最小シクロデキストリンの改良合成および架橋基を
有するフッ化グルコシドのグリコシル化反応
著者
萩森 資
2019 年度 修士論文要旨
最小シクロデキストリンの改良合成および
架橋基を有するフッ化グルコシドのグリコシル化反応
関西学院大学大学院理工学研究科 化学専攻 山田研究室 萩森資 1. 最小シクロデキストリンの改良合成 シクロデキストリン(CD)は,D-グルコースが α-1–4 結合した環状オリゴ糖であり,主 に6~8 量体(CD6~CD8)を指す。大きいものでは,CD35 まで構造が確定している。一方 で小さなCD では,中川らが化学合成した CD5 が最も小さかった1)。さらに小さなCD4 や CD3(1)は,グルコースが4C1配座から歪むため存在できないと考えられてきたが2),当 研究室は,化学合成によって1 の存在を実証した3)。CD3(1)の存在が報告されたことで, その機能に関して興味が持たれ,開拓が望まれている。しかし,論文で報告した合成では, 単糖を一つずつ伸長する確実な経路を採用していたため工程が長く,数ミリグラムしか 1 を得ていない。CD3 の大量供給が困難である課題を解決すべく,合成の短段階化を試みた。 単量体から環状三量体のワンポット合成が可能であることを見出した。すなわち,4 位 にヒドロキシ基を持ち,3,6 位酸素にピラノース環を柔軟化させる EDB と呼ばれる架橋基 を導入したフッ化グルコシド2,チオグルコシド 3 を 3,6-O-EDB-1,2,4-オルトアセチルグル コース(5)3)からそれぞれ調製した。続いて,2 および 3 をグリコシル化反応に付した結果, 環状三量体4 のワンポット合成に成功し,その収率はそれぞれ 18%と 19%であった。CD3 : O : S : AcO O O O O G G : HO : AcO F : HO O : S S 1) G 2) –Ac O O O O O : O : O : O O O 1) – Allyl 2) – EDB NIS, Et2O, 19% O : 2 3 6 O O O O EDB G : Glycosylation : Previous Route : New Route 3 steps 6 steps 3 4 steps CD3 (1) 5S 1 O OH HO HO O HO OH OH O O HO HO OH O O O O O O O O 5 EDB bridgePrevious Route : 24 steps New Route : 10 steps (path A) 6 steps (path B) total steps 4 : HO F O –Ac Cp2ZrCl2, AgClO4 18% 2 path A path B 図1 CD3の合成経路
合成に必要な総工程数は5 を出発物質とした場合,これまでの 24 工程から,2 を経由する path A では 10 工程,3 を経由する path B では 6 工程に短縮された。この合成法は,環状オ リゴ糖のワンポット合成において,α-1–4 結合をもつ CD 類形成の初めての例である。 1. 架橋基を有するフッ化グルコシドのグリコシル化反応 CD 合成に必須である α 選択的グリ コシル化には,3,6 位酸素に架橋を有 するフッ化グルコシドを用いた,高α 選択的グリコシル化反応を用いてい る(図2)3)。この反応では,架橋基中 の 2 つのベンゼン環を繋ぐメチレン 鎖の長さにより,グリコシル化反応におけるアノマー選択性が変化する4)。また,EDB 及 び PDB 基を用いたグリコシル化反応は,さまざまな糖受容体を用いて調査されている一 方で4,5),MDB 基や BDB 基を用いた場合はほとんど検討されていない。本研究では,CD3 (1)の効率的合成に繋がると期待し,BDB 架橋基を用いたグリコシル化反応を調査した。 BDB 基で架橋したフッ化グルコシドを用いたグリコシル化反応は,高 α 選択性を示した (図3)。すなわち,既知の 66)にBDB ジブロミド 7 を架橋させる工程を含む 6 工程でフッ 化グルコシド8 を調製し,糖受容体各種とグリコシル化反応させた。その結果,いずれの 場合も室温で高いα 選択性が発現することを見出した。 1) T. Nakagawa, K. Ueno, M. Kashiwa, J. Watanabe, Tetrahedron Lett. 1994, 35, 1921–1924. 2) S. Immel, J. Brickmann, F. W. Lichtenthaler, Liebigs Ann. 1995, 1995, 929–942.
3) D. Ikuta, Y. Hirata, S. Wakamori, H. Shimada, Y. Tomabechi, K. Ikeuchi, T. Hagimori, S. Matsumoto, H. Yamada, Science 2019, 364, 674–677.
4) 嶋田 浩聡, 関西学院大学大学院修士論文, 2018. 5) 平田 恭章, 関西学院大学大学院修士論文, 2014.
6) N. Asakura, T. Hirokane, H. Hoshida, H. Yamada, Tetrahedron Lett. 2011, 52, 534–537.
O O O F BnO OBn Cp2ZrCl2, AgClO4 MS 4A Et2O, rt O O O OR BnO OBn 8 HO O OMe BnO BnO BnO HO HO H H H H H HO HO BDB group HO–R 87/13 99/1 98/2 93/7 α/β = O O HO HO O O 6 Br Br 図3 BDB架橋フッ化グルコシドのグリコシル化反応 6 steps α 7 HO–R 97% 67% 78% 76% 72% ≥99/1 Cp2ZrCl2 AgClO4 MS 4A Et2O, rt HO O F OBn BnO O O n O O OBn BnO O O n 3 6 n = 1 (MDB): 89/11 n = 2 (EDB) : 94/6 n = 3 (PDB) : 96/4 n = 4 (BDB) : 87/13 α/β α-selective glycosylation 図2 長さの異なる架橋を有するフッ化 グルコシドのグリコシル化反応 α