源氏物語でのザリキ形・ザリツ形・ザリケリ形 : 否定表現におけるテンス・アスペクト
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(2) 文学 。文化編 (2007年 3月 本稿 で は,そ の使 用状況 の一 端 を検討す るため に. ). つ ぎに,参 考 と して,否 定 の助動 詞 ズの連体形 ヌに. ,. 源氏物語 におけるの これ らのザ リ形 に よる否定表現 で. 連体 ナ リが下接 す る例 をあげ る。 なお ,こ れ らには終. の使 用例 をみて い くこ とに した い。. 止用法 の使 用例 しか ない。 ヌナ リ :8例. 2. ヌナ ラム :2例. ヌナ リケ リ :11例. ヌナルベ シ :10例. 使 用 形 と用 例 数. い 源 氏 物 語 の ザ リの 使 用 数 は ,641例 で あ る 。 以. 以上 にあげた ,ザ リに助 辞 の下接 す る複合形 の 問題 点 と して ,以 下 の 6点 が 指摘 で きる。. 下 ,複 合形 ご との使 用形 と用例数 をあげる。. (完 了ヌ)の 使用例が (ヌ. ①ザリヌ. ラム・ヌベ シ等 も. ふ くめて)な いこと。. ザ ラ :179例 ザ ラナ ム (終 助詞 ):6例. ②ザリタリの使用例が. ザ ラマ シ 37例 (ザ ラマ シカ :15例 ・ザ ラマ シ (終 止 ):19例 ・ザ ラマ シ :(連 体 3例 ) 体 ):119例 ・ ザ ラ メ :13例. リケリ・タルベ シ等 もふ く. め て )な い こ と。. ③. ザ ラム :136例 (ザ ラム (終 止 )三 4例 ・ザ ラム (連. (タ. ケリ等の)テ ンス・アスペ クト系の複合形の使 用例がないこと。 (テ. ④ザルラムの使用例がないこと. ). (ザ ラム・ザリケムは. ある)。 ⑤ ムー ド系の複合形の使用例 もザメリキ 1例 のみであ. ザ リ :405例 ザ リキ :152例 げ リセ. :1例 ・ ザ リキ :15例. ・ザ. リシ 三Hl例 ・ ザ リシ カ 25例 ) ザ リケ ム 三22例 げ リケ ム (終 止 )三 7例 ・ ザ リケ ム. (;重 体. ):12例 ・ザ リケ メ :3例. る こ と。. ⑥ ザルベ カリ・ベ カラザ リの使用例 がないこと (ザ ル ベ シ 0ベ カラズはある)。 以上 6点 の うち,本 稿 で注意 されるのは① と② と③. ). ザ リケ リ :178例 (ザ リケ リ :43例 ・ ザ リケ ル :106. である。ザ リに下接するテ ンス ・アスペ ク ト系 の助動. 例 ・ ザ リケ レ :29例. 詞がか ぎられてい ることと,複 合形 での使用例 がない ことによ り,否 定表現 におけるテ ンス ・アスペ ク トの. ザ リツ :46例. ). (ザ リ ツ 三3例. :8例 ザ リツ ラ ム :3例 ザ リツ レ. 0ザ. ツル. 1リ. :35例 ・. 表現形式が,肯 定表現 と比較す ると,圧 任l的 に少数 と. ). (ザ リツ ラ ム (終 止 ):2例. ツ ラ ム (連 体 )1例 ザ リツ ル ナ リ. ・ザ リ. それを提示すると以下の ようになる。. ). :1例. (ザ リツ ル ナ リ. :1例. ). (ラ. ザ リシ. :1例 ・ ラザ. リシ カ 1例 ). :6例. )形 50例 をふ くむ. (ザ ル ベ シ. :5例. ). ・ ザ ル ベ ケ レ :1. 例) ザ ナ リ :13例 (ザ ナ リ レ. :6例. :2例 ・ ザ ナ ル :5例 ・ ザ ナ. ). ザ メ リ 三35例 (ザ メ リ 三151a‐ 10ザ メル :14伊 10ザ メ レ :6伊 1) ザ メ リキ. :1例. タラザ メ リ. 形 ス. ア スペ ク ト. ザ ル :56例 (ザ (ン ザ ルベ シ. 本 ン. :2例. 基 テ. タラザ リキ 1例 (タ ラザ リシ 三1例 ) ラ (完 了 り)ザ リキ. なっているのである。. (ザ メ リシ. :1例. :1例. (タ ラザ メ レ. 複. 合. 肯定. 否定. 終止形 キ ケリ ヽ ソ. ズ ザ リキ ザ リケ リ サ'リ ツ. ヌ. φ. タリ り. φ φ. テキ ニキ タ リキ リキ テケ リ ニケ リ タ リケ リ リケ リ ニ タリ. ). :1例. ). 肯定表現 と否定表現 とで対応形 が あるの は,基 本形 とザ リキ形 ・ザ リケ リ形 ・ザ リツ形 のみで ,ほ かの例. ザ レ :1例 ザ レバ. :1例. で は否定表現 の側 に対応す る ものが ない。 この 点 か ら す る と,多 様 とされ る古代 語 にお けるテ ンス ・ アス ペ ク ト系 の表現 も,否 定表現 にお い ては,非 常 にか ぎら.
(3) 西田. 隆政 :源 氏物語 でのザ リキ形 ・ザ リツ形 ・ザ リケ リ形. れた もの となってい ることが理解 される。 そ こで,3章 以下では,こ れ らのザ リキ形 とザ リツ. ひききはべ らざ りつ るな り。か たち心 もす ぐれて もの したまふ こと,母 上のかな しうしたまひて. ,. 形 ,さ らにザ リケリ形が どのように使用 されてい るの. お もだた しうけだか きことをせむと,あ がめか し. 「 して検討 してい くことに したい。 かを,具 体例 に貝. づ かると ききlt:ヽ りし│か ば,い かでかの辺 の こ とつ たへ つべ か らむ人 もがな, とのたまはせ しか. 3. ザ リ キ 形 とザ リ ツ 形. ば,さ るた よ りしりたまへ りと,と り申 ししな り。 さらに, うかびたる罪 はべ るま じきこ とな. まず ,ザ リキ ・ザ リツ両形 の使用例 が あ る動詞 の例. り」 と,腹 あ しく,こ とばおほかるものにて 申す. か ら検 討 す る。動詞 「 き く (聞 く)」 の例 で あ る。前. に. 後 の文脈 もあわせ て検討す るため に,あ る程度 の ま と. (現 代語訳 ). ま りで 引用 す る。 また,説 明 の便宜 のため に,現 代語. ,・. …. …. (「. 東屋」1797-40H). 「は じめか ら,ま った く守 の (実 の)娘 でない と い うことをきいてい なか った。 (婿 であるのは. 訳 も付 した。. ). [1]う つ し人 にてだ に,む くつ けか りし人 の御 け. おな じことであ るが,人 ぎきも一段 お とったここ. はひの ,ま して世 か は り,あ や しきものの さまに. ちが して,(屋 敷 に)出 入 りしよ うに も (体 裁. ヽうけ れ な りた まへ らむ をお ぼ しや る に ,い と′ 亡. の)よ くないことだ。 よ くも調査 しないで, うわ. ば ,中 宮 をあつ か ひ きこ えた まふ さへ ぞ ,こ の を. ついた話 を. りは もの う く,い ひ もてゆけば ,女 の 身 は,み な. しゃると,こ まって しまって,「 くは しくもしっ. お な じ罪 ふか きものゐぞか しと,な べ ての世 の な. てお りませ ん。女 どもの しるたよ りで,(婿 に と. か い とは しく,か の また人 もきか ざ りし御 なかの. の)お ことばをつ たえは じめましたところ,大 勢. こ しかた りい でた まへ りしこ とを. の 中で大事 に世話す る娘 とだけ ききまして,守 の. むつ物語 に,す. (わ. た しに)つ たえた ものだ」 とおっ. が い な い), とお もって お りま し. い ひい でた りしに,ま こ ととお ぼ しいづ るに,い. に こそ は. とわづ らは しくお ぼ さる。 (「 若菜下」 H89-7)J. た。 ほかの父親 のこどもをもって られるだろうと. (現 代 語訳 )〕. も,た ずねかなかったのです。 (浮 舟 の)容 貌や. (ち. 現世 の人であ って さえ,不 気味 で あ った 人 の ご. 心 もす ぐれてい らっしゃる こと,母 上のかわいが. 様子 の ,ま して (死 んで )世 がか わ り,あ や しい 物 の姿 になって い らっ しゃるだろ う ことをお もい. りなさって,世 間に自慢 で きるような身分 のたか い人 との婚姻 をしようと,あ がめ大事 にしてい る. や りな さるに,非 常 につ らい ので ,(秋 好 )中 宮. とききましたので,さ るたよりをしってい らした. をお世話 申 しあげる こ とさえが ,こ の 際 は気 がす. と,と りつ ぎ申したのだ。けっして,い い加減な. す まず ,い いつの ってい くと,女 の 身 は,み なお. との罪が ござい ます ような ことはないのだ」 と. な じ罪 ぶかい根源 なのだ と,す べ ての男女 の なか. お こ りっぽ くことばのおおい者 で. が い や な もので ,あ の また人 もきか なか った (紫. 申す と,… …. 上 との )お ふ た りな かの睦 言 で ,(六 条御 虐、 所の. ,. (あ. れこれ と. ). [1]と [2]の 例 か ら,ザ リキ形 とザ リツ形 のちが. こ とを)す こ しか た りだ した こ とを (物 怪 が )い. い をみる ことがで きそうである。 まず,[1]は. い だ したの に,た しか に とお お もい だ しに な る. 所 のことをふ りかえってかんがえている 氏が六条御虐、. に,非 常 に厄 介 におお もい になる。. 伊1で ある。紫上 を病 に くるしめたのは,自 分 と紫上 と. め│よ │り ,さ らに守の御むすめにあら ず といふことをなむきかざりつる。おなじことな. のふた りだけの第三者が「きかなか った」 はず の睦言. れ ど,人 ぎきもけお と りたるここち して,い でい. っている。. [2]「. 1よ │じ. ,光 源. を,御 虐、 所 が きいて うらみにお もったか らとふ りかえ. りせむにもよか らずなむあるべ き。 ようも案内せ. 睦 言 で あ るか ら当 然 ほか の 人 は きい た は ず もな い 。. で ,う かびたることをつ たへ け る」 とのた まふ. しか し,現 世 の 人 で な い 御 虐、 所 の しる と こ ろ とな っ. に,い とほ しくな りて,「 くは しくもしりた まへ. た。 この「 きか ざ りし」 は,過 去 の 時点 で話 を 「 きか. ず。女 どもの しるたよりにて,お ほせ ごとをつ た へ は じめはべ りしに,な かにか しづ くむすめ との. なか った」 と,あ きらか に過去 の あ る時点 での事態 を. みききはべれば,守 のにこそは, とこそ│お :│も 101 こと人の子もたまへ らむとも, と 1た │ま ,ヽ │つ :れ │。. ヽ 亡 中でふ りか えって い る物語 意味 して い る。光源氏 が ″ の現 時点 か らして ,過 去 ので きご とであ る こ とをのベ て い る こ とになる。.
(4) 文学 。文化編 (2007年 3月 それ に対 して ,[2]の ザ リツは,過 去 の事態 を現時. ). る まうの も,気 はず か しい ,た だ. (自. 分 の)ふ か. 点 と関連 させ るかたちで とらえて い る例 であ る。浮舟. い気持 ち をおみせ 申 しあげて , うち とけな さるお. との縁談 をのぞ んで い た少将が ,彼 女が常 陸介 の実 の. りもな い だ ろ うか (い や あ るはず だ), と く りか. 娘 で な く現在 の妻 の連 れ子 であ る こ とを しって ,立 腹. え しお もい , しか るべ き こ とにか こつ け て も. して ,仲 介者 をせ め ,ま た,仲 介者 もそれ に反駁 して. (落 葉 )宮 の ご様子態度 をご覧 になる。 (宮. い る。. 分 自身 で ,(お 返事 )申 しあげ な さる こ とは まっ. 少将 は縁談 の当初 か ら娘が守の実子 でないことをま. ,. は)自. た くない。. った く「 きい てなか った」 と主 張す る。「は じめ よ. ヽ 亡 うく などか,か くとも つ げたまはざ り [4]「 ′. り」 と時点 をあ らわす副詞が共起 していることか らも. ける 。院 にもうちに も,あ さましく,こ としげ. 理解 されるように,こ の話 を最初か らきいてい ない. きころにて. そ して,逆 にい まの時点では,そ の事実 をしったとい. かなさ」 とて. ,. ,. 日ごろ も えきこえざ りつ るおぼつ. :. ,. うことが意識 されてい る。縁談 をすすめてい る当初は しらなか った ものの,い ま問題 に してい る時点 の直前 か らは,そ の事実 をしり,愕 然 としているとい うもの. あ りし方 に い りた まふ 。 (「. 総 角」 1653-4). (現 代語訳 ). 「情 けな く, ど う して , こん な に (わ る い )と も つ げな さらなか ったのか 。院 に も内裏 に も,あ き. である。 一方,そ れに対す る仲介者の反論 は,大 事 に してい. れ るほ ど,行 事 の繁忙 な ころで ,こ こ数 日もお見. る娘 とい うことで実子 だとお もった,そ れで,ほ かの. 舞 い 申す こ とがで きなか った もどか しさ」 と (薫. 人が父親 である娘 をもっているとは「とい きかなか っ. は)い って ,(前 にたず ね た とき)い た部屋 にお. た」 のだ と,自 分 に落ち度はない とする。仲介者 も当. はい りにな る。. 初 はきいていなかったが,現 時点 ではすでに知識 とし て きい て い る。直前 の 「お もひた まへつ れ」 も同様. つ 」 の 例 で あ る。 [3]で は ,夕 霧 が 友 人 の 柏 木 の 死. で,実 子 だと「お もった」 のは過去 のことで,い まは. 後 ,そ の未亡 人 で あ る落葉宮 をたず ねる例 で ,最 初か. 実子 であるとは「お もっていない」 のである。. ら色恋 の気持 ちで訪 問 して い なか ったの を,い まさら. [3]と [4]は ,「 き こえ ざ りき」 と「 き こ え ざ り. この点 か らすると,「 きか ざ りき」 とザ リキ形 を使. それ を表 にだす の も気 はず か しく,誠 意 を しめす こと. 用す るばあいは,現 時点か らすると過去の事態 である. で 落葉宮 に気持 ちを しってほ しい と,夕 霧 はかんが え. こと指摘す るのに対 して,「 きか ざ りつ」 とザ リツ形. て い る。. を使用す るばあいは,単 なる過去 の事態 ではな く,現. この例 で注意すべ きは,副 詞 「は じめ よ り」 で あ. 在 はすでにそのような否定 された事態は解消 して,い. る。 [2]の 「は じめ よ り」 は,現 在 との対比 でい まは. まとな っては否定 された事態が存在 しない だけで な. 事実 を聞い たが,「 は じめ よ り」 は聞いてなかった と. く,ま った く逆 の事態 となってい ることをしめ してい. するものである。それに対 して,[3]で は現在 と対比. る。ザ リキ形 とザ リツ形では,過 去 の否定的事態 をし. しての「は じめ よ り」 ではあるものの,[2]で は現時. めすのは同様 であるものの,あ きらかに,現 時点 との. 点で も夕霧はそのお見舞 いのような態度 をかえずに色. 関係 のあ り方が ことなっているのである。. 恋 の気持 ちはだ してい ない。その点で,こ の「 きこえ. つづいて,「 きく」 に対応す る,「 はなす」意味 の謙. たまはざりし」 は「は じめより」 もそうで現在 もそう であるとい うことになる。ザ リキ形では,ザ リツ形の. 譲語動詞 「 きこゆ」 の例 を検討す る。. [3]は じめ より 懸想 びて もきこえたまはざ りし に,ひ きかへ し懸想 ばみなまめかむもまばゆ し. 終了 してい るのではな く,過 去 の時点での否定的事態. 、 ただふか き′ ざしをみえたてまつ りて,う ちとけ 亡. が存在 した ことに重点があ り,そ れが現在 どうである. たまふをりもあ らじやは, とお もひつつ, さるべ. のか とい うのは,結 果 としてあ らわされる意味 にす ぎ. きことにつ けて も,宮 の御けはひあ りさまをみた. ないのである。. ,. まふ。みづ か らなど, きこえたまふ ことは さらに な し。. (「. 夕霧」 1309-6). (現 代 語訳 ). ように現時点では過去 に否定 された事態が もうすでに. [4]は ,薫 が宇治の大君 を見舞 い にい く伊1で ある。 「 日ごろ」 と,こ こ しば らくたずねなかった ことをわ びて い るが ,い まようや く見舞 い にい けた こ とで. ,. は じめか ら色 めいて も申 しあげな さらなか った. 「 きこえざりつ る」 もどか しさが解消で きた ことにな. ところで ,う ってかわって色 め い てあだ っぱ くふ. る。そ して,現 時点 では,見 舞 いので きた結果 ,お 話.
(5) ザ リツ形 。ザ リケ リ形. を 申 しあげ る こ とが で きて ,「 き こ え ざ りつ る」 で は. してたずねだ したのを,う と くはお もうはず はな. ない状況 となったわ けで あ る。. い ものの,ま た,い きな りに,そ の ようになにも. [3]の 「 きこえざ りき」 が過 去 の時点 での事態 を し. 親 しくす る こともあ ろ うか. (い. やその必要 もある. 去 の 時点 で の 否 定 的事 態 が い まの 時 点 で す で に解 消. まい)と ,お もってお りましたのに, さきごろ き たのが,ふ しぎなほどまで昔人 (大 君)の ご様子. し,過 去 と現 在 とが 対 比 的 にのべ られ て い るの で あ. にそのままだらたので, しみ じみなつか しくお も. る。. えました。形見 などと,こ の ように. め して い るの に対 して ,[4]の 「 きこ えざ りつ」 は過. [5]と [6]は ,「 しらざ りき」「 しらざ りつ る」 の. (わ. た しを). おお もい にな りお っしゃるようなのは,か えって. [5]宮 は,い つ しか と御文 たて まつ りた まふ 。 山. どの部分 も,お 話 にならない ほどにてい ない と (わ た しを)世 話 す る人 々 もい ってお りま した. 里 には,た れ もたれ もうつつ の ここち した まはず. が, さほどそのようにもある. お もひみ だれた まへ り。 さまざまにおぼ しか まへ. ない人が, どう してかはそのようであつたか」 と. 例 であ る。. ,. けるを,色 にも,│だ. ││し. │た. ま│ざ│,1ナ る│よ と, うと. ま しくつ ら く,姉 宮 をばお もひ きこえた まひて. ,. (中. (に. ている)は ず の. 君 の)お っ しゃるの を,夢 の話 か , とまで. (薫 は)き. く。. 日 もみあ はせ たて まつ りた まはず。 しらざ りしさ. [5]で は,匂 宮 が中君 との逢瀬 ののち,文 をおだ し. まを も,さ は さとはえあ きらめた まはで ,こ とわ. になるが ,宇 治 の 山里 ではだれ もが呆然 とした状況. ヽくる しくおお もひ きこ えた まふ。 亡 りにノ. で, と りわけ,姉 の大君 は,妹 中君 に自分 の しらなか. (「. 総角」 1620-6). った薫 の思惑 をなにも説明することもで きず,心 ぐる しくお もってい る。 ここでの「 しらざ りし」 は,過 去. (現 代 語訳 ). 宮 (匂 宮 )は ,は や くはや くとお 手紙 をお だ し. の時点 で薫 の思惑 を大君が しらなか ったことをしめ し. 申 しあげ になる。 (宇 治 の )山 里 で は ,だ れ もだ. てい る。 この思惑 については,現 時点で も,大 君 は明. れ もが現実 の気持 ちが な さらな くてお もひみ だれ て い らっ しゃ った 。 (薫 が )あ れや これ や とた く. 確 に しつているわけではないが,こ の「 しらざ りし」 では,過 去 の時点 で大君が「 しらなか った」 とい うこ. らんで い られたの に,顔 色 に もお だ しにな らなか. とに重点 をおいた もの とかんがえられる。. や で つ ら く,(中 君 は)姉 宮 の. [6]で は,中 君が薫 に自分の異母妹 である浮舟 のこ. こ とを気 づ か い な さ って ,日 もみあわせ 申 しあげ. とを紹介 してい る。 い ままでず っと,存 在 自体 をまっ. な さ らな い 。 (大 君 は)し らなか った事情 を も. た くしらなか った浮舟 で あ るが ,い ま対面 してみ る. はっ き りと弁 明 な さる こ とがで きな くて ,無 理 な. と,な き大君そのままであるのにお どろいてい る。 こ. ヽぐる しくお もひ申 しあげな さる。 い と′ 亡. こでは,い ままで しらなか ったのが,つ い最近 しった. った こ とよ と,い. ,. [6]「. 1年 1ご. ろは. ,世 にや あ らむ と も しらざ りつ. とい うのが重要 である。「 しらざ りつ」 のばあい, し. る人の ,こ の夏 ごろ, とほ きと ころ よ りもの して. らなか ったとい う過去 の事態 と対比 されることで,現. た づ ね いで た りしを,う と くはお もふ ま じけれ ど,ま た ,う ちつ け に,さ しもなにか はむつ びお. 在 しった とい っことが しめされてい る。 この動詞 「 じる」 のばあいで も,さ きの 「 き く」. もはむ と,お もひはべ りしを, さいつ ころ きた り. 「 きこゆ」 と同様 に,ザ リキ形 とザ リツ形 は,過 去 の. しこそ ,あ や しきまで昔人 の御 け はひにか よひた. 時点 での否定的事態 をしめす もの と,現 在 との対比 を. りしか ば ,あ はれ にお ぼ え な りに しか。 形 見 な. 意識 して過去 には否定 される事態 であったのが,そ の. ど,か うお ぼ しのた まふ めるは,な か なか なに ご. 事態が終了 してい まは肯定 される事態 になっているも. と も,あ さま し くもて は なれ た り とな む ,み る 人 々 もい ひはべ りしを,い とさ しもあ る ま じき人. の, とい う相違点があるとかんがえられ る。 以上 ,[1]か ら [6]ま での 3組 のザ リキ形 とザ リ. の ,い かでかは さはあ りけむ」 とのた まふ を,夢. ツ形の比較か ら,両 者 には意味上 の相違点のある こと. かた りか , とまで き く。. (「. 宿木」1755-2). があ きらかになった。いずれ も過去 の時点での否定的 事態 をしめす ことは同様 であるものの,過 去 の時点で. 「 長年 の 間 は,こ の 世 に い るの だろ うか と も しら. の事態 をしめすザ リキ形 と,現 時点 かその直前 まで継 続 していた過去 の事態 がすでに終了 した ことをしめす. なか った人が ,こ の夏 ごろ,と お い地方か ら上 京. ザ リツ形 とい うちが いであ る。 これ をふ まえて,4章. (現 代語訳 ).
(6) 甲南女子大学研究紀要第 43号. 文学 。文化編 (2007年 3月. ). 、 か らあ まって (女 三 の宮 を)お お 亡 木 が )お ″. で は ,ザ リケ リ形 の 使 用例 に つ い てみ て い く こ とにす. (柏. る。. もい になったお りお り,た だふ た りの なか に,時 た まのお手紙 がか よ う こ ともござい ま した。 ……. 4. ザ リケ リ形 の 問題 点. [7]で は,薫 が弁 の尼 か ら自分が柏木 の子 であ る と い う「真相」 をつ たえ きい て ,お どろい てはな した会. 3章 で み た よ う に ,ザ. リキ形 とザ リ ツ 形 に つ い て. 話 にザ リケ リ形 が使用 されて い る。長年 「 ききお よば. は ,対 応 す る よ うなか た ちで の 意 味 の ちが い が あ る と. なか った」 とい うの は,こ の 時点 まで きか なか った と. か んが え られ る 。 そ れ で は ,ザ リケ リ形 に つ い て は. い う こ とで あ る。 しか し,そ れだ けな ら,ザ リツ形 を. ,. もちい るこ とも可能 で ある。. ど うで あ ろ うか。. 助動詞 ケ リ自体 の 意味 には,膨 大 な研究 史 の 蓄積 が. しか し,ザ リツ形 のば あ い , きか なか った とい う事. あ り,近 年 ではケ リにはテ ンスの 意味 はな くもっぱ ら. 態 が この時点 で終了 した とい う こ とに重 点がおかれ る. ム ー ドの 意 味 を もつ も の とす る 説 も提 起 され て い る中。 そ の 点 か らす る と,ザ リケ リ形 の 意味 も,ザ リ. こ とになる。換 言す れば, きか ない で い た事態 がおわ って , きい た事 態 が これ か らつづ く とい う こ とで あ. キ形 ・ザ リツ形 とどの よ うに関係 づ け られ るのかは注. る。 だが ,そ れだ け で は,こ の会話 の状 況 を十 分 に説. 意 され る ところであ る。. 明 した もの とはな らない。. 以 下 にあ げ る ,[7][8][9]は. ,3章 で と りあ げ. 薫 の きい た「真相」 は,い まさらそれ を きい た とこ. た,動 詞 「 き く」「 きこゆ」「 じる」 での ,ザ リケ リ形. ろで ,あ きらか に してはな らない ものであ る。 それゆ. の使用例 である。. え に,彼 に とって は ,「 きい た事 態」 になる こ とが 従. [7]「 さて も,か くそ の 世 の心 しりたる人 もの こ. 来 の「 きか な い事態」 とは外面 的 には こ となった もの. りた まへ りけるを,め づ らか に もはづ か しうもお. となるはず もない。「 きい た」 ところで,彼 はこの秘. ぼゆる ことの す ぢに,な ほか くい ひつ たふ るた ぐ. 密 を終生 い だいていか ざるをえない。 ここでは,「 真. ひや また もあ らむ。年 ごろ か けて も ききお よば. 相」 をきいたことで, うす うす感 じていた「秘密」が. ざ りけ る」 との た まへ ば ,「 小侍 従 と弁 とは な ち. ようや くわかったことになるだけである。. て ,ま た しる人はべ ら じ。 ひ とこ とにて も,ま た. この例 につい ては,ザ リケ リ形 をもちい て ,薫 の. こ と人 に うち まね び はべ らず 。 か くもの はか な. 「感慨」や 「気づ き」 にあたるようなものをあ らわ し. く,数 な らぬ 身 の ほ どにはべ れ ど,夜 昼 か の御 か. てい るとす るのが ,妥 当な見方 で あ ろ う。「ああ,や. げ につ きたて まつ りてはべ りしか ば,お のづ か ら. は りそ うだ ったのだ」 とい うような理解 である。 しか. ものの け しきも見 たて まつ りそ め しに,御 心 よ り. し,さ きにもふれたように,こ の時点 まで「 ききお よ. あ ま りておぼ しける ときどき,た だふ た りの なか. ばない」事態がつづいていたことをあらわ してい ると. のか よひ もはべ りし。…… になむ,た まさか御消虐、. い う側面 もある ことに気づ く。単 にザ リキ形では,過. (「. 有寺ク 臣」1538-5). 去 の時点 を しめすだけであるが ,ザ リケ リ形 のば あ い,こ のような否定的な事態 の継続的側面 をあ らわす. (現 代語訳 ). 「 それ に して も,こ の よ うにそ の 当時 の事情 を し. 表現 ともな りうるとかんがえられるのである。. った 人 もの こってい ら した の に,普 通 で あ りえな. [8]こ の うきたる御名 をぞ , きこ しめ したるべ. い こ とに もはず か しい と もお もえ る こ との 事 情. き。 さや うのことのお もはずなるにつ けて うじた. に,や は りこの よ うにいいつ たわ るた ぐいの 人 は. まへ る と,い はれた まはむ こ とをおぼす な りけ. また もあ ろ うか (い やあ るにちが い な い ),長 年. り。 さりとてまた,あ らはれて もの したまはむも. ちか って も (わ た しは)き きお よばなか った」 と. あ はあは しう,心 づ きなきこととおぼ しなが ら. (薫 が )お っ しゃる と,(弁 の尼 )「 小侍従 と (わ. はづ か しとおぼさむもい とほ しきを,な にかはわ. た し)弁 をのぞ い ては,も う しる人は ご ざい ます. れさへ ききあつかはむ, とおぼ してなむ,こ のす. まい 。 一 言 で もまたほか の 人 にはな しつ たえな ど. ぢは, かけて も きこえたまはざりける。. ,. して い ませ ん。 この よ うにた よ りな く,数 で もな い 身分 で ご ざい ますが ,夜 昼 あ の (お 方 の )お そ ば にお つ か え 申 しあげてお りま したので ,自 然 と もののい きさつ を もみ 申 しあげは じめた ところ. ,. (「. 夕霧」 1355-2). (現 代語訳 ). この. (夕. 霧 との)う いたお噂 を. (朱 雀院 も)お. 耳 にいれてい らっ しゃったはずである。そのよう.
(7) ザ リツ形 。ザ リケ リ形. な ことがお もうようでな くなるにつ けて (落 葉宮. [9]… …夢 にもしりたまはぬ ことなれば,あ さま. が)世 に見切 りをつ け られた と,(落 葉宮 があれ これ と)い われにな られて しまうような こ とを. しうおぼ して,「 │力 こか うのたまふ もことわ りな れ ど, │か け│て │も │こ の人 々の下 の心 なむ しりはベ. して)お お もい になるので あ っ. らざりける。げにい と くちをしきことは,こ こに. (朱 雀 院 は心 配. 霧. こそましてなげ くべ くはべ れ。 もろともに罪 をお. と)一 緒 になられるようなの もかるがる しく,感. ほせたまふは,う らめ しきことになむ。みたてま. 心 しないことと (朱 雀院 は)お お もいであ りなが. ヽ つ りしよ り,′ 亡 ことにお もひはべ りて,そ こにお. ら,(こ うい う話 は落葉宮 は)は ずか しい とおお. ぼ しいたらぬ ことをも,す ぐれたるさまにもてな. もい になられそ うなの もおいたわ しいの に, どう. さむとこそ,人 しれずお もひはべ れ。 ものげなき. して この 自分 (朱 雀院)ま でが きいて口出 ししよ. ほどを,心 の間にま どひて,い そ ぎものせむとは. た。そ うである といって もまた,公 然 と. う. (い. (夕. やそれはす まい),と おお もい になって. ,. お もひよらぬ ことになむ。 さて も,た れかはかか. この手 のことは,決 っ して (落 葉宮 に)お 申 しあ. ることはきこえけむ。 よか らぬ世 の人のことにつ. げにはならなかった。. きて,き はだ け くお ぼ しのた まふ も,あ ぢ きな. [8]で は,朱 雀院が娘の落葉宮 のことを心配 してい. く,む な しきことにて,人 の御名 やけがれむ」 と. る。彼女 は,夕 霧 との関係 が世 間 にしられて しまい. のた まへ ば,… …. つ らい立場 にあって出家 もかんがえてい る。 ここで. (現 代 語訳 ). ,. ,. 夕霧 とのなかについて「お 申 しあげにならなか った」. (「. 少女」683-11). ・…… (大 宮 は)夢 に もご存知 ない こ となので ,あ. とい うのは,心 にはあって も彼女 の立場 を配慮すると. きれ た こ とにおお もい になって ,「 本 当 に この よ. 口にだせ ないことであ り,い ままで もこれか らも話題. う に (内 大 臣 が )お っ しや るの も当然 の こ とだ. にしないこ とは確実 な ことである。. が ,ち か って もこの 人 々 (夕 霧 と雲 居雁 )の 内心. この部分 は,地 の文 による説明で もあるため,会 話. を し りませ んで した。本 当 に非 常 に残 念 な こ と. 文 とはことなってい るのであるが,語 り手 の立場か ら. は,こ このわた しに とつて こそ (あ なた以上 に). して も,朱 雀院が 申 しあげ られなかった とい うのを. ま してなげ くべ きこ とです 。 ふ た リー 緒 に罪 をお. ムー ド的に「感慨」 をこめてかたってい ると理解す る. か け になるの は ,う らめ しい こ とで 。 (わ た しは. ことがで きる。そ して,物 語 の筋 自体 も,朱 雀院の話. 雲居雁 を)お 世話 申 した ときか ら,格 別 にお もい. はここで一段落 して,つ ぎは夕霧 の立場 か らの話 とな. ま して ,あ なたがおお もいい た りにな らない こ と. っている。. を も,す ぐれ た さまに一 人前 に しようと こそ ,内. ,. ただ,こ れをムー ド的な語 り手 の「感慨」 とする以. 心 でお もってい ます。 まだ不十分 な年齢 なの を. ,. 外 に, もうひとつの見方 として,そ こか ら,そ のよう. 肉親 の心 の 間 で (か わ い さになが されて)目 が く. な否定的 な事態が継続 してい るとい う,時 間的な佃1面. らんで ,い そ い で結婚 させ よ う とはお もい もよら. もみる ことがで きる。そ して,こ の例 では,そ れは現. な い こ とで 。 それ に して も,だ れが こん な こ とを. 時点 を経過 して将来 もそ うである と,否 定的 な事態が. 申 しあげたのだろ うか。 身分 の ひ くい世 間 の者 の. 継続す るであろ うことも予想 される。. こ とば につ られ て ,(内 大 臣 が )容 赦 な くお お も. 同様 のことは,3章 でみた [4]で の「つ げた まは. い にな りお つ しやるの も, くだ らな く,根 拠 の な. ざ りける」 で も指摘で きる。 この例 では,話 し手 の薫. い噂 で ,人 (雲 居雁 )の お名が けが れて しまうか. が大君 に対 して,「 どうしておつ たえにならなか った. も しれ な い (い や そ うな るだ ろ う)」 とお っ しや. のか」 と,病 状 を自分 につ たえて くれ なか った こと を,不 満 もまじえてのべ ている。病状 がわかったのは. る と……. [9]は ,息 子 の 内大 臣か ら,孫 の雲居雁 と夕霧 が恋. 実際 にたずねてか らなので,こ の時点で も大君は具体. 人関係 で あ る こ とを しらされて ,ふ た りを世話 して い. 的に薫 につ たえることは してい ない。否定的な事態 は. た祖母 の大宮 が ,愕 然 と してかた つた会話 の部分 であ. まだ継 続 してい る と理解 される。 これ らの例 の よ う. る。「 しりはべ らざ りけ る」 は ,い ままで ふ た りの な. に,ザ リケ リ形 には,ム ー ド的な側面 にとどまらない. かの こ とは まった く耳 に した こ とはな く,い まは じめ. 要素があ り,否 定的 な事態が会話の現時点で も継続 し. て きい た とい う こ とになる。そ の 点 か らす る と,い ま. ていた とい うことをしめす夕1も ある と理解 されるので. の 時点 で ,「 しらなか った」事 態 は終 了 した こ とに も. ある。. なる。.
(8) 文学 ・文化編 (2007年 3月 しか し,大 宮 の 会話文 の主 旨 は ,自 分 が い ままで い. ). して い た とい う こ とも意識 されて い る と理 解 で きる。. か に雲 居 雁 を大 事 に養育 して きたかであ り,「 しらな. ザ リケ リ形 は,基 本 的 に ムー ド的意味 で あ る ものの. か った」事態 か ら「 しった」事態 へ と変化 して ,反 省. アスペ ク ト的 な継続 の意味 も,結 果 的 に しめ して い る. す る な り,自 分 の 方 針 をか え る とい った もの で は な. 例 が あ る とお もわれ る。 そ して ,そ れ には ,[7]と. い 。 内大 臣 が下 々の 者 の 噂話 にのせ られ るの を批 判. [9]の よ うにそ こで否定 的事態が終了す るばあ い も. し,彼 の 画策す る雲 居雁 を この三 条宮 か らうつ して し. [8]と [4]の よ うにそれ以 降 も否 定 的事 態 が 継続 す. まうとい う ことには反 対 で あ り,い ままで どお り,自. る可 能1生 の あ るばあ い もあ る。. ,. ,. 分 の手元 でそだてた いの であ り,内 大 臣 の す る よ うな. さらに,3章 での [5]の 「い だ した まは ざ りけ る. 性急 な こ とで は,か え って雲居雁 に疵 が つ い て しまう. よ」 の よ うに,お もい か えす と,あ の ときは匂宮 をお. と主 張す る。. よび して い る こ とを顔色 に もだ さなか った と,過 去 の. この 点 か らす る と,「 しりはべ らざ りけ る」 は,「 し. 時点 で否定 的 な事態 であ った こ とに,い まあ らためて. りませ んで した」 とい う事 実 をの べ る だ け で な く. 「気 づ い た」 とす る例 もあ る。 この ば あ い ,否 定 的事. 「 しりませ んで した」 しか し「 しった」 そ の 事実 は ど. 態が現時点 まで継続 して い るか ど うか で はな く,否 定. こ まで信 用 で きるのか ,ま たそれ になが され るの は間. 的事態が過去 にあ った こ とへ の「気 づ き」 が ムー ド的. 題 なので は とい う,大 宮 の批判 を こめての こ とば と理. な意味 の 中心 となる。. ,. 解 で きる。 この 「 しりはべ らざ りける」 は,大 宮 の 内. この よ うにみ て くる と,事 態 の継続性 が 看取 される. 大 臣 へ の 批 判 とみず か らへ の 多少 の 後悔 も こめ て の. 例 と事態 の継続性 とい う側面 は看取 され ない例 が あ る. 「述懐」 ともなろ う。. こ とに もなる。 この ことは,や は り,ザ リケ リ形 の 中. ただ し,こ の よ うな ムー ド的 な意味 で [9]の 例 は 理解で きる一 方 で ,や は り,時 間的 な継続 の側面 も無. ′ ヽ 亡 的 に意 味す る ものはム ー ド性 で あ るこ とを しめ して い る。. 視 す る こ とはで きない 。大宮 が雲 居雁 と夕霧 の仲 を し. ただ,[5]の 「いだ したまはざりけるよ」 の ような. らなか ったのは,そ の は じまった ときか ら現 時点 にい たる まで つづ い て いた。 そ こ に注 目す る と,こ の 「 し. 例 はあ るものの,ザ リケ リ形 においては,話 し手 に関 するムー ド的な意味 と動作 の継続 ・終了 とい うアスペ. りはべ らざ りける」 が ,時 間的 に継続 して い た事態 を. ク ト的な意味 とは,共 存 じやす い ようである。ザ リケ. もあ らわ して い る こ とは明 白であ り,ザ リケ リ形 の 用 法 をかんが える うえで も,こ の点 は無視 で きな い とお. リ形は,単 にムー ド性 をしめすだけでな く,ザ リキ形 ・ザ リツ形ではあ らわされに くい,否 定的事態が継続. もわれ る。. していたとい う状況 をしめすための語形 として,そ の. 以上 ,[7][8][9]と. [4]で のザ リケ リ形 の使 用. 役割 をになっていたとかんがえられるのである。. 例 につい て ,検 討 をお こな った。 そ の結果 と して ,ザ. リケリ形 には基本的 にその話 し手 の「感慨」 のような. 5 3つ. の語 形 の役 割分 担. ムー ド的な意味 で使用 されている可能性 のたかいこと. 3章 と 4章 で ,ザ リキ形 とザ リツ形 とザ リケ リ形 に. があ きらかになった。 そ こで,注 意 されるのは,[7][8][9]の 3例 には. つい て ,そ の使 用例 の検討 をお こ な った。 そ の結果. ,. いずれ も「かけて も」 とい う,否 定表現 と共起 しやす. 過去 の あ る時点 での否定 的事態 を しめすザ リキ形 と. い副詞が使用 されているとい うことである。 これは. 否定 的事態が現時点 で終了 した こ とを しめすザ リツ形. おな じ否定表現 と共起す る副詞 で も,単 に否定 を強調. と,過 去 で 否定 的事態 で あ った こ とを現時点 で再確認. す る意味 での副詞 ではな く,こ れ ら「 きく」「 きこゆ. してそ こ に話 し手 の 「感慨 」 等 を しめ す ザ リケ リ形. ,. (は. なす)」 「 じる」 の ような,心 理的な活動 にかかわ. ,. と,そ れぞれの意 味があ きらか となった。. る動詞 と共起す ることのおお い副詞 である'。 話 し手. ただ し,ザ リケ リ形 には,否 定 的事態が現時点 まで. の判断的な要素 とかかわ りやす い副詞 とい える。 この. 継続 して い るこ とや ,以 降 も継続す る可 能性 を しめす. 「かけて も」 と共起 しやす い ことは,そ れだけザ リケ. 伊Jが あ る。 この こ とか ら,ザ リケ リ形 はザ リキ形 やザ. リ形が ムー ド的な意味 にな りやす い とい うことをしめ. リツ形 では じめ しに くい アスペ ク ト的 な意味 を しめす. していることにもなろう。. 語形 で ある とい えそ うであ る。. ただ,そ の一方 で,い ま話 し手がそれに気づいた と. 否定表現 のテ ンス ・ アス ペ ク トについ ては,ま だ不. い う点か らすると,否 定的 な事態が現時点 にまで継続. 明 な点がおお く,本 稿 で は,そ の一 端 にふれたのみで.
(9) あ る。今 後 ,他 の 動 詞 で の 使 用 例 もふ くめ て 検 討 をす 参考文献. す め る こ とに した い 。 ` ` 』. *本 稿 は,2006年 3月 25日 に,西 宮市大学交流 セ ンター でおこなわれた,文 法史研究会 での発表 ,「 否定 のザ リ 形 をめ ぐって」 をもとに 一 部構想 をあ らためて,成 稿 した もので あ る。研 究 会 の席 上 , ご教 示 くだ さっ ,. た,出 席者 のみなさまには,あ つ く御礼 申 しあげる。 ,. 1)調 査 は,上 田他 1996に よる。 2)源 氏物語 の引用 は,池 田 (1953)に よる。その引用 に際 して,適 宜 ,か なづ か い をあ らため ,濁 点 をほ ど こ し,漢 字 をあて,句 読点 をつ けた。 また,必 要 に応 じて,下 線や網かけを付 した。. 3)現 代 語訳 は ,逐 語訳 を基本 と して作 成 して い る。 ( )で 原文 にない部分 をお ぎなっている。. 4)鈴 木 (2004)に よる。 5)中 村他 (1982)冨 J詞 「かけて」 の項 目に よる。. 池田亀鑑 1953『 源氏物語大成校 異篇』 1∼ 3(中 央公論 社 一引用 は 9版 による) 上 田英代 。村上征勝 。今西祐 一郎 ・樺 島忠夫 。藤 田真理. .上. 田裕 一 共編 1996『 源氏物語語彙用例総索 引付属. 語篇』 1∼ 5(勉 誠社. ). 泰 1992『 古代 日本語動詞 のテ ンス とアスペ ク ト. 鈴木. _源 氏物語 の分析』 (ひ つ じ書房 一改訂版 1999) ____ 2004「 古代 日本語 におけるテ ンス ・アスペ ク 卜体系 とケ リ形の役割」 (『 日本語教育 の視点 一国際基 督教大学大学院教授 飛 田良文博士退任記念 ―』 (東 京 堂. ). 高山善行 2002『 日本語 モ ダリテ イの史的研究』 (ひ つ じ 書房 ) 中村 宗彦 。岡見正雄 。阪倉篤 義 1982『 角川古 語大辞 典』 1(角 川書店. ). 西田隆政 2005「 助動詞 キ と「直接体験」一地 の文 での係 り結 びの用法 を中心 に一」 (『 国語 と国文学』82-11).
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