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処分性に係る仕組み解釈に関する一考察 : 土地区画整理事業計画決定事件を中心に (【退職記念号】 佐藤 俊一 教授 三沢 元次 教授 盛岡 一夫 教授) 利用統計を見る

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処分性に係る仕組み解釈に関する一考察 : 土地区

画整理事業計画決定事件を中心に (【退職記念号】

佐藤 俊一 教授 三沢 元次 教授 盛岡 一夫 教授)

著者名(日)

高木 英行

雑誌名

東洋法学

53

3

ページ

61-85

発行年

2010-03-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000733/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

︽論  説︾

事件を中心に

処分性に係る仕組み解釈に関する一考察H

第一章 はじめに

土地区画整理事業計画決定

高 木

英 行

 近年最高裁は、処分性︵行訴法三条二項︶を拡張的に解釈し、従来適法と認めてこなかった抗告訴訟の提起を適 法と認めてきている。とくに土地区画整理事業計画決定事件︵最判平成二〇年九月一〇日H民集六二巻八号二〇二九 頁︶︵以下﹁土地区画整理法事件﹂とする︶で最高裁は、いわゆる﹁青写真﹂判決︵最判昭和四一年二月壬二日”民集 二〇巻二号二七一頁︶を変更し、法律上は行政計画とされる土地区画整理事業計画決定の処分性を認めることとなっ た。本稿は直接には本判決を考察するのであるが、しかし通常の判例評釈のように、本判決が打ち出した解釈のあ り方そのものを全般的に検討するのではない。むしろ本稿は、本判決で用いられている、処分性に係る仕組み解釈 と呼ばれる解釈手法に焦点を当てつつ、かつ、この解釈手法の背景となっている﹁認識枠組み﹂とは何かという問 題意識に立脚した上で、関連する学説の議論を手掛かりとしながら、本判決のもつ理論的意義を考察する。それと 61

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いうのも、このような考察を通じて、本判決に内在している、︽行政救済法︾にとどまらない︽行政法総論︾にも        ︵1︶ 関わりうる理論的含意が浮かび上がるのではないかと考えるからである。  本稿は次の順序で考察する。まず第二章では、土地区画整理法事件の事実の概要と判決の内容を紹介する。つい で第三章では、多数意見や各裁判官の意見について、それら解釈の筋道を検討していく。さらに第四章では、これ ら解釈の筋道の背景にある認識枠組みについて、代表的な学説や先例の議論を手掛かりに考察していく。そして第 五章では本稿の考察結果を受け今後の課題を提示する。 第二章 判決の概要  被告︵浜松市、被控訴人、被上告人︶は、遠州鉄道西鹿島線の連続立体交差事業の一環として、上島駅高架化及び 同駅周辺公共施設の整備改善を図るために土地区画整理事業︵以下﹁本件事業﹂とする︶を計画し、土地区画整理法 ︵平成一七年法改正前︶に基づき、静岡県知事に対し事業計画上の設計の概要について認可を申請した。被告はこの 認可を受け、本件事業に係る事業計画決定︵以下本件計画決定︶をし、公告した。原告︵控訴人、上告人︶らは本件 事業施行地区内の土地所有者であるところ、本件事業が公共施設の整備改善及び宅地の利用増進という法所定の事 業目的を欠くとして、本件計画決定の取消訴訟を提起した。  一・二審とも青写真判決を踏襲し訴えを不適法却下。すなわち土地区画整理事業計画は基礎的事項を一般的・抽 象的に決定する青写真にすぎず、これにより利害関係者の権利変動が具体的に確定するわけではない。また事業計 画の公告により生ずる建築制限等は、法が特に付与した公告に伴う付随的効果にとどまり、事業計画の決定・公告 62

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の効果として発生する権利制限とはいえない。ゆえに事業計画が公告されても抗告訴訟の対象となる行政処分に当 たらない。しかし最高裁は以下の理由で原審の判断を破棄差し戻した。  ①土地区画整理法によると、市町村は土地区画整理事業を施行しようとする場合に事業計画を定めねばならず、 またこの計画が定められた場合には、市町村長は遅滞なく事業施行期間や施行地区等を公告しなければならない。 この公告がなされると、施行地区内で事業施行の障害となるおそれがある建築物の新築や増築等を行おうとする者 は、都道府県知事の許可を受けなければない等の制限が生じる。  ②また事業計画の一環として定められる設計の概要は、設計説明書及び設計図を通じその詳細が定められること から、③事業計画が決定されると、その事業によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかあ る程度具体的に予測することが可能になる。④さらに事業計画が決定されると、特段の事情のない限りその計画ど おり事業が進められ、その後の手続として施行地区内の宅地につき換地処分が当然に行われることになる。⑤建築 制限等は、このような事業計画決定に基づく事業施行に障害が生じないよう法的強制力をもって設けられており、 しかも施行地区内の宅地所有者等は換地処分の公告がある日までその制限を課され続ける。  ⑥そうすると施行地区内の宅地所有者等は、事業計画決定がなされることにより、土地区画整理事業の手続に 従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものといえ、その意味で法的地位に直接的な影響を生ずるものとい うべきであり、事業計画決定に伴う法的効果が一般的・抽象的なものにすぎないということはできない。  ⑦なお換地処分を受けた宅地所有者等は取消訴訟を提起しうるが、その処分がされた段階では実際すでに工事等 も進捗し、換地計画も具体的に定められている。それゆえこの段階で事業計画の違法を理由に換地処分を取り消し た場合には、事業全体に著しい混乱がもたらされうる。このような場合、たとえ宅地所有者等の主張が裁判所によ 63

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り認められたとしても、事情判決︵行訴法三一条一項︶が下される相当な可能性がある。したがって事業計画決定 に関し実効的な権利救済を図るためには、その決定の取消訴訟を認めることに合理性がある。  ⑧以上から土地区画整理事業計画決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであっ て、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものといえ、実効的な権利救済を図るという観点から見て も、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって本件計画決定には処分性が認められ る。 第三章 解釈の筋道  本稿の目的は、本判決の仕組み解釈の﹁認識枠組み﹂を考察することであって、この解釈そのものを考察するこ とにはない。しかし前者の認識枠組みに接近するためには、後者の解釈そのものの分析結果を踏まえる必要があろ う。そこで本章はこのような観点から、本判決の多数意見や各意見の解釈の筋道を分析したい。  第一節 多数意見  多数意見が計画決定の処分性を認める根拠は、﹁法的効果﹂と﹁実効的な権利救済﹂とで大きく分けられる ︵⑧︶。前者は伝統的な処分性公式のうちの﹁法的効果﹂要件の当てはめを意識した根拠であり、後者は土地区画整 理事業計画をめぐる争訟手続のあり方を意識した根拠である。  前者の根拠に直接に応答している⑥では、計画施行地区内の宅地所有者等が換地処分を受けるべき地位に立たさ 64

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れることを理由に法的地位の変動が認められ、それゆえ法的効果が認められるとする。またこの地位に立たされる こととなる具体的な理由として、③計画決定に伴う権利変動の具体的な予測可能性と、④計画決定がされると後に       ︵2V         ︵3︶ なって換地処分もされるという高度の蓋然性とが挙げられている。いわばこれら”事実的効果”の議論を基礎に、 ⑥の﹁法的効果﹂が認定されているのである。  さらに多数意見は、③の具体的な予測可能性を基礎づけるため、②において、事業計画に伴い作成される設計説 明書や設計図について関連法令を踏まえ論じている。また④の高度の蓋然性を担保するものとして、⑤において、 事業計画に伴い生ずる建築制限等の効果が引き合いに出されている。そしてこの⑤の趣旨は、事業計画に伴い生ず るその他の効果をも踏まえながら、①において法律規定に即し解説されている。以上のように多数意見の解釈の筋 道は、計画決定をめぐり関係法令上設けられている規定︵②と⑤①︶を運用する結果生じる”事実的効果”︵③と④︶ を基礎に﹁法的効果﹂を認定︵⑥︶し、そうすることで処分性肯定に至るものと言えよう︵⑧︶。いわば多数意見 は、︽法令規定︾と︽法的効果︾とを直接に結びつけるのではなく、むしろこれら両者を媒介するものとしての       ︵4︶ ︽事実的効果︾を措定し、それを通じて両者を結びつけるのである。  以上多数意見の処分性肯定の根拠のうち、﹁法的効果﹂をみたが、今度は﹁実効的な権利救済﹂をみよう。この ⑧に直接応答しているのは⑦である。すなわち換地処分取消訴訟のなかで計画決定の違法を争うしかないとする と、その段階では既成事実が積み重なってしまっているので、その違法が裁判所により認められたとしても、換地 処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないとして事情判決が下されてしまう。そうすると結局、計画決定に違 法があったとしても権利救済が図れないこととなる︵泣き寝入り状態︶。それゆえ計画決定段階で処分性を認め、取 消訴訟の提起を認めるべきというのである。 65

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 かくて⑦は、計画決定に係る関係法令を引き合いに出すのではなく、むしろこの決定が位置する行政過程︵争訟 過程も含む︶を分析し、どの時点で取消訴訟を認めるのが市民の権利救済として実効的かといった評価判断を媒介 に処分性を基礎づけている。いわば﹁法的効果﹂をめぐる解釈の筋道が、︽法令解釈により処分性が認められるか ら取消訴訟を適法とすべき︾であるのに対し、﹁実効的な権利救済﹂をめぐる解釈の筋道は、︽実効的な権利救済を 与えるためには取消訴訟を適法とすべきでそのためには処分性を認めるべき︾ということになろう。それゆえ⑧で ﹁法的効果﹂と﹁実効的な権利救済﹂とで分けられていることの論理的意味合いは、このような解釈手法上の差異        ︵5︶ にあるのではないかと思われる。       ︵6︶  しかし二つの解釈手法には質的差異があるといっても、共通点もあるのではないか。ただこの点は第四章で詳し く検討するので、ここでは次の点を暫定的に指摘しておくにとどめる。すなわち多数意見が指摘する、③権利変動 の具体的な予測可能性、④換地処分実施の高度の蓋然性、⑦実効的な権利救済といった観点は、いずれも︽法令︾       ︵7︶ の局面で認識しうる事柄ではなく、︽行政過程︾の局面で認識しうる事柄なのではないか、と。  第二節 補足意見・意見  本判決には、多数意見のほか、藤田宙靖裁判官の補足意見︵以下藤田補足意見︶、泉徳治裁判官の補足意見︵以下 泉補足意見︶、今井功裁判官の補足意見、近藤崇晴裁判官の補足意見、涌井紀夫裁判官の意見︵以下涌井意見︶が付 されている。このうち本稿の問題意識に直接関連する内容を含むものは、藤田、泉、涌井の各意見である。よって これら三意見について相互の比較を踏まえながら検討していこう。  便宜上涌井意見からみよう。涌井裁判官は、計画決定が公告されると施行地区内の土地に建築制限等の効果が発 66

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生し、この結果その土地上の建築行為が制約されるほか、その土地の他者への売却が困難になるといった﹁極めて 現実的で深刻な影響﹂が発生すると指摘した上、このような経済的不利益をもって﹁法的効果﹂を肯定する。また 換地処分の影響を根拠とする多数意見が、抗告訴訟による救済を図るべき不利益等の内容として、﹁換地処分によ る権利交換﹂による不利益等を念頭に置に置き、﹁建築制限等の効果﹂による不利益それ自体は独立して取上げる に足りないと考えていると指摘した上で、上記土地所有者が被る現実の不利益の観点からすると問題があると  (8 ) する。  そして、﹁将来発生する法的効果の影響や実効的な権利救済を図る必要性の程度等﹂を考慮し処分性を判定する 多数意見に対して、それら影響や必要性がどの程度であれば処分性が肯定されるのか不明確で、視点のいかんに よってその判断が区々になると指摘する。その上で涌井裁判官は、﹁国民にとっても明確で分かりやすい形で訴訟 の門戸を開いていくことによって、行政訴訟による権利救済の実効性を確保するという見地からするなら、処分性 の有無の判断基準としても、できるだけ明確で分かりやすいものが望ましい﹂とし、端的に建築制限等の効果を もって法的効果を認めるべきとする。  以上涌井意見は、多数意見の解釈の筋道、すなわち計画決定に伴う法令上の建築制限等が行政過程の中で換地処       ︵9︶ 分に対し及ぼしている”事実的効果”を媒介に”法的効果”を認定するのではなく、むしろそれら制限等から直接 に”法的効果”の認定へとつなげるべきと主張する。また多数意見のいう実効的な権利救済に対しても、法令上明 確な規準を基礎に処分性を判定していくことこそが、実効的な権利救済に結びつくと主張する。かくて涌井意見 は、処分性肯定に当たり、多数意見のように︽行政過程︾の局面に着目した解釈手法よりも、︽法令︾の局面に着       ︵10︶ 目した解釈手法を採用しているのではないかと思われる。 67

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 つぎに藤田補足意見は、涌井裁判官の﹁建築制限等の効果←法的効果﹂の解釈を採用してしまうと、都市計画法 上の地域・地区指定等のいわゆる﹁完結型﹂土地利用計画の法的効果の論点が出てきてしまうと指摘する。その上 で藤田裁判官は、現段階ではこの論点を保留していた方が良いとの判断のもと、土地利用計画と異なって土地区画       ︵11︶ 整理事業計画決定に処分性を認めねばならない﹁固有の理由﹂を探究すべきとする。そしてこの﹁固有の理由﹂と して、後者が換地制度を採っていることから、その計画の適法性をめぐり換地処分段階で争われ、かつ、そこでそ の計画の違法性が認められたとしても、事業全体に対する混乱を回避するため、裁判所として事情判決をせざるを 得ない状況に追い込まれるとする点を挙げる。  そこでこのような事態を避け実効的な権利救済を図るためには、計画決定段階での取消訴訟を認めざるを得ない とする。もっとも本来であれば、立法を通じて事前の計画手続における関係者の参加システムが整備されているべ きところ、そうなっていないことにかんがみ、裁判所として今行うべきことは﹁事案の実態に即し、行政計画につ いても、少なくとも必要最小限度の実効的な司法的救済の道を、︵立法を待たずとも︶判例上開く﹂ことであるとい う。以上藤田補足意見は、多数意見の⑦←⑧の解釈の筋道、すなわち︽行政過程︾における実効的な権利救済とい う観点からの議論を意識した部分と言えよう。  また藤田裁判官は、換地処分の法的効果は計画決定からは直接生じないとの涌井裁判官の指摘を認めつつも、 コ度計画が決定されれば、制度の構造上、極めて高い蓋然性をもって換地処分にまで到る﹂こと、またこのこと を担保するため換地処分に到るまで建築制限等が継続的に課されることから、計画決定が﹁土地区画整理事業の全 プロセスの中において、いわば、換地にまで到る権利制限の連鎖の発端を成す行為﹂であるとする。ここで藤田補 足意見は、①←⑤←④←⑥←⑧の解釈の筋道、すなわち︽事実的効果︾を介して︽法的効果︾を認めようとする、 68

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多数意見の︽行政過程︾を媒介とした議論を支持するのである。かくて藤田補足意見は、﹁法的効果﹂であれ﹁実 効的な権利救済﹂であれ、多数意見の︽行政過程︾を重視した解釈手法がいずれも妥当であることを論証する。  最後に泉補足意見は、第二種市街地再開発事業の事業計画決定の処分性を認めた最判平成四年一一月二六日︵民 集四六巻八号二六五八頁︶と、都市計画施設の整備に関する事業に係る都市計画事業認可の処分性を前提としてい た最判平成一七年一二月七日︵民集五九巻一〇号二六四五頁︶とを引き合いに出し、両最判で問題となった都市計画 事業と本件で問題となっている土地区画整理事業との手続の流れを比較する。その結果、先例の計画決定・事業認 可でも本件の計画決定でも、公告により施行者に法的拘東力のある事業施行権が付与されるという共通点があると する。  すなわちこの施行権付与によって、先例の計画決定・事業認可の場合には、土地所有者等は収用されるべき地位 に立たされることとなり、また本件の計画決定の場合にも、この施行権付与によって、宅地所有者等は換地処分を 受けるべき地位に立たされるという。もっとも先例は﹁公用収用﹂、本件は﹁公用換地﹂という制度上の違いもあ るが、いずれも処分性の﹁法的効果﹂要件を充たしうるとする。かくて泉裁判官は、本件事案と類似の先例を類推       ︵1 2︶ して解釈することによって、本件事案の処分性を肯定しようと論証している。  さらに泉裁判官は、事業計画決定及び公告の本質的効果が、﹁都市計画事業としての土地区画整理事業の施行権 の付与﹂にあり、建築制限等の効果は﹁事業の円滑な施行を図るため法律が特に付与した公告に伴う付随的な効果 にとどまる﹂と指摘する。ただ他方で泉裁判官は、施行権付与の効果も建築制限等の効果も、いずれも計画決定の 処分性を理由付けうると指摘するのだが、しかし結局﹁本来的な理由﹂としては、前者の効果による﹁換地処分を        ︵13︶ 受けるべき地位に立たされる﹂ことが考えられるべきとする。 69

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 以上紹介した、施行権付与と法的効果に関する泉裁判官の議論は、”計画決定に伴う法令上の建築制限等が行政 過程の中で換地処分に対し及ぼしている事実的効果を介して計画決定に法的効果を認めよう”とする多数意見及び 藤田補足意見のうち、﹁建築制限等﹂の部分を﹁施行権付与﹂へと置き換え議論すべきとする趣旨のものであろ う。その限りで泉補足意見は、多数意見や藤田補足意見の︽行政過程︾の局面を重視した解釈手法と共通するので ある。  第三節 小括  以上多数意見のほか三つの意見をみてきた。各意見にみられる処分性解釈の背景には局面の相違があるように思 われる。すなわち多数意見及び藤田・泉両意見による︽行政過程︾の局面に着目した解釈と、涌井意見による︽法 令︾の局面に着目した解釈である。そこで次章では、もっぱら︽行政過程︾の局面に着目した多数意見を対象とし て、この局面問題を﹁認識枠組み﹂問題として捉え直した上で、さらに検討を深めていきたい。 第四章 認識枠組み  本章第一節及び第二節においては、本判決の解釈の意義を探る諸学説が、認識枠組みという観点からどのような 議論を展開しているのか検討する。そして第三節においては、従前の処分性拡大判例と本判決との内在的な関連性 について、認識枠組みという観点から分析をこころみる。 70

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 第︻節 学説の理解        ︵14︶  まず白藤博行氏は、多数意見及び藤田補足意見の法的効果をめぐる議論につき、次のように﹁法が定めるプロセ ス的効果あるいは手続構造的効果﹂を認めたものと論じられる。﹁﹃建築行為等の制限効果が直接に生じる﹄とはい うけれども、それは本来附随的効果に過ぎないところ、換地制度という権利交換システムを採用する法の仕組みに 着目することで、﹃建築行為等の制限効果﹄を、事業計画決定から直接生じるものではないが本来的に処分性を有 するとされる﹁換地処分の法的効果﹄に結びつけることによって、つまり事業計画決定を﹃換地にまで到る権利制 限の連鎖の発端を成す行為﹄と捉えることで、﹃建築行為等の制限効果﹄にいわば法が定めるプロセス的効果ある いは手続構造的効果というべき法的効果を認めることで附随的効果論を克服しているようにみえる。﹂        ︵15︶      ︵16V  また白藤氏は、泉補足意見を﹁かなり﹃限定的な仕組み解釈﹄論﹂、涌井意見を﹁﹃柔軟な仕組み解釈﹄論﹂と特 徴付けるとともに、多数意見及び藤田補足意見の仕組み解釈についても、﹁﹃手続構造的仕組み解釈﹄論﹂として、 ﹁処分該当性が問われている行政の行為形式︵11係争行為︶に後続する行政過程・手続に関する法の仕組みを踏ま え、当該係争行為を争わせないと、その後の行政過程・手続段階において必然的に原告の権利利益にかかわる不利 益効果が生じることを理由に、原告の権利利益にかかる早期の実効的救済を図ることを目的として処分性を承認す        ︵17︶ る﹂解釈論であると特徴付けられる。          ︵18︶  つぎに大久保規子氏は、処分性拡大を図る近年の最高裁判決について、﹁関連法令の趣旨・目的や害される利益 の内容・性質及び態様・程度を考慮しているという点で、原告適格を判断する場合と同様の手法を用いていると特 徴付けることができる。﹂という観点からすると、本判決は、﹁根拠法の解釈そのものから直接の法的効果を導き出 している点では、特に目新しい判決ではない。﹂という。しかし他方で大久保氏は、本判決につき、﹁①行政の複数 71

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の行為を個々ばらばらに分解するのではなく、一連のプロセスにおける位置付けを考察し、②特定の結果︵換地処 分や事情判決︶が導かれる蓋然性、③実効的な救済の必要性を考慮しているという点に、処分性を柔軟に解釈しよ うとする最高裁の傾向が表れているとみることが可能である。﹂として、﹁根拠法の解釈﹂だけではなく、行政過程       ︵19︶ への考慮も踏まえられていることに着目されている。         ︵20︶  さらに山本隆司氏は、﹁実効的な権利救済、行政過程・手続構造に対応する違法是正手続の合理性﹂という見出 しの記述部分で、藤田補足意見を次のように﹁さらに展開させて﹂議論される。まず換地処分をめぐる﹁法制度に おいては行政過程ないし手続の全体が、目標となる空間利用の態様の決定︵事業計画︶と、それを実現する手法と しての権利の交換︵換地処分等︶という、趣旨目的を異にする二段階に比較的明確に分かれる。﹂と指摘される。そ してこの二段階に対応して、違法事由も、﹁目標となる空問利用の態様が権利の交換を強制して実現するに値する ほどの公共性を持つかという問題﹂と、﹁照応の原則のように、権利の交換︵の強制︶ができるだけ権利侵害の程 度が小さくなるように行われているかという問題﹂とに分けられるとする。  その上で山本氏は、﹁このように空間利用に関する行政過程ないし手続全体が明確に分節されているとすれば、 こうした分節に対応させて、それぞれの﹃段階﹄ごとに違法な行為・判断を是正するための争訟手続を組み込むの が、行政の行為・判断をコントロールする手続として﹃合理的﹄ではないか。﹂と指摘されるとともに、こういっ た考察が﹁動的ないし非完結型の空間利用計画の概ねすべてに﹂当てはまると主張される。かくして山本氏は、多 数意見や藤田補足意見の趣旨を汲み取りつつ、学説の立場からあるべき行政計画争訟手続を明確化されるという議       ︵21︶ 論にまで踏み込まれて論じられている。        ︵22︶  加えて高橋滋氏も、多数意見の判示における﹁二つの注目すべき論理﹂として、﹁実効的な権利保護﹂という視 72

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点を明確に打ち出した点とともに、﹁計画決定という行政活動それのみを視野に置くのではなく、計画決定から具 体的な処分へといたる行政過程全体を把握し、最終処分へと連動する仕組みが取られていることに処分性の手掛か        ︵23︶ りがあるとする﹂点を挙げられる。同じく山村恒年氏も、多数意見の法的効果論と実効的権利救済論について、 ﹁行政過程を実質的に把握して実効的救済を図るため﹂のものと理解されている。  第二節 紛争の早期成熟  以上いずれの所説においても、本判決の処分性解釈の意義を理解するに当たって、﹁行政過程﹂の局面が重視さ れていることが窺われる。また白藤氏や山本氏は、﹁手続構造﹂という表現を用いられ、計画決定と換地処分等と の間の関係性を論じられている。もっとも他の論者も、多かれ少なかれこの関係性を念頭に置き議論されているこ とには変わりないであろう。そこで本節では、この関係性が何を意味するのか、学説を素材にさらに検討していこ ・つQ         ︵24︶  まず中川丈久氏は、﹁法的効果﹂要件を﹁具体的な法効果を生じさせる行為であること﹂と理解された上で、こ れまでの最高裁の姿勢について次のように述べられる。﹁しかし何をもって、具体的とするか、最高裁は一般的に は明らかにしていない。これは結局のところ、個別の法制度に基づく行政過程のどの時点で、原告・被告問の紛争 に関して最終的な行政判断が示されているかー紛争が裁判的救済を認めるに値する成熟を見せているかーの問 題と捉えるほかない。すなわち、争点を審理できるだけの状況が整っていればよいということである。﹂そしてこ のような観点は、当事者訴訟における訴えの利益論で問題となる成熟性とも共通していると指摘される。  それとともに中川氏は、﹁立法府に下駄を預けた形の﹁争訟の成熟性や事件性﹄のとらえ方﹂、すなわち﹁何らか 73

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の裁判救済の機会があるならば、︵その実効性を問うことなく︶それ以上の救済機会を裁判所が工夫する必要はない       ︵25︶ ︵それはむしろ立法政策の問題である︶という、青写真判決以来判例を支配してきた発想﹂を批判された上で、裁判       ︵26︶ 所が主体的に﹁紛争の旬﹂を捉えて、市民に対し出訴の機会を認めるべきと指摘される。その上で中川氏は、本件 について、﹁原告らの不服は、土地区画整理事業が行われること自体にあり、その結果、事業制限を受けることに も不服を持つが、後者は副次的である。﹂ので、多数意見の言う﹁﹃換地処分を受けるべき地位﹄が現実化したこと に対する不服が紛争の核ということになり、それをもって処分性を基礎づければ十分﹂と判断される。         ︵27︶  さらに橋本博之氏は、食品衛生法判決、医療法判決、本判決︵土地区画整理法判決︶を通じた処分性拡大判例の 共通の特徴として、﹁行政過程のどの段階で争いの成熟性が認められるかというタイミング論︵成熟性判定型の解 ︵28︶ 釈論︶﹂に立ったものと理解された上で、本判決につき次のように指摘される。﹁[本]判決は、土地区画整理法の 定める法的仕組みを解析し、時系列的には事業計画決定と換地処分︵あるいは仮換地指定処分︶の中間というタイミ ングで生じた紛争において、市町村施行に係る事業計画決定を対象とする抗告訴訟で争うことを認めるという、成 熟性判定型の﹃仕組み解釈﹄が採られたものと位置づけることができます。﹂また橋本氏は、本判決がその処分性 肯定に当たって、﹁計画決定と換地処分の手続的連動性を鍵として、計画決定により﹃相当程度﹄の具体性・直接 性を持って後続処分を受けるという法的地位に立つという法的不利益を﹃法的効果﹄と解釈し、紛争の成熟性を認    ︵29︶ めたもの﹂と指摘される。  以上中川、橋本両氏の所説からは、本判決が念頭に置く計画決定と換地処分等との関係性について、行政主体と 市民との間の﹃紛争状況﹄をめぐる関係性の問題として論じられうることが分かる。 74

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 第三節 先例との比較  もつとも筆者は、食品衛生法判決や医療法判決に関する考察のなかで、上記後者の関係性について﹁手続構造﹂        ︵30︶ 概念を用いて議論してきた。そこで以下本節ではこれら先例との比較のもと本判決を議論してみよう。  まず食品衛生法事件では、食品輸入過程において、検疫所長が発した食品衛生法違反通知の処分性が争点となっ た。最高裁は、後に行われる輸入不許可処分との関係で、前に行われる食品衛生法違反通知が連動し機能している こと、その結果、輸入申請者と行政主体との間で、︽紛争の早期成熟︾という﹁行政過程の手続構造﹂があること に着目して同通知の処分性を認めた。すなわち行政実務上、税関長の輸入許可・不許可判断にとって、検疫所長の 食品衛生法違反通知の発出は決定的な出来事であって、かつ、食品衛生に関する問題であるがゆえに、輸入申請者 をして税関長とではなくむしろ直接検疫所長と争わせたほうが合理的かつ効率的であるといった観点から、﹁法的       ︵31V 効果﹂要件を認めたのである。  ついで医療法事件では、医療法上行政指導と位置づけられている、都道府県知事の病院開設中止勧告ないし病院 病床数削減勧告の処分性が争点となった。最高裁は、後に行われる保健医療機関指定拒否処分との関係で、前に行 われるそれら勧告が連動し機能していること、その結果、開設申請者と行政主体との間で、︽紛争の早期成熟︾と いう﹁行政過程の手続構造﹂があることに着目して同勧告の処分性を認めた。すなわち、勧告が出されると相当程 度の確実さでもって指定が拒否される︵その結果事実上病院経営が不可能となる︶のであり、にもかかわらず指定拒 否段階になってはじめて勧告を争うよう開設申請者に対し求めることは、開設申請者がそのあいだ相当な事業投資        ︵3 2︶ をしていることをも踏まえても酷であるといった観点から、﹁法的効果﹂要件を認めたのである。  以上両事件では、﹁行政過程の手続構造﹂として︽紛争の早期成熟︾という観点が踏まえられ、処分性が肯定さ 75

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れていた。しかしこの点、土地区画整理法事件でも、後に行われる換地処分との関係で、前に行われる計画決定が 連動し機能していること、その結果、宅地所有者等と行政主体との間で、︽紛争の早期成熟︾という﹁行政過程の 手続構造﹂があることに着目して計画決定の処分性が認められているといえよう。すなわち、計画決定がなされる と高度の蓋然性でもって換地処分が実施されることになるのであり、にもかかわらず換地処分段階ではじめて計画 決定を争うよう宅地所有者等に求めることは、事情判決制度による泣き寝入りを強いるおそれがあり妥当ではない         ︵33︶ といった観点である。  第四節 小括  以上本判決について、︽紛争の早期成熟︾という﹁行政過程の手続構造﹂の認識枠組みを媒介として、処分性に 係る仕組み解釈がなされているとの理解を示した。もっとも例えば橋本氏は、先に紹介したように、上記三判決に ついて﹁成熟性判定の解釈論﹂を採用したものと評価されている。本稿で同じようなことを、﹁紛争の早期成熟﹂ という﹁認識枠組み﹂として議論することの実益がどこにあるのかが問題となろう。  思うに、これら三判決を通じて、裁判所が仕組み解釈のもと紛争の早期成熟を判定するに当たっては、係争事案 における原告と被告との﹁個別的な﹂関係性ではなく、ある行為形式をめぐりその行政過程でみられる、市民一般 と行政主体との間の﹁制度的な﹂関係性を念頭に置いているのではないか。そうであるすると、これら仕組み解釈 には、その個別事案において成熟性があるかどうかという判断とは次元を異にした、行政過程における関係性の       ︵34︶ ﹁制度化﹂という次元からの内在的限界があるといえるのではないか。すなわちある事件において原告と被告との 間で紛争が早期に成熟していると言っても、それが関係する市民一般と行政主体との間で制度化しているとまで言 76

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      ︵35︶ えなければ処分性は認められないという観点である。  そして処分性に係る仕組み解釈に関し、このような﹁制度﹂面からの規制枠組みを一般的に定立することによっ て、裁判所の仕組み解釈に一定程度の予測可能性がもたらされうるのではないか。すなわち、裁判所が仕組み解釈 を通じ処分性を肯定すべきかどうかは、上記関係性の制度化を裏付けるだけの﹁事実﹂が、関連する通達、行政先 例、行政慣行その他の行政実務の状況を通じて得られるかどうかにかかってくるのである。  かくして、処分性拡大判例に対する批判として学説上指摘されている、処分性は係争行為の根拠法規を手掛かり        ︵36︶ に画一的に判断せよとの﹁処分性の純化﹂ー処分性判定における”立法”判断重視1でも、近年の処分性拡大 判例を突き進めたところにある、処分性は裁判所が個別事案に応じ救済の見地から柔軟に判断せよとの﹁処分性の        ︵3 7︶ アドホック化﹂ー処分性判定における”司法”判断重視1でもない、処分性拡大という柔軟な判例動向を受け 止めつつも、その内在的な限界を法令に準ずる何らかの客観的な資料を手掛かりに探っていくという第三の方向が        ︵38︶ 考えられるべきではないか。  ただし以上の筆者の議論には、例えば、関係性の制度化を裏付ける﹁事実﹂が、市民にとって必ずしも明瞭であ るとは限らないという問題がある。それどころか、行政主体が意図的に、法律上処分性があると定められている行 為形式を行政過程の中に埋没させ、それを不明確にしてしまうおそれをどのように考えるのかという点も出てこよ う。いわば筆者の議論には、処分性判定における”行政”判断重視の懸念が不可避的に生じてくるのである。もっ ともこの懸念に対しては今後さらなる検討が必要であろう。さしあたり本稿では、処分性をめぐる﹁法令上の仕組 み﹂を信頼して取消訴訟を提起した市民が、行政主体により作り出されたこの種の﹁行政過程の構造﹂により、訴 訟追行上の不利益を受けないようにするため、”違法性の承継”や”訴えの変更”といった面における補完的な法 77

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      ︵39﹀ 理が必要となってくるのではないかという点を指摘するにとどめたい。 78 第五章 むすびにかえて  本稿は、処分性に係る仕組み解釈の認識枠組みがいかなるものかという問題意識のもと、土地区画整理法事件最 高裁判決を素材に、その多数意見並びに各意見の解釈の筋道をたどり、それら解釈の背景を探究した。その結果、 多数意見及び藤田・泉の各意見は、計画決定の処分性肯定に当たって、直接には、権利変動の具体的な予測可能 性、換地処分実施の高度の蓋然性、実効的な権利救済といった、法令の局面ではなく行政過程の局面に着目してい るのに対し、涌井意見は、建築制限規定という法令の局面に着目していることが分かった。そして本判決を理解す るに当たって、﹁行政過程﹂や﹁手続構造﹂といった考え方、さらには﹃紛争状況﹄といった観点に着目している 学説の状況を紹介した。また先に筆者が行った食品衛生法事件や医療法事件での検討を踏まえた上で、本判決の仕 組み解釈についても、︽紛争の早期成熟︾という﹁行政過程の手続構造﹂の認識枠組みが認められるのではないか と指摘するとともに、このような認識枠組みを媒介とした議論の解釈論的含意をも指摘した。  本稿を閉じるに当たって、今後の研究課題を提示しておきたい。まず処分性に係る仕組み解釈という観点からす       ︵40︶ ると、①その他の処分性拡大判例や②原告適格の仕組み解釈との間での認識枠組みの異同を分析する必要がある。 さらに③本稿で提示した﹁行政計画の処分性に係る仕組み解釈の認識枠組み﹂という行政救済法の論点を一歩進め        ︵41︶ て、﹁行政計画の認識枠組み﹂というように行政法総論の論点としても議論していく必要がある。  そのほかにも、④﹁行政過程の手続構造﹂という認識枠組みの深化という研究課題もある。本判決でも見られた

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ように、一つの行政の活動は、場合によっては、その置かれている行政過程︵争訟過程も含む︶を通じて、全体的        ︵42︶ 観点からその意義を考察する必要がある。いわばその限りで、伝統的な行政法学における議論の立て方、すなわち ﹁事前手続﹂と﹁事後争訟﹂という区分でもって議論するのでは不十分なのであって、これら﹁行政過程﹂におけ        ︵43︶ る二つの領域を包括的に分析するための方法論が必要となってくるのではないか。そしてこういった方法論の一つ として、事前手続段階であれ事後争訟段階であれ、一つの行政過程を通じて形成されている、行政主体と市民との ﹁制度的な関係性﹂  ﹁手続構造﹂1をもとに、”縦断的に”分析していくという方法も、一定の有用性がある      ︵44︶ のではないか。ただしこの点は、従来からの行政過程論との異同も含め、さらに考察を深めていく必要があろう。 ︵1︶ 同様の問題意識からの考察として、拙稿﹁経済行政過程における行政指導とその処分性一医療法勧告事件を素材として﹂佐藤 英善先生古稀記念論文集﹃経済行政法の理論﹄︵日本評論社、二〇一〇年刊行予定︶及び同﹁処分性に係る仕組み解釈とその認識 枠組み一食品衛生法違反通知事件再考﹂早法八五巻三号︵二〇一〇年刊行予定︶参照。 ︵2︶ 近時の処分性拡大判例について、行政機関の行う行為の法的拘束力ではなく、﹁事実上の効果﹂が私人に及ぼす影響を理由に 処分性が認められていると特徴付けられ、本判決もこれと共通する面があると指摘する、和久田道雄﹁判批﹂ひろば六一巻一二号  ︵二〇〇八年︶五六頁参照。 ︵3︶もっとも山本隆司﹁処分性︵五︶﹂法教三一二九号︵二〇〇八年︶五九頁では、④について、﹁法制度上基本的に手続が目標に向 けて一直線に進行することが確定し権利侵害が切迫することを、処分性承認の主な論拠に挙げており、注目される。﹂と指摘され  る一方、③については、先例が﹁青写真﹂と誇張して述べたことを改めるという意味を持つにとどまり、論拠としては必ずしも強  いものではないと指摘される。 ︵4︶ したがって多数意見は、建築制限等の法的効果のみに着目し処分性を認めているわけではない。和久田・前掲注︵2︶五五 79

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頁、大久保規子﹁判批﹂ジュリニニ七三号︵二〇〇九年︶六〇頁、人見剛﹁判批﹂平成二〇年重判解説︵二〇〇九年︶五三頁等参 照。また山本・前掲注︵3︶五九頁は、本判決が、建築制限等による権利侵害効果を、﹁いわば処分性承認の間接的な根拠と位置 づけた﹂と論評される。また法的効果をめぐる多数意見の論理と、本文後述の最判平成四年の論理−土地所有者等が土地を収用 されるべき地位に立たされることに着目して第二種市街地再開発事業計画決定の処分性を認めたーとの類似性については、和久 田・前掲注︵2︶五五頁、大久保・同上六〇頁、増田稔﹁判批﹂ジュリ一三七三号︵二〇〇九年︶七〇頁脚注七等参照。 ︵5︶ なお本判決は、必ずしも伝統的な処分性公式を否定したものではないことに注意が必要である。増田・前掲注︵4︶六八頁、  六九頁∼七〇頁や、渡邉亙﹁判批﹂白鴎一五巻二号︵二〇〇八年︶一八五頁等参照。この点、本判決で﹁法的効果﹂が明示されて  いることからもうかがわれる。しかし他方で、本判決が指摘する﹁実効的な権利救済﹂という観点がもともと処分性公式にも含ま  れていたかという点は疑問の余地がある。増田・前掲注︵4︶六八頁∼六九頁は、処分性公式に基づく判例法理のもとでも、抗告 訴訟に係る﹁広義の訴えの利益﹂の問題として、ある行為につき実効的な権利救済の観点から抗告訴訟の対象とすべきかどうかと  いう評価判断が﹁潜在的﹂にはなされていた旨指摘する。しかしそうであるとすると、青写真判決と本判決では実効的な権利救済  の観点からみて﹁正反対の評価判断﹂をしていることになるのであるが︵増田・前掲注︵4︶七〇頁︶、このような正反対の帰結  へと至りうる﹁実効的な権利救済﹂という観点の、規準としての有用性に関しては、疑問が抱かれてもやむをえないであろう。こ  の点後に紹介するように、涌井意見により批判されているところでもある。なお中川丈久﹁判批﹂法教三四一号︵二〇〇九年︶  三〇頁は、青写真判決から本判決への判例変更について、裁判所が﹁司法権﹂概念または﹁法律上の争訟﹂概念のコア部分にとど  まることなく、そのフリンジ部分を広げる方向に舵を切ったものと論評されている。 ︵6︶ なお本判決が、﹁法的効果﹂の根拠のみで処分性を認めるのか否かが明らかではないと指摘される、大久保・前掲注︵4﹀  六一頁参照。これに対し山本・前掲注︵3︶六〇頁は、﹁法的効果﹂の根拠だけでも処分性を肯定できたと指摘される一方、青写  真判決を否定する必要があったことから﹁実効的な権利救済﹂の根拠が持ち出されたと指摘される。ただし最高裁がこれほど明確  に﹁実効的な権利救済﹂の観点を考慮したことは、﹁重い意味を持つ﹂とも指摘される。さらに﹁実効的な権利救済﹂の根拠の重  要性については大久保・前掲注︵4︶六一頁も参照。関連して青写真判決との比較から本判決の﹁実効的な権利救済﹂論を重視す 80

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 る、藤巻秀夫﹁判批﹂札大二〇巻一・二号︵二〇〇九年︶二二五頁以下も参照。 ︵7︶ なお増田・前掲注︵4︶七〇頁∼七一頁は、本判決の射程の理解として、﹁非事業型・完結型の計画決定行為﹂がその範囲外 とするほか、﹁事業型・非完結型の計画決定行為﹂の場合であっても、計画決定行為から土地収用や換地処分等が行われるまでの 中間段階で行政処分と目すべき行政上の行為が行われ、その行為を対象とした抗告訴訟でもって実効的な権利救済が図れる場合に は、本判決の射程は及ばないとする。さらに大久保・前掲注︵4︶六二頁∼六三頁は、本判決の射程について、①完結型の用途地 域の指定、②土地区画整理事業における事業計画認可、③公共事業型の都市計画決定との関連で分析される。その他の射程論とし  て、山本・前掲注︵3︶六四頁以下も参照。 ︵8︶ ただし多数意見は、建築制限等の効果を計画決定の処分性肯定の一根拠としていると解しうることから、少なくともこれら効 果が付随的効果として、およそ処分性を根拠付ける理由とはなり得ないとしているわけではないとする、増田・前掲注︵4︶七〇 頁脚注八参照。さらに山本・前掲注︵3︶六二頁も、﹁正確には、多数意見は建築制限等の法的効果を直接の根拠にして処分性を 肯定できるか否かについて判断していないと考えられる。﹂と指摘される。 ︵9︶ なお涌井裁判官は、多数意見の考え方では、建築制限等の法的効果が﹁理論的にどのような意味を持つことになるのか﹂明ら かではないとも指摘される。関連して藤巻・前掲注︵6︶二⋮二頁も参照。 ︵10︶ 山本・前掲注︵3︶六四頁では、涌井意見を、処分性公式から﹁できる限り定型的に処分性を根拠づけようとした﹂と評価さ  れる一方で、﹁計画などの複雑な行政過程に適合するか、疑問の余地もある。﹂と指摘される。もっとも山本氏は、涌井裁判官の指 摘について、﹁特に近年、処分性の判断基準が不明確になっていることは確かに問題であり、理論的整理が学説の課題である。﹂と も述べられる。関連して、処分性公式を維持しつつも、救済のタイミングを重視して処分性を肯定するという最高裁の議論につい  て、理論的な解明がなお未解決と指摘される藤巻・前掲注︵6︶一四三頁も参照。 ︵n︶ 本判決の射程について、計画決定の効果として土地収用や換地処分がほぼ確実に行われることが認められるような﹁非完結 型﹂の土地利用計画事案に限られ、﹁完結型﹂の土地利用計画事案には及ばないことについては、和久田・前掲注︵2︶五五頁参 照。さらに藤田補足意見の理解との関連で宇賀克也﹁判批﹂自治フォーラム五九三号︵二〇〇九年︶五二頁も参照。 81

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︵12︶ 山本・前掲注︵3︶六二頁の分析も参照。このなかで山本氏は、泉補足意見を﹁可能な限り実定法と先例から判決の結論を導 き、判決の射程を限定する玄人的な方法を感じさせる。﹂と論評されている。 ︵13︶ なお山下竜一﹁判批﹂民商一四〇巻三号︵二〇〇九年︶三五二頁は、泉補足意見が建築制限等の効果のみで処分性を肯定する  かは明らかでないとする︵大久保・前掲注︵4V六︸頁も参照︶。これに対し宇賀・前掲注︵n︶五三頁は、泉補足意見が建築制  限等の効果を理由に処分性を肯定するものと理解される。 ︵14︶ 白藤博行﹁判批﹂TKC速報判例解説、行政法2ρω①、三頁∼四頁︵二〇〇八年︶︵以下白藤TKC︶。関連文献として同﹁判  批﹂法セ増刊速報判例解説四七頁以下︵二〇〇九年︶︵以下白藤法セ︶や、同﹁﹃国民の権利利益の実効的救済﹄にかかる行政判例  と学説の相剋﹂戒能通厚ほか編﹃渡辺洋三先生追悼論集日本社会と法律学﹄︵日本評論社、二〇〇九年︶二〇五頁以下︵以下白藤  相剋︶参照。以下本文では白藤TKCを基礎に紹介する。 ︵15︶ すなわち、﹁係争行為の根拠法令と類似の仕組みをもつ法令を手掛かりに、当該類似の法令の特別の仕組みにおいて当然に処  分性を認められる行政処分に相当することを理由とする﹂解釈論のこと。 ︵16︶ すなわち、﹁もはやなんらかの法的効果をもつことにこだわらず、個人の権利・利益を直接に侵害・制約するものであれば、  あとは実効的な権利救済のみを問題とするかのような﹂解釈論のこと。 ︵17︶ 白藤法セ・前掲注︵1 4︶四九頁も参照。 ︵18︶ 大久保・前掲注︵4︶六一頁∼六二頁参照。 ︵19︶ 本文で紹介した部分に続けて大久保氏は、﹁本判決の重要な意義﹂として、従来の判決には見られない﹁抗告訴訟の対象とす  るに足りる法的効果﹂と﹁実効的な権利救済の必要性﹂という二つの表現の﹁メッセージ性﹂を論じられる。大久保・前掲注︵4︶  六二頁参照。 ︵20︶ 山本・前掲注︵3︶五九頁∼六一頁参照。 ︵21︶ 山本・前掲注︵3︶六一頁では﹁判決の論理の内在的分析からやや逸脱した﹂と指摘される。 ︵22︶ 南博方ほか編﹃条解行政事件訴訟法[第三版補正版]﹄︵弘文堂、二〇〇九年︶六五頁∼六六頁参照︻高橋滋︼。 82

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28  27  26  25  24  23 否かという訴訟類型配分論  このタイプに属するとされる。 ︵29︶  される。 ︵30︶ ︵3 1︶ ︵3 2︶ 認めたと解する余地もある。 ︵33︶  踏ま えられていたが、 辱ろ・つ ︵3 4︶  が私人に対して処分の  される。 ︵35︶ 山村恒年﹁判批﹂判自三一三号︵二〇〇九年︶六九頁参照。 中川・前掲注︵5︶三〇頁∼三一頁参照。 中川・前掲注︵5︶二二頁︵引用に当たって傍点を省略︶。 関連して中川・前掲注︵5︶二二頁も参照。 橋本博之﹃行政判例と仕組み解釈﹄︵弘文堂、二〇〇九年︶二八頁以下参照。 橋本・前掲注︵27︶一七頁。なお橋本氏は、この成熟性判定型の解釈論とともに、﹁抗告訴訟として争うのが適切・合目的か       ︵訴訟類型配分型の解釈論︶﹂を指摘され、労災就学援護費不支給決定判決や登録免許税還付判決等が なお橋本氏は、本判決のこのロジックが、成熟性判定型の処分性に係る仕組み解釈を不安定にするするおそれがあるとも指摘   橋本・前掲注︵27︶三一頁参照。 概念内容等詳しくは前掲注︵1︶の両拙稿を参照。 もっとも判決理由では、厳密に言えば﹁法的効力﹂を認めるとの表現であった。 ただし厳密に言うと、判決理由では﹁法的効果﹂を認めたと明示的には言っていないので、﹁事実的効果﹂を理由に処分性を もっとも食品衛生法事件や医療法事件では、﹁法的効果﹂要件認定の前提として、﹁実効的な権利救済﹂という観点が内在的に         土地区画整理法事件では、これが外在的な要件として踏まえられているという解釈手法上の重要な相違もあ O この点山本隆司﹁処分性︵四︶﹂法教三三五号︵二〇〇八年︶五一頁以下は、近年の処分性拡大判例の特徴につき、﹁行政機関         ︵一部︶要件を前倒しして最終決定する制度ないし慣行を形成している場合﹂に処分性を認めるものと指摘 したがって、公法上の確認訴訟において求められる﹁紛争の成熟性﹂と、処分性拡大を踏まえた取消訴訟において求められる 83

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﹁紛争の成熟性﹂とでは、異なる側面があるようにも思われる。もっともこれに対し、前述した中川氏の議論も参照。 ︵36︶ 例えば高木光﹃行政訴訟論﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶五五頁以下や、春日修﹁土地利用規制と司法救済﹂法経論集一八二号  ︵二〇〇九年︶一九頁以下等参照。 ︵37︶ 例えば中川・前掲注︵5︶三〇頁、越智敏裕﹁処分性をめぐる最近の最高裁判決の動向﹂ひろば八九巻五号︵二〇〇六年︶  一二頁注︵二〇︶、同﹃アメリカ行政訴訟の対象﹄︵弘文堂、二〇〇八年︶四六四頁等を参照。関連して西鳥羽和明﹁抗告訴訟の訴  訟類型改正の論点﹂法時七七巻三号︵二〇〇五年︶四一頁も参照。 ︵38︶ この点渡邉亙﹁抗告訴訟と当事者訴訟の機能分配に関する一試論﹂白鴎一五巻二号︵二〇〇八年︶二四頁以下は行訴法三条  ﹁その他公権力の行使に当たる行為﹂を手掛かりとして、また橋本・前掲注︵27︶八八頁以下は“手続的利益の侵害”を手掛かり  として、それぞれ、処分性拡大判例を解釈論的に受け止めようと試みられている。 ︵39︶ この点本判決の近藤裁判官補足意見で、違法性の承継や出訴期間の経過措置的解釈が議論されている。もっとも、こと取消訴  訟に関連してのみならず、公法上の確認訴訟等の他の訴訟類型との関連においても、その種の法理を議論していく必要があろう。  しかしこの点についても、取消訴訟の排他的管轄との関係でさらに議論をする必要がある。例えば白藤相剋・前掲注︵14︶二二〇  頁は、ある行政の行為につき処分性があることが明らかでない限り、取消訴訟を提起するか当事者訴訟・民事訴訟を提起するか  は、あくまでも原告の選択にゆだねられているとの解釈を提案される。関連して橋本・前掲注︵27︶九〇頁以下も参照。 ︵40︶ 代表的な議論として橋本・前掲注︵27︶一二一二頁以下参照。 ︵41︶ 見上崇洋﹁行政計画﹂磯部力ほか編﹃行政法の新構想■﹄︵有斐閣、二〇〇八年︶所収五七頁は、近時の判例の展開を受け、  ﹁スナップショット的に固定的に捉えた行政計画論ではなく行政過程の中での位置を法的に捉えていく可能性と意味﹂が生じてき  たと指摘される。 ︵42︶ 山本隆司﹁行政訴訟補遺﹂法教三四〇号︵二〇〇九年︶七三頁以下参照。 ︵43︶ 山田洋﹁事前手続と事後手続﹂前掲注︵41︶所収二二二頁は、﹁行政行為という事前と事後の問の垣根をとり払って、行政目  的実現に至るプロセス全体の中で、関係者の地位を中心とする手続のあり方を再検討﹂する必要性を指摘される︵また同二三四頁 84

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も参照︶。関連して比較法研究の観点から、同﹃大規模施設設置手続の法構造﹄︵信山社、一九九五年︶エハ七頁等も参照。さらに 拙稿﹁米国連邦税確定行政における﹁査定︵器器器ヨ①旨︶﹂の意義︵一︶∼︵三・完︶﹂福井大学教育地域科学部紀要第皿部︵社会 科学︶六一号∼六三号︵二〇〇五年∼二〇〇七年︶参照。 ︵44︶ ちなみにこういった﹁行政過程﹂の”手続構造”分析という観点からすれば、場合によっては、﹁争訟過程﹂のみならず﹁立 法過程﹂をも含める必要が出てくるかもしれない。この点、条例制定行為につき処分性を認めた横浜市保育所廃止条例事件︵最判 平成一二年二月二六日一最高裁HP︶を素材にさらに検討する必要がある。 1たかぎ ひでゆき・法学部准教授1 85

参照

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