原 著 〔東女医大誌 第60巻 第12号頁999∼10!0平成2年12月〕
Lecithin配合lipiodol emulsionを用いた
肝動注化学塞栓療法の基礎的研究
東京女子医科大学 消化器外科学教室(主任 アン コウ ハル ヒロ安 康 晴 博
羽生富士夫教授) (受付平成2年5月29日)Experimental Study on Transcatheter Hepatic Arterial Chemoembolization using
Lecithin・Containing Lipiodol Emulsion
Haruhiro ANKOH
Department of Gastr㏄nterological Surgery(Director:Prof. Fuj io HANYU), Institute of Gastroenterology,
Tokyo Women’s Medical College
Water−in−oil(w/o)emulsions which use lipiodol(LPD), carrier of anticancer drugs commonly used in chemical embolization therapy, have problems related to formulation stability and poor release of anti・cancer drugs. In an attempt to solve these problems, I added lecithin, a very safe surface active agent, to these emulsions and conducted experiments to determine the optimal concentration of
lecith玉n, I succeeded in stabilizing emulsions over a long period of time and obtained optimal release of anti−cancer drugs.
The present study used a w/o type emulsion which was obtained by dissolving adriamycin(ADM), an anti−cancer drug, in 60%urografin,awater−soluble contrast media, and mixing it with LPD, an oily contrast media which contained O.5%of lecithin, at a ratio 1:4.
Anti−tumor efficacy of this formulation was assessed in an in vivo experiment conducted using a metastatic liver cancer mGdel in 36 Japanese white rabbits in which VX−2 tumor had been transportally transplanted. The ADM(1 mg/kg)一LPD(w/o)emulsion which contained lecithin was injected into the hepatic artery of 6 rabbits. The liver was isolated 4 days after treatment for examination. Metastatic lesions were more effective玉y inhabited in animals treated with the emulsion than in the contro1.
緒 言 胃癌の手術成績を決定づける重要な予後因子の 一つに,肝転移の有無が挙げられる.近年,肝臓 外科の進歩により胃癌の肝転移症例に対しても外 科的切除が行われ,良好な成績も報告されてい るn.しかし,大腸癌などと異なり胃癌肝転移症例 の場合には肝切除を施行しても,残肝再発が高率
に起こり,術後の最大の死亡原因となってい
る2)∼4).したがって,胃癌肝転移症例においては原 発巣に対する以上に肝転移巣の治療法が重要であ る. 近年,肝細胞癌治療にlipiodol(LPD)化制癌剤 を用いた動注化学塞栓療法が広く行われており効 果をあげている‘}.これは油性リンパ管造影剤 LPDとの比重差が比較的少ない60%urogra丘nを 用いて制癌剤を溶解し,LPDと混和してできた emulsionを肝動脈に注入する方法である.しか し,このemulsionはそれだけでは長時間の安定 性を保ち得ないことが問題点であり6},emulsion に安定性と制癌剤徐放性を賦与できれぽ,今まで 以上の制癌効果が期待できる.今回著者は,emul− sionの安定性と制癌剤徐放性の向上を目的に,従 一999一来から静注用脂肪乳剤に界面活性剤として使用さ れ安全性が確立されているlecithinを, emulsion に配合し効果の増大を試みた. 次いでその有用性を判定する目的で,日本白色 種家兎の転移性肝癌モデルを用いて本試作製剤の 抗腫瘍効果に関する基礎的検討を行ったのでその 成績を報告する. 実験方法と材料 LPD emulsion中の至適lecithin濃度を決定す るための基礎的実験と,lecthin配合ADM・LPD (w/o)emulsionの転移性肝癌に対する抗腫瘍効 果を検討するための動物実験を行った.制癌剤と してAdrialnycin(ADM):Doxorubicin hydro− chloride,制癌剤のcarrierとして1ipiodol ultra nuide(LPD):ヨウド化ケシ油脂肪酸エステル,
LPDとの比重差を調製するために60%
urogra丘n:局方アミドトリゾ酸ナトリウムメグ ルミン注射液および蒸留水,浸透圧調整剤として glycerine:局方グリセリン,界面活性剤として soya−lecithin:精製大豆レシチン製剤(日本製薬 製:大豆リン脂質980mg/g)を使用した. 1.Lecithin配合ADM・LPD(w/o)emulsion の調製に関する基礎的検討 今回試作したlecithin配合ADM・LPD emu1・ sionは7。8%(w/w)のglycerineを含有する1/5量 の蒸留水で希釈した60%urogra且nを水相とし,油 相であるLPDにlecithinを配合したものを1: 4の比率で混合して調製したemulslonである. Lecithinの至適配合量を決定する実験として lecithinを0,0.05,0.1,0.5,1.0%の各濃度で配合したADM。LPD emulsion(ADMの含有率:
0.3%)を調製し(図1),emulsionの水滴の粒子 径,粘性,安定性および主薬放出性等をIecithinの 濃度別に比較検討した. 1)粒子径の測定と鏡検による安定性の検討 Emulsion調製直後,各lecithin濃度別に粒子ア ナライザー(オリンパスSP−500)を用い,計測し た粒子径につき,最大粒子径と最小粒子径間を20 分割(自動分割)の上,各分割内の粒子数の全体 に占める百分比を算定し,その分布状況を比較検 討した。 A液 ADH 20mg/2Vlal ぬ由
注射用蒸留水〔0.2mD 60%Urografin (1.0旧D 61ycerine (0,⊥9) 使用時、A液:B液=/=4の比率で 混合し、タッチミキサーで1分間 振回・乳化する。 B液 LPD 5ml ト・…h・・・…一・… 加熱〔50∼60℃)5min l 図IXE臼 30∼60min 1 溶解(不溶物ありLPD分としてlml I 除去) 濾過(Gelman社0.2mμACRODISC)細
図1 Lecithin・ADM・LPD・(w/o)emulsionの調 製 また,emulsion調整直後から倍率60倍の鏡検に て各Iecithin濃度別ADM・LPD(w/o)emulsion の水滴の経時的変化も観察した. 2)粘性検査 Emulsion調整直後各lecithin濃度別に,オスト ワルド粘度計(EPK No,6)を用い,25℃条件下, 日本薬局方の一般試験法・粘度測定法に従って動 粘度を測定した.また,簡便法として5ml容量の ディスポーザブルシリンジ(注射筒内径φ13mm, 注射筒先端内径φ1.4mm)を用い各lecithin濃:翻 心ADM・LPD(w/o)emulsion 4mlが流下した 時間も測定した. 3)放出性試験EmulsionからのADMの放出挙動を調べるた
めに,20mlの生理食塩水中にlecithin配合
ADM, LPD(w/o)emulsion lmlを入れ,経時的に生理食塩水中のADMを定量することによ
りその放出性を検討した.測定条件は37℃,ミキ サーによる振糧(100回/min)下に,経時的な31nl 試料採取と同時に同量の37℃生理食塩水を補充す る方法によった.採取した試料中のADMの定量 は高速液体クロマトグラフィー法7)によった. 2.Lecithin配合ADM・L、PD(w/o)emulsion の実験的転移性肝癌に対する抗腫瘍効果の検討 日本白色種家兎(2.8∼4.2kg)を1群6羽用い, 移植腫瘍としてはShope乳頭腫由来の可移植性 腫瘍VX−2を用いた. ベント・ミルビタール麻酔下(23mg/kg)に開腹し小腸腸間膜静脈よりVX−2腫瘍細胞1∼2×
107個移植後7日目に再開腹し,胃十二指腸動脈よ
りlecithin配合ADM・LPD(w/o)emulsion(以 下①と略)をADMとして1mg/kg one shotで注 入した.比較対照群として以下②∼⑥の5群を設 定した.すなわちlecithin無配合ADM・LPD(w/ o)emulsion(以下②と略), ADM solution(以下
③と略)およびlecithin配合ADM無配合LPD
(w/o)emulsion(以下④と略)を胃十二指腸動脈 から動注,ADM solutionを耳静脈から静注(以下 ⑤と略),無処置control(以下⑥と略)を設定し た. 1)処置別肝転移程度の肉眼的判定 VX−2腫瘍を経門脈的に移植後11日目の摘出肝 につき,肉眼的に肝表面に観察される転移性結節 数を算定した. 2)X線軟線溶:影による実験転移性肝癌におけ るemulsion肝内分布の検討 VX−2腫瘍移植後11日目①処置後4日目の摘出 肝につきX線軟線撮影によりemulsionの分布状 況を観察した. 3)実験的転移性肝癌の処置別抗腫瘍効果の組 織学的判定 肉眼判定終了後直ちに漂本を10%ホルマリン液 内に入れて固定した.固定標本は,:右葉,内側左 回,外側左顧,尾状葉の所定部位から切片を作製 し,hematoxylin−eosin(H−E)染色を施行し, VX− 2腫瘍細胞の残存程度,リンパ球浸潤,マクロ ファージの遊走,脂肪変性,繊維化主につき検鏡 した. 4)組織学的判定によるemulsionの腫瘍集積 性の検討 Emulsionの腫瘍集積性を組織学的に確認する ために,①処置:群を肉眼判定後腫瘍の一部を切り 出しSudan III染色を行った. 5)肉眼判定と組織学的判定の比較 肉眼判定で同levelにある病巣を組織学的に差 異があるかどうか比較検討した. 組織判定は腫瘍細胞残存程度,リンパ球浸潤, マクロファージ遊走,脂肪変性,繊維化に関して の検討である. 成 績 1.Lecithin濃度二二PD emulsionの粒子径・ 安定性・粘性・ADM放出速度に関する検討 1)粒子径の測定と鏡検による安定性の検討 Emulsion調製直後の粒子アナライザーによる 水滴径の計測結果から,最大粒子径と最小粒子径 を20分割し各分割中の粒子径が全粒子数に占める 割合(%)で示した. その分布状況においてlecithin O.0%配合剤は 算術径が2.4∼16.5μmのものが83%を占めるが, 21.2∼49.4μmの比較的大きな粒子も見られた. 0.05%配合剤は6.8∼15.2μmのものが66%を占 め,1.4∼31.3μmのものが1.3∼10%の割合で見 られた.0.1%配合剤は5.6∼13.1μmのものが 75%を占めた.0.5%配合剤は6.5∼17.0μmのも のが85%を占めていた.1.0%配合剤は5.1∼11.3 μmのもので70%を占め,21.6μmより大きい粒 子はみられなかった(図2), ,1 20 10 0 レシチンO.0% 2.4 7.1 口.8 16.5 2L 2 25・9 30・6 35・3 ‘O・0 44・7 49・4 54・1μ口 ,1 20 】o O 1.4 15 :: o レシチン0,05% 4,1 5.8 9.5 12.2 15』 17.7 20,4 23.1 25、8 23.9 31.3 μm レシチンO.1% 轟 lo 0 ,1 20 10 0 1−9 5Fδ 9・3 1S,1 16,8 20,5 24r 3 28層0 31,7 35−5 3972 42・9 μ閃 レシチン0.5% エ.3 3,9 6.5 ヨ.2 U,呂 14.4 17,0 19.δ ZZ.2 24、9 27,5 30.1 μm レシチンL〔〕% 1.0 3,L 5.1 7p2 9.写 工エ,3 王3,4 15」4 17.5 19.6 図2 粒子径の分布状況 粒子アナライザーによる測定, 最大径・最小径を20分割. 〈各分割中の粒子数〉/〈全粒子数〉(%)で表示. 且__一21.6 z3.7μ陪表1 Lecithin配合量別ADM・LPD(w/o)emulsionの粘性(n=3) Lecithin配合量(%) 0 0.05 0.1 0.5 1.0 粘度計による動粘度(cSt) ①72.2 A74.0
B8L1
24.8 Q5.1 Q5.4 23.4 Q3.7 Q3.7 31.8 R1.8 R2.1 32.9 R2.8 R2.8AV
rD 75.77 }3.842 25.10 }0,245 23.60 ≠ニ0.141 3!.90 }0.141 32.90 }0.082 5m1容量シリンジ流下時間(sec) ①102”71 A105”17 B115”31 35”23 R5”75 R6”06 33”24 R3”71 R3”73 45”29 S5”22 S5”65 46”76 S6”88 S6”62AV
rD 107,730 }0.6787 35,680 }0,4194 33,560 }0.2773 45,387 }0.2307 46,735 }0.1301経時的鏡検ではlecithin無配合ADM・LPD
(w/o)emulsionが調製後30分には相分離を来し, ADMは水球内にとどまっていないのに対し,1ec− ithin O。5%以上配合剤においては調製後7時間経 過後も安定であり相分離は来さなかった(写真 1). 2)粘性検査 粘性は1ecithinの配合により低下した.オスト ワルド粘度計による動粘度はlecithin無配合製剤 カミ75。77±3.842 (cSt), 0.05%酉己台・斉リカミ25.10± 0.245(cSt),0.1%配合剤が23.60±0.141(cSt), 0.5%配合剤が31.90±0,141(eSt),1.0%配合剤 が32.90±0.082(cSt)であった. 簡便法として検討した5ml容量ディスポーザブ ルシリンジからの流下速度はlecithin無配合製剤 が107.730±0。6787(sec),0.05%配合剤が 35.680±0.4194(sec),0,1%配合剤が33.560±0.2773(sec),0.5%配合剤が45.387±
0.2307(sec),1.0%配合剤が46.735±0.1301(sec) であった(表1). 3)放出性試験 EmulsionからADMの放出挙動は, lecith玉n無配合のemulsionが約7分間でADMを100%放
出するのに対し,0.05%,0.1%配合剤が約120分, 0.5%,1.0%では約300分であり,lecithin濃:度が高くなる程emulsionからのADM放出の遅延が
認められた(図3). 2.試作製剤の実験的転移性肝癌に対する抗腫坤
5 o/
ム履ン巨
/
o−00男 ●一〇.05% 一〇.1% ▲一一一▲0.5毘 卜]P.0罵 30 60 1ZO 1&0 図3 ADM・LPD(w/o)emulsiQnのlecithin配合量 別ADM放出率と時間の関係 /輪「繭一一 表2 肝表面のVX−2腫瘍結節数による転移抑制判 定基準 転移結節数の大きさと数 判定 iGrade)径≧2mm
径く2mm 0く50≧50≧50 (かつ) @ (かつ) @ (または) @ (かつ) ]移巣が融合し肝表面積の1/2以上を占める 〈50 ?T0,〈100 @≧100 @≧100 瘍効果の検討 1)処置別肝転移程度の肉眼的判定成績 転移性結節数の多寡により各処置群の転移抑制 効果の強弱を判定した.VX−2移植後11日目の摘出 肝表面の肉眼的に視認される結節は,数,大きさ ともに変化に富むため,便宜上表2に示す基準を 作成しその程度を5段階に分類した.すなわち grade 1は径2mm未満の微小転移性結節を認めるLecitin無配合
ADM・LPD
(W/0) emul− Slon 0.5% Lecithin配合ADM・
LPD (w/o) emulsion 調整直後 30分後 60分後 「’ ・箸蘇●●.6;ζ’か・。
.謙
課..置τ
細“魚1い“
鍮磯1
櫨, 調整直後 5時間後 7時間後 写真1 ADM・LPD(w/o)emulsionの経時安定性 ㌔癬咳轟
場’≡論説.
写真2 X線四線撮影による実験転移性肝癌におけ るemulsion肝内分布の検討 ものの50個未満であり,径2mm以上の結節を認 めないもの,grade 2は径2mm未満の結節を認め るものの50個以上100個未満で,径2mm以上の結羅
の 覧 5 ■ むじ驚螺
濾駄
.謹灘壽、
懸
、 ’ ・ 重冒, ’ 」 ㌔ 写真3 Lecithin配合ADM・LPD(w/o)emuls量on 動注例のVX・2腫瘍肝転移結節像 = あ ま 節が50個未満のもの,grade 3は径2mm未満の結 節を100個以上認めるか,または径2mm以上の結 節を50個以上認めるもの,grade 4は径2mm未満 の結節を100個以上認め,かつ径2mm以上の結節 を50個以上認めるもの,grade 5は転移性結節が互 いに融合し肝表面積の1/2以上を占めるもの,とし た. 検索総数は途中死亡例が発現し,①群6羽,② 一1003一写真4 移植後11日後のVX・2腫瘍の肝転移結節影 (無処置contro1群) 騨”1
@眉ワ矧緊灘’
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謹製〆
9毒幽』
鰍;・ 軋,. 写真5 Lecithin配合ADM・LPD(w/o)emulsion 動注例のVX・2腫瘍部Sudan III染色 厚も. 斜 ヴ・㍗あ
罵幣、弾
嘱群3羽,③群4羽,④群4羽,⑤群5羽,⑥群4
羽,計26羽であった. ①群6例にはいずれもgrade 3以下と転移抑制 効果が認められ,そのうち3例はgrade 1であっ た.②群3例はgrade 3が2例, grade 2が1例で あった.③群4例はgrade 2が3例, grade 4が1 例であった.④群4例中grade 3, grade 4がそれ ぞれ2例ずつであった.⑤群5例中1例にgrade 1が認められたがその他はgrade 3, grade 4が2 例ずつであった.⑥群4例はいずれもgrade 3以 上の転移巣形成を示し,grade 4が2例, grade 5 が1例であった. 以上,肉眼判定した成績を各処置別に要約して 示した(表3). 2)X線軟線撮影による実験転移性肝癌におけ るemulsion肝内分布の検討 VX・2腫瘍移植後11日目,①処置群4日目の摘出 肝標本をX線測線撮影で観察すると,全例におい てemulsionの肝全葉にわたる分布がみられ,特 にVX・2転移性結節に一致した集積が確認された (写真2). 3)組織学的判定による実験的転移性肝癌の処 置別抗腫瘍効果の組織学的判定成績 ①群の48病巣においては,肝組織中に占める VX−2腫瘍細胞の残存程度が25%以下(±)と低く, リンパ球浸潤,マクロファージの遊走,脂肪変性, 繊維化を伴う変性像が認められ(写真3).②群27 病巣にも同様の変性は認められたが,VX−2腫瘍細 胞の残存程度が26∼50%(+)のものが25%を占 めた.③群の36病巣では51∼75%(卦)のものが 25%となり,マクロファージの遊走,脂肪変性等 の所見を欠いた.④群の変性程度も③群のそれと 大差はなかったが,腫瘍細胞残存率は51∼75% 「(+←)のものが大半を占め,さらに76%以上(晋) のものも認められた.⑤群の腫瘍組織変性は②群 と同様であったが,腫瘍細胞の残存率は高かった. ⑥群の36病巣はいずれも一部自家融解像を含む が,viableなVX・2腫瘍細胞によって占められて いた(写真4). 4)Emulsionの腫瘍集積性の成否を組織leve1で確認するため,①処置群の腫瘍内LPDを
Sudan III染色した. その結果全ての症例で増殖像を示す腫瘍周囲に 一致した多数の脂肪滴と,それに一致した壊死像 が見られ,肝細胞索,sinusoid内にもLPD由来と 考えられるSudan III陽性の微細な多数の脂肪滴 が認められた(写真5). 5)肉眼判定と組織学的判定の差異を検討する ため,肉眼判定で最も多くの母集団を持つgrade 3の組織学的差異を検討した. ①群はリンパ球浸潤,マクロファージの遊走, 脂肪変性,繊維化が多く認められ組織変性度が最 も高かった.②群にもほぼ同様の変化がみられた が,腫瘍細胞の残存程度は①群に比較し高度で あった.④群にはリンパ球浸潤,マクロファージ の遊走は見られず腫瘍細胞の残存程度も多かっ表3 肉眼判定による処置別VX−2肝転移抑制効果 肝転移のgrade 処 置 経路 n 5 4 3 2 1 ①Lecithin配合ADM・LPD(w/o)emulsion ia 6 0 0 2 1 3 ②Lecithiロ無配合ADM・LPD(w/o)emulsion ia 3 o G 2 1 0 ③ADM solution ia 4 0 1 0 3 0 ④ADM solution iv 4 0 2 2 0 0 ⑤Lecithin配合ADM無配合LPD(w/o)emulsion ia 5 0 2 2 0 1 ⑥無処置control } 4 1 2 1 0 0 ia:経動脈投与, iv:経静脈投与, n:家兎数. 表4 処置別肝転移巣の組織所見 経 腫 瘍 細 胞 残 存 程 度 組織所見 処 置 路 n 掛 升 十 ± Ly Mφ Fa Fi ●●●●●●●●●● Lecithin配合 ●●●●●■●■●● ①ADM・LPD ia 48 ●●●●●●●■●● 什 汁 十 梓 (w/o)emulsion ●●●●●●●●●● ●●●●●●●● ● ●●●●●●● ●●●●●●●●●● Lecithin無配合 ●●●●●●●●● ②ADM・LPD la 27 十 升 十 升 (w/0)emulsion ●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ●●●●●●● ③ADM solution 1a 36 什 十 一 一 ●●●● ●●●○●●●●●●●●●● ●●● ●●●●●●●●●● ④ADM solution iv 36 ●●●●● 十 十 一 一 ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ●●●●●●● Lecithin配合 ●●●●●●○■●●● ⑤ADM無配合 ia 38 十 十 什 十 LPD(w/o)emulsion ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ⑥無処置contro1 『 36 ●●●●●●●●●● 一 一 一 一 ●●●●●●
Ly:リンパ球浸潤, Mφ:マクロファージ遊走, Fa:脂肪変性, Fl:線維化, ia:経動脈投与, iv:経静脈投与, n:病巣数
た.⑤群はリンパ球浸潤,マクロファージの遊走, 脂肪変性,繊維化が見られたが軽度であり腫瘍細 胞の残存程度も多かった.⑥群はviableなVX−2 腫瘍細胞によって占められていた.腫瘍細胞の残 存程度は①,②,.⑤,④,⑥群の順に低からた. ③群にはgrade 3が無かったが,その他は(表4) に示した全221病巣における検討結果と同様の傾 向を示した(表5). 考 察 胃癌手術時肝転移の有無は手術成績を決定づけ る重要な予後因子の一つである. 近年,肝切除術の確立に伴い胃癌肝転移症例に 対しても積極的に肝切除が施行され,良好な成績 も報告されるようになった1)∼4).しかし手術の適 応となりうるものは限られた症例であり,多くの ものは補助化学療法に頼らざるを得ないのが現状
表5 Grade 3における処置別肝転移巣の組織所見 経 腫 瘍 細 胞 残 存 程 度 組織所見 処 置 路 n 冊 汁 十 ± Ly Mφ Fa Fi ●●●●●●●●●● Lecithin配合 ●●●●●■●● ①ADM・LPD la 18 升 汁 十 廿 (W/0)emulsion ● ●●●● ●●●●●●●●●● Lecithin無配合 ●●● ②ADM・LPD 1a 18 十 升 十 什 (W/0)emulsion ● ●●●●o●●●●o●o ●●● ●● ④ADM solution 1V 18 十 一 一 十 ■●●●●● ●●●●●●●●o ●●● Lecithin配合 ⑤ADM無配合 1a 18 十 十 十 十 LPD(w/o)emulsion ●●●●●●●●● ⑥無処置COlltrol 一 9 皿 一 一 一
Ly:リンパ球浸潤, Mφ:マクロファージ遊走, Fa:脂肪変性, Fi:線維化, ia:経動脈投与, iv:経静脈投与, n:病巣数
である8). 肝臓において制癌剤の多くは代謝されてしま い,全身投与では肝組織内の制癌剤濃度は極めて 低く制癌効果は少ない.そこで制癌剤の肝組織内 濃度をでぎるだけ高めて抗腫瘍効果を向上させる ために,カテーテルを介して肝動脈内に注入する 動注化学療法が以前から研究されている9)∼12).そ して石田ら13)は,肝動脈を介して局所に選択的に 投与すると,全身投与に比べて腫瘍内薬剤濃度を 10数倍以上に高めることができると報告してい る.またLienら14),柄沢ら15)は,転移性肝癌であっ ても腫瘍部は肝細胞癌と同様に,そのほとんどの 血流支配を肝動脈から受けていると報告して肝動 注療法の有効性を謳っている.本研究においても ③群,④群の対比で明らかに③群の方により高い 抗腫瘍効果が認められており肝動注療法の有効性 が確認された.次の問題は,どのような薬剤を注 入するかということである.癌選択毒性のある薬 剤が見出されていない現在,既存の制癌剤にでき るだけ癌選択性を持たせる工夫,いわゆるdrug delivery systyem(DDSNこ力が注がれるように なった.したがって,DDSの二本柱,(1)薬物を 病巣に集中的に移行させるrtumor targeting」と, (2)薬物を必要な量,必要な時間だけ作用させる 「制御放出(control release)」の実現が治療成績 向上にとって重要な課題である. 近年,interventional angiographyと呼称され ている領域の発達とともに,DDS二本柱の一つで ある制癌剤のrtumor targeting」を目的に肝癌お よび転移性肝癌に対して動注化学塞栓療法(tran− scatheter arterial chemoembolization)が広く行
われ16)17),その有用性も確立されつつある.その中
で油性リンパ管造影剤LPDを制癌剤のcarrier
として用いた動注化学塞栓療法は,仁熊ら18)19)が LPDを肝動脈内に注入することによって腫瘍内 に長期にわたり選択的に取り込まれるという現象 を報告し,それに基づぎ数多くの施設で種々の薬 剤が調製され臨床に用いられている20). LPDは当初腫瘍親和性と,CT scanの高いコン トラスト分解能を利用して,特に肝内小型病巣の 検出等,主に腫瘍の局在診断に用いられていた. しかし現在ではこの特性を生かして制癌剤のcar− rierとして用いられ,肝細胞癌治療においてLPD 化制癌剤を用いた動注化学塞栓療法が優れた抗腫瘍効果を持つとして注目を集めている5>.LPDは 粘調度の高い物質であり,その性質上りンパ系の 未発達な腫瘍内ではLPDを回収することがでぎ ずtrapされるが,非細部では規則正しい分枝を示
す血管内に流入したLPDは血流によりwash
outされ,陰画系や肝細胞で処理され早期に消失 すると考えられている21).つまり,tumor target−ingにはtumorに達するためのLPD粒子径と粘
性が大きく関与しているのである.本研究におけ る粘性試験ではemulsionの粘性はlecithinの配 合によりある程度コントロールできることが分 かった(表1).lecithinの配合によりオストワル ド粘度計,簡便法による粘性は共に約1/2に低下し た.しかし,このことはtumor targetingにとっ てマイナスではなく,むしろ細動脈までLPDが 入り込み易くなったと考えられる.実際,本研究 で試作製剤ぱ写真5において肝細胞索,sinusoid 内にLPD由来と思われるSudan III陽性の微細 で多数の脂肪滴として確認された.このことはLPDの粘性が通常の約1/2に低下してもtumor
targetingに関し何等問題がなかったと考える.そ してsinusoid内のLPDは動脈,門脈の両方から chemoembolizationが行われることを示し,神代 ら22)のいうsinusoidの血流を受ける微小な腫瘍 にも抗腫瘍効果が期待できることが示唆された. Emulsionの粒子径に関しても基礎実験でleci− thinの配合量により粒子径をある程度コント ロールできることがわかった(図2).Laval− Jeantetら23)は, LPD粒子が1∼2μm程度のもの では腫瘍新生血管内には停留せず,腫瘍部を除い た非癌部のみにLPDの小球が認められ,まった く逆転してしまうと報告している.基礎実験で粒 子アナライザーによる計測でlecithin O.5%配合 剤の水滴径は6.5∼17.0μmであるが,写真2,5 において細動脈,腫瘍内選択的停留が確認された. したがって本試作製剤は粒子径に関しても実用性 に問題がないと思われる.また,従来塞栓療法の欠点とされたcollateralの問題に関して,
Mlchels24)25)は肝動脈結紮により36の側副動脈路 が形成され,動脈結紮後4時間で既に側副血行路 が現れ,6ヵ月間にその大きさ,数が増大すると 報告している.すなわち中枢側でembolizationを 施行しても早期にrecirculationが行われるため, 効果の持続は短く腫瘍を完全壊死に至らしめるこ とはできないことが判明している.従来から臨床 で使用されているgelformぱ,岡村ら26)の報告に よるとmicrometastasisや門脈内腫瘍にはほとんど無効としており,Doppmanら27)も真の
peripheral embolizationにならず副側血行路が 発達すると報告している.今回の実験で⑤処置群 はLPD単独の血液阻害効果を見るために設置し たが⑥群と比較して明らかに制癌効果がみられ, LPDのperipheral embolizationによる虚血効果 と考えられた.山下ら28)もLPD単独肝動注例で VX−2腫瘍に対する抗腫瘍効果は非治療例と比較 して有意(p〈0.05)の効果が見られ,LPDの塞栓 効果が考えられると報告している.そこで著者は, 腫瘍内に直接emulsionが到達し腫瘍周囲の細動 脈まで塞栓されれぽ腫瘍は壊死に陥り副側血行路 の問題は解決すると考えた.そして本試作製剤は 前述のごとく真のperipheral embolizationが期 待できるので,gelformと併用することにより理 想的なtargeting chemoembolizationが施行でき ると思われる. 次に,DDS二本柱のcontrol releaseに関して, つまりLPD化制癌剤の徐放効果であるが, LPD 化制癌剤の徐放効果にはemulsionの安定性が大 ぎく関与している.成書29)によればその安定性に 及ぼす条件として,(1)油相と水相の比重差を少 なくする,(2)連続相(油墨)の粘度を高くする, (3)分散粒子(水系)の濃度を低くする,(4)界 面張力を低くする,(5)粒子表面に比較的広がり のある電気二重層を形成させる,(6)粒子表面を ある程度機械的な強さを持った吸着剤で包む,等 が記されている.中村ら6)は,(1),(2),(3)の条 件を満たす安定化法を開発し,その後広く応用さ れるようになった.稲葉ら30)はアラセル。,Tween 80等の界面活性剤を使用し(4),(5)の条件を利 用しているが,今野ら31)は臨床上の問題として有 害な界面活性剤の使用は避けなければならないと している.しかしながら,他の報告は界面活性剤 の配合によって,安定化と同時に徐放化も図れた 一1007一としている32)∼35).もっとも界面活性剤の多くは生 体適合性の面で問題があり解決されておらず,即 臨床応用するのは困難である.(!),(2),(3)の 条件を満たす従来のLPD emulsionは,それだけ では長時間の安定性を保ち得ないことが問題点で あり,emulsionに安定性と制癌剤徐放性を賦与で きれぽ今まで以上の効果が期待できると考えた. そこで,著者は,既に静注用脂肪乳剤イソトラ ファット注射液(日本製薬),イントラリピッド注 射液(大塚製薬)等に界面活性剤として配合され 長年使用されており,安全性が確立されている lecithinをLPD emulsionに界面活性剤として本 邦で初めて配合し満足する製剤となった. 今回の基礎実験で中村ら6>の工夫に倣いこれら を更に徐放化することを意図して界面活性剤1ec− ithinの配合を試みたのであるが,至適配合量決定 の過程でlecithinの配合量により適度なADM徐 放性を賦与し得ることが判明した.つまり1eci− thinの配合量により制癌剤の放出速度をコント ロールできることが明らかになったのである(図 3).基礎実験で1ecithin濃度を0.5%に決定した 大きな理由は0.5%以上配合剤ぱ調製7時間後も 相分離を来さず安定であることと,放出性試験で は0.5%以上配合剤は無配合剤と比較して約43倍 のADM放出遅延が認められたためであり,しか も最小有効量ということで0.5%に決定した. 以上よりtumor targeting, control releaseと
いういわゆるDDS二本柱はある程度満たされた と考えられる. 次に本試作製剤の抗腫瘍効果であるが,実験に 用いたVX−2腫瘍は悪性度の高い腫瘍で,血管造 影上も血管に富んだ腫瘍であることが知られてお り,この実験系がADMに反応することは既に森 ら36)による持続肝動注実験に関する報告がある, 対照としての②群はlecithinを配合したことによ る抗腫瘍効果の差異を検討するためのもの,③群 はADM単独の抗腫瘍効果を見るため,④群は制 癌剤の肝への動注と全身投与間における抗腫瘍効 果の変異を見るため,⑤群はLPDのperipheral embolization効果を確認するために設置した.肉 眼判定による処置別VX−2肝転移抑制効果(表3) では成績で示したように無処置群と比較すると
ADM単独動注や,制癌剤無配合のLPD単独製剤
でもある程度の効果があるが,lecithin無配合の 従来製剤は全てgrade 3以下でありより優れた転 移巣抑制効果があった.しかし本試作製剤は6例 全てがgrade 3以下でありその半数はgrade 1で あり,最も優れたVX−2肝転移巣抑制効果を認め た.処置別肝転移巣の組織所見でぱ,本試作製剤 はリンパ球浸潤,マクロファージ遊走,脂肪変性, 繊維化が多く認められやはり従来製剤を含む対照 群と比較して優れた抗腫瘍効果を示した.Leci− thin無配合の従来製剤との大きな違いはリンパ 球浸潤,脂肪変性が試作製剤の方に多く認められ たことである.さらに各処置旧肉眼判定で最も母 集団が多かったgrade 3における処置別肝転移巣 の組織所見でも同様に本試作製剤は従来製剤より も優れた転移巣抑制効果を示し,リンパ球浸潤が 多く認められた.これは一見肉眼的には同程度の 抗腫瘍効果(肉眼的に層別化された)に見えても 組織所見では差があり,臨床における抗腫瘍効果 判定に際しても組織学的判定の重要性があらため て痛感された. 以上より,本試作製剤は従来製剤と比較して明 らかにlecithinを配合したことによる抗腫瘍効果 の増大が認められ,優れたDDS製剤であり臨床 応用することが有望であると思われた. 結 語 1)Lecithin配合ADM・LPD(w/o)emulsion のlecithin至適濃度を決定するための基礎実験を 施行し,至適配合量を0.5%に決定した.これによ り,ernulsionは安定化し同時に適度な制癌剤徐放 性を賦与することができた. 2)本試作製剤は真のperipheral embolization が期待でき,制癌剤の腫瘍集積性,抗腫瘍効果に 優れたDDS製剤である. 3)試作製剤の抗腫瘍効果を検討するため,VX− 2腫瘍を用い日本白色種家兎の転移性肝癌モデル に対し実験を行った.その結果,本試作製剤は対 照群と比較して良好な抗腫瘍効果を示した. 4)本試作製剤は臨床応用することが有望であ ると思われた.稿を終えるに当たり,御懇篤なる御指導並びに御校 閲を賜りました羽生富士夫教授に深謝の意を捧げる とともに終始直接の御指導,御教示をいただきました 鈴木博孝教授に謝意を捧げます.また終始御助言立協 力をいただいた喜多村陽一講師に感謝の意を表しま す.なお,VX−2腫瘍株を提供いただいた協和発酵・医 薬学術部宮川晃氏のtechnical assistanceに謝意を表 します. 本論文の要旨は第4回DDS学会,第26回日本癌治 療学会で発表した. 文 献 1)奥山和明,磯野可一,小野田昌一ほか:胃癌肝転 移例に対する有効な治療法.日癌治療会誌 19: 763−769, 1984 2)宮崎 勝,高橋 修,志村斜照ほか:胃癌肝転移 例における肝切除の意義.手術 13:2079−2083, 1987 3)宮崎 勝,高橋 修,志村賢範ほか:肝臓癌の外 科的治療一転移性肝癌.肝胆膵 15:469−474, 1987 4)宮崎 勝,宇田川郁夫,飯沼克博ほか:胃癌回転 移に対する肝切除例の検討.日臨外医会誌 51: 29−34, 1990 5)兼松隆之,井口 潔,古田斗志也ほか:リピオドー ル化制癌剤を用いた肝癌の選択的癌化学療法.肝 臓 26 :472−478, 1985 6)中村仁信,橋本 勉,田口鐵男ほか: Adriamycin−in・oil emulsionの安定性に関する検 討:肝動脈塞栓療法における意義,癌と化学療法 13 :3276−3279, 1986 7)増配三年,大嶽純一,武本宜教:高速液体クロマ トグラフィーによる生体試料中のアドリアマイシ ンとその代謝物の定量.薬学雑誌 104:614−619, 1984 8)三浦 健,灰田公彦,灰田茂生ほか:転移性肝癌 の治療方針.外科診療 9:1117−1128,1984 9)奥山和明,磯野可一,佐藤裕俊ほか:消化器癌肝 転移例に対する治療一特に持続動注療法について 一.日医新報 3090:25−30,1983 10)前田迫郎,古賀成昌,尾崎行男ほか:原発性,転
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