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大衆文化をリソースとした日本語学習 : -個別対応型授業で行う意義-

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大衆文化をリソースとした日本語学習

̶個別対応型授業で行う意義̶

鈴木 理子

1.はじめに

 日本語学習者が J-POP やアニメ、映画、テレビゲームといった主にマスメディアを通じ て配信される大衆文化に抱く関心は、以前から指摘されている。大衆文化に対する興味を きっかけとして日本語を学習するケースは、台湾、韓国だけでなく、近年ではアメリカ、 カナダでも見られることが報告されている。(国際交流基金日本語教育国別情報 2005 年)。 国立国語研究所(2003、2004、2005a、2005b)および工藤(2006)からは、学習者にとっ て大衆文化は身近な存在で、楽しみ、興味の対象であるだけでなく、日本語学習に生かそ うとしている様子が見えてくる。一方、教師を対象とした保坂他(2004)の海外における 映像教材に関する調査では、教育用ビデオ教材以外の映像教材(アニメ、映画、ドラマ等) は、さまざまな目的で使用されているものの、その使い方はあまり効果的でないと感じて いることが浮かび上がっており、大衆文化のリソース利用についての研究の立ち遅れが顕 在化している。  大衆文化の授業での使用を研究したものには有賀(1990)、田中(1992)、下條(1996)、 品川(1998)、窪田(2002)窪田(2006)、西隈(2006)等があるが、いずれも教師主導型 の授業を前提とし、何をリソースとし、何を教えるかを教師が決めている。大衆文化には 様々なものがあり、日本語のどの部分を伸ばしたいと考えているかは学習者によって異な る。多様なニーズに応えるには、教師がすべてを決める方法では限界があるのではないか。  池上(1995)は学習者、学習環境の多様化に対応する一つの方法として、学習者個々人 の習熟度や学習目的・目標に合わせて指導を行う「積極的な個別化」を提案する。教師が 何を使って何を教えたいかを考える前に、まず学習者に目を向け、学習者が何に関心を持 ち、それを用いてどう学んでいる/学ぼうとしているのかを出発点とする姿勢、そこから 一人一人の学習者に対してどのように支援をしていくかを考えることも重要であろう。  教師が決定する範囲を狭め、学習者に選択権のある形式をとった大衆文化利用の授業に 関しては、西谷(1993)、坂根(1998)、宮副・吉村(2005)があり、いずれも自律学習と の関連に触れているが、大衆文化を利用し、学習者がどのように学習を行うかに焦点を当 て、授業で行う意義を検討した研究は十分行われているとは言えない。  そこで本稿では、東京近郊のある中規模私立大学で行われた自律学習を基盤とする個別 対応型授業の実践結果(2003 年 4 月∼ 2006 年 7 月)をもとに、授業で大衆文化をリソー スとした学習について、学習者の視点を通して検討する。本稿の目的は、大衆文化に関して、 個別対応型授業において学習者がどのようなものをどのように利用したのかを報告し、学

̶研究論文̶

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習者がその学習をどのように認識していたのかを探ることにある。さらに、大衆文化をリ ソースとする学習の形態として個別対応型授業が適しているのかどうかを検討する。今後、 大衆文化を学習に取り入れていく上での一助となることを願っている。

2.個別の関心に対応する授業の実践

 本稿の対象とした個別対応型授業は、学部留学生及び短期留学生向けに開講され、英 語圏出身者中心の初級学習者から漢字圏出身中心の上級学習者まで履修できるクラスであ る。以後当該機関での名称に従い、この個別対応型授業をチュートリアルと呼ぶ。  チュートリアルは自律学習を基盤として学習者が自分自身の学習を進めることを目的と し、学習者は自分の学習を自分で管理できる力を身に付けることが期待されている。学習 者は自身のニーズを明確化し、学習目標・学習方法・リソースを考え、学習を計画する。 大衆文化をリソースとした学習を例に取れば、学習者は、アニメの内容を深く理解したい、 自身の学習上の弱点である漢字の勉強に歌詞を利用したい、ドラマから会話表現を学びた い等、自分が伸ばしたい部分は何か、大衆文化に対する興味・関心をどのように学習に利 用するかを、学習者自身が考え、選択していく。学習者が自分を見つめ直すことを出発点 とし、学習を問い直しながら進める機会を提供する学習である。孤立した学習とは異なり、 教師は学習者とやりとりを行い、学習の進め方を学習者とともに考える他、リソースを整 備する、学習者の質問・相談に答える等の学習支援を行う。また、人的リソースとして、 学習者のニーズに応じて同じ大学に所属するボランティアの日本人大学生(機関での名称 にならい、以後「クラスゲスト」とする)やTAが参加することがある。

3. 大衆文化リソース利用の分析

3. 1 分析資料と手順  まず、2003 年春∼ 2006 年春にチュートリアルを履修した学習者が授業の度に書いた学 習記録、およびチュートリアル担当教師による記録に記載された使用リソースを見て、大 衆文化をリソースとした学習者を抽出した。これらの記録は、学習者の振り返り、学習者 と教師とのやりとりを通じた支援のために残されたもので、ジャーナル、ダイアログ・ジ ャーナル1に相当する。1 学期の学習過程の中で見られるよう学習者別に記録を整理し、大 衆文化リソース利用状況を調べた。なおここでの大衆文化は、テレビ番組・マンガ等楽し むことを目的とし、マスメディアに発信、または一般向けに発売された文化的所産とする。  次に、学習者が大衆文化を利用した学習をどのように認識していたかを知るために、上 記のジャーナル、ダイアログ・ジャーナルに記載された学習内容や感想と、学習者が学習 契約書に記載した学習目標を参照し、学習とリソース使用との関連、大衆文化を利用した 学習に対する学習者の評価について調べた。学習者がリソースをどのように使ったか、何 のためにそのリソースを使用したのか、その日の学習が何に役立ったのかについて、KJ 法(川喜多 1967)を用いて抽出した内容に近親性があるものにラベルをつけ、グループ化 した。その際、一つの回答に複数の意味内容が含まれると判断した場合は、それぞれを 1

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単位とみなした。  筆者が担当したクラスの履修者に関しては、上記に加え、学習者が書いた学期末報告シ ート、クラスゲストが学習者とのインターアクションの様子や感想を書いたコメントシー トによって、情報を補った。さらに、授業の形成的評価のために筆者が担当クラスに対し て 2003 年度に 2 回行った半構造化インタビュー(1 人 30 分から 1 時間程度、授業外の時 間に実施)の文字化資料から、リソースの利用、リソースと学習目標との関連、自宅等で 1 人で行う学習とチュートリアルとの違いに関する学習者の認識、チュートリアルに対す る評価についての言及を拾い出した。  これら学習者別に整理したデータの内容を、大衆文化のジャンル別に分けてリソース利 用の全体像と学習との関連を探るとともに、チュートリアルの中で様々な支援を受けなが ら学習者がリソースやその利用法に選択権を持ち、自律的に学習を行ったことが、学習者 にとってどんな意味をもっていたのかについて分析した。 3. 2 大衆文化リソース利用の全体像 3. 2. 1 ジャンル  大衆文化リソースを利用した学習者は 63 名で、当該機関での在籍レベルの内訳は、初級 14 名、中級 36 名、上級 15 名であった(1 期目と 2 期目のレベルが異なる学習者が 2 名い るため、合計は 63 以上となる)。学習記録に記述されたリソースは、「歌・マンガ・アニメ・ 映画・ドラマ・テレビバラエティー番組・雑誌・ゲーム・その他」のジャンルに分類した。 「歌」にはミュージックビデオ、カラオケ2も含めた。「雑誌」は趣味やファッション、エ ンターテイメント情報誌に限定し、経済誌やAERA などは含めなかった。また、テレビア ニメが映画化された例があるため、アニメの映画は「アニメ」として分類した。小説に関 しては何を大衆文化として扱うかの基準が明確でないと考え、ジャンルとしては設けなか ったが、マンガを原作とする小説は、絵が多く使用されていることから「その他」に入れた。 表1にジャンル別の具体例および利用学習者数を挙げる。複数のリソースを使用した学 習者がいるため、合計は上記の 63 名を超える。 表1 ジャンル別リソース例 ジャンル 学習者数 具体例 歌(アーティ スト名) 28 名

Gackt / BoA / KinKi Kids / HALCALI / 浜 崎 あ ゆ み / Mr.children / 宇 多 田 ヒ カ ル / 一 青 窈 / コ ブ ク ロ / SMAP / GARNET CROW / 木 村 カ エ ラ / L'Arc ∼ en ∼ Ciel / B'z / EXILE / Do As Infinity /米米クラブ/ゆず/東京事変/ユンナ マンガ 20 名 『ヒカルの碁』『ドラゴンヘッド』『パラダイスキス』『テニスの 王子様』『バガボンド』『ピューと吹く!ジャガー』『山田太郎も のがたり』『花盛りの君たちへ』『Wジュリエット』『さむらいチ ャンプルー』『僕といっしょ』『グリーンヒル3』『きまぐれオレ ンジロード』『ラブひな』『犬神』『NARUTO』『Fake』『北斗の拳』 『Twin Signal』『クレヨンしんちゃん』『火の鳥』『ダーリンは外 国人』

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アニメ 6 名 『テニスの王子様』 ののけ姫』「となりのトトロ」『千と千尋の神隠し』『せんせいのお時間』 『ちびまる子ちゃん』『も 映画 4 名 『あずみ』『恋愛寫眞』『星に願いを。』『七人の侍』 ドラマ 10 名 TBS「ビューティフルライフ」/ TBS「GOOD LUCK!!」/フジ 「東京ラブストーリー」/フジ「アットホーム・ダッド」/フジ 「HERO」/ NHK「ちゅらさん」 テレビバラエ ティー番組3 6 名 フジテレビ「あいのり」/ TBS「ザ・チーター」

雑誌 11 名 ファッション誌『JJ』/ファッション誌『nonno』/超ロックンロールマガジン『Ultra Veat』/ゲーム専門雑誌『ファミ通』/ 旅行情報誌『横浜・鎌倉』 ゲーム 4 名 ファイナルファンタジー その他 1 名 天樹征丸『金田一少年の事件簿 2』  学習者の関心は様々なジャンルにわたっており、また同じジャンル内でも、使用リソー スは多岐にわたる。教師がリソースを決定し授業で扱う方法の限界がうかがえる。「歌」「マ ンガ」において利用者人数が多いのは、学習者の関心の高さに加え、これらが学習者にと って手に入れやすいリソースである、学習者の日本語力にかかわらず利用しやすいことが 理由となっていると考えられる。 3. 2. 2 利用方法および学習との関連性  同じリソースでもその利用方法は学習者によって異なる。そこで、学習者が自分の選ん だリソースとその利用方法が自らの学習にどのように関連すると考えているのかをジャン ル別に紹介する。表2∼ 10 に学習記録の記述から代表的なものを例として挙げ、このデ ータをもとに利用方法・学習との関連性に関して筆者がつけたラベルを右横に示す。利用 方法・学習との関連性の解釈においては、3.1 に述べた複数のデータを参考にした。なお、 学習記録の記述例が複数あるものも同一の学習者についての記録である。 (1)歌  CD 付属の歌詞カード等の視覚情報を利用する場合と聴覚情報のみを使う場合 があった。歌詞を聞く・読む・翻訳する・ローマ字にする・音楽番組を見る・カラオ ケで歌う方法が見られた。それにより、学習者は語彙表現・漢字・文法・聴解・読解 との関連を意識している。また、カラオケをしたいとの希望を出した初級学習者を担 当した教師によれば、学習者は、画面に出てきた仮名と漢字を追うので速く読む練習 になる点、語彙表現を曲とともに覚えられる点、歌うために発音に注意する点におい てカラオケはとてもいい日本語の勉強になると主張したという。文字の読みと発音の 練習との点で、カラオケは単に音楽を聞くのとは異なる学習になることがうかがえる。 その他、学習者は音楽についての知識を得ていた。

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表2 歌の利用例

学習記録の記述例 方法 関連性

translate song to romaji・I learned new vocab and kanji

(歌詞を)ローマ字に する

語彙表現・漢 字

translate song into Eng・I learned many new vocab

and expressions 翻訳する 語彙表現

翻訳・learn new kanji and grammar through a song 翻訳する 漢字・文法 practiced listening (歌詞を)聞く 聴解 There are many kanji that I didn't know so I was able

to learn new kanji and vocab as I translated a song 翻訳する

語彙表現・漢 字 J-POP の歌詞を読んで理解してみます 読む 読解 音楽を聞きながら歌詞の意味を調べてみました (歌詞を)聞く 聴解 カラオケ 歌う・読む 文字の読み・発音 音楽番組をみる・日本はすごくいろんなジャンルが あるんだと思いました 音楽番組を見る 音楽に関する 知識を得る (2)マンガ  読む・翻訳する・自分が母語に翻訳したものを母国で出版されている母語 訳と比較する・母語に訳したセリフを声に出して読み流暢なのかを確認する方法があ った。学習者は漢字・語彙表現の他、スラングや関西弁といったスピーチバリエーシ ョンを知る、内容理解(読解)にいいとの認識を持っている。翻訳家になることを目 指し、翻訳の練習を行った学習者もいる。 表3 マンガの利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 翻訳・漢字と言葉の裏に隠されている意味を知る 翻訳 漢字・内容理 マンガを読みながら知らない単語を覚える 読む 語彙表現 「ラブひな」の翻訳・スラングや関西弁 翻訳 漫画を翻訳した(声出して読んでみた) 母語に訳したセリフ を声に出して読み、 流暢なのかを確認す る 翻訳の練習 自分の訳したものを発売されているものと比べてみ ました 自分の訳を母語訳と比較する 翻訳の練習 漫画をわかるようにする 読む 内容理解

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(3)雑誌  読む・翻訳という方法で利用している。漢字・語彙表現の学習とつなげてい るほか、リソースの内容(車)に関する知識を得た学習者がいた。 表4 雑誌の利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 雑誌「横浜・鎌倉」読み・新しい漢字いっぱいある 読む 漢字 雑誌「横浜・鎌倉」読み・メモを取った。辞典で調 べて、先生に聞いて、意味と読み方がわかった 読む 語彙表現・漢 字

Translate a Japanese car magazine that I like to

read so I know contents 翻訳

内容に関する 知識を得る (4 )ドラマ  見る・内容を説明する・聞くといった方法があった。学習者は聴解・語彙 表現の学習と関連付けている。 表5 ドラマの利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 ドラマ「ちゅらさん」を見ました・字幕がなくただ 会話を聞くのはいい練習ですね 見る・聞く 聴解 ドラマを見ながらわからない単語を書いた 見る 語彙表現 ドラマの内容理解・いっしょに見ていた学生に内容 を説明してあげていた 見る・内容を説明す る 聴解 (5)アニメ  見る・聞く・翻訳する他、聞き取ったものを文字化する・母語で字幕を付 ける・シャドウイングするといった方法が見られた。語彙表現・聴解・文法の力の向 上を意識した学習者がいる他、将来翻訳の仕事をしたいと考え「日本にいる間も練習 してみようかと思って」と、翻訳の練習として学習を行った学習者がいた。また、マ ンガを翻訳する際に情報を補うために、マンガとそれがアニメ化されたもの両方を使 用し、内容に関する知識を得た例があった。 表6 アニメの利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 「となりのトトロ」というアニメーションを見まし た・たくさんの単語を覚えて、ヒヤリングの練習を して、いい勉強になりました 見る・聞く 語彙表現・聴 解 最近は字幕書けるようになりたいから、最初にジブ リとか、そういう話を訳したかった 母語で字幕を付ける 翻訳の練習 聞き取りをすると、もっとこのアニメの内容と言い たいことがもっとわかる。わかります・マンガには 声がないから、そのキャラクターの性格があまりわ からない 聞き取ったものを文 字化する 内容に関する知識を得る

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アニメのせりふを文字化にして、翻訳を始めた 聞き取ったものを文字化する・翻訳 翻訳の練習 翻訳するともっと深くわかる・基本的な文法もたま に忘れる 翻訳 文法 アニメを使ったシャドウイング シャドウイング 翻訳の練習 (6)テレビバラエティー番組  見るという方法があった。学習者は聴解に役立つと考え ている。 表7 テレビバラエティー番組の利用例 学習記録の記述例 方法 関連性

practiced listening. Able to improve listening by

watching Jap.TV 見る 聴解 (7)映画  ドラマやアニメ同様、見る・聞く・母語で字幕を付けるという方法があった。 翻訳に興味があり、日本映画のセリフを聞き取って母語の字幕をつけた学習者は「わ からない単語とか結構あるんですよ。で、それを聞きながら自分も覚えることになる ので、ボキャブラリーのレベルもちょっと高める。」とインタビューで述べているよう に、語彙表現を増やすことにいいと考えている。 表8 映画の利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 パソコンで映画を見ながら訳す・字幕を作る 見る・聞く・字幕を付ける 語彙表現 (8)ゲーム  翻訳する・自分の訳を市販の母語訳と比較するといった方法がとられた。 翻訳の違いについて学んだ学習者は、語彙表現の知識を増やした。 表9 ゲームの利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 ゲームのセリフを訳して、○○語(学習者の母語) と比べながら、同じ言葉でも違う表現を使っている ことを知った 翻訳する・自分の訳 を母語訳と比較する 語彙表現 (9)その他  単語と漢字のカードを作りながら読むという方法があった。語彙表現と漢 字を意識した学習をしていた。 表 10 その他(マンガ原作の小説)の利用例 学習記録の記述例 方法 関連性 単語と漢字のカードを作りながらミステリーを読 む・新しい単語を習いたかったですから、この小説 を読みはじめました・だんだん前の話の漢字を覚え て来ます 読む 語彙表現・漢

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 先行研究(品川 1998、窪田 2002、窪田 2006、西隈 2006 等)では大衆文化を通した日本 の文化・日本人理解について触れられているが、データの中には、マンガを読んで「ユー モアはやはり文化によって違う・・・」と述べたものしかなかった。また「日本の現状が知 りたい」という目標で天声人語の翻訳を始めたが映画翻訳に変えた学習者に、インタビュ ーで目標と映画との関連を尋ねたところ「映画は映画ですよ。それ以上はないです。」と 答えており、映画から日本の現状を知りたいとは考えていない学習者の存在が示された。 3 .2. 3 リソースに対する関心  ここまで特定の知識や技能に役立てている例を挙げてきたが、「日本の雑誌を見ました。 面白かったです。^ - ^」「日本のいろいろな音楽が聞けてよかったです」「This was very enjoyable and I learned a lot」等、リソース自体を楽しんだことが多数述べられている。 また「興味がある部分を勉強すればもっとわかりやすいし、頭にのこってるのだと思いま す」と、自身の興味が学習効果につながると考えていることを示すコメントも見られた。 さらには「この漫画はどんどん興奮している(筆者注:興奮してくる)。」「面白いドラマ ですね。次回をお楽しみにしています。」「The book is really interesting I'd like to buy it before I leave Japan」等、今後もそのリソースを使いたいとの気持ちが表れたコメントも あり、リソースに対する興味が学習の継続に良い影響を与えていることがわかる。 3. 2. 4 利用例のまとめ  チュートリアルでの大衆文化リソースの利用例から以下の3点が明らかとなった。  ①大衆文化に対する関心は多岐にわたっている 学習者がリソースとしたジャンルは広く、同じジャンルの中でも具体的なリソース は多種多様であった。学習者の関心は一人一人異なる。また次々と変わっていく可 能性が高く、教師主導型の授業で教師がリソースを選択しても、学習者の関心を引 くとは限らない可能性を示している。  ②さまざまな学習方法がある 自分に足りないものは何だと考えているか、リソースを目標達成のための手段とし て捉える意識とリソース自体の内容に対する関心とでどちらが強いか、学習スタイ ル等によって学習方法は異なったものとなる。また、例えば読むスピードや、聞き 取れない箇所を何度も繰り返して聞くなど、活動のペースも自分に合った形にして いる。  ③幅広い日本語レベルの学習者が利用している 大衆文化リソースは初級から上級まで、すべてのレベルにおいて利用されている。 日本語のレベルに関らず、大衆文化は身近な存在であり、関心の対象であると言え よう。歌詞の視覚情報を用いる、クラスゲスト等他のリソースの支援を得る、母語 訳で既に内容を知っている、内容を知りたいという関心が強い等、学習方法・人的 リソースによる支援・既知の情報・動機によって、リソースの難易度と学習者の日

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本語力の差が縮められると考えられる。  大衆文化リソースの利用と学習との結びつきに関しては、以下の点が明らかとなった。 ①学習者が焦点を置く能力や知識は、学習者によって異なる 漢字・語彙表現(スラングや方言などのスピーチバリエーションを含む)・文法・聴解・ 読解・翻訳練習と多岐にわたる。  ②同じような知識・技能を身につけるために、さまざまなリソースが利用できる 7つのジャンルで語彙表現のための学習によいと考える学習者がいた。逆に言え ば、語彙表現を学ぶために、7つのジャンルのリソースが利用できることになる。 ③学習との関連性にはさまざまな捉え方がある 歌を例にすると、語彙表現・漢字・文法・聴解・読解等の学習と関連づけており、 同じジャンルのリソースからも多種多様な学びが期待できることがわかる。 ④語彙表現、漢字の学習との関連を意識している学習者が多く見られる さまざまな捉え方の中でも、語彙表現との関連は、7つのジャンル、漢字は4つの ジャンルにおいて述べられていた。これは、語彙表現、漢字は着目されやすい、自 分の問題として認識されやすいことによるのではないかと考えられる。 ⑤日本の文化・日本人理解との関連については強く意識されていない ユーモアの違いについての言及が一つあるのみで、日本の現状を知ることの関連を 否定した F さんの例もあった。チュートリアルで大衆文化をリソースとして利用 した学習者は既に独自に多くの大衆文化に接していること、また日本にいる状況で は日本文化・日本人の理解を大衆文化から学ぼうとは考えていないことがその理由 となっている可能性がある。  これらの学習者による利用例から、何の学習のために、どんなリソースを、どのような 方法で利用するかという点で、大衆文化は様々な可能性を持っていることが実証できた。 また、初級も含め、幅広い日本語レベルの学習者が利用できること、学習者はリソース自 体を楽しんでおり、それが学習に良い影響を与えていることもわかった。利用例にあらわ れた学習者の発想は、教師主導型の授業に大衆文化を取り入れる際や、個別の学習を支援 する際の参考になるであろう。  しかし、大衆文化の中でも、どんなリソースに関心があるのか、どのような能力や知識 を伸ばしたいのか、どんなリソースが何に役立つと考えるのかは、学習者によって異なる。 この多様性に応えつつ大衆文化をリソースとして利用するためには、個別の学習が適して いると言えよう。 3. 3 授業で行った意義  大衆文化が好きな熟達した学習者を知る日本語教師は多くいるであろう。教師主導型で の利用に限界があるならば、教師の監督を離れて独学で、あるいは学習を意識せずに大衆 文化を楽しみながら自然に日本語を身につけるほうがいいのではないか、との疑問も出て こよう。そこでチュートリアルという形態が、学習を行う上でどのような意味を持つのか

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を視点として分析する。 3. 3. 1 分析の対象  大衆文化リソースを利用した学習者のうち、学習の過程およびチュートリアルに対する 意識が 3.1 の資料によって追える以下の学習者8名に関して分析を進める。表 11 に在籍レ ベル・チュートリアル履修期間・使用したリソースのジャンル(大衆文化に関するもののみ) を記す。 表 11 3.3 の分析対象者と使用リソースのジャンル A 欧米系・中級・1期 アニメ B 欧米系・中級・1期 その他 C アジア系・1 期目中級・2期目上級 マンガ・歌・ゲーム・テレビバラエティー番組 D アジア系・上級・2期 ドラマ E アジア系・上級・1期 ドラマ F アジア系・上級・2期 映画 G アジア系・上級・2期 アニメ・マンガ H アジア系・上級・2期 アニメ・マンガ 3. 3. 2 情意面との関係  まず学習者の情意面での評価を挙げる。  F さんは3本目の映画の字幕を終えた日の学習記録に「終り!パチパチ」との言葉に加 え、両手をたたいて拍手している絵を書き加えている。このことから、強い達成感を得た ことがわかる。学期末報告シートでは「わりとたのしかった ^ □ ^」と述べ、チュートリ アルを評価する基準を「自分の満足度!」とし、自分自身の評価を 100%としている。こ の他、学期末報告シートには、「必ず自分の好きな事を勉強するのは楽しいです」(B さん)、 自分のやりたいことを自分の好きな方法でするのは楽しくて、長く続ける」(G さん)、自 分が勉強したいことを自ら勉強して、プレッシャはない。」(E さん)とあり、いずれも学 習者が自分で選択、決定し、実行した学習活動を肯定的に評価している。  学習者が主体的な立場で学習を継続したことにより得た満足感は、今後の学習に対する 自信を高めることにつながるのではないかと考えられる。 3. 3. 3 物的リソースとの組み合わせ  学習者が各種のリソースを利用し、リソースに対する理解を深めることは、学習管理に 役立てられる点で学習者の自律の促進に貢献するとの考えから、チュートリアルでは各種 のリソースが配備されている。個人で入手した毎回使う大衆文化リソース以外に、学習の 過程で調べる、確認する時に使用するリソースが手に届きやすい所にある。  E さんはドラマの聞き取りを行った後、2週続けて『日本語ジャーナル』(アルク)と 慣用句のテキストを使って語彙表現を増やした。その次の週、またドラマに戻った日のク

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ラスゲストのコメントシートには「慣用表現的なもの、俗語的なものを聞かれることが多 かった(耳が痛い・あーだこーだ etc.)」とあり、学期末報告シートでは「ドラマの中出て きた擬態語などがわからないため、本を読んで、勉強して、聞き取れるようになりました」 と書かれていた。表現に関心を持ち続け、複数の物的リソースを利用しながら意識的に学 ぼうとしていたことがわかる。 3. 3. 4 人的リソースの存在  チュートリアルで用意されるリソースには、教師、クラスメート、クラスゲスト、TA(院 生)といった人的リソースもある。  人的リソースに関しては、H さんが中国語母語話者 TA に自分の中国語訳チェックを依 頼していたケースがあるほか、多くの学習者がクラスゲストの存在を評価していた。F さ んは映画の聞き取り時「僕がとれないとこもいっしょに聞きながら。ヘッドフォンで。役 に立ったっていうか。助かったですよね。」とクラスゲストの利用について述べ、チュー トリアルと家での学習活動の違いとして「途中で家で一人では誰に聞くことはできないん じゃないですか。それができるし。」とクラスゲストがいたことの良さを挙げている。E さんも「ドラマのビデオを見て、日本人の友達からもわからないところの説明をもらって いるし、たいへん勉強になりました」と評価した。D さん、E さんとドラマを見ていたク ラスゲストのコメントシートによれば、3人で感想を言い合ったりもしたとある。  クラスゲストと教師の使い分けについてのインタビューのコメントもある。映画に字幕 をつけていた F さんは「日本人のゲストに聞かせて(筆者注:聞いて)もらって、わから なかったら、最後に聞くのは○○先生(担当教師)になるっていう感じですね。で、早口 でとれなかったところとか。古文でわからなかったところとか。先生に聞かせて。」と述べ、 また、アニメの聞き取りを行っていた G さんも「日本人の学生はやはり若いですから、い ろいろな言葉の意味があまりわからないで。○○先生(担当教師)がいろいろな言葉の文 字の通りの意味だけじゃなくて、その奥にある意味も教えてもらって、とても役に立つと 思う。」と、クラスゲストに頼めることと教師に質問すべきことの区別を認識していた。  学習方法に関して教師の存在が影響を与えた例も見られた。まず学習記録上の担当教師 (以下 T)とのやりとり(ダイアログ・ジャーナル)の例を紹介する。H さんは「流暢で 自然な翻訳ができるようになりたい」と考え、1期目はアニメ翻訳に大半を費やした後、 小説に挑戦し「意味がわかっていても自然な中国語にするのってなかなかうまくできませ ん」と教師に感想を述べた。これに対して T は翻訳するもののジャンルによって必要とさ れる能力が異なることを説明し、「無理のない範囲でやってみて自分に合うタイプをさが してみてください」とコメントを返した。2 期目の初め、H さんは「今ちょっと悩んでい るのは、自分が翻訳の仕事に向いているかどうかです。」と将来の方向性に不安を持ち始 めていたが、マンガの翻訳をすることにした。T の提案で、市販の中国語版のマンガとの 比較をしながら翻訳を続けた。後半には「プロのを参考しつつ、でもそれにこだわらずに、 自分らしく訳すのもわるくないと思いました」と、余裕をもって望むようになり、次の週

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には「今日は日本語を見て、そのまま中国語にして声出して読んでみました。セリフなの で声出して読んだほうが流暢なのかどうかすぐわかりました。これも一つの方法として練 習できるんじゃないかと思いました。」と自分で新たな方法を見つけ出した。学期末報告 シートに「ちょっとずつ自分にとってやりやすいやり方や、どの分野の文を翻訳できるか どうか、分かるようになった気がする」と成長を感じさせるコメントを述べており、H さ んが学習の再考を繰り返しながら学習管理を行い、学習開始以前より学習について深く理 解したことが表れている。  また、学習者がクラスメートに影響を与えた例もある。G さんは、別のクラスの教師か らシャドウイングの方法を知り、通訳のための勉強としてアニメを使って実践してみるこ とにした。学期末報告シートには「シャドウイングで、聞いてすぐわかるようになりました」 との記述があり、その効果を実感している。学期末に G さんが他のクラスメートに対して シャドウイングの説明をした際、シャドウイングは他のクラスメートの関心を集めた。私 もやってみたいとの声が複数あがり、他の学習者にも影響を与えていた。また、D さんは、 E さんが見ていたドラマを一緒に見るようになった。その結果、D さんは「うちでもちょ っと VTR とるようになった」「一時停止して何回も見るようになった」「テレビの見方変 わった」と、テレビ番組をリソースとして認識し、利用するようになった。学習者にとっ て大衆文化は身近な存在であり、興味を引くものであることで、大衆文化を利用した学習 は、クラスメートに影響を与えやすいのではないだろうか。 3. 3. 5 学習の継続の後押し  3.3.2 で述べたように、学習者は、大衆文化の中から自分が選んだリソースを用いた学習 を楽しんでいた。しかし、興味があるだけでは学習は継続されにくい。チュートリアルで の学習活動は学習内容により変更の余地はあるが、原則的に活動場所と授業時間が決まっ ており、1期 14 ∼ 15 週と期間の制限がある。このことが学習者の心理にプラスに働くこ とがわかった。  F さん、G さんのコメントからは、場所と時間が決められていることが、活動を実行・ 継続しやすくしていることが明らかとなった。F さんは「人間ってそういうんじゃないで すか。所詮何かの時間が与えられないと、家でゴロゴロしちゃったり、ぶらぶらしちゃっ たり。寝ちゃったりして。なかなか手にするのができないじゃないですか。で、パソコン があっても、パソコンまで行くのがめんどくさくて。で、逆に学校来て、机、椅子に座っ て、こういう姿勢でやると、もっと集中力が。で、そういう時間ですよね。僕にとっては。 集中できる時間。邪魔されずに。めんどくささと戦う時間っていうか」とチュートリアル の時間は家での学習活動よりも集中できると言う。G さんも、もしチュートリアルがなか ったらとの質問に「自分で翻訳しながら勉強するつもりですが、もっと大変になるかもし れない。その時間のなんか、割りが、割り振りがあまり上手じゃないから。これは私の考 えだけど、人には情け(筆者注:情けなさ)という性格がみんなにあると思います。もし、 目標を決めたけど、後ろがだれも、後ろ、背を押す人がないと、ああ、ときどきやりたく

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なくって、今日は休みだから、と思ったけど。やはり、時間を決めて、みんなでいっしょ にチュートリアルをやるのはとても役に立つと思います。」と答えている。  また、A さんのコメントは「みんなは、もちろんしたいことがあるんだけど、たまに 時間はないから、これチュートリアルはそういう時間になってくれるみたい。(中略)自 分の時間のときは、やる気あるんだけど、なに、忘れやすい。他のことがあるから。」と、 学習意欲があっても実行に移せない場合があることを示している。チュートリアルという 場所・時間・期間の枠は、学習時間の確保という側面も持っているのである。チュートリ アルがしたいことをする時間であることは、B さんの例にも表れている。B さんは語彙と 漢字のカードを作成しながらミステリー小説を読んでいたが、4 週目の学習記録に「予定 が変わって漢字の練習しました」と書き記し、漢字の復習のための時間をとるべきだと判 断して計画を変え、今後読むペースを落とす旨を担当教師に伝えてきた。B さんが、小説 を読む、カード作成、カードで復習、のいずれかをチュートリアル以外で行うという選択 をしなかったのは、この活動のためにはチュートリアルの時間を使う、と考えていたから だと推測できる。B さんは最終報告の際、口頭で、ミステリー小説を読み進めることによ って何度も同じ漢字・単語が出てくることが、覚えやすくてよかったと述べている。授業 として学習時間が確保されていることがよかったと言えよう。  期間の制限が学習を強く推し進めたと考えられる例もあった。字幕をつけていた前述の F さん・A さんは、毎週決まった時間にチュートリアルがあることで学習がより進んだと の認識をもっていたが、実際には2人とも家でも活動を行い、上級の F さんは映画3本、 中級の A さんは映画化されたアニメを1本、やり終えた。面白さが活動を推進したこと に加えて、1 期でここまで終えたいという気持ちが働いたのではないかと思われる。学期 という区切りがあることが、学習目標を達成しやすくする場合があると解釈できる。  この4人の学習者とは対照的なのが、C さんの「自分で選んで自由にやる時間だったか ら、その自由な面を利用して怠けたことがありました。」というコメントである。教師主 導型の授業に比べ、制限が緩やかなことが C さんにはマイナスに働いた。しかし別の意見 として、「ゆっくりと、自分のペースに合わせて勉強できる時間でした」という H さんの コメントもあることから、学習者一人一人の活動状況を見て、授業であることを強調する か、またはリラックスした精神状態を大事にするかを教師が判断し、必要に応じて働きか けを行うべきであることがわかる。

4.考察

 3では、学習者が大衆文化をリソースとして利用することを楽しんでいたこと、大衆文 化がリソースとして価値があること、幅広い日本語レベルの学習者が利用できること、し かしリソースとして利用するためには、個別の学習が適していることを述べた。さらに、 個別の学習といっても、全く一人で行う学習ではなく、授業で行ったからこそ得られる利 点があることを示した。  大衆文化に関心を抱く学習者は多い。大衆文化は学習者の関心を利用し、学習に対して

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積極的に取り組む姿勢を引き出す可能性を秘めている。その大衆文化を学習に役立てる方 法として、学習者自身が考え、自律的に進めていく学習である個別対応型授業チュートリ アルの形態は、教師主導型の授業や個人が授業外で行う学習に比べ、次の8点においてま さっていると言えよう。 ①学習者の個別の関心を積極的に取り入れることが学習効果につながる 「興味がある部分を勉強すればもっとわかりやすいし、頭にのこってるのだと思いま す」と学習者に認識されている(3.2.3.)ように、関心があることは学習効果が出やす いと推測できる。 ②学習者の個別の関心を積極的に取り入れることが学習の継続につながる 今後もそのリソースを使いたいとの気持ちが表れた学習者のコメントが見られた。好 き、面白いといった感情がそのリソースに対する関心を強め、そのリソースを使った 学習を継続していく原動力となっている。 ③学習者に選択権・決定権があることで情意フィルターを低くする チュートリアルでは試験の必要はないため、プレッシャーがない、リラックスしてで きると学習者は評価した。学習者にとって不安や緊張が少ないことは、学習によい影 響を与えると考えられる。 ④学習が満足感、達成感を得る 学習者は学期末に満足感、達成感を得た。自分で計画し、進めていった活動の結果と しての満足感、達成感は、その後の学習を続けていく動機づけになると期待できる。 ⑤リソースを複合的に利用することができる 学習者は教師の他、クラスゲスト・TA の支援を受けながら大衆文化リソースを利用し、 また使い分けを行っている。また、ドラマとテキストを併用するなど、必要なときに 身近にリソースがあり、組み合わせて利用できる状況が学習に良い影響を及ぼす。 ⑥他者とのインターアクションにより、リソースに対する認識が変わる チュートリアルでドラマを見ていたクラスメートの影響で、自宅での学習でもテレビ 番組を用いるようになった D さんの例にあるように、他者からの影響が得られる。 ⑦他者とのインターアクションにより、リソースの利用方法が広がる 学習方法に関する教師とのやりとりを経て、マンガの翻訳に母語版と日本語版を併用 するようになった H さんや、G さんの行ったシャドウイングが他の学習者の関心を集 めたように、活動を機関で行ったことが、リソースの利用方法に変化を与える。 ⑧時間・場所・期間の枠が活動を実行・継続しやすくする やる気や興味があっても、学習活動が行われるとは限らない。授業として時間・場所・ 期間がある程度制限され、と同時に確保されているということが、多くの学習者にと ってプラスに働く。但し学習者によっては教師の管理が強いほうがいい場合もあり、 教師は活動の進行状況を観察しながら、教師の働きかけの度合いを調整すべきである。  これは、大衆文化をリソースとして利用しない学習においても当てはまる部分があると 考えられる。しかし、大衆文化をリソースとした学習は、義務感ではなく、おもしろい・

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楽しいといった感情を生かした学習にできる可能性が高い。またリソースに対する感情が 人によって大きく異なり、ある学習者が気に入っている歌を、別の学習者がひどく嫌うこ ともしばしばある。この点で、特に大衆文化をリソースとした学習は、チュートリアルの ような個別対応型授業で行うことで、学習効果をより期待できるのではないだろうか。

5.おわりに

 本稿では自律学習を基盤とした個別対応型授業、チュートリアルの実践結果を報告し、 大衆文化を利用した学習者の経験を記述、分析した。学習者の視点を通して大衆文化をリ ソースとした学習について検討した結果、利用例・学習との関連が明らかとなり、チュー トリアルという形で大衆文化を学習に役立てることの利点がわかった。近年、教師の役割 は単なる教授者だけではないという認識が定着しつつあり、さまざまな実践の形が見られ るようになった今、チュートリアルのような個別対応型授業も選択肢の一つとしてあるべ きなのではないか。  ここでは国内の大学での実践をとりあげたが、海外における日本語教育や、継承日本語、 年少者・定住外国人を対象とした日本語教育などにおいて、学習動機が弱い、学習の継続 が困難である、学習者が多様で一斉授業では対応しきれないといった問題を抱えている場 面は多くあるにちがいない。このような学習者に対する学習支援としても、本稿で得られ た知見は有効ではないかと考える。加えて、実践で学習者が見せてくれた利用例や学習と の関連は、他の教師や学習者にとっても参考になるものであろう。  大衆文化をリソースとした場合、授業として扱う以上、単なる娯楽に終わらないよう、 学習の意識化が肝要である。授業の過程において、学習支援者にはどのような言動が求め られるのかを更に検討していく必要がある。本稿のデータとしたダイアログ・ジャーナル には、3.3.4 で述べた教師からのフィードバックによる学習方法の変化のほかにも、J-POP の歌詞の理解をクラスゲストの協力を得ながら行った学習者に対して、担当教師が「ゲス トだけに頼らず辞書をひいたり自分でも調べていくのもいいですよ」と、学習方法の提案 をした例があった。このような、教師・TA・クラスゲスト・クラスメートなどの学習支 援者のふるまい方が学習活動に与える影響を、個々の事例から丁寧に追い、明らかにする ことを今後の課題としたい。 1 ダイアログ・ジャーナルとは、学習者がジャーナルに記録した内容に対して教師がコメ ントを書き、交換日記のような形をとるものである。 2 チュートリアルでは学習内容によって他の場所での学習も可能で、教師と学習者の相談 の結果、学習者がクラスゲストと学外に行き、後にフィードバックシートを提出するとい った対応もある。 3 バラエティー番組は多数の履修者が教室で見るために録画・使用したものではなく、特定 の個人が自分で楽しむという行為を行ったものである。

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参照

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