)定量分析 10個のスタンダードサンプルの濃度とCt値の関係をプロットし,検量線を作成 した。検出限界は,102コピーであり,その時のCt値は36.8であった。陰性コン トロールでは増幅は認められなかった。遺伝子増幅の結果と検量線はFig.1 A及

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10 びBに,各ワクチンのコピー数はTable 1に示した。開発したRT-rtPCR法で試験 を行った場合,LacZ マーカーレスキュー法で陰性を示したワクチンを含めた多 くのワクチンで陽性を示した(Table 1)。猫由来培養細胞を用いて製造された ワクチンは全てRD-114ウイルスenv遺伝子陽性を示し,犬由来培養細胞を用いて 製造されたワクチンは全て陰性(検出限界以下)を示した。また,Mv1Lu細胞を 用いて製造されたワクチンは両手法で陽性を示し,その遺伝子混入量は調査し たワクチン中,最も多かった。 (2)Taq-Man-MGB RT-rtPCR法の特異性とRT効率 特異性試験のために馬伝染性貧血ウイルスを用いて試験を実施したが,増幅 は確認されなかった。RT効率の確認のために,希釈されたRD-114ストックウイ ルスを用いた試験を行ったところ,ウイルス濃度とCt値の関係において,相関 係数が0.993を示したことから充分に高いと考えられた(Fig.2A及びB)。 5.考察 ウイルスRNAの絶対定量試験において,RT効率は充分に高いと考えられた。つ まり,Fig.2中に示されたデータは,Ct値と抽出前のウイルス濃度との間で,相 関係数が0.990以上を示したことから,今回開発した手法が至適条件であると考 えられた。RT-rtPCR法はウイルスRNAを,LacZ マーカーレスキューアッセイ法 は感染性ウイルス粒子を検出する方法である。つまり,前者は遺伝子断片を含 めた欠損粒子と感染性ウイルス粒子の両方を検出し,後者は感染性ウイルス粒 子のみを検出する。現時点ではワクチン中からRD-114ウイルスを検出する方法 は,LacZ マーカーレスキューアッセイ法のみであるが,この方法は迅速性に欠

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11 けており,LacZ遺伝子導入TE671細胞にサンプル接種後結果を得るまでに12日以 上も要する。一方,RT-rtPCR法はRNA抽出から結果解析まで5時間以内で行うこ とが出来る上,試験に必要な材料は全て市販されていることから,LacZ マーカ ーレスキューアッセイ法と比べて,簡便性,迅速性,汎用性,多検体処理能力 等いくつかの点で有利な点を持っている。PCR法は一般に欠損粒子の遺伝子も含 めて検出するため,スクリーニング検査法として大変有用な手法である。さら に,検出限界は100コピーであり感度も高いと考えられた。猫由来培養細胞を用 いて製造された犬用生ワクチンであり,LacZ マーカーレスキューアッセイ法で 陰性を示した8製剤は,RT-rtPCR法で全て陽性を示した。 注目すべきことに,ミンク肺由来の株化細胞であるMv1Lu細胞を用いて製造さ れた犬用生ワクチンも両手法で陽性を示した。この結果から,製造用細胞また はパルボウイルスのマスターシード中にRD-114ウイルスが混入していた可能性 が考えられた。Mv1Lu細胞は,様々なレトロウイルスに対して高感受性であり, 霊長類の内在性レトロウイルスの分離や増殖に広範囲に用いられている(1)。 そのために,犬用生ワクチン中に多くのRD-114ウイルスが混入した原因となっ たと推察される。他の猫由来培養細胞を製造に用いていない犬用生ワクチンに ついては,全てRT-rtPCR法で陰性を示した。しかし,混入していたコピー数が 検出限界以下であったという可能性は否定できない。これらの結果から,犬用 生ワクチン中に混入するRD-114ウイルスの多くは猫由来培養細胞に起因するこ とが実証された。これは,RD-114ウイルスが犬用生ワクチン中に混入している ことをRT-rtPCR法で証明した最初の報告である。RD-114ウイルスはIn vitroで は異種指向性とされており,効率的に猫及び犬由来培養細胞に感染することか ら,In vivoで他種に伝搬する可能性は否定出来ない(14)。Table 1中で,猫由 来培養細胞を製造用細胞としている全ての製剤中にRD-114ウイルスRNAが存在

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12 していることを証明した。猫由来培養細胞は,RD-114ウイルスが産生・分泌さ れることを考慮せずに製造用細胞として用いられてきた。しかし,現時点では 最小感染量や病原性に関する情報がないことから,完全なリスク評価は困難で ある。 結論として,今回新たに開発した手法は,ワクチン中のRD-114ウイルスRNA検 出を行う上で迅速性を兼ね備えており,スクリーニング手法として有効である。 しかし,感染性ウイルス粒子を検出する方法も依然として必要とされる。RD-114 ウイルスが混入することによって引き起こされるリスクは現在まで不明である が,少なくとも感染性RD-114ウイルス粒子は取り除くべきであると考えている。 ワクチン接種されたイヌに対する副反応のような予期しないリスクの出現を最 小化するために,今回開発した手法が犬用生ワクチンの品質管理をする上で大 きく貢献することを期待する。

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13 A B Fig. 1: 定量分析 A 増幅曲線-RD-114 ウイルスの env 遺伝子に対する増幅曲線を示している。スタンダード サンプルとして左から右へと、それぞれ1010, 109, 108, 107, 106, 105, 104, 103,及び 102 コピー の cDNA がそれぞれ含まれている。101 コピーでは陰性を示し,検出限界は Ct 値 36.8 で 102コピーであった。 B 検量線-検量線はスタンダードサンプルのコピー数(DNA 濃度)と Ct 値の関係をプロ ットすることで求めた (R2=0.998)。 Threshhold line 0.09652 1010 109 108 107 106 105 104 103 102

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14 Table 1

LacZ マーカーレスキューアッセイ法とRT-rtPCR法による日本で承認されている犬用生 ワクチンのRD-114ウイルス混入調査

 Product Composed of Production cell

LacZ marker rescue

Real-Time PCR

(Vaccine) viral agentsa for canine parvovirus

assay

method (copy number) per one vial A D/A2/PI/P Feline, Fibroblast - 166,567 B D/Ad2/PI/P/L Feline, Fibroblast - 100,138 C D/P Feline, Fibroblast - 79,166 D D/Ad2/PI/P Feline, Kidney - 299,425 E D/Ad2/PI/P/C/L Feline, Kidney - 219,820 F D/Ad2/PI/P Canine, Kidney - <100 G D/Ad2/PI/P/C Canine, Kidney - <100 H D/Ad2/PI/P/C/L Canine, Kidney - <100 I D/Ad2/PI/P/L Feline, Kidney + 56,133,603 J D/Ad2/PI/P/C/L Crandell feline kidney + 115,608,530 K D/Ad2/PI/P/C/L Crandell feline kidney + 158,325,451 L D/Ad2/PI/P/C Crandell feline kidney + 146,739,904 M D/Ad2/PI/P/L Mink, Lung + 1,352,784,971 N D/Ad2/P Mink, Lung + 395,363,668 O D/Ad2/PI/P/C Canine, Kidney - <100 P D/Ad2/PI/P/C/L Canine, Kidney NDb <100 Q P Canine, Kidney NDb <100 R D/Ad2/PI/P Crandell feline kidney - 17,521,335 S D/Ad2/PI/P/L Crandell feline kidney - 7,526,241 T P Crandell feline kidney - 1,880,984

a Code

D; canine distemper virus

Ad2; canine adenovirus (CAdV-2) PI; canine parainfluenza virus P; canine parvovirus

C; canine coronavirus L; leptospira

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15 B Fig. 2: 特異性及び逆転写効率 105.3TCID50/ml のストックウイルス液を 100から10-10まで10 倍階段希釈し,これをサンプル として試験に供したところ,LacZ マーカーレスキューアッセイ法では 100から10-5までの 濃度で検出が可能であった。 A 増幅曲線-上記と同じサンプルを用いて RT-rtPCR 法を行った。 B 検量線-Ct 値は 100から10-6の濃度のサンプルから得られた (R2=0.993)。 A Threshold line 0.08673 100 10-1 10-2 10-3 10-4 10-5 10-6

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16 第2章 イヌを用いたRD-114ウイルスの感染試験 1. 要旨 全てのネコのゲノム中には内在性レトロウイルスであるRD-114ウイルス遺伝 子が組み込まれ,感染性のウイルス粒子が分泌されている。イヌに対するRD-114 ウイルスの感染性,急性及び亜急性の病原性及びウイルスの増殖性について評 価するためIn vivoでの感染試験を行った。10ヶ月齢のビーグル犬9頭を雄2頭及 び雌1頭で構成される3群に分けた。RD-114ストックウイルスを接種する群(A群), 不活化されたRD-114ウイルス接種する群(B群)及び陰性コントロールとして細 胞培養液を接種する群(C群)を設定し,接種方法は頸部皮下にそれぞれ1mlず つ接種した。接種5日前,接種直前(0日目),接種後1日目,3日目,7日目及び 10日目に全てのイヌから採血を行い血球数と血液生化学性状について検査を実 施した。その結果,51日間の試験期間中に全てのイヌにおいて臨床徴候,直腸 温の上昇及びC反応性蛋白(CRP)を含めた血液性状の変化は認められなかった。 また,A群のイヌのバフィーコートからRD-114ウイルスの再分離を試みたが陰性 であった。加えて,安楽殺後に末梢血,リンパ節,脾臓及び骨髄を採取し,プ ロウイルスの検出をPCR試験で試みたが検出出来なかった。今回の試験では, RD-114ウイルスがイヌで増殖したという事実は得られなかった。RD-114ウイル ス感染によって引き起こされる潜在的なリスクはこの試験では完全に評価する ことが出来ないが,RD-114ウイルスはイヌにとって病原性が無いか,または低 いのではないかと考えられた。

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17 2. 緒言 全てのネコはゲノム中に感染性の内在性レトロウイルスであるRD-114ウイル スをもっている(7,13)。CRFK細胞が,RD-114ウイルス様粒子を産生することが 知られている(2)。実際にワクチン中にRD-114ウイルスが混入することも明ら かになり,その混入量はおよそ1,800 TCID50/ml(犬用生ワクチン 1 ml=1 バイ アル=1 dose)であった(16)。RD-114ウイルスは,イヌを含めてネコ以外の他 の動物種にとっては“外来性レトロウイルス”に相当するが,イヌに対する病 因学的な特徴に関する報告はこれまでにない。そこで第2章では,ワクチン中に 存在するRD-114ウイルスをイヌに接種することに対する安全性評価を行う観 点からSPFイヌを用いたIn vivoでのイヌへの感染性,急性及び亜急性の病原性 及びウイルス増殖性に関する評価を行うために感染試験を実施した。 3. 実験材料及び実験方法 (1)ウイルス準備 LacZ マーカーレスキューアッセイ法は,感染性RD-114ウイルス粒子の検出と タイトレーションを行う為に用いられた(24,25)。このアッセイは,LacZ遺伝 子導入TE671細胞(TE671/LacZ細胞)を用いた感染性RD-114ウイルス検出法であ る。RD-114ウイルスはRD-114ウイルス持続感染TE671細胞から分離した(27)。 培養上清は,口径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過し,ストックウイルス として使用時まで-80℃に保存した。ストックウイルスのウイルス含有量は, 105.3TCID 50/mlであった。RD-114ウイルスを不活化させるために,ストックウイ ルスに等量のジエチルエーテルを加えて,室温(およそ20℃)で間欠的に激し

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18 く3分間混合した。不活化されたことを確認するために,不活化ウイルス液につ いて,感染性RD-114ウイルスが存在しないことをLacZ マーカーレスキューアッ セイ法で確認した。 (2)供試動物 SPFイヌ,ビーグル,10ヶ月齢,9頭(雄6頭,雌3頭)を用いた。9頭は3頭ず つ3群(A群,B群及びC群)に分けた。それぞれのグループは,2頭の雄と1頭の 雌で構成され,それぞれのイヌは隔離されたゲージ内で飼育された。RD-114ス トックウイルスを1 ml接種する群(A群),不活化されたRD-114ウイルスを1 ml 接種する群(B群)及び陰性コントロールとして細胞培養液を1 ml接種する群(C 群)の3群を設定し,それぞれ接種材料をイヌの頸部皮下に接種した。投与経路 は,日本で承認されている大部分の犬用生ワクチンの使用説明書に従った。全 ての動物実験は,農林水産省動物医薬品検査所の実験動物ガイドラインに従い, 同所の動物実験倫理委員会の許可を得た上で実施した。イヌは接種後51日目に 安楽死処分を行い,胸部と腹部臓器及び骨髄について病理学的検索を行った。 腋下リンパ節,脾臓及び胸骨の骨髄をウイルス学的な検査のために採材した。 (3)血液検査及び臨床観察 TE671(LacZ)細胞を用いて,イヌのバフィーコートからRD-114ウイルスの再 分離を試みた。また,血球数と血液生化学的性状を検査するために接種5日前, 接種直前(0日目),接種後1日目,3日目,及び10日目に,3群全頭から採血を行 った。血液検査は標的組織が不明であったことから全身スクリーニング検査の 目的で行った。血球数に関する項目は白血球,赤血球,ヘモグロビン,ヘマト クリット,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球色素量(MCH),平均赤血球血色

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素濃度(MCHC)及び血小板である。血液生化学性状に関する項目は,総蛋白, ア ル ブ ミ ン , グ ロ ブ リ ン , 総 ビ リ ル ビ ン , glutamic-oxaloacetic transaminase(GOT) , glutamic-pyruvic transaminase(GPT) , alkaline phosphatase(ALP),lactic dehydrogenase(LDH),アミラーゼ,リパーゼ,尿素 窒素,クレアチニン,総コレステロール,中性脂肪,ナトリウム,カリウム, クロール,カルシウム,無機リン,血糖及び総胆汁酸である。C反応性蛋白(CRP) はイヌにおいて炎症反応の鋭敏な指標であるが,これについて接種直前(0日目), 接種後7日目及び51日目に分析した。加えて,感染試験期間中は毎日,臨床症状 の観察を行い,直腸温及び体重測定は少なくとも1週間に1回は実施した。 (4)PCR試験 EDTA処理をした全血,腋下リンパ節,脾臓及び骨髄についてPCR試験を行うた めゲノムDNAの抽出を行った。ゲノムDNAは,バフィーコートを接種し12日間共 培養したTE671(LacZ)細胞からも同様に抽出した。PCR試験はSakaguchiらの方 法(25)を用いて,RD-114ウイルスのenv遺伝子とpol遺伝子の一部の領域を増 幅させた。検出限界を確認するために,105.3TCID 50/mlのストックウイルスを10 0 から10-10に10倍階段希釈したサンプルを接種したTE671(LacZ)細胞から同様に ゲノムDNAを抽出し,シングルステップのPCR試験を行った。検出限界の希釈倍 率は,env遺伝子が10-5pol遺伝子が10-6であった。同じサンプルを用いたLacZ マ

ーカーレスキューアッセイ法(接種量は標準プロトコールどおり1ml)では,LacZ 陽性細胞は,10-4で17個,10-5で2個,10-6で0個が確認され,検出限界の希釈倍率

は10-5であった。

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全ての項目について,各群全頭の平均値について検査時点毎に行った。SPSS 統計ソフト(13版; SPSS Science, Chicago, IL, USA)を用いて,各試験群の 比較検定を行い,危険率5%未満を有意差ありとした。 (6)中和抗体の検出 中和試験を行う目的で,接種直前(接種後0週目),接種後4週目及び7週目に 採血を行った。採血後速やかに血清を分離し56℃30分で非働化させ,使用時ま で-80℃で保管した。陽性コントロール血清は,1mlのストックウイルスを2週間 間隔でモルモットに4回接種して2週後に得られた血清とした。血清は前述の方 法で非働化させた。陰性コントロール血清は,無処置のモルモットの血清とし た。また,レトロウイルスがモルモットにプロウイルス化していないかを調べ る目的でPCR試験を行う為に,全てのモルモットから全血,骨髄,腋下リンパ節, 肝臓,心臓,脾臓,腸間膜リンパ節,卵巣を採取し,RD-114ウイルスのenv遺伝 子とpol遺伝子の一部を検出するPCR試験(25)を試みた。中和試験は6ウェルのマ イクロプレートを用い,LacZ マーカーレスキューアッセイ法(25)に準拠して 行った。血清は4倍階段希釈し,各希釈血清とウイルス液を等量混合し,37℃ 5% CO2インキュベーターにて60分間中和させた。中和後に8μgのポリブレンを加え てTE671(LacZ)細胞に接種した。継代後,6ウェルのマイクロプレートに準備 したTE671細胞にこれらの上清を接種し,その2日後にX-gal染色を行い,LacZ陽 性細胞を可視化した。判定方法は,ウイルスの増殖がウイルスコントロールと 比べて50%以上抑制された場合に中和抗体陽性と判断し,血清の最高希釈倍率で 示した(17)。 4. 実験結果

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21 感染試験期間中,A及びB群の全てのイヌで,C群のイヌと比較して直腸温を含 む臨床症状,血球数,CRPを含む血液生化学的性状について異常所見は認められ なかった。加えて,白血球数はA及びB群はC群と同等であり,参照値を逸脱する ことはなく,体重は全てのイヌで順調に増加した(Fig.1)。統計解析では,接 種5日前のカリウムについて3群間で有意査が認められたのみであった。接種後 51日目の病理解剖において,肉眼的に病変は認められなかった。主要なリンパ 節,特に腋下リンパ節は著変がなく,直径0.5~1.0 cmと小さく皮髄境界部は明 瞭であった。脾臓と骨髄についても病変は認められなかった。バフィーコート と共培養したTE671(LacZ)細胞からLacZマーカーレスキューアッセイ法を用い て感染性RD-114ウイルスの検出を試みたが陰性であった。前述のTE671(LacZ) 細胞からゲノムDNAを抽出し,さらにPCR試験を行ったが陰性であった。加えて, 全血,リンパ節,脾臓及び胸骨の骨髄からゲノムDNAを抽出しRD-114プロウイル スをシングルステップのPCR試験で検出を試みた結果も陰性であった(Fig.2)。 中和試験の結果については,全群から得られた全ての血清で,1回ずつ試験を実 施し,中和抗体価は2倍未満であった。一方,陽性コントロール血清は中和抗体 価16倍を示し,陰性コントロール血清は2倍未満であった。また,モルモットの 組織等を試料としたPCR試験の結果は全て陰性であった(17)。また,グロブリ ン値は全てのイヌで参照値を逸脱することはなく,3群間で有意差も認められな かった。 5.考察

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22 な犬由来培養細胞に感受性がある(23)。RD-114ウイルスはIn vitroでは異種指 向性とされており,効率的に猫及び犬由来培養細胞に感染することから,In vivo で他種に伝搬する可能性がある(14)。それゆえに,イヌが高力価のRD-114ウイ ルスに暴露された場合,標的組織の中にウイルスゲノムが組み込まれる可能性 は否定できない。ウイルス血症は,しばしばウイルス性疾患の急性期を連想さ せ,レトロウイルスによって引き起こされる臨床症例は,そのウイルス分離に 血液が試料として供されることが多いが,今回バフィーコートからのウイルス 再分離は出来なかった。A群のイヌは,ワクチン中に含まれるRD-114ウイルス量 のおよそ100倍以上に相当する105.3TCID 50/mlのRD-114ウイルスを接種したにも 関わらず,血液,リンパ節,脾臓,骨髄からPCR試験でプロウイルスを検出出来 なかった。この結果は,RD-114ウイルスがイヌに感染し増殖することはないか, もしくはRD-114ウイルスが血液細胞や造血組織で効率的に増殖しないことを示 唆した。さらに,RD-114ウイルスを接種したイヌの血清を用いた中和試験を試 みたが,中和抗体は検出されなかった。しかし,モルモットに過剰に免疫した 場合には,16倍ではあるものの中和抗体は誘導された。また,PCR試験の結果は 全て陰性であったことから,モルモットの組織中にプロウイルス化されていな いものと推察された。モルモットに臨床症状は認められず,RD-114ウイルスは 感染しなかったと考えられるが,中和抗体が誘導されたのは,イヌと比べて抗 原量と免疫回数が多かった為と考えられた。一般的にはウイルスを含め抗原が 生体内に侵入すると動物は抗体を産生すると考えられ,イヌにおいては中和活 性を持たない抗体が誘導された可能性もある。IgM抗体は,感染の初期(数日以 内)で上昇し,IgG抗体に比べてウイルス特異的であるとされているが,グロブ リン値にいずれの群でも上昇が認められなかったことから,著しい抗体応答が なかったことが推察された。

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23 今回の試験でイヌへの感染性,急性及び亜急性の病原性が無いことが確認さ れた。しかし,レトロウイルス感染症の立証または否定には、今回の試験期間 では充分とはいえず,一般的にはさらに長い期間を必要とするために、イヌへ のRD-114ウイルス感染が引き起こす潜在的なリスクを正確に数量化することは 困難であり,慢性感染や長期的な安全性に関しては,試験期間を長くした別の 試験が必要である。また,今回試験に用いた10ヵ月齢よりも幼弱犬の場合, RD-114ウイルスに対する感受性が高い可能性もある。毎年,数百万匹の子犬が 犬用生ワクチンを接種されている。それゆえに,引き起こされる有害事象を完 全に否定することは困難である。多くの外来性レトロウイルスは,様々な種類 の動物に白血病や腫瘍を引き起こすので,さらなる研究として猫由来培養細胞 を用いて製造された犬用生ワクチンを接種したイヌに発生した腫瘍病変をサン プルとしたRD-114ウイルス分離を試みることが必要とされるであろう。このよ うな疫学調査によって,ワクチン接種と疾病発生との因果関係が明らかになる ことが期待される。

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24 Fig. 1: 直腸温(a)と白血球数(b)の平均値 3群のイヌ(1群それぞれ3頭)の直腸音と白血球数の平均値の推移を示す。グループA: RD-114ウイルス接種群, グループB:不活化RD-114ウイルス接種群及びグループC:対照 群 38.0 38.2 38.4 38.6 38.8 39.0 39.2 39.4 39.6 39.8

Pre 0day 1day 3days 7days 10days

Days after inoculation (a) group A group B group C 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0

Pre 0day 1day 3days 7days 10days

×103

/μl

Days after inoculation (b)

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25 Fig. 2: バフィーコートからのRD-114ウイルスのPCR試験による検出 3群全頭のイヌ(1群は3頭)からバフィーコートを分離,ゲノムDNAを抽出し,RD-114ウ イルスの検出を試みた。Lane1-3:グループA,Lane4-6:グループB,Lane7-9:グループ C,10:陰性コントロール(細胞培養液),11:陽性コントロール(RD-114ストックウイル ス),12:陽性コントロール(グループCのバフィーコートにRD-114ストックウイルスを混 合),13:陰性コントロール(滅菌精製水) グループA,B及びCの全てのイヌのバフィーコートについてPCR陰性であった。 M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Pol (468bp) Env (580bp) (LacZ assay - - - - - - - - - - - + + - ) 500bp (100bp ladder) ladder)

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第3章

逆転写酵素活性に基づいた感染性RD-114ウイルスの検出

1. 要旨

完全な複製能を持つRD-114ウイルスを検出するためのProduct Enhanced Reverse Transcriptase assay (PERT法)の確立を試みた。その結果,CRFK細 胞の上清中には,本PERT法でRT活性を検出可能なRT量が存在せず,その上清を 他のレトロウイルス高感受性細胞で継代する必要があることが示唆された。今 回開発したPERT法で検出可能となるためには,CRFK細胞から分離したRD-114ウ イルスは293T細胞で4回以上の継代が必要であった。PERT法は,細胞上清中の RD-114ウイルスの存在を検出するための感度のよい方法であり,生ワクチン製 造に用いられる培養細胞中に含まれる内在性レトロウイルスの検出手法として 有益であると考えられた。 2.緒言 Reverse-transcription-PCR法(RT-PCR法)やReal-time reverse- transcription-PCR法(RT-rtPCR法)は,猫由来培養細胞を用いて製造された 生ワクチン中に存在するRD-114ウイルス遺伝子を検出のための手法として用い られるようになった(18,33)。しかし,感染性ウイルス粒子を検出するための 手法は依然として必要とされる。感染性RD-114ウイルス粒子の検出法である LacZ マーカーレスキューアッセイ法(25)はLacZ遺伝子が導入されたTE671細 胞が必要とされ汎用性に欠けていた。また,sarcoma-positive leukemia-

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27

negative cells assay(S+

/L -アッセイ)はLacZ マーカーレスキューアッセイ法よ りも感度の面で劣るとされていた(24)。著者は,猫胎子脳由来であるPG-4細胞 を用いたS+/L-アッセイ(26)を試みたが,この検出法を改良できる良い結果は 得られなかった。すべてのレトロウイルスは,複製に必須である逆転写酵素(RT) を持っており,PERT法はそのRT活性を検出する方法である(22)。PCR法に基づ いたRT検出法は,非常に感度がよく,広範囲のレトロウイルス検出法として位 置づけられている(12)。また,ワクチン中のレトロウイルスの存在を証明する ために,臨床あるいは研究分野において低いレベルのウイルス複製の有無を調 査するために用いられる手法である(12)。近年,欧州医薬品審査庁である European Medicines Agency(EMA)が,RD-114ウイルスのワクチン中への混入の 問題を受けてアドホックグループを結成し,細胞中のRT活性の有無の調査をす ることを試みた。そこで,第3章において本研究においてワクチン製造に用いら れている培養細胞の上清中から完全な複製能を持つRD-114ウイルスを検出する ためのPERT法の確立を試みた。 3. 実験材料及び方法 (1)細胞 ヒト胎子由来腎臓細胞(HEK)293T細胞(ATCC, CRL-11268)は10% (v/v)牛胎 子血清,ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/ml)を添加 したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で培養した。ヒト胎子由来腎臓細胞 (HEK)293細胞(ATCC,CRL-1573)とミンク肺上皮細胞(Mv1Lu)(ATCC,CRL-64) は, 10% (v/v)牛胎子血清,L-グルタミン(29.23mg/ml)ペニシリン(100U/ml) 及びストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したイーグル最小必須培地(EMEM)

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で培養した。293T細胞のみ培養の際にセルタイトC-1(真皮由来コラーゲンコー ティング)フラスコ(Sumitomo Bakelite, Tokyo, Japan)を用いた。

(2)ウイルス RD-114ウイルスはCRFK細胞(ATCC,CCL-94)を3日間隔で5倍継代した上清か ら分離しストックウイルスとした。ストックウイルスの含有量は,LacZ マーカ ーレスキューアッセイ法で103.7TCID 50/mlであった(25)。293,293T及びMv1Lu細 胞は,接種1日前に250mlのフラスコ(75cm2)に2×105個/mlに調整して準備した。 RD-114ウイルス(1ml)は,1μl(8 mg/ml)のポリブレンを加えてそれぞれの 細胞に接種し,37℃,5%CO2下で4時間吸着させた。吸着後,接種材料を取り除き 15 mlの新しい培地に交換した。ウイルス接種した細胞は3日間隔で単層培養さ れていることを確認して5倍継代した。細胞の継代は3週間以上,計8回実施し, それぞれの上清は使用時まで-80℃で保存した。 (3)PERT法 それぞれの上清は250 xg,10分間の遠心操作後,上清を2,000 xg,30分間遠 心操作し上清を回収した。上清20μlに対して,80μlのウイルス溶解液(50 mM Tris-HCl pH7.5,80 mM 塩化カリウム,2.5 mM ジチオトレイトール(DTT),0.75 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA),0.5%トリトン X-100;pH 7.8)を加え室 温で30分インキュベートし,その後は氷上に置いた。RNAの鋳型として,市販の バクテリオファージMS2由来RNA(Roche Applied Science,Indianapolis,IN) を用いた。RNAテンプレート(10μl)は,2μlのgDNA wipeout buffer と,2μl のRNase free waterから構成される4μlの混合液を加えて,42oC 20 分間,

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ョンの終了後にRNAテンプレートは,Reverse transcriptase (RT)

(Quantitect Reverse Transcription™: Qiagen, CA, USA) を用いて 42oC 30

分間,逆転写反応を行った。MS2-RNA特異的なプライマーであるRT-1

5’-cacaggtcaaacctcctaggaatg-3’ と RT-2 5’-tcctgctcaacttcctgtcgag-3’ を用いた(22)。RT反応のための試薬の構成(計5μl)は,0.5μl アンチセン スプライマ-(RT-1)(10μM),0.5μl RNase free H2O, 4μl 5×RT buffer

及び1μl RT(又は溶解したウイルス)であり,これをDNase処理後のRNAテン プレートに加えた。DNaseとRTは,95oC 3分間で不活化させた。PCR反応のた

めの試薬(計20μl)は,0.8μlのcDNA,20 mM MgCl2を含有する2.0μlの10

×Ex Taq buffer (Takara,Tokyo,Japan),0.1μlのTaq polymerase(Ex Taq; Takara),1.6μlの2.5 mM dNTP mixture, 0.4μlの各プライマー(10μM) 及び14.7μlの滅菌精製水で構成された。増幅条件は,94℃ 2分間の反応後, 94℃ 30秒間(熱変性),57℃ 30秒間(アニーリング)及び72℃ 30秒間(伸 長反応)を35サイクル行った後に,72℃ 7分間の最後の伸長反応を行った。 全てのPCR試験は200μlのPCRチューブとサーマルサイクラー(Applied Biosystems,Tokyo,Japan)を用いて行った。増幅されるPCR産物は,112 bp であった(22)。 (4)LacZ マーカーレスキューアッセイ法 LacZ マーカーレスキューアッセイ法はRD-114ウイルスの検出とタイトレー ションのために用いられている(25)。このアッセイ法の標準プロトコールに従 って各上清1ml中のRD-114ウイルスの有無について検査した。 (5) RT-rtPCR試験

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30

RD-114ウイルスのenv遺伝子をターゲットとしたRT-rtPCR試験は,全ての上 清をサンプルとして第1章で述べられたRD-114ウイルス遺伝子の絶対定量を 行うための手法(18)にて行った。

(6)RT-ELISAアッセイ

市販のELISAキットであるcolorimetric RT assay(Roche Diagnostics, Mannheim, Germary)は,レトロウイルス由来の活性RTの検出や定量試験に用い られる。このキットの原理は,RTの活性をDNAにジゴキシゲニンとビオチンが標 識されたdUTPを取り込ませることにより定量する酵素免疫法である。このキッ トを用いたRD-114ウイルス由来RTの検出報告はなく,検出が可能であるか検討 すること及び検出が可能な場合にはPERT法との感度を比較する目的で試験を行 った。各10mlの上清は,スイングロータ(P40ST;Hitachi Koki,Tokyo,Japan) を用いて22,000 xg, 4℃で2時間超遠心操作を行った。超遠心操作後,沈殿物 は40μlのウイルス溶解液を用いて再浮遊させ,キットに添付されていた使用 方法に従って検査した。 (7)PERT法とRT-ELISAアッセイの比較 活性RTの検出を目的とする2手法の感度を比較するために,RD-114ウイルスを 293T細胞に接種,8回継代後の上清10mlを超遠心操作して沈殿物を前述の方法で 40μlのウイルス溶解液を用いて再浮遊させた。このウイルス液を10倍階段希 釈したサンプルを用いて両者の試験を実施した。 4.実験結果

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31 (1)PERT法 既報の論文によると,バックグラウンドに細胞内のDNAポリメラーゼや内在 性レトロウイルス由来のRT等に由来するRT活性が高く存在するとPERT法の阻 害になることが知られている(26)。このようなバックグラウンドに存在す るRT活性がアッセイの偽陽性や感度の低下を招くおそれがあることから,最 初の段階としてRD-114ウイルスを接種する前のそれぞれの細胞の上清につい てPERT法を実施し,RT活性が検出されないことを確認した。各細胞でRD-114 ウイルスを接種後に1~8回継代した上清をサンプルとして検査し,293T細胞 においてRT活性が4回継代以降に陽性を示すことを確認した(Fig.1及び Table 1a)。また,293細胞では6回目,Mv1Lu細胞では7回目継代以降に陽性 を示した。RT活性の存在を確認するために,293T細胞で8回継代した上清にウ イルス溶解液を加えてインキュベート後に,10倍階段希釈し,これらをサン プルとしてPERT法を実施したところ,未希釈及び10倍希釈サンプルはPERT法 で陽性を示し,100倍希釈したサンプルでは陰性を示した(Fig.2)。 (2)LacZ マーカーレスキューアッセイ法 全ての上清で1回継代以降陽性を示した(Table 1b)。 (3) RT-rtPCR試験 検出限界は102コピーであり,その時のCt値は37.9(R2=0.978)であった。 陰性コントロールで増幅は確認されなかった。Env遺伝子に対するRT-rtPCR 試験の結果,全ての上清で1回継代以降陽性を示した(Table 1c-1及び2)。 (4)RT-ELISAアッセイ

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32 RT-ELISA法では,293T細胞とMv1Lu細胞においては2回目の継代以降に陽性 を示し,293細胞では3回目継代以降に陽性を示した(Table 1d及びFig.3)。 最も高いシグナルは293T細胞で確認された。 (5)PERT法とRT-ELISAアッセイの比較 RT反応は,100(未希釈のRT)から10-4に希釈したRTまでPERT法で陽性を示 した。このデータは前述した超遠心操作を行わないPERT法の結果に比べて, およそ1,000倍感度が良かった。一方,同じサンプルを用いたRT-ELISA法は, 100(未希釈のRT)及び10-1で陽性を示した。推定RT量は,キットに添付され たHIV由来のRTで検量線を作成することで求めることが可能であり,100 1.717 ng/well及び10-1で0.153 ng/wellであった(Fig.4)。 5.考察 PERT法において,RD-114ウイルスの継代のために供試された3つの細胞中, 293T細胞の上清が最も高いRT活性を示した。さらに注目すべきことは,CRFK 細胞の上清中に存在するRTは,PERT法で検出できるほど充分な量が存在せず, 検出限界以下と考えられるので,その上清を他の高感受性細胞で継代する必 要があるという点である。RD-114ウイルスはxenotropic(異種指向性)のウイ ルスに分類されており(6,30),これらの結果は,RD-114ウイルスが他のレ トロウイルス高感受性細胞で効率よく増殖することを示唆した。293T細胞に おいては3回継代まではRT活性が充分でないと考えられることから,PERT法で 検出可能なレベルに達するには,4回以上の継代を必要とすることが明らかと なった。

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33 RD-114ウイルスは猫由来培養細胞では積極的には増殖せずに,ヒトやミン クの細胞でよく増殖し,xenotropicであると考えられており(14),得られ たデータは,本ウイルスの特徴と一致していた。いくつかの培養細胞はバッ クグラウンドに高いRT活性が存在するが,293細胞や293T細胞はごく僅かなRT 活性が認められるのみと報告されている(26)。Mv1Lu細胞においても,接種 前の上清中からはRT活性は検出されないことから,293,293T細胞と同様に低 いRT活性を有するものと推察された。 RT-rtPCR法でRD-114ウイルスのenv遺伝子に対するコピー数は,各細胞で3 回継代目以降急速に増加していることが明らかとなった。その後は,293T細 胞の場合,4回~8回継代の間では高いコピー数のレベルで一定しており,プ ラトーに達していると考えられた。一方,293細胞とMv1Lu細胞ではコピー数 が徐々に増加していた。これらの結果はPERT法で示された結果とよく一致し ていた。RT-ELISAアッセイにおいて市販のELISAキットが培養細胞上清中の RD-114ウイルスのRT検出についても有用であることが明らかとなった。検出 感度の比較試験では,PERT法の感度が優れており,RT-ELISAアッセイでは陰 性を示した希釈倍率のサンプルを含めてPERT法陽性の結果を示した。PERT法 は,サンプルである上清の超遠心操作を行うことでさらに感度が上がること が報告されている(22)。本研究のデータも同様に,PERT法は超遠心操作を 行い,サンプル量に留意した場合に,RT-ELISAアッセイよりも感度が向上す ることを示した。また,LacZ マーカーレスキューアッセイ法と比較して感 度は下がるが,市販の材料で試験が実施できることから汎用性が高く,継代 法や超遠心操作を組み合わせることにより培養細胞上清中から感染性RD-114 ウイルスの検出が可能となることが明らかとなった。PERT法は,豚内在性レ トロウイルス,マウス白血病ウイルス,サル水泡ウイルス,サル免疫不全ウ

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34 イルス(SIVmac)及びリスザルレトロウイルスを含む広範囲のレトロウイル ス由来のRT活性を検出することが出来る(10)。結論として,PERT法は,完 全な複製能を持つレトロウイルスの検出法であり,RD-114ウイルスを含めた レトロウイルスのRT活性の存在を確認するための汎用性の高い手法である。 それゆえに,PERT法は培養細胞やそれらを用いて製造されるワクチン中に存 在する外来性ウイルスを検出するための手法として有益であろう。このPERT 法が内在性レトロウイルスを分泌する培養細胞で製造される犬用生ワクチン の品質管理の上で役立つであろう。

(41)

35 (a)M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(b)M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(c)M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

Fig.1: RD-114 ウイルスの PERT 法による検出

(a) 293 (b)293T (c)Mv1lu 細胞 サンプル番号はそれぞれの Lane の上部に示した。Lane M: 100bp マーカー,Lane1:ウイルス接種前の細胞上清,Lane 2~9:ウイルスを接種したそ れぞれの上清(継代数),Lane 10:陽性コントロール(Quantiscript reverse transcription), Lane11:DNA 除去コントロール,Lane12,陰性コントロール(滅菌精製水)

(42)

36 (b) Table 1a

RD-114 ウイルスの 293 細胞,293T 細胞及び Mv1Lu 細胞からの検出 PERT 法による検出

Passage PERT assay

number 293 cells 293T cells Mv1Lu cells

0(pre) - - - 1 - - - 2 - - - 3 - ± - 4 - + - 5 - + - 6 ± + - 7 ± + + 8 ± + +

(43)

37

Table 1b

LacZ マーカーレスキューアッセイ法による検出

Passage LacZ marker rescue assay method number 293 cells 293T cells Mv1Lu cells

0(pre) - - - 1 + + + 2 + + + 3 + + + 4 + + + 5 + + + 6 + + + 7 + + + 8 + + +

(44)

38

Table 1c-1

RT-rtPCR 法による検出

Real-time RT-PCR methods 【copy number/μl】

継代数 293細胞 293T細胞 Mv1Lu細胞 0(pre) <100 <100 <100 1 72,325 674,211 5,807,601 2 1,572,124 135,083,200 280,885,568 3 24,227,990 3,681,270,784 919,143,744 4 227,079,584 4,940,615,680 748,455,104 5 470,609,600 4,196,985,856 517,347,968 6 646,998,912 4,146,128,896 532,175,584 7 541,071,360 3,704,100,864 507,949,056 8 748,780,800 4,575,141,888 787,025,152

(45)

39

Table 1c-2

(46)

40

Table 1d

RT-ELISA アッセイによる検出

ELISA method RT concentration(ng/well)

継代数 293細胞 293T細胞 Mv1Lu細胞 0(pre) - - - 1 - - - 2 - 0.0496 0.0750 3 0.0226 0.9197 0.0452 4 0.0465 1.1382 0.1319 5 0.0257 0.7664 0.0352 6 0.1341 0.5806 0.1708 7 0.0778 1.3398 0.1601 8 0.2983 0.3014 0.0308

(47)

41

M 1 2 3 4 5 6

Fig.2

RD-114 ウイルス接種した 293T 由来の RT を 10 倍階段希釈した。これをサンプルとして PERT 法を試みた。サンプル番号はそれぞれの Lane の上部に記載した。Lane M:100bp マーカー,Lane 1:未希釈 RT,Lane 2:10 倍希釈 RT,Lane 3:100 倍希釈 RT,Lane 4:陽性コントロール(Quantiscript reverse transcription),Lane 5:DNA 除去コントロ ール,Lane 6:陰性コントロール(滅菌精製水)

(48)

42

(a)

(b)

Fig. 3

市販のRT-ELISA キットを用いた RD-114 ウイルスの RT 活性の検出

(a) Pre:接種前の上清,1~8:それぞれの継代数を示す。(b) RT-ELISA による RT 濃度 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 0 2 4 6 8 10 R T c on ce n trat io n (n g/ w el l) Passage number 293 cells 293T cells Mv1Lu cells CRFK cells supernatant Blank wells Pre 1 2 3 4 5 ① 6 7 8 pre 1 2 3 4 5 6 7 8 pre 1 2 3 5 6 7 8 4

(49)

43 (b) Fig. 4 PERT 法と RT-ELISA アッセイの比較 (a) PERT 法

サンプル番号はそれぞれのLane の上部に記載した。Lane M:100bp マーカー,Lane1~6: 100 (未希釈) から 10-510 倍階段希釈した RT,Lane 7:陽性コントロール(Quantiscript reverse transcription),Lane 8:DNA 除去コントロール,Lane 9:陰性コントロール(滅菌精 製水)PERT 法は 100 (未希釈) から 10-4 の RT で陽性であった。. (b) RT-ELISA アッセイ 1~6:100 (未希釈) から 10-5に10 倍階段希釈した RT. 100 (未希釈)から 10-1 の RT で陽性のシグナルが確認された。 HIV Calibration Curve for RT Blank wells 1 2 3 4 5 6 (a) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 293T cells

(50)

44 結論 動物用ワクチン中に感染性の内在性レトロウイルスが混入しているという報 告はこれまでになく,特に生ワクチン中に混入する内在性レトロウイルスの危 険性については科学的に議論されたこともほとんどなかった。しかし,一部の 内在性レトロウイルスに病原性があることが明らかになってきた以上,より慎 重に対応することが求められてきている。本研究では,ワクチン中へのRD-114 ウイルスの混入の状況調査,イヌへの高濃度の感染試験の実施及び汎用性が高 い感染性RD-114ウイルスの検出方法の検討を行った。第1章での混入量の状況調 査の結果を受けて,第2章で実施した感染試験であるが,一般に「病原性がある」 ということを科学的に証明することは可能であっても「病原性がない」ことを 証明することは不可能であると思われた。従って,現段階では最も現実的であ ると思われる試験設定下において試験を実施した結果,感染の兆候やイヌでの 増殖性は認められなかったとの結論である。今回の試験成績では病因学的意義 に乏しいものと推察され,RD-114ウイルスがイヌにとって病原微生物に該当す るという結論には達しなかった。しかし,この試験成績のみをもって猫由来培 養細胞を用いて製造された犬用生ワクチンの安全性全般に関する免罪符と考え ることは困難であると考えられる。病原性のうち腫瘍性疾患を想定した場合に は,感染が成立した多数のイヌを一生涯追跡する必要があるだろう。あるいは それが不可能であればレトロウイルス感染で引き起こされ得る疾病(腫瘍や免 疫抑制等)にRD-114ウイルスが関与しているのか疫学的に調べる必要があると 思われる。 結論として,①RD-114ウイルスはすべてのネコの生殖細胞及び体細胞に内在 化しているウイルスである。②RD-114ウイルスのイヌに対する病原性に関する

(51)

45 報告はこれまでになされておらず,本研究で実施した感染試験においても病原 性は確認されなかった。③犬用生ワクチン中に感染性RD-114ウイルスが混入す ることによるリスクは不明である。④EMA(欧州医薬品庁)は,動物用医薬品委 員会(CVMP)へリスク評価を依頼し,平成22年9月15日付けで,「現時点では特 段の規制は行わず,引き続き情報収集に努める」こととされた意見文書が公表 されている。USDA(米国農務省)においては,本件に対しては静観しており,規 制措置は講じられていない。⑤副作用報告において,RD-114ウイルスに起因す ると考えられる事例は認められていない。特にRD-114ウイルスの感染により引 き起こされる可能性が高い疾患として,腫瘍及び免疫抑制が挙げられるが,そ のような疾患を引き起こしたとする報告は現在までにはない。⑥RD-114ウイル スが癌遺伝子を持っているという報告はこれまでにない。⑦現在の技術では, 製造工程中におけるRD-114ウイルスのクリアランス技術は確立されておらず, 除去が困難である。⑧RD-114ウイルスの出芽を抑制することは可能とする研究 報告はあるが(8),出芽が人為的に阻害された猫由来培養細胞は確立されてい ない。以上の事実関係に基づき,犬用生ワクチン中に混入するRD-114ウイルス のイヌへの安全性を評価することを試み,現時点における基本的な対処方針を 取りまとめた。結論として現時点では,「製造販売の中止,製造方法の変更の指 示等を行う必要やその根拠はないが,引き続き情報の収集を行うこととされた。 ただし,RD-114ウイルスによる長期的なリスク(病原性等)について把握する ため,動物医薬品検査所は,推奨される最終製品中等のRD-114ウイルスの検出 方法(今回開発したRT-rtPCR法やPERT法),情報収集の項目(副作用,販売数量, 文献調査)等を製造販売業者と協議しながら科学的根拠に基づき整理し,製造 販売業者に示す必要がある」との見解を取りまとめた。なお,この取扱方針は 薬事・食品衛生審議会薬事分科会動物用医薬品等部会に報告され,了承された。

(52)

46 バイオテクノロジーの発展に伴って微生物の検査技術は日々向上しており, 未知のあるいは,これまでに検出出来なかった微生物が新たに検出される場合 が想定される。動物用ワクチン中には,動物用生物学的製剤基準で規定された 各種の迷入ウイルス否定試験法では検出できない未知のウイルスが存在する可 能性が大いにあると思われる。RD-114ウイルス問題で取り組んだ一連の病因学 的意義の模索及び行政的なリスク管理措置等が,レギュラトリーサイエンスを 支える組織として同様な問題に直面した際の1つのモデルケースとなることを 期待する。

参照

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