I
はじめに
収益の認識に関する問題は、近年の企業取引 の複雑化・多様化や収益の不正計上などを契機と して、国際会計基準審議会(以下IASB
)や米国の 財務会計基準審議会(以下FASB
)を中心に議論 が重ねられ、会計の根幹を成す利益計算や業績 報告に直結する点できわめて重要な課題といえる。 特に、数期間にわたる財と役務の提供が融合した 複数構成要素取引に係る包括的な収益認識基準 がない中で、類似の取引に対して異なる利益が計 上されることがあるとすれば、是正しなければなら ないであろう。 周知のとおり、現行の収益の認識は実現稼得 過程アプローチ(realization and earnings process
approach
)にもとづいているが、稼得過程のあいまいさによる多様な運用や複数構成要素取引へ
の対応のため、
IASB
は2002
年よりFASB
と共同で収益認識プロジェクトを開始し、資産負債アプ
ローチ(
asset and liability approach
)にもとづいた収益認識に関する包括的基準の開発に取り組 んできている。同プロジェクトでは、これまで契約 上 の 履 行 義 務 に 焦 点 をあて て、測定モデル (
measurement model
)1)と顧 客 対 価 モ デル顧客対価
モデルにもとづく
収益認識
における
履行義務
の
測定
1)共同プロジェクトは、当初は、法的解放金額(legal layoff amount)モデル、 公正価値モデル(fair value model)、 測定モデルと称し、IASB[2008d]では 現在出口価格アプローチ
(current exit price approach)と称している。 本論文では、測定モデルについて直接的に 取り扱わないが、以下、説明を付け加えておく。 測定モデルにもとづけば、収益を、顧客へ財や 役務を提供する契約の獲得やそれらを実際に 提供することによってもたらされる契約資産の 増加または契約負債の減少にもとづいて認識する。 具体的には、顧客との契約時に、未履行義務の 法的責任を第三者の市場参加者へ引き受けて もらうために支払うべき金額(現在出口価格 (current exit price))で測定し、義務の履行と
未履行義務の出口価格の変動に応じて 収益を認識する。当該モデルの最大の特徴は、 未履行義務を測定時点での出口価格で 可児島達夫 Tatsuo Kanishima 滋賀大学経済学部 / 准教授 論文
(
customer consideration model
)2)という2
つの収 益認識モデルが提案されてきたが、その暫定的結 論として2008
年12
月にIASB
はFASB
と共同で討 議資料「顧客との契約における収益認識に関する 予備的見解」(IASB
[2008d
]:以下DP
)を公表し、 そこでは顧客対価モデルをベースとした収益認識 基準が提案されている。 本稿では、DP
における顧客対価モデルにもとづ いた収益認識と履行義務の測定に焦点をあて、そ こに内在する資産負債アプローチの機能を分析し、 履行義務の充足にもとづく収益認識と、正味ポジ ションの変動にもとづく履行義務の測定とが独立 的に機能することにより、顧客対価モデルに多様 性があることを明らかにするとともに、その意義と 課題について考えてみたい。 以下、まず、顧客対価モデルに内在する資産負 債アプローチの特徴についてFASB
の1976
年討 議資料(FASB
[1976
])にもとづいて明らかにする。 次に、DP
の収益認識モデルについて概観するとと もにその特徴を明らかにし、設例を用いて現行実 務(実現稼得過程アプローチ)、顧客対価モデル、 さらには複数構成要素取引の収益認識において 有用と考えられるビルディング・ブロック・アプロー チ(building block approach
:以下BBA
)3)について具体的に明らかにした上で、三者の比較分析を 行い、顧客対価モデルの多様性について検討する。
II
資産負債アプローチの特徴
資産負債アプローチは、資産を将来の経済的 便益、負債を将来の経済的便益の犠牲ととらえて、 企業の取引を両者の増減額に着目して記録して いき、利益を企業の富の増分ととらえて、資本取引 を除く期首と期末の純資産の差額として計算する アプローチである。他方、収益費用アプローチは、 収益を企業の収益稼得活動からのアウトプット (成果)、費用を当該活動へのインプット(努力)と とらえて、両者を関連づけるための認識時点決定 が重要とされ、収益を実現稼得基準、費用を発生 基準かつ収益に対する対応原則にもとづいて認 識し、利益を経営者の業績尺度とみなして、一期 間の収益と費用の差額として計算するアプローチ である。FASB
[1976
]によれば、両アプローチの認識対 象は多くの部分が共通である(par.
)が、相違点 として後者には期間損益計算を重視する観点か ら前者の資産や負債の定義に合致しない一部の 繰延項目や 引当金 の 計上 が 指摘 されて いる 測定するため、契約時において、義務の測定額が、 それ以前のコストとマージンを加えた 顧客対価額よりも下回ることが多いため、 収益が認識されることである。また、義務の履行に 応じて認識する収益額は、未履行義務の 現在出口価格による再測定に影響されるため、 総収益額が顧客対価額と一致しない可能性がある。 共同プロジェクトでは、こうした特徴とともに、 履行義務の測定に係る現在出口価格の 観察可能性や履行義務を法的に 引き受けてもらうという取引の仮定に 疑問が呈せられ、代替案として顧客対価モデルが 提案された(IASB/FASB[2007]、 Schipper, K.A.[2009])。 なお、測定モデルに関しては、 たとえば浦崎[2008]において詳説されている。 2)共同プロジェクトは、当初は、顧客対価額(customer consideration amount)モデル、 履行価値(performance obligation value)モデル、
配分モデル(allocation model)、 顧客対価モデルと称し、IASB[2008d]では 当初取引価格アプローチ
(original transaction price approach)と称している。 なお、顧客対価モデルに関しては、
たとえば山田[2008]において詳説されている。 3)BBAは、主に、現在IASBとFASBとの 共同プロジェクトで議論中である保険契約の 会計処理において用いられており、 将来の期待キャッシュ・フロー、貨幣の時間価値、 将来キャッシュ・フローの金額と時期に係る 不確実性がもたらすリスク調整、マージンの 4つの要素を取り入れて、保険負債を測定する 方法である。ただし、その種類はさまざまであり、 本稿では、当該用語をIASB[2008d]において 当初取引価格アプローチ(顧客対価モデル)の 代替的な方法として示されたBBAの意味で 用いることとする。なお、IASB[2008d]では 貨幣の時間価値は考慮されていない。
(
par.
)。しかし、前者の対象となるが、後者の対 象とならない項目にはどのようなものが存在するの であろうか。FASB
[1976
]によれば、「純資産の増減が、(中 略)ある種の保有利得のように、利益測定に作用 しない取引ないし事象に起因するものでないかぎ り、純資産の増加を認識するということは収益を 認識するということであり」(par.
)、「収益実現 ルールと費用収益対応ルールは、資産負債アプ ローチのもとで資産・負債の変動の認識手段とな り得るのであり、資産・負債のある種の変動の認 識は、収益費用アプローチのもとで収益実現ない し収益・費用対応の手段となり得る」(par.
)の で、両アプローチは認識対象として多くの重なり合 う部分があるものの、前者の対象となるが、後者 の対象とならないものとして収益・費用ではないあ る種の保有利得(または損失)の可能性を示唆し ている。 具体的な測定に関しては、両アプローチとも「財 務諸表の構成要素のいくつか異なった属性の測 定と両立する。(中略)現在市場価格での測定を 擁護する代表的論者の何人かは資産負債アプ ローチの支持者であり、現行の取引基準会計を 擁護する代表的論者の何人かは収益費用アプ ローチの支持者であるが、そうした組合せは不可 避的なものではない」(par.
)として、資産負債ア プローチ自体は測定属性の決定に中立であること を明らかにしている。しかし、測定属性として不可 避的ではないにせよ、時価が選択される可能性も 否定できないといえる。この点において、「将来の 経済的便益」(FASB
[1985
]、par.
)という資産 の定義や「将来の経済的便益の犠牲」(FASB
[1985
]、par.
)という負債の定義から直接的に 測定尺度を導く意味で資産負債アプローチを解 釈する可能性もあり、それが収益認識プロジェク トの初期の段階において、履行義務を公正価値 で測定し、その減少額をもって収益を計上する測 定モデルが主張された一因でもあると考えられる。 しかし、資産負債アプローチの本来の役割につ いて、FASB
[1976
]によれば、「収益・費用・利益 の定義に対して経済的資源・責務の変動との関 連づけという制約を課することは、利益概念を明 確化し、利益測定値の信頼性を高めるために必要 である」(par.
)として、収益費用アプローチにも とづく取引額ベースの期間配分による収益・費用 計算にあたって資産・負債の変動に跡付けて認 識するとともに、見越・繰延項目の計上にあたって は資産や負債の定義(将来の経済的便益とその 犠牲)に合致するように「定義によってその認識を スクリーニングする」(辻山[2007
]、35
頁)収益費 用アプローチの認識対象の枠内での資産負債ア プローチの適用の必要性が示唆されている。そし て、このような資産負債アプローチの役割を重視 するのが、まさに後述するDP
が提案する顧客対 価モデルであると思われる。 当該意味での資産負債アプローチは、企業取 引を資産・負債の増減に焦点をあてて記録する点 にその特徴があり、実現稼得過程アプローチによ 4)本稿におけるIASB[2008d]からの引用箇所は、 特にことわりがない限り、パラグラフ番号のみで示す。 5)収益について、SFAC第6号では、 「財貨の引渡もしくは生産、用役の提供、 または実体の進行中の主要なまたは中心的な 営業活動を構成するその他の活動による、 実体の資産流入その他の増加もしくは 負債の弁済(または両者の組み合わせ)である」 (FASB[1985]、par.)と定義づけ、 またIAS第18号では、「持分参加者からの 拠出に関連するもの以外で、持分の増加をる収益認識を資産・負債の変動によって裏付ける 役割を有するのに加えて、前述するような収益費 用アプローチの直接的な対象ではないある種の 保有利得または損失(その他包括利益に計上され る項目と考えられる)を固有の認識対象とする可 能性も秘めており、当該項目が実現稼得過程アプ ローチによる収益認識の裏付けに関係するのであ れば、それも含めて収益費用アプローチを補完す る役割を成しているといえるのではないかと考える。 そして、当該項目の測定属性の決定に関しては中 立としつつも、原価か時価かともに可能性があると いえ、後述する
DP
で紹介されているBBA
がそれを 反映したモデルと思われる。このことから、BBA
が 顧客対価モデルの応用モデルであり、顧客対価モ デルに多様性があるという仮説を導くことができ る。以下、それを検証するとともに、その意義と課 題について考えてみたい。III
IASB
討議資料における
収益認識モデル
4)1
:収益の定義と資産負債アプローチの機能 収 益 に つ い て、FASB
の財 務 会 計 概 念 書 (SFAC
)第6
号(FASB
[1985
])やIASB
の国際会 計基準(IAS
)第18
号(IASC
[1993
])における資 産・負債の変動に依拠した定義5)にもとづいて、資 産負債アプローチによる収益認識原則を提案す る。具体的には、従来の稼得過程アプローチでは 契約期間を通じて資産・負債の変動がほとんど考 慮されずに収益が計上され、結果として財務諸表 における契約上の権利と義務を正しく表示しない とし(par..
)、「資産・負債の変動に焦点を当てる ことは稼得過程アプローチに規律をもたらし、企 業が収益をより整合的に認識できるようになる」 (par..
)と主張する。したがって、DP
は資産負 債アプローチについて、稼得過程アプローチによ る収益認識の裏付けとして資産・負債の変動に着 目し、Ⅱで示した収益費用アプローチを補完する 役割を有するものと捉えている。ただし、留意すべ き点は、当該変動の具体的な測定属性の決定と は無関係であるということである6)。2
:顧客との契約にもとづいた 正味ポジションの変動による収益認識 契約と履行義務(performance obligations
)に ついて次のように定義する。「契約とは、強制可能 な義務を生じさせる複数の当事者間における合 意」(par..
)であり、「履行義務とは、顧客へ(財 または役務のような)資産を移転するという契約 上の顧客との約束」(par..
)である。 アメリカ契約法によれば、契約は1
個または複 数の約束から成り、その違反に対して法が救済を 与えるもの、または何らかの形でその履行を義務と して認めるものであり、履行すれば法的効果が認 められるものを意味するとされる(樋口[2004
]、16
頁)。したがって、契約の中に、顧客に対して1
つま たは複数の履行義務を将来に果たすという約束 が含まれており、履行義務には過去や現在を起点 もたらす一定期間中の企業の通常の 活動過程で生ずる経済的便益の総流入」 (IASC[1993]、par.)と定義づけている。 後者が資産や負債ではなく、その純額である 持分に依拠した表現であることを除けば、 ともに収益を資産の増加、負債の減少、 または両者の組み合わせと定義づけているといえる。 6)これまで共同プロジェクトにおいて提案された 測定モデルと顧客対価モデルはともに、 収益を契約資産の増加または契約負債の 減少にもとづいて認識する点で共通であり、 資産負債アプローチに依拠しているといえる。 しかし、資産負債アプローチに関して、 収益費用アプローチを補完する役割を 有するという解釈ではなく、近年、測定属性の 決定をも含めて拡大解釈する傾向があり、 前者に依拠して顧客対価モデル、 後者に依拠して測定モデルが登場したと思われる。 これについては、すでに多くの論者によって 指摘されているところである。 たとえば、以下の文献において指摘がなされている。 辻山[2007]、34-35頁。辻山[2008]、49-51頁。 山田[2008]、43-44頁。松本[2009a]、49-50、54-55頁。として将来を見据えた要素が含まれていると解釈 できる。 その上で、「顧客との契約は、企業に顧客から対 価を受け取る権利をもたらし、同時に顧客へ(財 や役務のような)資産を移転する義務を課し」 (
par..
)、契約における各財務諸表日の残存権 利と残存義務の測定値の差を正味ポジション(net
contract position
)と称して、プラスの場合は契 約資産(contract asset
)、マイナスの場合は契約負債(
contract liability
)となる(par..
)。すなわ ち、式で示せば、以下のとおりである7)。 正味ポジション=契約上の残存権利−契約上の 残存義務=契約資産(または契約負債) 図表1
は履行と正味ポジションの変動との関係 を示したものである。下欄のように、企業に約束し た財や役務を提供する残存義務があり、契約負 債が存在する場合、それらを顧客へ提供した時点 で契約負債が減少し、収益が認識される。企業の 履行によるこれらの変動(契約における義務の充 足)によって、顧客に対する債権がある場合には 契約資産が増加し、すでに顧客の支払いを得てい る場合には契約負債が減少し、結果として純資産 の増加 をもたらす た め、収 益 が 認識 され る (par..
)。 ここで留意すべき点は、正味ポジションの変動 による収益認識は、資産・負債の変動にもとづい て収益を認識することのみを示しているのであり、 前述の式の右辺の残存権利と残存義務の測定尺 度を規定するものではないということである。3
:履行義務の充足による収益認識 顧客への資産の移転のパターンを忠実に表現 するために(par..
)、顧客が約束した複数の資 産を異なる時点で受け取る場合には、契約上の約 7)辻山教授も正味ポジションを 同様の式で定義されている(辻山[2009]8頁)。 8)IAS第18号「収益」は、収益の認識要件の 一つとして、リスクと経済価値の顧客への 移転を含めている(IASC[1993]、par.(a))。 IASBの概念フレームワークでは、資産を 「過去の事象の結果として当該企業が支配し、 かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが 期待される資源」(IASC[1989]、par.(a))と定義し、 支配に依存して定義づけている。 9)2010年6月に公表された公開草案 「顧客との契約から生じる収益」では、 支配の意味について、顧客が財または 役務の使用を指図する能力を有し、かつ、 それから便益を享受する能力を有する状況と 示されている(IASB/FASB[2010]、par.)。 さらに、顧客が財または役務の支配を 獲得する例として、具体的に以下のように 示している(IASB/FASB[2010]、par.)。 (a)支払期日の到来など無条件に支払う義務を有する場合 (b)法的所有権を有する場合 (c)物理的に所有している場合 (d)仕様または機能が顧客に固有な場合 10)DPでは、当初取引価格アプローチ(つまり 顧客対価モデル)と対比して、現在出口価格 アプローチ(つまり測定モデル)についても 検討している。前者を採用する理由としては、 ①契約時の収益認識が生じないこと (履行義務の充足に応じた収益認識という 観点からすれば、両当事者とも契約時には 未履行のため契約資産も収益も認識するべきではない)、 ②測定の簡潔性・リスクの軽減(契約時の 図表[1]顧客と企業の履行と正味ポジションの関係 契約上の 正味ポジション 契約資産 契約負債 顧客の支払い(残存権利の減少) 減少 減少 増加 企業の財やサービスの提供 (残存義務の減少) 増加 増加 (収益認識) 減少 (収益認識) (出所:par..)束を別 々の 履行義務 に識別 する必要 がある (
par..
)。企業は約束した資産を顧客へ移転し、 顧客が当該資産を受け取った時点で、企業は識別 された履行義務を充足(satisfaction
)し、相当の 収益を認識する(pars..
、.
、.
)。 資産の移転とは「資産の支配にもとづいた移転 (transfer on the basis of control of an asset
)」(
par..
)を意味し、支配にもとづいた移転は所有 に係るリスクと経済価値を基礎とした移転8)と異 なる場合があるとされる(par..
)が、支配の意味 について、通常は顧客が財を物理的に占有したと きに生じる(par..
)程度の説明のみで、必ずしも 明確ではない。支配の定義によって、履行義務の 充足パターンが異なり、収益認識に影響をおよぼ すので非常に重要な問題であると解するが、これ については稿を改めて検討することとしたい9)。4
:履行義務の測定 契約時の当初測定(initial measurement
)では、 履行義務を顧客対価によって測定する当初取引価 格アプローチ(original transaction price approach
)が採られている10)。このアプローチでは、契約時に は権利と履行義務が取引価格で測定されるので、 正味ポジションは生じず、契約資産も契約負債も 発生しないので、当然ながら収益も認識されない (
par..
)。 以降の事後測定(subsequent measurement
) では、当初取引価格の一部を各履行義務に対して 当該履行義務の基礎となる約束した財または役務 の独立販売価格(stand-alone selling price
)11)に比例して配分する。それにもとづいて、各財務諸表 日における残存履行義務の測定値を算定し、各 履行義務が充足されるに応じて、企業の正味ポジ ションが、充足された履行義務に相当する金額だ け増加し、収益が認識される(
pars..
、
、
)。 結果として、履行義務が充足される期間にわたっ て、履行義務の当初測定値(当初取引価格)に等 しい収益額が認識されることになる(par..
)。す なわち、履行義務の充足のタイミングで、正味ポ ジションの変動によって収益を認識することを意 味し、あくまで履行義務の充足による収益認識が 主導である。 ただし、契約履行にもとづく履行義務の充足以 外による事後測定を再測定(remeasurement
)と 称し(par..
)、履行義務の帳簿価額が顧客に財 や役務を提供するという企業の義務を忠実に描 写せず、不利(onerous
)な場合に限り、履行義務 を再測定する(par..
)。不利な履行義務の識別 方法として、予想コストが帳簿価額を超えた場合 に限って当該差額を契約損失として認識するコス 取引価格の観察可能性)をあげている(pars..-)。 他方、後者を採用しない理由としては、 ①逆に契約時の収益認識の可能性、 ②見積りの複雑性(残存義務の現在出口価格は ほとんど観察可能ではない)、 ③経済的実質(履行義務の移転が非現実的で あることから、履行義務の財や役務の 提供による充足という企業の意図を反映する 測定アプローチが望ましい)、 ④誤謬のリスク(出口価格の見積りの誤差によって 過大な収益を認識することになり、 契約時に認識される収益が誤差の結果か 正味ポジションの増加によるものか立証が 困難である)をあげている(pars..-)。 11)財または役務の独立販売価格とは、 「契約開始時においてその財または役務を 別々に(つまり、一組の財や役務の 一部としてではなく)販売したと仮定した 場合の価格である。」(par..) 独立販売価格が観察可能ではなく、 入手できない場合には、見積価格を 使用する(par..)。具体的な見積方法としては、 (a)予想コスト・マージン加算アプローチ (expected cost plus a margin approach) (履行義務を充足するための予想コストに、他の類似する財や役務に企業が要求する マージンを加算する方法)、
(b)市場評価調整アプローチ
(adjusted market assessment approach) (市場競合相手の取引価格を参照し、
それに自社のコストとマージンを反映するように 調整する方法)の2つの方法をあげている(par..)。
ト・トリガー(
cost trigger
()par..
)と、マージンを含めて再測定し、帳簿価額を超えた差額を契
約損失として認識する現在価格トリガー(
current
price trigger
()par..
)について検討している12)。5
:正味ポジションの変動と履行義務の 充足の関係 既述のとおり、DP
は、対価である権利よりも履 行義務の充足によって義務が減少すれば、両者の 差額を“正味ポジション”と称し、その変動によっ て収益認識する考え方を採っているが、測定尺度 まで規定しているわけではない。 図表2
は、正味ポジションの変動と履行義務の 充足の関係について示したものである。DP
の提案 モデルは、不利な場合を除いて、履行義務の充足 のタイミングでのみ、正味ポジションの変動をとら えて収益認識し、その測定については顧客対価を ベースとした履行義務への配分額で計上する。 12)コスト・トリガーは、IAS第11号「工事契約」で すでに適用されており、現在の予想契約コストの 総額が契約の予想収入額を超え、損失の可能性が 高い場合に、予想される損失(expected losses)を 当期の損失として認識する(IASC[1993]、par.)。 他方、現在価格トリガーは、IAS第37号 「引当金、偶発債務および偶発資産」に従った 方法であり、履行義務を①財務諸表日において 第三者に当該義務を移転するために必要な 金額(現在出口価格)と②財務諸表日において 顧客と決済する金額(現在取引価格)のいずれか 低い方で再測定する(IASC[1998]、pars.、)。 再測定に関して、DPは次のような 具体例をあげている。期間2年の工事契約を 価格100,000で顧客と締結し、代金は契約時に 現金で受け取り、工事役務および材料は 2年間均等に顧客へ移転されるため、 履行義務を各年50,000に配分する。 契約時の予想コストは80,000であったが、 1年経過後、労務費および材料費の高騰のため、 予想コストが40,000から51,000へ上昇した。 また、その時の残存義務のIAS第37号に 従った測定値は59,000であったと仮定する (pars..、、)。コスト・トリガーによれば、 2年目の予想コスト51,000が帳簿価額50,000を 超えるので、当該履行義務は不利とみなされ、 1年目に利益9,000(収益50,000−費用40,000− 契約損失1,000)が認識され、 2年目の利益は0(収益50,000−費用51,000+ 前年度の契約損失の戻入れ1,000)となる。 収益に係る部分の仕訳を示せば以下のとおりである。 1年目: (借)契約負債 50,000 契約損失 1,000 (貸) 収 益 50,000 契約負債 1,000 2年目: (借)契約負債 51,000 (貸) 収 益 50,000 契約利得 1,000 この場合、履行義務の測定値に含まれるマージンが、履行義 務の不利な変化を吸収するバッファーとして機能するため、予 顧客対価 収益認識 契約資産の減少または契 約負債の増加 契約資産の増加または契 約負債の減少 再測定 −← 0 →+ 履行義務の充足 正味ポジション 収益または利得 図表[2]正味ポジションと履行義務の充足の関係しかし、正味ポジションの変動をとらえた収益 認識やある種の保有利得の認識にあたっては、履 行義務の充足以外の事象(たとえば、各財務諸表 日における残存権利や残存義務の再測定)を考 慮することも考えられるので、履行義務の充足によ る収益認識と正味ポジションの変動による認識は、 基本的に独立であるといえる。
IV
設例にみる現行実務、
顧客対価モデルおよび
ビルディング
・ブロック・
アプローチ
設例を用いて、現行実務、前述のDP
が提案す る顧客対価モデル、およびDP
では少数意見として 紹介されているが、顧客対価モデルの応用モデル と思われるBBA
について具体的に明らかにする。 なお、設例については、三者の相違を明確に浮 き彫りにし、Ⅴでの比較検討に資するため、IASB
[2008c
]で示された延長保証付きテレビ販売の 設例を参考にしながら、一部条件を変更した設例 を用いる。 【設例】延長保証付きテレビ販売 ①家電小売業者であるR
社は、2007
年12
月31
日 に、法定保証1
年と延長保証2
年付きのテレビ を20
台販売する契約を顧客と結んだ。 ②通常、テレビ(法定保証を含む)の単価は2,000
、 延長保証の単価は400
であるが、セットで2,300
で現金で販売した。 ③経験上、3
年間の保証期間内に保証する可能性 が20
%と予想できる。内訳 は、2008
年5
%、2009
年5
%、2010
年10
%である(実際も同様で あった)。 ④テレビの原価は1
台あたり1,600
、保証請求に係 るコストは1
件 につき400
であった。ただし、2009
年12
月31
日に、保証請求に係る予想コス トが1
件につき400
から450
へ増加し、実際コス トも予想コストに等しかった。 ⑤他の関連コストや手数料、返品権は無いものと し、保証契約は解除不能であり、貨幣の時間価 値による影響については考慮しない。 ⑥法定保証は個別に販売されていないので、テレ ビ単価2,000
のうち25
を法定保証相当分である と見積る。 想コストの不利な変化は当期ではなく、将来の利益を減少さ せることになる(par..)。 他方、現在価格トリガーによれば、2年目の残存義務の IAS第37号に従った測定値59,000が帳簿価額50,000を超 えるため、当該履行義務は不利とみなされ、1年目に利益 1,000(収益50,000−費用40,000−契約損失9,000)が認 識され、2年目に利益8,000(収益50,000−費用51,000+前 年度の契約損失の戻入れ9,000)が認識される。収益に係る 部分の仕訳を示せば以下のとおりである。 1年目: (借)契約負債 50,000 契約損失 9,000 (貸)収 益 50,000 契約損失 9,000 2年目: (借)契約負債 59,000 (貸)収 益 50,000 契約利得 9,000 この方法によれば、前者と異なり、 利用者に対して不利な変化に関する情報を よりタイムリーに提供することとなる(par..)。 当初、顧客対価による履行義務の 当初測定との整合性をはかるため、 再測定においてもマージンを含むべきとして、 現在価格トリガーが支持されたものの(par..)、 頻繁に再測定を行う可能性(par..)、 観察可能な価格が存在しない場合における マージン算定の複雑性(par..)、 および2年目に契約利得9,000と利益8,000が 認識されるが、顧客からの追加的対価はなく、 利益の認識パターンが直感的ではない点(par..)を考 慮して、結果的には実践可能性の観点から コスト・トリガーが支持されている(par..)。 なお、2009年11月のボード・ミーティングでは、 不利な場合の再測定がコスト・トリガーによることが 暫定的に結論づけられており(IASB/FASB[2009]、par.)、 2010年6月公開草案でもコスト・トリガーを 基礎とした処理を行うことが示されている (IASB/FASB[2010]、par.)。1
:現行実務における会計処理 現行実務(実現稼得過程アプローチ)では、対 価を相対的公正価値法13)にもとづいて各会計処 理の単位に配分していく。具体的には、値引額100
をテレビ(法定保証を含む)の単価2,000
と延 長保証の単価400
に応じて按分し、各単価から減 算することで、対価額2,300
をテレビ(法定保証を 含む)1,917
(≒2,000
−100
×2,000/2,400
)と延 長保証383
(≒400
−100
×400/2,400
)に配分す る(IASB
[2008c
]par.
)。なお、現行実務では 独立販売価格の客観的かつ信頼性のある証拠を 重視し、法定保証については観察可能な独立販 売価格がないため、テレビと一体のものとみなさ れる(IASB
[2008c
]par.
)。R
社は、2007
年にテレビを引渡し、代金46,000
(=2,300
×20
台)を現金で受け取っている。この うち、テレビの配分額38,340
(=1,917
×20
台)は、 実現稼得しているため収益計上されるが、延長保 証の配分額7,660
(=383
×20
台)は、延長保証期 間の経過につれて稼得するといえるので繰延収益 として計上される(IASB
[2008c
]par.
)。2007
年12
月31
日の仕訳は以下のとおりである。 (借) 現 金46,000
(貸) 収 益38,340
繰延収益
7,660
延長保証に係る収益は保証期間の経過に渡っ て、契約時での過去の経験にもとづいた予想保証 確率(2009
年:5
%、2010
年:10
%)を基礎として 認識されるので、2009
年には延長保証に係る収 益額の1/3
、2010
年には同2/3
が計上される。した がって、2009
年は2,553
(≒7,660
×1/3
)、2010
年 は5,107
(≒7,660
×2/3
)となる。各年12
月31
日の 仕訳は以下のとおりである。2009
年12
月31
日 (借) 繰延収益2,553
(貸) 収 益2,553
2010
年12
月31
日 (借) 繰延収益5,107
(貸)収 益5,107
2
:顧客対価モデルにもとづく会計処理 顧客対価モデルにもとづけば、契約時の権利の 金額は履行義務に配分された対価額に等しいの で損益は生じない(IASB
[2008c
]par.
)。テレビ、 法定保証および延長保証は、顧客へ個別に提供 される財や役務である(IASB
[2008c
]par.
)の で個々の履行義務と識別する。観察可能か見積り かに関係なく、それぞれの独立販売価格が顧客 対価を配分するために用いられる。配分の基礎と なる独立販売価格は、過去の保証範囲にもとづ いて予想コストを用いて見積る(IASB
[2008c
]par.
)。 ここで、法定保証は個別に販売されていないが、 テレビ単価2,000
のうち25
を法定保証相当分であ ると見積っているので、値引額100
をテレビ、法定 保証および延長保証の各単価1,975
、25
および400
に応じて按分し、各単価から減算することで、 対 価 額2,300
を テ レビ1,893
(≒1,975
−100
×1,975/2,400
)、 法 定 保 証24
(≒25
−100
×25/2,400
)および延長保証383
(≒400
−100
×400/2,400
)に配分する(IASB
[2008c
]par.
)。R
社が代金46,000
(=2,300
×20
台)を現金で 受け取った時点で、正味ポジションは減少し、各 履行義務が上記の対価配分額をもとに契約負債 として計上される。すなわち、テレビに係る履行義 務の対価配分額は37,860
(=1,893
×20
台)、法 13)2003年にFASBが公表した 緊急問題タスクフォース(EITF)第00-21号 「複数の提供物を有する収益契約」によれば、 相対的公正価値法とは、契約対価を 売り主固有の客観的証拠(vendor-specific objective evidence:VSOE)にもとづいた価格または同業他社等の同様の製品の販売価格に
定保証に係る履行義務の対価配分額は
480
(=24
×20
台)、延長保証に係る履行義務の対価配 分額は7,660
(=383
×20
台)となる。契約開始時 の仕訳は以下のとおりである。 (借) 現 金46,000
(貸) 契約負債37,860
(テレビ) 契約負債480
(法定保証) 契約負債7,660
(延長保証)2007
年にはテレビの引渡しに係る履行義務の 充足による契約負債37,860
の減少、2008
年には 法定保証に係る契約負債480
の減少によって、正 味ポジションが増加し、同額の収益が計上される。 各年12
月31
日の仕訳は以下のとおりである。2007
年12
月31
日 (借) 契約負債37,860
(テレビ) (貸) 収 益37,860
2008
年12
月31
日 (借) 契約負債480
(法定保証) (貸) 収 益480
2009
年と2010
年には、延長保証に係る履行義 務に配分された契約負債7,660
が各年度の履行 義務の充足に応じて減少し、正味ポジションが増 加し、収益が認識される。具体的には、契約負債7,660
が契約時における予想保証確率(2009
年:5
%、2010
年:10
%)に応じて按分され、2009
年 には2,553
(≒7,660
×1/3
)、2010
年には5,107
(≒7,660
×2/3
)の契約負債が減少することによって、 正味ポジションが増加し、同額の収益が計上され る。各年12
月31
日の仕訳は以下のとおりである。2009
年12
月31
日 (借) 契約負債2,553
(延長保証) (貸) 収 益2,553
2010
年12
月31
日 (借) 契約負債5,107
(延長保証) (貸) 収 益5,107
3
:ビルディング・ブロック・アプローチ(BBA
) にもとづく会計処理DP
では、前述の当初取引価格アプローチ(つま り顧客対価モデル)の代替方法として、(a
)契約時 から履行義務を第三者に引き受けてもらうために 支払う金額で測定する現在出口価格アプローチ (つまり測定モデル)(Appendix B-
)、(b
)契約 時は顧客対価を履行義務へ配分するが、事後で は履行義務を顧客へ請求するであろう販売価格 で再測定する取引価格アプローチ(Appendix
B-
)、(c
)顧客対価が要素またはビルディング・ ブロックから構成されている点に着目して、予想コ スト部分を更新し、履行義務を再測定するBBA
の 可能性が示唆されている(Appendix B-
)。 (a
)(b
)(c
)ともに再測定する点で共通である。 (a
)と(b
)は再測定にあたって、市場価格と企業の 販売価格と異なるが、両者とも公正価値により、部 分的に充足した履行義務に応じたマージンを見 積る困難性の問題を伴う。しかし、(c
)は公正価値 を無視し、マージン見積りの困難性を回避できる 点で注目に値すると思われる。2007
年におけるテレビと製品保証の合計の顧 客対価額を現金で受取った契約開始時の会計処理とテレビの引渡し時の会計処理、
2008
年にお ける法定保証の履行時の会計処理については、 前述の顧客対価モデルと同様である。 問題は、2009
年と2010
年の延長保証に係る会 計処理である。2009
年末に2010
年における保証 請求に係るコストが400
から450
へ増加すること が予想されており、BBA
では当該リスクを考慮す ることとなる。 ここでは、DP
において提示されている2
つの方 法14)のうち、さしあたり予想コストに対して契約時 の利益率の分をマークアップして履行義務を再 測定する方法を取り上げる。すなわち、延長保証 の対価と延長保証開始時の予想コスト総額との 差額のマージンを基礎として、2009
年12
月31
日現 在の予想コストに対してマークアップしてマージン を算定した上で、履行義務を測定する。したがって、BBA
によれば、予想コストのみ再測定し、マージ ンは固定とみなして、履行義務を再測定することと なる。各金額を表で示せば、図表3
のとおりとなる。 この場合、収益は、状況に変化がなく、延長保 証開始時の予想コストにもとづき、延長保証の対 価に等しい履行義務の充足と減少に応じて、認識 する。したがって、前述の顧客対価モデルと同様、 延長保証の対価7,660
を予想コストにもとづいて、 各延長保証期間に配分する。具体的には、2009
年は2,553
(≒7,660
×(5
% ×20
台×400/15
% ×20
台×400
))、2010
年は5,107
(≒7,660
×(10
% ×20
台×400/15
% ×20
台×400
))となる。 しかし、履行義務に関しては、状況の変化によ る影響である2009
年末の保証請求に係る予想コ ストの増加50
を、当初取引価格である延長保証 対価にもとづいた履行義務の充足以外の正味ポ ジションの変動としてとらえ、契約損失として計上 し、再測定する。すなわち、2009
年には予想コス トの増加50
により生じた契約損失638
(=請求コ ストの増加50
×10
% ×20
台×7,660
/1,200
また は2008
年の契約負債7,660
−2009
年の契約負 債5,745
−2009
年の収益2,553
)が計上される。2010
年には当該契約損失を含む履行義務の充 足により、2009
年に認識された契約損失の戻入 れ部分から生じた契約利得638
が計上される。2009
年と2010
年の12
月31
日現在の仕訳は以 下のとおりである。2009
年12
月31
日 (借) 契約負債2,553
契約損失638
(貸)収 益2,553
契約負債638
2010
年12
月31
日 (借) 契約負債5,745
(貸)収 益5,107
契約利得638
14) DPでは、本稿で取り上げるコストに対して 契約時のマージン加算率分をマークアップする 方法のほかに、契約における企業の 業績のパターンに比例してマージンを 認識する方法が示されている (Appendix B21-22)。 図表[3]履行義務の再測定 予想コスト マージン 履行義務の測定値2008
年12
月31
日1,200
(注1)6,460
7,660
2009
年12
月31
日900
(注2)4,845
(注3)5,745
(注1)400×15% ×20台 (注2)450×10% ×20台 (注3)900×6,460/1,200V
現行実務、顧客対価モデル
およびビルディング
・ブロック・
アプローチ
(
BBA
)の比較検討
前章で示した顧客対価モデルとBBA
を現行実 務と比較することで、収益認識に係る履行義務の 充足と正味ポジションの変動が基本的には無関 係であり、顧客対価モデルにも多様性があること を明らかにしたい。 現行実務が、顧客対価モデルやBBA
と異なる 主な点は、前者では法定保証がテレビと一体とみ なされているのに対して、後者では法定保証が独 立の収益認識単位として扱われており、テレビの 引渡し時と法定保証期間の経過のそれぞれにお ける履行義務の充足に応じて、対価配分額の契 約負債が減少し、収益が計上される。したがって、 現行実務では2
つの履行義務に識別されるのに対 して、顧客対価モデルやBBA
は3
つの履行義務に 識別される(IASB
[2008c
]par.
)。 このような相違が生じるのは、法定保証の効果 をどのように考えるかによるものと思われる。現行 実務では、法定保証はその期間終了までは引渡し 時のテレビの性能が当然維持されることを確保す るための役務であり、延長保証はテレビの対価を 超えた追加的な役務の提供を伴うものと判断して いる。したがって、将来の法定保証費用の原因は テレビの引渡し時における保証契約にあり、その 費用はテレビの対価としての収益に負担すべきで あるという費用収益対応の観点から、テレビの引 渡し時に保証費用を計上し、同額を法定保証債務 (引当金)計上するのである。他方、顧客対価モデ ルやBBA
の場合、テレビの引渡し、法定保証役務 および延長保証役務は、それぞれ顧客へ財または 役務としての資産を移転するという契約上の約束 を示す履行義務であり、各履行義務を履行する ために要する将来の支出額を基礎とした各期末 の残存履行義務の測定に比重を置いているとい える。 次に、顧客対価モデルとBBA
を比較してみる。DP
が提案する顧客対価モデルでは、既述のとお り、当初取引価格である顧客対価を、契約時にお いて基礎となる約束された財または役務の独立販 売価格に応じて履行義務へ配分した上で、その後、 履行義務の充足に応じて、正味ポジションの変動 を認識し、契約負債の減少分を収益として計上し ていく。そして、過去の収益合計額と各財務諸表 日における残存履行義務の測定値との合計は、 契約時において履行義務へ配分された金額の合 計と一致することになる。他方、BBA
の場合、毎期 の収益計上額は顧客対価モデルと同じであるが、 契約負債の計上額が同モデルとは異なる。 顧客対価モデルやBBA
における収益認識に関 しては、契約時から延長保証期間終了まで、状況 に変化がないことを前提としており、特に2009
年 以降の延長保証役務において、当初の予想コスト 総額1,200
である投下資本の総額と、それに対す る延長保証対価7,660
の回収総額に着目して、各 期の収益は、個別の保証請求件数ではなく、契約 時の見積りにもとづくコスト発生確率(5
%・10
%) に応じて計上される。辻山教授が「結局、DP
にお いて提案されている顧客対価モデルは、履行義務 の充足に照らした収益の認識の結果として資産と 負債の認識額が決まるという意味において、結果 的に従来型の実現+稼得過程モデルと共通した モデルとなっている」(辻山[2009
]、14
頁)と指摘し ているように、「フローがストックの変動を規定して」(山田[
2008
]、44
頁)いるといえる。新田教授 によれば、収益費用アプローチは「活動が過去・ 現在・将来に亘って継続していくことを前提とし」 (新田[2006
]、9
頁)、そこでの視点は「各活動に投 下された資本である。」(新田[2008
]、10
頁)両モ デルとも収益認識に関しては、このような企業活 動の過去から将来に渡る継続性を有する収益費 用アプローチを補完する役割としての資産負債ア プローチに依拠しているといえる。 しかし、BBA
では契約負債を再測定し、その局 面では収益認識に係る履行義務の充足と正味ポ ジションの変動が基本的には無関係であるといえ る。次にその点を明らかにしながら、正味ポジショ ンの変動によって再測定された履行義務の意味 について考えてみたい。 ここで、再度、2009
年と2010
年の12
月31
日の 仕訳をみてみよう。2009
年12
月31
日 (借) 契約負債2,553
契約損失638
(貸) 収 益2,553
契約負債638
2010
年12
月31
日 (借) 契約負債5,745
(貸) 収 益5,107
契約利得638
契約負債の再測定に関して、2009
年の契約損 失638
は、履行義務の充足による契約負債評価 額5,107
(=7,660
−2,553
)と、当該時点での予想 コストの増加を考慮した上で契約時からそれに応 じた対価額を設定していたとすれば、残存履行義 務が増加していたと仮定して、それによる正味ポジ ションの変動を反映した契約負債評価額5,745
と の差額であり、契約時と当該時点との予想コスト の差(50
)を過去である契約時と比べた現在であ る当該時点以降の保証請求に係る予想外の事象 ととらえ損失として認識したものである。したがっ て、契約負債の再測定は、履行義務の充足とは関 係なく、正味ポジションの変動によるものであり、 この局面では両者は独立的に機能しているといえ る。このような契約負債の再測定にあたっては、 「現在を起点とし将来つまり事業の将来への継続 を見ているといえる」(新田[2006
]、10
頁)ので、そ の意味では収益費用アプローチの対象ではない 固有の認識対象を有する資産負債アプローチに 依拠した処理といえる。しかし、2009
年の契約損 失認識が収益認識に関係するのであれば、Ⅱで述 べたように、当該局面においても資産負債アプ ローチは収益費用アプローチを補完する役割を 成しているといえるのではないかと思われる。 ここでの延長保証に係る契約負債の再測定値 は、期末時点での予想コストに過去である契約時 のマージン加算率にもとづいてマークアップした 測定値である。予想コストは見積りの変更であり、 マージンは過去の経験にもとづくものであるので、 前述の収益認識と同様、過去からの事業の継続 性を前提としたフローから導出したストックの測 定値といえ、決して期末時点での履行義務の公正 価値を表しているわけではない。BBA
の場合、予想コストの変更が契約時から 把握可能であったと仮定した場合の延長保証の 対価設定額8,298
(≒コスト総額1,300
×7,660/
1,200
)と比べれば、2009
年では現行実務(実現 稼得過程アプローチ)や顧客対価モデルと同様の 対価ベースの収益額2,553
が低いため、相当する 履行義務(契約負債)の減少額は1,915
(=7,660
−(
8,298
−2,553
))であり、結果としての利益は1,515
となり、ともに現行実務や顧客対価モデルに 比べて契約損失638
の分、少なくなる。言い換え れば、2009
年の予想コストの上昇による契約損 失の認識によって、相対的に収益認識額を低下さ せて、成果として低い利益を計上しているといえる。 このことから、そこに内在する資産負債アプローチ は、現行実務(実現稼得過程アプローチ)による 収益認識を補完すべく、負債の変動を認識する役 割を果たしているといえる。ただし、当該履行義務 の再測定値が具体的にどのように意思決定に有 用な情報をもたらすのか、また、そこから導かれる 利益が何を意味するのかということについては、今 後検討すべき課題であると思われる。DP
の収益認識モデルの特徴は、契約時に履 行義務を識別し、測定は顧客対価にもとづいて配 分し、各履行義務の充足に応じて収益認識するこ とによって、複雑化する取引への対応が可能にな る点にあるが、このような履行義務の充足による 収益認識とは離れて、正味ポジションの変動によ る履行義務の測定が独立的に機能することによっ て、たとえばBBA
のように多様性を帯びた顧客対 価モデルの適用も考えられる。特に財と役務が混 合した複数要素から成り、数期間にわたる取引の 場合には検討の余地があると思われる。VI
むすび
以上、本稿では、資産負債アプローチの特徴を 示した上で、DP
の収益認識モデルについて概観 し、さらに設例を用いて現行実務、顧客対価モデ ルおよびBBA
を比較することによって、DP
が提案 する顧客対価モデルの特徴を明らかにするととも に、BBA
が顧客対価モデルの応用モデルであるこ とを示し、同モデルの多様性について検討した。DP
が提案する顧客対価モデルは、顧客との契 約を資産と負債に関連づけて構成要素に分解す ることによって履行義務を識別し、測定は当初取 引価格(顧客対価)を基礎とし、正味ポジションの 変動に焦点をあて、顧客への財や役務の支配の 移転という履行義務の充足に応じた契約負債の 減少(正味ポジションの増加)によって収益を認識 するモデルである。その構成要素の分解の際に、収 益費用アプローチ(実現稼得過程アプローチ)を 補完する役割としての資産負債アプローチの考え 方が反映されており、たとえばBBA
のように、履行 義務の充足以外での正味ポジションの変動をとら えて履行義務を再測定する場合、契約負債の計上 において多様性が生じる可能性があるといえる。 なお、BBA
にもとづく履行義務の再測定は、収 益費用アプローチの対象ではないその他包括利 益項目をはじめとする固有の認識対象を有する資 産負債アプローチに依拠した処理であり、それは 収益費用アプローチ(実現稼得過程アプローチ) を補完する役割としての資産負債アプローチの枠 内での再測定ととらえることも可能であると結論づ けたが、このような契約負債の再測定の有用性に ついては、今後の検討課題である。DP
が提案する顧客対価モデルにおける測定面 の生命線は、契約時における当初取引価格(顧客 対価)を基礎とした履行義務の充足に応じた収 益の計上であり、それが排除されると本来、測定 に関しては中立である構成要素の分解や正味ポ ジションの変動にもとづく収益認識が前面に出て きて、公正価値による測定へ移行する可能性もは らんでいると思われる。しかし、「収益認識の十分条件はあくまでも収 益の稼得過程に着目して導かれ」(辻山[
2008
]、50
頁)、「収益は単なる資産の増加や負債の減少 でなく、企業の目的意識的な生産・販売活動の成 果として生じた価値(資産)の増加である」(松本 [2009a
]、55
頁)。DP
の収益認識モデルは、主と して価値生産活動や販売活動に関係するので あって、金融活動とは異なり、顧客との契約時にお いて対価が決定している財や役務の価値はそれ 自体固有のものである。したがって、その成果とし ての収益は、稼得過程における途中の時点での市 場で評価できるものではなく、その限りにおいては、 各財務諸表日での正味ポジションの変動による 評価は、契約時である過去から将来の最終成果 の獲得を見据えての顧客対価の配分によるべきで あると思われる。 参考文献1 FASB(1976) / Discussion Memorandum /
An Analysis of Issues Related to Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting:
Elements of Financial Statements and Their Measurement. (津守常弘監訳(1997)/
『FASB財務会計の概念フレームワーク』/中央経済社。)
2 FASB(1984) / Statement of Financial Accounting Concepts No.5 / Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enterprises.
(平松一夫・広瀬義州訳(2004)/
『FASB財務会計の諸概念〈増補版〉』/中央経済社。)
3 FASB(1985) / Statement of Financial Accounting Concepts No. / Elements of Financial Statements.
(平松一夫・広瀬義州訳(2004)/『FASB財務会計の 諸概念〈増補版〉』/中央経済社。)
4 FASB(2003) / Revenue Arrangements with Multiple Deliverables / EITF Abstracts,
Issue No.-.
5 樋口範雄(2004)/『アメリカ契約法』/弘文堂。
6 IASB/FASB(2007) / Information for Observers /
Revenue Recognition, Measurement model summary
(Agenda paper B).
7 IASB/FASB(2009) / Staff Paper /
Revenue Recognition, Onerous Performance Obligations
(Agenda reference C).
8 IASB/FASB(2010) / Exposure Draft / Revenue from Contracts with Customers.
(企業会計基準委員会訳(2010)/ 『公開草案・顧客との契約から生じる収益』/
企業会計基準委員会。)
9 IASB(2008a) / Information for Observers /
Revenue Recognition, Customer Consideration model - Measurement (Agenda paper B).
10 IASB(2008b) / Information for Observers /
Revenue Recognition, Customer Consideration model - performance obligations (Agenda paper C).
11 IASB(2008c) / Information for Observers /
Revenue Recognition, Examples - Customer Consideration model compared
with existing practice (Agenda paper D).
12 IASB(2008d) / Discussion Paper / Preliminary Views on Revenue Recognition in Contacts with Customers.
(企業会計基準委員会訳(2009)/『ディスカッション・ ペーパー顧客との契約における収益認識についての 予備的見解』/企業会計基準委員会。)
13 IASC(1989) / Framework for the Preparation and Presentation of Financial Statements.
14 IASC(1993) / IAS11(revised 1993) / Construction Contracts.
15 IASC(1993) / IAS18(revised 1993) / Revenue.
16 IASC(1998) / IAS37 / Provisions,
Contingent Liabilities and Contingent Assets.
17 松本敏史(2009a)/「収益の認識と負債の認識」/ 『企業会計』第61巻第2号、48-57頁。 18 松本敏史(2009b)/「資産負債アプローチによる 収益認識基準─実現稼得過程アプローチに 代わりうるか─」/日本会計研究学会スタディグループ 『会計制度の成立根拠とGAAPの現代的意義』/ 中間報告、49-67頁。 19 新田忠誓(2006)/「資産負債アプローチと会計公準」/ 『企業会計』第58巻第12号、4-11頁。 20 新田忠誓(2008)/「会計アプローチと損益計算書 および企業観の変化」/『企業会計』第60巻第7号、4-10頁。
21 Schipper, K.A., C.M. Schrand, T. Shevlin, and T.J. Wilks() / Reconsidering Revenue Recognition / Accounting Horizons,
Vol., No., pp.-. 22 辻山栄子(2007)/「2つの包括利益」/ 『会計・監査ジャーナル』第628号、30-39。 23 辻山栄子(2008)/「収益認識と業績報告」/ 『企業会計』第60巻第1号、39-53頁。 24 辻山栄子(2009)/「正味ポジションに基づく収益認識」/ 『企業会計』第61巻第9号、6-15頁。 25 浦崎直浩(2008)/「収益認識の測定アプローチの 意義と課題」/『企業会計』第60巻第8号、26-36頁。 26 山田康裕(2008)/「配分アプローチの問題点」/ 『企業会計』第60巻第8号、37-47頁。