技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践 : 小学校図画工作科と中学校技術科との連携に向けて
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. 技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践 ― 小学校図画工作科と中学校技術科との連携に向けて ―. 勝本 敦洋・川崎 康隆*・住谷 淳**・西尾 修一***・ 栗浦 将司****・世良 啓太*****・森山 潤****** 北海道教育大学旭川校 技術科教育研究室 *. 西宮市立鳴尾北小学校. **. 西宮市立段上小学校. ***. 西宮市立甲陵中学校. ****. 西宮市立平木中学校. *****. 兵庫教育大学附属中学校. ******. 兵庫教育大学大学院 技術・情報教育研究室. A Development of Learning Activity for Making over Craft Work to Add Useful Function from Viewpoint of Technology ― Focusing on Connection between Craft and Fine Arts Education in elementary school and Technology Education in Junior high school ―. KATSUMOTO Atsuhiro, KAWASAKI Yasutaka*, SUMITANI Jun**, NISHIO Syuichi***, KURIURA Masashi****, SERA Keita***** and MORIYAMA Jun****** Department of Technology Education, Asahikawa campus, Hokkaido University of Education *. Nishinomiya City Naruokita Elementary School. **. Nishinomiya City Danjyou Elementary School. ***. Nishinomiya City Koryo Junior High School. ****. Nishinomiya City Hiraki Junior High School. *****. Attached Junior High School, Hyogo University of Teacher Education. ******. Department of Technology and Information Education, Hyogo University of Teacher Education. 概 要 本研究の目的は,小学校図画工作科と中学校技術・家庭科技術分野との普及可能な連携を推 進するため,小学校図画工作科における技術的なものづくり学習の題材を開発することである。 具体的には,小学校図画工作科における,既存の造形題材である「かわいい伝言板」の製作に. 157.
(3) 勝本 敦洋・川崎 康隆・住谷 淳・西尾 修一・栗浦 将司・世良 啓太・森山 潤. 対して, 「伝言板スタンドの製作,取り付け」という追加題材を設定し,技術的な視点から実 用性を高める改良を加えることにより,技術的な問題解決の体験を行わせる授業実践を行った。 授業実践前後に,児童のものづくりに対する意識等の変容について調査を実施した。その結果, 本実践を通して,製作物の機能や構造,実用性を重視する意識の向上が見られ,工夫すること の大切さや工具の正しい使い方などに対する関心を高めることができた。このことにより本題 材が,小学校図画工作科から中学校技術・家庭科技術分野へ接続するための技術的なものづく り題材の一つになりうることが示唆された。. 1.はじめに. 科で行われるものづくり学習は,設定された使用 目的・条件のもと,機能的な製作物を構想・設計. 本研究の目的は,小学校図画工作科(以下,図. し,技術的な問題解決をしながら製作を進めると. 画工作科)において中学校技術・家庭科技術分野. ころに特徴がある。このことから,図画工作科は. (以下,技術科)との連携を意識したものづくり. 中学校美術科に接続するという認識が一般的であ. 学習を実践し,図画工作科と技術科を適切に接続. り,ものづくりに対する性質の異なる技術科との. しうる図画工作科における技術的なものづくり学. 連携を進めることは必ずしも容易ではない。. 習の題材を開発することである。. 一方,近年では,小中一貫したものづくりに関. 2008年に告示された現行の学習指導要領解説に. する実践研究や小学校における技術教育の題材開. おいて,図画工作科と技術科との関連性が示され. 発,提案といった研究報告が見られるようになっ. 1)2). 。中学校学習指導要領解説技術・家庭編に. ている。例えば,東京都大田区や新潟県三条市な. は,指導計画の作成においては,「A材料と加工. どでは,積極的なものづくり学習の小中連携を. に関する技術」は小学校図画工作科などの学習を. 図っている実践研究を行っている3)4)5)。しかし,. 踏まえ,第1学年の最初に履修させることや,題. これらの実践研究は研究開発指定や教育特区と. 材については,小学校における図画工作科等の関. いった制度を用い行われたもので,実践内容には. 連する教科の指導内容との関連を図り,教科のね. 十分な説得力があるものの,一般的な公立学校で. らいを十分達成できるよう基礎的・基本的な内容. の導入は難しいことが考えられる。小学校におけ. を押さえたものにすることと示されている。小学. る技術教育の提案としては,例えば,山田・松永. 校学習指導要領解説図画工作編においては,指導. らが紙製歩行模型を用いた小学校設計学習に関す. 計画の作成と内容の取扱いとして, 「工作に表す. る研究を行っている。その結果,児童にはものづ. 内容」については,図画工作科が技術科と関連す. くりを計画的に行う姿勢が見られ,授業に対して. る教科であることに配慮する必要があると示され. 高い関心と意欲を示したことを報告している6)。. ている。これらの記述からは,両教科が,小中学. しかし,この授業実践は特別活動の位置づけで行. 校を通して,ものづくり学習としての連携を進め. われており,図画工作科の題材としての実践では. ていくことの重要性が指摘できる。. ない。このように技術科との連携を担保しつつ,. しかし,図画工作科と技術科で行われているも. 広く小学校の現場で普及できる実践モデルを開発. のづくり学習の内容には根本的な差異が見られ. した先行研究は管見の限り見当たらない現状であ. る。 図画工作科で行われているものづくり学習は,. る。. 主に造形活動を主としている。造形活動は児童が. 小学校現場で図画工作科を担当する教員の意識. 表現したいことをもとに,材料に働きかけ,形や. について,谷田・森山らは,小学校の教員は学習. 色を工夫していく活動が中心となる。一方,技術. 指導要領に示されている図画工作科の目標・内容. た. 158.
(4) 技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践. に基づいて技術科教員との連携を進めることには. わいい伝言板」の製作に着目した。「かわいい伝. 肯定的であるが,技術科との関連性を図画工作科. 言板」は,「かわいい」の名の通り,児童が思い. の授業内容に反映させることには消極的であるこ. 思いに自分の感性でかわいらしさを表現すること. 7). とを明らかにしている 。. ができる。この要素は,図画工作科の工作に表す. 以上のように,学習指導要領に図画工作科と技. 活動の主要なポイントである。一方,「伝言板」. 術科の関連性が示されているにもかかわらず,両. という名の通り,この題材には家族などとの間で. 者間の連携が進んでいないという原因には,両者. メッセージを伝え合うという伝言板の実用的な機. 間の共通理解がなされておらず,図画工作科に技. 能を有している。また,材料として木材を使用し. 術科との連携を意識したものづくりの題材が存在. ていること,糸鋸盤をはじめとした工作機械,工. しないところに問題があるともいえる。また,小. 具を使用する機会が含まれている。このことは,. 学校に技術的なものづくりを提案する先行研究は. 前述した技術科との連携に必要な5つの要件のう. 多く見られるが,図画工作科の担当教員が単独で. ち,要件1~3を満たしやすい要素がある。これ. 技術科との連携を意識し,その後,継続して実践. らの理由から,「かわいい伝言板」を元にする題. できるようなものづくり題材が開発されていない. 材として設定した。しかし,「かわいい伝言板」. と考えられる。. のままでは,前述した要件4,5が満たせない。. このことについて筆者らは,図画工作科と技術. そこで本研究では,「伝言板スタンドの製作,取. 科の連携という観点のもと,技術的な問題解決を. り付け」という追加題材を設定し,技術的な視点. 含むものづくり学習を図画工作科で展開するため. から実用性を高める改良を加える題材を開発し. には次の5つの要件が必要であることを指摘し. た。この題材を用い,技術的な問題解決を含むも. 8). た 。. のづくり学習の授業実践を行い,児童のものづく. 要件1:用途のある作品の製作. りに対する意識等の変容について事前・事後調査. 要件2:使用者(ユーザー)を意識したものづくり. を実施し,その効果の検証を行った。. 要件3:道具や材料に対する見方・考え方の育成 要件4:技術的な工夫・創造と問題解決 要件5:社会における技術的な事物,事象との関 連づけ. 2.実践のデザイン 2-1 題材の設定. 本研究では,上記5つの要件も可能な限り含め. 造形題材「かわいい伝言板」(以下,伝言板). つつ,下記2点の条件のもと,広く小学校の現場. は従来,児童が自由な発想の下,本体の合板を糸. で普及可能な技術的なものづくり学習の実践モデ. のこ盤により形を切り抜き,絵の具で描画・着色. ルの構築とその試行的実践を試みることとした。. し,装飾を施した後,ホワイトボード用の金属板. ①図画工作科担当教員が単独でも実践可能な題材. を張り付けるものである。使用方法は本体上部2. を検討すること。. カ所に空けた穴に紐を結び,壁のフック等に吊る. ②図画工作科に技術科の題材を前倒しで持ち込む. す,いわゆる壁掛け式である。壁掛け使用時の児. のではなく,図画工作科の学習としても意義づ. 童の作品を図1に示す。この題材に使用目的に応. けられる題材を検討すること。. じてテーブル等の上に立てられるよう伝言板本体. 本研究では,以上の要件・条件を満たすために. の裏面に取り付けるオプション部品である折り畳. 図画工作科で既に展開されている既存のものづく. み式伝言板スタンドの製作・取り付けを追加題材. り題材に着目し,開発を試みた。図画工作科にお. として設定した。. ける既存のものづくり題材には,様々なものが実 践されているが,本研究では,その一つである「か. 159.
(5) 勝本 敦洋・川崎 康隆・住谷 淳・西尾 修一・栗浦 将司・世良 啓太・森山 潤. 図1 壁掛け時の伝言板(児童作品). この追加題材には,木材や金属,接着剤の選択. 図2 スタンド使用時の裏面の構造. 等,主要な材料体験とそれに対応する適切な道具 体験を取り入れた。授業展開の中では,順を追っ て,機能面を追加しながら問題解決を進めていく 工夫(設計)の模擬体験を含めた。さらに,工夫 の模擬体験をもとに社会の中のものづくりにおい て行われている設計の工夫に触れるようにした。 これによって本題材は,前述した要件1~3に加 えて, 要件4, 5を含められるようにした。また, この題材は指導時間数も短く設定でき,技術的な ものづくり学習の指導経験の少ない図画工作科担 当教員にも無理なく導入できる小中接続のための. 図3 スタンド折り畳み時の裏面の構造. 題材に適当であると考えた。 スタンドは壁掛け時に折り畳み収納できるよ. 時と同じ厚みのスペーサーを取り付けた。このよ. う,伝言板裏面に蝶番を木ねじで取り付ける構造. うな仕様のスタンド部であるが,授業の中では,. とした。既製のねじは長さが最短のものでも伝言. 当初から上記の仕様を児童には伝えず,一つ一つ. 板本体の厚みよりオーバーするため,伝言板本体. の問題を見つけさせつつ,発問・応答を通して解. 裏面にもう一枚合板を貼り,ねじの貫通を防ぐよ. 決方法を考えさせるようにした。その上で,多様. うにした。スタンド使用時の裏面の構造を図2に,. に存在する解決方法の一つの事例として,上記の. スタンド折り畳み時の裏面の構造を図3に示す。. 仕様を段階的に紹介するようにした。これによっ. 図2,3に示すとおり,スタンド使用時は,輪ゴ. て,工夫・創造することへの意識を高める展開に. ムによりスタンドを引っ張らせ,自然にスタンド. 留意した。 具体的なポイントは, 以下の通りである。. が閉まらないようにした。逆にスタンド収納時 (折. ①材料体験. り畳み時)はスタンドが伝言板本体裏面にしっか. スタンドを構成する部品(合板,蝶番,ねじ,. りと張り付くように磁石により固定する構造とし. 磁石,金属板,接着剤)の選択方法や加工,取り. た。磁石の反対側(相手側)は薄い亜鉛鉄板を張. 付け。. り付ける構造にした。また,スタンド部が伝言板. ②道具体験. 裏面より突出しているため,壁掛け使用時に不安. 各部品の加工・取り付けを行う際の道具の選択. 定な状態 (伝言板裏面上部が壁に密着しない状態). および正しい使用方法。. になるため,伝言板裏面上部左右にスタンド収納. 160.
(6) 技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践. ③工夫(設計)の体験. 子16名)計33名を対象に実施した。該当教科は図. オプション部品設計の際の使用条件・制約条件. 画工作科である。実践の結果,データの分析に供. の検討と対策,機能性追求のための工夫。. した有効回答率は97.0%であった。. (発問1)伝言板を吊るすだけでなく,他の便利 な使用方法はないか? (発問2)伝言板を自立させるには,どんな構造 が必要でどんな部品が必要か? (発問3①)スタンドを安定させるにはどのよう にすればよいか? (発問3②)スタンドを使用しない時(収納する 時)必要な手立てはないか?. 2-4 事前・事後調査項目 調査項目として,ものづくりに対する意識,自 分で作りたいもののイメージなど,事前調査11項 目,事後調査11項目の質問を設定した。事前調査 11項目は,以下の通りである。「1.自分で考え て何かものをつくることは,好きですか?」, 「2. 自分で考えて何かものをつくることは,得意です か?」,「3.自分で考えて何かものをつくるとし. 2-2 題材の展開計画. たら,どのようなものがいいですか?」 (下位項. 本題材の展開(概略)を以下に示す。. 目:①形や色などを自分の思い通りにつくるも. . の。②機能(はたらき)や構造(しくみ)などが. ⑴伝言板の役割と完成までの見通し(1h). 本格的で,完成度の高いもの。③作ったものが自. ⑵伝言板のデザイン,製作. 分の生活に直接,役立てられるもの。④作ったも. ①デザイン(2h). のが自分以外の他の人の生活に直接,役立てられ. ②本体の加工(2h). るもの。⑤作ることで,身の回りにある技術や製. ③着色(2h). 品のしくみがわかるようになるもの。 ),「4.何. ④スタンドの製作(4h)…本実践. かものをつくる時は,つくるものの機能(はたら. ⑶作品の交流(1h). き)や構造(しくみ)などを考えることは大切だ. . と思いますか?」,「5.何かものをつくる時は,. 授業の展開は次の通りである。授業は実践校の. ていねいに正確につくることが大切だと思います. 図画工作科の4単位時間(1単位時間40分,第1. か?」, 「6.何かものをつくる時は,材料や道具,. 週2単位時間,第2週2単位時間)で行った。. 加工方法(つくり方)についての知識や技能を身. -第1時-. につけることは大切だと思いますか?」,「7.何. 伝言板に対する機能性の追加,スタンド設計上. かものをつくる時は,ねばり強く,失敗してもあ. の工夫と製作について。. きらめない心が大切だと思いますか?」。事後調. -第2時-. 査11項目は,項目3~7を事前調査と同じ質問を. スタンドの製作(部品の加工及び取り付けに伴. 設定した上で,「1.今日の授業は楽しかったで. う,材料・道具の正しい選択と使用)。. すか?」,「2.今日の授業は,自分の生活の役に. -第3時-. 立つと思いましたか?」を追加したものとした。. スタンド収納時の機能性に対する対策 (ゴムと磁. これらの項目に対して, 「4.とても」, 「3.少し」,. 石・金属板による工夫と各部品の加工と取り付け) 。. 「2.あまり」,「1.まったく」の4件法で回答. -第4時-. させた。実際に用いた事前調査用質問紙を図4,. 身の回りの製品に施されている工夫について。. 事後調査用質問紙を図5に示す。また,事後調査 用質問紙の裏面には,「今日の授業の感想を自由. 2-3 実践の対象. に書いてください。」という自由記述形式で授業. 実践はH県内公立小学校6年生(男子17名,女. の感想を記入させた。. 161.
(7) 勝本 敦洋・川崎 康隆・住谷 淳・西尾 修一・栗浦 将司・世良 啓太・森山 潤. と回答し,ものづくりに対する肯定的な意識を 持っていることが示された。また,「自分で考え て何かものをつくることは,得意ですか?」の質 問に対し,全体の54.5%の児童が「4.とても」 又は「3.少し」と回答し,約半数以上の児童が ものづくりに対して得意意識を持っていることが 示された。また,本実践対象の児童は小学校第3 学年より木工具等を用いたものづくりを体験して いる。その体験内容を表1に示す。 表1 ものづくりに関する既有経験の状況 学年. 題材. 主な使用材料. 主な使用工具. 3年 トントンサクサ 板材,釘 ク木の名人. のこぎり,金づ ち,くぎ抜き. 4年 コリントゲーム 板材,釘. 金づち,くぎ抜き. 5年 お面. 図4 質問紙(事前調査) 6年 木工パズル 板から何が. 板材,ちょう 電動糸のこぎり, ばん,ネジ. ドライバー,キリ. 板材. 電動糸のこぎり. 板材,釘. 電動糸のこぎり, のこぎり,金づち. 12年後のわたし 針金,紙粘土 ペンチ,金づち. 3-2 授業の様子 上記のような実態を持つ児童を対象に授業実践 を行った。この段階で児童は,伝言板本体の製作 は終えた状態である。 導入では,製作した伝言板を振り返って,家族 に伝言するときに吊るすだけではなく,他の便利 な使用法はないか考えさせた(発問1)。その結果, 児童からは,次のような意見が出た。 ①ひもでかけるのではなく磁石で張り付ける。 ②壁に立てかける。 など そこで,指導者より, 「今回壁に立てかけるので 図5 質問紙(事後調査). はなく,伝言板が自立できるような部品を取り付 けてはどうか。 」と提案し,テーブルの上などに置. 3.実践の結果と考察. くこともできれば便利になり,機能を増やすこと で製品の活用をより充実させることをイメージさ. 3-1 実践前の児童の実態. せた。次に裏面の構造を考えさせた(発問2) 。児. 事前調査の結果, 「自分で考えて何かものをつ. 童からは「つっかえ棒のような部品」という意見. くることは,好きですか?」の質問に対し,全体. が出た。この段階で,こちらで準備した伝言板裏. の93.9%の児童が「4.とても」又は「3.少し」. 面 (スタンドのみ取り付けた状態) の構造を示した。. 162.
(8) 技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践. こうしてスタンドを取り付けるという課題が設定. 次に,スタンドの取り付けが終わった段階で,. され,製作,取り付け作業に入った。合板の貼り. 現状の自分の伝言板の使い勝手を試させ,話し合. 付けでは木工用接着剤を用いることを伝えた。スタ. いをさせた(発問3①②)。児童からは次のよう. ンド本体の製作においては材料取りのノウハウ(け. な意見(問題点)が出た。. がき・クランプによる材料の固定とのこぎりびき). ①立てかける際に,スタンドがぐらぐらするため,. を一つひとつ段階を追って指導しながら,丁寧に作 業を進めさせた。クランプの使用法においては,ね じの回転方向(通常のねじは右ねじ)についても. 倒れやすい。 ②スタンドが固定されていないため,移動時にそ れ自体が邪魔になり扱いにくい。. 触れた。スタンドへの蝶番の取り付け及びこれらの. ②スタンドを取り付けるだけでは,伝言板を自立. 伝言板本体への木ねじによる取り付けにあたって. させて使用する場合に,文字を書く時に安定し. は, 下穴あけのための四ツ目錐の使用方法を指導し,. ない。. ねじ締めにあたっては,ねじのサイズとドライバー. など. のサイズの選択の重要さについての話題にも触れ. これらの意見交流により,児童らは現状の伝言. つつ指導を進めた。児童らは正しい工具の使用法. 板の問題点に気づき,新たな機能性を高める工夫. を一つひとつ確認しながら,丁寧に作業を進めて. (スタンドの収納方法)を考えた。児童からは,. いた。また,クランプ等の初めて使用する補助的な. 「スタンドが勝手に動かないような仕組みが必. 工具や,今まで使用経験はあったが正しい使用法. 要。」という意見が出たが,具体的な構造までは. を知らなかった工具をきちんと使用し,それにより. 思いつかない様子であった。. 得られる製作品の高い完成度に感動を覚える様子. この意見交流の後,今回は輪ゴムと磁石によっ. が見られた。児童の作業風景を図6,7に示す。. てスタンドの固定と収納をすること,壁掛け使用 時に不安定な状態を解消するためのスペーサーを 取り付けることを知らせた。以上のように,今回 準備したスタンドの収納方法にゴムと磁石を使う というアイディアは児童からは出てこなかった が,このアイディアを示したときは児童からは驚 きと納得の声が上がった。 次に,スタンドの固定と収納用の輪ゴムと磁石 の取り付け作業に入った。輪ゴムは伝言板本体裏 面とスタンドの端にそれぞれタッピングビスによ. 図6 児童の作業風景(のこぎりびき). り掛けさせた。磁石は伝言板本体裏面に,亜鉛鉄 板はスタンド側にそれぞれ接着剤により取り付け させた。ここで用いる接着剤は,金属と木材の接 着のため,合成ゴム系の接着剤を使うことを確認 させた。 完成後,本時に製作した収納式スタンドのよう な工夫された身の回りの製品を考え,発表させた。 児童からは「折り畳み椅子」や「アルミ製はしご」 などの意見が出た。最後に,指導者が,本題材を 開発する上で,輪ゴムと磁石のアイディアにたど. 図7 児童の作業風景(スタンドの取り付け). り着くまでの工夫や試行錯誤の様子を伝え,身の. 163.
(9) 勝本 敦洋・川崎 康隆・住谷 淳・西尾 修一・栗浦 将司・世良 啓太・森山 潤. 回りの製品は,今回の収納式スタンドの製作工程. ものづくりに対する意識に関する質問4項目につ. のように,解決したいニーズに対しての機能を試. いて事前・事後調査間の変容を検討した(表2)。. 行錯誤を繰り返し行いながら工夫し,具体的な形. その結果,ものづくりに対する意識は授業前の段. にしていくプロセスを経て開発されていることを. 階から極めて高く,その水準は実践後も維持され. 知らせ,授業を終えた。児童らは世の中の製品の. ていた。. 開発プロセスと今回の授業との関連についてイ. さらに,質問項目「自分で考えて何かものをつ. メージし,これら一連のプロセスについて納得し. くるとしたら,どのようなものがいいですか?」. ている様子が見られた。完成した児童の作品例を. の自分で作りたいもののイメージ5項目について. 図8,9に示す。. 事前・事後調査間の変容を検討した(表3) 。そ の結果,質問項目「機能(はたらき)や構造(し くみ)などが本格的で,完成度の高いもの。」, 「作っ たものが自分の生活に直接,役立てられるもの。」 の2項目で有意な伸びが見られた。これらのこと から,本実践を通して,機能や構造,実用性を重 視したものづくりに対する意識が向上したのでは ないかと考えられる。 実践後の自由記述からは,「欠点があれば改善. 図8 児童の作品例(表面). していくように工夫を繰り返すことを学んだ。」, 「少しアイディアを加えるだけでもっと便利にな ることを知った。」,「消費者目線でものを作ると 問題点が見つかり,それを直すと使いやすくなる ことが分かった。」等の工夫・創造への共感を示 す記載が60.6%見られた。また,「工夫したもの を作りたい。」,「この学習で,家のものを便利に していきたいと思った。」などの工夫・創造への 意欲も見られた。その他,「のこぎりの正しい使 い方を学んで以前よりうまくいった。」,「ねじし めが楽しかったし,その方法がわかってよかっ. 図9 児童の作品例(裏面). た。」,「いろいろな道具の使い方を知ることが出 来た。」などの記載が33.3%見られた。これらの. 3-3 実践による児童の意識の変容. 感想からは,本実践を通して,ものづくりにおけ. 実践後に実施した事後調査の結果, 「今日の授. る工夫の大切さや今まであまり意識してこなかっ. 業は楽しかったですか?」,及び「今日の授業は,. た工具の正しい使用法についての意識付けができ. 自分の生活の役に立つと思いましたか?」の質問. たのではないかと考えられる。. に対し,いずれも100.0%の児童が「4.とても」 又は「3.少し」と回答し,本実践に対して極め て肯定的な意識を形成していたことが示された。. 4.まとめと今後の課題. 次に, 質問項目「自分で何かものをつくる時は,. 以上,本研究では,図画工作科の既存の造形題. つくるものの機能(はたらき)や構造(しくみ). 材である「かわいい伝言板」の製作に対して, 「道. などを考えることは大切だと思いますか?」等の. 具」, 「材料」, 「工夫」の要素を盛り込んだオプショ. 164.
(10) 技術的な視点から造形作品に改良を加える題材の開発と実践. ン部品としての「伝言板スタンドの製作,取り付. 夫することの大切さや工具の正しい使い方などに. け」という追加題材を開発し,試行的実践を行っ. 対する関心を高めることができた。このことによ. た。その結果,本実践を通して,製作物の機能や. り本題材が,図画工作科から技術科へ接続するた. 構造,実用性を重視する意識の向上が見られ,工. めのものづくり題材になりうることが示唆された。. 表2 ものづくりに対する意識 項 目. 事前. 事後. 差. 対応のあるt検定. 4.何かものをつくる時は,つくるものの機能(はたらき)や構 造(しくみ)などを考えることは大切だと思いますか?. 平均 S.D.. 3.67 0.60. 3.58 0.75. 0.09. t(32)=0.65. 5.何かものをつくる時は,ていねいに正確につくることが大切 だと思いますか?. 平均 S.D.. 3.73 0.52. 3.76 0.61. 0.03. t(32)=0.27. 6.何かものをつくる時は,材料や道具,加工方法(つくり方)に ついての知識や技能を身につけることは大切だと思いますか?. 平均 S.D.. 3.33 0.74. 3.36 0.65. 0.03. t(32)=0.25. 7.何かものをつくる時は,ねばり強く,失敗してもあきらめな い心が大切だと思いますか?. 平均 S.D.. 3.85 0.36. 3.64 0.70. 0.21. t(32)=1.88. 事前. 事後. 差. 対応のあるt検定. 表3 自分で作りたいもののイメージ 項 目 ①形や色などを自分の思い通りにつくるもの。. 平均 S.D.. 3.48 0.80. 3.52 0.67. 0.03. t(32)=0.24. ②機能(はたらき)や構造(しくみ)などが本格的で,完成度の 高いもの。. 平均 S.D.. 3.09 0.91. 3.42 0.79. 0.33. t(32)=2.97**. ③作ったものが自分の生活に直接,役立てられるもの。. 平均 S.D.. 3.33 0.89. 3.67 0.65. 0.33. t(32)=2.24*. ④作ったものが自分以外の他の人の生活に直接, 役立てられるもの。. 平均 S.D.. 3.06 0.79. 3.36 0.90. 0.30. t(32)=1.77. ⑤作ることで,身の回りにある技術や製品のしくみがわかるよう になるもの。. 平均 S.D.. 2.85 0.97. 3.06 0.93. 0.21. t(32)=1.10. **. p<0.01 *p<0.05. 今後は,本実践の効果に対する追試と共に,本. 技術部会)の一環として実施致しました。ここに. 題材が広く小学校で実現可能な授業モデルとなる. 記して,関係各位に深謝致します。. よう,検討・改良を加える必要があろう。また, その他の既存の造形題材についても同様に,技術. 参考文献. 的な観点から改良・工夫が加えられるような追加 題材を開発し,実践の普及に向けたバリエーショ ンを増やしていくことが必要と考えられる。これ らについては,いずれも今後の課題とする。. 1)文部科学省:小学校学習指導要領解説図画工作編, 日本文教出版,p.78(2008) 2)文部科学省:中学校学習指導要領解説技術・家庭編, 教育図書,p.21,pp.73-74(2008) 3)東京都大田区矢口小学校・安方中学校・蒲田中学. 謝 辞 本研究は,西宮市教育委員会の教科研究委員会 による教育課程の小中連携推進の取り組み(図工,. 校:小中一貫したTechnology Education 教育課程の開 発,文部科学省研究開発学校(平成16~18年度) ,第2 次研究紀要(2005) 4)東京都大田区矢口小学校・安方中学校・蒲田中学. 165.
(11) 勝本 敦洋・川崎 康隆・住谷 淳・西尾 修一・栗浦 将司・世良 啓太・森山 潤. 校:小中一貫したTechnology Education 教育課程の開 発,文部科学省研究開発学校(平成16~18年度),最終 年次研究紀要(2006) 5)森山潤:新潟県三条市における「ものづくり学習の 時間」公開授業報告,日本産業技術教育学会誌,第51巻, 第1号,pp.69-72(2009) 6)山田哲也・松永康弘:紙製歩行模型を用いた小学校 設計学習に関する研究,教科開発学論集,第3号, pp.131-138(2015) 7)谷田親彦・森山潤:小学校教員のものづくり学習に 対する目標と指導の意識,日本産業技術教育学会誌, 第53巻,第2号,pp.81-89(2011) 8)兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科共同研究 プロジェクト(P)研究グループ:イノベーション力育 成を図る中学校技術科の授業デザイン,ジアース教育 新社,pp.58-62(2016). (勝本 敦洋 旭川校准教授) (川崎 康隆 西宮市立鳴尾北小学校教諭) (住谷 淳 西宮市立段上小学校教諭) (西尾 修一 西宮市立甲陵中学校教諭) (栗浦 将司 西宮市立平木中学校教諭) (世良 啓太 兵庫教育大学附属中学校講師) (森山 潤 兵庫教育大学大学院教授) . 166.
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