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非専従執行役員における本務と組合活動の両立を通した職業的発達プロセス

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Academic year: 2021

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産業カウンセリング研究 2020年 第22巻 第1号 1-14 The Japanese Industrial Counseling 2020 Vol.22 (1) 1-14

原著

非専従執行役員における本務と組合活動の

両立を通した職業的発達プロセス

Vocational Development Process through Balancing Duties and

Union Activities in the Part-time Operating Officer

原 恵子(筑波大学働く人への心理支援開発研究センター)

Keiko Hara (University of Tsukuba: R & D Center for Working Persons’ Psychological Support)

堀内 泰利(筑波大学働く人への心理支援開発研究センター)

Yasutoshi Horiuchi (University of Tsukuba: R & D Center for Working Persons’ Psychological Support)

岡田 昌毅(筑波大学人間系)

Masaki Okada (University of Tsukuba: Faculty of Human Sciences)

依藤 聡(j.union 研究所)

Satoshi Yorifuji (j.union Institute)

清水 康子(j.union 株式会社)

Yasuko Shimizu (j.union Inc.)

正道寺 博之(j.union 株式会社)

Hiroyuki Shodoji (j.union Inc.)

【要約】 本研究は非専従執行役員に着目し,本務と組合活動の両立を通した職業的発達プロセスを明らかにすることを 目的とする。リサーチクエスチョンは以下とする。1) 非専従執行役員はどのような経緯で役員を受任し,その後 役員としての役割遂行と意識や行動はどのように変化するのか。2) 役員としての役割遂行と意識や行動の変化に はどのような要因が関連するのか。非専従の形態で自社の労働組合において執行役員を担っている者16名(平均年 齢は36.3歳)を対象とした。半構造化面接は15問で構成された。内容は逐語化し,修正版グラウンデッド・セオリ ー・アプローチ(M-GTA)で分析され,66概念で理論的飽和に達したと判断した。概念間の関連から14カテゴリー, 5カテゴリーグループとして整理された。主な結果として,非専従執行役員における本務と組合活動の両立を通し た職業的発達は,役員になるまでの逡巡や受任する際の経緯があり,役員としての役割遂行と意識や行動の変化 が進み,苦労とやりがいの両面があるなか役員だからこそから得られた経験が積み重なり身につくことも増え, 本務への建設的な影響と自身のキャリア自律意識の両方が促進されているプロセスであることが示唆された。 キーワード:労働組合 非専従執行役員 両立 職業的発達 M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ) Abstract

The purpose of this study is to define the vocational development process through balancing duties and union activities in the part-time operating officer. Research questions are as follows. How do officers become officers and How role and job awareness and behavior change? What factors affect changes in job awareness and behavior? The survey targeted 16 officers (average age: 36.3). Semi-structured interviews were conducted on 15 subjects. A verbal protocol was made for the interview contents, which was then analyzed by the modified grounded theory approach (M-GTA). It was determined that the theoretical saturation was reached with 66 concepts, and from the inter-conceptual aspect, they were arranged into 14 categories and 5 category groups. There is a hesitation and a reason to be appointed before becoming an officer, changes in role and job awareness and behavior through executive experience. There are both hardships and rewarding experiences, and the experience gained because of officers accumulates. It was suggested that both the constructive effect on the work and the career autonomy were promoted.

Keywords: Labor Union,Part-time Operating Officer,Balance,

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1.問題と目的 はじめに 少子高齢化や人口減少,グローバル化やAI化の進 展,人々の価値観の多様性等を背景として,ビジネ ス環境や就業環境は大きく変化している。我が国で は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に 関する法律」が2018年に公布され,2019年4月から 順次施行されている。「個々の事情に応じた多様で 柔軟な働き方を,自分で選択できるようにするため の改革」であると公的には説明されているが(厚生 労働省,2019a),労働時間法制や公平な待遇等の推 進のみならず,労働者が自身の事情や価値観に応じ て柔軟に働くための支援を組織側も求められている。 労働者の働き方に関しては,2016年の職業能力開 発促進法の改正も重要な意味を持つ。労働者に自身 のキャリア開発における責任を課し,労働者が自ら キャリア開発の設計・目標設定、そのための能力開 発を行うことの支援を事業主への努力義務とした。 第10次職業能力開発基本計画(厚生労働省,2016)で は「生産性向上に向けた人材育成戦略」をテーマに 掲げているが,企業内においても各種資源を効果的 に活用し人材育成の抜本的な強化を図ることが強く 求められている。 このように,企業が労働者個々人の働き方やキャ リア開発などに対する支援をすることの必要性は近 年急速に高まってきている。企業から労働者への支 援としては,労働安全衛生法が2014年に改正されス トレスチェック制度の義務化が定まり,前述の職業 能力開発促進法改正でキャリア開発支援の中核にキ ャリアコンサルティングが位置づけられたことの影 響も大きく,心理臨床やキャリア支援に関する専門 職者との連携の上で推進が進んでいる。そうした専 門職者による取組みの効果も期待されるが,企業内 の非専門職者に着目することも重要であると考えら れる。企業と労働者を相互に結び付け,両者の成長 を目標とする組織や役割の代表的なものの一つとし て,本研究では企業内労働組合と組合役員に着目す る。 労働組合 労働組合とは,組合員の雇用の維持・改善を目的 とする労働者の連帯組織である。1945年制定の労働 組合法では,労働組合を「労働者が主体となって, 自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向 上を図ることを主たる目的として組織する団体およ びその連合団体」と定義している。労働組合基礎調 査(厚生労働省,2019b)によると,国内の組合数は 約2万4千,組合員数は約1008万人であり,雇用者数 に 占 め る 労 働 組 合 員 数 の 割 合 で あ る 推 定 組 織 率 は 16.7%となっている。1949年の55.8%を頂点とし,パ ートタイマー組織率の増加はあるものの,長期的に は逓減が続いている。組織率の減少が続く一方で, 職場における問題の発生が減少しているわけではな い。小熊(2016)は,非正規労働者の拡大など働き方 の多様化が進み,職場における処遇など労使間で議 論すべき領域が拡大していること,正規労働者の働 き方の多様化も進み育児や介護と職業生活との両立 策が模索されていること等を指摘している。個別的 労使関係が進展し,労働組合のあり方自体が問われ ているとの指摘もある(労働研究・研修機構,2002)。 労働組合が直面している具体的な課題としては, 「組合員とのコミュニケーション強化」と「次世代 組合役員の育成」が最も高い水準にあることを示す 調査がある(日本生産性本部,2011)。また,近年女 性の雇用数は大幅に増加し企業の役職者に占める女 性割合も微増してきたが,組合役員に占める女性比 率 が 13-14% で 固 定 し た ま ま で あ る と の 指 摘 も あ る (首藤,2011)。組合運営には運営を担う構成員が重 要な要素であり,組織人員の縮小が続くなか,その 人材をどう確保し,どう育成していくかは,組合の あり方や活性化へ大きく影響を及ぼす要因であると 考えられる。 組合役員 組合役員は,一般的には専従と非専従による役員 (委員)から構成されている。専従は組合役員を本務 としており,委員長・副委員長・書記長など労働組 合における主要な三役を担う場合が多い。組合業務 に専念できることで役員活動への内発的な動機や責 任感を持ちやすいと推測される。ただし,組合毎の 経済的基盤の問題などから,専従が存在する割合は 全組合中80.2%にとどまる(日本労働組合総連合会 連合総合生活開発研究所,2015)。つまり,約2割の 労働組合は非専従のみで組合活動を運営しており, 委員長・書記長等の三役も非専従が担っている組合 があると理解できる。 次に,非専従であるが,配属された職場での本務 があり,本務労働時間外で組合活動を遂行している 点が専従とは異なる。非専従は,一般的には職場委 員を経験したあと,執行役員になる場合が多い。職 場委員とは,職場単位に1名程度が任命されるため 人数も多く,時間的負荷と責任範囲は軽い場合が多

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い。一方,執行役員とは,組合の規模により数人か ら十数名程度で構成されており,実務面での指導的 立場を担い時間的負荷と責任範囲が共に重い場合が 多い。つまり,専従役員と非専従職場委員の中間に 位置付き,両者を橋渡しする役割が非専従執行役員 であると考えられる。役員になる経緯として,職場 委員の 5 割は前任者から言われたという調査結果 (中部産業・労働政策研究会,2010)があり,非専従 執行役員の場合も自らの意思ではなく前任者や役職 者から指名される場合が多いと推測される。その後, 非専従執行役員が自らをどう動機付け役割を遂行し ていくのかは不明であり,健全な組合運営において 重要な課題になると考えられる。 組合役員に関して,藤村(2011)は中部産業・労働 政策研究会が2008年から2009年にかけて実施したア ンケート調査に基づき,組合側の意見をはっきりと 主張できる職場委員を選出することが必要であるこ とや職場委員の現場掌握力が弱いこと,職場委員に 求める行動を明確に示すことが必要であることなど を指摘している。これらは職場委員への指摘にとど まらず,非専従者への共通的な示唆であるとも考え られる。ところで,労働組合の役員を対象とした意 識調査も近年行われている。労働調査協議会(2015) は,若手組合役員を対象に,役員を引き受けた理由 を複数回答で求めた。「接する情報が広がり視野が 広がる」は68.7%と7割近くの回答があり,「職場で は身につけにくい能力の取得(30.5%)」「出身職場の 声を反映したい(23.0%)」がそれに続く結果である。 また,専従役員を対象とした調査によると(電機連 合navi,2018),専従役員は一般組合員に比べ,「ど んな仕事でも楽しみを見つける」「自分のスキルや 能力を確認する」「将来の仕事上の目標を持つ」等 の項目は高い傾向であり,「必要な技術等が新しい ものに変わる」など組合専従から職場に戻る際の不 安があり,「管理職として運営に携わりたい」とい う内部昇進志向が高い傾向であることが示されてい る。このように,組合役員全般や専従役員を対象と した意識調査から組合役員の意識に関する一定の示 唆は得られるものの,専従役員と職場委員・一般組 合員をつなぐ立場であり,組織の活性化に欠かせな い役割である非専従執行役員を対象とした検討は確 認できない。 本研究の目的 以上を踏まえ,非専従執行役員における本務と組 合活動の両立を通した職業的発達プロセスを探索的 に検討することを本研究の目的とする。本研究では 役員経験を通した意識や行動の変化,およびその関 連要因を含めたプロセスを職業的発達として捉える。 また,本務とは「本来の任務」であり,本研究では 配属されている職場における従業員としての業務・ 職責を意味する言葉として用いる。リサーチクエス チョンは以下である。1) 非専従執行役員はどのよう な経緯で役員を受任し,その後役員としての役割遂 行と意識や行動はどのように変化するのか。2) 役 員としての役割遂行と意識や行動の変化にはどのよ うな要因が関連するのか。 なお,両立に関する研究は,「仕事と仕事以外」 の関係性に着目した検討は進んでいる。例えば,仕 事 と 育 児 ( 鈴 木 , 2001) , 仕 事 と 家 庭 生 活 ( 森 田 , 2006),仕事と治療(佐藤・櫻井,2017),仕事と介 護(青木,2019)等である。一方,「仕事と仕事」の 両立,いわば「兼業・副業」との関係性は現代的な テーマであるが,小倉・藤本(2006)によるサラリー マンの副業に関するアンケートデータに基づいた整 理や,諏訪(2018)による副業・兼業,テレワークへ の提言などによる示唆はあるものの,実証的な検討 としては遅れている。本研究での本務と組合活動と いう切り口は「仕事と仕事」を考える際の新たな示 唆になると考えられる。また,職業的発達に関する 研究は,心理臨床家(岡本,2007),キャリア支援職 者(坂本,2012;原・小玉・岡田,2013),看護職者 (鈴木,2012)等,主には専門職者を対象とした検討 が進んでいる。参考となる部分もあるが,一般的な 労働者である組合役員の職業的発達はまた異なる側 面があり,新たな知見をもたらすことが期待される。 2.方法 (1)調査協力者 本研究では,自社の労働組合において非専従執行 役員を担っている者を対象とした。特定の業界や担 当職種に偏らないように留意し,労働組合活動の支 援を業務とする民間会社の協力を得て労働組合経由 でインタビュー協力者を集めた。調査協力者は16名 (男 性14名 ・ 女 性2名) , 平 均 年 齢 は36.3歳(SD:5.1 歳),社歴平均12.8年(SD:4.3年),非専従の執行役 員歴は平均3.6年(SD:1.7年)であった。その他詳細 はTable 1で示す。

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Table 1 調査対象者の一覧 群 no 性別 年代 組合での立場 役員歴 業界 担当職種 A1 男性 30代 中央書記長 7 建設 技術 A2 男性 30代 中央副書記長 4 電気 電気設計 A3 男性 40代 支部長 4 資源 技術 A4 男性 30代 中央執行委員 3 小売 店舗管理 A5 男性 30代 支部長 3 製造 製造 A6 男性 30代 支部長 2 小売 営業本部 A7 男性 30代 支部長 2 小売 技術 B1 男性 30代 執行役員 7 製造 技術 B2 女性 50代 執行役員 6 飲食 店舗管理 B3 男性 30代 執行役員 4 小売 店舗管理 B4 男性 30代 執行役員 3 製造 設計 B5 男性 30代 執行役員 3 製造 設計 B6 男性 30代 執行役員 3 飲食 店舗管理 B7 男性 30代 執行役員 2 製造 技術 B8 女性 30代 執行役員 2 小売 店舗管理 B9 男性 30代 執行役員 2 製造 専門職 1.組合内で管理 的立場にある非専 従役員 2.上記以外の非 専従役員 (2)実施時期と具体的方法,倫理的配慮 2019年6月から9月にかけて半構造化面接を行った。 調査は調査協力者が指定した場所で実施し,一人あ たりの平均時間は49.8分(SD:8.9分)であった。IC レコーダーと筆記により内容の記録を行い,音声を 逐語録に起こした。面接に際して,目的,個人情報 の取り扱い,回答が自由意志であることや回答中断 の権利があること,録音媒体と逐語録の処理方法, 結果は学会や学術雑誌において発表される可能性が あること等を明記した依頼書に基づき説明し,同意 書への署名を得た。 (3)半構造化面接の内容 非専従執行役員の組合活動を通した職業的発達プ ロセスを検討するために,基本属性とその他15項目 を設定した。基本属性(部署名と職種,組合役職名 と役職歴,年齢,社歴と主な経歴),1)役員になる 前の経緯と現状,2)役員の受任理由,3)役員業務の 変化,4)役員業に関する見方の変化,5)役員として の苦労とやりがい,6)本業と役員業務との兼ね合い や葛藤,7)組合に対する意識の変化,8)役員をする 上での支え,9)役員業務を進める上での悩みや不満, 10)悩みや不満をどう克服したか,11)労働観に対す る意識の変化,12)役員になったことで得られたこ と,13)本業に活かせること,14)周囲からの支援, 15)役員経験の自分のキャリアにとっての意味。 (4)半構造化面接の分析方法 逐 語 録 デ ー タ を 対 象 と し , 修 正 版 グ ラ ウ ン デ ッ ド・セオリー・アプローチ(以後M-GTAと表記) に よる分析を行った。そもそもGTAとはデータに忠実 に分析を進め,テーマと対象に対して限定された範 囲における説明力に優れた方法である。切片化した データに基づき分析を進める点に特徴がある。M-GTAは,GTAの基本理念である理論生成への志向性, grounded-on-dataの原則,意 味の深い解釈等は 継承 しながらも,データを切片化せず研究する人間の視 点を活かした分析プロセスを明確化した点や研究を 現場に還元することを重視している点に特徴がある (木下,2003)。本研究においても,十分に解明さ れていない現象のプロセスを探索し,社会還元する 方法として適していると判断した。本研究において, 分析焦点者は「自社内労働組合における非専従の執 行役員」である。分析テーマは「非専従執行役員の 本務と組合活動の両立を通した職業的発達プロセス」 と設定し,役員としての役割遂行と意識や行動の変 化とその関連要因を探索的に検討した。 理論的サンプリングと概念・カテゴリー・カテゴリ ーグループの生成 本研究では,非専従執行役員は各労働組合内にお いて多様な立場や担当業務に置かれている実態があ ることを考慮して理論的サンプリングを行い,次の

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2群に分け,第1群から分析を行った。第1は「組合 内で管理的立場にある非専従役員」群であり,責任 ある立場からの豊かな経験を語れる群として設定し, 第2は「上記以外の非専従役員」群であり,一般的 な非専従役員としての経験を語れる群として設定し た。 分析は,木下(2003)に基づき以下の手順で行っ た。1)逐語録を読み込み,分析テーマと分析焦点 者に照らして説明概念を生成した。2)概念を生成 する際に,概念名,定義,具体例,理論的メモを記 入する分析ワークシートを作成した。3)同時並行 で,データから他の具体例を探し対極と類似の両方 向で比較し,概念名や定義の修正,他の概念との関 連性について検討も加えた。4)データから新たな 概念が作成されず,概念名と定義を確定できた時点 で,その概念の理論的飽和化を判断した。5)生成 した概念と他の概念との関係を検討し,複数の概念 の関係からなるカテゴリーを生成し,さらにカテゴ リーグループを生成した。 妥当性の検討 本研究では真実性(Robson,1993)の考え方を用 いた。真実性とは,信用可能性,移転可能性,明確 性,確認可能性の4つの要素で構成されているが, 信用可能性の検討のため「専門家間審議」と「参加 者チェック」を行った。専門家間審議では,M-GTA の心得のある心理学系の専門研究者2名から指導を 受けた。参加者チェックでは,調査対象者のうち2 人と非専従執行役員5年以上の経験がある非調査対 象者2名,合計4名からの意見を聴収した。生成概念 やプロセス,結果図を説明し,全員から「違和感は なく,実感に近い」旨の意見が得られた。 3.結果と考察 分析の結果,66概念,14カテゴリー,5カテゴリ ーグループが生成され,「非専従執行役員の本務と 組合活動の両立を通した職業的発達プロセス」とし て結果図を作成した(Figure 1)。結果図は左端が執 行役員受任前であり,右に向かって時間軸が進んで いくことを想定し,各カテゴリーは配置された。カ テゴリーグループを【 】で,カテゴリーを[ ]で 表し,各カテゴリー中に概念を「・」で表記し,関 係性が認められる部分には矢印を示している。以下 では,結果図に基づくストーリーラインを最初に述 べることで全体像を説明し,その後に各概念の詳細 結果と考察を報告する。文中ではカテゴリーグルー プ,カテゴリー,概念の名称,調査協力者の発言例 は,順に【 】,[ ],「 」,“ ”で表示する。 (1)ストーリーライン 非専従執行役員における本務と組合活動の両立を 通した職業的発達は,【Ⅰ:役員になるまで】の経 緯があり,【Ⅱ:役員としての役割遂行と意識や行 動の変化】と【Ⅲ:役員経験により得られたもの】 が共に深まるプロセスである。役割と意識や行動の 変化には【Ⅳ:苦労とやりがい】が都度影響を及ぼ し,基盤には【Ⅴ:基盤となるもの】が存在する。 非専従執行役員の組合活動は「役員として声がか かる」ことからはじまり,「自分でいいのか,でき るのか」と迷うが,「組合経験者で尊敬できる人の 存在」や「自身に対する期待や説明」の影響もあり, [1.意思決定前の逡巡]をしたのちに[2.役員を受任] する。意思決定には「特に断る理由がない,しょう がない」と思う場合と,「自らの意思で役員」にな る場合や「会社理解と成長につながる機会として受 任」する場合がある。 役員経験の初期には,「大変なイメージ」や「組 合・役員に関する無知や誤解」を持ち,まずは「与 えられた業務をこなしていく」が,「組織としての 曖昧さ」もあり,[3.初期のとまどい]をおぼえる。 その後,「担当業務を継続的に遂行」し,「現場と本 部の橋渡し」となり,「主体的な動きやリーダーシ ップを発揮」するなど,[4.徐々に慣れる]状態とな るが,「組合活動には限界がある」ことも知る。慣 れるに従い,「会社運営に関する理解の深まり」が 進み,「組合員の代表」として「社員と会社双方の 成長を支える存在」としての意識が高まる。「後任 や周りの人の成長に関心」を持ち,「世代交代によ る組合組織の活性化」など,[5.役員としての意識 の高まり] につながる。さらに,[6.本務への応用 や還元]も活性化する。「役員経験からの知識・情報」 や[役員経験で得た思考力や発想力],「人脈」を本 務で活かすことができ,「社内外でのコミュケーシ ョンスキルの活用」にもつながる。「会社への愛着 や本務への意欲」も向上する。 役員経験を通し,「多様な役員仲間との濃い関係 性」を感じ,「本務では作れない全国規模の人脈」 が培われ,「役員だからこそ会える上位者との交流」 や「役員だからこその学習経験」など[7.役員だか らこそ得られた経験]が積み重なり,[8.身についた こと]が増えていく。「自分なりに考え判断基準を 持」ち,「伝え方や説得力が鍛えられ」,「人や状況 に応じたコミュニケーション」をすることや「巻き 込 み 型 リ ー ダ ー シ ッ プ 」 を 発 揮 す る 力 も 高 ま る 。

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Figure 1 非専従執行役員の本務と組合活動の両立を通した職業的発達プロセス結果図 非専従執行役員と し て の ス タ ー ト 現在~今後に 向け て [1. 意 思決定 前の逡 巡 ] ・ 自分で いいの か、で きる のか ・ 組合経 験者で 尊敬で きる 人 の存在 ・ 自身に 対する 期待や 説明 ・ 役員と して声 がかか る [2. 役 員を受 任 ] ・ 特に断 る理由 がない 、 し ょうが ない ・ 自らの 意思で 役員へ ・ 会社理 解と成 長につ なが る 機会と して受 任 [6. 本 務への 応用や 還元 ] ・ 役員経 験から の知識 ・情報 を 本 務に活 かす ・ 役員経 験で得 た思考 力や発 想 力 を本務 に活か す ・ 人脈を 本務で 活かす ・ 社内外 でのコ ミュニ ケーシ ョ ン スキル の活用 ・ 会社へ の愛着 や本務 への意 欲 向上 [14. 仕事 面 ] ・ 職場の 理解や 仲間の 協力 ・役員 の先輩 や経験 者の存 在 ・ 職場委 員や専 任役員 への信 頼感 ・組合 からの 本務優 先の配 慮 ・ 上司の 無理解 や偏見 ・上司 の理解 や現実 的な配 慮 ・ 各人の 労働観 [13. 生活 面 ] ・ 家族に は迷惑 ・家 族の理 解や協 力 ・ プライ ベート も大切 にする [8. 身 につい たこと ] ・ 自分な りに考 え判断 基準を 持つ ・ 伝え方 や説得 力が鍛 えられ る ・ 人や状 況に応 じたコ ミュニ ― ショ ン ・ 巻き込 み型リ ーダー シップ ・ 視野や 考え方 の広が り ・ 両立経 験によ る生産 性の向 上 [7. 役 員だか らこそ 得られ た経験 ] ・ 多様な 役員仲 間との 濃い関 係性 ・ 本務で は作れ ない全 国規模 の人脈 ・ 役員だ からこ そ会え る上位 者との 交流 ・ 役員だ からこ その学 習経験 [3. 初 期のと まどい ] ・ 大変そ うなイ メージ ・ 組合・ 役員に 関する 無 知や誤 解 ・ 与えら れた業 務をこ な してい く ・ 組織と しての 曖昧さ [4. 徐 々に慣 れる ] ・ 担当業 務を継 続的に 遂行す る ・ 現場と 本部と の橋渡 し ・ 主体的 な動き やリー ダーシ ッ プ の発揮 ・ 役員活 動には 限界も ある [5. 役 員とし ての意 識の高 まり ] ・ 会社運 営に関 する理 解の深 ま り ・ 組合員 の代表 ・ 社員と 会社双 方の成 長を支 え る 存在 ・ 後任や 周りの 人の成 長に関 心 ・ 世代交 代によ る組合 組織の 活 性化 [12. 役員 として のやり がい ] ・ 役員は 目立つ 、期待 される 存在 ・現場 で個別 に相談 される ・ 組合員 からの 賛同や 感謝 ・具体 的な成 果や手 ごたえ [11. 組合 特有の 苦労 ] ・ 組合の 取組み や考え 方を理 解して もらう ことに 苦労 ・ 多様な 考え方 を受け 止め、 まとめ る苦労 ・ 役員と して見 られて いる重 圧 ・ 後任を 探さな いと抜 けられ ない ・期限 を定め モチベ ーショ ンの維 持 ・ 役員経 験と昇 進との 関係性 ・ 役員経 験と昇 進は関 係しな い 【 Ⅳ :苦 労 と やり がい 】 [10. 両立 への葛 藤 ] ・ 本務を 優先し ながら の役員 活動 ・ 意識し て気持 ちを切 り替え る ・ 両立に よる時 間的な 負荷と 疲れ ・ 職種や 年次に よる苦 労 ・ 本務で のチャ ンスロ ス ・ 本務で の成果 を見せ つける プ ロセ ス 影響を 与え る 関係 対立す る 概念 【 Ⅱ :役 員 と し て の役割 遂行と 意識 や行動 の変化 】 【 Ⅰ :役員に な る ま で 】 【 Ⅲ :役 員 経験に よ り 得ら れた も の 】 [9. キ ャリア 自律意 識 ] ・ 柔軟な 思考に よるモ チベー ション 管理 ・ 役員活 動は部 活やビ ジネス スクー ル ・ マネジ メント スキル の貯金 ・ キャリ アプラ ンの選 択肢の 広がり 【 Ⅴ :基盤と な る も の 】 循環的な 関係

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「視野や考え方の広がり」や「両立経験による生産 性の向上」にもつながる。さらに,[9.キャリア自 律意識]も高まる「柔軟な思考によるモチベーショ ン管理」ができるようになり,「役員活動は部活や ビジネススクール」や「マネジメントスキルの貯金」 と意味付け,「キャリアプランの選択肢」が広がる。 この[9.キヤリア自律意識]と[6.本務への応用や還 元]は循環的な関係として相互に影響を及ぼしあう。 役員としての役割遂行と意識や行動の変化には, 都度,苦労とやりがいが影響を及ぼしている。まず, 本務との[10.両立への葛藤]を感じる。「本務を優先 しながらの役員活動」となり「意識して気持ちを切 り替える」ものの,「両立による時間的な負荷と疲 れ」を感じ,「職種や年次による苦労」や「本務で のチャンスロス」がおこることもある。「本務での 成 果 を 見 せ つ け る 」 者 も い る 。 [11. 組 合 特 有 の 苦 労]もある。「組合の取組みや考え方を理解してもら うこと」や「多様な考え方を受け止め,まとめる」 ことに苦労する。「役員としてみられている」こと や,「後任を探さないと抜けられない」という重圧 を感じ,「期限を定めモチベーションを維持」する。 「役員経験と昇進との関係性」がある組織もあれば, 「役員経験と昇進は関係しない」組織もある。苦労 がある一方,「役員は目立つ,期待される存在」で あり,「現場で個別に相談される」こともあり,「組 合員からの賛同や感謝」や「具体的な成果や手ごた え」など,[12.役員としてのやりがい]もある。こ うした苦労とやりがいは,循環的な関係として相互 に影響を及ぼしあっている。 役員としての役割遂行と意識や行動の変化には, 基盤となるものもある。「各人の労働観」は,「13. 生活面」や「14.仕事面」に影響を及ぼす。生活面 では「家族には迷惑」をかける場合と「家族の理解 や協力」に助けられる場合があり,「プライベート を大切にする」ことも基盤の一つになる。仕事面で は,「職場の理解や仲間の協力」や「役員の先輩や 経験者の存在」,「職場委員や専任役員への信頼感」 や「組合からの本務優先の配慮」があることが基盤 となる。なお,上司との関係は,「上司の無理解や 偏見」がある場合と「上司の理解や現実的な配慮」 がある場合の両面がある。 (2)カテゴリーごとの詳細結果と考察 ここでは,カテゴリー毎に生成概念についての詳 細結果と考察を述べる。 Ⅰ:役員になるまで 7概念が生成された。詳細はTable 2に示す。非専 従役員になる前段階では,“前任の執行委員がいま して,その方からやってみないかっていう話があり まして(B5)”など「役員として声がかかる」ことが 多くの場合きっかけとなっていた。その後,「自分 でいいのか,できるのか」と迷うものの,“尊敬す る先輩だったので,じゃ,やりますと。お前しかい ないんだと言われたので(B3)”など,「組合経験者 で尊敬できる存在」と「自身に対する期待や説明」 が影響を及ぼし,[1.意思決定前の逡巡]が進んでい る。その後[2.役員を受任]する意思決定にいたるが, 「特に断る理由がない,しょうがない」という受動 的な場合と,“他の部署とあまり交流がないところ の部署にいるので,会社全体を知る良い機会かもし れないということで(B7)”のように,「会社理解と 成長につながる機会として」能動的な視点から受任 する場合がある。なお,“組合の根底にどういう考 えがあるのか分からなかったので,執行委員になれ ばもっと詳しく分かるかなと(B9)”のように「自ら の意思で役員」になる場合もあり,役員になる前の 動機付けと役員に関する初期の意味付けには個人差 が大きいことがわかる。 Table 2 「Ⅰ:役員になるまで」カテゴリー カテ ゴ リー G カテ ゴ リー 概念 定義 - 役員として声がかかる 組合の幹部から執行役員としての声がかかる 自分でいいのか、できるのか 役員としての声がかかるものの、自分でいいのかできるのか 組合経験者で尊敬できる人の存 在 役員経験者の尊敬できる人の存在もあり、役員へ 自身に対する期待や説明 役員経験に関して、自身への直接的な期待や説明を受ける 特に断る理由がない、しょうがな い 特に断る理由もなく、しょうがないなとも思い、役員になった 自らの意思で役員へ 自分なりの考えやタイミングの良さもあり、自らの意思で役員 へ 会社理解と成長につながる機会 として受任 会社全体を知る機会や本務や成長につながりそうと思い受 任した Ⅰ:役員にな るまで 1.意思決定前の逡 巡 2.役員を受任

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Ⅱ:役員としての役割遂行と意識や行動の変化 18概念が生成された。詳細はTable 3に示す。役員 として初期は,“何をやっているのか分からない状 態でした。古くさいイメージを持ってました(A2)” の よ う に 「 大 変 そ う な イ メ ー ジ 」, も し く は 「 組 合 ・ 役 員 に 関 す る 無 知 や 誤 解 」 を 持 つ 者 が 多 い 。 “普通に仕事をやるよりも非常に曖昧だし責任範囲 とかも曖昧(B7)“と,「組織としての曖昧さ」を感 じ,役割を受け身的に「与えられた業務をこなして いく」姿勢となる場合もあり,[3.初期のとまどい] がおこる。その後,「担当業務を継続的に遂行する」 ことで[4.徐々に慣れ]ていくが,“現場の声を組合 の会議の場で伝えることもあり,会社からの声も現 場に伝えるっていう,中に入って両方の話を伝える っていう役割ですかね(B6)”のように「現場と本部 との橋渡し」的な役割として機能することや,「主 体的な動きやリーダーシップの発揮」など,役員役 割 と し て の 機 能 拡 大 も 進 ん で い く 。 そ の 一 方 で , “情報の共有というのを一番の目標に掲げていたが, それが末端まで皆に届いてるかと言ったら,おそら く届いていないと思います(A6)”といった「役員活 動には限界もある」ことを感じる場合もある。 そうした役員活動が1年ほど経過する中で,制度・ 経営状況など「会社運営に関する理解」が深まり, 組合員の益を考えるなど「組合員の代表」としての 自覚が高まる。組合を「社員と会社双方の成長を支 える存在」として理解する意識も高まる。組合員と の関わりのなか,“周りの人の成長をすごく,して ほしいなっていうふうに考えるようにはなったので (B2)”など,「後任や周りの人の成長に関心」を持 つこともある。役員の適切な「世代交代による組合 組織の活性化」など視野を広く持つ者もいるなど, 周囲や組合全体などに向けた,[5.役員としての意 識の高まり]が進む。 意識の高まりは,[6.本務への応用や還元]に結び 付く。「役員経験からの知識・情報」や「役員経験 で得た思考力や発想力」,および「人脈」を本務で 活かせており,「社内外でのコミュニケーションス キルの活用」なども含め,本務での役割遂行に直接 的 に ポ ジ テ ィ ブ な 影 響 を 及 ぼ し て い る 。 さ ら に , “嫌なところもたくさん見ましたけど,会社のいい ところも見れましたんで,なかなか今の会社を辞め て他に行こうという気には,まあ,ならない(B4)” など,日々の業務遂行のみならず「会社への愛着や 本務への意欲向上」という,より高次な意識にも結 び付いていることは重要な示唆であると考えられる。 Table 3 「Ⅱ:役員としての役割遂行と意識や行動の変化」カテゴリー カテ ゴ リー G カテ ゴ リー 概念 定義 大変そうなイメージ 役員業務は内容的にも時間的にも大変そうなイメージがある 組合・役員に関する無知や誤解 組合や役員について何も知らない、もしくは誤解している 組織としての曖昧さ 仕事の進めた方や体制などで曖昧な部分もある 与えられた業務をこなしていく 組合内で与えられた担当業務をただこなす 担当職務を継続的に遂行する 役員としての担当職務を継続的に遂行し、あまり大きな変化 はない 現場と本部との橋渡し 現場・会社の動きと本部の橋渡しをする 主体的な動きやリーダーシップ の発揮 一通りの組合業務がわかり、主体性やリーダーシップを発揮 していく 役員活動には限界もある 役員業務にはできないことや変わらないこともあり限界を感じ る 会社運営に関する理解の深まり 法律や制度、経営状況など会社の現状に関する理解が深 まる 組合員の代表 組合員への益を考える,組合員の代表である 社員と会社双方の成長を支える 存在 組合は、社員と会社が共に成長することを支える存在 後任や周りの人の成長に関心 後任や周りの人の成長に関する関心が高まる 世代交代による組合組織の活性 化 世代交代をしながら、組合組織を活性化しつづけることが重 要 役員経験からの知識・情報を本 務に活かす 役員経験で得た知識・情報を自身の仕事・本務に活かす 役員経験で得た思考力や発想 力を本務に活かす 役員経験で身に付いた思考力や発想力を本務に活かす 人脈を本務で活かす 組合活動を通して得た人脈が本務で活きる 社内外でのコミュニケーションス キルの活用 組合経験で身に付いたコミュニケーションスキルを社内外で 活用する 会社への愛着や本務への意欲 向上 会社への愛着心や本務への意欲が向上する Ⅱ:役員として の役割遂行と 意識や行動 の変化 3.初期のとまどい 4.徐々に慣れる 5.役員としての意 識の高まり 6.本務への応用や 還元

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Ⅲ:役員経験により得られたもの 14概念が生成された。詳細はTable 4に示す。役員 活動に従い,[7.役員だからこそ得られた経験]が積 み重っていた。“自分と違う職種の人間なんで,建 築の人もいれば事務系の人もいるし,そういう違う 人生,違う経験を歩んでる人の話とかっていうのは, やっぱり面白いし興味深いですよね(A1)”と「多様 な役員仲間との濃い関係性」を感じ,「本務では作 れない全国規模の人脈」を得る者も多い。本務では 会えない管理・経営層から学ぶことも多く「役員だ か ら こ そ 会 え る 上 位 者 と の 交 流 」 を 得 る 機 会 や , “研修とかセミナーとかもいろいろ参加させてもら う機会が増えるので,その中で物事の進め方の基本 となるスキル教育を受け(B1)”など「役員だからこ その学習経験」をする機会も得る。 [7.役員だからこそ得られた経験]から,「自分な りに考え判断基準を持つ」ことや「伝え方や説得力 が鍛えられ」,「人や状況に応じたコミュニケーショ ン」が取れるようになる。さらには,“周りのみん なを巻き込んだり,コントロールしていくっていう ところで,アサインの仕方とか,お願いの仕方とか。 その人をどうやってモチベーションを高くやってい ってもらうことができるんだろうとかっていう力は ついた(A5)”のように,「巻き込み型のリーダーシ ップ」を体得していく場合もある。“視野が広くな ったっていうの,ありますね。考え方に余裕もでき て。(A7)”のように「視野や考え方の広がり」もあ り,本務と組合活動の「両立経験による生産性の向 上」にもつながっている。 [8.身についたこと」は「9.キヤリア自律意識」 にも影響を与える。“小さいところに不満を感じな くなった。この不満は,あそこがこう理由で,ま, こ れ な ら し ょ う が な いね み た い な(A2)” の よ う な 「柔軟な思考によるモチベーション管理」ができ, 主体的な態度が醸成される場合が多い。役員活動は 自己成長や経験の場となると認識し「役員活動は部 活やビジネススクール」のようであると語る者もい る。“今後,私もマネージャー職とかやっていける としたら,そのときにはこの経験は生きるだろうな って(A5)”のように役員活動を「マネジメントスキ ルの貯金」のように意味付けする者もいる。また, “ああ,そういう部門も楽しそうだな,というのも 見えてきて,自社内での幅が広がった感じ,将来, 最後何を残したいかなっていうのを考えるようにな ってきた(B1)”と「キャリアプランの選択肢の広が り」を語る者もいる。このように,生産性の向上な ど業務に直接的に役立つ側面や働くことを長期的に 考えるうえで役に立つキャリア意識の向上など,多 様な側面が刺激を受け個々人の成長につながってい ると考察される。 なお,「9.キヤリア自律意識」と「6.本務への応 用や還元」は循環的な関係として相互に影響を及ぼ しあっていたが,本務への建設的な影響と自身のキ ャリア自律意識の両方が促進されることは,非専従 執行役員の職業的発達としての特徴的な要素である と考察される。専門職者特有の職業的発達(岡本, 2007;原・小玉・岡田,2013など)では専門家として のあり方や専門性の促進に関する側面が含まれてい たが,一般的な労働者である非専従執行役員の場合 は社会人としての総合的・汎用的な意識や能力の拡 大が特徴的な側面であると考えられる。 Table 4 「Ⅲ:役員経験により得られたもの」カテゴリー カテ ゴ リー G カテ ゴ リー 概念 定義 多様な役員仲間との濃い関係性 多様な経験や職種である役員仲間との濃い関係性から学び あう。 本務では作れない全国規模の 人脈 本務だけでは作れない、全国規模の人脈が作れる 役員だからこそ会える上位者との 交流 本務では会えない管理・経営層との交流・対話から学ぶ 役員だからこその学習経験 役員だからこそ参加できるセミナー等の学習機会を与えられ る 自分なりに考え判断基準を持つ 自分なりに考え、自分なりの意見・判断基準を持つ 伝え方や説得力が鍛えられる 他者への伝え方や説得力が鍛えられ,上達もする 人や状況に応じたコミュニ―ショ ン 人や状況に応じたコミュニケーション力が鍛えられた 巻き込み型のリーダーシップ 周りを巻きこんでいくリーダーシップの取り方を学ぶ 視野や考え方の広がり 視野と考え方の幅が広がる 両立経験による生産性の向上 両立のなかで時間の使い方がうまくなり、生産性が上がる 柔軟な思考によるモチベーショ ン管理 思い通りにならない状況でも、柔軟な思考でモチベーション を維持・管理する 役員活動は部活やビジネスス クール 役員活動は部活ビジネススクールみたい、自己成長や経験 の場となる マネジメントスキルの貯金 今後本務でマネジメントを担っていく際の有益な経験やス テップになっている 7.役員だからこそ 得られた経験 8.身についたこと 9.キャリア自律意 識 Ⅲ:組合経験 により得られ たもの

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Ⅳ:苦労とやりがい 17概念が生成された。詳細はTable 5に示す。役員 経験を通した様々な変化には,多様な苦労とやりが いが影響を及ぼしていた。役員経験の初期にはまず, [10.両立への葛藤]がある。「本務を優先しながらの 役員活動」であり「意識して気持ちを切り替える」 努力をする。そうした活動の中で,“一般の組合員 の方と同じ時間しかないんですね。その同じ時間の 中で,本業をおろそかにできない。でも組合活動も やっていかないと(A4)”と「両立による時間的な負 荷と疲れ」が積み重なる。“私まだ,会社の中では 若手の部類なんですね。で,なかなか上の方に対し て,仮に僕が正しいことを言ったとしても,うまく 伝わらなかったりというか(A1)”と「職種や年次に よる苦労」を感じたり,出張や挑戦的な業務から外 されるなど「本務でのチャンスロス」に直面するこ ともある。ただし,そうした状況を跳ね返すために も,「本務での成果を見せつけ」本務で高水準の業 績評価を得るなど,両立の葛藤が成長への契機にな っている者もいる。 徐々に慣れるに従い,[11.組合特有の苦労]も生 じる。“組合員の意見を吸い上げるっていう活動が, 活動として非常に難しい。組合自体が何をやってる か分からないっていう人が多い。それを伝えきれて ない(B4)”のように,「組合の取組みや考え方を理 解してもらうことに苦労」し,「多様な考え方を受 けとめ,まとめる苦労」に直面する。“きちんとし た立ち振る舞いであったりとか,言動っていうのは 注意しないといけないなって。結構,いろんなとこ ろで見られてたりとか(A5)”と,「役員として見ら れている重圧」もある。役員のなり手は一般的には 少なく,「後任を探さないと抜けられない」状況で あり,特に初期は役員としての「期限を定めモチベ ーションを維持」する場合もある。なお,「役員経 験と昇進との関係性」が慣習的に残る組織もあれば, 「役員経験と昇進は関係しない」組織もあり,組合 活動は組織という環境要因からの影響も大きいと推 測される。 Table 5 「Ⅳ:苦労とやりがい」カテゴリー カテ ゴ リー G カテ ゴ リー 概念 定義 本務を優先しながらの役員活動 あくまでも会社での本務を優先しながら役員として活動する 意識して気持ちを切り替える 本務と組合業務をいききする際の気持ちの切り替えを意識 する 両立による時間的な負荷と疲れ 本務と組合の両立による時間的な負荷があり、体力的にも 疲れる 職種や年次による苦労 職種や年次などの社内的な立場として説得力がないと感じ ている 本務でのチャンスロス 役員業務が理由で本務での機会や経験から外される 本務での成果を見せつける 役員兼務でも本務で成果を出せることを周りに見せるために 学習や仕事をがんばる 組合の取組みや考え方を理解し てもらうことに苦労 組合の存在や組合の取組みや考えを理解してもらうことに苦 労する 多様な考え方を受けとめ、まとめ る苦労 多様な考え方にとまどい、受け止め・とりまとめていくことに苦 労する 役員として見られている重圧 何百・何千もの組合員への責任を担っている、見られている 期限を定めモチベーションを維 持 期限を定めることで、役員職務のモチベーションを保った 後任を探さないと抜けられない 新規や後任の役員を探すことが苦労であり、抜けられない 役員経験と昇進との関係性 役員経験と本務での昇進には多少関係がある 役員経験と昇進は関係しない 役員経験と本務での昇進は関係しない 役員は目立つ、期待される存在 役員は目立ち、期待されている存在でもある 現場で個別に相談される 現場での個別に相談されたり、頼られる 組合員さんからの賛同や感謝 組合員さんからの直接的な賛同や感謝 具体的な成果や手ごたえ 具体的な成果が出たり、手ごたえを感じられたときにやりが いを感じる Ⅳ:苦労とやり がい 10.両立への葛藤 11.組合特有の苦 労 12.役員としてのや りがい

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これまでの多種多様な苦労の一方,[12.役員とし てのやりがい]もある。「役員は目立つ,期待される 存在」であり,“マネージャーにこんなこと言われ たんですよとか,どうしたらいいんですかっていう 相談は受けるようになってきた(B3)”のように「現 場で個別に相談され」たり,“組合員の人がありが と う ご ざ い ま す と 言 っ て く れ た り す る こ と が あ る (B9)”と「組合員からの賛同や感謝」を受けるなど, 現場での直接的な関係性の中からやりがいを感じる 機会もある。“やった結果,組合員さんがプラスに なることを持って帰れたときには,やっぱりやって よかったなとか思います(A4)”と「具体的な成果や 手ごたえ」を得られる場合もある。 こうした[10.両立への葛藤]と[11.組合特有の苦 労],および[12.役員としてのやりがい]は,循環的 に影響を及ぼしあいながら,役員としての役割遂行 と意識や行動の変化や移行に影響を与え続けている。 なお,ここで明らかになった[11.組合特有の苦労] と[12.役員としてのやりがい]は,「仕事と仕事以外 ( 育児 , 家 庭 生活 , 治 療 , 介 護)」 の 両 立(鈴 木 , 2001;森田,2006;佐藤・ 櫻井 ,2017;青木,2019) とは異なり,「仕事と仕事」である本務と組合活動 の両立に特有のものであると考察される。 Ⅴ:基盤となるもの 10概念が生成された。詳細はTable 6に示す。役員 経験の基盤には,[13.生活面]と[14.仕事面]があっ た 。 生 活 面 で は , 夜 や 土 日 な ど に 不 在 が ち と な り 「家族には迷惑」になる場合もあれば,「家族の理 解や協力」に感謝する場合もある。「プライベート も大切に」しながら役員活動をする者もいる。 仕事面では「職場の理解や仲間の協力」や「役員 の先輩や経験者の存在」は心のよりどころになって いる。松村(2001)は主観的なサポート受容感の重要 性を示していたが,その結果とも一致する要素が確 認された。上司に関しては,「上司の無理解や偏見」 があり上司が組合活動の阻害要因になっている環境 と,「上司の理解や現実的な配慮」があり上司が組 合活動の促進要因になっている環境が存在していた。 組合活動の活性化を考える際に上司との関係性は重 要な視点になると考えられる。なお,「職場委員や 専任委員への信頼感」と「組合からの本務優先の配 慮」も基盤となり,役員に役割を与えるだけではな く,組合組織として役員を支援する体制も大切であ ると推測される。こうした生活面と仕事面の基盤に 対して,「各人の労働観」が影響を与えており,役 員一人ひとりの価値観を大切にすることも重要な要 因になると考えられる。 4.結論 本研究では非専従執行役員の本務と組合活動の両 立を通した職業的発達プロセスを探索的に検討した。 役員になるまでの逡巡や受任する際の経緯が個々人 毎にあり,役員としての役割遂行と意識や行動の変 化が進み,役員経験だからこそ得られた経験が積み 重なり身につくことも増え,結果的には自身のキャ リア自律意識も高まっていた。意識や行動の変化に は,苦労とやりがいが都度影響を及ぼしていたが, 組合活動や役員として特徴的な苦労とやりがいも抽 出された。今回抽出された両立への葛藤や組合特有 の苦労をどう低減させ,役員としてのやりがい実感 を高めていけるかは,組合の活性化や組合役員のな り手の確保・拡大を考える際の重要な示唆になると 考えられる。また,非専従執行役員としての意識が Table 6 「Ⅴ:基盤となるもの」カテゴリー カテ ゴ リー G カテ ゴ リー 概念 定義 家族には迷惑 夜間や土日などで不在がちとなり,家族へ迷惑をかけてしま 家族の理解や協力 家族の理解や生活上の協力が支えとなる プライベートも大切にする 組合活動も大事であるがプライベートも大切にする 職場の理解や仲間の協力 職場の理解や仲間・同僚からの協力・フォローに助けられる 役員の先輩や経験者の存在 役員活動における先輩や経験者の存在が支えになる 上司の無理解や偏見 組合業務に関する上司の理解のなさや誤解・偏見 上司の理解や現実的な配慮 上司の理解や柔軟で現実的な配慮が支えとなる 職場委員や専任役員への信頼 感 専任役員・職場委員への信頼感があり、その関係性が助け となる 組合からの本務優先の配慮 組合内で本務を優先させてもらえる配慮がある - 各人の労働観 仕事で成長することや楽しく働くことなど、各人の持つ労働 観 Ⅴ:基盤となる もの 13.生活面 14.仕事面

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深まり行動が変化することで,本務への応用や還元 が進んでいくことのみならず,自身のキャリア自律 意識も深まることは注目すべき結果であった。役員 だからこそ得られた貴重な経験から視野や考え方が 広がり生産性が向上するなど,本務でのパフォーマ ンスにつながることは想定されやすい側面であった が,自身のモチベーション管理能力の向上やキャリ アプランにおける選択肢の広がりなどにもつながっ ていた。組織への貢献と個人としての成長の両面が 見出されたことは,非専従執行役員にとっての職業 的発達として重要な示唆であると考えられる。 基盤となるものも整理されたが,特に仕事面で抽 出された概念は本研究で整理された非専従執行役員 の職業的プロセス全体をより効果的に促進していく ために欠かせない資源になると考えられる。職場の 仲間や組合経験者,職場委員や専従役員との関係性 に加えて,上司との建設的な関係性をどう構築し, どう理解を得るかは重要な側面であると考察される。 現場での役員一人ひとりの工夫はもちろん,組合組 織としても取り組むべき課題であると考えられる。 最後に,本研究の限界を踏まえ,今後の課題を述 べる。第一に、M-GTAとは実践的活用を促す理論と も言われている(木下,2003)。今後、本プロセス が現実場面に戻され、多様な応用者によって理解さ れ、修正・応用されることが求められる。第二に、 参加者チェックで,「総論としては納得できるが, プロセスの進み方にはパターンや個人差があるので はないか」という意見もあった。今回の対象者は非 専従執行役員と本務との両立において適応している 者であったと解釈される。制約がある中での示唆で あり,本研究の結果は慎重に扱う必要がある。第三 に,回顧法による限界が想定される。調査協力者の 語りは,過去から現在までの複数年分を扱っており, 過去の記憶が再構成されている可能性があることも 認識する必要がある。第四に,本研究は組合役員の うち非専従執行役員に焦点をあてたが,専従役員や 非専従職場委員などはまた異なる潜在的な要因やプ ロセスがある可能性がある。組合役員の職業的発達 を複合的に理解するためには,さらなる対象者への 検討が求められる。 【謝辞】 本論文は,筑波大学人間総合科学研究科研究倫理委 員会の審査と承認を得て実施しております。本論文 の作成にあたり,面接調査にご協力いただいた方々 に心よりお礼申し上げます。 【引用文献】 青木由香(2019). 親の介護と職業キャリアの調整―中 年期シングル介護者の場合, 生活社会科学研究, 26, 1-13. 中部産業・労働政策研究会(2010). より健全で良好な 労使関係の構築に向けた職場づくり. 電機連合navi(2018).「ライフキャリア」に関するア ンケート調査:組合専従役員の資質と現状とは, 労働組合活動を支援する政策・研究情報誌,3, 33-37. 藤村博之(2011). 日本の労働組合-過去・現在・未来, 日本労働研究雑誌, 53, 79-89. 原恵子・小玉正博・岡田昌毅(2013). 中堅キャリア支 援職者における職業的発達プロセスに関する探 索的研究, キャリアデザイン研究, 9, 49-63. 木下康仁(2003). グラウンデッド・セオリー・アプロ ーチの実践―質的研究への誘い, 弘文堂. 厚生労働省(2016). 第10次職業能力開発基本計画―生 産性向上に向けた人材育成戦略. 厚生労働省(2019a). 働き方改革を推進するための関 係法律の整備に関する法律について. 厚生労働省(2019b). 令和元年(2019年)労働組合基礎 調査の概況. 森田美佐(2006). 雇用労働者が望む「職業生活と家庭 生活の両立支援」に関する事例研究,家政学研 究, 52, 51-60. 日本生産性本部(2011). 2011年度「労働組合が抱え る 課 題 と そ の 取 り 組 み 」 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 結 果 概 要 , https://www.jpc-net.jp/paper/ 2011kumiai.pdf (令和元年12月31日閲覧) 日 本 労 働 組 合 総 連 合 会 連 合 総 合 生 活 開 発 研 究 所 (2015). 第18回労働 組合 費に 関する 調査報 告, p12. 小倉一哉・藤本隆史(2006). サラリーマンの副業―そ の全体像,日本労働研究雑誌, 48, 4-14. 小熊 信(2016). 労働組合の組織の変化と担い手の意 識 , 中 央 大 学 文 学 部 社 会 学 ・ 社 会 情 報 学 , 26, 153-161. 岡本かおり(2007). 心理臨床家が抱える困難と職業的 発達を促す要因について,心理臨床学研究, 25, 516-527.

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Table 1  調査対象者の一覧  群 no 性別 年代 組合での立場 役員歴 業界 担当職種 A1 男性 30代 中央書記長 7 建設 技術 A2 男性 30代 中央副書記長 4 電気 電気設計 A3 男性 40代 支部長 4 資源 技術 A4 男性 30代 中央執行委員 3 小売 店舗管理 A5 男性 30代 支部長 3 製造 製造 A6 男性 30代 支部長 2 小売 営業本部 A7 男性 30代 支部長 2 小売 技術 B1 男性 30代 執行役員 7 製造 技術 B2 女性 50代 執行役員 6
Figure 1  非専従執行役員の本務と組合活動の両立を通した職業的発達プロセス結果図 非専従執行役員としてのスタート現在~今後に向けて[1.意思決定前の逡巡]・自分でいいのか、できるのか・組合経験者で尊敬できる人の存在・自身に対する期待や説明・役員として声がかかる[2.役員を受任]・特に断る理由がない、しょうがない・自らの意思で役員へ・会社理解と成長につながる機会として受任[6.本務への応用や還元]・役員経験からの知識・情報を本務に活かす・役員経験で得た思考力や発想力を本務に活かす・人脈を本務で活かす・

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