Title
総合内科専門医とサブスペシャリティ( 本文(Fulltext) )
Author(s)
石塚, 達夫
Citation
[日本内科学会雑誌] vol.[97] no.[5] p.[1130]-[1134]
Issue Date
2008-05-10
Rights
The Japanese Society of Internal Medicine (日本内科学会)
Version
出版社版 (publisher version) postprint
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/29152
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総合内科専門医とサブスペシャリティ
石塚 達夫 Key words:総合内科専門医,プライマリケア,サブスペシャリティ 〔日内会誌 97 : 1130∼1134,2008〕はじめに
「総合内科専門医とサブスペシャリティ」は理 想的あるいは現実的な観点から,簡単に論じら れないテーマである.なぜなら,大多数の総合 内科専門医は臓器別専門領域での仕事に従事し, 総合診療に携わっていないのが現実だからであ る.しかし,総合内科専門医が総合診療医であ るべき専門性を持つ可能性があることを大前提 としたうえで述べる.そもそも,総合診療医と 臓器別専門医は相反するものではなく,内科診 療の両輪であり基本的骨格をなすものである. 総合診療の歴史を遡れば 1976 年の天理よろず 相談病院に始まる.その後大学病院では 1981 年川崎医科大学,国立大学では 1986 年佐賀医科 大学に総合診療部(科)が開設された.2007 年の統計では総合診療部が設置されている大学 は 50 を超える.1980 年代以降毎年総合診療部門 が大学病院や臨床研修指定病院に設置されるよ うになった歴史的背景には(1)サイエンスとし ての医学の発展に伴って臓器別専門医が量産さ れたが,医療の有効性,効率性という観点から 適正配置が図られてこなかった.(2)医学部卒 業直後から狭い分野に偏った医師が増え,医療 上のトラブルや弊害が指摘されるようになった. (3)患者の心理・社会的側面への配慮,一般診 療上頻度の高い症候,病気などに関する教育が 手薄であった.以上を挙げることができる. 総合診療と初期診療あるいは二次ケアの相違 は後述する.総合診療はプライマリ・ケアを中 心として,それぞれ総合診療医学会,家庭医療 学会,プライマリ・ケア学会として独自の領域 をもって活動しているのが現状である. 総合診療,総合内科といっても実際にプライ マリ・ケアを実践していたのはごくわずかの総 合内科専門医を中心とした大学病院の総合診療 部,地域中核病院の総合内科(総合診療科),診 療所,個人開業医などであろう.今後,内科専 門医を総合内科専門医として機能させるために はプライマリ・ケアへの積極的な関わりと,す でに米国における総合内科フェローシップ1)やホ スピタリストフェローシップ2)で述べられている ように,この関連性についても考えを提議して みる.プライマリ・ケア
歴史的には昭和 53 年に日野原重明先生が厚生 省の臨床研修審議会で使われたのが最初である. プライマリ・ケアの考えは第 2 次大戦後の米国 で生まれた.医師の専門医志向が強くなった結 果,家庭医(開業医)不足を招いたことから 1966 年にMillis報告で英国以上のレベルの高いgeneral practitioner(GP)を養成する必要が生じたため である.国民の医療システムは図 1 のごとく予 いしづか たつお:岐阜大学大学院医学系研究科総合 病態内科学分野!附属病院総合内科1131 図 1. 国民の医療システム 3次 2次ケア プライマリケア 健診 セルフケア・体力増進・健康教育 環境衛生 入院・治療 外来ケア 地域ケア プライマリヘルスケア 図 2. プライマリケアの必須項目 1.近接性:Accessibility 2.継続性:Continuity 3.包括性:Comprehensive 4.感性 :Inter-personal Care
5.技術 :Diagnostic, therapeutic skill 6.調整役:Coordinating 7.責任性(経済):Accountability 防,健康増進,環境衛生を基盤とし,その上に 外来ケアとして健診,プライマリ・ケア,更に その上に入院,治療を必要とする 2 次ケア,3 次ケアという医療構造になっている.1972 年に WHO(世界保健機関)は個人を対象としたプラ イマリ・ケアに対して地域住民を対象としたプ ライマリ・ケアシステムと定義している.プラ イマリ・ケア医に必要な臨床能力は図 2 に示す 如くである3).即ち,近隣の患者(近接性)に継 続的に(継続性),家族的社会的背景を考慮に入 れながら,予防・診断・治療を実践し(包括性), 患者の訴えには共感的態度で接しながら訴えを 理解する(感性)技術を有していることが大切 であり,大病院との病診連携をスムーズに(調 整役),効率的に行うこと(責任性)の能力を備 えていることが必要であろう.
総合診療から総合内科への流れと総合内科
専門医
1999 年 3 月に岐阜大学附属病院総合診療部が 設置されて以来,当初,月平均 50 名程の外来数 であったが,現在では月 1,000 名を超える患者さ んが来院している.岐阜大学は 2004 年の大学院 大学化,さらに卒後臨床研修の必須化,医学部 の統合移転と病院全面電子カルテの導入を経て, 総合診療部も病床の設置を経た.ここではプラ イマリ・ケアを中心とした教育が少しずつ学生・ 研修医に浸透しつつあり,卒前教育では臨床実 習を通して,総合診療医を目指すためには何が 必要なのかを問いかけ,そして研修医にはプラ イマリ・ケアの実践や病棟での主治医としての 経験と指導を通じて研修期間での己の研鑽と向 上を目指すことを問いかけ,プライマリ・ケア の実践や病棟での主治医としての経験と指導を 通じて研修期間での全般的内科疾患での診断能 力の向上を目指すことを問いかけてきた.この 姿勢はホスピタリスに通じる姿勢であろうと信 じている.そして,大学内に留まらず,研修医 の診断能力向上をめざした岐阜県プライマリ・ ケア研究会の設立(年 3 回)を他の病院にも呼 びかけ,定期的に開催している.図 3. 総合内科(GIM)の扱う分野
総合内科学
(General Internal Medicine)
家庭医療学 家庭医療学 外科系疾患の 一次レベル 内科疾患(二次レベルまで) ターミナルケア 予防医学 薬物乱用 医師―患者関係 臨床倫理 臨床疫学 精神科,皮膚科, 小児科疾患の 一次レベル 卒後臨床研修必須化後,後期臨床研修プログ ラムが重要となるので,まず第 1 に総合内科専 門医コースを設定した.総合内科専門医は認定 内科医取得後の更なる研鑽を積んだ後に獲得す ることができる専門医である.これは総合診療 医にとって最も重要な根幹であると考えている. 第 2 に家庭医療コースを設定した.将来個人開 業する,あるいは僻地医療を実践したい医師達 の為に,総合内科に加えて,小児科,整形外科, 耳鼻科,婦人科を経験するためのコースである. 即ち,図 3 に示す如く家庭医療は内科認定医レ ベルの基本的知識・能力を備え且つ精神科,整 形外科,小児科診療の 1 次レベルの診断能力を 持つ必要がある.一方,総合内科専門医は認定 内科医の能力に加えて更に症例の経験により入 院診療を含めた高いレベルの知識・能力を兼ね 備えたものを必要として,各臓器別専門医とは 同じレベル(認定内科医を取得後と言う意味で) であるが全般的な内科診断能力に優れている必 要がある.大学病院での総合内科部門にとって 大学病院での教育・研究・診療を支える人材の 育成と地域中核病院の総合内科,診療所,個人 開業での地域医療を支える人材を育成すること が重要なことではないかと理解している.
総合内科専門医の役割と地域医療
本来,生活習慣病をはじめとしたcommon dis-easeは第一線で診療する内科医にとって主たる対 象疾患である.よくいわれるプライマリ・ケア 医のもっとも大切な診療対象が生活習慣病であ る.前述のようにプライマリ・ケアを初期診療 あるいは一次医療とイコールなどの勘違いをし ばしば耳にする.更に救急医療との区別がしば しばなされていない.救急医療は一過性であり, 第一に救命である.一方,一般外来診療で来院 される多くの患者さんは正しい診断と治療を受 けることが目的である.プライマリ・ケアでは 高血圧,糖尿病,脂質異常症などの診療ガイド ラインに沿って継続的に患者さんの診断と治療 を実践する必要があり,そのためには時には入 院治療の必要な 2 次,3 次医療への紹介が必要で ある.実情では 1,000 人の外来患者のうち大学病 院の 3 次診療が必要な患者さんは 1 人と言われ ている.このような情況を認識するならば,プ ライマリ・ケア医は総合診療医であるべきだろ う.前述の如く,総合診療医の担い手である総 合内科専門医は地域医療の担い手になりうる可1133 図 4. 総合診療医が総合内科専門医であれば以下の専門医への連携もス ムーズ 総合内科専門医 Subspeciality(SP) 消化器病専門医 総合内科専門医 SP循環器病専門医 総合内科専門医 SPリウマチ病専門医 胸痛 総合内科専門医 SP内分泌・代謝専門医 総合内科 循環器科 AMIと診断 Subspecialty 能性を十分に秘めている.政府の肝いりで総合 診療の必要性が叫ばれ,地道な地域医療の実践 のなかに,総合診療医を育成せんとする地域中 核病院も登場し,脚光を浴びたが,残念なこと に財政的問題で頓挫したところが多い.地域医 療の危機が叫ばれている今日,地域中核病院か らの医師が撤退し,地方大学附属病院にも研修 医が残らない.一連の激しい変化は厚生労働省 主導の新医師臨床研修制度が開始されてから次々 と連鎖のごとく生み出された.
総合内科専門医とサブスペシャリティ
従来の臓器別専門医が内科専門医を取得した いと考える動機には自己の専門性に加えて,更 に他の領域を勉強し,知ることが専門性を一層 磨くために必要ではないかと考える人,将来を 展望し臓器別専門医から一般内科医になるとき に名実とも役に立つと考えた人,専門医をたく さん持っている方が基幹病院に就職するときに 有利と考えた人などいろいろであろう.しかし 振り返ると,“総合内科専門医はこうあるべきで ある”として,取得した人はごく一握りの人で はなかったかと思う.そこで,将来,総合内科 専門医のプライマリ・ケア,急性疾患・初期診 療,内科病棟診療それぞれの役割を明らかにす る必要がある. 具体的に考えてみよう.図 4 に示すように総 合内科部門に消化器,循環器,内分泌・代謝, リウマチ膠原病のそれぞれのサブスペシャリティ をもった総合内科専門医がいたなら,胸痛で来 院した患者をAMI(acute myocardial infarction) と診断しスムーズに循環器専門医にコンサルト し,インターベンションを行うことが効率的に 出来る.つまり,急性疾患・初期診療では総合 内科専門医としての力を発揮して診断した後も サブスペシャリティをもっていると紹介がスムー ズである.胸痛がGERD(gastroesophageal reflux disease)によるものであれば消化器病専門医の サブスペシャリティをもった総合内科専門医の 診断により,消化器内視鏡検査の手順などもス ムーズに行うことができる.また,現在,老人 社会である.ひとつの病気のみを持っている患 者は少なく,むしろ複数の病気を抱えている人 が大部分である.従って,外来診療では患者は あちこちの臓器別診療科を渡り歩く必要はなく, 臓器別専門医も外来の再診に時間をかけるので はなく,本来の臓器別専門医の教育・診療・研究に時間を割くことも可能なのである.つまり, 医療の効率性・有効性を確保することができる のである.ただ,これが行われるためには総合 内科専門医がプライマリ・ケア,初期診療,内 科病棟診療を支えるために,欧米並に増加する 必要がある.現時点では圧倒的に数が少なく, わが国でこれを実践するためにはまだ多くの歳 月を要するであろう.
今後,
総合内科専門医はサブスペシャリティ
をとる必要があるのか?
これは先に述べた理由により我が国では必要 であろうと考える.臓器別専門医の資格はその 実践とキャリアから己の日常診療に対して自信 をもつこともできるし,適切な判断能力を醸成 し,更なる研究に繋がるからである. 残念なことに,臨床研修制度で臓器別内科各 科をローテーションしても総合診療医を養成す ることに繋がらない事実は看過することができ ない.総合診療,総合内科部門でプライマリ・ ケアをしっかりと研鑽しなければ,初期臨床研 修の要点を学ぶ事は困難だからである.臓器別 専門医で得られた経験,知識が有機的に内科全 般にわたる診断能力の向上に結びつかない.換 言すれば,臓器別専門医をたくさんもっていれ ば総合内科専門医か?という疑問にも答えるこ とができる.即ち,総合内科医としてのプライ マリ・ケア(診療のための初期診療を含む),病 棟部門での研鑽があってはじめて内容のある総 合内科専門医が育つことを念頭に置くべきであ る.そのためには米国のように3)内科病棟の中心にgeneral internal medicineを置き,内科病棟で は総合内科専門医が研修医と共に受け持ち,必 要があれば,直ちに臓器別専門医をコンサルト できるシステムを構築することが大切である6). また,臓器別専門医は逆に総合内科専門医にス ムーズに診断のためのコンサルトをすることも 必要なことである.わが国ではこのようなシス テムが構築されているところを探すのが難しい. 恐らく,今後のあり方としては,総合内科専門 医をめざす者にとってはサブスペシャリティが 必要であると感じた時点で臓器別専門医取得の ための努力をする必要はあるが,内科を総合的 に捉えたいという目標があれば,サブスペシャ リティは必ず優位に働くものとなり,全く障害 となるものではない.
最後に
日本ではまだ,総合内科医,総合診療医,プ ライマリ・ケア医,家庭医療医などは未分化で あり,地域医療を中心にしてそれぞれが意見を 述べているにすぎない.今後,日本内科学会, 日本総合診療医学会,日本プライマリ・ケア学 会,日本家庭医療学会などとの後期研修プログ ラムに関しての更なる論議が必要となろう.こ れに加えて,卒後臨床研修における内科系病棟, 外来のありかたに関して,総合内科専門医が積 極的に関わることが,今後の日本における内科 診療の帰趨をきめる重要な問題であることを認 識することが大切であろう. 文 献 1)福井次矢:内科横断領域の 100 年,総合診療科.日内会 誌 91 : 3106―3110, 2002.2)Society of General Internal Medicine : Policy statement for general internal medicine fellowships. J Gen Intern Med 9 : 513―516, 1994.
3)Ranji SR, et al : Hospital medicine fellowships : works in progress. Am J Med 19 : 72, 2006.
4)日野原重明:日本におけるプライマリ・ケアの過去・現 在・将来.Physicians Therapy Manual 13 : 6, 2004. 5)尾原晴雄,他:米国における総合内科フェローシップに
ついて.日内会誌 掲載予定,2008.
6)谷口俊文:米国における一般内科とその研修システムに ついて.週間 医学界新聞 2567 : 2―3, 2008.