主体的に課題追求をする生徒の育成
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第51号(令和元年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.51(2019):73-78. 主体的に課題追求をする生徒の育成 赤 本 純 基 北海道教育大学附属釧路中学校. Development of students who pursue issues independently AKAMOTO Junki Kushiro Junior High School Attached to the Hokkaido University of Education. 要旨 本研究・実践は,日常の問題解決の授業において,導入で教師が提示する問題に「比較」を仕組むことで,生徒が課 題を追求する意欲を高めた実践をまとめたものである。今回は,問題の工夫に焦点を当てる。 第1章で研究の概要,第2章で理論実践,第3章で実践,第4章で検証と考察,第5章でまとめと展望を示す。. 1.研究の概要. 〈目的〉 主体的に課題をとらえ,よりよい解き方を追求し続 ける生徒の育成. (1)研究対象となる生徒(現在18歳102名〔調査時中学 校第1学年〕 )の実態 研究対象となる生徒の標準学力検査,本校数学科で毎年 実施しているアンケートの結果は次の通りである。それぞ れの数値は一見高いように見える。しかし,授業で問題提. 導入の教師が提示する問題において ① 予想が分かれるような「比較」を仕組む ② 意図的に誤答などとの「比較」を仕組む. 示後は一生懸命取り組むが,問題が解けると手を止めてし まい指示を待つような生徒も見られる。この点が改善され れば,思考をより深めていこうとする生徒の姿が期待でき. (3)研究の方法. る。. 標準学力検査(CRT) ・数学的な見方や考え方で「A」の出現率の生徒が50% 強である。 ・評定で「5」の出現率の生徒が20%強である。 アンケート ・「数学の勉強はおもしろい」と答えた生徒の割合が68% である。 ・「問題が解けても別の解き方を考える」と答えた生徒の 割合は76%である。. ・先行研究 ・先行研究を踏まえた試行 ・検証方法. ⅰ)目標効果の検証方法 ・標準学力検査(CRT)の経年比較 ・プロトコル ⅱ)動因効果の検証方法 ・『学習意識調査』の経年比較 ・インタビュー. (2)研究の目的 このような生徒の実態を改善するためには主体的に課題 をとらえ,よりよい解き方を追求し続ける生徒を育成する 必要があると考えた。生徒が主体的に課題をとらえるため には2通り以上の考えを比較させることが効果的であると 考える。そこで,導入の問題に「比較」の場面を位置付け た授業の在り方について研究していくことを目的とした。. - 73 -.
(3) 赤 本 純 基 2.理論実践 (1)先行研究 主体的に課題追求をする生徒の育成を目指すためには, どのような実践を積み重ねていけばよいのか。このことに ついて,相馬(1997)は「数学科『問題解決の授業』 」で. 問題 下の図のように△ABCをかき,辺AB,辺ACの中点 をD,Eとし,DとEを結ぶ。次に,DEとBCの間に点P をとり,辺PB,辺PCの中点をQ,Rとして結ぶ。 このとき,DEとQRはどちらが長いだろうか。. 教師が提示する問題の条件について次のように述べてい る。 ・生徒の学習意欲を引き出すことのできる問題 ・問題の解決過程で新たな指導内容(知識や技能,見方 や考え方)を身につけさせることのできる問題 また,早勢(2014)は手立てとして次の6つの「比較」 の場面を取り入れることを提案している。 ・導入で教師が提示する問題に「比較」を仕組む ・意図的に誤答などとの「比較」を仕組む ・個人思考で「困っていること」を生かし「比較」させる ・別な考えや表現を提示し「比較」させる ・ 「問い返し」の発問で「比較」させ考えることを促す ・ 「比較」を際だたせる確認問題を位置づける (2)先行研究を踏まえた試行. 教師が黒板に図をかいた後, 「DEとQRはどちらの方. これらの先行研究を踏まえて,主体的に課題追求をする. が長いだろうか?」と問いかけた。予想させると,半数の. 生徒の育成を目指すためには導入の問題を工夫する必要が. 生徒が見た目でDEを選んだ。その後,実測して確かめさ. あると考えた。実践では次の2点を導入の問題に位置付け. せると生徒から「どうして等しくなるんだろう?」という. 試行授業を行った。. 声があがった。そこで, 「いつでも等しいか確かめるため. 導入の教師が提示する問題において ① 予想が分かれるような「比較」を仕組む ② 意図的に誤答などとの「比較」を仕組む. にはどうしたらよいのかな?」と問い, 「証明だ!」とい う声を拾い,DE=QRとなることを証明することを課題 として設定した。. ① 予想が分かれるような「比較」を仕組む . 生徒は証明する必要性を感じていたので,その後の学習. まず①については,導入の問題の答えを生徒の予想が分. でも課題を自分事としてとらえ意欲的に追求していた。. かれるような選択肢にすることで,生徒は「自分と違う予. そのときの授業の黒板の様子が次のものである。. 想をしたのはどうしてだろう?」 「本当はどうなんだろう? 確かめてみたい!」と自分の立場を明らかにして考え,そ の後の課題追求に必要感が生まれ,主体的な姿になるので はないかと考える。 例えば,次のような問題である。本問題は,目の錯覚に より2つの線分の長さが目視では異なるので予想が分かれ るが,実測すると等しくなり,実測したことがいつでも成 り立つのかを証明する必要感が生まれる問題である。. ② 意図的に誤答などとの「比較」を仕組む 次に②については,導入の問題の答えを既習の誤った適 用による反応で示し,その正誤判断を問う形で問題を提示 する。生徒は「どうして自分と違う判断をしたのだろう?」 「本当に正しいのか(もしくは間違っているのか)確かめ てみたい!」と自分の立場を明らかにして考え,その後の 課題追求に必要感が生まれ,主体的な姿になるのではない. - 74 -.
(4) 主体的に課題追求をする生徒の育成 かと考える。. 問題提示を行い予想させると, 「⑱番の方が度数が大き. 例えば,次のような問題である。本問題は,2つの奇数. いから⑱番だ」 「いや,合計台数が違いそうだから⑰番か. の和は偶数であることの説明を1つの例だけでいつでも成. もしれないぞ」という声があがり予想が⑰番4割,⑱番6. り立つと説明してしまうという誤答を位置付け比較させる. 割に分かれた。 「自分とは違う選択肢を選んだ理由を知り. 問題である。. たい」 「本当はどうか確かめたい」という意欲の高まりが. 問題 「2つの奇数の和は偶数であることを説明せよ。」と いう問題に太郎さんは次のように答えた。 (太郎さん) 7と9は奇数である。 7+9=16 16は偶数だから,2つの奇数の和は偶数と なる。. 見られたのと同時に,何を示せばよいのか(使えばよいの か)という課題が明確になった。その後の解決過程では, 問題解決を通して相対度数のよさに気付く姿もみられた。 以下はその時の生徒のノートである。. 太郎さんの考えは正しいだろうか。 問題提示後,予想させると「正しい」 「正しくない」の 2つに分かれた。「どうして正しくないと考えるのか」問 うと「1つの例ではいつでも正しいとはいい切れない」と 答えたので,「じゃあ,全ての例を書いてみようよ」と問 うと,「全部書くなんて無理だから,文字を使えばよいの ではないか」という声があがり,文字を使って説明するこ とを課題として設定した。生徒は文字を使って説明する必 要性を感じていたので,その後の学習でも生徒が課題を必 死に追求していく姿が見られた。 3.実践 ① 導入で教師が提示する問題において予想が分かれる ような「比較」を仕組む [実践例1] 1年 7章 相対度数 本問題は,「30分未満の度数をみると⑱番のバスの方 が大きいので30分かからずに『釧路駅』に着く可能性が 高いのは⑱番であるのではないか」 「全体の度数との割合 を考えると⑰番ではないか」と予想が分かれるように仕組 んだ問題である。 問題. 上の表は,⑰,⑱番バスの1週間の「白樺台入り口」 から「釧路駅」までの所要時間を度数分布表にまとめ たものである。 太郎さんが「白樺台入り口」でバスを待っていたと ころ,⑰番と⑱ 番のバスが同時にきた。 どちらのバスに乗れば30分かからずに「釧路駅」 に着く可能性が高いだろうか。. - 75 -.
(5) 赤 本 純 基 教師の活動. 生徒の活動. 予想をさせる. 自分の立場を 明らかにする. 理由を考えさ せる 他の考えと比 較する. 発表を通し て,全体でど ちらが妥当な のか確認する. 正しいか確認 の方法を知る. [実践例2] 2年 1章 式の値 本問題は,式だけみて判断すると2乗が含まれている式 や加法が含まれる式の値が大きくなりそうだと予想が分か れるような問題である。 問題 x=2,y=−3のとき,㋐∼㋒の式の値は,ど れが一番大きいだろうか。 ㋐ 2x+2y ㋑ x2−y2 ㋒ (2x−y)−(x−2y). ② 導入で教師が提示する問題において意図的に誤答な どとの「比較」を仕組む. この問題は「『問題解決の授業』に生きる『問題』集」. [実践例3] 2年 2章 連立方程式 . を参考にしたものであるが,もともとは下のような問題で. 本問題は,生徒の誤答の傾向(生徒が陥りやすい「つま. あった。. ずき」 )をとらえ,問題そのものに正誤の「比較」を仕組. 問題 x=2,y=−3のとき,㋐∼㋒の式の値は,ど れが一番大きいだろうか。 ㋐ x2−y2 ㋑ 2xy ㋒(2x−y)−(x−2y). んだものである。①や②のような方程式では係数を整数の 式にするために①や②の式の両辺に数をかける際に右辺に かけ忘れることが多く見られることを取り入れたものであ る。 問題. 太郎さんは,連立方程式 x y 2・・・①. 選択肢の 「2xy」 を 「2x+2y」 に変えた理由として, 他の学級で指導した際に「2xy」と予想する生徒がいな. 0.6x+0.7y=2・・・②. かったためである。積の形より,加法が含まれる式の形の. を次のように解こうとしています。 ①’ 2x-3y=2 ②’ 6x+7y=2 太郎さんの解き方は正しいだろうか。. 方が予想で選択する生徒が表れるのではないかと考えたの である。授業では,問題提示の後に答えを予想させた。自 分の立場を明らかにしたことにより自分事としてとらえ, その後の活動において意欲的に問題解決に臨む姿が見られ た。特に,導入の問題で予想が分かれたことにより,「式. 授業では問題で正誤の判断を求めたため,自分の立場が. の値を求めて確かめたい」という声が生徒からあがり,そ. 明らかになった。 「正しいか,正しくないか」という視点. れを課題として授業を進めることができた。次はその時の. が明確になり,それぞれの立場の主張を比較し,生徒が根. 生徒のノートである。. 拠を示しながら説明し合う活動がみられた。 問題そのものに正誤の「比較」を仕組むことは,生徒が 陥りやすい「つまずき」を意図的に取り扱うことができる. - 76 -.
(6) 主体的に課題追求をする生徒の育成 だけでなく,生徒が自分の立場を明確にしたことで課題を 自分事としてとらえるきっかけとなる。 次はその時の生徒のノートである。. [実践例4] 1年 4章 比例と反比例. 8 のグラフをかく際の生徒の誤答の傾 本問題は, y=x -. 4.検証と考察 (1) 目標効果の検証. 向(生徒が陥りやすい「つまずき」 )は点と点を直線で結. 標準学力検査(CRT)の経年比較から,次のような変化. んでしまうことや双曲線としてかかないことが多いととら. がみられた。. え, 問題そのものに正誤の「比較」を仕組んだ問題である。 問題 太郎さんは,下の表をもとに 8 y=- x のグラフをかいた。 x 1 2 4 8 y 8 4 2 1 正しいだろうか?. ・「数学的な見方や考え方」で「A」の出現率の生徒数 の割合が50%強から70%弱に変化した。 ・評定で「5」の出現率の生徒数の割合が20%強から 40%強に変化した。 授業中の様子を見ても,問題が解けても粘り強く「より. ・・・ ・・・. よい方法はないか」と他の解き方を探す生徒が増えたとい える。 (2) 動因効果の検証 次の図のように「数学の勉強はおもしろい」と思ってい. 問題提示をしたところ, ほとんどの生徒は 「正しくない」. る生徒の割合は68%から81%に, 「問題が解けても別の解. を選択したが,その理由を「もう少し考えさせてほしい」. き方を考える」生徒の割合は76%から86%に上昇した。. との声が挙がり,それを課題に設定し,個人思考へと進. これは,導入の問題に比較を仕組むことで,考える「必要. んだ。自分たちの声から生み出された課題であったため,. 感」が生まれたことや, 「よりよい考え方はないだろうか」. 課題を自分事としてとらえ反比例のグラフはどのようにか. と考えるきっかけをつくることができたことが要因である. けばよいのか追求する姿が見られた。次はその時の生徒の. と考える。. ノートである。. - 77 -.
(7) 赤 本 純 基 また,生徒の授業後の感想には以下のようなものがあっ. 【引用・参考文献】. た。. ・早勢 裕明,「複式学級における算数科の授業改善につ いて(1)−『比較』の場面を取り入れることを通し. 2 年 1 章 式の値. て−」,2014 ・相馬 一彦, 「数学科『問題解決の授業』 」 ,明治図書, 1997 ・文部科学省,「中学校学習指導要領解説 数学編」 ,2008 ・北海道教育大学附属釧路中学校,「研究紀要」 ,2011 ∼. 2 年 2 章 いろいろな連立方程式. 2014 ・相馬 一彦,「『考えることが楽しい』算数・数学の授業 づくり」,大日本図書,2013 ・相馬 一彦,「『問題解決の授業』に生きる『問題』集」, 明治図書,2000 ・相馬 一彦,「新『問題解決の授業』に生きる『問題』集」, 明治図書,2009. 1 年 4 章 反比例のグラフ. ・古藤 怜, 「コミュニケーションで創る新しい算数学習: 多様な考えの生かし方まとめ方」,東洋館出版社, 1998 ・根本 博, 「数学的活動と反省的経験:中学校数学科」, 東洋館出版社,1999. 感想では「文字式を簡単にしてから代入する方法もある. ・相馬 一彦,「中学校数学Q&A:授業づくりのスキルアッ. ことがわかって感動した」 「加減法と代入法を使い分けて, より簡単に正確に計算していきたい」など,意欲が高まっ たという内容の記述が多かった。 授業中の生徒の様子を見ていると,以前は問題が提示さ れると一生懸命取り組むが,問題が解けると手を止めてし まい指示を待つような生徒が多くいたが,今では「もっと よい方法はないか」と数学に夢中になる生徒が増えたと実 感している。このような変化からも,本実践は主体的に課 題追求をする生徒の育成する手立てとして効果があるとい える。 5.まとめと展望 「主体的に課題追求をする生徒の育成」のために,教師 が提示する導入の問題において 「予想が分かれるような『比 較』を仕組む」と「意図的に誤答などとの『比較』を仕組 む」 場面を取り入れた授業を実践してきた。 本実践により, 「数学的な見方や考え方」の観点などの目標効果と「数学 の勉強はおもしろい」 「問題が解けても別の解き方をする」 の動因効果に顕著な変化がみられた。 今後は, 導入場面に加え, 展開場面での効果的な「比較」 の位置付け方についても探っていきたい。拙い実践ではあ りますが,諸先生の忌憚のない御指導,御指摘をいただけ れば幸いに思います。. - 78 -. プ」,大日本図書, 2012.
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