察
著者
赤木 敏之
雑誌名
聖和論集
号
39
ページ
1-6
発行年
2011-12-22
URL
http://hdl.handle.net/10236/9025
運動・動作の視点からみた音楽リズム表現活動の考察
A research regarding the rhythmic activities of physical fitness and fundamental movement
赤 木 敏 之
*Abstrect
This study argued for the rhythmic activities of physical fitness fundamental movement in childhood.
The purpose of this study was to investigate the fundamental movement of rhythmic activities in childhood. The fundamental movement of rhythmic activities of 79 children in the kindergarten were observed. The results are summarized as follows:
(1)I selected 49 movement from previous studies.
(2)At A-kindergartens rhythmic activities, 18 movements of 49 movements were observed. It turned out that the movements were not well-balanced.
(3)It is necessary to enlighten nursery school and kindergarten teachers about the rhythmic activities of physical fitness and fundamental movement.
(4)I inferred that it is foundations to master fundamental movements by outdoor play and as a supplement, fundamental movements need to master by rhythmic activities.
キーワード:基本動作、運動能力、調整力、音楽リズム表現活動
Ⅰ 問題
乳幼児が自己充実していきいきと遊び、豊かに歩 み育っていくことは、保護者、保育者の共通の願い である。そして、いきいきと生きるためには、まず、 一人ひとりに与えられた「からだ」、もっている「か らだ」が、その子ども一人ひとりに応じて、健康で あることがその基礎であることは明白である。 しかし、近年、全国的にも体力の低下、運動能力 の低下が社会問題になっている。その原因は、子ど もを取り巻く社会環境の変化(生活が便利になり、 日常的に体を動かすことが減少。戸外での遊びに必 要な時間、空間、仲間の減少。など)、保護者の意 識の変化、生活習慣の乱れなどがあげられている (「平成17年度体力・運動能力調査結果」文部科学省、 2006)。小林(1999)は、運動能力の低下が、幼児 期から生起していること、乳幼児期からの遊びや身 体活動の影響が大きいと示唆している。そして、中 村(2009)は、体力低下の直接的な原因として、「基 本的な動作の未習得」と「運動量の減少」をあげて いる。つまり、幼児期の戸外での遊びで、子どもが どのような運動能力を使っているのか、どのような 体の動き(基本動作)をしているのかが重要になっ てくると考えられる。筆者は、この基本動作は日々 の多種多様な遊びを通して、楽しみながら身につけ ていくことが重要と考えている。筆者は、園庭環境 を工夫することで、自由な戸外遊びで多種多様な動 作が経験でき、身につけていると推察した(武田・ 赤木、2010)。 また、保育現場でも同じように躓いても手が出な いで、顔、口の中を怪我する、しゃがむことができ ず後ろに尻もちをついてしまう、まっすぐに走れな い、背中が『ぐにゃっ』となってしまう、すぐに「疲 れた」という、身体のバランスが悪いなどの子ども の「からだ」のおかしさが問題になっている。これ も同様に子どもの体の動き、姿勢に問題があると考 えられる。 筆者は、前述したように、基本動作は自由な戸外 遊びで、子どもたちがさまざまな遊びを通して楽し みながら身につけていくことが基本であり、重要で * Toshiyuki AKAGI 関西学院 聖和幼稚園あると考えている。また、幼稚園生活から考えると 音楽リズム表現活動においても楽しみながら、戸外 遊びを補う要素として基本動作を身につけていくこ とができるのではないかと考えている。 そこで、本研究では園生活の音楽リズム表現活動 での基本動作について考察することにする。
Ⅱ 目的
本研究では、幼稚園の音楽リズム表現活動におい て、幼児がどのような基本動作をしているのかを把 握し、運動・動作の視点から音楽リズム表現活動を 考察することを目的とする。Ⅲ 方法
ઃ.対象 対象は、兵庫県私立A幼稚園の年少組28名、年中 組28名、年長組23名、各ઃクラスずつである。 .手続き (1)実施期間:2010年10月〜11月 (2)実施場所:兵庫県私立A幼稚園保育室 (3)手 順: ①84の基本動作(石河利寛の研究を基に、財団 法人体育科学センター(1980)が84種類に分 類し提案したもの)とその後の基本動作に関 する研究から、筆者が幼児期までに身につけ ておきたい49種類の基本動作を選び出した。 基本動作とは、 財団法人日本体育センターは、1980年に幼 稚園児の行っている基本的な動作を明らかに し、カテゴリーに分類している。そして、実 際の幼児の自由な遊びを観察・調査した結果 から84種類の動作を基本動作としている。 84種類の基本動作の分類は、安定系、移動 系、操作系のઅつのカテゴリーに分けてい る。安定系の動作内容は、姿勢変化と平衡動 作である。移動系の動作内容は、上下動作、 水平動作、回避動作である。操作系の動作内 容は、荷重動作、脱荷重動作、捕捉動作、攻 撃的動作である。その84種類に分類し提案し たものを表ઃに示した。 ②選び出した49種類の基本動作に基づき、音楽 リズム表現活動の幼児の行動・動作を記録し た。筆者が幼児の音楽リズム表現活動の観察 を行った。 (4)分析方法: 行動・動作観察したものを49種類の基本動作 に基づいて整理する。中村・植屋・宮丸(1990) は、身長・体重と動作発達得点との間には、男 女ともઃ%水準で有意な相関関係があること、 つまり、身長・体重の増加とともに動作も発達 していくことを述べている。身長・体重の増加 と共に基本動作の熟達度も上がることから、遊 びの中で基本動作が確認できれば、子どもの身 体的成長とともに、遊びを通して経験を重ねる ことで、その基本動作の熟達度も上がると考え られる。このことから、動作発達の熟達度(中 村・宮丸、1986)に関しては調べず、その動作 が見られたかどうかを指標として分析した。Ⅳ 結果
ઃ.49種類の基本動作 乳幼児期に多種多様な運動動作が身ついていくこ とは大切なことである。そこで、乳幼児の生活にお いて重要と考えられる、幼児期までに身につけてお きたい49種類の基本動作を表に示した。 安定系動作は「立つ」「組む」「乗る」「渡る」「起 きる」「ぶら下がる」「回る」のઉ種類の動作である。 これは、姿勢の変化や安定性を伴う動きである。 移動系動作は「はう」「歩く」「滑る」「走る」「ギャ ロップする」「スキップする」「追う」「跳ぶ」「ケン ケンをする」「登る」「跳びつく」「跳びあがる」「お りる」「跳び降りる」「滑りおりる」「かわす」「隠れ る」「くぐる」「潜る」「止まる」の20種類の動作で ある。これは、重心の移動を伴う動きである。 操作系動作は「支える」「運ぶ」「持つ」「こぐ」「押 す」「押さえる」「おろす」「浮かべる」「もたれる」 「つかむ」「当てる」「入れる」「受け止める」「渡す」 「振る」「積む」「掘る」「打つ」「投げる」「蹴る」「倒 す」「引く」の22種類の動作である。これは、人や 物を操作する動きである。 .音楽リズム表現活動において観察された基本動 作 今回調査を行った兵庫県私立A幼稚園の音楽リズ ム表現活動で観察された基本動作を表3に示した。 (1)安定系動作(非移動) 安定系動作とはઉ動作である。 安定系動作は7動作のうち4動作が確認できた。 運動・動作の視点からみた音楽リズム表現活動の考察 聖 和 論 集 第 3 9 号 2 0 1 1 ― 2 ―(2)移動系動作 移動系動作は20動作である。 ①水平動作 水平動作はઋ動作中ઊ動作が確認できた。 ②上下動作 上下動作はઈ動作中ઃ動作が確認できた。 ③回避動作 回避動作はઇ動作中અ動作が確認できた。 (3)操作系動作 操作系動作は22動作である。 安 定 系 動 作 ︵ 非 移 動 ︶ 表ઃ 84種類の基本動作 操 作 系 動 作 荷 重 動 作 かつぐ 移 動 系 動 作 まわる もつ・もちあげる・もちかえる ねる・ねころぶ はこぶ・はこびいれる かがむ・しゃがむ ささえる 姿 勢 変 化 平 衡 動 作 立つ おきる・おきあがる こぐ さかだちする うごかす ころがる あげる つきおとす のりまわす おさえる・おさえつける のる おす・おしだす つみかさねる・くむ おこす・ひっぱりおこす 脱 荷 重 動 作 おろす・かかえておろす ぶらさがる おぶう・おぶさる わたりあるく なげおとす わたる もたれる あがる・とびのる おりる 上 下 動 作 のぼる うかべる うく おりる とめる はいのぼる・よじのぼる 捕 捉 動 作 つかむ・つかまえる とびあがる もたれかかる とびつく とびこす うける すべりおりる いれる・なげいれる とびおりる あてる・なげあてる・ぶつける まわす あるく ふる・ふりまわす およぐ わたす 水 平 動 作 はう うけとめる ほる はしる・かける・かけっこする ころがす すべる つむ・つみあげる ふむ うつ・うちあげる・うちとばす ギャロップする つく ステップ・ワルツする 攻 撃 的 動 作 たたく スキップ・ホップする かくれる くずす 回 避 動 作 かわす なげる・なげあげる とぶ わる おう・おいかける にげる・にげまわる しばる・しばりつける もぐる たおす・おしたおす くぐる・くぐりぬける ける・けりとばす すもうをとる ふりおとす はいる・はいりこむ ひく・ひっぱる とまる あたる・ぶつかる
①荷重動作 荷重動作はઈ動作中આ動作が確認できた。 ②脱荷重動作 脱荷重動作はઅ動作中ઃ動作が確認できた。 ③捕捉動作 捕捉動作はઊ動作中どの動作も確認できなかっ た。 ④攻撃的動作 攻撃的動作はઇ動作中ઃ動作が確認できた。
Ⅴ 考察
観察した動作を安定系動作、移動系動作、操作系 動作に分類し、整理すると動作の偏りがあることが 分かった。保育室での音楽リズム表現活動であるの で、移動系動作が中心になることは予想されたが、 その中でも水平動作に偏りが見られた。 移動系動作は自己の身体を移動させる動きであ り、平衡系動作は自己の身体についての姿勢の変換 や平衡を維持する動きであり、操作系動作は自己の 身 体 以 外 の 物 体 を 操 作 す る 動 き で あ る(宮 丸、 1986)。その中でも、姿勢のコントロールや平衡感 覚を身につけることは幼児期には非常に大切であ り、そして、幼児期に必要とされる動作は、姿勢平 衡系および姿勢平衡系と移動系が組み合わさったも のである(小林、1990)。 戸外遊びにおいて多様な基本動作を体験するため には、固定遊具や遊び遊具を整える必要性があるよ うに、環境が重要である。それと同様に、音楽リズ ム表現活動においても保育室という制限はあるが、 大型積木、机などの使用、また、自由な表現を多く 取り入れることにより、上下動作、回避動作なども 補うことができると考えられる。また、音楽リズム 表現活動は、友だちのしている動作を模倣すること も可能な活動である。そして、保育者の意図性の強 い活動でもある。人的環境としての保育者が、音楽 リズム表現活動の内容を基本動作の視点を取り入れ て工夫することで多種多様な動作が経験できるので はないだろうか。しかし、保育者の意図性、願いが 運動・動作の視点からみた音楽リズム表現活動の考察 聖 和 論 集 第 3 9 号 2 0 1 1 ― 4 ― 安 定 系 動 作 表 幼児期までに身につけておきたい基本動作 操 作 系 動 作 支える 移 動 系 動 作 ぶら下がる 押さえる 起きる 押す 渡る こぐ 乗る 持つ 組む 運ぶ 立つ 入れる 走る 当てる 滑る つかむ 歩く もたれる はう 浮かべる 回る おろす 掘る ケンケンをする 積む 跳ぶ 振る 追う 渡す スキップ・ホップする 受け止める ギャロップする 滑りおりる 引く 跳びおりる 倒す おりる 蹴る 跳びあがる 投げる 跳びつく 打つ 登る 止まる 潜る くぐる 隠れる かわす× × × × × × × × ○ ○ × × × × × × 安 定 系 動 作 表અ 音楽リズム表現活動で観察できた基本動作 × × × × × × × × × × × × × × × × 少年組 移 動 系 動 作 年中組 年長組 × ○ 渡る × 乗る × 組む × 平 衡 動 作 姿 勢 変 化 立つ ○ × 歩く ○ 水 平 動 作 はう ○ 回る ○ ぶら下がる × 起きる ○ 跳ぶ ○ 追う × スキップ・ホップする × ギャロップする ○ 走る ○ 滑る おりる × 跳びあがる × 跳びつく ○ 上 下 動 作 登る × ケンケンをする ○ くぐる ○ 隠れる × 回 避 動 作 かわす ○ 滑りおりる × 跳びおりる × 荷 重 動 作 操 作 系 動 作 × ○ ○ × × × 潜る 止まる 支える 運ぶ 持つ こぐ 押す 押さえる 脱 荷 重 動 作 捕 捉 動 作 × ○ × × × × × × おろす 浮かべる もたれる つかむ 当てる 入れる 受け止める 渡す 攻 撃 的 動 作 × × × × × × × × ○ 振る 積む 掘る 打つ 投げる 蹴る 倒す 引く ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ ○ × × × × ○ ○ × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ ○ × × ○ ○ × × × × × × × × × × × × × ○ × ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ ○ × × ○ ○
強くなりすぎると、子どもの中に「やらされている 感」でき、子どもの主体性を考えると問題がある。 そのバランスが大切である。 音楽リズム表現活動の場合、保育者は子どもたち の表現に意識が向いていると考えられる。しかし、 基本動作の視点から音楽リズム表現活動を見直す必 要があると考える。また、音楽リズム表現活動にお いても自分の身体を操作する力、自分で動きを身に つけて表現する力など、行動体力の柔軟性、敏捷性、 巧緻性、平衡性といった調整力を養うことができ る。この点を保育実践者である保育者に啓発する必 要がある。 基本動作は自由な戸外遊びで、子どもたちがさま ざまな遊びを通して楽しみながら身につけていくこ とが基本であり、重要であると考えている。戸外遊 びを補う要素として音楽リズム表現活動においても 楽しみながら、基本動作を身につけることも必要で あると考える。 引用・参考文献 石河利寛他 1980 幼稚園における体育カリキュラムの 作成に関する研究 Ⅰ.カリキュラムの基本的な考 え 方 と 予 備 調 査 の 結 果 に つ い て 体 育 科 学 8: 150-155 河辺章子 2001 脳の発達と運動学習 文部省 初等教 育資料 No.741:68-71 小林寛道 1985 幼児の身体活動と運動 体育の科学 Vol.35(1):10-14 ―――― 1989 子どもの体力をどうとらえるか 体育 の科学 Vol.39(11):830-833 ――――他 著 1990 幼児の発達運動学 ミネルヴァ書 房 ―――― 1999 現代の子どもの体力―最低必要な体力 とは― 体育の科学 Vol.49(1):14-19 近藤充夫 1980 幼児期と身体教育 体育の科学 Vol.30 (1):6-9 ―――― 1990 新版乳幼児の運動遊び 建帛社 小沼真幸・山口有次・渡辺仁史 2006 子どもの外遊び における基本動作から見た遊具空間に関する研究 学術講演梗概集:119-120 Meinel. K 著 金子明友 訳 1981 マイネル・スポーツ 運動学 大修館書店 宮丸凱史 1985 幼児期と動きの獲得 体育の科学 Vol. 35(1):15-20 ―――― 1986 子どもの動きの発達をどうとらえたら よいか 体育の科学 Vol.36(6):477-481 水谷仁 編集 2006 Newton ムック ここまで解明され た脳と心のしくみ ニュートンプレス 文部科学省 2008 幼稚園教育要領平成20年告示 文部 科学省 ―――― 2006 平成17年度体力・運動能力調査報告書 「平成17年度体力・運動能力調査」の概要 文部科学 省 森司朗・杉原隆・吉田伊津美・近藤充夫 2004 園環境 が幼児の運動能力発達に与える影響 体育の科学 Vol.54(4):329-336 中村和彦 2009 子どもの体力低下から見えてくるもの 体力科學 Vol.58(1):12 奈良女子大学文学部附属幼稚園幼年教育研究会編 1989 調整力を高める運動遊び ひかりのくに 杉原隆 2000 運動を中心に見た幼児期の発達 杉原隆 編 新版幼児の体育 建帛社:22-41 ―――― 2008 運動発達を阻害する運動指導 幼児の 教育 107(2):16-22 武田俊昭・赤木敏之 2010 幼稚園における外遊びの基 本動作について 関西学院大学教育学論究 第号: 53-60 吉田伊津美 2005 動作の理解、指導の内容に理解 体 育の科学 Vol.55(7):507-511 運動・動作の視点からみた音楽リズム表現活動の考察 聖 和 論 集 第 3 9 号 2 0 1 1 ― 6 ―