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教員需要の将来推計 : これまでの経緯と残された課題

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教員需要の将来推計

―これまでの経緯と残された課題

潮木 守一

【要旨】

筆者はこれまで数回にわたって教員需要の将来推計を試みてきた。しかしながら基 礎となる「学校教員統計調査」には推計に必要なデータが完全には公表されておらず、 それが制約条件となっていた。ところが平成22年度の報告書(デジタル版)からは、 筆者の推計モデルに求められるデータがすべて提供されることとなった。そこでこの データを用いて、平成23年度から34年度までの需要推計を行った。その結果、東京、 神奈川、大阪といったこれまで大量採用を行ってきた地方自治体では、頂点が見え始 め、やがては採用数が減少に転じるという結果が得られた。しかしそれ以外の県では ほぼ安定しており、むしろ今後増加が見込まれる県も発見できた。 キーワード:教員需要、推計、地域間格差

1.はじめに

研究者の中には「役に立つ研究」を軽く見る傾向がある。「役立つ研究」を狙うのは邪道であ り、世間に対する迎合であると軽視する傾向がある。しかし筆者はそういう立場はとらない。 何の役にも立たず、毒にも薬にもならない研究ほど退屈な研究はない。 ただ「役立つ研究」と一言でいっても、その「役に立ち方」は一様ではない。また同じ研究結 果であっても、見る人によって「役に立つ」場合もあれば、「役に立たない」場合もある。つま り「役に立つ、立たないは、そういう情報を求める人の需要によって決まる」。ただし経済学は 需要の多い情報の方が価値が高いとみるが、筆者は必ずしもそうは考えない。たとえ一人でも 求める人がいる限り、その情報は意味を持っていると考えている。 筆者はこれまで数回にわたって都道府県別の「教員需要の将来推計」を行ってきた。第1回 目は 1985年のことで、その結果は『教員需要の将来推計』として福村出版から刊行された。そ れを最初として、それ以降これまで、数回にわたって全国47都道府県別の教員需要の将来推計 を発表してきた。 こうした研究を発表した頃の教育学の世界では、いったいこんな計算が何の意味があるのか と疑問視する雰囲気が強かった。教育学の世界では「理想の教師像」とは何か、それはいかに して養成されるのか、といった「高尚な」議論が主流で、教員採用数が将来増えるか減るかな どといった「俗事」は、教育学の対象とはみなされていなかった。それは教育学の世界の外の

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問題だった。 さらにその上、その当時の教育学の世界では「マンパワー計画」はタブー視され、危険視さ れ、それに関わる研究者は冷たい視線に晒された。教員数の需給バランスなど、まさに「マン パワー計画」の典型例で、そのようなことに関わる人間とは、ともに天をいだかずという雰囲 気があった。はたしてその当時「マンパワー計画」を批判していた人々が、「マンパワー計画」 の中身をどこまで理解していたのか、いまだに疑問に思っている。 現に発展途上国のみならず先進国どこでも、「マンパワー計画」は不可欠な政策手段で、教員 のみに限らず、さまざまな職種について「マンパワー推計」が行われ、それに従った政策が展 開されている。この現実をかつての「マンパワー論」批判者はどうみるのだろうか。 そうした「反マンパワー論」が支配的だった理由は、そもそも教育の問題を、数や統計で議 論する関心がまったくなかったからである。「人間を数に還元し、一人一人の顔を無視して頭 数で数え上げることなど、人間性に対する冒涜」、これが当時の教育学の基本的発想であった。 例えば1960年、麻生誠が「近代日本におけるエリート構成の変遷」(教育社会学研究 15, 148 – 162, 1960)を発表した時1)、「歴史を数字に置き換えただけのこと」という批判がなされた。そ れも当時教育界に君臨する「権威ある」雑誌に登場した。もっともその当時、教育関係の論考 を載せる雑誌はごく少数で、その多くが特定の思想集団に支配されており、そのイデオロギー に忠誠を誓った者だけしか発表できなかった。 こうした「人間を数字に置き換えることは、人間性に対する冒涜」といって、オリンポスの 高みから見下す神託に対抗するには、あえて計量的な分析を提示し、データ分析がいかに重要 な意味を持つかを、具体的に示す必要があった。あらゆる社会現象・人間現象がそうであるよ うに、数字で語れる部分とそうでない部分がある。しかも両者は排他的な関係にあるのではな く、相互補完的であることは、他の社会科学では常識であった。しかしそういう常識は教育学 では通用しなかった。 もともと教育学は哲学から分かれた分野で、数字や統計で議論する習慣がなかった。議論は すべて哲学からの借用語と、そして第二次世界大戦後になるとマルクス主義の用語が急増し た。そのような環境のなかにデータ分析、現状分析を手法として参入することは、大きな抵抗 があった。清水義弘がさまざまな実証データをもとに「試験」(1957年。岩波新書)を発表した 時2)、いかにも汚いものでもみるような表情で、「そんな本は読まない」と断罪を下した教育学 者がいた。 話は1985年に発表した『教員需要の将来推計』に戻るが、その当時、教員養成大学に勤務す る同僚から「最近、教員採用試験を受験しても合格しない学生が増えているのだが、何か理由 があるのだろうか」という話を持ちかけられた。その当時筆者は教育関係のデータベースを作 り、その有効活用を探っている最中だった。そのきっかけとなったのは、所属大学に大型計算 機センターが開設され、FORTRANの講習会が開催され、大学の内外の関係者に利用できるよ うな時代が到来したためである。これまで蓄積してきたデータを利用すれば、全国47都道府県 の教員の将来需要を推計することは、それほど難しい問題ではないと思えた(だが実際はそう

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ではなかったが)。だれもやらないのであれば、やってみるかという気分になった。 それからもう一つ、その当時の筆者は心ひそかに「証拠に基づく政策立案」を目指していた。 なぜそれを目指したのかは、周囲を覆うイデオロギー闘争に呆れ、それとは別な新たな教育研 究の在り方を模索していたからである。「確たる根拠なしに自分達の立てた心情過多な主張を 繰り返しているだけ」、これがその当時の教育学以外の人々が教育学に注ぐ視線だった。こう した外部からの偏見に対抗し、教育研究に対する信頼を獲得するためにも、計量分析に賭けて みることにした。計量分析の核心は数字ではない。現象間にある論理を明確にし、検証可能な 形にする試みである。

2.高校問題

まず最初に行ったのは、1970年代なかばの頃で、テーマは高校政策であった。その頃、高校 進学率は年々上昇を続け、80%を超える水準に達していた。その反面ではどこの高校からもあ ぶれた「中学浪人」が生まれており、それが社会問題化しつつあった。ただ世間一般の見方は、 このままの進学率上昇が続けば、高校問題はやがては解消するとみる雰囲気が強かった。 しかしその時、大都市圏では年々中卒者が急増している最中だった。それは1960年代以降急 速に強まった人口集中化の結果で、東京、大阪の周辺には巨大団地が出現し、高校進学希望者 数が年々増加していた。それだけの高校進学希望者を高校に受け入れると、どれだけの高校が 必要なのか、それを推計する作業が必要となった。 もちろん高校は義務教育ではない。いったいどれほどの高校進学率が「適正」なのか、まず 議論はそこから始まった。しかしこうした問いに答える絶対的な基準はない。たとえば、最近 では日本の大学進学率が高すぎるのではないかという議論がある一方、むしろ低すぎるという 議論もある。現在の54%という大学進学率を高いか低いか、客観的に判定できる基準はない。 これはその時々の社会経済情勢のなかで、政治的に社会的に選択・決定すべき問題である。 さらに加えてその当時、一方には「高校全入」を主張するイデオロギー集団があり、他方に は高校教育を学習できるだけの基礎能力を持った者だけに制限的に開放された学校であるとす る「適格主義」の立場があった。しかもそのどちらの立場を選ぶべきかには、絶対的な基準が ない。あくまでも社会的政治的選択の問題である。 そこでこの種の「理念問題」からは距離を置き、すでに達成された高校進学率を維持するた めには、標準サイズの高校を何校増設しなければならないか、それに必要となる増設経費はど れほどになるのか、それぞれの県収入の何割ほどを高校新増設に投じることになるか、それは これまでその県が投じてきた高校経費の範囲内の収まるのか、そうした推計結果を発表した。 その推計結果の概要、それを発表したことから生じた諸々の反応については、すでに別のとこ ろに書いてあるので、ここでは繰り返さない3)。ただ一つ筆者が学んだことは、一見中立的に 見える研究といえども、政治論争から自由ではありえないという現実であった。 こうした中で、筆者にとってモデルとなったのは、当時のヨーロッパでの教育研究であった。 こうした推計は、当時のヨーロッパでは当然のこととして行われており、どこの国も行政機関

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と大学とが共同して推計方法を開発し改善し、その結果を政策のなかで生かしていた。こうし た中から伝統的な教育学者からは区別された「教育社会学者」「教育経済学者」と呼ばれる一群 の研究者が登場し始めていた。彼等が筆者にとってはモデルとなった。彼等がヨーロッパで行 っている研究を、この日本で実行することにした。 話をもう一度教員需要の将来推計に戻すが、全国47都道府県別の教員需要の推計など、それ ほど面倒な作業ではない。世間にそういう情報を求めている人々がいるのであれば、それを提 供するのが研究者の仕事である。こうした経緯を経て、第一回目の需要推計を行うこととなっ た。 しかしこの第1回目の推計は、その推計結果が出た時、内心これは困ったと思った。筆者の 推計結果は、今後大幅に教員需要が減少することを示していた。この推計結果をそのまま発表 すれば、教員養成課程の再編成問題が登場するのは必至である。この間の経緯は「大学再生の ための具体像」(2006.50頁以降)に書いたので割愛する。 ただその時痛感したことは、とかく世間では、教員に対する需要が減る、あるいは増えると いう単純図式でしか把握しない人が、あまりにも多すぎるという事実であった。筆者の推計結 果は、増える所もあれば減る所もある、要するに大きな地域差があることを示していた。そこ で努めて「これから増える、減る」といった単純な二分論は危険であることを強調し、都道府 県ごとに事情が違っていることを指摘した。そして都道府県によって「増加型」、「減少型」、 「山型」、「U型」といった類型があることを示した。 ただ全国を一本に纏めれば、減少することは明らかであった。それが後日、教員養成課程で のゼロ免コース(教員免許取得を目指さないコース)の設置に繋がった。そこに至るまでの期 間、筆者の周辺では様々なことが起こったが、この時の経験は「政治・行政」と「専門研究」と の関係を考える上では、またとない契機となった。

3.教員需要推計の必要性

なぜ教員需要の将来推計が必要なのか、そういう問いがこれまでしばしば筆者に投げかけら れた。まずはその理由を説明しておくことが必要であろう。この種の研究の意義がどこにある のか、それを疑問視した人々への解答である。それを説明するには、筆者自身がくどくど言葉 を書きつらねるよりも、実例を示した方が分かりやすいだろう。次に紹介するのは、筆者のウ ェブ・サイトを見た人から届いたメールである。 東北地方に住むその人は、毎年教員採用試験を受けてきたが、いっこうに採用されない、し かも毎年の採用枠はきわめて少ない、来年度は何人採用する予定か、教育委員会に問い合わせ ても教えてくれない、そこで筆者のウェブ・サイト上の将来需要推計を見たところ、当分採用 が見込まれないことが解った、それで需要の増えている大都市圏の教員採用試験を受験し合格 し、今ではハッピーにやっている、こういうメールである。これを見て、たった一人でも役に 立ってくれた人がいれば、こうした作業はやるだけの意味があることを実感した。 その他に問い合わせがあったのは、いうまでもなくは地方自治体の教育委員会事務局からで

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あった。将来の採用方針を立てるための参考に使わせてほしいというメールがいくつかきた。 それにもまして多かったのが、大学からの問い合わせであった。教員養成課程新増設の話が学 内で起きているが、今の大量採用がいつまでもつのか、それが解らない、あなたのデータをも う少し説明してもらいたい、という問い合わせであった。 以上が筆者のもとに直接届いた連絡である。ウェブ・サイト上に発表したデータが、どの程 度の範囲で使われたのかは、確認のしようがない。しかし現に情報がないために、困っている 人がいる以上、たった一人でも役に立てば、それは意味があることだと考える。これが「教員 需要の将来推計」を行い、自らは推計方法の改善に努め、行政機関には提供される統計の改善 を提案してきた理由である。

4.教育統計システムの改善

しかしこうした推計作業を行っているなかで、筆者は根本的な問題に二つぶつかった。やや 技術的な問題だが、避けて通ることはできない点なので説明しておく。第一は「学校基本調査」 と「学校教員統計調査」との本務教員の統計上の食い違いである。改めて断るまでもなく、「学 校基本調査」は当該年度の5月1日現在の数字であり、「学校教員統計調査」は当該年度の10月 1日現在の数字である。この二つの統計を比較してみると、わずか5か月間の違いであるが、本 務教員数にかなりの差がある。これが筆者の需要推計を混乱させた。その詳細は説明すると長 くなるので、下記の論文に譲る4) だがこれは誰かの責任問題ではない。それぞれ異なった系列で、統計を収集すれば、ズレが 起こることはよくあることである。問題は利用者がそれをいかに合理的に利用するかである。 この食い違いを処理する方法は、すでに拙著『「証拠に基づく政策」はいかにして可能か? ―教 員需要推計の事後検証をもととして』(日本高等教育学会編『高等教育研究』12集, 169 –187頁, 2009)に書いたので、それに譲る。 しかしこの事実に気づくまでは、かなりの混乱があり、時間を浪費した。でてきた結果をど う理解したらよいのか、わからず途方にくれた。不自然な推計結果の原因は、二つの統計の本 務教員に相違があることに気付くまで、そうとうの時間がかかった。 第二の問題は、「学校教員統計調査」では教員の年齢区分が、一頃までは5歳刻みになってい た点である。第一回目の推計には昭和59年度(1984年度)の『学校教員統計調査』を利用とし たが、その時の統計は教員の年齢構成が5歳刻みだったので、将来需要といっても5年間を一 単位とするごく大まかな推計しかできなかった。その結果を示すと、たとえば図1のようにな る。5年間一まとめでは、その間にどれだけの山なり谷があるのかが分からない。 さらにまた、新規採用教員の年齢構成、離退職教員の年齢構成が、一頃までは全国一本の統 計しか公表されず、都道府県別には公表されてこなかった。そのためどの県の新規採用教員、 離退職教員も、その年齢構成比は同じだという、無理な仮定を置かざるを得なかった。その後、 平成13年度の「学校教員統計調査」をベースとした需要推計と、その後に現実に行われた採用 数とを照合してみると、かなりの食い違いがあることが判明した。それとともに、こうした齟

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齬の原因が、上記のような無理な仮定を置いた結果であることが明らかになった。 そこで筆者は求めがあれば文科省に説明に出向き、あるいは学会誌を通じて、問題の所在と その改善方を要望してきた。そして遂に平成22年度版『学校教員統計調査』のデジタル版では、 これらの隘路をすべてクリアされることとなった。教員の年齢構成は1歳刻み、新規採用教員、 離退職教員の年齢別都道府県別データがすべて公表されることとなった。こうして筆者の期待 していたデータは、すべて提供されることとなった。よもやこのような改善がなされるとは、 まったく考えなかった。 しかし考えてみれば、基本統計の集計形式を変更することは、容易なことではあるまい。お そらく文科省内だけでなく、総務省を含めた他省庁との協議が必要だったのだろう。この文科 省の『学校教員統計調査』は「基本統計」であり、『学校基本調査』と並ぶ、文科省が管轄する統 計の中核的な統計である。ホームページ上の解説によると、現在の「学校教員統計調査」は、 「昭和 22 年度から実施していた学校教員調査と昭和 28 年度から実施していた学校教員需給調 査を昭和43年度に統合し、昭和46年度から学校教員統計調査と名前を改めて実施」とされて いる。 つまりすでに40年以上の長い実績を持つ統計であり、文部行政上の基本的な統計である。現 在総務省は国全体として56の「基幹統計」を指定しているが、文科省管轄の「指定統計」とし ては「学校基本調査」、「学校教員統計調査」、「学校保健統計調査」、「社会教育統計調査」の4種 類が指定されており、その一つである。 どこの国でも政策立案のために、基本的なデータを常時収集し、そのデータの分析結果をも とに、新たな政策を策定している。またすでに実施された政策の効果を測定し評価するために、 これらのデータを活用している。その作業のなかで、さまざまな指標を開発したり、収集すべ 図1:公立小学校教員の需要の将来推計(東京) 5 歳刻みの時の推計、1歳刻みの時の推計

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きデータを改善したり、その集計方法を改善したりしている。

しかし国の行う統計データの収集は、いったんある方式を採用すると、途中でそれほど簡単 には変更できなくなる。それは行政機関としては当然のことである。こうした過程で重要なの は、行政府と専門研究者との協力関係である。たとえばイギリスの教育社会学者、A・H・ Halseyは、その著『A History of Sociology in Britain』(2004)(潮木守一訳『イギリス社会学の 勃興と凋落』(2010) 5))のなかで、いかにイギリス行政府と連携しながら、教育統計の改善に努 めてきたか、自らの体験を物語っている。 どこの国でもそうだが、行政府は日常的な業務に追 われ、データを収集しても、それを分析する時間がない。そこで詳細な分析は専門研究者の仕 事となる。そうすると、統計収集や集計区分のどこを改善すべきが、具体的に明らかになって くる。 平成22年度の『学校教員統計調査』のデジタル版の特徴は、こうした困難な変更を実施した 点である。しかも従来からの統計との一貫性を保ちながら、同時に新たな要請に応えるための 新たな集計を追加し、それを「閲覧公表」という項目から公表する方式を採用した。つまり、こ れまでの指定統計の枠を維持しながら、新たなデータを追加する絶好な方式を工夫した。誰が それを推進してくれたのか、具体的な個人名は知らないが、一研究者として、さらには多くの 大学関係者に代わって深謝したい。(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/ kyouin/1268573.htm)

5.平成 22 年度「学校教員統計調査」に基づく推計結果

このようにして筆者にとって悩みの種が、この平成22年度報告書(デジタル版)で解消され た。そこでこのデータを使って、平成24年度から34年度までの需要推計を行い、その結果を 筆者のウェッブ・サイト上に発表した(http://www.ushiogi.com/H22basedprimsecdemand. pdf)。 いったいいかなる推計結果が得られたのであろうか? 正式の推計結果は各県の公立小学 校、公立中学校の2枚ずつ、合計96枚のグラフになるので、ここに公表することはスペース上 できない。大まかな結論をざっくりいえば、ほとんど全国47都道府県は、図3のように、「増 加県」、「安定県」、「減少県」、「後期増加県」の4つのタイプに分かれる。それ以上の詳細は上 記のウェッブ・サイト上の各都道府県のデータを参照して頂きたい6) 本来ならばここで筆者が使った推計方法を具体的に説明しなければならないが、これはかな りの分量になる。その詳細は別の機関誌に近く掲載予定であるので、それを参照して頂きた い7)。要点は前年度末までの離職者数を推計し、次年度の児童数の増減、それに伴う教員定数 の増減を基に推計している。しかし推計過程の細部は上記の論文に譲り、本論文では、筆者が 使用した推計方法のいくつかの問題点を吟味することに力点を置きたい。 まず重要な点は、推計には仮定が欠かせない、という点である。第一の問題は、教員一人当 たりの児童数をどう仮定するかである。本研究では(1)平成24年度のままに固定した場合と、 (2)文部科学白書2011年度版に挙げられているOECDの平均値である16.0人を目標とする場

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合の2つのケースを選んだ(文部科学省、2011.158頁)。(2)の目標値16.0は図2で示したよう に、ごく近い将来達成可能な水準である(一定の予算措置がとられればのことであるが)。ただ このケースについてはスペースの関係上、別の機会に譲りたい。 図 2:教員一人当たり児童数(2012 年度までは実数、2013 年度は16.0) 図3:公立小学校教員の将来需要のタイプ それではいくつかの事例を見てみよう。まず近年1,000人以上の大量採用を行ってきた東京 都の場合を図で示すと、図4のようになる。つまりこれまで通り、当分は1,000人から1,500人 規模の新規採用が必要になる。東京都は神奈川県と並んで、平成24年度までは教員数が増加す る例外的な自治体である。他方、退職者は平成30年度までは1,000人規模で推移するが、教員

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数が増加するため、平成29年度までは、これまでと同様年間1,500人前後の採用が続くものと 推定される。この1,500人規模の新規採用はすでに平成16年度から始まっているので、13年間 という長期間にわたって毎年1,500人規模の大量採用が続くことになる。 図 4:公立小学校教員採用数(平成 23 年度までは実数、それ以降推計値。 児童の県別構成比、教員一人当たり児童数は平成 24 年度に固定) (児童減とは児童減による教員減を意味している) ここで第二に、今回の推計に採用した仮定について説明しておく。全国一本の公立小学校の 児童数は、過去の出生数と、その推計値から推計することができる。しかし問題は各県別の児 童数の推計である。一つの方法は山崎博敏氏が用いた手法で8)、この全国の児童数にある年度 の構成比を固定して求める方法である。これは都道府県間での人口移動があまりない場合には 有効で便利な方法であるが、逆に構成比を変動させる方法もありうる。今回の推計のプリテス トとして、対前年度増減比を過去3年間求め、その平均値を前年度の構成比に掛け、次年度の 構成比を求め、次次年度の構成比は、さらにこの増減比をかけるという方法を試行してみた。 この方法を使用すると、人口集中圏の比率が次第に高くなり、逆に減少県のそれがさらに低く なることになる。たとえば東京都の構成比は平成24年度の0.084から平成34年度には0.118と なる。果たしてこれを推計の基礎データとして用いることが妥当か否かは、判断根拠が与えら れていない。結局のところ、その時々の人口の動きを見ながら適宜判断するしかない。 ただ平成24年度の需要が急に高くなり、25年度のそれが急に落ち込むことに奇異な感じる 読者がいることであろう。これはまさにこれまで年々減少してきた教員一人当たり児童数を、 平成24年度に固定した結果起きた現象である。つまりこれまで年々低下傾向をたどってきた この指標を、この年度以降低下しないという仮定を立てた結果、こうしたスムーズでないカー ブが書かれたことになった。 それとやや似ているのが神奈川県である。神奈川県のグラフは図5である。ここでは退職者 数は今後8年ほど900人規模で推移するが、平成31年度頃から次第に減少してゆく。また教員 数は平成24年度には増加し、それが教員需要増加の一因となるが、それ以後は減少する。その

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結果平成28年度のピーク(1081人)を過ぎると、急速に新規採用は減少してゆく。つまり神奈 川県は平成11年度前後の300人程度の採用という底辺から出発し、平成14年度には900人台 の採用に急増し、一時は1,400人台の大量採用となった。しかしこの傾向も平成28年度を境と して、その後急速に減少してゆくものと推計される。ただ本論文では取り扱えなかったが、刊 行予定の論文では公立中学校教員の需要推計を行っている。公立中学校教員への需要はかなり の伸びが期待される。 もう一つ大阪府(大阪府、大阪市、堺市を含む)の需要カーブは図6のようになる。ここでも 退職者数は平成27年度前後で減少傾向に転じる。同時にここでは東京都、神奈川県とは異な り、かなりの児童減が見込まれる。その結果、平成16年度から続いた1,000人、1,500人規模の 図 5:公立小学校教員採用数(平成 23 年度までは実数、それ以降推計値。 児童の県別構成比、教員一人当たり児童数は平成 24 年度に固定) (児童減とは児童減から生じる教員減を意味している) 図 6:公立小学校教員採用数(平成 23 年度までは実数、それ以降推計値。 児童の県別構成比、教員一人当たり児童数は平成 24 年度に固定) (児童減とは児童減から生じる教員減を意味している)

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大量採用はピークを過ぎ、平成29年度以降は急激に減少に転じ、平成34年度には新規採用は 理論上ゼロとなる9) このように一時大量採用を行った都道府県は減少期に入るが、他方、後期(平成28年度以 降)になると、採用数が増加する県がみられる。ただこれらの県は増加期に入る前に一時期と はいえ、名目上教員が過剰となるケースがある。具体的にいえば、秋田県がそうである。秋田 県の需要のカーブを図示すると、図7のようになる。 秋田県ではこれまでも児童数の減少が続いてきた。それに対して退職者数はそれほど多くな く、その結果教員一人当たり児童数が、平成21、22、23、24年度にかけて、13.678 → 13.514 → 13.310 → 13.228という形で減少してきた。 今回の推計結果でも平成24年度の新規採用者数は計算上はマイナスとなる。しかしながら すでに述べたように、このマイナス採用とは、あくまでも教員一人当たり児童数を平成24年度 水準に固定した場合のことである。計算上はマイナスとなるが、具体的には早期退職制度を使 ったり、あるいは教育重点学級、特別指導を要する学級に教員加配をするといった手法で、こ れら教員を定年時まで活用しているものと推測する。 図 7:公立小学校教員採用数(平成 23 年度までは実数、それ以降推計値。 児童の県別構成比、教員一人当たり児童数はともに平成 24 年度に固定) (児童減とは児童減から生じる教員減を意味している) つまり秋田県をはじめ東北地方は明らかに児童数の減少県であり、この減少傾向は今後も続 く。しかしながらそれに反して定年退職者が、大都市圏とは逆に今後年々増加してゆく。この 定年退職者の増加が新たな需要を作り出す。言い換えれば、長年トンネルの中にあった東北地 方の教員志願者にも光明が見え始めたということになる。 それに秋田県のような児童数減少県では、児童数の減少に正比例して教員数が減少するわけ ではない。たとえば過疎地の小規模学校で児童が1人減少しても、それで学級数が減ったり、 配当される教員が減るとは限らない。 事実、平成19年度から平成22年度にかけての秋田県の状況を見ると(表1)、児童数が100

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人減ることによって学級数は3.4学級の減、学校数は0.5学校減、教員数は5人減少する関係に ある。つまり児童減が学級数、教員数、学校数に与える影響は、その地域の地勢的な状況その 他によって一様ではない。 そうした事情は教員一人当たり児童数に影響を与え、秋田県の場合は、平成18年度の14.0 から平成24年度には13.2人に減少している。つまり、教員一人当たりの児童数を、ある特定年 度に固定することはあくまでも、推計技術上の必要に基づいた仮定にすぎず、事後のモニタリ ングを必要とする。 表1:秋田県での児童数の減少と学級数・学校数・教員数への影響   H18 H19 H20 H21 H22 児童数 59,420 56,608 55,116 53,466 51,886 学級数 2,659 2,592 2,511 2498 2,405 学校数 289 283 265 257 252 教員数 4,230 4,137 3,970 3,909 3,847 教員一人当たり児童数 14.0 13.7 13.9 13.7 13.5 しかし今後の児童数の減少とともに、学級数、教員数がどのように変化するのか、それをあ らかじめ知る手立ては現時点では与えられていない。ここでの推計はあくまでも、既に述べた ように、最低限の必要採用数を示しているに過ぎない。 同様なことは、東京都、神奈川県といった人口増加県についてもいえる。東京都の場合につ いてみると、表2のようになる。 表 2:東京都での児童数の増加と学級数・学校数・教員数への影響 H18 H19 H20 H21 H22 児童数 555,245 556,969 561,302 562,886 564,426 学級数 18,373 18,410 18,548 18,599 18,705 学校数 1,329 1,323 1,316 1,314 1,311 教員数 28,874 29,170 29,337 29,546 29,896 教員一人当たり児童数 19.2 19.1 19.1 19.1 18.9 東京都の場合、児童数が100人増加する場合、学級数は3.6学級の増加、それに対して学校数 はむしろ0.2校減少し、教員数は11人増加する関係があることを示している。ただしこれはあ くまでも平成19年度から22年度まで見られた傾向であって、これと同じ関係が今後も続く保 証はない。こうした児童数の増加、それに伴う学級数の増加、学校数の減少、教員数の増加の 結果、教員一人当たり児童数は、平成21年度の19.1から平成24年度の18.1人へと減少してき ている。

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このように今回の需要推計ではこれまでと同様、教員一人当たり児童数を、直近の年度(平 成24年度)の数値に固定してきたが、これはあくまでも仮りの前提で、今後の検討を残してい る。 さらにその上、今では新たな局面が登場するに至った。つまり、将来の教員需要は児童数の 増減という人口的な要因に限られず、それ以上に新たな教育政策・教育運営上の要因が登場す るに至ったという点である。つまり「教員一人当たり児童数」という指標は、今後人口分布要 因、地理的要因などではなく、国・地方自治体の教育政策・学校運営方針によって大きく左右 される段階に入ったという事実である。 すでに学級編成基準はそれぞれの地方自治体の方針によって決定される部分が拡大してお り、総量裁量制の導入によって、学級規模、学級当たりの教員配当数、特別措置などによって、 新規採用教員の規模は、単純な人口要因では決まらなくなっている。 すでに平成23年度からは小学校1年生に35人学級を導入するのをはじめとして、専科教員 の配置、特別支援学級のための教員加配、平成16年度から導入された総量裁量制などによっ て、今後地方自治体ごとの政策・運営方針が、教員採用の規模・様式を変えつつある(文科省 編平成23年度文部科学白書。第2部第2章「子どもたちの教育の一層の充実」153頁以降にはそ の詳細が記述されている10))。要するに最近年の教員一人当たり児童数を固定するという筆者 の推計方法が妥当しない部分が増えてきている。 その結果、将来の教員需要を推計するには、これら地方自治体の教育運営方針の細部を考慮 に入れなければ、推計が不可能となった。つまり新たな段階に入ることとなった。

6.教員養成課程の増設ラッシュ

ある時期から、「現在のような大量採用は、いつまで続くのか」という質問が飛び込むように なった。その理由は、各大学が競って教員養成課程を新設し、一種のラッシュが起こったから である。その新増設の状況をグラフで示すと図8のようになる。 図 8:小学校教員養成課程を有する大学等数の推移

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この図が示しているように、2003(平成15)年度には230校だったのが、2010(平成22)年 度には334校に急増している。なかでも私立大学は小学校教員養成課程の新増設にきわめて積 極的で、2003(平成15)年度の112校から2010(平成22)年度には228校に倍増している。 このように周囲の大学が教員養成課程の新増設を行えば、どの大学も無関心ではいられな い。受験生の減少は明白な事実であり、何か新機軸を立てなければ、受験生を引き付けること はできない。しかし今から新設しても、卒業生が出る頃には、大量採用のピークが過ぎている かもしれない。はたしてこの時点で、教員養成課程の新増設に踏み切るべきか、なかなか難し い選択であろう。そこで筆者のもとに「いったいこの大量採用はいつまで続くのか」という質 問が向けられるようになったのであろう。 そもそも小学校教員の大量採用は、日本各地で起きたわけではない。それは首都圏、中京圏、 近畿圏の都市部で起きた局所的な現象だった。しかしその採用数の急増は、規模が極めて大き かった。若干その実例を挙げておこう。 図9は東京都のこれまでの採用者数の変化、図10大阪府のそれを示している。 図 9:東京都公立小学校教員採用者数(左目盛)と競争倍率(右目盛) 図10:大阪府公立小学校教員採用者数(左目盛)と競争倍率(右目盛) (大阪市、堺市は含まず)

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まず東京都の場合を見ると、1999(平成11)年度頃までは採用数は300人以下であった。と ころがそれを越えると採用者数は年々上昇を続け、2004(平成16)年度以降現在に至るまで 1400人前後の採用が続いてきている。つまり最底辺から比較すれば、4倍強まで増加してきて いる。それとは対照的に著しく低下したのが競争倍率である。1997(平成9)年度前後の8倍前 後の水準から、2004(平成16)年度の2倍に低下し、2010年(平成22)度現在は3倍前後を推 移している。 次に大阪府(大阪市、堺市は含まれていない)の場合をみると、ここでも採用者数は一時極 端に減少し、1999(平成11)年度にはわずか44人という最低を記録した。ところが2001(平 成13)年度頃から増加傾向に転じ、2006(平成18)年度には1225人というピークを記録した。 それ以降は若干減少したが、それでも1000人前後の採用が続いている。 採用数の減少とともに競争倍率の低下は、東京都の場合と同様で、1999(平成11)年度には 37倍という例外的な高率を記録したが、それ以降は2倍台の競争倍率に低下し、現在に至って いる。「理想的な競争倍率」は一概には定義できないが、最低限2倍以上の競争倍率が必要とい うのが関係者の見方であるが、東京都、大阪府ともその下限に近付いている。 こうした大都市圏での大量採用を見て、さまざまな大学が教員養成課程の新増設を目指した のであろう。それが「現在の大量採用はいつまで続くのか、そのデータがほしい」という質問 となって筆者のもとに届いたのであろう。 こうした問い合わせを受けるたびに、「データは提供するが、それをいかに解釈し、いかなる 経営判断を下すかは、当該大学の責任である、需要が増えるといっても、どの大学にもライバ ル大学が存在し、そこがいかなる経営方針をとるかによって状況は大きく変化する、そこまで 筆者は責任を持つことはできない」、これが筆者のスタンスだった。 すでに述べた1985(昭和60)年に実施した第一回目の推計では、大都市圏では急速な減少が 起こるが、都道府県でかなりの相違がある、これから増加する県もあると繰り返し説明したが、 筆者の推計結果は、あたかも全国どこでも一律に教員需要が低下する論と理解されたらしい。 「あなたは減るというが、うちの県ではいっこうに減らない」といった話がいくつもあった。 そこで平成13年度の推計の際に、こうした誤解を避けるために、都道府県による差があり、 大きくタイプを分けると、「安定型」、「後期増加型」、「急増急減型」、「減少型」の4類型になる ことを指摘した。そしてそれをグラフにして表示する方法を採った。図10がその結果である。 ただこの推計では年齢別退職者数が都道府県別に公表されていなかった段階のものだったの で、全国一律の年齢構成をとるという無理な前提を置いた。そのため、いくつかの県でかなり のズレが生じたが、しかし「安定型」、「後期増加型」、「急増急減型」、「減少型」という大まか な傾向は、ほとんどずれていない。

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図11:平成13 年度から35 年度までの公立小学校教員の需要タイプ こうしたとかく起こりやすい誤解を避けるため、今回実施した平成22年度版の推計結果に ついても、すでにあげた図2のような分県地図を作製し、読者の便宜を図ることにした。ただ これも「ラベル」にすぎず、たとえば「後期増加型」といっても、増加の始まる時点がどこか、 どれほどの増加が見込まれるかには、都道府県によって大きな差がある。だからラベルに惑わ されるべきではない。そのためにはウェブ・サイト上の各都道府県別の推計データを直接参照 していただきたい。

7.誰が需要推計を必要とするのか?

以上のような経緯を経ながら、筆者は教員需要の将来推計に何回か関わってきたが、つねに 疑問だったのは、なぜ推計(市場調査)を必要とする大学が実施しないのかという疑問であっ た。おそらく筆者の同様な作業を行った山崎敏博氏も、神経負担の多い作業をどうして一部の 人間だけがしなければならないか、疑問をもたれたことであろう11)。この作業に最初に取り掛 かった理由はすでに述べたとおりだが、しかし筆者の場合、後期高齢者になってからは、視力 の低下が著しくなり、その疑問はさらに倍加した。 山崎氏や筆者が行わないとしたら誰がやるべきなのか。筆者のこれまでの経験では、こうし た推計結果をもっとも必要としていたのは、大学側である。それなのに、多くの大学側は文科 省なり、地方自治体がやるべきだと思っているふしがあるが、それは見当はずれである。筆者 の推計過程をみれば分かるように、推計にはかならず、何かしかの仮説を設定しなければでき ない。まず第一に筆者は教員一人当たり児童数を、平成24年度の水準のままに固定し、今後変 化しないという、きわめて非現実的な仮説を設定している。なぜそのような非現実的な仮説を

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設定したかは、35人学級の導入、特別支援教員の配置、教育困難校への特別加配など、各自治 体ごと情報を、筆者のような一研究者が網羅的には集めることは不可能だからである。 また都道府県別児童数の将来推計もまた、ある特定の仮説を設定している。しかし中央官庁、 地方公共団体には、確実性、信頼性、安定性が求められる。そのような機関が何がしかの仮説 に基づいた推計を公表するには、別の問題を引き起こす危険性がある。公共機関にとっては信 頼性と確実性と安定性が欠かせない。だから中央官庁、地方自治体に推計作業を求めることは 期待できないし、期待すべきではない。 それに対してこの種の推計をもっとも切実に必要としているのは、他ならぬ大学であり、大 学こそ将来の計画を立てるためには、教員需要の動向を把握しなければならないはずである。 しかもこうした需要推計を実施する専門人材を抱えた機関は、大学をおいてはほかには存在し ない。どの大学も教育社会学ばかりでなく、統計学、情報処理などの専門家を抱えていること であろう。大学内部の人材を活用し、その大学の将来計画を策定するのでなければ、だれがや るのだろうか。 先にも述べたように、これからの時代の特徴は、児童数といった人口要因だけでなく、国の 教育政策・地方自治体の教育方針で、教員需要が変化する段階に達した。こうした情報は地元 大学でなければ入手できない。具体的にいえば、各大学が地元の自治体がいかなる工程表に従 って35人学級の導入を図ろうとしているのか、現行の60歳定年制にどう対処しようとしてい るのか、特別加配教員の配置をどう計画しているのか、それぞれの地域固有の背景を考慮に入 れる必要がでてくる。これこそ当該大学が収集し、自大学の将来計画に生かす必要がある。 平成22年度のデータを基とした推計結果は、都市圏ではやがて教員需要の落ち込み、それと ともに、教員養成課程を再検討の対象としなければならなくなる時期が近づきつつあることを 示している。すでに述べたように、行政機関は我々の要望を受けて、「指定統計」の発表形式の 改善を断行した。今やボールは大学側に投げ返された。この改善されたデータを活用して、自 大学の将来計画に生かすのは、大学自身の責任である。

8.今後に残された課題

この論を閉じるにあたって、将来に残された課題を指摘しておきたい。第一に筆者が使って きた推計方法には、以下に述べる3つの問題点ないしは限界がある。最大の限界は新規採用教 員、離退職教員の年齢構成を、全国一律としてきた点だった。しかし、この統計上の制約は「平 成22年度学校教員統計調査」が公表されることによって、全面的に解消された。第二の制約は、 教員数を推計するために、教員一人当たり児童数を、直近の年度(平成24年度)の指数に固定 した。しかしこれまで繰り返してきたように、これは非現実的な前提である。全国一括してみ ても、表3が示すように、本務教員一人当たり児童数は最近年々低下してきている。筆者の推 計はこうした現実を無視して、平成24年度の値を固定化したが、これ以外に信頼にたる方法が 発見できなかったからである。今後は地方の教育政策の動向を加味しながら、こうした指標を 設定していく必要がある。

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表 3: 本務教員一人当たり児童数の推移(国公私合わせた数字) 年度 1学級当たりの児童数 本務教員一人当たり児童数 平成14年度 26.7 17.6   19 25.7 17.1   20 25.6 17.0   21 25.4 16.8   22 25.2 16.7   23 24.9 16.4   24 24.6 16.2  文科省発表「学校基本調査報告書平成24年度速報」より 第三の検討課題は、児童数の推計方法である。筆者が今回用いた方法は、直近の(具体的に は平成24年度)の各都道府県別の児童数の構成比に固定している。はたしてこれがもっとも適 切な方法かどうかは事後検証が必要である。すでに述べたように、これとは別に対前年度増減 比を過去数年分の求め、その平均値をかけることで次年度の構成比を求める方法も実施してみ たが、この方法では人口集中県はますます集中化し、減少県はますます減少するという特定の 仮説を設定することと同じこととなる。しかし人口の集中・減少がいつまで続くか、どの程度 まで進行するのか、誰にも分からない。残る方法は、いったん固定した構成比を使っておき、 数年おきにそれを修正してゆくしかない。 このように改善すべき点があるが、しかしプラグマティックに考えれば、「この年の採用数 は○○になる」といったピンポイントの推計は、いくら推計技術を向上させても、事実上不可 能であろう。また将来需要といっても、どれほどの期間の推計が必要かも、置かれた状況によ って、異なってくるであろう。今後、推計を必要とする大学が推計するケースを考えると、次 のようなプラグマティックな方法が推奨されるだろう。 まず第一に我々は「学校教員統計調査」によって、調査年度の10月1日現在の本務教員の年 齢構成を一歳刻みで知ることができる。これを見れば今後数年間の定年退職教員数に一応の目 安を立てることができる。たとえば、「学校教員統計調査」平成22年度版を参照すれば、図12、 図13のような年齢分布が得られる。 つまり図12に選び出した県ではここ8年間ほどは、かなりの定年退職者が見込まれる。しか しその後には定年退職者が激減し、新規採用者が減少する時期が到来することになる。この採 用減の時期に、過去10年間に急増した教員養成課程をいかに改組転換するかが課題となるこ とであろう。 他方、図13のように、年齢構成がなだらかな分布となっている県も見られる。このような地 域ではそれほど急激な採用増はおきない。むしろここ数年間は新規採用がなく、求職者側にと っては、厳しい時期が続く。要するに地域によって、その教員の年齢構成には大きな差があり、 それが教員需要の規模を左右する。 第二には、出生数の減少は全国共通の傾向で、どの都道府県でも児童数が減少する。それを

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できるだけ正確に推計する必要があるが、それは厚生労働省人口問題研究所の推計値を基に、 学校基本調査の利用方法を改善するしかない。しかも各都道府県間の人口移動は予測できない 要因で左右される(たとえば平成23年3月の東日本大震災のような)ので、完全は期し難い。 第三に、今後の教員需要はただ単に人口要因だけでなく、今後はむしろ国・地方自治体の教 員配置計画(たとえば35人学級の導入、教育困難校への教員の特別加配など)などの政策要因 によって左右される部分が大きくなってきている。しかし全国47都道府県と17の政令指定都 市(平成20年度現在)の教員配置方針など、筆者のような一研究者が集めることは不可能であ る。そうした情報は、教員養成課程の新増設、あるいは統廃合、縮小を計画している大学が、 国と地元の地方自治体から情報を集めるべきであろう。大学は内部に抱えた人材を活用するシ ンクタンク機能を高める必要がある。(了) 図12:公立小学校教員の年齢構成(平成 22 年度10月1日現在)(都市圏のみ) 図13:公立小学校本務教員の年齢別分布(平成 22 年10月1日現在)

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1)麻生誠「近代日本におけるエリート構成の変遷」(教育社会学研究 15, 148 –162, 1960) 2)清水義弘「試験」(1957年。岩波新書) 3)潮木守一「教育政策と教育運動」。田村栄一郎・潮木守一編『現代教育社会学講座』5巻「現代の教育 政策」(1976) 4)潮木守一 「証拠に基づく政策」はいかにして可能か? ―教員需要推計の事後検証をもととして』(日 本高等教育学会編『高等教育研究』 12集, 169–187頁, 2009)

5)A・H・Halsey:『A History of Sociology in Britain』(2004)。潮木守一訳『イギリス社会学の勃興と

凋落』(2010) 6)分県地図作成にはMANDARA地図作成ソフトを使用した。 7)拙稿『「教員需要の将来推計」(平成22年度学校教員統計調査をベースとする)で用いた推計方法と残 された課題』 筑波大学 大学研究センター紀要(2015年3月刊行予定)に、推計方法の具体的なステ ップとそれに関する更なる検討課題を説明・解説している。 8)注11の文献参照。 9)平成22年度までの採用数は、『教育委員会月報』の各年12月号に公表された数字を使用した。ただし 大阪府の場合、元大阪教育大学教授、現学生支援機構理事の米川英樹氏に確認していただいた数値を 一部用いている。この場を借りて深謝したい。 10)文科省編『平成23年度文部科学白書』。第2部第2章「子どもたちの教育の一層の充実」153頁以降に はその詳細が記述されている。 11)山崎博敏「教員採用の過去と未来」(1998)。

表 3: 本務教員一人当たり児童数の推移(国公私合わせた数字) 年度 1 学級当たりの児童数 本務教員一人当たり児童数 平成 14年度 26.7 17.6   19 25.7 17.1   20 25.6 17.0   21 25.4 16.8   22 25.2 16.7   23 24.9 16.4   24 24.6 16.2   文科省発表「学校基本調査報告書平成 24 年度速報」より 第三の検討課題は、児童数の推計方法である。筆者が今回用いた方法は、直近の(具体的に は平成 24 年度)の各都道府

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