516 人 工 知 能 35 巻 4 号(2020 年 7 月) 人工知能技術の飛躍的発展に伴い,より良い社会の実 現に向けた人工知能活用への期待が高まっている.設備・ 税などの社会で共有している資源の配分や,社会保障・ 医療・教育などの制度設計といった,社会的な意思決定 を,人工知能を用いて効果的に・効率的に行おうという 動きが出つつある.本特集号では,人工知能を用いた社 会的意思決定の実現に向けての幅広い知見を提供するこ とを目的とし,計算機科学・社会科学のそれぞれの観点 で,解説記事を執筆いただいた.人工知能による社会的 意思決定の実例を取り上げるとともに,そのような人工 知能の社会実装方法や,人間の意思決定について解説い ただいた. 本特集号では,以下の 5 編をまとめている. 豊田中央研究所の早川敬一郎氏による「交通サービス の課金メカニズムデザイン」では,限られた交通資源を 効率的に活用するための,課金メカニズムの設計方法を 解説いただいた.電力需要に応じた電気自動車充電への 課金や,カーシェアリングサービスの車両偏在を防ぐた めの課金,MaaS(Mobility as a Service)において需要 動向に応じ交通資源を柔軟に運用するための課金などの 事例を通じて,ゲーム理論に基づく課金メカニズム設計 の方法を紹介いただいた. 学習院大学の福元健太郎氏による「政治学における人 工知能の応用へ向けて」では,人工知能が政治学に応用 された実例を紹介いただいた.従来は,選挙の得票数な どの数値データしか政治学では扱われていなかったが, 近年では,文字・音声・画像・動画といった多様なデー タが活用されはじめている.議会の議事録の分析や,ソー シャルメディア検閲の実態調査,裁判官の発言のモード 分析,画像を利用した政治活動参加の実態分析や,画像 分析を用いた選挙不正の分析,議会動画を用いた党派性 の分析など,さまざまな観点から人工知能の活用例を解 説していただいた. イェール大学の成田悠輔氏らによる「すべての機械学 習は A/B テストである」では,機械学習に基づく意思決 定アルゴリズムの性能予測の方法を紹介いただいた.特 に,現場投入されたことのない,新しい意思決定アルゴ リズムの性能予測を,過去に使われたアルゴリズムの蓄 積データを利用して実現する方法を解説いただいた.実 際にファッション通販サイトにおいて,洋服推薦アルゴ リズムの選抜に性能予測を用いた事例を取り上げていた だいた. 富士通研究所の大堀耕太郎氏による「システム科学に 基づく AI 社会実装へのアプローチ」では,人工知能技 術の社会実装には,いまだに社会的・技術的な壁がある ことを指摘いただき,現場の視点で,解決に向けたアプ ローチを解説いただいた.複雑な要素が絡み合う AI 社 会実装では,それらの要素についての不確実性が高いこ とから,ステークホルダ間でのシステムの基本定義に関 する合意が難しい.システムモデルを用いて解決する方 法を解説いただいた.また,現場の本質的課題を専門家 が認識できるようにするための,現場への介入方法を紹 介いただいた. 追手門学院大学の本田秀仁氏による「バイアス・合理性・ 集合知:判断と意思決定に見る人間の知性 」では,人間 が判断・意思決定をする際の経験則(ヒューリスティッ ク)について解説していただいた.ヒューリスティック は時にはバイアスを生み出し,時には合理的に機能する. 人間は,ヒューリスティックを適応的に用いることで有 効に活用しているという事実から,人間の知性について 議論いただいた.また,個人の意思決定では有用なヒュー リスティックが,集団意思決定では合理的に機能しない というパラドックスに基づき,複数の人工知能システム の統合に関する示唆をいただいた. いずれの記事も,前提知識をできるだけ必要としな いよう,平易にお書きいただいた.本特集が,今後の社 会科学研究者と人工知能研究者の接点となれば幸いであ る.最後に,本特集の執筆にご参加いただいた皆様に深 く感謝いたします.
特集「人工知能と社会的意思決定」にあたって
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