1.は じ め に
歴史学者はアーティファクト,文書記録およびその他, 過去に関する証拠の取捨選択に慣れている一方,ほとんど の人々は専門家による直接解説を通じて歴史を学ぶ.印 刷物,音声記録および映画などのマスメディアは,歴史 談話の幅広い普及を可能にするが,歴史資料とのつなが りを実現する最も説得力のある手段は多くの場合,専門 家との,さらには当該の出来事を体験した誰かとの,直 接の双方向型対面会話である.この「形式張らない」設 定は,学習者がある特定のトピックを理解できない場合, またはもっと深く掘り下げたい場合,ユーザを誘導し, 質問をしてもらううえで役に立つ.さらに,専門家が学 習者の知識や関心の水準を判別し,証言の長さや焦点を 適切な水準に合わせることも可能となる.双方向型の歴 史談話は,歴史の授業,史跡ツアー,そして歴史博物館 において一般的に用いられる説明手段であると同時に, 高齢者との形式張らない(カジュアルな)会話の一部で もある.出来事を体験した誰かと直接対話をし,一人称 の証言を得るという機会は非常に強力なものである.し かし,誰もが物理的に歴史上の場所へ移動することがで きるわけでなく,また重要な歴史上の出来事の直接の証 人と会話することができる人々はごくわずかである. 本稿では,これまで「非双方向型」の資料によっての み実現できたような内容の深さで,一人称で語られる歴 史とのインタラクションを再現するための対話システム 技術について説明する.2 章では,使用される技術およ びその適用先について紹介する.3 章では,史跡訪問に 関連する双方向型対話における本技術の適用について述 べる(この場合,現場のシミュレーション).4 章では, 歴史上の人物との(オーサリングされた)シミュレーショ ンによるインタラクションについて,従来研究を簡単に レビューする.5 章では,重要な歴史上の出来事の重要 証人,特にホロコースト生存者に関する直接的な記録と の会話を可能するというプロジェクトの概要を提示す る.6 章では結論として,歴史の保存と教育のための対 話システム技術の将来の活用に向けた展望を述べる.2.形式張らない教育のための会話技術
過去半世紀にわたる AI の主な成功の一つは,会話シ ステムでの成功である.機械と話すという発想は,かつ てはサイエンスフィクションの世界の話であったが,今 や,さまざまなトピックについて,双方向型の音声対話 を可能にするシステムが多数存在する.コールセンター におけるシステムは 24 時間体制で,低コストで情報を 提供することができる.携帯電話上のアシスタントや車 載アシスタントは,口頭で命令を与えられると,単純な 作業を遂行することができる.また,社会支援型ロボッ トを含め,長期間にわたる介護や話し相手となることを 狙いとする,より社会的な対話に参加するシステムも存 在する.さまざまな対話システムやそれらの構築に向け たその他のアプローチの例については [Jokinen 09] を参 照のこと. 教育に使用されるシステムも非常に多く存在する.一 部のシステムは,会話技能の練習(例:新しい言語の学 習,あるいはインタビューへの参加方法の学習)を可能 にする.ほかにも教師または家庭教師の役割を果たすシ ステムがあり,ユーザが対象となる教材について適正な 認知モデルを形成するうえで役立っている.さらに,ユー ザが仲間と協力して建設的な問題解決に取り組むことを 可能にするシステムも存在する. 公式カリキュラムに組み込まれていない形式張らない双方向型歴史学習の支援のための
対話システム技術の活用
Using Dialogue System Technology to Support Interactive History
Learning
トラウム デービッド
南カリフォルニア大学David Traum USC Institute for Creative Technologies.
訳:人工知能学会編集委員会
Keywords:
AI and history, dialogue system, new dimensions in testimony. 「人工知能と歴史」─歴史を語り継ぐ─教育において,システムが成功するためには,さらに満 たすべき要件がある.形式張らない教育では,学習者は 「囚われの聴衆」ではなく,活動に飽きた場合,あるい は不満が募った場合は立ち去ることができる.この場合, 重要となり得るのは,ユーザに何らかの制御,つまり, 単に固定されたナラティブまたはトップダウン型の対話 だけでなく,ユーザが望む場合に,例えば質問を行うこ とにより,インタラクションを誘導または方向転換する 機能を提供することである. NPCEditor [Leuski 11]は,科学博物館内の展示ホー ル用ガイドを含め,さまざまな形式張らない教育システ ムの創出に活用されてきた [Swartout 10].このシステ ムは,言語横断検索アプローチによる発話分類と,ラベ ル付き学習データの作成または取込みを可能にするオー サリング環境とを統合したものである.分類アルゴリズ ムは発話のテキストを単語に分割し,質問と回答向けに 別々の言語モデルを計算し,そして質問を回答言語モデ ルに置き換える方法を学習する.このシステムは質問に 含まれる一連の単語列に基づき,回答に含まれる各単語 が観測される尤度を計算し,そしてこのモデルを使って 回答をランク付けする.このアプローチは,質問と回答 双方の内容を活用するアプローチであり,また不完全な 音声認識に対する頑健性がかなり高いと認められている. オーサリング環境は開発者が一連の状態をつくり出す ことを可能にし,個々の状態を,利用可能な応答と学習 データのサブセットに関連付けることができる.対話管理 は,NPCEditor 内で情報状態とスクリプト記述言語を使 用して行うか,あるいは別の構成要素として行うことが でき(例:[Gandhe 11]),後者の場合,NPCEditor は単 に自然言語を理解する構成要素として使用される [Leuski 08].このシステムは,以降の章で概説するとおり, 形式張らない歴史学習対話の実現にも使用されている.
3.仮想ツアーガイド
非常に人気の高い歴史学習方法の一つは,歴史上の出 来事の現場を訪ねることである.これにより,しばしば, 実際に起こった出来事について,より具体的に意識する ことが可能となる.特に軍隊の戦闘のような出来事がそ うであるが,そうした状況では地形や景観が出来事の展 開の経緯に重要な役割を果たし得る.多数の史跡がガイ ド付きツアーを提供し,そうしたツアーでは専門家が, その場所の周囲を歩いて回りながらさまざまな出来事の 説明を通じてグループを案内し,出来事を説明するだけ でなく,訪問者からの質問に答える,あるいは訪問者の 理解を深め得る課題を与えることもできる. この種のツアーは軍事教育を背景に「スタッフライド (一種の社会見学)」として拡張され,定式化されている. [Robertson 14]ではスタッフライドを,「選択された作 戦に関して体系的に予習し,その作戦に関連する実際の 現場に足を延ばし,そしてそれぞれから導き出された教 訓を一体化する機会」として特徴付けている.したがっ て,スタッフライドには訪問前学習,訪問本番,そして 訪問後の議論が含まれる. あらゆる重要史跡を訪問する機会を誰もが得るわけで はないが,本技術を生かして,この体験を可能な限り多 く,「仮想」訪問者に伝えることができる.「セカンドラ イフ」など仮想環境は,歴史上の場所の視覚的特徴の再 現に使用することができ,また仮想ガイド付きツアーの 基礎となり得る.そうした環境の中で我々は,スタッフ ライドガイドの役割を果たし,スタッフライドにおける 三つのパートを実行することができる,仮想人間ツアー ガイドを生み出した. 最初のパートは仮想教室での,訪問場所に関するブ リーフィングで構成される.図 1 ではブリーフィングの 1コマを示しており,この場合,交通規制検問所を説明 しているが,コミュニケーションを誤ると,民間人の死 傷者が出る事態につながる.この図ではガイドが事故を 説明し,そして学習者(例:「Dusan Jan」(手前に本人 のアバターが示されている))に質問しているが,これ らの質問はツアーと事後レビューパートに焦点を当てる うえで役立ち得る. ブリーフィング後,ガイドは学習者を仮想世界ツアー 本番へと誘導し,さまざまな場所からの視点があること に目を向けさせる.図 2 ではツアーの 1 コマを示してい る.学習者は質問を行うことができ,一方でガイドも学 習者に試問する.学習者は教室全体へ公開で回答するか, あるいはガイドへ直接,個人的に回答することができる. ガイドは完全に自動化されており,中心となる授業計画 用スクリプトに従うだけでなく,[Jan 09] のデザインに 従ってユーザの振舞いにも反応する. 図 1 訪問前ブリーフィング スタッフライド ガイド dusan.jan こ の エ リ ア を 見 て, このルート周辺で特 に危険という印象を 受けるものが何かあ りますか? スタッフライド ガイド光客情報の提供はもとより,Strindberg からの引用や Strindbergに関する情報も提供することができた.
1990年代後半,Marinelli and Stevens が「合成イン タビュー」を考案した.このシステムにおいて,ユーザ は歴史上の人物とインタラクションすることができた. 歴史上の人物として役者が演じた記録が利用され,ユー ザからの質問に答える形であった [Marinelli 98].「Ben Franklinの亡霊(Ben Franklin’s Ghost)」は前述の発 想をもとに構築されたシステムで,2005 ~ 07 年にか けてフィラデルフィアで利用された [Sloss 05].「Ben Franklinの亡霊」システムではメニューの選択または タイプ入力を使用したが,[Marinelli 98] では応答を選 択するためのキーワードスポッティングによる音声認識 の使用について報告している.これらのシステムは歴史 上の人物を演じる役者に似ている.これらのシステムで は解説を執筆するライターと,視覚的表現を生み出す役 者またはアーティストが関わった.このアプローチは歴 史上の人物と話すのに似た感覚を生み出し得る一方,歴 史体験というよりむしろ,劇の性質を帯びている.同種 の体験は,実在していない架空の人物についても生み出 すことができる.そうなると,信憑性の問題や,本当に その体験が,ライター,役者や製作者ではなく,その人 物の特徴を反映するものであるか否かについての疑問が 生じる. もう一つのアプローチは,実在の人物の一次的「オー ラルヒストリー」記録を使用して,双方向型体験を生み 出すというアプローチである.実在の人物の記録とのイ ンタラクションを可能にした初期のシステムは,1990 年代前半にニクソン大統領図書館に設置された「大統領 に質問(Ask the President)」というシステムであった [Chabot 90].このシステムでは,訪問者が役者または 合成キャラクタのパフォーマンスを見るのではなくむし ろ選択された質問に対するニクソン大統領の実際の回答 を聞くことができた.残念ながら,このシステムは音声 言語技術ではなく従来型のメニュー選択アプローチを用 いたことから,完全な音声対話体験を生み出すものでは なかった. 我々が知る限り,実在の人物に関して作成された記録 との会話によるインタラクションを初めて可能にしたシ ステムは,[Artstein 14] のシステムであった.このシス テムは内容がごく少量ながら,聴衆にとって興味深いも のとなり得ることを示した.しかし,実際のユーザやそ の質問に対しても適切に機能するかどうか─このような 機能は,対面インタラクションにおいて人間が行うよう なエンゲージメントに必要であるが─は明らかでなかっ た.このシステムは,次章で記述する「新次元の証言」 プロジェクト向けのproof of concept(コンセプトの証明) であった. 最後のパートは「事後レビュー」である.これは,グルー プとのチュートリアル対話で構成されるが,個別の副次 的会話を,各学習者の知識とギャップに応じてつくり上 げることも可能である.学習者ごとに異なる教育戦略が, ツアー過程で構築された各自の知識のモデルに基づいて 使用される.このように,言語技術は,生身のツアーガ イドが単独で帯同する場合よりも,個人に合わせた指導 ができる見込みが高くなるという点で,実際のグループ ツアーを凌駕する潜在性を秘めている.事後レビューの パートに関する詳細は [Roque 11] を参照のこと.
4.歴史上の人物との会話
歴史上の出来事が起こった場所の見学が歴史学習に有 益となり得るのと同様に,さまざまな出来事に関わった 誰かと向かい合って話すことも同等に強力な,あるいは もっと強力な手段となり得る.声の調子を聞き取り,顔 の表情を読み取り,個人的回想に耳を傾けることは,歴 史上の出来事が人間に与える影響に関するより強力な見 識を提供し得る.残念ながら,これを完全な形で実現で きるのは関係者の存命中に限った話である.技術の助け を借りなくても,この体験を再現する試みは,役者にあ る有名人を演劇や教育体験で演じてもらうことによって なされており,多くの場合,記録された言葉を使って体 験を再現している. 技術は仮想世界における場所の表現だけでなく,歴 史上の人物との会話体験の創出にも活用できる.歴史上 の人物との音声コミュニケーションを初めて可能にした システムは,August システムであった [Gustafson 99]. これはスウェーデンの著名な脚本家兼作家,August Strindbergの名にちなんでつくり出された 3D の「語 り手」であった.August はストックホルムに関する観 図 2 仮想現場訪問 スタッフライド ガイド dusan.jan いまあなたが見ているのはルート・アイリッシュ沿 いの西側,国際空港方面です.ここは VIP 車列が 向かった場所です.5.「新次元の証言」
現在,直接の個人的体験として語ることのできる領域 から,もっと遠い歴史へと移行しつつある一つの歴史分 野は,「人類史上最悪の対立」と呼ばれてきた第二次世 界大戦を取り巻く出来事である [Sommerville 08].この 複数年にわたり続いた対立は,世界中の多数の国々から 1億人以上の人々を巻き込んだ.直接の軍事行動に加え, 民間人に対しても多数の残虐行為が行われ,「二度と繰り 返してはならない」という希望を込めた叫びにつながっ た.Santayana の「過去を記憶にとどめることのでき ない人々は過去を繰り返す運命にある」[Santayana 20] という記述は有名で,これらの出来事はもうすぐ,人間 の直接の記憶の通り道を過ぎ去ってしまうことになる. 一つの典型例として,欧州で暮らしていたユダヤ人に 対してナチス・ドイツが行った,「ホロコースト」,ある いはヘブライ語で「ショア(Shoah)」として知られる大 虐殺の企てがあげられる.20 世紀後半から 21 世紀初頭 にかけて,この体験を生き延びた人々からの直接証言は, これらの出来事を次世代に教えるための最も強力な方法 の一つとされ,同じような出来事が将来発生する事態の 防止に向けた期待が込められている.ショア財団は,ホ ロコーストや他の大虐殺にまつわるエピソードに関する オーラルヒストリー記録の収集と,これらの物語の保存 を目的に創設された.しかし,これらの物語が当人と直 接,インタラクションを行って学習者が質問を行うこと ができる状況から,オーラルヒストリー記録へと移って いくにつれ,インタラクションの即時性が部分的に失わ れ,人間との直接的なつながりも失われてしまうだろう.南 カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 Institute for Creative Technologies(ICT)はショア財団および Conscience Display社 と 提 携 し て,「 新 次 元 の 証 言 」(New Dimensions in Testimony:NDT)プロジェクトを立ち 上げた.このプロジェクトでは,人々が生存者の物語と の口頭での対面インタラクションを継続することが可能 であり,保存された資料を双方向的な形で提示する技術 を活用している.このプロジェクトの背後にある仮説は, 学習者が生存者からの直接証言や質疑応答で得る体験の 大部分を,以下の手段を使用して保存することができる というものである. ● 訪問者からの質問の大部分に対する回答を引き出 す,構造化インタビュープロセス ● 高品質の記録プロセス ● 没入型ディスプレイによる記録表示 ● 文脈上関連のある記録を引き出す誘引となる,直接 的な音声対話インタラクション プロジェクト全体の詳細は [Traum 15b] に記載されて いる.本章では以下に,このシステムの対話処理面で直 面する課題の一部を概説する. 2章と 3 章に記載するようなプロジェクトから,説得力 のある人物との会話によるインタラクションが [Leuski 11]に記載のような技術の活用により機能し得ることが わかる一方,このプロジェクトの開始時点では未知で あった課題が以下のとおり,いくつか浮上してきた. 1.本技術は役者や話の内容をつくるライターではな く,経験談を話してくれる実在の(80 歳代)の人々 においても機能するか? 2. 1 回または少ない回数のインタビュー記録で十分 な内容をカバーするために何を記録すればよいかに ついて,我々は知ることができるか? 3.音声認識,自然言語理解および対話管理機能は, 良好なユーザ体験を推進する役割を十分に果たし得 るか? 一つ目の課題は,小規模な「proof of concept」シス テムの構築によって対処された.この中で,Pinchas Gutter(図 3)という,長年にわたり博物館,教室,そ して公開フォーラムの場で自身の体験談を語ってきたホ ロコースト生存者とのインタビュー記録資料の作成を 行った.このシステムは [Artstein 14] に記載されており, これにより熟練のユーザは双方向型会話を実演すること 図 3 NDT システムで表現された Pinchas Gutter
の情報源からさまざまな質問が集められ,それらに適正 な回答がアノテーションされた.初期バージョンの自動 化システムを使用しての反復作業でも,性能水準に直接 関係する追加データがもたらされた.自動化システムは 現在,人間のウィザードほど正確ではないが,人間より 処理が速く,また自然発生的な双方向型会話への参加体 験は全体的に,聴衆にとってかなり説得力がある. このシステムは南カリフォルニア大学(ショア財団と ICTの双方)と,イリノイ州立ホロコースト博物館・教 育センターにも設置され,1 年間にわたり使用されてい る.米国ホロコースト博物館でも 3 か月間にわたり試験 が行われた.博物館訪問者を教室に集めてこのシステム を使用した例が,図 4 に示されている.博物館職員は 訪問者に対するこのシステムの効果について報告してお り,生存者から体験談を直接聞いた場合にかなり近い効 果があるとのことである*1.初期試験ではこれを,訪問 者の比較調査でも裏付けた.図 5 では,米国ホロコース ト博物館を訪れた訪問者とのインタラクションからの対 話の抜粋を例示している. Gutter氏を起用したシステムの後,ほかに 11 名のホ ロコースト生存者が記録された.これらの人々を起用し たシステムは現在開発中であり,2017 年に展示開始予定 である.特にホロコーストに関連するものに限らず,他の 重要な出来事の体験者を記録する計画も進行中である.
6.結 論
前述のとおり,AI 技術,具体的には会話システムは, 歴史知識の普及に大いに貢献し得るものであり,人々や 場所との直接関与と多くの人々への普及というダブルの 強みを,これらの場所や歴史上の出来事に関わった人々 との体験を直接行うことができない人々に提供すること ができる.今後の課題はこれらの技術や他の技術を生か しつつ,単に歴史上の出来事を見聞きするだけでなく, それらに「参加する」こと(これは,現時点ではまだ時 間旅行や「ホロデッキ」* 2のようなサイエンスフィクショ ンの世界の話であるが)を実現することである. 謝 辞 まず,3 章と 5 章にそれぞれ記載の VIGOR プロジェ クトと「新次元の証言」プロジェクトに関わった多数の 個人および研究機関パートナーに感謝申し上げたい.「新 次元の証言」のプロトタイプは,民間の財団や個人から の寛大な寄付によってつくり上げることができた.ご 支援いただいた,ピアーズ財団,Louis F. Smith,なら ができた.質問方法の柔軟性,質問の順序,あるいはユー ザが質問する際の言い回しは幅広く用意されていたが, 不慣れなユーザがシステムをちょっと試してみようとし たとき,自分の質問がカバーされることを期待できるほ ど十分に材料が用意されていたわけではなかった. 二つ目の課題は潜在的にもっと手強かった.訪問者は, 以前に尋ねられたことのない質問,あるいは Gutter 氏 またはシステムが考えつかないような質問も含め,文字 どおり何でも尋ねることができるため,要求され得る資 料のセットは潜在的に無限といえる.これは「AI 完全」 な問題かもしれない.なぜなら,正しく答えることは, チューリングテストに合格することや,Gutter 氏が取 ると想定される形と正確に同じ形でどのような質問にも 回答するシステムをつくり出す必要があることを意味す るからである.一方,実際には多数の人々が似たような 質問を行い,それらの質問はたいてい,議論の対象となっ ている出来事や考えに関するものである.同様に,人間 (特に政治家)は会話の中で,実際に誰かが尋ねたこと ではなく,むしろ自分の頭の中にある質問を取り上げる ことがある.したがって,限られた量の材料があれば, 適切な「対象外トピック」または「ドメイン外」方針と 組み合わせることで,対処できるかもしれない.この疑 問に対するアプローチは [Artstein 15] で取り上げられて おり,複数のフォーカスグループや人間(ウィザードと 呼ぶ)が背後でシステムの行動を統制する「Wizard of Oz」実験のほか,マルチパートからなるインタビュープ ロセスによって,重大なギャップの大部分を埋めること ができた.この Wizard of Oz システムでは,[Artstein 14]からの proof of concept システムのように,単にデモ に利用可能な材料が十分にあったことだけでなく,人々 が実際に,記録された材料との説得力のある双方向型体 験を行い,自然発生的な独自の質問を尋ねることができ ることも例証した. 三つ目の課題も再び,AI 完全な能力との比較を必要 とする.つまり,自動化されたシステムは人間の「ウィ ザード」の振舞いを忠実に再現し,それと同質の体験 を提供することができるか,という疑問を提起するも のである.この体験を創出および検証するプロセスは [Traum 15a]に記載されている.教師あり機械学習の手 法が使用され,その際,Wizard of Oz システムおよび他 図 4 イリノイ州立ホロコースト博物館・教育センターの訪問者 が NDT システムとインタラクションする様子 *1 例として以下のサイトに掲載されているイリノイ州立博物館 職員から Gutter 氏に宛てられた書簡を参照のこと.https:// sfi.usc.edu/blog/doris-lazarus/meeting-pinchas *2 https://en.wikipedia.org/wiki/Holodeckびに匿名の 2 名の資金提供者に,最大限感謝する.ロ サンゼルス市立ホロコースト博物館,トレランス博物 館,サンタモニカのニューローズスクール,イリノイ州 立ホロコースト博物館・教育センターには,データ収集 と試験のために施設を提供いただき,感謝申し上げる. Pinchas Gutter氏には体験談の共有と,ホロコーストに ついて世界を教育するための不断の努力に対し,我々は 特別に感謝しなければならない. 本研究は一部,米国陸軍から支援を受けた.表明され た言明や意見は必ずしも米国政府の立場または政策を反 映するわけではなく,また公式に是認されたものである と推察されるべきではない.
◇ 参 考 文 献 ◇
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The art of creating a ‘dyad’ between humans and machine-based characters, Proc. MULTIMEDIA’98, pp. 11-16(1998) 図 5 米国ホロコースト博物館訪問者と Pinchas Gutter システムとの対話の例 訪問者:子供の頃の話を聞かせてください. Pinchas:私は戦前,ポーランドのウッチで生まれ,開戦当時 8 歳でした.最初の 8 年間は非常に敬虔なユダヤ教ハシド派の家庭で 暮らし,双子の姉(または妹)がいました.父はワイン醸造業者で,私達は普通の生活を送っていました. 訪問者:強制収容所での生活はいかがでしたか. Pinchas:収容所に友人が一人いましたが,それが気楽であったかどうかは問題でなく,なぜなら私達は収容所で 12 時間働かされた うえ,食料をほとんど与えられず,可能な範囲でどうにかやりくりしようと努め,そしてあらゆる害虫,病気,迫害,そして拷問 から逃れようと必死でしたが,実際にそうする時間がほとんどなく,しかし回りの人々がある収容所で私を助けてくれました.私 にはヤコブという非常に親しい友人がいました.そのことについてお話ししたいと思います. 訪問者:食料はどうやって手に入れたのですか. Pinchas:良い質問です.私達は飢餓療法を施される形で食べていましたが,スカルジスコ・カミエンナのような労働収容所での状 況を説明しますと,私達はそこで 12 時間働き,朝の起床時にはコーヒーと称する飲み物を支給されましたが,それはドングリや 木の葉を煎じたコーヒーで,ほとんどお湯で甘くさえなく,単なる茶色い汚れたお湯でしたが,栄養を取るにはそれを飲まざるを 得ず,その後,昼食時間が 30 分間与えられ,厨房から担当者が巨大な樽のような大きな容器を運んできて,中にはスープのよう なものが入っていて,運が良ければ給仕担当のユダヤ人警察官が中央または地下へ行って,腐ったジャガイモや腐った肉を手に入 れることができたのですが,食料のくずだらけでしたから,適切に食料を与えられるわけでもなく,またある種の栄養,ある種の 本物の食料を与えられることもありましたが,給仕係に嫌われると,あるいは彼の機嫌が悪かったりすると,スープの上部をすくっ たお湯のようなものしか与えてもらえませんでした. 訪問者:シャワーを浴びることはできたのですか. Pinchas:水が流れる場所があって,そこで沐浴して簡単に洗う程度しかできず,なるべく素早く顔を洗い,可能な限り体を清潔に しなければなりませんでしたが,スカルジスコの収容所で労働から戻ったときは,十分に勤勉に働いて,十分な水を見つけること ができたら,特にトイレに行った後は体を洗うことができましたが,体を拭く紙のような物が全くありませんでしたから,なるべ く清潔な状態を保つよう努め,それが生存にも役立ったのです. 訪問者:あなたがいらした収容所は何か所でしたか. Pinchas:実際,5 か所の強制収容所に送られました. 訪問者:病気に罹ったり,働けなくなったことはありましたか. Pinchas:はい.腸チフスに罹りました.腸チフスは非常に毒性の強い病気で,一般的にシラミや汚れを介して接触によって伝染し, 非常に具合が悪くなり,また回復する可能性もあまり高くなく,一種の疫病ですから,1 日で高熱に襲われ,熱が非常に高くなる と翌日かその日のうちに死んでしまう危機が生じるか,あるいは容体が悪化し始めますが,それを乗り越えても,唯一の問題は, 収容所には発熱に対処するための手段が全くなく,できたことといえば,私が身を隠していないときには,冷たい水を飲み,体を 冷やすよう努めることくらいしかありませんでしたが,熱が非常におそろしく,接触伝染性疾患ですから,他の人々との接触や, 他の人々からシラミを移されて罹患してしまう可能性があり,そのような状況で,山火事のように伝染しました.
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Conf. on Interactive Digital Storytelling, pp. 269-281, Springer
(2015)
2016年 10 月 3 日 受理
著 者 紹 介
トラウム デービッド(David Traum) Institute for Creative Technologies(ICT)の自然 言語研究ディレクターであり,南カリフォルニア大 学コンピューターサイエンス学部の研究教職員であ る.ICT の自然言語対話グループを率いており,こ のグループについての情報はhttp://nld.ict. usc.dedu/group/で確認できる.トラウム氏の 研究は,人間と人工知能間の対話に重点を置いてい る.今までに理論的,実践的,経験的アプローチで問題に取り組み,人 間同士の自然言語およびマルチモーダルな対話を研究し,ユーザである 人間とコミュニケーションを取る数多くの対話システムをつくり上げて きた.トラウム氏は,査読された 200 本を超える技術論文の著者である とともに,「Dialogue and Discourse(対話と談話)」ジャーナルの創刊者 兼編集者であり,多くの会議プログラム委員会の議長および委員を務め てきた.また,談話と対話に関する国際的な Special Interest Group で ある SIGDIAL の元会長である.トラウム氏は 1994 年にロッチェスター 大学でコンピュータサイエンスの博士号を得た.