• 検索結果がありません。

源氏物語でのザリキ形・ザリツ形・ザリケリ形 : 否定表現におけるテンス・アスペクト

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "源氏物語でのザリキ形・ザリツ形・ザリケリ形 : 否定表現におけるテンス・アスペクト"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)源氏物語 での ザ リキ形 ・ ザ リツ形 ・ ザ リケ リ形 一―否定表現 にお けるテ ンス. 西. 田. 隆. アス ペ ク トーー. 政. Zariki― form,Zttitsu― fom, Zarikeri― form in ttι ttJι ―. TenSC―. げ Gι ηι. Aspect in Negative]Expression―. NISHIDA Takamasa Abstract: It is generally known to us that the classical Japanese language had more various word fonmLS which condition the Tensc― Aspect than the modern onc. That is lilnited,however, to the affirmative expres―. sions,and when looking into 2吻. ι7hJι. tive situation,i.e.Zariki― fornl,Zaritsu―. (√. Gι 4JiJ there are only threc examples of Tensc― Aspect in the nega―. for]田 L. and Zarikeri― form.In this paper it is exanlined how these for]m[s. are properly choseno As the result,it has becomc clear that Zariki―. fornl shows a negative situation at a tilne. of the past,Zaritsu shows the ending of a negative situation which has continued fron■. the past and Zarikeri. the reconfirmation,with deep emotion,of the past negative situationo Moreover, Zatrikeri can show a nega― tive situation continuing at present,as well as the possibility of a negative situation that will continue from. now on. Also, Zarikeri, while it is based upon the emotional feeling, can be said to have a role to show those Aspectual rneanings which cannot be shown by neither Zariki nor Zaritsu.. 要 旨 :古 典語 にお い ては,現 代語 と比 較す る と,テ ンス ・ アス ペ ク トをにな う とされ る語形 が 多様 で あ る こ とが しられて い る。 しか し,そ れは,い わゆる肯定表現 のば あ い に限定 される もので ,源 氏物 語 での否定表現 にお い ては,ザ リキ形 ・ザ リツ形 ・ザ リケ リ形 の 3つ の語形 しか存在 しない 。本稿 で は,こ れ らの語形 が , どの よ うにつ か い わ け られて い るのか を検 討 した。 そ の結果 ,ザ リキ形が過去 の 時点 にお ける否定 的事態 を,ザ リツ形が過 去 か ら継続 して い た否定 的事態が終了 した こ とを,ザ リ ケ リ形が話 し手 の過去 の否定 的事態 に対 して「感慨」 をま じえて再確認す る こ とを,そ れぞれ じめ し て い る こ とが あ きらか となった。 そ して,ザ リケ リ形 で は,現 時点 まで否定 的 な事態 の継続 して い た こ とや ,現 時点 以 降 も否 定的 な事態 の継続す る可 能性 の あ る ことを しめす こ ともあ りうる。ザ リケ リ 形 は,ム ー ド的 な意味 を基 本 と しなが らも,ザ リキ形やザ リツ形 で は じめ しに くい アス ペ ク ト的な意 味 を しめす役割 をになって い る とみ ることもで きるので あ る。. か存在 しない現代語比較 して,そ の多様性 は きわだ っ. は じめ に. て い る。 しか し,そ れは,あ くまで肯定表現 の なか だけでの. 古代 日本語 にお け る,テ ンス ・ アス ペ ク トをにな う. こ とで あ る。否定表現 につい てみ る と,そ の状況 は一. とされ る助動詞 には,多 様 な語形 が存在す る。 テ ンス. 変す る。否定 のテ ンス ・ アス ペ ク トに関す る語形 は. のキ ・ケ リ,ア ス ペ ク トの ツ ・ヌ ・ タリ・ りであ る。. 否定 の助動詞 ズの ア リ系 の活用 とされ るザ リに,キ ・. さらに,そ れ らの複 合形 であ る,ニ キ ,テ ケ リ,タ リ. ケ リ・ ツの下接 す る もの しか ,使 用例 が 存在 しない か. ケ リな どの存在 ともあわせ てかんが える と,夕 のみ し. らであ る。. ,.

(2) 文学 。文化編 (2007年 3月 本稿 で は,そ の使 用状況 の一 端 を検討す るため に. ). つ ぎに,参 考 と して,否 定 の助動 詞 ズの連体形 ヌに. ,. 源氏物語 におけるの これ らのザ リ形 に よる否定表現 で. 連体 ナ リが下接 す る例 をあげ る。 なお ,こ れ らには終. の使 用例 をみて い くこ とに した い。. 止用法 の使 用例 しか ない。 ヌナ リ :8例. 2. ヌナ ラム :2例. ヌナ リケ リ :11例. ヌナルベ シ :10例. 使 用 形 と用 例 数. い 源 氏 物 語 の ザ リの 使 用 数 は ,641例 で あ る 。 以. 以上 にあげた ,ザ リに助 辞 の下接 す る複合形 の 問題 点 と して ,以 下 の 6点 が 指摘 で きる。. 下 ,複 合形 ご との使 用形 と用例数 をあげる。. (完 了ヌ)の 使用例が (ヌ. ①ザリヌ. ラム・ヌベ シ等 も. ふ くめて)な いこと。. ザ ラ :179例 ザ ラナ ム (終 助詞 ):6例. ②ザリタリの使用例が. ザ ラマ シ 37例 (ザ ラマ シカ :15例 ・ザ ラマ シ (終 止 ):19例 ・ザ ラマ シ :(連 体 3例 ) 体 ):119例 ・ ザ ラ メ :13例. リケリ・タルベ シ等 もふ く. め て )な い こ と。. ③. ザ ラム :136例 (ザ ラム (終 止 )三 4例 ・ザ ラム (連. (タ. ケリ等の)テ ンス・アスペ クト系の複合形の使 用例がないこと。 (テ. ④ザルラムの使用例がないこと. ). (ザ ラム・ザリケムは. ある)。 ⑤ ムー ド系の複合形の使用例 もザメリキ 1例 のみであ. ザ リ :405例 ザ リキ :152例 げ リセ. :1例 ・ ザ リキ :15例. ・ザ. リシ 三Hl例 ・ ザ リシ カ 25例 ) ザ リケ ム 三22例 げ リケ ム (終 止 )三 7例 ・ ザ リケ ム. (;重 体. ):12例 ・ザ リケ メ :3例. る こ と。. ⑥ ザルベ カリ・ベ カラザ リの使用例 がないこと (ザ ル ベ シ 0ベ カラズはある)。 以上 6点 の うち,本 稿 で注意 されるのは① と② と③. ). ザ リケ リ :178例 (ザ リケ リ :43例 ・ ザ リケ ル :106. である。ザ リに下接するテ ンス ・アスペ ク ト系 の助動. 例 ・ ザ リケ レ :29例. 詞がか ぎられてい ることと,複 合形 での使用例 がない ことによ り,否 定表現 におけるテ ンス ・アスペ ク トの. ザ リツ :46例. ). (ザ リ ツ 三3例. :8例 ザ リツ ラ ム :3例 ザ リツ レ. 0ザ. ツル. 1リ. :35例 ・. 表現形式が,肯 定表現 と比較す ると,圧 任l的 に少数 と. ). (ザ リツ ラ ム (終 止 ):2例. ツ ラ ム (連 体 )1例 ザ リツ ル ナ リ. ・ザ リ. それを提示すると以下の ようになる。. ). :1例. (ザ リツ ル ナ リ. :1例. ). (ラ. ザ リシ. :1例 ・ ラザ. リシ カ 1例 ). :6例. )形 50例 をふ くむ. (ザ ル ベ シ. :5例. ). ・ ザ ル ベ ケ レ :1. 例) ザ ナ リ :13例 (ザ ナ リ レ. :6例. :2例 ・ ザ ナ ル :5例 ・ ザ ナ. ). ザ メ リ 三35例 (ザ メ リ 三151a‐ 10ザ メル :14伊 10ザ メ レ :6伊 1) ザ メ リキ. :1例. タラザ メ リ. 形 ス. ア スペ ク ト. ザ ル :56例 (ザ (ン ザ ルベ シ. 本 ン. :2例. 基 テ. タラザ リキ 1例 (タ ラザ リシ 三1例 ) ラ (完 了 り)ザ リキ. なっているのである。. (ザ メ リシ. :1例. :1例. (タ ラザ メ レ. 複. 合. 肯定. 否定. 終止形 キ ケリ ヽ ソ. ズ ザ リキ ザ リケ リ サ'リ ツ. ヌ. φ. タリ り. φ φ. テキ ニキ タ リキ リキ テケ リ ニケ リ タ リケ リ リケ リ ニ タリ. ). :1例. ). 肯定表現 と否定表現 とで対応形 が あるの は,基 本形 とザ リキ形 ・ザ リケ リ形 ・ザ リツ形 のみで ,ほ かの例. ザ レ :1例 ザ レバ. :1例. で は否定表現 の側 に対応す る ものが ない。 この 点 か ら す る と,多 様 とされ る古代 語 にお けるテ ンス ・ アス ペ ク ト系 の表現 も,否 定表現 にお い ては,非 常 にか ぎら.

(3) 西田. 隆政 :源 氏物語 でのザ リキ形 ・ザ リツ形 ・ザ リケ リ形. れた もの となってい ることが理解 される。 そ こで,3章 以下では,こ れ らのザ リキ形 とザ リツ. ひききはべ らざ りつ るな り。か たち心 もす ぐれて もの したまふ こと,母 上のかな しうしたまひて. ,. 形 ,さ らにザ リケリ形が どのように使用 されてい るの. お もだた しうけだか きことをせむと,あ がめか し. 「 して検討 してい くことに したい。 かを,具 体例 に貝. づ かると ききlt:ヽ りし│か ば,い かでかの辺 の こ とつ たへ つべ か らむ人 もがな, とのたまはせ しか. 3. ザ リ キ 形 とザ リ ツ 形. ば,さ るた よ りしりたまへ りと,と り申 ししな り。 さらに, うかびたる罪 はべ るま じきこ とな. まず ,ザ リキ ・ザ リツ両形 の使用例 が あ る動詞 の例. り」 と,腹 あ しく,こ とばおほかるものにて 申す. か ら検 討 す る。動詞 「 き く (聞 く)」 の例 で あ る。前. に. 後 の文脈 もあわせ て検討す るため に,あ る程度 の ま と. (現 代語訳 ). ま りで 引用 す る。 また,説 明 の便宜 のため に,現 代語. ,・. …. …. (「. 東屋」1797-40H). 「は じめか ら,ま った く守 の (実 の)娘 でない と い うことをきいてい なか った。 (婿 であるのは. 訳 も付 した。. ). [1]う つ し人 にてだ に,む くつ けか りし人 の御 け. おな じことであ るが,人 ぎきも一段 お とったここ. はひの ,ま して世 か は り,あ や しきものの さまに. ちが して,(屋 敷 に)出 入 りしよ うに も (体 裁. ヽうけ れ な りた まへ らむ をお ぼ しや る に ,い と′ 亡. の)よ くないことだ。 よ くも調査 しないで, うわ. ば ,中 宮 をあつ か ひ きこ えた まふ さへ ぞ ,こ の を. ついた話 を. りは もの う く,い ひ もてゆけば ,女 の 身 は,み な. しゃると,こ まって しまって,「 くは しくもしっ. お な じ罪 ふか きものゐぞか しと,な べ ての世 の な. てお りませ ん。女 どもの しるたよ りで,(婿 に と. か い とは しく,か の また人 もきか ざ りし御 なかの. の)お ことばをつ たえは じめましたところ,大 勢. こ しかた りい でた まへ りしこ とを. の 中で大事 に世話す る娘 とだけ ききまして,守 の. むつ物語 に,す. (わ. た しに)つ たえた ものだ」 とおっ. が い な い), とお もって お りま し. い ひい でた りしに,ま こ ととお ぼ しいづ るに,い. に こそ は. とわづ らは しくお ぼ さる。 (「 若菜下」 H89-7)J. た。 ほかの父親 のこどもをもって られるだろうと. (現 代 語訳 )〕. も,た ずねかなかったのです。 (浮 舟 の)容 貌や. (ち. 現世 の人であ って さえ,不 気味 で あ った 人 の ご. 心 もす ぐれてい らっしゃる こと,母 上のかわいが. 様子 の ,ま して (死 んで )世 がか わ り,あ や しい 物 の姿 になって い らっ しゃるだろ う ことをお もい. りなさって,世 間に自慢 で きるような身分 のたか い人 との婚姻 をしようと,あ がめ大事 にしてい る. や りな さるに,非 常 につ らい ので ,(秋 好 )中 宮. とききましたので,さ るたよりをしってい らした. をお世話 申 しあげる こ とさえが ,こ の 際 は気 がす. と,と りつ ぎ申したのだ。けっして,い い加減な. す まず ,い いつの ってい くと,女 の 身 は,み なお. との罪が ござい ます ような ことはないのだ」 と. な じ罪 ぶかい根源 なのだ と,す べ ての男女 の なか. お こ りっぽ くことばのおおい者 で. が い や な もので ,あ の また人 もきか なか った (紫. 申す と,… …. 上 との )お ふ た りな かの睦 言 で ,(六 条御 虐、 所の. ,. (あ. れこれ と. ). [1]と [2]の 例 か ら,ザ リキ形 とザ リツ形 のちが. こ とを)す こ しか た りだ した こ とを (物 怪 が )い. い をみる ことがで きそうである。 まず,[1]は. い だ したの に,た しか に とお お もい だ しに な る. 所 のことをふ りかえってかんがえている 氏が六条御虐、. に,非 常 に厄 介 におお もい になる。. 伊1で ある。紫上 を病 に くるしめたのは,自 分 と紫上 と. め│よ │り ,さ らに守の御むすめにあら ず といふことをなむきかざりつる。おなじことな. のふた りだけの第三者が「きかなか った」 はず の睦言. れ ど,人 ぎきもけお と りたるここち して,い でい. っている。. [2]「. 1よ │じ. ,光 源. を,御 虐、 所 が きいて うらみにお もったか らとふ りかえ. りせむにもよか らずなむあるべ き。 ようも案内せ. 睦 言 で あ るか ら当 然 ほか の 人 は きい た は ず もな い 。. で ,う かびたることをつ たへ け る」 とのた まふ. しか し,現 世 の 人 で な い 御 虐、 所 の しる と こ ろ とな っ. に,い とほ しくな りて,「 くは しくもしりた まへ. た。 この「 きか ざ りし」 は,過 去 の 時点 で話 を 「 きか. ず。女 どもの しるたよりにて,お ほせ ごとをつ た へ は じめはべ りしに,な かにか しづ くむすめ との. なか った」 と,あ きらか に過去 の あ る時点 での事態 を. みききはべれば,守 のにこそは, とこそ│お :│も 101 こと人の子もたまへ らむとも, と 1た │ま ,ヽ │つ :れ │。. ヽ 亡 中でふ りか えって い る物語 意味 して い る。光源氏 が ″ の現 時点 か らして ,過 去 ので きご とであ る こ とをのベ て い る こ とになる。.

(4) 文学 。文化編 (2007年 3月 それ に対 して ,[2]の ザ リツは,過 去 の事態 を現時. ). る まうの も,気 はず か しい ,た だ. (自. 分 の)ふ か. 点 と関連 させ るかたちで とらえて い る例 であ る。浮舟. い気持 ち をおみせ 申 しあげて , うち とけな さるお. との縁談 をのぞ んで い た少将が ,彼 女が常 陸介 の実 の. りもな い だ ろ うか (い や あ るはず だ), と く りか. 娘 で な く現在 の妻 の連 れ子 であ る こ とを しって ,立 腹. え しお もい , しか るべ き こ とにか こつ け て も. して ,仲 介者 をせ め ,ま た,仲 介者 もそれ に反駁 して. (落 葉 )宮 の ご様子態度 をご覧 になる。 (宮. い る。. 分 自身 で ,(お 返事 )申 しあげ な さる こ とは まっ. 少将 は縁談 の当初 か ら娘が守の実子 でないことをま. ,. は)自. た くない。. った く「 きい てなか った」 と主 張す る。「は じめ よ. ヽ 亡 うく などか,か くとも つ げたまはざ り [4]「 ′. り」 と時点 をあ らわす副詞が共起 していることか らも. ける 。院 にもうちに も,あ さましく,こ としげ. 理解 されるように,こ の話 を最初か らきいてい ない. きころにて. そ して,逆 にい まの時点では,そ の事実 をしったとい. かなさ」 とて. ,. ,. 日ごろ も えきこえざ りつ るおぼつ. :. ,. うことが意識 されてい る。縁談 をすすめてい る当初は しらなか った ものの,い ま問題 に してい る時点 の直前 か らは,そ の事実 をしり,愕 然 としているとい うもの. あ りし方 に い りた まふ 。 (「. 総 角」 1653-4). (現 代語訳 ). 「情 けな く, ど う して , こん な に (わ る い )と も つ げな さらなか ったのか 。院 に も内裏 に も,あ き. である。 一方,そ れに対す る仲介者の反論 は,大 事 に してい. れ るほ ど,行 事 の繁忙 な ころで ,こ こ数 日もお見. る娘 とい うことで実子 だとお もった,そ れで,ほ かの. 舞 い 申す こ とがで きなか った もどか しさ」 と (薫. 人が父親 である娘 をもっているとは「とい きかなか っ. は)い って ,(前 にたず ね た とき)い た部屋 にお. た」 のだ と,自 分 に落ち度はない とする。仲介者 も当. はい りにな る。. 初 はきいていなかったが,現 時点 ではすでに知識 とし て きい て い る。直前 の 「お もひた まへつ れ」 も同様. つ 」 の 例 で あ る。 [3]で は ,夕 霧 が 友 人 の 柏 木 の 死. で,実 子 だと「お もった」 のは過去 のことで,い まは. 後 ,そ の未亡 人 で あ る落葉宮 をたず ねる例 で ,最 初か. 実子 であるとは「お もっていない」 のである。. ら色恋 の気持 ちで訪 問 して い なか ったの を,い まさら. [3]と [4]は ,「 き こえ ざ りき」 と「 き こ え ざ り. この点 か らすると,「 きか ざ りき」 とザ リキ形 を使. それ を表 にだす の も気 はず か しく,誠 意 を しめす こと. 用す るばあいは,現 時点か らすると過去の事態 である. で 落葉宮 に気持 ちを しってほ しい と,夕 霧 はかんが え. こと指摘す るのに対 して,「 きか ざ りつ」 とザ リツ形. て い る。. を使用す るばあいは,単 なる過去 の事態 ではな く,現. この例 で注意すべ きは,副 詞 「は じめ よ り」 で あ. 在 はすでにそのような否定 された事態は解消 して,い. る。 [2]の 「は じめ よ り」 は,現 在 との対比 でい まは. まとな っては否定 された事態が存在 しない だけで な. 事実 を聞い たが,「 は じめ よ り」 は聞いてなかった と. く,ま った く逆 の事態 となってい ることをしめ してい. するものである。それに対 して,[3]で は現在 と対比. る。ザ リキ形 とザ リツ形では,過 去 の否定的事態 をし. しての「は じめ よ り」 ではあるものの,[2]で は現時. めすのは同様 であるものの,あ きらかに,現 時点 との. 点で も夕霧はそのお見舞 いのような態度 をかえずに色. 関係 のあ り方が ことなっているのである。. 恋 の気持 ちはだ してい ない。その点で,こ の「 きこえ. つづいて,「 きく」 に対応す る,「 はなす」意味 の謙. たまはざりし」 は「は じめより」 もそうで現在 もそう であるとい うことになる。ザ リキ形では,ザ リツ形の. 譲語動詞 「 きこゆ」 の例 を検討す る。. [3]は じめ より 懸想 びて もきこえたまはざ りし に,ひ きかへ し懸想 ばみなまめかむもまばゆ し. 終了 してい るのではな く,過 去 の時点での否定的事態. 、 ただふか き′ ざしをみえたてまつ りて,う ちとけ 亡. が存在 した ことに重点があ り,そ れが現在 どうである. たまふをりもあ らじやは, とお もひつつ, さるべ. のか とい うのは,結 果 としてあ らわされる意味 にす ぎ. きことにつ けて も,宮 の御けはひあ りさまをみた. ないのである。. ,. まふ。みづ か らなど, きこえたまふ ことは さらに な し。. (「. 夕霧」 1309-6). (現 代 語訳 ). ように現時点では過去 に否定 された事態が もうすでに. [4]は ,薫 が宇治の大君 を見舞 い にい く伊1で ある。 「 日ごろ」 と,こ こ しば らくたずねなかった ことをわ びて い るが ,い まようや く見舞 い にい けた こ とで. ,. は じめか ら色 めいて も申 しあげな さらなか った. 「 きこえざりつ る」 もどか しさが解消で きた ことにな. ところで ,う ってかわって色 め い てあだ っぱ くふ. る。そ して,現 時点 では,見 舞 いので きた結果 ,お 話.

(5) ザ リツ形 。ザ リケ リ形. を 申 しあげ る こ とが で きて ,「 き こ え ざ りつ る」 で は. してたずねだ したのを,う と くはお もうはず はな. ない状況 となったわ けで あ る。. い ものの,ま た,い きな りに,そ の ようになにも. [3]の 「 きこえざ りき」 が過 去 の時点 での事態 を し. 親 しくす る こともあ ろ うか. (い. やその必要 もある. 去 の 時点 で の 否 定 的事 態 が い まの 時 点 で す で に解 消. まい)と ,お もってお りましたのに, さきごろ き たのが,ふ しぎなほどまで昔人 (大 君)の ご様子. し,過 去 と現 在 とが 対 比 的 にのべ られ て い るの で あ. にそのままだらたので, しみ じみなつか しくお も. る。. えました。形見 などと,こ の ように. め して い るの に対 して ,[4]の 「 きこ えざ りつ」 は過. [5]と [6]は ,「 しらざ りき」「 しらざ りつ る」 の. (わ. た しを). おお もい にな りお っしゃるようなのは,か えって. [5]宮 は,い つ しか と御文 たて まつ りた まふ 。 山. どの部分 も,お 話 にならない ほどにてい ない と (わ た しを)世 話 す る人 々 もい ってお りま した. 里 には,た れ もたれ もうつつ の ここち した まはず. が, さほどそのようにもある. お もひみ だれた まへ り。 さまざまにおぼ しか まへ. ない人が, どう してかはそのようであつたか」 と. 例 であ る。. ,. けるを,色 にも,│だ. ││し. │た. ま│ざ│,1ナ る│よ と, うと. ま しくつ ら く,姉 宮 をばお もひ きこえた まひて. ,. (中. (に. ている)は ず の. 君 の)お っ しゃるの を,夢 の話 か , とまで. (薫 は)き. く。. 日 もみあ はせ たて まつ りた まはず。 しらざ りしさ. [5]で は,匂 宮 が中君 との逢瀬 ののち,文 をおだ し. まを も,さ は さとはえあ きらめた まはで ,こ とわ. になるが ,宇 治 の 山里 ではだれ もが呆然 とした状況. ヽくる しくおお もひ きこ えた まふ。 亡 りにノ. で, と りわけ,姉 の大君 は,妹 中君 に自分 の しらなか. (「. 総角」 1620-6). った薫 の思惑 をなにも説明することもで きず,心 ぐる しくお もってい る。 ここでの「 しらざ りし」 は,過 去. (現 代 語訳 ). 宮 (匂 宮 )は ,は や くはや くとお 手紙 をお だ し. の時点 で薫 の思惑 を大君が しらなか ったことをしめ し. 申 しあげ になる。 (宇 治 の )山 里 で は ,だ れ もだ. てい る。 この思惑 については,現 時点で も,大 君 は明. れ もが現実 の気持 ちが な さらな くてお もひみ だれ て い らっ しゃ った 。 (薫 が )あ れや これ や とた く. 確 に しつているわけではないが,こ の「 しらざ りし」 では,過 去 の時点 で大君が「 しらなか った」 とい うこ. らんで い られたの に,顔 色 に もお だ しにな らなか. とに重点 をおいた もの とかんがえられる。. や で つ ら く,(中 君 は)姉 宮 の. [6]で は,中 君が薫 に自分の異母妹 である浮舟 のこ. こ とを気 づ か い な さ って ,日 もみあわせ 申 しあげ. とを紹介 してい る。 い ままでず っと,存 在 自体 をまっ. な さ らな い 。 (大 君 は)し らなか った事情 を も. た くしらなか った浮舟 で あ るが ,い ま対面 してみ る. はっ き りと弁 明 な さる こ とがで きな くて ,無 理 な. と,な き大君そのままであるのにお どろいてい る。 こ. ヽぐる しくお もひ申 しあげな さる。 い と′ 亡. こでは,い ままで しらなか ったのが,つ い最近 しった. った こ とよ と,い. ,. [6]「. 1年 1ご. ろは. ,世 にや あ らむ と も しらざ りつ. とい うのが重要 である。「 しらざ りつ」 のばあい, し. る人の ,こ の夏 ごろ, とほ きと ころ よ りもの して. らなか ったとい う過去 の事態 と対比 されることで,現. た づ ね いで た りしを,う と くはお もふ ま じけれ ど,ま た ,う ちつ け に,さ しもなにか はむつ びお. 在 しった とい っことが しめされてい る。 この動詞 「 じる」 のばあいで も,さ きの 「 き く」. もはむ と,お もひはべ りしを, さいつ ころ きた り. 「 きこゆ」 と同様 に,ザ リキ形 とザ リツ形 は,過 去 の. しこそ ,あ や しきまで昔人 の御 け はひにか よひた. 時点 での否定的事態 をしめす もの と,現 在 との対比 を. りしか ば ,あ はれ にお ぼ え な りに しか。 形 見 な. 意識 して過去 には否定 される事態 であったのが,そ の. ど,か うお ぼ しのた まふ めるは,な か なか なに ご. 事態が終了 してい まは肯定 される事態 になっているも. と も,あ さま し くもて は なれ た り とな む ,み る 人 々 もい ひはべ りしを,い とさ しもあ る ま じき人. の, とい う相違点があるとかんがえられ る。 以上 ,[1]か ら [6]ま での 3組 のザ リキ形 とザ リ. の ,い かでかは さはあ りけむ」 とのた まふ を,夢. ツ形の比較か ら,両 者 には意味上 の相違点のある こと. かた りか , とまで き く。. (「. 宿木」1755-2). があ きらかになった。いずれ も過去 の時点での否定的 事態 をしめす ことは同様 であるものの,過 去 の時点で. 「 長年 の 間 は,こ の 世 に い るの だろ うか と も しら. の事態 をしめすザ リキ形 と,現 時点 かその直前 まで継 続 していた過去 の事態 がすでに終了 した ことをしめす. なか った人が ,こ の夏 ごろ,と お い地方か ら上 京. ザ リツ形 とい うちが いであ る。 これ をふ まえて,4章. (現 代語訳 ).

(6) 甲南女子大学研究紀要第 43号. 文学 。文化編 (2007年 3月. ). 、 か らあ まって (女 三 の宮 を)お お 亡 木 が )お ″. で は ,ザ リケ リ形 の 使 用例 に つ い てみ て い く こ とにす. (柏. る。. もい になったお りお り,た だふ た りの なか に,時 た まのお手紙 がか よ う こ ともござい ま した。 ……. 4. ザ リケ リ形 の 問題 点. [7]で は,薫 が弁 の尼 か ら自分が柏木 の子 であ る と い う「真相」 をつ たえ きい て ,お どろい てはな した会. 3章 で み た よ う に ,ザ. リキ形 とザ リ ツ 形 に つ い て. 話 にザ リケ リ形 が使用 されて い る。長年 「 ききお よば. は ,対 応 す る よ うなか た ちで の 意 味 の ちが い が あ る と. なか った」 とい うの は,こ の 時点 まで きか なか った と. か んが え られ る 。 そ れ で は ,ザ リケ リ形 に つ い て は. い う こ とで あ る。 しか し,そ れだ けな ら,ザ リツ形 を. ,. もちい るこ とも可能 で ある。. ど うで あ ろ うか。. 助動詞 ケ リ自体 の 意味 には,膨 大 な研究 史 の 蓄積 が. しか し,ザ リツ形 のば あ い , きか なか った とい う事. あ り,近 年 ではケ リにはテ ンスの 意味 はな くもっぱ ら. 態 が この時点 で終了 した とい う こ とに重 点がおかれ る. ム ー ドの 意 味 を もつ も の とす る 説 も提 起 され て い る中。 そ の 点 か らす る と,ザ リケ リ形 の 意味 も,ザ リ. こ とになる。換 言す れば, きか ない で い た事態 がおわ って , きい た事 態 が これ か らつづ く とい う こ とで あ. キ形 ・ザ リツ形 とどの よ うに関係 づ け られ るのかは注. る。 だが ,そ れだ け で は,こ の会話 の状 況 を十 分 に説. 意 され る ところであ る。. 明 した もの とはな らない。. 以 下 にあ げ る ,[7][8][9]は. ,3章 で と りあ げ. 薫 の きい た「真相」 は,い まさらそれ を きい た とこ. た,動 詞 「 き く」「 きこゆ」「 じる」 での ,ザ リケ リ形. ろで ,あ きらか に してはな らない ものであ る。 それゆ. の使用例 である。. え に,彼 に とって は ,「 きい た事 態」 になる こ とが 従. [7]「 さて も,か くそ の 世 の心 しりたる人 もの こ. 来 の「 きか な い事態」 とは外面 的 には こ となった もの. りた まへ りけるを,め づ らか に もはづ か しうもお. となるはず もない。「 きい た」 ところで,彼 はこの秘. ぼゆる ことの す ぢに,な ほか くい ひつ たふ るた ぐ. 密 を終生 い だいていか ざるをえない。 ここでは,「 真. ひや また もあ らむ。年 ごろ か けて も ききお よば. 相」 をきいたことで, うす うす感 じていた「秘密」が. ざ りけ る」 との た まへ ば ,「 小侍 従 と弁 とは な ち. ようや くわかったことになるだけである。. て ,ま た しる人はべ ら じ。 ひ とこ とにて も,ま た. この例 につい ては,ザ リケ リ形 をもちい て ,薫 の. こ と人 に うち まね び はべ らず 。 か くもの はか な. 「感慨」や 「気づ き」 にあたるようなものをあ らわ し. く,数 な らぬ 身 の ほ どにはべ れ ど,夜 昼 か の御 か. てい るとす るのが ,妥 当な見方 で あ ろ う。「ああ,や. げ につ きたて まつ りてはべ りしか ば,お のづ か ら. は りそ うだ ったのだ」 とい うような理解 である。 しか. ものの け しきも見 たて まつ りそ め しに,御 心 よ り. し,さ きにもふれたように,こ の時点 まで「 ききお よ. あ ま りておぼ しける ときどき,た だふ た りの なか. ばない」事態がつづいていたことをあらわ してい ると. のか よひ もはべ りし。…… になむ,た まさか御消虐、. い う側面 もある ことに気づ く。単 にザ リキ形では,過. (「. 有寺ク 臣」1538-5). 去 の時点 を しめすだけであるが ,ザ リケ リ形 のば あ い,こ のような否定的な事態 の継続的側面 をあ らわす. (現 代語訳 ). 「 それ に して も,こ の よ うにそ の 当時 の事情 を し. 表現 ともな りうるとかんがえられるのである。. った 人 もの こってい ら した の に,普 通 で あ りえな. [8]こ の うきたる御名 をぞ , きこ しめ したるべ. い こ とに もはず か しい と もお もえ る こ との 事 情. き。 さや うのことのお もはずなるにつ けて うじた. に,や は りこの よ うにいいつ たわ るた ぐいの 人 は. まへ る と,い はれた まはむ こ とをおぼす な りけ. また もあ ろ うか (い やあ るにちが い な い ),長 年. り。 さりとてまた,あ らはれて もの したまはむも. ちか って も (わ た しは)き きお よばなか った」 と. あ はあは しう,心 づ きなきこととおぼ しなが ら. (薫 が )お っ しゃる と,(弁 の尼 )「 小侍従 と (わ. はづ か しとおぼさむもい とほ しきを,な にかはわ. た し)弁 をのぞ い ては,も う しる人は ご ざい ます. れさへ ききあつかはむ, とおぼ してなむ,こ のす. まい 。 一 言 で もまたほか の 人 にはな しつ たえな ど. ぢは, かけて も きこえたまはざりける。. ,. して い ませ ん。 この よ うにた よ りな く,数 で もな い 身分 で ご ざい ますが ,夜 昼 あ の (お 方 の )お そ ば にお つ か え 申 しあげてお りま したので ,自 然 と もののい きさつ を もみ 申 しあげは じめた ところ. ,. (「. 夕霧」 1355-2). (現 代語訳 ). この. (夕. 霧 との)う いたお噂 を. (朱 雀院 も)お. 耳 にいれてい らっ しゃったはずである。そのよう.

(7) ザ リツ形 。ザ リケ リ形. な ことがお もうようでな くなるにつ けて (落 葉宮. [9]… …夢 にもしりたまはぬ ことなれば,あ さま. が)世 に見切 りをつ け られた と,(落 葉宮 があれ これ と)い われにな られて しまうような こ とを. しうおぼ して,「 │力 こか うのたまふ もことわ りな れ ど, │か け│て │も │こ の人 々の下 の心 なむ しりはベ. して)お お もい になるので あ っ. らざりける。げにい と くちをしきことは,こ こに. (朱 雀 院 は心 配. 霧. こそましてなげ くべ くはべ れ。 もろともに罪 をお. と)一 緒 になられるようなの もかるがる しく,感. ほせたまふは,う らめ しきことになむ。みたてま. 心 しないことと (朱 雀院 は)お お もいであ りなが. ヽ つ りしよ り,′ 亡 ことにお もひはべ りて,そ こにお. ら,(こ うい う話 は落葉宮 は)は ずか しい とおお. ぼ しいたらぬ ことをも,す ぐれたるさまにもてな. もい になられそ うなの もおいたわ しいの に, どう. さむとこそ,人 しれずお もひはべ れ。 ものげなき. して この 自分 (朱 雀院)ま でが きいて口出 ししよ. ほどを,心 の間にま どひて,い そ ぎものせむとは. た。そ うである といって もまた,公 然 と. う. (い. (夕. やそれはす まい),と おお もい になって. ,. お もひよらぬ ことになむ。 さて も,た れかはかか. この手 のことは,決 っ して (落 葉宮 に)お 申 しあ. ることはきこえけむ。 よか らぬ世 の人のことにつ. げにはならなかった。. きて,き はだ け くお ぼ しのた まふ も,あ ぢ きな. [8]で は,朱 雀院が娘の落葉宮 のことを心配 してい. く,む な しきことにて,人 の御名 やけがれむ」 と. る。彼女 は,夕 霧 との関係 が世 間 にしられて しまい. のた まへ ば,… …. つ らい立場 にあって出家 もかんがえてい る。 ここで. (現 代 語訳 ). ,. ,. 夕霧 とのなかについて「お 申 しあげにならなか った」. (「. 少女」683-11). ・…… (大 宮 は)夢 に もご存知 ない こ となので ,あ. とい うのは,心 にはあって も彼女 の立場 を配慮すると. きれ た こ とにおお もい になって ,「 本 当 に この よ. 口にだせ ないことであ り,い ままで もこれか らも話題. う に (内 大 臣 が )お っ しや るの も当然 の こ とだ. にしないこ とは確実 な ことである。. が ,ち か って もこの 人 々 (夕 霧 と雲 居雁 )の 内心. この部分 は,地 の文 による説明で もあるため,会 話. を し りませ んで した。本 当 に非 常 に残 念 な こ と. 文 とはことなってい るのであるが,語 り手 の立場か ら. は,こ このわた しに とつて こそ (あ なた以上 に). して も,朱 雀院が 申 しあげ られなかった とい うのを. ま してなげ くべ きこ とです 。 ふ た リー 緒 に罪 をお. ムー ド的に「感慨」 をこめてかたってい ると理解す る. か け になるの は ,う らめ しい こ とで 。 (わ た しは. ことがで きる。そ して,物 語 の筋 自体 も,朱 雀院の話. 雲居雁 を)お 世話 申 した ときか ら,格 別 にお もい. はここで一段落 して,つ ぎは夕霧 の立場 か らの話 とな. ま して ,あ なたがおお もいい た りにな らない こ と. っている。. を も,す ぐれ た さまに一 人前 に しようと こそ ,内. ,. ただ,こ れをムー ド的な語 り手 の「感慨」 とする以. 心 でお もってい ます。 まだ不十分 な年齢 なの を. ,. 外 に, もうひとつの見方 として,そ こか ら,そ のよう. 肉親 の心 の 間 で (か わ い さになが されて)目 が く. な否定的 な事態が継続 してい るとい う,時 間的な佃1面. らんで ,い そ い で結婚 させ よ う とはお もい もよら. もみる ことがで きる。そ して,こ の例 では,そ れは現. な い こ とで 。 それ に して も,だ れが こん な こ とを. 時点 を経過 して将来 もそ うである と,否 定的 な事態が. 申 しあげたのだろ うか。 身分 の ひ くい世 間 の者 の. 継続す るであろ うことも予想 される。. こ とば につ られ て ,(内 大 臣 が )容 赦 な くお お も. 同様 のことは,3章 でみた [4]で の「つ げた まは. い にな りお つ しやるの も, くだ らな く,根 拠 の な. ざ りける」 で も指摘で きる。 この例 では,話 し手 の薫. い噂 で ,人 (雲 居雁 )の お名が けが れて しまうか. が大君 に対 して,「 どうしておつ たえにならなか った. も しれ な い (い や そ うな るだ ろ う)」 とお っ しや. のか」 と,病 状 を自分 につ たえて くれ なか った こと を,不 満 もまじえてのべ ている。病状 がわかったのは. る と……. [9]は ,息 子 の 内大 臣か ら,孫 の雲居雁 と夕霧 が恋. 実際 にたずねてか らなので,こ の時点で も大君は具体. 人関係 で あ る こ とを しらされて ,ふ た りを世話 して い. 的に薫 につ たえることは してい ない。否定的な事態 は. た祖母 の大宮 が ,愕 然 と してかた つた会話 の部分 であ. まだ継 続 してい る と理解 される。 これ らの例 の よ う. る。「 しりはべ らざ りけ る」 は ,い ままで ふ た りの な. に,ザ リケ リ形 には,ム ー ド的な側面 にとどまらない. かの こ とは まった く耳 に した こ とはな く,い まは じめ. 要素があ り,否 定的 な事態が会話の現時点で も継続 し. て きい た とい う こ とになる。そ の 点 か らす る と,い ま. ていた とい うことをしめす夕1も ある と理解 されるので. の 時点 で ,「 しらなか った」事 態 は終 了 した こ とに も. ある。. なる。.

(8) 文学 ・文化編 (2007年 3月 しか し,大 宮 の 会話文 の主 旨 は ,自 分 が い ままで い. ). して い た とい う こ とも意識 されて い る と理 解 で きる。. か に雲 居 雁 を大 事 に養育 して きたかであ り,「 しらな. ザ リケ リ形 は,基 本 的 に ムー ド的意味 で あ る ものの. か った」事態 か ら「 しった」事態 へ と変化 して ,反 省. アスペ ク ト的 な継続 の意味 も,結 果 的 に しめ して い る. す る な り,自 分 の 方 針 をか え る とい った もの で は な. 例 が あ る とお もわれ る。 そ して ,そ れ には ,[7]と. い 。 内大 臣 が下 々の 者 の 噂話 にのせ られ るの を批 判. [9]の よ うにそ こで否定 的事態が終了す るばあ い も. し,彼 の 画策す る雲 居雁 を この三 条宮 か らうつ して し. [8]と [4]の よ うにそれ以 降 も否 定 的事 態 が 継続 す. まうとい う ことには反 対 で あ り,い ままで どお り,自. る可 能1生 の あ るばあ い もあ る。. ,. ,. 分 の手元 でそだてた いの であ り,内 大 臣 の す る よ うな. さらに,3章 での [5]の 「い だ した まは ざ りけ る. 性急 な こ とで は,か え って雲居雁 に疵 が つ い て しまう. よ」 の よ うに,お もい か えす と,あ の ときは匂宮 をお. と主 張す る。. よび して い る こ とを顔色 に もだ さなか った と,過 去 の. この 点 か らす る と,「 しりはべ らざ りけ る」 は,「 し. 時点 で否定 的 な事態 であ った こ とに,い まあ らためて. りませ んで した」 とい う事 実 をの べ る だ け で な く. 「気 づ い た」 とす る例 もあ る。 この ば あ い ,否 定 的事. 「 しりませ んで した」 しか し「 しった」 そ の 事実 は ど. 態が現時点 まで継続 して い るか ど うか で はな く,否 定. こ まで信 用 で きるのか ,ま たそれ になが され るの は間. 的事態が過去 にあ った こ とへ の「気 づ き」 が ムー ド的. 題 なので は とい う,大 宮 の批判 を こめての こ とば と理. な意味 の 中心 となる。. ,. 解 で きる。 この 「 しりはべ らざ りける」 は,大 宮 の 内. この よ うにみ て くる と,事 態 の継続性 が 看取 される. 大 臣 へ の 批 判 とみず か らへ の 多少 の 後悔 も こめ て の. 例 と事態 の継続性 とい う側面 は看取 され ない例 が あ る. 「述懐」 ともなろ う。. こ とに もなる。 この ことは,や は り,ザ リケ リ形 の 中. ただ し,こ の よ うな ムー ド的 な意味 で [9]の 例 は 理解で きる一 方 で ,や は り,時 間的 な継続 の側面 も無. ′ ヽ 亡 的 に意 味す る ものはム ー ド性 で あ るこ とを しめ して い る。. 視 す る こ とはで きない 。大宮 が雲 居雁 と夕霧 の仲 を し. ただ,[5]の 「いだ したまはざりけるよ」 の ような. らなか ったのは,そ の は じまった ときか ら現 時点 にい たる まで つづ い て いた。 そ こ に注 目す る と,こ の 「 し. 例 はあ るものの,ザ リケ リ形 においては,話 し手 に関 するムー ド的な意味 と動作 の継続 ・終了 とい うアスペ. りはべ らざ りける」 が ,時 間的 に継続 して い た事態 を. ク ト的な意味 とは,共 存 じやす い ようである。ザ リケ. もあ らわ して い る こ とは明 白であ り,ザ リケ リ形 の 用 法 をかんが える うえで も,こ の点 は無視 で きな い とお. リ形は,単 にムー ド性 をしめすだけでな く,ザ リキ形 ・ザ リツ形ではあ らわされに くい,否 定的事態が継続. もわれ る。. していたとい う状況 をしめすための語形 として,そ の. 以上 ,[7][8][9]と. [4]で のザ リケ リ形 の使 用. 役割 をになっていたとかんがえられるのである。. 例 につい て ,検 討 をお こな った。 そ の結果 と して ,ザ. リケリ形 には基本的 にその話 し手 の「感慨」 のような. 5 3つ. の語 形 の役 割分 担. ムー ド的な意味 で使用 されている可能性 のたかいこと. 3章 と 4章 で ,ザ リキ形 とザ リツ形 とザ リケ リ形 に. があ きらかになった。 そ こで,注 意 されるのは,[7][8][9]の 3例 には. つい て ,そ の使 用例 の検討 をお こ な った。 そ の結果. ,. いずれ も「かけて も」 とい う,否 定表現 と共起 しやす. 過去 の あ る時点 での否定 的事態 を しめすザ リキ形 と. い副詞が使用 されているとい うことである。 これは. 否定 的事態が現時点 で終了 した こ とを しめすザ リツ形. おな じ否定表現 と共起す る副詞 で も,単 に否定 を強調. と,過 去 で 否定 的事態 で あ った こ とを現時点 で再確認. す る意味 での副詞 ではな く,こ れ ら「 きく」「 きこゆ. してそ こ に話 し手 の 「感慨 」 等 を しめ す ザ リケ リ形. ,. (は. なす)」 「 じる」 の ような,心 理的な活動 にかかわ. ,. と,そ れぞれの意 味があ きらか となった。. る動詞 と共起す ることのおお い副詞 である'。 話 し手. ただ し,ザ リケ リ形 には,否 定 的事態が現時点 まで. の判断的な要素 とかかわ りやす い副詞 とい える。 この. 継続 して い るこ とや ,以 降 も継続す る可 能性 を しめす. 「かけて も」 と共起 しやす い ことは,そ れだけザ リケ. 伊Jが あ る。 この こ とか ら,ザ リケ リ形 はザ リキ形 やザ. リ形が ムー ド的な意味 にな りやす い とい うことをしめ. リツ形 では じめ しに くい アスペ ク ト的 な意味 を しめす. していることにもなろう。. 語形 で ある とい えそ うであ る。. ただ,そ の一方 で,い ま話 し手がそれに気づいた と. 否定表現 のテ ンス ・ アス ペ ク トについ ては,ま だ不. い う点か らすると,否 定的 な事態が現時点 にまで継続. 明 な点がおお く,本 稿 で は,そ の一 端 にふれたのみで.

(9) あ る。今 後 ,他 の 動 詞 で の 使 用 例 もふ くめ て 検 討 をす 参考文献. す め る こ とに した い 。 ` ` 』. *本 稿 は,2006年 3月 25日 に,西 宮市大学交流 セ ンター でおこなわれた,文 法史研究会 での発表 ,「 否定 のザ リ 形 をめ ぐって」 をもとに 一 部構想 をあ らためて,成 稿 した もので あ る。研 究 会 の席 上 , ご教 示 くだ さっ ,. た,出 席者 のみなさまには,あ つ く御礼 申 しあげる。 ,. 1)調 査 は,上 田他 1996に よる。 2)源 氏物語 の引用 は,池 田 (1953)に よる。その引用 に際 して,適 宜 ,か なづ か い をあ らため ,濁 点 をほ ど こ し,漢 字 をあて,句 読点 をつ けた。 また,必 要 に応 じて,下 線や網かけを付 した。. 3)現 代 語訳 は ,逐 語訳 を基本 と して作 成 して い る。 ( )で 原文 にない部分 をお ぎなっている。. 4)鈴 木 (2004)に よる。 5)中 村他 (1982)冨 J詞 「かけて」 の項 目に よる。. 池田亀鑑 1953『 源氏物語大成校 異篇』 1∼ 3(中 央公論 社 一引用 は 9版 による) 上 田英代 。村上征勝 。今西祐 一郎 ・樺 島忠夫 。藤 田真理. .上. 田裕 一 共編 1996『 源氏物語語彙用例総索 引付属. 語篇』 1∼ 5(勉 誠社. ). 泰 1992『 古代 日本語動詞 のテ ンス とアスペ ク ト. 鈴木. _源 氏物語 の分析』 (ひ つ じ書房 一改訂版 1999) ____ 2004「 古代 日本語 におけるテ ンス ・アスペ ク 卜体系 とケ リ形の役割」 (『 日本語教育 の視点 一国際基 督教大学大学院教授 飛 田良文博士退任記念 ―』 (東 京 堂. ). 高山善行 2002『 日本語 モ ダリテ イの史的研究』 (ひ つ じ 書房 ) 中村 宗彦 。岡見正雄 。阪倉篤 義 1982『 角川古 語大辞 典』 1(角 川書店. ). 西田隆政 2005「 助動詞 キ と「直接体験」一地 の文 での係 り結 びの用法 を中心 に一」 (『 国語 と国文学』82-11).

(10)

参照

関連したドキュメント

2.1で指摘した通り、過去形の導入に当たって は「過去の出来事」における「過去」の概念は

断面が変化する個所には伸縮継目を設けるとともに、斜面部においては、継目部受け台とすべり止め

改質手法のもう一つの視点として、 “成形体の構造”が考えられる。具体的に

;以下、「APBO17」という)は、前節で考察した ARB24 および ARB43 の 次に公表された無形資産会計基準である。無形資産の定義は

まず, Int.V の低い A-Line が形成される要因について検.

行列の標準形に関する研究は、既に多数発表されているが、行列の標準形と標準形への変 換行列の構成的算法に関しては、 Jordan

﹁ある種のものごとは︑別の形をとる﹂とはどういうことか︑﹁し

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ