論
文
電波吸収
/
反射切替板を用いた
X
帯アレーアンテナの電波反射低減効
果に関する検討
北川
真也
†a)須賀
良介
†b)橋本
修
†Study on Microwave Reflection Reduction of X-Band Array Antenna Using
Microwave Absorb/Reflect Switchable Reflector
Shinya KITAGAWA
†a), Ryosuke SUGA
†b), and Osamu HASHIMOTO
†あらまし X 帯アレーアンテナの電波反射低減手法として,電波吸収体と反射板を切替可能な電波吸収/反射 切替板をアンテナリフレクタに適用する手法を提案する.本切替板は表面に配置された金属の周期構造に PIN ダイオードを組み入れ,順方向電圧の有無により電波吸収体と反射板を切替えることができる.その切替板の反 射率は,電波吸収体として動作させた場合は 9GHz において −20dB 以下となり,反射板として動作させた場合 は−0.8dB 以上となることを確認した.そして,ダイポールアレーアンテナのアンテナリフレクタに適用し,反 射板として動作させた場合は金属板とほぼ同等の放射パターンが得られ,電波吸収体として動作させた場合はア レーアンテナのレーダ反射断面積を 10dB 以上低減できることを確認した. キーワード 電波吸収体,反射板,アンテナ,レーダ反射断面積
1.
ま え が き
近年の様々な電子機器の普及に伴う電波環境の悪化 により,他の電子機器からの不要電波による誤動作が 懸念されており,その対策として古くから電波吸収体 が研究及び実用化されている.しかし,アンテナリフ レクタのようにアンテナの送受信時では電波の反射が 必要となり,非送受信時では電波の吸収が必要となる 場合においては,通常の電波吸収体はアンテナの性能 を低下させるため適用することが困難である. アンテナリフレクタからの反射波の低減として周波 数選択板(FSS: Frequency Selective Surface)を用い ることにより,所望の周波数のみを反射させ,他の周 波数は透過させることにより反射を低減する手法が提 案されている[1], [2].しかし,アンテナの動作周波数 においてはアンテナリフレクタとしてほぼ完全な反射 板となるため,同周波数において反射波は低減されて †青山学院大学理工学部,相模原市College of Science and Engineering, Aoyama Gakuin Univer-sity, 5–10–1 Fuchinobe, Chuo-ku, Sagamihara-shi, 252–5258 Japan a) E-mail: [email protected] b) E-mail: [email protected] いない. 一方,電波吸収体に周期構造を組み入れ,その周期 構造に抵抗被膜または抵抗素子を装荷することで電波 吸収体を構成し,更に可変容量ダイオードを用いて逆 バイアス電圧を印加することによりL∼S帯において 能動的に電波吸収特性を制御する研究が実施されてい る[3]∼[12].しかし,可変容量ダイオードでは更に高 い周波数に対する電波吸収特性の制御が不可能であ り,抵抗被膜またはチップ抵抗を用いた場合ではアン テナリフレクタに適用した場合の完全な反射を実現す ることが困難である.また,PINダイオードを用いて 順方向バイアスを印加することによる電波吸収体と反 射板をS帯において切替え可能な切替板が提案され ている[13]∼[15].しかし,文献[13]の構造では,周 波数が高くなるに従ってPINダイオードの抵抗は小 さくなり,容量性のリアクタンスも小さくなるため, 切替板を設計するのが困難である.また,このような 切替板を反射板として機能させ,アンテナリフレクタ に適用した場合の評価は実施されていない.更に文 献[14], [15]は複雑な周期構造を用いており,更に文 献[15]では基板にビアを設けて基板裏面からダイオー ドへバイアス電圧を給電することが必要となる.
本論文では,X帯において電波吸収体と反射板を切 替え可能な切替板を提案し,電波吸収体及び反射板と して動作させた場合の反射率を評価する.更に,反射 板として動作させた切替板をX帯のダイポールアンテ ナのアンテナリフレクタに適用した場合の放射パター ンを評価する.そして,アレー化したダイポールアン テナのアンテナリフレクタに適用し,反射板として機 能させた場合の放射パターンを評価し,電波吸収体と して機能させた場合の電波反射低減効果について評価 する.
2.
電波吸収
/
反射切替板
2. 1 切替板の構造 図1に提案する電波吸収/反射切替板の構造を示す. 入射電界の向きはx方向であり,z方向に電波が照射 される.本切替板は金属裏打ちされた厚さ1.6mm,比 誘電率εr = 3.3,誘電正接tanδ = 0.003の誘電体表 面に金属帯及びダイオードで構成される周期構造が配 置されている.周期構造は幅10.6mmでx方向に伸び る金属帯が16mmの間隔でy方向に2列配置され,各 列において5.6mmの間隔で1.7mmのギャップを設け てPINダイオード(NXP社製,BAP50-03)が装荷 されている.したがって,周期構造の単位セルは図1 に示すとおり,5.6mm × 16mmとなる.更に切替板 表面の上下には幅2mmの直流電源ラインが配置され, ここからDC電圧がダイオードに印加される.切替板 の大きさは33.6mm × 32.0mmである.このように提 案切替板は簡易な構造であり,後述するように反射板 裏面からダイポールアンテナを貫通させて配置し,ア ンテナリフレクタに適用することが可能である.更に 図 1 提案する切替板の構造Fig. 1 Structure of the proposed switchable reflector.
各金属帯の間にアンテナを貫通させてアレー化した場 合,アンテナの間隔は16mmとなり,9GHzでは波長 以下であるので,ビームを形成した場合にグレーティ ングローブを回避することができる. 2. 2 切替板の等価回路 図2に本切替板の等価回路を示す.誘電体スペーサ として用いられる誘電体の厚さが波長に対して十分薄 く,誘電損失が小さい場合,裏面金属の誘電体スペー サはインダクタンスLdとなり,そのインダクタンス に並列に表面の金属帯及びダイオードによるインピー ダンスが挿入される等価回路となる.ここで,Lsは 金属帯によるインダクタンス,Csは金属帯間のギャッ プによるキャパシタンスである.また,そのキャパシ タンスに並列にダイオードが挿入され,バイアスが印 加されていない場合は抵抗ROF F とキャパシタンス COF F,順方向バイアスが印加された場合は抵抗RON とインダクタンスLONの直列回路となる.切替板の反 射率はこれらのインピーダンスと自由空間のインピー ダンスZ0との整合によって決まるため,ダイオード の印加電圧の有無によりインピーダンスを変化させて 反射率を変化させることが可能となる. 文献[13]において,表面の金属パターンによりイ ンピーダンスが変化し,電波吸収体として機能する 周波数が変化することが検証されており,本論文では 9GHzにおいて反射率を切替可能な電波吸収/反射切 替板を設計し,その構造は図1のとおりとした.また, 図 2 切替板の等価回路
Fig. 2 Equivalent circuit of the proposed switchable reflector.
9GHzにおいて,ダイオードの緒元はROF F = 24Ω, COF F = 0.1pF,RON = 6.4Ω,LON = 2.2nHで ある.
3.
反射率特性
設計した切替板を製作し,図3に示すように円柱発 泡台に供試体を設置し,ベクトルネットワークアナラ イザを用いて自由空間法で反射率を計測した.アンテ ナと供試体の距離は遠方界となるように1.5mとし, 切替板と同サイズの金属板からの反射を反射率0dB として,反射電力の相対値で反射率を測定した.また, 電磁界シミュレータMW Studio 2013を用いてシミュ レーションも実施した. 図4に反射率の結果を示す.ダイオードにDC電圧 を印加しないOFF状態では9GHzにおいて−20dB 以下の反射率となり,電波吸収体として機能すること を確認した.なお,最も反射率が低くなる周波数につ 図 3 反射率の測定系Fig. 3 Measurement setup of reflection coefficient.
図 4 切替板の反射率
Fig. 4 Reflection coefficient of the switchable reflector.
いて,シミュレーションと比較して実測値が高くなる のは,誘電体基板の誘電率が設計値より低い,または ダイオードが有する容量が設計値より小さくなってい るためだと考えられる.一方,ダイオードに1個当 たり順方向DC電圧1.0Vを印加したON状態では 9GHzにおいて−0.2dB以上の反射率となり,ほぼ金 属と同等の反射板として機能することを確認した.ま た,シミュレーションと計測値はおおむね一致してお り,9GHzにおいてダイオードの印加電圧による切替 板が設計どおりに実現されていることを確認した.
4.
アンテナリフレクタへの適用
設計した切替板のアンテナリフレクタとしての性 能を評価するため,ダイポールアンテナを製作し, 図5 (a)に示すようにアンテナを切替板裏面から金属 帯間を貫通させて切替板をアンテナリフレクタに適用 して放射パターンを評価した.ダイポールアンテナは 図 5 供試ダイポールアンテナ Fig. 5 Test dipole antenna.図 6 放射パターンの測定系
Fig. 6 Measurement setup of radiation pattern.
切替板と同様の誘電率で厚さが0.8mmの誘電体基板 に図5 (a)に示すとおり両面にアンテナがプリントさ れている.放射パターンを評価する周波数はOFF状 態における切替板が電波吸収体として動作する9GHz とした.製作したダイポールアンテナのリターンロス を図5 (b)に示す.供試ダイポールアンテナはおおむね 9GHzにおいてリターンロスが最小となっている.リ ターンロスが最小となる周波数がシミュレーションと 比較して実測が高くなっているのは,誘電体基板の誘 電率が設計値より低くなっており,波長短縮効果が低 下しているためであると考えられる.なお,リターン ロスはベクトルネットワークアナライザを用いて50Ω 系の測定系とした. 図6に放射パターンの計測系を示す.受信アンテナ として用いるホーンアンテナから1.5mの位置に設置 された校正アンテナでベクトルネットワークアナライ ザを校正した後,同距離で供試体を回転台に設置して, 送信アンテナとしての放射パターンを計測した. 図7に切替板と同サイズの金属板と切替板をアンテ ナリフレクタとした場合の放射パターンの結果を示す. E面及びH面それぞれにおいて,実測値はシミュレー ション値より2dB程度低い値となっているのは,校 正アンテナ及び供試体アンテナの設置等の計測誤差に よるものと考えられる.また,切替板をアンテナリフ レクタに適用した放射パターンは,金属板の場合と比 較して広い指向性となり,正面で約1dB低くなって いる.これは切替板の場合は表面に誘起される電流が ダイオードを含む金属帯となり,金属板の場合と電流 分布が異なるためである.しかし,放射パターンの傾 向はおおむね一致しており,E面及びH面ともに切 図 7 放射パターン Fig. 7 Radiation pattern.
替板をアンテナリフレクタに適用した場合は金属板を アンテナリフレクタに適用した場合とほぼ同等の放射 パターンが得られることを確認した.これらの結果か ら,切替板は電波吸収体として機能する周波数9GHz において,反射板に切り替えた状態でアンテナリフレ クタに適用可能であることを示した.
5.
アレーアンテナへの適用
5. 1 放射パターン 切替板を水平方向に拡張し,図8のように四つのダ イポールアンテナをアレー化して切替板をアンテナリ フレクタに適用した場合の放射パターン及び電波反射 低減効果を検証した.それぞれのダイポールアンテナ は切替板の金属帯間に裏面から貫通させて設置させて いるため,素子間隔は16mmとなり,放射パターンを 計測する9GHzの波長以下となるため,グレーティン グローブを回避できる.図9に9GHzにおけるH面の放射パターンの結果 を示す.図9 (a1)及び(a2)は正面方向にビームを指 向させた場合の放射パターンであり,図9 (b1)及び (b2)は移相器を用いて20◦方向にビームをチルトさせ た場合の放射パターンである.それぞれのシミュレー ション値及び実測値は金属板をアンテナリフレクタに 図 8 切替板へ実装したアレーアンテナ
Fig. 8 Array antenna loaded to the switchable reflector.
図 9 アレーアンテナの放射パターン Fig. 9 Radiation pattern of the array antenna.
適用した場合における0◦の値で規格化している.な お,切替板はON状態としている.正面方向へビーム を指向させた図9 (a1)及び(a2)の結果から,アレー アンテナは正面方向へビームを形成している.実測値 の図9 (a2)において,切替板をアンテナリフレクタに 適用した場合が金属板の場合と比較して約1dB低下し ているのは,図7の放射パターンと同様に計測誤差が 考えられる.しかし,切替板をアンテナリフレクタに 適用した場合は金属板をアンテナリフレクタに適用し た場合とほぼ同等の放射パターンが得られていること を確認した.また,実測値はシミュレーションとおお むね一致している.20◦方向へビームをチルトさせた 図9 (b1)及び(b2)の結果から,設計どおりに20◦方 向へビームが形成されている.図9 (b2)で切替板をア ンテナリフレクタに適用した場合が金属板の場合と比 較して利得がほとんど低下していない.これは図7 (b) の単一アンテナの放射パターンからわかるとおり,切 替板をアンテナリフレクタに適用した場合は指向性が
広くなるため,切替板の場合が金属板の場合と比較し て相対的に利得が増大することにより,正面で約1dB 低下していた利得が20◦方向へのビームではほぼ同じ 利得差となっている.しかし,正面方向と同様に切替 板は金属板と同等の放射パターンが得られ,実測値と シミュレーション値がおおむね一致することを確認し た.したがって,アンテナをアレー化し,ビームをチ ルトさせるフェーズドアレーアンテナのアンテナリフ レクタにも本切替板を適用可能であることを示した. 5. 2 電波反射低減特性 次に切替板を電波吸収体として動作させ,アンテナ を装荷した状態における電波反射低減効果を評価した. 電波反射量としてはレーダ反射断面積(RCS: Radar Cross Section)を計測及び解析した.図10にアレー アンテナのRCSの計測及び解析結果を示す.計測系 は反射率を計測した図3の計測系と同様である.ただ し,基準の反射体としてはRCSが既知の15cm角の 金属平板とし,基準の反射体の反射電力と供試体の反 射電力の相対値からRCSを計測した.アンテナに電 波を照射した場合はアンテナの散乱波及び再放射波が 生じるが,アンテナの終端が整合されている場合,再 放射は抑圧される[16].本測定では,再放射波を抑圧 するため,アンテナは50Ωで終端した.したがって, 図5 (b)に示すとおり,本アンテナは9GHz付近にお いて整合が取れており,アンテナからの再放射がほぼ 抑圧されている.また,金属板をアンテナリフレクタ に適用した場合も緩やかなヌルを形成しているのは, 図 10 アレーアンテナの RCS Fig. 10 RCS of the array antenna.
リフレクタ付アンテナとして入射電波を終端抵抗で吸 収しているためである.また,シミュレーション値に 対して実測値が200MHz程度高い周波数において最 小値となったのは,アンテナの設置等による誤差と考 えられる.しかし,シミュレーション及び実測値につ いて,それぞれのアンテナリフレクタのRCS特性の 傾向はおおむね一致していることを確認した.アンテ ナの動作周波数9GHzにおいて,金属板をアンテナリ フレクタに適用した場合と比較して,切替板アンテナ リフレクタに適用することによりRCSを約14dB低 減されていることを確認した.また,8.8∼9.5GHzに おいてRCSが10dB以上低減されていることを確認 した.したがって,電波吸収体として機能させた切替 板をアンテナリフレクタに適用することにより,アン テナ動作周波数における電波反射が低減可能であるこ とを示した.
6.
む す び
本論文では,X帯アレーアンテナからの電波反射を 低減する手法として,電波吸収体と反射板を切替える ことが可能な切替板をアンテナリフレクタに適用する 手法を提案した.まず,X帯で動作する電波吸収体と 反射板を切替える切替板を実現した.そして,反射板 として動作させた切替板をアレーアンテナのアンテナ リフレクタに適用し,金属板と同等の放射パターンが 得られることを確認した.また,切替板を電波吸収体 として動作させることにより,アレーアンテナのRCS を低減できることを確認した.上記の結果から,切替 板をアンテナリフレクタに適用し,アンテナ未使用時 は電波吸収体,アンテナ使用時は反射板として動作さ せることにより,アンテナ性能を劣化させることなく アンテナからの電波反射を低減することが可能である ことを示した. 謝辞 本研究は文部科学省ハイテク・リサーチ・セ ンター整備事業の一環として行われた. 文 献[1] T. Wang, S. Gong, X. Wang, H. Yuan, J. Ling, and T. Wan, “RCS reduction of array antenna by using bandstop FSS reflector,” J. Electromagnet. Wave., vol.23, no.11-12, pp.1505–1514, 2009.
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[16] 北川真也,須賀良介,橋本 修,“再放射の干渉キャンセ ルによるダイポールアンテナの RCS 低減に関する検討,” 信学技報,ESTJ2014-7, May 2014. (平成 26 年 3 月 12 日受付,7 月 17 日再受付, 11月 13 日公開) 北川 真也 (学生員) 2002同志社大・工卒.同年防衛庁技術 研究本部入庁.現在,青山学院大学大学院 理工学研究科博士後期課程在学中.アンテ ナ及び電波吸収体の研究に従事. 須賀 良介 (正員) 2002青山学院大・理工卒,2004 同大大 学院修士課程了.2008 同大学院博士課程 了.同年東工大産学官連携研究員.2011 青 山学院大電気電子工学科助手を経て,現在 同大助教.博士(工学).マイクロ波・ミリ 波デバイス及びアンテナの研究及び環境電 磁工学に関する研究に従事.IEEE 会員. 橋本 修 (正員:フェロー) 1976電通大・電気通信・応用電子卒.1978 同大大学院修士課程了.同年(株)東芝入 社.1981 防衛庁入庁.1986 東京工業大学 大学院博士課程了.1991 青山学院大学助 教授.1994∼1995 イリノイ大学客員研究 員.1997 青山学院大学教授.博士(工学). 環境電磁工学,生体電磁工学,マイクロ波・ミリ波計測に関す る研究に従事.映像情報メディア学会,エレクトロニクス実装 学会,日本建築学会,日本航空宇宙学会,IEEE 各会員.