親 の 子 に 対 す る 学 費 負 担 を め ぐ る 一 考 察
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(2) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 三八四. ︵3︶. 体的には︑親は子の大学教育費用を当然に負担しなければならないのか︑ということである︒もちろんこの問題は公. ︵4︶. 的教育助成制度の確立とともに解消されていくべきものであり︑問題を楼小化することは避けなければならない︒し. かし︑実際には︑学生生活費に占める奨学金の割合は大学において六%前後︑短大において三%前後と︑決してそれ. によって充足されているとは言えず︑また︑一九九〇年度における私学補助率も一四・一%と十年連続でダウンし︑ ︵5︶ 昭和五〇年度の私学振興助成法成立以来最低率となり︑学費値上げの可能性も懸念されている︒このような現状にあっ. ては︑この問題は依然私的扶養制度の中で論じなければならない問題であろう︒高等学校への進学率は九〇%を超え︑ ︵6︶. 高等教育機関への進学率も四〇%近くにも達しようとしている現在︑現実に多数存在する大学生を公的教育助成制度 ︵7︶. と私的扶養制度との空白地帯に陥らす結果は避けなければならないからである︒しかし︑また他方で高等教育費は年々 膨張し︑学生生活費に対する父母負担の割合を八割にもしている︒. このような状況の中で︑大学教育費用負担の問題を私的扶養の範囲でとらえようとするとき︑自ずから扶養の発生. 要件及び程度を決定するうえでのガイドラインが必要となってこよう︒それを本稿の結論とする︒それに先立ち︑ま. ず︑高等教育費用の負担の問題に関する学説及び裁判例を概観することによって現在までの法状況を把握し︑次にそ の裁判例を分析・検討する︒. この問題を論じるものとして︑國府剛﹁婚姻費用の分担の申立の係属中に︑離婚が成立した場合と右申立事件の帰趨﹂︵以下﹁婚姻費用﹂と. する︶判例評論二三二号︵一九七八年︶二七頁以下︑同﹁現代嬬蓄考−親の子の学費負担をめぐる一考察−1﹂︵以下﹁現代驕欝考﹂とする︶. ︵1︶. 二版︶︵一九七九年︶六八頁以下︑泉久雄﹁子の専門教育と親の扶養義務﹂︵以下﹁子の専門教育﹂とする︶打田先生古稀記念ー斉藤英夫編﹃現. 太田武男先生還暦記念﹃現代家族法の課題と展望﹄︵一九八二年︶一二三頁以下︑有地亨﹁子に大学教育を受けさせる親の義務﹂教育判例百選︵第. 代社会と民事法﹄︵一九八一年︶一五五頁以下︑同﹃演習親族・相続法﹄︹新版︺︵﹃九八九年﹀︸〇三頁以下︑深谷松男﹁未成熱子扶養法の基礎.
(3) 表1. 進. 学. (%). 率. 親の子に対する学費負担をめぐる一考察. 平成1年. 平成2年. 94.5. 94.7. 95.1. 37.2. 36.8. 36.8. 昭和60年. 昭和61年. 昭和62年. 昭和63年. 高等学校進学率. 94.1. 94.2. 94.3. 秋学等の進学率. 38.2. 35.3. 36.7. (出所)『文部統計要覧平成3年版』より作成 ※「大学等」には、大学・短期大学・高等専門学校(4年次)を含む。. 表2 区. 分. 計 1082.2. 昭和55年度. 916.8 1230.5. 昭和57年度 昭和59年度 昭和61年度 昭和63年度. (単位:千円). 学生生活費. 家庭からの給付 1率(%) 奨学金 2率(%). 学費. 生活費. 493.4. 588.8. 830.3. 76.7. 64.1. 5.9. 504.5. 412.3. 784.6. 85.6. 32.1. 3.5. 587.8. 642.7. 998.4. 81.1. 76.8. 6.2. 981.4. 94.7. 35.4. 3.4. 78.9. 73.4. 5.5. 85.3. 31.8. 2.9. 1036.2. 585.8. 450.4. 1323.6. 666.9. 656.7. 1097.3. 646.5. 450.8. 1423.0. 730.5. 692.5. 1121.O. 78.8. 89.2. 6.3. 1192.0. 725.0. 465.2. 1031.7. 86.6. 37.2. 3.1. 1523.2. 804.5. 718.7. 1175.5. 77.2. 94.7. 6.2. 783.3. 504.6. 1104.2. 85.6. 40.5. 3.1. 1289.9. 1044.4. 935.5. (資料)文部省「学生生活調査」. (出所)『文部統計要覧平成3年版』より作成 ※各年度の上段が大学(昼間部). 下段が短期大学(昼問部〉. ①は「学生生活費」に占める「家庭からの給付」の割合 ②は「学生生活費」に占める「奨学金」の割合. 八五.
(4) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 三八六. 的考察﹂金沢法学二七巻︷髄二合併号︵﹃九八五年︶二二六頁以下︑加藤永﹃﹁教育と親の監護教育権﹂法学四九巻六号︵﹃九八六年︶九〇九. 日. 十合併号︵一九九一年︶■ハ頁以下がある︒また︑アメリカにおける法状況につい. ては︑石川稔﹁アメリカ法における子の扶養﹂我妻栄先生追悼論文集﹃私法学の新たな展開﹄︵一九七五年︶五七七頁︑樋口範雄﹃親子と法. 頁以下︑松嶋道夫﹁未成熟子の扶養働﹂久留米大学法学九. 号︵一九八九年︶一〇七頁以下の論稿がある︒. 米比較の試み﹄︵﹁九八八年︶二〇二頁以下︑拙稿﹁高等教育と親の扶養義務ーアメリカにおける法状況1﹂早稲田大学大学院法研論集四九. 教育をめぐる監護教育権と費用負担の問題を検討すると︑必ずしも整合的な構成がなされていない︑と指摘されている︵加藤・前注九一二頁以下︶︒. ︵2︶ 加藤教授は︑高等教育とくに大学教育に必要な費用支出の問題は︑扶養の問題として処理する考え方が現在では大勢をしめているが︑高等. 松嶋・前掲注︵1︶一八頁は︑﹁子の教育をうける権利は︑親に対してだけでなく︑国家社会に向けられた権利でもあるが︑未成熟子という. もっともな指摘であり︑本稿でもその点について検討するまでに到らなかった︒別稿で論じたい︒ ︵3︶. 観点からはマイナスである﹂と指摘される︒. 概念は︑私的扶養の義務を公的扶助に優先させる扶養内容を含むから︑未成熟子の範囲を広くすることは︑国家的・社会的責任の拡大を志向す る. 表1参照︒. 学. 説. 日本経済新聞一九九一年九月二八日付記事︒. ︵4︶ 表2参照︒. ︵6︶. ︵5︶. ︵7︶ 表2参照︒. 二. ︵1︶. 子の教育費用請求の方法については︑諸説紛紛としているが︑通常︑父母が婚姻中の場合には婚姻費用分担の請求. ︵2︶. ︵民法七六〇条︶として︑また父母が離婚している場合又は父母が婚姻していない場合には子の監護に関する処分︵監. 護費用の分担︶請求︵民法七六六条V及び扶養請求︵民法八七七条︶として認めるのが通説及び家裁実務の大勢であ. る︒すなわち︑民法第七六〇条による﹁婚姻から生ずる費用﹂とは︑夫婦と未成熟子を中心とする婚姻家族が︑その.
(5) ︵4︶. ︵3︶. 資産・収入・社会的地位等に応じて通常の社会生活を維持するに要する費用であるとされ︑一般にこの中には子の教. 育費も含まれると解されている︒また︑民法第七六六条の﹁監護について必要な事項﹂については︑監護処分として. 養育費の支払を命ずるのは監護者の指定・変更等形成的処分に附随してのみ可能であって︵家審規五三条︶︑養育費 ︵5︶ のみと単箇に取り上げてこれを監護処分そのものであるとするのは相当ではない等といった批判もあるが︑﹁⁝⁝養 ︵6︶. 育費を含む監護費用分担問題が﹃監護について必要な事項﹄︵民法七六六条︶の重要な一つとして︑独立して審判の. 対象とすることができることは︑今日通説・判例と認めることができる︒したがって︑父および母は協議をもって監. 護費用の分担を定めることができ︑また協議が調わないときや協議ができないときは︑家庭裁判所に対し監護費用分. 担の審判・調停を申し立てることができると解される︒監護費用の問題が﹃監護について必要な事項﹄に相当するこ. とは否定し難いことであるし︑それが含まれる以上︑民法七六六条が︑監護者の指定・変更の際にのみ監護費用分担. 審判をなしうることを定めたものと狭く解することは︑監護費用の実質が扶養という日常生活にかかわる費用である. ことを考慮するとき︑認め難いところであろうし︑家事審判規則五三条にいう﹃扶養料﹄も監護費用と同義と見て︑. 本条は︑当事者が監護者の指定・変更のみを申し立てた場合でも︑必要があれば︑職権をもって監護費用の分担をも ︵7︶. 定め︑その給付を命ずることができることを規定したものと解しうるのであって︑右の通説・判例は妥当というべき. である﹂との見解もあり︑この立場によれば︑本条によって子の教育費を請求することも可能である︒そして︑扶養 へ8︶. の必要は衣食住の費用についてのみに止まらず全生活需要に及ぶものであって︑その中に教育費が含まれるのは当然 である︒. 三八七. したがって︑子の教育費が現実に問題となるのは︑これらの場面すなわち婚姻費用分担の範囲︑監護費用の範囲︑. 扶養の程度としてであるから︑この周辺での学校教育費についての学説の対応を散見する︒ 親の子に対する学費負担をめぐる︸考察.
(6) 早稲田法学会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. 三八八. まず︑婚姻費用の範囲については︑﹁子供のための教育費︵主として学校教育費︶は優先的に確保すべきである︒. とくに義務教育上の教育費はますます高騰しており︑算定においては考慮すべきである︒⁝⁝大学進学に伴う費用や ︵9︶. 在学中の学資は相手方︵義務者︶において進学に合意しているとか︑相当の資力のあるとかの条件があれば成年に達. していても認められる余地はあろう﹂とするもの︑﹁教育費のうち︑子の高等教育の費用︑幼稚園の通園費︑ピアノ ︵10︶. 等のいわゆるお稽古代等が婚姻費用に含まれるかどうかは︑その時における社会通念に従い︑親の資力等を勘案して. 決せられることになる﹂と説くもの︑﹁娘の結婚費用や大学等高等教育に要する費用は︑当該未成熟子の年齢的要素. を重視する立場にたてば︑消極的に解さるべきことになる事案が多いと思われるが︑未成熟子の無収入ないし無資力 ︵n︶ 性を重視すれば︑やはり︑積極的に解することも許さるべきことになるのではないかと考える﹂と説明するものがあ る︒. また︑監護費用の範囲については︑﹁子の監護に関する処分には経済的給付の事項は含まれないと解するのが相当. 2︶. であり︵監護費用の分担は扶養問題である︶︑また仮りにそうでないとしても︑子女の大学教育の学資などは監護に ︵1 関する費用といえないであろうから︑結局扶養の問題として処理されなければならない﹂と説くもの︑﹁.::・義務教. 育を越える教育については︑費用の分担との関係でやや疑問だが︑費用負担者の資産︑社会的地位などから︑義務教 ︵13︶. 育を超える教育の費用を負担することを適当とする場合には︑監護者がそれを決定して︑費用負担者からその費用を 請求しうるものと解するを正当としよう﹂と説明するものなどがある︒. そして︑扶養の程度との関係では︑﹁教育費は扶養の中に含まれるか︒旧法九五九条一項には︑扶養の義務が﹃自. 己の資産又は労務に依り生活を為すこと能はざるとき﹄と︑﹃自己の資産に依りて教育を受くること能はざるとき﹄. にのみ発生する旨が明言されていた︒現行法にはこの規定がないけれども︑趣旨は改ったものと解すべきではない︒.
(7) ︵14︶. 従って生活保持の義務はもちろん︑生活扶助の義務でも︑普通の教育費は当然含まれるものといわなければならない︒. 但し特殊の専門教育をうける費用までも含む意味ではない﹂として高等教育費を否定するもの︑﹁今日の大学教育は. 身分相応の職業に就くための準備教育といえなくもないが︑大学に入学する年齢の子は自分で働くことのできる年齢. に達しているのであるから︑生活保持の関係を脱しているということができる︒したがって︑大学教育の費用は基本. ︵15︶. 的には︑親子の契約によるとみるべきであるが︑扶養法の平面で問題とする場合には︑生活保持義務を超えたものと. 構成し︑子の素質・能力に応じて父母の生活を犠牲にしない範囲で負担すると解するのが妥当であろう﹂として高等 ︵16︶. 教育費の間題を扶養法の平面で論ずることに消極的ではあるがその余地はあるとするもの︑そして﹁教育費は単に義. 務教育についてのみならず︑相当の職業教育︑高等教育についても認められる﹂として積極的なものもある︒. 学説の状況については︑深谷松男﹁未成熟子扶養請求の準拠規定と法的方式﹂判例タイムズ五五〇号︵一九八五年︶六〇頁以下及び松嶋道. 夫﹁未成熟子の扶養ω﹂久留米大学法学五11六合併号︵一九九〇年︶一五四頁以下に詳細な分析がなされている︒. ︵1︶. ︵2︶ 大阪高決昭和三〇年コ月二五日家裁月報七巻一二号四四頁︑東京高決昭和三七年一〇月六日家裁月報一五巻三号一一五頁︑石井健吾﹁未. ︵7︶. ︵6︶. ︵5︶. ︵4︶. ︵3︶. 九州家族研究会﹁婚姻費用分担・扶養審判例の分析と算定方式の研究田﹂家裁月報二六巻八号︵一九七四年︶四﹇頁︒. 中川善之助編﹃注繹親族法㈲﹄︵於保不二雄︶︵一九五二年︶二五一頁︒. 深谷・前掲注︵1︶七三頁︒. 石井・前掲注︵2︶九三頁注︵32︶及び深谷・前掲注︵1︶七三頁注︵11︶参照︒. 於保不二雄編﹃注釈民法㈲﹄︵明山和夫︶︵一九六九年︶三八九頁︒. これを否定するものとして︑沼正也﹁夫婦の同居・協力・扶助および婚姻費用の分担﹂ケース研究九六号︵一九六六年︶五頁以下︒. 大阪高決昭和三三年六月一九日家裁月報一〇巻三号五三頁︑青山道夫編﹃注釈民法⑫ ①﹄︵有地亨︶︵一九六六年︶三八六頁︒. 三四頁など︒. 成熟子の養育費請求の方法について﹂ジュリスト三〇二号︵一九六四年︶六三頁︑太田武男H久貴忠彦﹃親子の法律﹄︹新版︺︿﹃九八○年︶二. ︵8︶. 三八九. ︵9︶. 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(8) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 三九〇. 村崎満﹁扶養義務は何時までと定めなければならないか・その他ー東京高等裁判所昭和三七・三・一九決定批判ー﹂ケース研究七六号︵一. 太田武男﹁婚姻費用の意義と範囲﹂沼邊愛一H太田武男11久貴忠彦編﹃家事審判事件の研究q D一︵一九八八年︶一三頁︒. ︵10︶ 松嶋由起子﹁婚姻費用分担額算定の方法﹂中川善之助先生追悼﹃現代家族法大系4﹄︵一九八○年︶四五三頁︒ ︵11︶. 一四三頁︒. ︵12︶. 我妻栄﹃親族 法 ﹄ ︵ 一 九 六 一 年 ︶. 九六三年︶二九頁︒ ︵13︶. ︵14︶ 中川善之助﹃新訂親族法﹄︵一九六七年︶六〇九頁︒. ︵16︶. 於保編・前掲注︵5︶︵明山︶四〇三頁︒. ︵15V 久貴忠彦閥右近健男匪浦本寛雄 中川良延一山崎賢一睦阿部徹n泉久雄﹃民法講義7親族﹄︵泉久雄︶︵一九七七年︶三二三頁︒. 三 裁判例. ︵1︶. 婚姻費用分担の請求︑子の監護に関する処分︵監護費用の分担︶請求及び扶養請求などの審判における子の養育費・ ︵2︶. ︵3︶. ︵4︶. 教育費の支払終期については区区としており︑子が義務教育を終了するまでとするもの︑子が高校を卒業するまでと ︵5︶. ︵6︶. ︵7︶. ︵8︶. するもの︑子が一八歳に達するまでとするもの︑子が成年に達するまでとするもの︑子が成年に達した後も高校を卒 ︵9︶. 業するまでとするもの︑子が大学を卒業するまでとするもの︑経済上独立できるまでとするものなどが見受けられる︒. ︵10︶. ここでは︑大学生の学費及び生活費が直接争点となったケースを︑請求手続・方法による区別をせずに︑古いもの から挙示し整理する︒. ①東京高決昭和 三 五 年 九 月 一 五 日. 本件は︑二年浪人したのちに私立大学に入学した成年子Xから︑実母と離婚し他女と婚姻している父親に対して扶 養料を請求した事案の抗告審である︒.
(9) まず︑扶養の要否を大学進学を前提として論ずることは失当であるという父親の主張に対して︑本決定は︑父方母. 方の祖父等の経歴及び資産状況︑父親の生活程度を考慮し︑それぞれ中流又はそれ以上の生活をしていたことを認定. したうえで︑﹁そうした環境に在るXとして︑大学教育の普及している現今において︑大学進学を希望することは︑. 才能や健康の関係上特に進学が不適当と認めるべき証拠もない本件では︑身分不相応な希望ということはできない︒. また︑大学進学を希望する青年が︑いわゆる有名大学を選択したため︑一︑二年いわゆる浪人をすることは珍らしく. ないことであるから︑Xが︑東京外語大を受験して失敗し︑そのため二年間浪人をしたこと︵このことは記録上明か であるVを以て︑あながち責めることはできない﹂と説示する︒. また︑親が財産がないのに︑子が大学に入学して親に扶養料を払えというのは不当であるとの主張に対しては︑. ﹁子が大学に入学することの可否は︑子を本位とし︑その才能や福祉を中心として定めるべく︑また︑その場合︑子. の教育費を親が支払うべきか否かは︑親の扶養能力の有無によって決すべきことであって︑親の扶養の能否によって. 子の進学の可否を決すべきものではない︒なお︑抗告人は︑今日の大学教育は徳育を重んじないから︑Xの大学進学 は︑同人の人格形成に無益であるというが︑独自の見解であって採用し難い︒. 以上の次第であるから︑Xの大学進学及びそれがための若干の浪人生活を前提として︑同人の扶養の必要の有無を 判定することは不当ではない﹂と述べる︒. そして最後に︑﹁抗告人と相手方両名とは親子であるから︑その扶養義務は︑養育義務であり生活保持の義務であっ. て︑その扶養の程度を定めるには扶養権利者の側の扶養必要の程度と扶養義務者側の扶養可能の程度とを機械的数学. 的に計算して定めるべきものではなく︑双方が生活上の甘苦を共にするという立場から︑権利者側の必要が大きけれ. 三九一. ば義務者側は自分の生活程度を切下げてもなるべく多額の扶養料を支払うべく︑一方義務者側の扶養能力が不十分で 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(10) 早稲田法学会誌第四十二巻︵㎝九九二︶. 三九二. ある場合には︑権利者側でも︑極力窮乏に耐えるよう努むべきもので︑なお︑大学生の学費は︑その親に十分な資力 ︵11︶. がない場合は︑能う限り本人がアルバイト等によって︑補給に努めているのが現今の実情であることも考慮しなけれ. ︵1. 2︶. ばならない﹂と判示して︑月三︑OOO円の扶養必要額に対して月一︑五〇〇円の支払いを大学卒業時まで父親に命 じた︒. ②仙台高決昭和三七年六月一五日. 本件は養親であると同時に実親でもある母Aに育てられている短大在学中の子Xから︑認知した親権者でない父親 に対して扶養料を請求した事案の抗告審である︒. まず本決定は︑父親について︑﹁日本生命保険相互会社会津若松支部長に在職していたもので︑その学歴も上級学. 校卒業程度を下らないであろうことは容易に推定され︵る︶﹂こと︑また父親のその他の二人の非嫡出子たる男子に. ついても︑﹁両名とも高等学校もしくは大学等の上級学校を卒業していることがうかがわれる﹂点から︑﹁相手方の右. 短大通学はその境遇に相応しない不必要のものということはできない﹂と述べる︒. そして︑﹁相手方は昭和三十六年四月十日成年に達しているものであり︑従って抗告人の前記生活保持義務は右成. 年の日以後は単なるいわゆる生活扶助義務に変転したものといいうるのではあるが︑右成年の日の前後を通じて相手. 方の扶養必要程度も︑母Aおよび抗告人の各扶養能力も変りないのであるから︑右成年の事実は抗告人の右金員支払. 義務の認定になんらの影響もない﹂と判示し︑Xのアルバイト料月一︑○○○円を考慮に入れて︑月一〇︑○○○円 ︵13︶. の扶養必要額に対して月九︑OOO円の支払いを短大卒業時まで父親に命じた︒. ③熊本家審昭和三九年三旦三日. 本件は︑妻が別居中で他女と同棲している夫に対して︑自己及び三人の子痴漉助の生活費︵学費も含む︶を婚姻.
(11) 費用として請求した事案である︒. まず本審判例は︑﹁この他に申立人は双方間の子で東京に居住し︑同地で労働結核研究会○○○診療所に勤務し︑. 月収一万三︑八二五円を得て夜問は短大にて勉学している長女傷︵当時二一歳︶に対し月々三千円の送金をしてい. るので︵現在は送金していない︶これについても婚姻費用として相手方に分担を求めるというが既に成人に達し自ら パママレ 独立して生計を営んでいる子の生活費は夫婦間の婚姻費用ということはできないので︑申立人がこれを出損したとし. ても親の子に対する好意に基く贈与以外のものでないので相手方に請求し得べき性質のものでない﹂と判示して︑短. 大在学中の生活費︵この中に学費が含まれているかどうか明確ではない︶を過去の婚姻費用として認めなかった︒. また︑現在会社に勤務しながら短大に通う飽の学費については︑﹁親の経済状態に照し子に高等教育を受けさせる. に足りる資力のある場合には子としてはその能力に応じた教育を受ける権利があり︑当然に婚姻費用の一部として考. えられる﹂としながら︑その生活費については︑﹁︵漉は︶昭和三九年五月一九日成人に達するまでの問は親の扶養. を受け得るわけであるが︑既に独立生計を営むに足りる収入を得ているので︑昭和三八年四月以降については上記学 資を除いて負担の要はないといえる﹂として︑婚姻費用とは認めなかった︒ ︵U︶. ④神戸家審昭和四一年八月一〇日. 本件は︑子が申立人となって離婚後他女と再婚し︑その間の子及び妻の親族とともに生活体を構成している父親に 対して扶養料を請求した事案である︒. まず本審判例は︑﹁申立人は︑学生で職業を持たず︑資産収入もないから︑その両親が各資力その他の状況に応じ ︵15︶. 三九三. て生活費を支弁して扶養する必要がある﹂と述べて︑両親双方の経済的事情のほかに︑申立人と相手方とが往来も文 通もしていないことその他双方の家庭事情を考慮に入れ︑父親の負担額を決定した︒ 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(12) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 三九四. しかしその支払期問については︑﹁相手方は︑その妻Aを通じて︑申立人が高校卒業以後は扶養できないというよ. うな意向を示しているが︑相手方が︑申立人の母Bと離婚以来申立人の扶養について︑ほとんど何の負担もしていな. いことを考えれば︑申立人がせめて満二〇歳に達するまでは上記程度の扶養はしてよい︒この程度の負担の故に申立 ︵16︶. 人の進学を拒否すべき理由はない﹂として︑成年に達するまでとしている︒. ⑤大阪家審昭和四一年一二月一三日. 本件は︑妻が申立人となって別居中の夫に対して︑自己及び三人の子供鋤彪鵡の生活費及び学費を婚姻費用とし て請求した事案である︒. まず本審判例は︑扶養義務者たる夫の資力が明確に把握されなかったにもかかわらず︑﹁相当余裕のある生活をし. ている﹂と認定し︑﹁長男角は成人に達してはいるが︑現在医科大学で勉学中であり︑その進学については相手方の. 諒承を得ていることは勿論︑相手方の資力に照らしてその就学は当然認め得べきもので︑右記認定の生活費及び学費. はすべて相当な婚姻費用であるというべきである﹂と判示し︑親の進学への合意及びその資力から大学生である長男 の生活費及び学費を婚姻費用として認めている︒. また︑扶養義務の性質については︑﹁相手方は︑⁝⁝申立人及び子供らに自己と同程度の生活を保持させる義務を. 有するものである﹂として生活保持義務的把握をしながら︑他方で﹁申立人或は長男角は︑機会を得て︑内職︑ア. ルバイトその他積極的に収入の道を開き自己の生活の安定と向上をはかるよう望むものである﹂として︑その費用負 ︵17︶. 担の軽減をはかろうとしている︒. ⑥福岡高決昭和四七年二月一〇日. 本件は︑すでに成年に達している子泊瀧から︑離婚に際し親権者とならなかった父親に対して︑扶養料を請求し.
(13) た事案の抗告審である︒原審では認容しなかったのに対し︑本決定は取消し自判している︒. まず本決定は︑父親の扶養義務の存否について︑﹁親は︑自ら独立して生活を維持できない子に対し︑その生活の. 保持をなすべき義務を有するものであることは︑親子間における社会倫理的な義務であるばかりでなく︑法的義務と してもこれを是認すべきものと解すべきである︒. しかして︑父母が離婚するに際し︑一方︵母︶を親権者と定めて離婚した場合︑民法第八二〇条によれば︑親権を. 行う者において子を監護および教育する義務を負うことになるが︑右は子の監護および教育について事実上その労を. 取るべき者を定めたものであって︑その者において監護教育に必要な費用を負担すべき義務のあることまで定めたも. のとは解されない︒したがって︑親権を行う者が︑その親権下にある子の生活保持としての扶養の義務を負っている. ことは勿論であるけれども︑親権者でない他方の親もまた︑親として右扶養の義務を負うものであって︑その負担す. べき扶養料については︑その両方の親の資力︑収入生活状況ならび子自身の生活状態その他一切の事情を考慮して決 すべきものと解する﹂と判示する︒. そこでまず︑浪人中で成年に達している女子沁について︑﹁同抗告人は︑扶養の終期は同抗告人が大学を卒業する. 昭和四六年三月までとすべき旨主張するが︑抗告人珀は︑高校卒業後大学進学の希望を有して︑大学を受験したの. であるが︑その都度失敗し︑現在に至るまで大学に入学できず︑成年に達したものであることは前記認定のとおりで. あるところ︑高校卒業後成年に達する以前に大学に入学したというならば格別︑特別事情の認められない本件におい. て︑女子が成年に達した後も︑永年浪人生活を繰返してまで大学に進学しなければならない社会的合理的な理由を肯. 認できず︑また︑現在の社会においては︑女子といえども成年に達すれば︑自らの手で自己の生活を維持できる能力. 三九五. を有するものと認むべきであるから︑抗告人阻に対する扶養の終期は︑同人が成年に達する昭和四三年一二月まで 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(14) 早稲田法学 会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. 三九六. と認めるのが相当であり︑それを超えて同人が大学を卒業する時︵昭和四六年三月︶までとする抗告人沌の主張は 採用できない﹂として︑その扶養請求を否定した︒. これに対し︑大学在学中の男子挽については︑﹁現在のわが国の社会において︑男子の場合︑その子に大学に進学. の能力のある限り︑その子に大学教育を受けさせるのが︑普通家庭における世間一般の通例となっているものと認め. られるところ︑前記の如く︑父である相手方は医師であって︑社会的地位もあるのみならず︑子に大学教育を受けさ. せる資力も十分にあるものと認められるのであるから︑相手方は︑その子漉が大学に入学した以上︑同人に大学教. 育を受けさせることは親としての義務というべく︑その資力ならびに子瀧の必要の度合等に応じ︑同人が大学を卒. 業するまでに必要な費用の一部を負担すべき義務があるものと認めるのは相当である︒そして︑そのことは抗告人 地が成年に達したことによって影響を受けるものではない︒. したがって︑抗告人漉に対する扶養料としては︑本件申立の日である昭和四〇年三月一日以降同人が大学を卒業. するまでの間につき︑相手方に相当額を負担させるべきである﹂として︑その生活費及び学費の支払いを父親に命じ ︵18︶. た︒男女間に差異をもうけた特異なケースである︒. ⑦東京家審昭和 五 〇 年 七 月 一 五 日. 本件は︑嫡出の成年男子で大学在学中の泣と︑母が不知の間に父が協議離婚届を提出して依然同棲関係継続中に. 生まれた未成年女子で短大在学中の漉が申立人となって︑父親Yに対して扶養料を請求した事案である︒. 本審判例は︑まず︑沁挽らが各大学に入学するについてYがこれに承諾を与えていたこと及び漉が短大に入学す. る際にその入学金をYが支払っていたことを認定したうえで︑﹁扶養を求める子が既に成年に達したか又は成年に間. 近く︑しかも健康な場合に︑職を得て働けば収入を得られるようなときであっても︑大学に在籍し特段の収入がない.
(15) という理由で父に対し学費及び生活費を扶養料として求めうべきかについては当事者の社会的地位︑経済的余力その. 他諸般の事情をすべて検討し︑個々的に決するほかないものと思料されるが︑家裁調査官の調査によれば︑﹃相手方. は区立小学校の教員であり︑その収入は月額約一八万円いわゆるボーナスとして年に約七〇万円を得ているほか家庭. 教師によるものがあると推認され︑その生活は法律上の妻Aがあるけれども事実は別居であって︑単身の生活費を要. するだけのものである﹄と認められ他に特段の事情があるものとは認められないから︑相手方には経済上の余裕がな. いものとは見られないことと︑現時の社会状況では概ね子を大学に通わせ︑二十歳過ぎ位までその生活の面倒を見る. ことが一般の風潮であるから︑本件扶養申立につき進んで検討することとするとして︑両当事者の生活状況を検討し ︵19︶. たのち︑父親Yに対して︑痘漉の各大学卒業時までの生活費及び学費の二分の一の支払いを命じた︒. ⑧広島高決昭和五〇年七月一七日. 本件は︑妻が別居中の夫Yに対して︑自己及びその二子恵助の生活費と学費を婚姻費用として請求した事案の抗 告審である︒. 抗告人Yの﹁婚姻より生ずる費用は夫婦と未成熟児の生活費に限られ︑成人に達した子の生活費や大学の学資を含. めて抗告人に支払を命じたのは不当である﹂との抗告理由に対して︑本決定は︑﹁前記認定によれば︑抗告人は激励. する意味で一旦は入試失敗の子を責めたものの︑内心には医学部進学に賛成同意していたこと︵その故にこそ昭和四. 五年三月長男が二浪で医大へ入学する迄の二子の教育費を抗告人が負担していた︒︶が認められ︑そしてこのように. 子に学習能力と意欲があり︑他方抗告人の医師たる職業身分並びにその資力︑収入︑社会的地位によりすれば抗告人. にとり子に医学教育を授けることはその社会的身分に相応したものと認められ︑当裁判所も二子が大学医学部を卒業. 三九七. して一人立ちする迄その学資金を分担費用に含ましめるのが相当と考えるのであって︑原審の措置は相当として是認 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(16) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 0︶. できる﹂と判示して︑当該抗告理由を採用しなかった︒ ︵2. ⑨名古屋高決昭和五二年一月二八日. 三九八. 本件については詳細は不明であるが︑妻Xが申立人となって夫Yに対して︑その子角の結婚費用と地の大学の学 資を婚姻費用として請求した事案の抗告審である︒. 原審は︑﹁満二〇歳に達した者の生活は親として一切扶養の義務がないものとしたら︑社会的に多数存在するその. ︵21︶. ような自活能力のない成年子の生活は一体誰がどのように維持すべきことになるのか理解しがたいものといわざるを. 得ない︒未成熟子とは未成年子というのと同義ではなく︑より正確には夫婦たる親の支配に服しつつ婚姻共同体の中. に包摂され︑社会的に独立した一個の存在として自活するに足る能力を備えていない子という意味である﹂と説示し. て︑癌の結婚費用及び助の大学の学費は抗告人と相手方夫婦の婚姻費用であるとして︑夫にその分担を命じている︒. これに対し︑本決定は︑﹁原審判が説示したように未成熟子の中に婚姻家族における無資産︑無収入の成年に達し. た子も含まれ︑また右の長女の結婚費用二女の大学の学資が抗告人と相手方夫婦の婚姻費用となると解する余地はあ. るけれども︑その範囲は抗告人相手方夫婦の資産︑収入︑社会的地位に相応した通常考えられる範囲内のものに限ら. ︵22︶. れると解すべきである﹂として︑二女の大学の学費について本件の婚姻費用となり得るか具体的に審理確定するよう︑ 原審判を取消し差戻している︒. ⑩大阪高決昭 和 五 七 年 五 月 一 四 日. 本件は︑子を監護養育する母︵親権者︶が︑離婚した父に対して︑将来子が大学に進学した場合の学資等の負担を. 求めて︑成年に達した以後の分をも含む子の養育費を子の監護に関する処分として請求した事案の抗告審である︒. 本決定は︑﹁父母が離婚している場合の未成年の子の養育費について︑未成年の子を養育している親権者たる母は︑.
(17) 自らが申立人となって親権者でない父を相手方として家事審判法九条一項乙類四号の子の監護に関する処分として養. 育費の分担を請求しうるものというべきであるが︑その子が成年に到達した場合には母の親権が終了するものである. 以上︑右の子の監護に関する処分としての養育費の分担を請求しうるのは︑子が成年に達するまでの分に限られるも. ︵23︶. のであることはいうまでもない﹂と判示して︑二子についてそれぞれ成人に達する月までの間の養育費を定めた原審 判を相当なものと認めた︒. ⑪ 大津家審平成二年二月二二日. 本件は︑大学在学中の成年子たる蜘と高校在学中の子地が申立人となって︑母親Aと離婚した父親に対して︑扶 養料を請求した事案である︒. 本審判例は︑まず︑﹁いわゆる生活保持義務として︑親は未成熟子の養育につき︑子が親自身の生活と同一水準の. 生活を保障する義務があるとされるのは︑親子の関係が︑親子関係が他の親族に対する関係よりも深い愛情と信頼と. の上に成り立つ親密な関係であることにもよるものというべきところ︑上記認定の事実によれば︑相手方は︑申立人. らの父として︑相手方とAとの夫婦関係が円満であり︑従ってまた相手方と申立人らとの父子関係が愛情と信頼との. 上に成り立つ親密な関係にあったとすれば︑相手方の上記認定の収入状況からすれば︑昭和五七年一一月以降の申立. 人らの扶養料についても︑相手方の生活程度と同等の生活を保持するものとして︑全額支出していたものと容易に推. 認されるところであるが︑相手方とAとが昭和五二年七月頃から不和となった挙げ句に離婚判決の確定によって離婚. するに至り︑この問に相手方とは別居しAと同居していた申立人らが︑相手方との交流を望まないのみならず︑相手. 方に対する愛情を欠き嫌悪感さえ抱くに至った状態となってきていることを考慮すると︑相手方に対して前認定の申. 三九九. 立人らに要する扶養料全額を負担させるのは相当ではなく︑相手方が申立人らの扶養料を支払わなくなった昭和五七 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(18) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 四〇〇. 年二月から申立人らそれぞれが未成熟の域を脱するものというべき高等学校卒業︵若しくは卒業予定︶の月までの 扶養料について︑その五割を負担させるのが相当である﹂と判示する︒. そして父親の﹁申立人地は相手方を嫌いだ会いたくないといい︑申立人泊も同様の心境にあるものと推測し得るが︑. かかる事態において︑申立人らが相手方に対して自己の扶養料を請求するのは権利の濫用である﹂との主張に対して︑. ﹁申立人らに相手方に対する愛情が欠けているからといって︑上記のとおり︑これは扶養料の額を定めるについて考. 慮すべき事由と解するのが相当であって︑直ちに申立人らが相手方に対して扶養料を請求するのが権利の濫用に当た るものとはいい難いところである﹂と説示する︒. 子の親に対する愛情の喪失を︑親の扶養義務の発生そのものを阻却する事由とはしなかったが︑義務の程度を軽減. 4︶. ︵2. する一つの考慮事由としている点︑また扶養料を負担すべき終期を︑子の高等学校卒業時としている点︑特徴的であ る︒. ⑫大阪高決平成二年八月七日. 本件は︑ケース⑪の抗告審であり︑原審判を取消し差戻した事案である︒. まず︑原審が︑漁痘が父である相手方に対して愛情を欠き︑交流を望まない状態となっていることを重視し︑扶. 養義務者である相手方の資力と同じく扶養義務者である澗地の母Aの資力とを対比して検討することなく︑拍漉の. 扶養料について︑相手方においてその五割を負担すべきであると判断した点について︑本決定は︑﹁なるほど︑一般に︑. 扶養の程度または方法を定めるについて︑扶養権利者と扶養義務者との間の生活関係とそれらによって形成された両. 者問の愛憎や信頼の状況を︑民法八七九条所定の﹃その他一切の事情﹄の一つとして考慮することがあながち不当で. あるとはいえないとしても︑本件のような未成熟子の扶養の程度を定めるについて︑この点を重要な要素として考慮.
(19) することが相当であるとは到底いいがたく︑何よりもまず︑扶養義務者である相手方の資力と︑同じく扶養義務者で. あるAの資力とを対比して検討し︑これを基礎として抗告人らの扶養料中︑相手方において負担すべき割合を認定判. 断すべきものといわなければならない﹂と判示し︑未成熟子に対する扶養の程度を決定するにあたっては︑親子問の 愛憎や信頼の状況を︑重要な要素として考慮すべきではないとする︒. また︑原審が扶養料の支払終期を高等学校卒業時とした点については︑﹁原審判も指摘するように︑未成熟子の扶. 養の本質は︑いわゆる生活保持義務として︑扶養義務者である親が扶養権利者である子について自己のそれと同一の. 生活程度を保持すべき義務であるところ︑抗告人らの父である相手方は医師として︑母であるAは薬剤師として︑そ. れぞれ大学の医学部や薬学部を卒業して社会生活を営んでいる者であり︑現に︑抗告人ぬも昭和六一年四月に薬科. 大学に進学していること等︑抗告人が生育してきた家庭の経済的︑教育的水準に照らせば︑抗告人らが四年制大学を. 卒業すべき年齢時まで︵ただし︑抗告人馳については︑高等学校卒業後就職した場合は高等学校を卒業すべき年齢. 時まで︑短期大学に進学した場合は短期大学を卒業すべき年齢時まで︶︑いまだ未成熟子の段階にあるものとして︑. 相手方において抗告人らの扶養料を負担し︑これを支払うべきものとするのが相当である﹂と判示して︑大学卒業時 までの扶養料の支払いを命じている︒. 大阪高決昭和三〇年一一月二五日家裁月報七巻一二号四四頁︑大阪高決昭和三二年一〇月九日家裁月報一︷号六︸頁︑秋田家大館支審昭和. 原審判とはことごとく判断を異にする決定である︒. ︵1︶. 四〇一. 一日家裁月報一三巻六号一五七頁︑千葉家松戸支審昭和三六年六月三〇日家裁月報一三巻一〇号一〇三頁︑大阪高決昭和三七年︸○月二九日家. 三三年五月一九日家裁月報一〇巻五号四九頁︑広島家呉支審昭和三四年七月二八日家裁月報二巻一〇号一〇一頁︑大阪家審昭和三五年一二月. 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(20) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 裁月報一五巻三号一二八頁︑大阪家審昭和四二年三月二日家裁月報一九巻﹃○号=二二頁などがある︒. 四〇二. と︶ 千葉家館山支審昭和三七年︸二月一七日家裁月報一六巻六号一四五頁︑東京家審昭和三八年二月二五日家裁月報︸五巻六号七五頁︑東京高. 四日家裁月報︷八巻二号八二頁︑大阪家審昭和四〇年工月二七日家裁月報﹃八巻五号五八頁︑秋田家審昭和四八年﹃○月二二日家裁月報二六. 決昭和三九年一月二八日家裁月報一六巻六号一三七頁︑福岡家審昭和四〇年四月一七日家裁月報一七巻九号七二頁︑松山家審昭和四〇年九月二 巻七号三二頁などがある︒. 5︶ 大阪高決昭和三三年七月二八日家裁月報一〇巻九号七一頁︑広島家竹原支審昭和三三年一二月二三日家裁月報一一巻三号一五八頁︑佐賀家. 月二六日家裁月報一四巻一一号一五七頁︑静岡家沼津支審昭和三七年七月二日家裁月報一四巻一一号一四〇頁︑東京家審昭和三九年四月一日家. 審昭和三六年二月一〇日家裁月報=二巻七号﹃二︸頁︑高松高決昭和三六年一〇月一四日家裁月報一四巻八号一五〇頁︑大阪家審昭和三七年六. 期と算定方法﹂中川淳編﹃家事審判例の研究﹄︵一九七〇年︶一八四頁以下がある︒大阪家審昭和四一年二月一〇日家裁月報一八巻﹃○号五七頁︑. 裁月報一六巻九号一七六頁︑大阪家審昭和四〇年一一月二七日家裁月報一八巻五号五八頁︵本件評釈として︑沢井種雄﹁未成熟子の扶養料の終. 一月二七日家裁月報一八巻五号五八頁などがある︒. 長崎家審昭和四一年二月一一日家裁月報一八巻九号六〇頁︑盛岡家審昭和四一年三月八日家裁月報一八巻一〇号五四頁︑大阪家審昭和四二年一. 二月一〇日家裁月報二巻三号一五一頁︑大阪高決昭和三七年一月三一日家裁月報一四巻五号一五〇頁︑東京高決昭和三七年三月一九日家裁月. 4︶ 松山家審昭和三二年三月四日家裁月報九巻三号三九頁︑大阪高決昭和三三年二月二五日家裁月報一〇巻二号六六頁︑東京家審昭和三三年一. その期問の明示﹂同志社法学七九巻︵一九六三年︶六一頁以下︑岡垣学﹁未成年の子に対し継続的に扶養料の支払を命ずる審判とその期聞の明示﹂. 2︶二三頁以下︑宮井忠夫﹁未成年の子に対する扶養料の支払いを命ずる審判と 報一四巻八号一五三頁︵本件評釈として︑村崎・前掲二の注︵1. 判例タイムズ一六八号︵一九六五年︶七〇頁以下がある︶︑東京家審昭和三八年六月一四日家裁月報一五巻九号二︻七頁︑東京高決昭和四〇年七. 一九巻二号一〇五頁︑東京家審昭和四一年二戸二六日家裁月報︻九巻八号九四頁︑東京家審昭和四二年三月四日家裁月報一九巻一〇号二二五頁︑. 月一六日家裁月報一七巻一二号二二頁︑東京家審昭和四一年七月五日家裁月報一九巻二号一〇八頁︑神戸家審昭和四一年八月一〇日家裁月報. 東京高決昭和三五年九月一五日家裁月報一三巻九号五三頁︑大阪家審昭和四一年一二月二一百家裁月報一九巻七号七三頁︑福岡高決昭和四. 東京高決昭和三五年四月一九日家裁月報二一巻一二号七三頁︒. 八月一七日家裁月報こ七巻六号五八頁︑大阪家岸和田支審昭和五〇年七月二三日家裁月報二八巻七号四五頁などがある︒. 東京家審昭和四五年一二月二日家裁月報二三巻七号五八頁︑名古屋家審昭和四六年一二月九日家裁月報二五巻八号四九頁︑大阪家審昭和四九年 b︶. 七年二月一〇日家裁月報二五巻二号七八頁︑東京家審昭和五〇年七月︸五日家裁月報こ八巻八号六こ頁︑広島高決昭和五〇年七月一七日家裁月. b︶. 報二八巻四号九二頁などがある︒.
(21) 7︶. 神戸家尼崎支審昭和四八年九月一八日家裁月報こ六巻六号四四頁︒. 活を送っており︑到底独立して生活を営むに足る能力を有していない子を︑﹁法律上の未成熟子﹂としてその生活費を婚姻から生ずる費用として. 8︶ このほかに︑すでに成年に達してはいるが︑生来病弱で再三にわたって入院加療を続け︑現在もなお自宅で専ら母親の世話になって療養生. の就職稼働ができない状態にある子を﹁未成熟子﹂として︑その子が独立して生活する能力を具備するに至るまで扶養料の分担を命じたもの︵福. 父親にその支払いを命じたもの︵東京高決昭和四六年三月一五日家裁月報二三巻一〇号四四頁︶︑また︑二一歳に達してはいたものの貧血で通常 岡家小倉支審昭和四七年三月三一日家裁月報二五巻四号六四頁︶などがある︒. となったものがある︒. 9︶ 本文に挙示するケースのほかに︑大学生であるかどうか明確ではないがその生活費が問題となったもの︑そして専門学校生の生活費が問題. 前者は︑妻が申立人となって︑同一家屋に住所を有するが︑寝食を全く別にしている夫に対して︑自己及び二人の子血地の生活費を婚姻費用. として請求した事案︵大阪家審昭和五二年三旦三日家裁月報三〇巻一号八四頁︶であり︑そこでは﹁申立人は無職無収入であり︑長女角・長. 後者も︑妻が申立人となって︑別居中の夫に対して︑自己及び二人の子鋤麓の生活費を婚姻費用として請求した事案︵大阪家審昭和五六年︸. 男細は共に学生であって無収入である﹂との認定のもとにその請求を認容している︒. ○月六日家裁月報三五巻二号一五七頁︒なお︑本件評釈として︑笹本忠男﹁専門学校へ通学する子の生活費を婚姻費用として請求することの可否﹂. であり︑細は中学生である︒本審判例は︑﹁婚姻費用に含まれるべきものは︑夫婦を中心とした家族共同生活に必要な衣︑食︑住費すなわち生計. 家裁月報三五巻一一号︵一九八三年︶︸二九頁以下がある︶である︒鋤は高校卒業後︑半年後に犬の美容師を養成する専門学校に入学した学生. しているのであるから︑同年四月以降は未成熟子というわけにはゆかないので︑同年四月以降の同女に関する生活費等は︑別途︑父である相手. 費と未成熟子の養育費とがその主要なものである︒本件においては︑長女傷は︑昭和三六年五月一五日生まれで︑昭和五五年三月に高校を卒業. 姻費用として夫が分担すべき額を算定した︒しかし︑﹁鋤は未成熟子ではないとは言っても︑未だ独立した生活を営むに至っておらず︑同女につ. 方に対する扶養請求として︑これが支払を求めるのが相当である﹂と判示して︑いわゆる労研方式によって︑魚を除く妻と助の生活費のうち婚. ︶ 前掲注︵6︶・家裁月報二二巻九号五三頁︒. 家裁月報一四巻二号一〇三頁︒. 四〇三. いて陰に陽に生活費を支出せざるを得ない状況にある﹂ことなど諸般の事情を勘酌したうえ︑夫の負担額を一割五分程度増額修正している︒ 10. 当該扶養必要額には︑授業料月額二千円を奨学金で充当したため︑ 含まれていない︒. 11 ︶. 前掲注︵4︶・家裁月報一九巻二号一〇五頁︒. 12 ︶ 家裁月報〜六巻八号八九頁︒ 13 ︶. M︶. 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(22) 早稲田法学会誌第四十二巻︵﹁九九二︶. 四〇四. 相手方の家庭事情として︑﹁妻Aとその問の長女B︵九歳︶のほか妻の父︵七八歳︶︑同母︵七一歳︶と相手方の兄C︵六一歳︶が同世帯に. おり︑義父母は厚生年金年額四万円のほかに収入なく︑実兄Cは心神に故障があって独立した生活能力に欠けていること︑そして相手方夫婦以. ︵15︶. ・家裁月報︸九巻七号七三.頁︒. 前掲注へ6﹀. 外に扶養能力を持つ親族がいないため︑同人らの生活費も相手方の収入から支弁しなければならないことが認められ﹂ている︒ へ16﹀. 前掲注︵6︶・家裁月報二五巻二号七八頁︒本件評釈として︑有地・ 前掲一の注︵1︶六八頁以下がある︒ 前掲注︵6︶・家裁月報二八巻八号六二頁︒. ︵17︶. 判例時報八五七号八七頁︒本件評釈として︑國府・前掲一の注︵1︶ ﹁婚姻費用﹂二七頁以下がある︒. 前掲注︵6︶・家裁月報二八巻四号九二頁︒. ︵18︶. ︵19︶. 家裁月報四三巻一号一一九頁︒なお︑本件評釈として︑本沢巳代子 ﹁離婚後母親と同居中の娘に対する父親の扶養義務の範囲﹂民商法雑誌. 家裁月報四三巻一号一二三頁︒. 家裁月報三五巻一〇号六二頁︒. 津家審昭和五一年五月二〇日判例時報八五七号八七頁参照︒. ︵20︶. ︵21︶. ︵22︶. ︵23︶. 分析・検討. 一〇五巻一号︵一九九一年︶一一五頁以下がある︒. ︵24︶. 四. 子の大学教育費用が争点となった裁判例を二一件紹介した︒婚姻費用分担の請求によるもの四件︵③⑤⑧⑨︶︑子. の監護に関する処分︵監護費用の分担︶請求によるもの一件︵⑩︶︑扶養請求によるもの七件︵①②④⑥⑦⑪⑫︶で. ある︒ほとんどの裁判例がすでに子が大学あるいは短大在学中のもの︵⑥の女子及び⑩は除く︶であるためであろう. か︑概して︑大学教育費用の負担について肯定的であると言える︵⑩及び⑪を除く︶︒また︑すべての裁判例が子・ 母親対父親の構図で争いが生じていることも注目されよう︒.
(23) 保持義務性 ︵1︶. 以下では︑ ω保持義務性︑働未成熟子性︑⑥有責性︑㈲その他の問題︑という四つの視点から裁判例を分析し検討 する︒. ω. 伝統的な扶養義務二分説に従って︑子の大学教育費用の負担を論じた裁判例は六件︵①②⑤⑥⑪⑫︶ある︒大半の. ケースがこの問題を生活保持義務の問題としてとらえているが︑その中にあって︑成年までを生活保持義務としてそ. れ以後は生活扶助義務に変転したものといいうるとしながら︑成年の前後を通じて扶養必要の程度及び扶養能力に変. わりはないから︑成年の事実をもって支払義務の認定に影響を及ぼすものではないとするもの︵②︶︑生活保持義務. の基礎を︑親子関係が他の親族に対する関係よりも深い愛情と信頼との上に成立する親密な関係にあることに求める. 結果︑当該関係が破綻しているような場合には当該義務が軽減されるとするもの︵⑪︶が注目される︒. この問題に対する学説の対応は二分する︒すなわち︑有地教授は﹁教育を受けさせる親の義務は子が自活できる能. 力を取得するに必要な教育を受けさせる義務にかぎられるのではなく︑子の生来的な教育を受ける権利に対応する義. 務として︑その能力の発達の可能性を追求することを積極的に援助する点にある︒したがって︑その子の能力からみ. て︑また︑扶養義務者たる親の経済状態に照らし︑大学教育を受けることが子の福祉に適するかぎり︑親は大学卒業 ︵2︶. ︵3︶. 時までの教育を受けさせる義務を負うと解すべきであって︑親ないしは近親者が大学教育を受けているか否かは考慮. する必要はない﹂と述べられている点からすれば︑生活保持義務的問題としてとらえられているように思われる︒こ へ4︶ れに対して泉教授はこの問題を﹁両者︵生活保持義務と生活扶助義務ー筆者注︶の中間あるいは限界線上の問題﹂で. 四〇五. あるとされ︑﹁大学教育をうける子は︑独立できる筈であるから﹃生活必需費﹄だけを給すればいいといったのでは 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(24) 早稲田法学 会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. 四〇六. 十分な学業を続けることができない︒さればといって﹃生活の全面的保持でなければならない﹄というのも行き過ぎ. である︒大学を卒業するまで︵したがって成年になって後も︶親の地位相応の﹃生活費﹄及び﹃教育費﹄を給する︑. つまり親の資力の許す限りでの負担がなされれば十分であるとするのが実際的だと思われる︒まだ完全には独立して ︵5︶. いないとみる意味では生活保持義務的発想が必要であるが︑親の資力に応じた負担という意味では生活扶助義務的発. 想でよいことになる﹂﹁⁝⁝平均的家族においては︑子を大学に進学させるまでに年齢を重ねた親に対して︑自己の. ︵7︶. 生活費を切りつめ︑不慮の事故に備えて蓄えた貯蓄までも吐き出して子の専門教育費用に当てるべしというのは酷で ︵6︶ ある︒この点を強調する意味で︑しばらく生活扶助義務の線上にある問題として考えたい﹂として︑﹁しばらく﹂と しながらも︑はっきりと生活扶助義務的問題だとしている︒. 大学在学中の子は︑勉学のゆえに客観的に経済的独立を期待しえないという意味においては︑常に扶養必要状態に. あると言えるが︑大学生の場合には︑すでに独立自由な労働能力を与えられている︵労基法五七条参照︶のであるか ︵8︶ ら︑学業の継続に支障なき限り︑労務を要求せられるであろうし︑その範囲において親の扶養義務は軽減されよう︒. 基本的には生活扶助義務的問題として考えるべきであろう︒裁判例のいくつか︵①②⑤︶が︑大学に進学した子に対. する扶養義務を生活保持義務であるとしながらも︑子のアルバイト能力なども勘酌して親の負担を軽減しようとして いるのは︑この趣旨のゆえであろう︒. また︑右記の問題との関連で︑自己の生活は自分で維持すべしという生活自己責任の原則は当該子にどこまで適用 ︵9︶ されるのかという問題がある︒稼働収入はもちろん︑財産収益についても民法第八二八条但書の解釈による相違はあっ. ても︑これが親の扶養に優先して子の生活維持に充てられることには異論はない︒問題は︑財産収益がない場合又は. あっても子の生活維持に不足する場合に子の元本財産をとり崩して親の扶養に優先することができるのかということ.
(25) ︵10︶. である︒一二件の裁判例は子に資産がない場合がほとんどであり︑問題とされていない︒ ︵11︶. これについて学説は肯定・否定と二分するが︑国民一般の経済生活の向上と親族間の贈与や遺贈の増加によって︑. 2︶. 財産を有する子の数も増加しつつあり︑また実際にも財産を有する子がその元本に手をつけず親からの扶養を受けう ︵1 るとすれば︑親の資力に限りがある場合には︑財産を有しない他の子に重大な影響を与えることなどを考え合わせる ︵B︶ と︑親の稼働収入・財産収益に優先して︑子の元本財産からのとり崩しを認めるべきであろう︒. 働未成熟子性. 大学または短大在学中の子を未成熟子とする裁判例は三件︵③⑨⑫︶︑そうでないとするものが一件︵⑪︶ある︒. ケース③は︑会社に勤務しながら短大に通う子の生活費及び学費を婚姻費用の分担として請求した事案であるが︑. 当該子を未成熟子として︑学費については婚姻費用としたが︑その生活費についてはすでに独立生計を営むに足りる 収入を得ていることを理由に婚姻費用としなかった点︑特異なケースである︒. ケース⑨⑫とも︑大学在学中の子を未成熟子とするが︑大学の学費が婚姻費用︵⑨︶または扶養︵⑫︶の範囲内の ものであるかどうかは︑親双方の資産︑収入︑社会的地位等によって決定されるとする︒ ケース⑪は後述する︒. 一二件の裁判例を概観して特徴的なことはほとんどのケース︵②③④⑤⑥⑦⑨﹀が︑短大生の場合ばかりでなく大. ︵14︶. 学生の場合にも︑子の成年到達時点を非常に意識している点である︒これは︑未成熟子について本来何歳までと年齢. だけでその上限を示すものではないにしても︑年齢的には未成年を黙示的に原則的基準としているからであろうか︒. 四〇七. その意味ではケース④が︑子が大学生であるのか短大生であるのか明確ではないが︑﹁せめて二〇歳まで﹂と︑期問 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(26) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. ︵伍︶. 明示しているのは暗示的である︒ ︵17︶. 四〇八. ︵16︶. ﹁未成熟子﹂なる概念は︑周知のように︑中川善之助教授が考え出された造語であり︑もとより法律上の用語では ︵18︶. なく︑教授自身が述べられているように︑制度趣旨の相違から﹁未成年者﹂とは異なる概念である︒未成熟子を未成. 年者として満二〇歳をもって画一的に区別する合理的理由は存在しないし︑扶養の目的からも︑親は子の心身の発達. へ20︶. が一応の頂点に達し独立して社会生活を営む能力を具備するまで子に対する経済的給付を保障すべきことが要請され ︵19︶ るのであり︑そしてこのような能力を具備したかどうかは︑個人的のみならず社会的条件とも深いかかわりがあり︑. 結局個別具体的に決定していかなければならないものであるからである︒その意味で︑未成熟子とは相対的概念であ ︵21︶ 2︶. るために一般化することは困難である︒しかし一応の年齢的な目安としては︑今日の進学率等を考慮するとき︑義務 ︵2 教育終了時にとどまることなく高校卒業時の一八歳程度となろう︵もちろん︑義務教育終了後就職し自活している者. は除外されるし︑また︑高校に入学しても中途退学するなどして学習意欲を喪失している者も︑稼動能力が期待され るから除外される︶︒. ⑥有責性. ここでは︑子の側に親︵特に非親権者︶の履行をためらわせるような事情があった場合の扶養請求について︑これ. らの事情は︑親の義務の発生そのものを一義的に阻却させるのか︑あるいは︑扶養の程度・方法等の決定の際の﹁そ. の他一切の事情﹂の一つとして勘酌考慮されるべき一要素になるに止まるのか︑あるいは︑その一要素さえもならな. いのか︑という問題を検討する︒すなわち︑より具体的には︑親子問に愛情や信頼が全く喪失しているような場合︑. あるいは︑親が子の監護教育について発言権を有していなかった場合︵例えば︑子が大学進学について親に一言の相.
(27) 談も助言も求めていなかったような場合︶にも︑親は当然に扶養義務を負うのか︑あるいは免除もしくは軽減される のか︑ということである︒. この問題は︑大学生を未成熟子ととらえ︑そして未成熟子に対する扶養義務が生活保持義務であり客観的に算定可 ︵23︶. 能な純粋に当事者間の経済的資力だけの問題であるとして︑当事者問の主観的要素というものを考慮する必要は全く ︵24︶. ないとの前提であろう︑ほとんど議論されることはなかった︒. 紹介した裁判例の中にこの問題に触れているケースが三件︵④⑪⑫︶がある︒. ケース④は︑扶養額を定めるにあたって︑﹁申立人と相手方とが往来も文通もしていないこと﹂を一つの考慮事由 としているが︑その理由は示されていない︒. 間題はケース⑪である︒判旨は前述した通りである︒すなわち︑いわゆる生活保持義務の基礎を︑親子関係が他の. 親族に対する関係よりも深い愛情と信頼とのうえに成り立つ親密な関係に求め︑子が親との交流を望まないだけでな. く︑親に対する愛情を欠き嫌悪感さえ抱くに至っているような場合には︑生活保持義務の前提となる基礎が子によっ. て一方的に破壊されているとして扶養義務を軽減するものである︒これに対し︑ケース⑪の抗告審であるケース⑫で. は︑親子問の愛憎や信頼の状況を︑未成熟子扶養の程度を定めるにあたって重要な要素として考慮することは相当で はないとしている︒ ︵25︶. へ26V. この問題については︑わずかに西原教授が﹁一般論としては︑子の監護教育について発言権がないからといって扶. 養義務を当然に軽減すべきではないが︑本件のような事情︵離婚した夫の意向を妻が全く無視して子を養子に出した. り離縁したり里子に出したりした事情−筆者注︶のもとでは︑扶養義務の程度に若干の影響が生じるのはやむをえ. 四〇九. ないであろう︒また︑子の教育に関しても︑通常要する教育費用はすべての親がその資力に応じて負担すべきである 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(28) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 四一〇. が︑親権者たる親が子を両親の資力に比していちじるしく費用を要する学校にいれた場合等は他方の親はその超過費 ︵27︶ ︵28︶ 用の負担は軽減されることもありうる﹂と述べられているにすぎない︒しかし︑この文脈も︑夫婦問に子の監護教育. について話し合いが行われたか否かという観点からの説明であり︑耕予問に監護教育についての相談があったか否か︑. 親予問に愛情や信頼に基づく関係があったか否か︑という観点からの説明ではない︒それでは親子阻にこのような関. 係が存在しない場合に︵特に︑成年前後のほとんど成年者と言っていい子と別居もしくは離婚している親との間には 十分起こりうる︶︑このことが親の子に対する扶養義務に影響を及ぼすのであろうか︒ ︵29︶. ︵30︶. この問題については︑最近ペンシルヴァニア州で下された峯一幕判決が大いに参考になるように思われる︒本件は. 2︶. は︑成年子による一方的離間︵のω9き鴇幕琶がある場合にも︑親はその子に対して大学教育費用の支払義務を負う ︵31︶ のか︑ということが争点となった事案である︒子の大学教育費用に関する扶養決定をなす場合には︑離間は一つの考 ︵3 慮事由とすべきであるとする意見が僅差で多数を占めた︒多数意見の理由とするところは︑つまるところ︑家族がい ︵33︶ まなお破綻していなければ家族内部でなしていたであろう決定をなす責任を裁判所は引き受けるべきであり︑多くの. 破綻していない家族にあっては親が大学教育費用を支払うかどうかを決定する際に︑子が親を虐待し家を捨てたとい ︵34 ︶. う事実は︑当該決定をなすうえで考慮されることになろうから︑裁判所が当該決定をなす場合でも︑この点を考慮し ︵35︶. なければならない︑とするものである︒そうすることで親が扶養するのにふさわしくない子によって経済的犠牲とな るのを避けるためである︒. しかし︑この決定には反対意見が付されており︑扶養決定に際して離問を確定的要素として含めることの実行可能. 性及び適用可能性に疑問を呈している︒すなわち︑第一に︑離間を考慮事由とすることは︑離問に対する有責性の存. 否の判断をしなければならず︑この種の認定は﹁何年もの家族関係の存在に関してその動態を検討ないし評価しなけ.
(29) ︵37V. ︵36︶. ︵38︶. ればならないので︑この世のどんな裁判所であっても不可能な仕事である﹂︒しかも︑離婚した親の不和は︑子の行. 動に何らかの衝撃や影響を当然与えることになろうし︑裁判所はその結果を十分に評価できない︒第二に︑扶養する. のに値する子が誤って有責性を認定され︑その結果教育上の扶養を受けられないとするならば︑子ばかりでなく社会. も高等教育を受けた市民を喪失することになり︑ともに損害を被ることになるのに対し︑たとえ扶養するのに値しな. い子に誤って教育上の扶養を受けさせたとしても︑それによって生ずる損害は︑親の経済的損失にすぎない︒また︑ ︵39︶. 扶養するのに値しない子に教育上の扶養を認めることで︑子の親に対する態度は宥和し︑将来における和解可能性が. 開ける︒第三に︑離間の責任がだれにあるのかを審理すれば︑再び親と子を対立させることになり︑﹁親子間の敵意 ︵40︶ を堅固なものとし︑親子関係をほとんど回復不可能なものとすることは確かである﹂︒. その他の問題. 示唆的なものが含んでいると言えよう︒. ㈲. 裁判例は︑扶養決定をなすうえで︑③親の資産・収入のほかに︑⑤親及び近親者の学歴・経歴・職業・社会的地位. ︵①②⑥⑧⑫︶︑◎子の能力・学習意欲・福祉︵①③⑥⑧⑫︶︑④大学進学に対する親の承諾︑学資の一部支払いとい. う事実︵⑤⑦⑧︶︑◎大学の教育機会の普及︵①⑦︶︑を積極的に考慮事由としている︒これらの評価及びこれらに伴. う問題点を以下では検討する︒ ︵41︶ まず⑤の事由については︑親に資産がない場合に︑稼働能力がある限りそれが資力となる点では問題はなかろう︒. 一二件の裁判例はいずれも︑子・母親対父親の構図であり︑父親に稼働能力がある場合であった︒間題は離婚した父. 四二. 母の一方が再婚︵子は他方と同居︶し︑再婚相手に扶養されている場合︵母親の場合が多いであろう︶にその者の潜 親の子に対する学費負担をめぐる一考察.
(30) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 2︶. 四二一. 在的稼働能力を資力とみてよいかということである︒再婚生活における母親の生活水準自体を前婚子に対する扶養義 ︵4 務の有無・程度を決定する基準とした審判例もあるが︑母親が再婚生活を害しない限度において合理的に期待可能な ︵43︶. 稼働をしたならば有したであろう資力が︑母親の最低限度の生活を維持してなお余力がある限り︑義務は免れないと すべきであろう︒. 5︶. ⑤及び④の事由については︑扶養の程度を決定するにあたって︑別居及び離婚がなかったならば子が享受できたで ︵必︶ あろう生活水準及び教育水準を上限の基準とすべきであり︑当該基準にしたがうならば︑これらの事由は当該推定を ︵4 するうえで決定的でないにしても重要なファクターとなろう︒. ◎の事由については︑ほとんどの裁判例︵⑥の女子及び⑩を除く︶が︑子が大学在学中又は短大在学中における婚. 姻費用の分担もしくは扶養の請求であるために︑すでに子に能力ありとみているように思われる︒間題は浪人中の場. 合である︒ケース①では︑子の浪人中における過去の扶養料を認めている︒ケース⑥では︑大学在学中の男子の扶養. については大学卒業時までとしながら︑浪人中の女子の扶養については成年到達時までとしている︒もとより﹁女子﹂. であるという理由だけで扶養を否定することは許されない︒将来の職業のための準備教育として︑浪人をしてまでも. ︵46︶. 当該大学に入学することが︑その子の素質︑能力︑学習意欲からして相当である限り︑浪人中における扶養も肯定す べきであろう︒. 有地・前掲一の注︵1︶六九頁︒. 中川善之助﹁親族的扶養義務の本質︵二. ︵二・完︶!改正案の一批評1﹂法学新報三八巻六号︵一九二八年︶︸頁以下︑同七号四八頁以下︒. ◎の事由は︑現在のわが国における大学進学率等を考慮するとき︑重要なファクターであることは否定できない︒. ︵2︶. ︵1V.
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