南アフリカ -- 注目されるブラック・ダイヤモンド
(特集 イメージと実態の中間層)
著者
佐藤 千鶴子
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
204
ページ
28-29
発行年
2012-09
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003881
南アフリカでは、近年、ブラッ ク・ダイヤモンドと呼ばれる黒人 中間層の存在が注目されるように なっている 。教育機会が拡大し 、 職業や居住地が選択できるように なり、昇進や給与面での人種差別 が撤廃されたことに加えて、民主 化後のアフリカ民族会議 ︵ANC︶ 政権のもとでアファーマティブ ・ アクションや黒人の経済力強化 ︵BEE︶政策が導入されたこと で、一定額以上の収入を得て、旧 白人地区に移り住んだり、かつて の白人学校に子どもを通わせたり することのできる黒人︵アフリカ 人、カラード、インド系というア パルトヘイト体制下の人種区分の なかで差別を被っていた人びとの 総称︶が出現したのである。 本稿では、なぜ南アフリカで黒 人中間層が注目されているのか 、 彼らはどのような人びとであり 、 どういった政策的背景のもとで出 現し てきた の か に つ い て検 討 す る。
●黒人中間層の規模と購買力
南アフリカにどれほどの黒人中 間層がいるのか、その規模を正確 に知るのは容易ではない。ケープ タウン大学のユニリバー研究所は 二〇〇八年時点での黒人中間層を 推定三〇〇万人としているが、そ れは当時の総人口四八七〇万人 ︵南アフリカ統計局による年央人 口推計︶のわずか六・二%にすぎ ない。だが、彼らの存在感は絶対 数よりも購買力にあり、二〇〇七 年初頭には黒人の全購買力の五 四%を黒人中間層が占め、彼らの なかで大都市郊外の旧白人地区に 住む人びとも一二〇万人に達し た。二〇〇〇年から二〇〇八年初 頭まで南アフリカの住宅価格は高 騰し続けたが、黒人中間層による 住宅購入はその主因のひとつで あった。 黒人中間層の購買力の拡大は 、 大都市の外れに位置する旧黒人居 住区 ︵タウンシップ︶ に民主化後、 相 次 い で 建 設 さ れ た 大 規 模 な ショッピングモールにも示されて いる。ショッピングモールには食 料や日用品を購入するためのスー パーマーケットに加えて、各種銀 行の支店、家電製品や家具の小売 店、 フ ァ ー ス ト フ ード の チ ェ ー ン 店 がテ ナン ト と して 入 っ て お り 、 週 末には 大 き な 賑 わ いを 見 せ て い る。 南アフリカの黒人中間層はブラ ンド志向が強く 、住宅や自動車 、 液晶テレビ、ソファーなどをロー ンやクレジットカードで購入する 一方で貯蓄の文化が形成されてい ないため、彼らの生活スタイルは 近いうちに崩壊するだろうといっ た予測もある。他方で、二〇〇八 年に世界的な経済危機の影響を受 けて南アフリカ経済が低迷したと きにも黒人中間層の購買力は増加 し続けたとされており、彼らが消 費市場の重要な一角を占めている ことは 疑 い が な い︵ 参 考 文 献 ② 、⑥ ︶。●
BEE
と黒人富裕層
ブラック・ダイヤモンドという と、郊外のゲーテッド・コミュニ ティに住んで高級車を乗り回し 、 ブランドもののスーツを着て高級 レストランで食事をする黒人経営 者を思い浮かべる人もいるだろ う。彼らの多くは、民主化前後に 銀行から資金を得て既存の白人大 企業の子会社を譲り受けたり、合 弁事業のパートナーとして複数の 企業の常勤・非常勤役員を兼任し たりすることで大富豪となった人 びとであり、ANC政権の誕生を 目前にして、経済界の意向を組む 黒人企業家の育成を望んだ白人大 企業のイニシアティブによって誕 生した。 南アフリカでは黒人企業家の育 成を目的に行われ、黒人投資家や 黒人経営者・企業が買い手となる こういった株取引はBEE株取引 ケープタウン郊外のググレトゥ・タウンシップ初のモール (2011年10月筆者撮影)特
集
イメージと実態の中間層
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アジ研ワールド・トレンド No.204 (2012. 9)︵あ る い は単 に B E E 取引︶ と 呼ば れる。黒人の経済進出度を表す指 標としてジョハネスバーグ証券取 引所において黒人がどれほど株式 を所有しているかがしばしば引き 合いに出されるが、一九九五年時 点ではわずか一%にすぎなかった 黒人の株式所有率は二〇一一年に は一七%まで増加した︵ただしこ のうち九%は年金基金などの機関 投資家によるもの︶ ︵参考文献⑤︶ 。 黒人経営者のなかには、 シリル ・ ラマポサ︵元労働組合活動家で現 ANC 幹部︶やトーキョー・セク ワレ︵現住宅問題大臣︶など与党 ANCとの強い結びつきを持つ人 も多い。黒人が支配権を握った企 業は金融、ITおよび携帯電話な どの通信業、 出版を含むメディア、 鉱業が中心となっているが、これ らは国家が営業許可などの許認可 権を通じて規制権力を持つ業種で あり、新興の黒人資本家や経営者 の成長過程には国家の関与があっ たと考えられている ︵参考文献③、 ④︶ 。