日本武道学会第 53 回大会
弓道専門分科会企画
新型コロナウイルスの影響による
「新しい生活様式」に基づいた弓道の在り方
日 時:令和 2 年 9 月 12 日(土)13:00 ~ 15:00 開催方法:Zoom を用いたリアルタイムでのオンライン開催 司 会:五賀 友継(国際武道大学) Ⅰ.はじめに 2020 年 1 月以降に中国・武漢市をはじめとす る肺炎及びその原因とされる新型コロナウイルス 感染症(COVID-19)が流行したことにより,弓 道も様々な面で影響を受けている.多くの弓道競 技大会・審査・講習会などの各種行事が中止となっ ている.また,2020 年 5 月 25 日に日本政府の緊 急事態宣言が全国で解除されたものの,その後も 個人練習再開の見通しが立っていない場所も存在 する.弓道界においても,「新しい生活様式」に 基づいた対応を迫られている. 弓道は,その競技特性として対人形式を取らず, 全ての競技・審査を人と人との接触を行わずに行 うことが可能である.そのため,弓道会・学校単 位での活動を再開している地域では,「新しい生 活様式」に基づいたオンライン審査・競技大会な どといった取り組みを行っているところがある. COVID-19 終息の見通しが立たない中では,こう した取り組みが今後も継続して必要とされる可能 性が高い.また,オンライン審査・競技大会など は,COVID-19 終息後も新たなツールとして弓道 の活性化に用いられることが期待される. 本企画では,全日本弓道連盟及び高校の弓道部 活動において積極的にオンラインを活用して活動 を行っている指導者を招へいし,COVID-19 の影 響による弓道実施上の様々な制限に対して,如何 に対応を行っているのか(行うのか)について, それぞれの立場での講演を事例紹介も交えて行っ た.そして,ポストコロナも見据えた今後の弓道 の在り方について議論を行い,今後の弓道研究に どのような新たな視点が必要かを見出すことを目 的とした. Ⅱ.講師について 全日本弓道連盟副会長 浅野有三氏 一般社団法人愛知県弓道連盟名誉会長 宇佐美義光氏 静岡県立島田商業高等学校教諭・静岡県弓道連盟 理事 中山研人氏 Ⅲ.全日本弓道連盟の対応について COVID-19 関連の全日本弓道連盟の組織として の対応全般について,浅野有三氏よりご講演をい ただいた. 全日本弓道連盟として,COVID-19 の影響で中 止とした大会は,令和 2 年 3 月 30 日に開催予定 であった第 33 回都城弓まつり全国弓道大会(主 催:都城市)であった.都城市から 2 月 21 日に 中止という連絡があり,大会に付随して実施して いた【都城】特別臨時中央審査会も中止という決 断に至った. その後,4 月から 5 月にかけて行う全日本弓道 大会,定期中央審査会について,全国から参加者が多く,開催してほしいという声が多い大会では あったが,COVID-19 流行の状況の悪化があり, 日本国内だけではなく,海外での流行の状況を鑑 みて,中止ということとした.その後も,個別の 事案については開催が可能なのではないかとの意 見もあり,連盟として議論が続いていたが,3 月 24 日には東京オリンピック 2020 の延期の発表さ れたこともあり,4 月 23 日に緊急事態対策室の 創設を決定し,設置した. 緊急事態対策室において今後の大会等の実施に ついて議論が行われ,個別の事案について,対応 を異にしてしまうと予定を立てること自体が難し くなるということもあり,4 月 29 日に,9 月まで の行事についてすべて中止にする旨を全国都道府 県弓道連盟(地連)の方に連絡した. この時点では,2020 年度前期の行事を中止と し,代替の行事について連絡はなかった.そこで, 今後の活動について,5・6・7 月に検討し,7 月 30 日付の理事会で今後の行事についての方針を 報告した. 検討をするうえで,最優先の目標としては,公 益財団法人として感染させない,広げないことで あった.そのため,審査講習会関連委員会にワー キンググループを設置し,10 月以降の中央審査 会については,計画を白紙に戻すことを決定し, COVID-19 流行の状況においても実施可能な審査 の場所・日時・方法検討した.Go To トラベル事 業開始以降,人の移動が多くなったが,今後も感 染予防に努めていく予定である. その他,各地連の審査については,人が控室な どに集まらないような審査の方法を検討してい る.「新型コロナウイルス感染症防止対策に関す る地方審査会運営ガイドライン」を発行し,これ に沿った運営を 10 月以降お願いしている. 本年度の対応としては 9 月までの行事はすべて 中止,10 月以降は工夫しながら開催,中央で行 う行事に関しては中止という形である. Ⅳ.審査会について COVID-19 対策を考慮した審査会について,宇 佐美義光氏よりご講演をいただいた. COVID-19 の流行を踏まえ,全日本弓道連盟で はコロナ禍での審査会の実施についてワーキング グループで検討を行ってきた.そこで,特に中高 生を対象にビデオ審査会を実施することとなっ た. これはあくまでコロナ禍対策として「三密」を 避ける地方審査会を目的とし,中高生にとって今 年しかない昇段のチャンスを守るためである.段 位は弐段以下とし,学校で認められる活動の範囲 内で,部活動の成果を達成できるように実施する. ただし,参段を受審する高校生については,学校 長の許可を以て地方審査等を受審してもらう予定 である. ビデオ審査の実施要領については,あくまでも 全弓連審査統一審査基準で実施する.ただし,学 科審査に関してはレポートでの提出で対応する. ビデオ撮影は,稽古している部活練習拠点道場で 実施する.また,撮影費用は各主管連盟支出にて 支出し,動画の審査については審査員を集めるか, 録画をコピーし各審査員自宅で実施する. ビデオ録画要領としては,カメラを被写体の正 面から,残身時の両手が画角に収まる位置に固定 カメラを設置してもらう.また,入退場まで撮影 すると時間がかかってしまうため,本座から射位 に進み,一手行射し,退場するまでを,サンプル ビデオを模範として実施してもらう. ビデオ審査の問題点としては, ・ 各学校の部活動顧問,部活動外部指導者の協力 がなければ実施できない点 ・ 受審者数が多い場合,審査員を集めると密と なってしまうため,自宅査定が望ましいこと ・ 事務作業管理が多くなること ・ 録画容量が多くなること などであるが,今回の審査方法が確立し,録画 データの送受信の方法が確立すれば海外でも実施 が可能ではないかと議論をしている. 今回のビデオ審査はあくまでも中高生を対象と した特別措置であり,地方審査会については 130 人までの人数の制限,50 人以上を収容できる施 設を利用,入場の時間制銀,参加者の入れ替え, 参加者は一方通行での退場などガイドラインを
守ってもらったうえで実施をお願いする. また,来年度に関しても,状況を見て判断する 予定である.海外の審査会,大会,講習会につい ても現在感染予防を行ったうえでの実施方法を検 討している. Ⅴ.高校部活動における COVID-19 対応,事例 紹介 高校部活動におけるコロナ禍での活動に関し て,中山研人氏にご講演いただいた. (1)現在高校弓道部が抱える課題 1.大会や練習試合の相次ぐ中止 2.1 年生がまだ的前に立てていない 3.部活動ガイドラインの浸透により活動に制限 4.大会,練習試合の開催の難しさ ・ 施設の利用制限,人数制限 ・ 学校及び保護者の許可・同意が必要 以上のことから,十分な稽古が行えず,例年に 比べ約 2 ~ 3 か月程度進度が遅れているという現 状がある. また,オンラインでの試合も現在実施されてい るが,一般的なオンライン試合は Zoom などのオ ンライン会議システムを用いて,端末 1 で射手を 撮影,端末 2 で看的を撮影するというものである. しかし,以下のようにいくつか課題もある. ・ 試合形式については個人戦を行う際,個人の氏 名や的中を特定しづらい. ・ 的中確認に関しても,参加校がある一定数を超 えると難しくなる. ・ 通信トラブルの対応は難しい. ・ 目視による的中確認のため,間違える可能性が 高い. ・ 別途,的中をメモや入力の必要がある. などの課題があり,様々な試合形式に対応,容易 な的中確認が必要だと考えられる. (2)新たなオンライン試合の提案 以上の課題から,無料表計算ソフト「Google スプレッドシート」で的中の入力を行うことを提 案 す る. 端 末 1 で 射 手 を 撮 影 し, 端 末 2 で Google スプレッドシート的中入力を共有する方 法である. Google スプレッドシートを使用することは次 のようなメリットがある.1 つ目は教育的観点か ら,代表戦などの団体戦のみならず, 全員が参加 できる個人戦も設定し,個人の氏名と的中が特定 できる状態にし,試合運行や進行をスムーズに行 うことができるという点である.部活動をより教 育的効果のある活動の場にするためには「全員参 加」に意義があると考えている. 2 つ目は運行・進行面である.具体的には以下 のようなメリットがある. ・ Zoom の通信トラブル時にも Google スプレッ ドシートさえあれば的中を把握でき,試合を続 行できる ・ トーナメント表やリーグ対戦表を自動作成でき る. ・ 人為的なミス(的中の数え間違い,見間違い) を最小限にできる. ・ 目視や音声による的中確認が不要なため,参加 校が増えることによる遅延の心配がない. 最後に,試合の閲覧者にとってのメリットであ る.生徒や保護者,その他閲覧者に試合結果をリ アルタイムで発信でき,会場の状況,来場の有無 にかかわらず閲覧できる.また映像は選手のみを 映して必要以上に分割されないため,見やすく, 閲覧者が特定の選手を見やすい.さらに機材は映 像用端末 2 台使用するよりもデータ通信量を大幅 に削減できる.これらのことから閲覧者にとって もメリットのある方法と考えられる. (3)事例紹介 大会名 静岡県オンライン錬成大会 日 時 8 月 2 日 参加校 静岡県内 9 校(参加者 146 名) 内 容 ① 3 人団体戦 予選,及び個人戦 ② 個人男女各 1 位決定戦 ③ 3 人団体戦 決勝トーナメント ④ 5 人団体戦 予選 ⑤ 5 人団体戦 決勝トーナメント
(4)今後の課題 今後,これらのオンライン試合を実施するにあ たって以下のような課題もある. ・ マニュアル作成,Zoom の使い方講習 ・ 環境設備 ➢ iPad,プロジェクター,スクリーン,通信回 線等 ・ 通信料の問題 ➢ 現状顧問がモバイル Wi-Fi ルーターを契約し たり,スマートフォンをデザリングしたり, 自己負担で行っている場合も ・ 的中入力・確認 ➢ Google スプレッドシートに代わるシステム やアプリケーションの開発が必要 質疑応答 Q1.Google スプレッドシートに代わるシステム やアプリケーションの開発が必要というのはどの ような理由か? ➡(中山氏)Excel から Google スプレッドシー トの変換をマニュアル化すれば問題ないが,もっ とシンプルで,全国共通のもの,例えば全日本弓 道連盟の方で共有していただければ,こういうも のが得意でない方もオンラインの試合を行うこと ができるのではないか. Q2.学校教育現場だけでなく,一般道場で導入 する際のポイントはあるか ➡(中山氏)Wi-Fi 環境の整備が重要で,支部や 道場単位でポケット Wi-Fi 等を契約する必要があ る. Q3.ビデオ審査は中高生・一般は弐段まで実施 するとの説明があったが,大学生の対応はどのよ うにするのか? ➡(宇佐美氏)基本的には各地連の地方審査に準 じて五段までは実施する予定である.関東に関し ては今後審議していく必要がある. Q4.オンライン等で映像を撮影する機会が増え ると考えられるが,研究のために動画を蓄積して 共有することなどが今後可能かどうか,検討して いるのかを含めご意見をいただきたい. ➡(浅野氏)動画や画像は収集可能であるが,承 諾を得られるかどうかが問題になる.射術の向上 のために興味深いが,現段階では連盟としてそこ まで検討はまだしていない. ➡(宇佐美氏)以前弓道誌でも写真をもとに指導 するということも行ったが,これが今回のビデオ 審査が弐段までということにかかわっている.弐 段までは基本体や基本の射術に基づいているかを 判断するが,参段以上になるとそれぞれの心の問 題も関わってくる.海外でも弐段までのビデオ審 査を検討中だが,収束する見通しがたつまでは COVID-19 の対策を講じたうえで実施していく. ➡(中山氏)現在でも弓道未経験の顧問教諭から, 画像や動画をもとにアドバイスを求められること はある.今後弓道連盟の先生方などの指導もこの ような形で受けられれば,高校弓道界にとっては 有益である.また,流行の状況に応じて複数会場 でのオンライン大会も考えて準備はしている. Q5.上海などの海外の弓道クラブでは日本のよ うに試合が普段開催されない.だからこそ対面で の試合や審査の実施を強く希望している.そこで, COVID-19 終息後は対面とは別にオンラインでの 試合等は継続していこうと考えているのか? オ ンラインの利点など,可能性について教えていた だきたい. ➡(中山氏)個人的にはどちらも併用していきた いと考えている.現在高校生を指導している立場 から言うと,遠方への遠征は費用・時間・距離な どの制限がある.また,高校などではオンライン 試合などを平日の放課後に実施することも可能で ある.そのような手軽さがあるため,休日は可能 であれば対面で実施して空気感を共有し,平日は オンライン試合を実施してモチベーションを保て るようにしたい. ただ,実際にやってみると「間」が重要である と感じている.例えば相手の立を見る機会を作る など適切な「間」を作った方がよいと感じている. Q6.オンライン試合の場合,的中率は変化があ るか? ➡(中山氏)的中率は高くなる傾向があると感じ ている.
Q7.オンライン試合などで録画した動画などは フィードバックに使用するか? ➡(中山氏)YouTube の限定公開や学校のシス テムを使って動画を共有している.相手校につい ても同様に良い部分を見習えるように利用するこ とがある. Q8.動画のコマ数等はどのように設定している のか? ➡(中山氏)一般的な動画を編集して共有し,再 生するときに各自コマ送りなどで見てもらってい る.録画した動画を活用している高校は 10%以 下と感じている. Q9.審査では個人情報の管理が問題になると考 えられるが,どのように対処されているか? ➡(浅野氏) 特定できる情報は名前・学校名・審 査の番号・動画に限定している. ➡(宇佐美氏)地方審査においても審査時に個人 情報の一部を開示する許諾はとっている.これま でも個人情報は取得して適切に管理してきたの で,同様に管理をできると考えている.なお,ビ デオ審査では動画について記憶媒体を通じて,審 査員に持ち帰ってもらう場合があるが,必ず返却 してもらっている. Ⅵ.まとめ (松尾専門分科会長)今回の専門分科会を踏まえ ても,COVID-19 流行の終息後に,新な弓道の様 式として継続的に活用できるものもあると考えて いる.ピンチがあったからこそ今後チャンスに変 えていけるのではないか.弓道の未来について今 回の経験が生かせるはずである. できない部分も様々あるが,できることに目を 向けて,一歩前進していかなければならない.一 歩進むときに,どなたかがまた後押しをしたり, 筋道についてヒントをくれたりすることもあると 思うが,今回の企画が皆様のヒントになったとし たら幸いである. 報告:原田隆次(国際武道大学)