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「地産地消」活動の今後の課題について

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Academic year: 2021

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美味技術研究会誌 No.18:1-4,2011 ※ ) 岐阜 大学 名誉 教授 :〒 501-1193 岐 阜県 岐阜 市柳 戸 1-1

「地産地消」活動の今後の課題について

今井 健

※ [keyword] 地産地消,農産物直売活動,学校給食への地場農産物供給 1.はじめに 地 域 で 生 産 し 地 域 で 消 費 す る と い う い わ ゆ る 「地産地消」活動は,その生産,流通販売形態は 未だ全国市場流通が整備されていなかったかつて の朝市の復活のようにも見え,時代錯誤的な農産 物の生産流通システムのように見える。しかし今 「地産地消」活動の拡大は,大規模・大量生産シ ステムの形成を主とした 20 世紀型農業に対して, 21 世 紀 の 食 と 農 の 関 係 を 先 取 り し た 活 動 と し て 注目される。農産物は人間の食生活の基本であり, 世界のどこでも作れる工業製品とは異なり,効率 的な低コスト生産の前に,安全性を確保し食文化 を 豊 に す る も の で な け れ ば な ら な い か ら で あ る 。 「地産地消」活動はそのような農産物の本来の「商 品性の限界」をふまえ,地域特性に根ざした環境 保全型農業として,また安心できる農産物の提供 システムとして国民・消費者に支持されて拡大し てきたといえよう。 日本の農産物の「地産地消」活動は,1980 年代から全国各地で始まり,その後朝市形 態から常設店に発展しただけでなく,農業 体験施設や農家レストランが併設されたり, 地元の学校給食へ地場食材を供給したり, 多様な形態が見られる。近年では農産物直 売施設の新設数は減少しつつも都市近郊地 域には大型量販店に匹敵するほどの大店舗 が出現し,あらたな活動の発展方向が模索 されている。本論では岐阜県を事例対象として, 地産地消活動の今後の課題について考察する。 2.農産物直売活動の発展過程 農産物直売施設の設立年別推移をみると,図 1 にみるように,戦前から存続している夜市なども あるが,1980 年代の後半から 2005 年頃までの 10 数年間に集中し,そのピークは 2000 年頃であった ことがわかる。今日の農産物直売は,第 1 に伝統 的な朝市ではなく,まさに近代的な農産物の生産 と流通システムが完成した 20 世紀末にあらたに 生まれたローカルな生産・流通・販売のしくみで あること,第 2 にその形成過程を見ると,農村主 婦の小遣い稼ぎほどの小規模な道ばたの「戸板販 売」が,自治体や農協の協力によって「常設店舗」 となり,さらに発展・大規模化して都市近郊地域 では「ファーマーズ・マーケット」に,中山間地 域では「道の駅」に付置した大型施設となったこ 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 1 9 16 1 9 45 1 9 80 1 9 84 1 9 86 1 9 88 1 9 91 1 9 93 1 9 95 1 9 97 1 9 99 2 0 01 2 0 03 2 0 05 年度 直売所数 資料:岐阜県農政部2006年度岐阜県朝市直売所特別調査結果より 図1 開設年次別にみた農産物直売所数の推移(岐阜県) 1

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と,そして第 3 に,施設の廃止・統合数が新設数 を上回り総数が減少し始めているなどの変化が見 られる。 直売所の年間販売額規模は,農村主婦グループ の週末開催の朝市タイプでは,総額数百万円から, 都市近郊地域に立地し 1 千名近い出荷生産者を組 織した農協直営の数億円の直売所まで,様々であ る。岐阜県における 230 あまりの直売施設の年間 の総販売額は年々増加し近年では 100 億円を超え, 岐阜県の青果物農協共販額約 200 億円の半分の水 準に達する規模となっている。また全国的に見て も各地域で拡大し続け,「今や直売所の年間総売 上高は 1 兆円ともいわれ,我が国の農業総産出額 8兆 5 千億円の 1 割を超える勢い」とされている ( 農 水 省 「 農 業 担 い 手 マ ガ ジ ン 」 No137 号 , 2010.5.31.)。このように日本の国内農業生産が 低価格な輸入農産物の増加とともに後退し続け, 農家戸数や農業生産者の減少と高齢化が歯止め無 く進む情勢下にあって,農産物直売活動は伸び続 けている。 3.直売農産物の生産構造 直売農産物は「新鮮・安心・低価格」であるが 故に消費者から支持されて増え続けてきた。「低価 格」の要因については,図 2 のように生産と販売 が直結しているために集荷・流通コストが安いた めと説明されているが,より本質的な要因 は生産構造にある。農産物直売所への出荷 生産者の実態については,岐阜県下でのア ンケート調査等により以下のような特徴が 明らかとなっている。 第 1 に,生産者は農村女性と高齢者が主 体となっている。岐阜県下のある地域の出 荷生産者に対するアンケート(回答者 184 名)では 57%が女性であるが,男性も 4 割 以上を占めている。生産者の年齢は,60 歳 代と 70 歳代を合わせると 72%に達し,80 歳以上 の者も 17%を占め,農村の女性と高齢者が直売所 の出荷者の主体である。また出荷生産者の前職に ついては農家でありながら 44%が「勤め」であり, 農業であった者は 3 割以下であり,男性の場合は いわゆる兼業就業者が退職後に就農して直売所に 出荷するようになったことがわかる。 第 2 に,経営耕地面積は 10a 未満の農家が半数 を占めており,きわめて零細な自給的兼業農家が 主体となっていることが分かる。また出荷生産者 の 直 売 所 に お け る 年 間 の 販 売 金 額 別 構 成 は , 100 万 円 以 下 の 低 額 な 販 売 者 が 9 割 近 く を 占 め て い る。生活費の主な収入源についてはアンケートで は 80%が「年金」とこたえており,農産物販売が 主要な収入源にはなっていないことがわかる。 第 3 に,直売所への出荷における採算性に関す る生産者の意識は,図 3 にみるように,「採算は 考えていない」と回答する生産者は過半数を超え, 資材費や労賃もふくめて採算性を考えて出荷して いる生産者は 3 割以下となっている。その背景と なっている考え方は,自給農産物の一部を出荷し ているので少しでも売れればプラスであるとか, 健康のために高齢化しても農作業に従事している など多様であるが,生活費のためとする回答者は 少ない。 農家手取り 100円 120円 140円 170円 250円 小売価格 生 産 者 JA集荷所 経済連・全農 卸売市場 仲 卸 小 売 店 量 販 店 配送センター 量 販 店 消 費 者 ファーマーズ マーケット 農家手取り 130円 150円 小売価格 (日本農業新聞 2004年1月19日号より転載) 農家手取り 100円 120円 140円 170円 250円 小売価格 生 産 者 JA集荷所 経済連・全農 卸売市場 仲 卸 小 売 店 量 販 店 配送センター 量 販 店 消 費 者 ファーマーズ マーケット 農家手取り 130円 150円 小売価格 (日本農業新聞 2004年1月19日号より転載) 図2 市場流通とファーマーズマーケットの農家手取り 美 味 技 術 研 究 会 誌 第 1 8 号(2011) 2

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以上のように農産物直売活動の出荷主体は,自 給的な小規模農家の女性や高齢者である。直売活 動の経済的意義に関しては,年金収入を補完する 収入水準であり,生計を支える所得と言うよりも, 自身の健康増進であったり,地域貢献などの「生 き甲斐」にあるともいえる。 このように地場農産物の直売活動は,大規模生 産-大量流通システムから「疎外」された小規模 生産者,農村女性や「定年帰農者」などの中高年 齢者が生産・供給の主体となり,安全性問題など 食の問題に直面している消費者との連携した取り 組みの中から生まれた住民主体のローカルな自発 的活動であることに特質がある。 4.発展方向と課題 (1)直売活動の組織化,大型化,複合化 ボランタリーな活動として始まった農産物直売 が自治体や農協の支援を受けて拡大し,直売施設 も「農家レストラン」や「農業体験施設」が併設 され消費者の地域農業と食への関心を一層深める 活動として評価できる。農協は当初農産物直売に 関しては,全国市場に対応する共販体制を阻害す るものとして一般的に消極的であったが,1990 年 代の後半からは食と農を結びつける「地域農協」 としての意義を確認し積極的になっている。 しかしその過程で,本来の農産物直売の意義を 見失わないように留意する必要がある。活動の起 点となった朝市タイプの小規模直売所では,消費 者との直接的な交流があり,そのことが生産者の 生き甲斐だけでなく相互の信頼関係を生み出すも のとなっていた。しかし大規模常設店化すると, 単なる出荷者になる傾向を強める。さらにいまま で「安心」という信頼関係から「安全性」という 科学的な根拠が求められるにともなって,1 件当 たりおよそ 10 万円もする残留農薬検査料を負担 できず,小規模朝市は運営が困難となってきてい る事例もある。生産者と消費者との交流によって 醸成されてきた信頼関係は,活動が拡大しても「地 産地消」の基本として継承されてこそ,大量販売・ 低価格を特徴とする大型量販店との質的差異が担 保されることになる。 (2)学校給食への地場食材の供給 また直売所での販売から,学校給食への地場食 材の提供,農村女性による農産加工業の起業,地 域 特 産 物 の 創 出 な ど さ ら な る 発 展 を と げ つ つ あ る。 学校給食の現場では,自校調理方式の廃止と大 規模調理センターへの併合,さらに調理工程の一 部が外部委託されるなど経費節減が進められ,「割 高感のある」地場食材利用の環境はいっそうきび しくなっている。他方で食育基本法の制定以来各 地域で地場食材利用率の目標を掲げて取り組まれ るようになり,県や市町村段階での地場食材を利 用した新調理品の開発や,さらに農協共販農産物 の地域内供給なども進んでいる。 とりわけ農村女性グループによる学校給食への 地場食材の供給活動は,計画的生産による定時出 荷,出荷規格の自主的設定による品質管理,さら に食育活動の一環としての食文化の継承など,直 売施設での販売活動から質的に向上している。さ らに農村女性グループ活動の内容も,直売農産物 今井:「地産地消」活動の今後の課題について その他 9% 無回答 10% 労賃も含めて採算 はとれている 5% 肥料代など資財費 のみ回収がとれて いる 24% 採算は 考えていない 52% 資料:「JAにしみのファーマーズマー ケット」生産者アンケート 2007年 図3 直売活動での「採算性」について 3

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生産の拡大,品質の向上と通年供給化,さらに農 産加工グループの編成など,そこでは自給的生産 の余り物 、、、 の直売という消極的な活動から,計画的 な生産や地域流通システムの再構築など,積極的 な組織的活動としての発展が見られる。 このような組織活動の発展は食育活動の基盤を より充実したものとしている。個々の活動範囲は 校区内など小規模である場合が多いが,単に地場 食材の供給だけではなく,地域で誰が農業をして いるのかその姿を児童に理解させ,環境保全のた めに農業が果たしている役割,伝統食の味を継承 し,児童の農業体験も合わせて取り組まれること によって,児童の地域と農業に対する理解を深め 食生活改善に効果を上げている。児童の「農業体 験」の有無と地場食材を利用した料理の評価とは 相関関係があることや,学校栄養士による旬の地 場食材を利用した献立づくりの有無も地場食材の 利用の拡大の要因となっているのであり,学校給 食への地場食材の供給は,一方的な供給量の拡大 の手だてだけでは実現できない。学校教育の場に おいて食や地域農業に対する理解の深まりととも に定着し拡大していると言うことに留意する必要 がある。 (3)直売活動と地域農業振興 農産物の直売活動は,全国・広域市場流通を前 提とした近代的なシステムとは異なって,地域の 需要者本意の出荷基準の設定や流通方法が採用さ れており,それらの経験はあらたな農産物の地域 流通システム構築の可能性を示している。とりわ け専業農家が激減し農業就業者の高齢化が進んで いる中山間地域や都市近郊地域などの「条件不利 地域」では,作業の機械化が進んだ水田農業でさ え借地による効率的な大規模営農の形成は一部に 限られ,不作付け地や「耕作放棄地」が拡大し, 地域資源である農地の保全自体が困難になってい る。小規模農地を複合的に利用した野菜作の拡大 や,地場農産物を原料とした農産加工の組織化に よって地域特産物が生み出され,農産加工グルー プの起業の事例も見られ,地域経済の活性化や就 業の場の拡大として期待される。またすでに野菜 産地として確立している専業的農業地域において も,農産物直売活動はリタイヤした高齢者や小規 模農家の取り組みやすい農業形態として,地域の 産地体制を補完する意義を有している。 「地産地消」だけで大都市の消費者の全食料を 供給することは非現実的であろうが,資源に乏し い日本において零細な農地などの地域資源を有効 に活用し,停滞している地域経済を下支えする活 動として,今後の発展がさらに注目される。 参考図書 今井 健編著『地域再生と農業-飛騨・美濃の国か ら』(筑波書房,2010) 美 味 技 術 研 究 会 誌 第 1 8 号(2011) 4

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