信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用
著者
浅野 裕司
著者別名
Y. Asano
雑誌名
東洋法学
巻
31
号
1・2
ページ
39-72
発行年
1988-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003561/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用
浅 野 裕 司
一、 二、 目 次 土地信託の概要と仕組みに関する法的諸問題 土地有効利用に係る法政策と国・公有地信託 はじめに 土地信託は、一般に新しい法律にもとづく新しい制度と思われがちであるが、大正一一年制定の信託二法︵信託法 と信託業法︶のなかにおいても、土地も信託の対象になるとされている。ただし、実務界が先行させた実態的には新 しい手法となっており、また、昭和六一年五月、国有財産法および地方自治法の一部改正にょり国・公有地の土地信 託の導入についての法的許容性が論じられたことから新制度としての印象を一般に与えている。表現的な用語の差は あるが、土地の信託は、不動産信託として従来行われてはいた。信託法上は、財産権であればすべて信託の対象とす東洋法学
三九信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 四〇 ることができ、物権、債権はもちろんのこと準物権、無体財産権をも信託の対象となることとされている。信託会社 が信託の引受けを行うことができる財産の種類は信託業法第四条により限定されているが、そのなかに﹁土地および その定着物﹂も含まれている。また、森林法の特例規定︵二三条︶や農地法、農業協同組合法における農地信託の 規定もある。信託業界において例外的に顧客の要望に応じて土地の信託を受けた例はあるが、それは俗に草刈り信託 などといわれ、更地の手入れや固定資産税の納税代行のために預けられたというのが実情のようである。これまであ まり土地信託が表面に出ることがなかったのは、一般の信託はほとんど行われず、営業信託も貸付信託や金銭信託な ど金銭を対象とするものに偏っていた。信託会社は、土地など﹁もの﹂の運用管理は面倒で信託報酬も多くを期待で ぎないとして、営業として消極的姿勢もあった。また、社会一般に信託に対する認識不足の状態にあったことも指摘 できよう。ところが最近とくに注目されているのは、土地信託が都市再開発や宅地供給などと結びついて政策的な要 素もあり、民間活力導入の課題とともに信託業者側の巨額に達した資金の運用先の開拓という必要性もある。また、 東京など都市中心部における地価狂乱のなかで、土地所有者の資産管理手法が従来の借地方式や等価交換方式に代わ って、受託者がより積極的に不動産事業を執行する信託応用方式にょる土地の有効利用のための手法となったことで ある。問題は、土地信託なるものは土地所有者が土地の有効利用を目標として、その管理を委託しつつ開発利用を進 めるための一手法と考えられているが、信託と称しても、信託業界の都合上、かなり特殊な法理論をもって構成され ており、他の諸法域と関連するところも多く、もっとも基本的と考えられる所有権の帰属、受益権の性格や多数地権 者間の調整、事業性の許否、税法上の問題など、十分に解明されずに業界リードによる土地信託の設定が先走ってい
る。たとえば、複数の地権者が絡む開発案件では土地信託はもちろん、建設会社が中心となって企画する総合受託方 式も盛んに行われている。こうしたことから信託にとって不可欠と考えられる基本的諸問題を検討していくことが重 要課題でもある。ごく一部の問題にしても、信託法第九条からすると受託者は受益者を兼ねてはならないとするので、 土地信託などの場合の単独の受益者の場合には、この第九条が非常に困難な問題を提起してくる。従来、金銭信託 では、合同運用の制度があるので受託者が唯一受益者を兼ねるという関係にはならないので、この第九条の問題は避 けて通ることがでぎた。土地信託と受益権担保については、信託約款であらかじめ受益権に対する質権設定に関して 特約をなしておくか、または質権設定差入証に委託者、受益者の同趣旨の特約を記載せしめておくことにょって受託 者による弁済のための受益権取得の有効性を信託法第九条、民法第三四九条の規定にかかわらず確立し得るのではな かろうかと思うが、問題のところである。国公有地についても、その高値売却による周辺地価の高騰を防ぐ手段として、 土地信託の活用がクローズアップされているが、東京都が新宿副都心の都有地に建設する超高層の土地信託ビルの最 終計画案が六二年秋に発表された。地方自治体として、こうした大規模な形で土地信託を活用するのは全国で初めて の試みである。土地信託は、一口で言うならば、土地を信託銀行に委託し、資金調達、建物の賃貸、管理などのすべ てを任せて、その収益を信託配当として受けるものである。東京都の場合、信託銀行三行による共同受託方式で契約 しており、総事業費は二百八○億円で信託期問は二〇年間、都への予想信託配当は、単年度平均約百二〇億円、総額 約二千四百億円を見込んでいるとされる。また、国立大学の遊休地の活用を検討している文部省は、六二年九月に一 橋大一橋講堂を取り壊し、跡地に土地信託を利用して国際会議場を含む高層のインテリジェソトビルを建設すること 東洋法学 四一
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 四二 を決定した。実現すると国有地の土地信託適用の第一号になりそうで、信託収入は国立学校特別会計に繰り入れられ る。こうした国・公有地の有効活用の要請は、現代社会の趨勢でもあり、民間をも含めた土地信託のシステムとして の成熟とともに国・公有地信託が健全に発展していくことが望まれるところである。公有地については、たとえ普通 財産であっても、公有財産である以上、元来、なんらかの行政霞的があって取得されたはずであり、これを収益のみ 考えて運用するとしたならば、その本来の趣旨を損うこととなろう。土地信託は、あくまでも手段であり目的ではな いのであるから、その管理・運営については、信託財産は地方公共団体が所有権を有さないとしても、実質的効果か らみれば公有財産である不動産と変わらないことに鑑み、信託契約内容の決定をはじめとして厳格に行われなければ ならない。 土地信託は、複数地権者のいる土地の開発方式として都市再開発への応用が期待されている。ただし、わが国の場 合、公共性よりも所有の意識に執着する土地感覚があり、地主による土地信託の積極的参加を推進するのには役立つ と思われるが、複数地権者の協力による都市再開発という共同目的に対して果して有効活用が持続できるか考慮さる べぎ点もあろう。米国においても、三〇年前より一時、土地信託︵雷鼠鐸霧叶︶のブームがあったが、現今ではご く限られた州において行われているにすぎない。もっとも、わが国の土地信託と米国の一きα⑬霧δとは異質なもの といえる。米国の信託︵茸霧け︶とは、その基本法理が異なっており、米国では土地信託設定と同時に土地に関する普 通法上の権原︵馨富︶はもちろん衡平法上の権利まで受託者に移転される。また、わが国の土地信託では、信託財産の 管理または処分を行うのは受託者であるが、米国の場合、委託者兼受益者による指図権︵零≦霧9&8&窪︶が留
保され、信託財産たる土地を実質的に管理ないし処分を行うのは通常、 を考慮してわが国における土地信託の問題点について触れてみたい。 委託者兼受益者である。そこで、以上の諸点 土地信託の概要と仕組みに関する法的諸問題 土地信託に係る法的諸問題については、これまでにも各方面からの考察がなされているが、一応の概要に触れてお きたい。信託法および信託業法が大正一二年に施行されて以来、土地・建物などの管理や処分を目的とする信託は、 ︵王﹀ 不動産信託の総称のもとに受託されてはいたが、最近ブームとなった土地信託は民問活力を導入した新たな宅地供給 方式として都市再開発や公共事業のような大規模な土地利用のためにも有用であると考えられるに至って、従来の﹂ ︵2︶ 般に行われていた借地方式とは別にその活用が注目され、昭和五九年三月に土地信託第一号が締結された。こうした 土地信託は、一般に更地で受託した土地の上に受託者が資金を調達の上、建物を建設し、当該土地・建物の賃貸叢た は分譲を目的とする、いわゆる事業執行型のものである。したがって、その仕組みは、 ﹁土地を有効に活用する目的 で、土地所有者︵委託者︶が信託銀行︵受託者︶に土地を信託し、信託銀行は信託契約に従って所要資金の調達・建 物の建設・建物の賃貸および保守、テナソトの募集・管理ないしは建設した建物の分譲等を行い、その管理・運用の ︵3︶ 成果を土地所有者︵受益者︶に信託配当として交付する﹂というものである。土地信託は、賃貸型と処分型に大別で ぎるが、一般的な形式は、土地の所有権を実質的に手放さずに、土地の有効利用を図る賃貸型である。これは、受託 した土地の上に建物を建設あるいは受託した素地を宅地造成したうえ、当該土地または建物を第三者に賃貸するとい
東洋法学 四三
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 四四 う賃貸型と、賃貸する代わりに、これを売却処分する処分型である。 賃貸型の土地信託は具体的には次のようになる。 ↑り受託者︵信託銀行︶は、委託者︵土地所有者︶から土地の有効利用の相談を受け、対象土地および周辺地域の調 査、都市計画法、建築基準法などの法令上の制限の調査、賃貸事業にかかる市場調査、対象土地の最有効利用の判定 などを行い、委託者の意向を考慮して事業収支を試算した上で、基本プランを作成し、土地所有者に提示する。受託 者は、委託者と基本プランに合意を得られた段階で、土地信託の基本的な契約事項について取り決めた基本協定を土 地所有者との間で締結する。 @基本協定にもとづぎ、信託銀行︵受託者︶は、さらに詳細な事業計画、概略図面、賃貸計画、事業採算計画など を作成、最終的に合意がととのうと、委託者との間で信託契約を締結する。 の土地所有者︵委託者︶と受託者との間で、土地信託契約が締結されると、土地の所有権が受託者に移転される。 その際、信託財産保全のため、信託による所有権の移転の登記および信託の登記が行われる。 ⑭土地所有者は、土地の信託と引換えに信託受益権を取得し、信託の受益者となる。これにともない受益者には、 受託者から土地信託受益権証書が交付される。 ㈲受託者は、信託契約にもとづき、建設会社を選定のうえ、計画図面の決定、工事費の見積りなど最終調整を行 い、建設会社と工事請負契約を締結し、建物の建設を発注する。建物が完成後、受託者は建設会社より建物の引渡し を受け、建物の表示・保存登記と信託登記を行う。建物は当初の信託財産である土地と一体となり一つの信託財産
となる︵信託法一四条︶。 @受託者︵信託銀行︶は、建築資金の支払いなどに充当するため、自行︵他の信託勘定︶を含む金融機関から必要 に応じて資金を借り入れる。この借入債務も建物と同様、信託法第一四条により信託財産に帰属する。なお、金利な どの借入条件の交渉は受託者が行い、受託者と貸出人︵金融機関︶との間で金銭消費貸借契約を締結する。 ㊦受託者は、信託目的にしたがって、建物の貸主として、保守、管理を行うと同時に、テナントの募集、賃貸など の信託事務を執行する。そして入居テナントが決定した段階で、賃貸借契約を締結し、賃貸借契約期間中、テナント より賃料を収受する。受託者の締結した賃貸借契約は、信託が終了し受益者に建物が引渡された後も、そのまま継続 され、賃貸借関係は受益者と賃借人の間に移ることになる。 ㈱受託者は、信託財産︵土地・建物など︶の維持管理、賃貸料などの受入、賃貸借契約の更新、空室ができた場合 のテナソト募集など賃貸事業にともなう一切の事務処理を行うが、建物の管理など他の専門の管理会社に委託した方 が効率的な場合には、その旨をあらかじめ信託契約で定め、管理会社との間に管理契約を締結し、管理会社にその業 務の一部を委託することがでぎる。 eり受託者は、テナソトから賃貸料、共益費などを受領、この運用収入のなかから借入金利息、固定資産税などの公 租公課、保険料、建物修理費などの諸経費を支払い、信託報酬を差し引いて、借入金を返済する。また、受託老は、 信託契約で定める一定の日に決算を行い、収益金を受益者に信託配当として交付する。 図受託者は、信託期間が終了したときは信託の最終計算を行い、その報告書を作成し、受益者の承認を得た後、 東洋法学 四五
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 四六 信託財産である土地・建物などを信託受益権と引き換えに、現状有姿のまま受益者に引ぎ渡す。また併せて信託の登 記を抹消の上、受託者から受益者へ所有権の移転登記がなされる。なお、この際、テナントとの賃貸借契約を受益 者が継続することを希望する場合には、受託者に引ぎ続ぎ信託財産を管理させるために信託期間の延長が考えられ る。 処分・分譲型の土地信託の仕組みについては、eD∼@までは賃貸型の土地信託と同様である。したがって、その仕 組みは、さらに次のようになる。 ㈹受託者は、売主として購入者の募集、売買契約の締結、分譲代金の授受、土地・建物の引渡し、その他、分譲事 業にともなう一切の事務処理を行う。 ⑧受託者は、分譲代金から建物の建設代金、借入金、および分譲事業に要した販売経費などの諸経費を支払い、さ らに信託報酬を差し引いた残りを信託配当として受益者に交付する。この時点で信託は終了する。 こうした土地信託は、従来の借地方式から信託方式という新しい土地利用方式として模索されたものである。土地 信託方式は、必然的に借地法上規定されている借地権の存続保障を回避することを可能とするものでもある。この点 も、土地信託のメリットとして指摘されている。すなわち、借地法は、堅固な建物については三〇年、非堅固な建物 については二〇年というように借地権の最低存続期間を定め、また、契約更新時に更新拒絶の正当事由を必要とし、 それがない場合には、当初の契約期聞と同一の期間なお賃貸借契約が存続すると定めている︵借地法第二条・四条・ 六条︶から、土地所有者は貸地を長期間取り戻すことが判例上も困難とされており、これがまた新規借地の供給を妨げ
る一ウの大きな要臨ともなウていた。土地信託の場合には、存続期間は受託者の建設資金の借入期闇より長期であれ ぽよく、一〇年程度で足り、借地の場合よりも相対的に短期で済むこととなるが、借地法の定める存続期間を脱法す るものとの批判はある。土地信託における賃貸型のもので信託期間満了により委託者に土地が返還されることも、契 約上、期間満了時の建物賃貸借の存在を否定することができないことに変わりなく、土地所有権は建物利用権による 制限を受ける点で本質的に借地方式と変わりがない。そこで、土地信託の真のメリットとして指摘されるものは、高 齢者福祉につながること、および土地信託が複数地権者のいる土地の開発方式として過密都市の再開発への活用が期 待されること、であろう。前者については、一般に高齢者は、その所有地に自己資金でビル建設を望んでも、銀行な どの融資は極めて難しく、また、建設から入居テナントの募集、管理に至るまでを自己において行なうのは煩しさや 体力的にも困難が伴う。しかし、信託銀行という受託者が一貫して管理・運営を引き受けるので、土地所有者にとっ て不動産事業のノウハゥや知識はとくに必要なく、手間や煩しさがなくて済む。また、建設資金は信託銀行からの 借入金とすることもでぎるので、相続の際には、マイナス財産となり、相続税の支払いの際に有利な取扱いを受け る可能性がある。さらに、土地所有者に急な資金需要が生じた場合には、信託受益権を譲渡または借入金の担保とす ︵4︶ るという形式で資金化の方策もある。後者については、土地開発方式として過密都市の再開発への活用であるが、都 心部など複数の土地所有者で土地の有効活用を図る場合、土地信託を行うことによって土地所有名義が、受託者の信 託銀行に一元化されるので、権利関係の調整が容易となり、事業をスムーズに行うことがでぎる。すなわち、個別的 な狭い土地の再利用は、細長いビルの乱立によって、かえって都市の過密化をまねき、都市全体の良好な環境の破壊
東洋法学
四七信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 四八 につながる。理想的な再開発のためには、共同化にょる面的な街づくりの必要がある。しかし、市街地開発法による 再開発は、各種の法規制があり実施に困難が伴う。その点、土地信託は、前述のように権利関係の調整が容易となり、 土地の資産価値を低めることなく、これを利用に供することができるので、その本来の効用を発揮できるものと思料 される。 ︵5︶ 土地信託については、受益権担保と譲渡の問題点がある。ただし、受益権の本質について古き英国においても論争 があり、簡単に論述すると誤解をまねくおそれがある。ことに大陸法的観念により信託における受益権の本質を論究 するとここに問題が生じてくる。わが国の信託法では、受益権の譲渡性について規定が設けられていないため、さま ざまな解釈がなされてきた。受益権の性質は、一般的には受託者に対する給付講求権とされるが、実質的には信託財 産に対する債権であり、また、それを基本としつつ信託財産に対する物的な相関関係を有する物的権利をも併せ有し ︵6︶ ていると解されている。受益権の本質的内容は、信託財産の種類によって質的に異ってくるが、土地信託に関して は、信託配当を受ける権利と信託終了時に土地・建物などの信託財産の返還を受ける権利などがその実質的内容とい える。このような実質を有する土地信託の受益権は、不動産の所有権としての性質と金銭債権に類似した性質を有し ていると考えることもできる。土地信託における受益権譲渡は、譲渡人と譲受人間で受託者の承諾のもとに譲渡契約 により行われ、受託者は、これに伴い、受益者の変更について信託原簿の記載事項の変更を行うことになる。受 益権の譲受の結果、新受益者は、信託財産に属する債権、債務を承継することになる。都市再開発に伴う複数地権 者にょる土地信託の場合には、受益権は実質的には各地権者が信託した個々の土地所有権を表象しているものと考え
︵7︶ られ、その受益権の譲渡性や受益証券の有価証券化の許容の問題について立法論的検討もなされている。これは、受 益権の流通性の間題でもある。複数地権者による土地信託の土地有効利用ということになると、利用に供されている ︵8︶ 信託財産ないし受益者︵地権老yの受益権が、常に適正なる評価をもって融資㌧・換金の途が保証されるとするなら ば、その資産としての一応の霞安ともなり、各地権者が土地信託の手法を採り入れて事業を行う際の重要な判断要 素にもなろう。また、受益権は、信託財産の強制執行などに対する異議権︵信託法一六条︶、受託者の信託違反処分 の取消権︵同三一条︶、受託者に対する損失填補・財産復旧請求権︵同二七条、二九条︶を含むほか、さらに広義には 信託事務の執行に関する管理・監督的な権能︵同八条、二三条、四〇条、四七条、四九条、五五条など︶をも含むと されている。そこで、当初の受益権がさらに不特定多数の者の間に流通する場合には、これらの諸点につき検討し考 慮する必要がある。土地信託の受益権の担保については、受益者が受益権を担保として受託者より金銭の借入れをす ることは従来から、しばしば行われており、その担保権の種類も質権の形をとることが通例であったとされる。し かし、土地信託は近時における手法なので受益権の形態も従来の単なる金銭債権とは異った性質として間題をなげか けることになり、質権実行の方法としての民法第三六七条の直接取立権の行使では解決されないのではないか、とい う疑問も生じてくる。その上、信託法第九条からすると、受託者は受益者を兼ねてはならないとする問題がでてく る。金銭信託では、勿論、周知のように合同運用の制度があり、受託者が唯一受益者を兼ねるという関係にはならな いので、この信託法第九条の問題は回避されることになる。しかし、土地信託の場合、単独の受益者の件では、この 第九条は問題が提起される。信託法第九条に違反する受託者の受益権取得の法律関係については、同条は信託の法律 東洋法学 四九
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 五〇 ︵9︶ 関係としての所有者、受益者の分立という本質的な法律関係の消滅をきたすので、信託関係は消滅するという説が強 い。ところが、信託関係が消減すると信託財産は、委託者に帰属し、信託関係の存在を前提とした受益権に対する質 権も消滅することとなって質権を取得した受託者は、非常な不利益をこうむるおそれがある。こうした結果を回避す るには、受託者が受益権を取得する方法をとらないことが必要となる。したがって、受託者が受益権に対して質権を 取得している場合には、質権実行によって弁済を受けるべきであると考えられる。信託約款であらかじめ受益権に対 する質権設定に関して特約をしておくか、または質権設定差入証に委託者、受益者の同趣旨の特約を記載せしめてお くことによって受託者による弁済のための受益権取得の有効性を信託法第九条、民法第三四九条の規定にかかわら ず、有効なものと思料される。他方、土地信託契約には、受益権を質入れする場合には、受託者の承諾が必要である 旨の条項が入っており、受益権を質入するためには、受託者の承諾が必要となる。また、土地信託受益権の質入の際 には、質権者は、一般の指名債権の質入の場合に準じて、土地信託受益権証書の交付を受けることを要する︵民法第 三六三条︶。土地信託受益権の場合、借入金などの消極財産を含み、また信託財産の構成内容も流動するため、その 評価には困難を伴う。したがって、受託者︵信託銀行︶から土地信託受益権を担保に借入を行う場合には問題とな らないと思われるが、当該受託者の承諾を得て、受託者︵信託銀行︶以外の金融機関などから土地信託の受益権を担 保に借入をする場合には、事前に土地信託の仕組みや当該受益権の内容につぎ了解を得る必要はあろう。信託終了時 の法的構成については、信託財産はどのようにして受益者に交付されるか、という問題がある。信託の終了事由は、 信託法第五六条、第五九条に該当するような場合であり、信託期間の満了、信託財産たる建物が焼失した場合や事情
変更による受託者の解除権の発生︵実務上は信託契約で留保しておくのが通例とされる︶、または信託関係人が解約 に合意した場合などがある。しかしながら、土地信託では、一般に五九条により受益者の解除権を信託行為で排除し ている。この点については、五七条の解釈とともに、受託者側の不測の損害回避という予防策が当を得たものである か、検討の余地を今後に残しているといえる。信託財産の交付は、前にも触れたが、信託契約で定めた方法にょり行 われるが、原則として、積極財産と消極財産をあわせて受託者から受益者に交付されることになる。信託存続中、信 託財産に帰属した種々の法的効果は、そのまま信託財産の承継者たる帰属権利者に承継される。したがって、土地信 託終了時に賃貸中のテナントが存在すれぽ、受託者とテナソトとの賃貸借契約は受益者に引ぎ継がれ、そのテナント から受託者が受け入れている入居保証金、敷金も、受益者に引き継がることになる。火災保険契約も同じようなこと になろう。なお、賃貸借期限を信託終了時にあわせていたとしても、正当な事由のない限り契約更新の拒絶はでき ないと考えられる。債務の承継についての若干の問題は、土地信託契約を締結する際、信託期間中に完済でき得るよ うに信託期間をおくものと思料されるが、事業計画通りにいかず、信託終了時に借入債務が残ることも考えられる。 こうした場合の残存債務の処理としては、↑り債権者の同意を得て、受益者が免責的債務引受けを行う。土地信託の 信託財産に属する債務は、主に借入金債務、保証金返還債務などの金銭債務であって、債務引受けに関する民法の規 定はないが通説、判例は認めているので、債務の移転性については問題がないとされる。@信託財産を処分して、処 分代金で債務を完済する。これは、受益者に資力も資金調達力もない場合であり、受託者は信託財産を売却して、そ の資金を弁済にあてることになろう。の債務の期限にかかわらず、受託者は、信託財産に属する金銭を債務の弁済に 東洋法学 五一
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 五二 充当し、さらに不足がある場合は、受益者が弁済資金を別途用意し債務を完済する。これは、借入金融機関などの債 権者の同意が得られない場合であり、受益者が他に資金調達を行って、その資金を受託者に預託し債務を完済する ︵憩︶ というものであ為。 信託事務処理上、受託者が負った債務などの信託関係者間の問題で、受託者の補償請求権につき、信託法第三六条 第二項の規定との関係が強調され、受益者に対し、補償を請求しまたは相当の担保を供させることができる、と結び つけ、受託者の負ったこれらの債務は、信託財産に帰属するものであり、本来、受託者の負担すべぎものではないから だとする見方は、土地信託の場合にすべてあてはめてよいか、考慮されなければならないところである。また、債務 超過などの場合における債務の最終負担者につき、土地信託の実務においては、信託契約締結の際に委託者︵賛受益 ︵雛︶ 者︶が最終負担者である旨の特約をしている。これは、土地信託におけるように、委託者が同時に受益者である自益 信託については、受託者は信託財産に求償しても不足がでる場合には、委託者および受益者に対して求償することが 可能となると解しているからであろう。自益信託が第三者たる受益者の存在を想定していないという理論構成からく るものであるが、受託者が信託管理のために招いた費用および損害についての最終の負担者は委託者︵鰭受益者︶と いう印象を一般に与え、土地信託においては、受託者︵信託銀行︶がすべての点において免責されるという誤解を表 現方法によってはうむことにもなりかねない。 ︵露︶ 土地信託について、米国の土地信託を対比して考察されることもある。ただし、米国の冨呂什讐馨がわが国の土 地信託とは、その基礎となる信託法理が異なる上に、わが国の土地信託の手法が信託という名称がついているが特殊
な理論構成がなされていることに考慮する必要がある。たしかに、三〇年前頃から米国の釘&簿霧什は一時期のブー ムがあったが、既にごくかぎられた州で行われているにすぎない。米国の現代信託は、英法系にあってもまったく異 質なものとなりつつあり、実務的には統一的理解は出来得ないものとなっている。極論するならば、英米信託法とい う表現は当を得ないものとなり、米国の信託法制は独自に米国信託法というのが適当と考える。米国の信託制度は、 いまや信託の類似制度の巨大な発展の渦中にあり、信託法理の発達に伴い、受益者の保護、受託者の監督などの諸点 ︵捻︶ から幾多の技術的立法が要請されまた制定しつつある。米国の笹&け讐ω齢は、一九六〇年代以降、シカゴを中心と するイリノイ州で判例法上発展したものが、さらに活発な立法活動によって、農業および商業目的のための大規模欄 ︵M︶ 発などに広く応用された。このイリノイ型土地信託︵賞鼠oδ鮮呂蝕毎馨︶が米国における土地信託の主流とされてい ︵焉︶ る。こうした米国の土地信託で億、土地信託設定と同時に土地に関する8き鷺書賦類上の権原︵藻竃︶はもちろん 衡平法上︵89霞醸Φ鉱二①︶の権利まで受託者に移転される。この米国の土地信託制度は、複数の地権者がいる物件 の大規模開発を効率的・集約的に遂行するために適しているほか、地権者の氏名を公表せずに実行できること、また、 信託契約書︵欝蕎齢お器①営①旨︶の作成方法いかんによっては、効果的な税務上の手段となり得ることなどをメリッ トとして挙げることができるとされている。公示の信託証書︵留a9齢毎馨︶と共に締結される非公示の信託契約書 により、受益権は、信託財産の管理処分に関し、受託者を指図する権限︵8名R︶と信託の運用から生ずる収益を受 領する権利︵門蒔窪︶の両者からなり、このような指図権が受益者に留保︵葛毛R鼠鼠器鼠窪︶される以上、土地 ︵1 6︶ 信託における受託者の有する権限は、信託目的の履行のために信託財産を処分︵9魯8蕪自︶するだけにすぎない。
東洋法学
五三信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 五四 すなわち、受託者は、土地を占有、管理、収益することなく、受益者の指図によるほかは、その土地を担保、譲渡、 処分することができない。しかし、受託者は、受益者の代理人とはならないので、指示にしたがってその土地を担保 に入れたからといって、受益者の代理人になれるわけではなく、担保差入者は受託者自身である。このことはまた、 受託者が金融機関から借入をしたからといっても、受益者がその債務を負担するものでもない。したがって、信託財 産たる土地を実質的に管理ないし処分を行うのは委託者兼受益者である。イリノイ型の場合、実質的に自己におい て事業を執行するか、あるいは委託者兼受益者たる地主が、土地信託にもとづく受益権を担保に融資を受け、自己に おいて土地を造成し、建物を建築して賃貸ないし売却するのが一般的である。信託証書︵富&o泣ε馨︶にょる受託 者への権原︵葺◎の移転は、無留保、無条件であり、受託者と取引する相手方の保護が図られているといえる。受 託者の権限として通常霞霧什9号&に記載されているものは、土地の上物︵一ヨ胃○語響窪富︶を建築すること、土 地を区画分譲︵釜9三留餌&諾6 。魯&<擁留︶すること、通路、公園などを提供︵留象8冨︶すること、土地を売却、 交換し、また、その買取り︵o讐一9︶を与えること、受託者の後任叶議ω什8に、土地を引渡︵8実身︶すること、 その土地を担保に入れる ︵目象邸おの︶ こと、その土地を一$器すること、一の霧① の 8瓜自契約をすること、 8器露Φ鱒を設定することおよび権利を処分すること、その他、土地の権原を藻ぼぎ観Rとして法の認めるいかな ︵17︶ る方法によっても処分すること、などである。以上のように、信託財産たる土地の管理もしくは処分さらには事業の 経営も、外部関係では、あくまでも受託者の名義で行われるが、内部関係で実質的にこれを行うのは指図権を留保す ︵B︶ る委託者すなわち受益者ということになる。これらの問題につぎ研究を今後進めることにしたい。
((
21
)) ︵3︶ 水島廣雄﹁信託法史論﹂一六頁、二七七頁。 拙稿﹁土地信託の法理と実際﹂東洋・創立二〇周年記念号二三頁以下。わが国の土地信託第一号は、β本パイプ製造と 住友信託銀行間の東京都港区所在地に関する信託期間は一〇年と設定されているものである。 土地信託に関する著書、論文、実務解説書等は、まことに数多く刊行されており、全てをここに記載することはでぎない が、参照したものの主なもののみを以下に掲載しておぎたい。海原文雄﹁アメリカにおける土地信託︵1×2と信託復刊七 七号三頁以下・七八号一四頁以下、同﹁ビジネス・トラスト﹂︵アメリカ商事法ハンドブック︶三五八頁以下、同﹁アリゾナ 型土地分譲信託﹂九大法政研究四一巻四号二九頁以下、同﹁土地信託の受益権担保と統一商法典﹂ ︵英米法の諸相︶四五九 頁以下、同、﹁ビジネス・トラストと土地信託﹂信託論叢一三〇頁以下、同、﹁日米土地信託法の対比﹂︵民法・信託法理論の展 開︶四三七頁以下。井上徹﹁土地信託にかかる信託銀行業務遂行上の諸問題﹂信託法研究第二号三頁以下。本田純一﹁土 地信託と借地制度﹂︵民法・信託法理論の展開︶四一五頁以下。稲本洋之助﹁土地信託制度﹂ジュリスト︿増刊﹀総合特集二 三七頁、同﹁借地制度の再検討﹂一〇七頁以下、同﹁信託方式による土地の流動化に関する基礎研究﹂NIRA一八頁、同 ﹁借地制度と土地信託︵上×下と不動産研究のしおり八六号、八七号、同﹁土地信託﹂と﹁借地方式﹂新都市開発二二巻一 号臨時増刊﹁土地信託﹂六二頁。田中実﹁土地信託ーその法的仕組みと問題点﹂ジュリスト八二七号六頁、同﹁土地信託の 法的検討と問題点﹂法律時報五八巻二号五三頁。吉田光碩﹁土地信託について﹂法律時報五七巻一〇号一四五頁。式部透﹁国 有地への土地信託制度の導入について﹂法律時報五八巻六号九二頁。桜井俊司﹁土地信託事例﹂ジュリスト八二七号一九頁。 中川潤﹁土地信託の概要﹂法律実務研究創刊号三二頁以下。荻野健司・田中実﹁土地信託方式﹂法律時報五八巻二号四六頁、 五二頁。新井誠ヨi胃ッパにおける土地信託の実情﹂法律時報五八巻二号八二頁。拙稿﹁信託法理の活罵にょる都市生活 環境の保全﹂東洋法学三〇巻一・二合併号一四一頁以下。新井誠﹁土地信託の意義と法的構成﹂ジュリスト八九一号五二頁 以下。特集として、﹁土地信託と税金対策のすべて﹂ビジネスガイド一九八五年一二月号。﹁特集土地信託工﹂信託一四六号 二五頁以下。﹁特集土地信託豆﹂信託一四七頁以下。実務書として、﹁﹁土地信託﹂の実務﹂住友信託銀行編。﹁土地信託﹂三井 信託銀行土地信託研究会編。﹁わかりやすい土地信託の活用法﹂三菱信託銀行・住友信託銀行・β刊工業新聞社共編。﹁土地信東洋法学 五五
︵4︶ ( (5) ) ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵10︶ ( 11 ) ︵1 2︶ 信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 五六 託のはなし﹂大和銀行土地信託研究会著。﹁土地信託ガイダンス﹂中央信託銀行土地信託研究会編、等参照。 本田純一﹁土地信託と借地制度﹂︵民法・信託法理論の展開︶・加藤一郎・水本浩編・頭一五頁以下。吉田光碩﹁土地信託 にっいて﹂法律時報五七巻一〇号一四八頁、同﹁土地信託の運用と法的間題点﹂法律のひろぽ三九巻六号四〇頁。 水島廣雄﹁信託法史論﹂一八六頁以下。一五世紀に衡平法裁判所が認めた受益権の本質に関する波紋は、以後、論争を窪 きおこした。衡平法裁判所は、自己が保護したO①。 り葺5器霧Φの権利、すなわち、受益権を以て物権的︵ぎ奉簿︶なるもの とみたか、または、債権的︵鰐需お○欝導︶なるものとみたか、に関して、メイトランド教授︵置鉱鎗き9目繋一蔓.お8も. も。ρo。一︶とホームズ判事︵寓○ぎβ団貰馨闘pα9房び鍔ε禅ざOO庁9aい罐巴勺巷R¢竈器も・嵩︶との争いがあった。衡平法 裁判所は、受益権を債権的なものとみず、物権的なものと解した。そして、受益権をして、物権たらしめるため、﹁衡平法は普 通法に従う﹂︵器2欝霧8鼠幹瑛一品Φ導i副αq鉱昌まぎ要の僅訂衝ヌ︶なる原則に基づき、普通法上の土地物権制度を簿a巴 として、箒のを無体物︵§貯8き段窪=算韻鋤8ぽ9ぎ簿簿R芭欝亀讐oΦ9冨a︶とみて、受益者はその上に物権 を有するものと解した︵鷺鋒寅鼠葛繋一な︸お霧●やGo一︶。 四宮和夫﹁信託法﹂一四九頁。 前田庸﹁シンポジウム﹁信託法改正問題﹂受益権﹂信託法研究第一〇号五八頁以下。 受益権の流動化という観点から次の論文がある。新井誠﹁土地信託の意義ど法的構成﹂ジュリスト八九一号五七頁。 ・四宮和夫﹁信託の研究し二〇三頁、二〇六頁。 真々田隆﹁土地信託の法務﹂信託一四六号二五頁以下。田中実﹁土地信託の法的検討と問題点﹂法律時報五八巻二号、同 ﹁土地信託ー⋮その法的仕組みと問題点﹂ジュリスト八二七号。信託協会﹁信託実務講座六﹂。 井上徹﹁土地信託にかかる信託銀行業務遂行上の諸問題﹂信託研究第十一号一四頁以下は、実務上の立場から詳細な論究 がなされている。 海原文雄﹁臼米土地信託法の対比﹂︵民法・信託法理論の展開所収︶、同﹁アメリカにおける土地信託︵王×2と信託復刊 七七号三頁以下、七八号一四頁以下。同﹁アリゾナ型土地分譲信託﹂九大法政研究四一巻四号二九頁以下、同﹁土地信託の
受益権担保と統一商法典﹂英米法の諸相四五九頁以下、同﹁ビジネス・トラストと土地信託﹂信託論叢二二〇頁以下、等に 海原教授の詳細な御研究が発表されている。 ︵13︶ 水島廣雄﹁信託法史論﹂二五八頁以下。拙稿﹁米国における信託法の発展について﹂比較法第二三号五二頁以下。 ︵憩︶ 鍔溶窪oρU効疑血↓毎馨ω︸HP一∼一ω’ ︵15︶ 海原文雄前掲、﹁日米土地信託法の対比﹂四三八頁以下。 ︵旭︶ 海原前掲論文、四四四頁。 ︵η︶ 国生一彦﹁アメリカ不動産取引法﹂三一一頁。 ︵B︶ 海原前掲論文、四四四頁。穆q導20 00g①い禮鮎︾魯g房o隔瀬鴇詩芭ぎ審巖曾ωd&角霞汐oδい簿&↓建ω貫o。2 一ピ ゼ●労Φく.⑩QQO o● 全般に、鵠・因窪oΦuい磐α↓籍ω鼠歴一ど○窯,中︾︵お謡yび弩α↓盗馨勺蚕9一8︸H嵩鯉ω●O窪︵お謡yρ閃○α奇R踏 ↓ど馨ω餌鼠浮霧富3舗鳥‘㈱鷲8’参照。米国の土地信託は、各州法との関連もあり、かならずしも、統一的な見解や考察 は当を得ないが、今後に研究の余地が大ぎく残ったので、早晩、あらためて勉強をしなおすことにしたい。 二 土地有効利用に係る法政策と国・公有地信託 土地信託について論究するにしても、その必要性に関する社会的背景と土地に関する法制度の概要について触れな ければならない。昭和五〇年代以降の土地政策の多角的分析をしてみると、主に供給を増加させることにより地価の 安定を図ることを目指し、規制の緩和や国有地の払い下げなどの対策がとられてぎた。しかし、近時における地価の ︵1︶ 高騰で、土地を市場の需給にまかせておいてよいのか、公共の福祉優先の視点に立って規制をもっと強化すべきでは
東洋法学
五七信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 五八 ないかという意見も多い。短期譲渡所得税とか国土利用計画法の強化は進行しているが、供給面の対策は遅れてい る。都市計画法や東京二三区内の建築基準法の見直しが必要である。税制面では、首都圏の市街化区域には二万八千 ヘクタールの宅地並み課税対象農地があり、こうした農地の課税強化を積極的にという議論もあるが、都民への生鮮 野菜の供給や都市環境保全についての緑の供給を負っているなど間題も残る。もちろん農業経営の実態で判断し、厳 正な審査などで疑似農地は農地として認めない規制がぜひ必要である。農地にのみ標的をしぼることに問題もあり、 短絡的にこれを全部宅地にしたら、これだけの住宅が建つとの結論を急ぐものも多いが、厳正な審査を経て、意思確 認をし、緑地、公園など公共空間としての活用を重点的に考え、当面住宅を考慮すべきではない。これには、シヴィ ック・トラストなどを今後、配慮すべきである。わが国の土地に対する考え方は、更地の評価が高いが、欧米では土 地と建物は一体の不動産という観念があり、わが国のように別個のものとは考えない。欧州では、利用するために所 有権が付与されているのであるから、利用されていない土地は公共の手に還元されるべきという思考がある。これが ︵2︶ 都市計画制度を支える根本理念であるといえる。英国などでは、土地は従来、国王のものという観念があったから再 開発間題については、都市環境の機能を回復するとか、修復保全するという考えも徹底している。先進国共通の土地 対策は、土地の保有コストを高めて、非効率に利用している土地を放出させる一方、譲渡益を軽くして売りやすく する、というものである。本来、東京の地価が高いのは、土地を有効に使っていないからであり、欧米先進国では保 有税が高いのは当り前となっている。それでも不満が少ないのは、税収を地元の町並み整備などに還元しているため である。米国では、住宅とすべきところに農地があっても、税法上は農地として特別扱いせず、他の地目と同一基準
で重い課税がなされる.再開発でも、地方自治体に先買い権がある、わが国でも都市計画法の市街地再開発促進区域 とか、土地区画整理促進区域をかけると、区域内では建築が原則として禁止され、必要があれば先買いもできる。ま ︵3︶ た、公有地拡大法で屈け出を義務づけ、公共が先買いできるという仕組みもある。土地政策問題の論点として私権制 限が挙げられており、新行革審土地対策検討委員会や土地問題協議会などの地価対策論議も進んでいるが、いずれも 具体性を欠く問題提起となっている。東京の地価対策について触れた第四次全国総合開発計画では、 ﹁土地所有者の ︵4︶ 保有、処分、利用がどのような制限を受けるべきかなど、国民的コソセンサスをはかる必要がある﹂と述べている。 しかし、かりに私権制限を考慮するとすれば、どのような具体的な対策がありうるかである。たとえぽ、民間活力導 入による規制緩和を考えた場合、それは当面、土地の利用規制、取引︵処分権︶の制限、強制収用の三種類に分けて考 えることもできる。勿論、現行の土地法制度の中にも、これら私権の制限を前提としたものがいくつかあることはあ る。利用規制については、都市計画法が﹁適正な制限のもとに土地の合理的利用がはかられるべき﹂︵第二条︶としてお ︵5︶ り、それにもとづく線引ぎや建築基準法で定めた建ぺい率や容積率の規定は、土地の利用目的や形態に一定の制限を 加えた代表的な例である。また住居専用地域には原則として住宅しか建築できないと定められているのも利用規制で あるが、国はこれまで民活の活用を旗印にこれらの規制を緩和してぎた経緯がある。取引規制については、国土利用 計画法が、土地利用計画として規制区域を指定し︵一二条︶、土地取引規制の手法として許可制を定め、都道府県知事 が指定する規制区域内での土地取引には知事の許可を要し︵一四条一項︶、許可のない土地売買は無効とされる、とし ている︵一四条三項︶。許可の基準としては同法︵一六条一項︶の算定方式による相当な価額が適正でなければならな 東洋法 学 五九
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 六〇 い︵七条、八条参照︶。同法︵二三条二項一号︶は、取引規制の手法として、許可制と並んで一定規模︵市街化区域 二、○○○平方メートル、それ以外の都市計画区域五、○○○平方メートル、その他の区域一万平方メートル︶以上の 土地取引について届出勧告制を定めている。ただし許可制の場合と異なり適用除外が大幅に認められている︵二三条 参照︶。届出に係る価格や利用目的が著しく適正を欠く場合︵一六条、二四条には︶、知事は勧告、さらに勧告内容の公 表ができる︵二七条︶。さらに同法は、第一〇八回通常国会︵昭和六二年︶で改正がなされ、これまで市街化区域二千 平方メートル以上、調整区域五千平方メートル以上の取引だけに価格、利用目的の届出義務があったのを改め、地価 が急上昇、あるいはその恐れがある区域を知事が監視区域に指定し、一定の面積︵例えば五百平方メートル以上︶の 取引についても届出を義務づけることができるようにした。東京都は六二年一二月から独自の条例で五百平方メート ル以上に強化、実施しているが、法改正にょり神奈川県が横浜、川崎、相模原市で実施する段取りである。同法には、 知事が指定し、土地取引の許可制度を実施する﹁規制区域﹂、いわゆる地価ストップ令の規定がある。しかし、私権 保護、地域の特定などに問題があり、これまで一度も発動されたことがない。強制収用についてほ土地収用法が﹁公 共の利益となる事業﹂のためには補償と見返りに土地の収用、使用ができる︵二条︶としている。現在道路用地確保 のためにこの手法がとられるケースがある。これを利用し市街化区域内農地を強制収用して国公有地化し、土地信託 の手法で住宅を建てるといった強権を発動すれば、かなりの住宅が供給出来るはずだという議論︵臼経連︶がある。 しかし、補償費などの財源をどうするのかの問題が残る。以上のような諸点が考えられるが、私権制度の是非を抽象 的に議論するより、既存の諸制度をどうすれば有効に活用でぎるかを、検討する方が建設的であろう。
つぎに、国公有地の再開発利用につぎ、関心が高まっているので、国・公有地信託の素描を試みることにする。 昭和六一年五月の通常国会で国有財産法および地方自治法の一部が改正され、国や地方自治体にも土地信託活用の 途が開かれた。これにょり、新たな財政負担を生ずることなく公共事業の推進が可能となり、さらには売却に伴う周 辺地価の高騰の回避、都市再開発や地域開発への活用といった観点からの応用が期待されている。そこで、まず国有 地の土地信託について、その概要を触れてみたい。 信託の対象財産は、普通財産である土地︵その土地の定着物を含む︶に限られている︵国有財産法第一八条、第二 〇条、第二八条の二︶。信託の受益者については、国以外の第三者を受益者とする信託︵他益信託︶は設定できない ︵国有財産法第二八条の二︶。なお、信託による受益権は新たに国有財産に含められることになる︵国有財産法第二 条︶。信託の目的については、現行法の制限を逸脱するような無償貸付け、交換または譲与することを目的とした信託 はできないことになっている︵国有財産法第二八条の二︶。信託の期間については、二〇年を超えることはできないこ とになっている。なお、同期間を限度として更新は可能とされている︵国有財産法第二八条の三︶。このように、信託 期間の上限が二〇年とされたのは、次のことなどを考慮したものと思料される。①土地信託が一種の事業としての性 格を有しており、一定区間を区切って内容を見直す必要があること。②国の行政需要等への柔軟な対応の妨げとなる ような長期の契約は望ましくないことなどである。信託設定上の留意点については、次のことなどに留意する必要が ある。①国有地を信託することにより、国の享受する利益が当該地の貸付けまたは処分により享受する利益を下回る ことが確実と見込まれる場合には、当該国有地の信託はできないこととされている︵国有財産法第二八条の二︶。②国
東洋法学 六一
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 六二 の公用・公共用施設は、優先度などを考慮して、総合的に調整のうえ国が設置すべき性格のものとされている。した がって、土地信託を活用して取得する場合においても予算措置、特別立法等の手当を講ずるべぎとなっている︵国有 財産中央審議会答申︶。信託にあたっての審議.議決について億、国有地を信託しようとする場合には、各省庁の長は、 大蔵大臣に協議しなければならない︵国有財産法第一四条︶。また、あらかじめ国有財産中央審議会または地方審議会 に諮問し、信託の目的・信託の受託者の選定方法、信託の収支見積り、信託の受託者の借入金の限度額等について、 その審議を経ることとなっている。さらに、各省庁の長は、土地を信託しようとする場合には、事前に会計検査院工 通知することとなっている︵国有財産法第二八条の二︶。なお、信託しようとする土地が外国に存する場合または、借 入限度額が百億円を超えると見込まれる場合は中央審議会に、その他の場合は、信託しようとする土地の存する地域 を管轄する財務局に置かれた地方審議会に諮ることになっている︵国有財産法施行令第一六条の三︶。受託者の選定方 法については、公正性、経済性を確保する観点から、競争契約を原則としている。ただし、次のような一定の用件に 該当する場合などは、随意契約も認められる︵会計法第二九条の三、予算決算および会計令第九九条、予算決算および 会計令臨時特例第五条︶。①信託方式による市街地再開発事業の施行者に対し、施行区域内の土地を信託する場合など、 公共用、公周または公益事業の周に供するため必要な物件を直接に事業者に対し信託する場合。②単独利用困難な国 有地を当該国有地の隣接地の受託者に対し信託する場合。③借地権の受託者に対し国が当該底地を信託する場合。土 地信託勘定のなかで受託者の行う契約については、信託の受託者が、信託財産に係る売買、賃貸借、請負その他の契 約を締結する場合においては、国が売買、賃貸借、請負その他の契約を締結する場合に準じて行うこととされている
︵国有財産法施行令第一六条の二︶。報告と監査については、各省庁の長は、信託の受託者に対し、信託事務の処理状 況に関する資料や報告を求め、必要に応じ実地監査を行うことができる︵国有財産法第二八条の五、国有財産施行令 第一六条の六︶。信託終了時の債務負担については、信託に際しての国有財産審議会の審議などにより、‘信託期間終了 時に債務が残存する事態に至ることのないような土地信託のみが実施されることになると思われる。それにもかかわ らず、信託期間終了時に債務が残存する場合には次のような対応が想定される。①国が予算措置を講じ、債務を弁済 する。②国の指示の下に受託者が信託財産を売却して債務を弁済する。 次に公有地信託の概要について触れておきたい。 公有地信託の対象財産は、普通財産である土地︵その土地の定着物を含む︶に限られている︵地方自治法第二三八 条の四、第二三八条の五︶。したがって、行政財産について用途廃止をし、普通財産にしたうえで信託することになる ︵地方自治法第二三八条の二︶。信託の受益権については公有地の信託でも、国有地と同様当該地方公共団体以外の第 三者を受益者とする他益信託は設定できないことになっている︵地方自治法第二三八条の五︶。なお、信託による受益 権は新たに公有財産に含められることになる︵地方自治法第二三八条︶。公有地の信託の目的については、信託された 土地に建物を建設し、または信託された土地を造成し、当該土地︵その定着物を含む︶の管理または処分を行うことと されている︵地方自治法施行令第一六九条の三︶。したがって、建物の建設や土地の造成などを行わない単なる管理や 処分を困的とする信託はでぎないことになる。信託期間については、国有地の場合と異なり法令上の制限はない。し たがって案件に即して適宜定めることができる。信託設定上の留意点については、次のことなどに留意する必要があ
東洋法学
﹃ 六三
信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 六四 る。①財産管理および財政運営などの面から、信託導入のメリット、デメリットにつき十分な検討を行う必要がある。 特に信託期間終了後、権利関係が複雑なまま信託財産を引き継ぐことなどにょり財産管理面での支障を生ずることの ないように配慮することが要請されている︵自治事務次官通達 自治行第六一号︶。②普通地方公共団体の公用・公共 用施設の建設などは、本来、普通地方公共団体の責任と負担において行われるべきもので、これを主たる目的とする 信託は行わないこととされている。なお、信託財産である建物の一部を、当該普通地方公共団体が取得または賃借す るなどの場合においては、信託財産の合理的かつ健全な運用の確保および普通地方公共団体の財政状況の明確化の観 点から、適正な対価を予算に計上のうえ、信託の受託者に対して支払うこととされている︵自治事務次官通達 自治行 第六一号︶。なお、﹁主たる目的﹂とは、当該信託の目的の主要な部分が公用または公共用施設の建設にょって占められ ている場合を指すものであるが、具体的には、個々の信託により建設される信託財産である建物の使用目的、床面積 の割合などを総合的に勘案して判断される。③地元関係者と事前に十分な調整を行い、地域にふさわしい良好な事業 内容とするように努めることとなっている︵自治事務次官通達 自治行第六一号︶。信託にあたっての審議・議決につい ては、公有地を信託しようとする場合には、当該普通地方公共団体の議会の議決を要する︵地方自治法第九六条、第二 三七条︶。なお、地方公営企業の土地を信託しようとする場合には議会の議決を要しないが、その適正な見積価額が政 令で定める基準にしたがい、条令で定める金額以上の普通財産である土地の信託については、予算において定める必要 があるものとされている︵地方公営企業法第三三条、第四〇条、地方公営企業施行令第二六条の三︶。受託者の選定方法 については、信託の受託者の選定にあたっては、極力公正さが確保されるような方法を採用して行うこととされてい
る︵自治事務次官通達 自治行第六一号︶。すなわち、地方自治法および同法施行令の定めるところにより、具体的な 事案に応じ、入札のほかコンペ方式や見積り合わせなどが考えられる。土地信託勘定のなかで、受託者の行う契約に ついては、信託の受託者が信託財産の管理または処分にあたって行う各種の契約についても、地方自治法に定める地 方公共団体の契約方式に準じて行う旨の条項を信託契約に定めるよう努力することとされている︵自治事務次官通達 自治行第六一号︶。報告と監査については、監査委員は、必要があると認めるとぎ、または、地方公共団体の長の要 求があるときは、信託の受託者を監査することができる︵地方自治法第一九九条、地方自治法施行令第一四〇条の 三︶。また、信託の受託者に対してその状況を調査し、または報告を徴することがでぎる︵地方自治法第二繍二条、地 方自治法施行令第一五二条︶。なお、地方公共団体の長は、信託契約に定める計算期ごとに、事業の計画および実績に 関する資料を作成し、次の議会に提出しなければならない︵地方自治法第二四三条の三、地方自治施行令第一七三 条︶。なお、信託の計算期は原則として年一回以上とされている︵自治事務次官通達 自治行第六一号︶。信託終了時の 債務負担については、信託に際しての議会の審議などにより、公正で秩序ある運営が確保される土地信託のみが実施 されることになると思われる。それにもかかわらず、信託期間終了時に債務が残存する場合は、国有地と同様の対応 ︵6︶ が想定される。以上のように国公有地の土地信託制度導入のための国有財産法および地方自治法改正の要点に触れた が、民間活力活用の一環として、土地信託方式による公有地再開発事業の第一号が熊本県と信託銀行との間で昭和六 一年六月末に合意された。こうした国公有地へ土地信託を導入することのメリットとして一般的に次のようなものが あげられている。信託は、土地の売買と異なり地価が顕在化しないため、近隣地価の高騰を招くことなく民間活力の
東洋法学
六五信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 六六 活用によって土地の有効活用を図ることがでぎるとし、従来の自ら管理して利用する方法とか、第三セクターや民間 に払い下げる方法と異なる制度であって、国民の共通財産たる国公有地の所有権を留保しつつ、土地の有効活用をは かることが可能となるとする。また、建物・施設などの建設に必要な資金の調達は受託者たる信託銀行が行なうので、 所要の財源手当は不要とし、土地・建物の用途や管理・運営などについて信託契約に定めることにより、委託者たる 国および地方公共団体の意思を十分に反映させることがでぎるとする。さらに、賃貸型の場合、信託期間終了時には 現状有姿のまま信託財産が返還されるので、結果的に財政負担なしに建物・施設などを取得でぎることとなる、など の点を指摘している︵各種答申、提言の要旨から︶。これらの趣旨は一応理解されるが、東京都が新宿副都心の一角に 所有する公有地にビル建設を信託したとしても、各自治体がこぞってその適用へはしる必要はない。地方自治法が改 正され土地信託が可能になったからといって、十分な事前評価もなさず机上の計算や一部の有識者の意見のみで自 治体行政の諸場面に適用することには、もう少し時間を費し慎重な検討がなされるべぎであろう。それは、信託法理 論をどの程度、行政当局者が理解しているかという問題も含め、たとえば、都市再開発へ信託制度を活用するとい っても、その法律的手当はかならずしも十分とはいいがたく、一部の法改正ではなく関連法の整備も、よりなさなく てはならない。また、受託者たる信託銀行は資金力に優れているかもしれないが、大事業を完遂するだけの企画力、 技術力、執行力の蓄積が完全にあるかどうか、ことに私企業の私有地ではなく国公有地を対象とする場合、国民や市 民のかけがえのない共有財産であり、これに対応でぎる大型のプロジェクト、シソクタソクに相当する言葉をもって その任に当たることが当然であるので、だれも確信はもてないはずである。たしかに、土地信託の手法は、青写真の
上では短期的には地価の顕在化がなく財政資金の投入も不要であることのメリットは、前にも触れたように関係者の 提言においてくりかえされている。しかし、わが国では、大規模再開発のような巨大事業の作業実績は信託銀行とい う受託者にはなく、また、それに関する行政側のアセスメソトが不十分と思える。具体的適用過程において生ずるで ︵7︶ あろう公共責任、つまり事務の民間委託で常に問題となるような行政責任の確保と、行政効果へのアセスメントに関 する研究をより蓄積していく必要があろう。公有地への土地信託の導入に当っては、特別立法も考えられたわけであ るが、地方自治法の一部改正という手段がとられた。これは、公有地信託をあくまでも地方公共団体の財産管理の一 形態であると捉えたからである。したがって、土地信託は他の財産管理手法とまったく同列の一選択肢であるという 認識が必要である。まして土地信託という手法が不分明な部分の多いものであれば、十分に慎重な検討が必要である ことは言うをまたない。公有地の土地信託については、前述のとおりすでに成約した例もあり、民間活力活用に資す る面もあって、今後とも増加が予想されるが、公有地信託においては、信託事業としての収益性と公共的事業遂行上 の公共性の調和をいかにはかるかが課題となろう。たとえば、文化施設、老人ホームなど、福祉公共的施設の建設・ 運営となると収益面ではおのずと低廉とならざるをえない。この場合、信託事業として成立させるためには、収益面 でのなんらかの助成などが期待される。公有地を信託に付するに当っては、あくまでもその有効活用の一手段である との認識のもとに、他の運用手法との比較検討を十分に行陵メリヅト・デメリットを確認したうえで、地方公共団 ︵8︶ 体が行う事業として適当かどうかという点も含めて慎重に判断することが望まれる。 土地信託と土地行政に関しては、今後の研究課題は、開発利益の吸収問題など、とどまるところがない現状である
東洋法学
六七信託法理論の展開による土地信託と土地有効利用 が、高地価下の土地利用促進のため借地や地主の事業委託など様々な手法を活用する必要があり、 理などに活用できないかをより研究していきたい。 六八 土地信託も区画整 ︵1︶ 土地の﹁投機的﹂取引が、地価高騰の主因とされている。土地への投資や投機は、それによって利益や収益が将来得られ ることを期待するために起こる。従って、土地の﹁予想収益率﹂が重要な役割を果たしているといえる。土地の収益率は、 レント︵地代︶Pを地価Pで割った比率であるが、これは実は予想される収益の一部でしかないとされる。このレント所得 にょる﹁インカム・ゲイン︵利子・配当収入︶﹂に加えて、予想される地価の上昇分、 つまり﹁キャピタル・ゲイン︵値上 がり益との予想値△Pも収益のなかに含める必要があるとされる。つまり、予想収益率は二つのゲインの率の和となる。 ﹁\唱+レ勺\勺し。通常は、この予想収益率が市場利子率に等しくなるまで、土地への投資が進むため、地価の安定が予測 されるところでは、インカム・ゲインの率が高く、利子率に近くなる一方、地価上昇率が高いと期待されるところでは、イ ンカム・ゲインの率が低くなる傾向をもっている︵宮尾尊弘﹁土地間題の経済分析﹂︶。米国の不動産投資のインカム・ゲイン の率が一〇パーセソト程度もあるのに対して、東京都心では一パーセソトにもならないという理由は、投機的に東京の地価 がつり上げられているというよりも、キャピタル・ゲインの予想値に差があるからだと考えることもでぎよう。それでは、 土地の利用を伴わない投機的取引はどうかといえば、投機家の予想が実際の地価の動ぎから離れていってしまうような、非 合理なものである場合を除ぎ、土地の予想収益率が将来のレントや地価の動向を適切に反映している限り、土地がただちに 利用されなくても、そのような土地取引を﹁仮需﹂として問題視する必要はない。土地がただちに利胴される﹁実需﹂取引 のみが望ましいとする理由はないとされる。特に、耐久的なビルや住宅の建設は、その開発のタイミソグが重要である。将 来の有効な高層利用を予想した者が、当面の非効率な低層利用しか念頭にない所有者からより高値で土地を購入すること は、社会的にみても望ましいといえよう。土地の投機的な取引は、将来の予想に大ぎく依存していて、現在の土地利用の状 態をもたらしているようにみえる場合が多いが、土地を取引する者の将来予想が正しい場合には、高い地価が問題だという