環境物品貿易の自由化効果に関する再考 : 諸概念 の整理と仮説的検討
著者 日野 道啓
雑誌名 九州経済学会年報
巻 50
ページ 113‑118
URL http://hdl.handle.net/10232/18259
I . は じ め に
本稿の目的は,環境物品貿易の自由化効果を 環境技術という概念を用いて再考することであ る。具体的な課題は,次の3つである。第1に,
環境技術等の自由化効果を検討するために必要 な諸概念を整理することである。第2に,自由 化効果を移転効果と定着効果によって把握する ことである。第3に,上記の考察点を踏まえて,
定着効果の重要性を指摘することである。
環境物品貿易の自由化とは,関税および非関 税障壁の削減・撤廃を通じて,①環境対策に必 要な物品,または②類似の用途をもつ物品に比 べて相対的に環境負荷の低い物品の貿易活性化 を目指すものである。WTOでは,ドーハ開発ア ジェンダから交渉が開始された。現状では,自 由化方法をめぐって南北対立が尖鋭化してお り,交渉は停滞している(日野[2011)。また,
近年では,新しい交渉の論点として,環境技術 の普及促進のために,技術支援・指導の必要性 が叫ばれている。いずれにしても,環境物品貿 易は,‐世界的な関心事である気候変動問題への 貢献が果たせるテーマとして,注目されている。
環境技術という概念を用いて考察する意図 は,次の2つである。第1に,環境物品貿易の 自由化がもたらす環境効果を明確化するためで ある。環境効果については,Stern[2007]が環 境技術を普及させる作用について言及していた が,詳細な検討は課題として残されていた。環 境技術の考察を通して,環境効果をより明確化 する。第2に,資源配分機能に留まらない効果 を分析できるためである。日野[2009]では,
資源配分機能に注目して,「普遍的環境問題」に 唯一有効な国際環境政策として,その意義を説 明していた。しかし,後述の通り,N字カーブ のジレンマ等の問題があり,再考の余地がある。
なお,本稿は,消費'に注目して自由化効果を 検討する。消費の多くは生産に関連するが,と
日 野 道 啓 MichihiroHino
くに最終消費に注目する。もちろん,環境物品 貿易の自由化は,環境負荷の低い生産的消費を 実現する作用ももつ。ただし,環境物品の普及 のための決定的な刺激は,最終消費によっても たらされる。最終消費の安定的な拡大は,それ に対応する環境物品の生産を刺激し,くわえて 新製品の開発の誘因を生み出す。また,「普遍的 環境問題」が生じている現代の環境問題への対 処策を考える場合,環境負荷の低減が求められ る経済活動は生産活動に限定されない。ライフ スタイルそのものが発生源となっているため,
消費活動の質的な変化が求められる。
本稿の構成は次の通りである。第1I節では,
環境技術,情報,知識および学習といった分析 に必要な諸概念の整理をする。第Ⅱ1節では,環 境物品貿易の自由化効果について検討する。そ して,第IV節では,本稿の結論および今後の課 題を述べ,むすびとする。
1I.環境技術と環境物品一諸概念の整理 1.環境技術について
(1)環境技術の定義
まず,鍵概念である環境技術の定義から検討 する。環境技術に関する伝統的な分類として,
エンド・オブ・パイプ。とクリーナープロダクショ ンがある。ただし,これらは生産技術に注目し た分類であり,本稿が対象とする環境技術の内 容にそぐわない。生産技術に限定される「狭義 の技術」ではなく,「広義の技術」に注目しなけ ればならない。
原[1960]によれば,定義に関して種々の論 争がある「狭義の技術」と対照的に,「広義の技 術」については,コンセンサスが成立している。
その「広義の技術」とは,「一定の目的を達成す る方法を意1床し,此目的を達成する為の行動の 仕方」(馬場[1936]p.7)である。本稿における 環境技術を,「環境負荷の低減という目的を達成 するための行動の仕方」とひとまず定義してお
日野道啓
く。
広義の技術は,概して物的な補助手段(機械 や道具等)によって実施される。その場合,広 義の技術の実施は,物的な補助手段を用いるた めの技術に制約されることになる。馬場[1936]
は,物的な補助手段を「技術的手段」と呼び,
技術的手段を用いるための技術を「器具的技術」
と呼んだ。
近年では,新たな技術的手段が開発され,器 具的技術の重要性は低下している。もっとも,
技術的手段のなかには,高度の器具的技術を要 求するものもある。しかし,中長期的には,高 度の器具的技術を要求する技術的手段は,低度 の器具的技術を要求する技術的手段に代替され ていく。したがって,今日の広義の技術とは,
事実上,その多くが技術的手段を意味している。
環境技術の場合は,環境物品が技術的手段に 相当する。環境技術とは,事実上,その多くが 環境物品という技術的手段を意味すると理解で きる。したがって,環境物品の普及とは,原則 として,環境技術の普及を意味する。ただし,
より正確にいえば,環境物品は,環境負荷の低 減に資する一定の潜在的要素を具備しているも のに過ぎない。仮に,器具的技術が未熟でなかっ たとしても,環境物品が環境負荷の低減に資さ ない他の用途に用いられる場合(いわゆる「デュ アルユース問題」)もある。また,既存の有り触 れた物品であっても,新しい器具的技術が発見 されれば,環境物品になりえる。環境物品の普 及=環境技術の普及ではない。環境物品は,環 境負荷の低減を実現するための外的条件を提供 するものに過ぎない。環境物品を有効に活用す ることで,環境技術は実施される。
さて,上記では,環境物品の「使用」の過程 に焦点をあてたが,環境物品を有効に活用する ための器具的手段の実施過程は,それだけに留 まらない。環境物品の「選択」および「購入」
は,環境負荷が相対的に高い代替財の生産およ び消費を抑制する効果をもつ。結果として,環 境負荷の低減につながる。また,環境物品の「修 繕」は,より長期にわたる「使用」を可能にし,
環境物品の大量生産,大量廃棄という事態の回 避につながる。このように多様な器具的手段の 実施過程は,「消費」という用語で統一的に把握 できる。つまり,環境物品を有効に活用するた
めの器具的手段は,消費者の環境物品に対する,
「選択」,「購入」,「使用」,「維持」,「修繕」,「廃 棄」の6つの過程に関連する。以上より,本稿 では,環境技術の定義を次のように定義する。
「環境負荷の低減に資するような環境物品の消 費の仕方」である。
(2)その他の特徴
最後に,環境技術の特筆すべき2つの特徴に ついて論じる。第1に,技術と効用についてで ある。通常,技術と効用は密接に関連する。た だし,本稿が焦点をあてる環境技術の実施は,
人間の欲求を充足させるとは限らない。そもそ も環境問題とは,社会問題であり,個人問題で はない。個人の欲求の追求による,負の結果で ある。しかし,エココンシューマーの増加は,
環境技術の個人的選好と社会的選好を一致させ よう。また,資源節約型の環境技術は,一定程 度自生的に普及するだろう。また,環境問題へ の関心の高まりは,企業の社会的責任(CSR) 活動を後押しするだろう。しかし,環境技術は,
本 来 的 に 個 人 の 欲 求 を 充 た す も の で は な い た め,その普及は自生的に生じにくい。したがっ て,環境技術を普及させる政策に注目しなけれ ばならない。
第2に,潜在技術についてである。潜在技術 とは,ある時点において,社会で用いられてい ない技術をさす(馬場[1936])。本稿が焦点を あてる環境物品には,潜在技術は含まれない。
しかし既存の環境物品の普及は,潜在技術の顕 在化を後押しする誘因を提供するだろう。
2.技術と'情報および知識 (1)情報と知識
情報とは,主観的確率分布に変更をもたらし,
意思決定に影響を及ぼすものである(Arrow [1974])。各主体は,限りがあるものの,シグナ ルを受ける能力(情報処理能力)をもち,現在 あるいは将来受ける可能性のあるシグナルの範 囲 に つ い て の 一 組 の 期 待 を 持 っ て い る 。 こ の シ グナルの空間における事前的な確率分布に変更 をもたらすものがシグナルである。一方,知識 とは,信念であり,各主体の行動を通じて形成 されるものである。各主体に蓄積されていくも のであるため,情報をフローの概念として把握
すれば,知識はストックの概念として把握でき る。行動には不確実がともなうが,知識は行動 の結果をより良く保証する。
知識は多様な性質をもつため,次の2つ観点
から整理する。第1に,Hayek[1949]による
整理である。第1の知識は,専門的な集団によっ て共有される信念であり,利用可能な最良とさ れるものである。科学的知識と一般に呼ばれる ものは,その一例である。特定の集団によって 合意されたものであるため,「合意的知識」と呼 んでおく。第2の知識は,個人的な信念であり,時と場所に依存するものである。この知識は,
たえず変化する外界から発せられる情報に基づ いて,瞬時に形成され,その役割を果たす。
Hayek[1949]は「場の知識」と呼んだ。
第2に,知識の形成過程に注目すると,知識 を「形式知」と「暗黙知」に整理できる。形式 知とは,当該主体によって,意識下で明示的に 形成されたものである。当該主体はその形成の 過程,その存在およびその内容を認識できる。
一方,暗黙知とは,個々の諸要素(「近位項」)と 諸要素を包括するもの(「遠位項」)の結合によっ
て形成される(Polanyi[1966])。当該主体に
よって,暗黙裡に形成されたものである。その 形成過程の説明はおるかその存在さえ認識する こ と が 困 難 で あ る 。 し た が っ て , そ の 内 容 の 把 握も難しい。ただし,暗黙知は,注意深い観察 によって,その因果関係を明示化できる(=形 式知化できる)要素も含まれる。ただ,当然な がら,暗黙知そのものが表出伝達可能であるわ けではない。しかし,本稿が焦点をあてるのは,形式知化が一定程度可能な暗黙知である。
表1は,上記の2種類の区別に基づいて,知 識 を 整 理 し た も の で あ る 。 知 識 は 4 つ に 分 類 で きる。第1に,形式知でかつ合理的知識を,A 群と呼ぶことにする。この種類の知識は一般的
な信念をさし,多くの主体に共有化された信念 である。科学的知識等がこれに該当する。第2
に , 形 式 知 で か つ 場 の 知 識 を , B 群 と 呼 ぶ こ と にする。特定の人々に共有化された技術的手段 の特殊な活用方法などである。第3に,暗黙知 でかつ合意的知識を,c群と呼ぶことにする。
この種類の知識は,自生的でかつ共有化された 信念である。明文化されていない社会のルール などが該当する。第4に,場の知識でかつ暗黙 知を,D群と呼ぶことにする。この種類の知識 は,日常的な行動を通じて形成された個人的な 信念である。その内容は千差万別である。
(2)学習
知識の形成による, 慣性をもつ情報処理能力 の変化を学習とする。情報処理能力は,シグナ ルを獲得する度に,随時変化する。学習とは,
そのような不断の変化ではなく,′慣性をもち,
また緩'慢な変化によって特徴づけられものであ る。比喰的に論じれば,均衡点への収赦に関す る連続的な変化と,均衡点を打破する突発的な 変化の相違である。
上記の通り,環境物品とは,環境負荷の低減 に資する一定の潜在的要素を具備したものであ り,消費者に環境負荷の低減に関して従来と異 なる特定の行動を可能にさせるものである。そ して,新しい行動は,その過程で当該主体に何 らかの知識を形成させる場合がある。環境物品 の「使用」が困難な場合であればあるほど,そ の知識は当該主体の努力によって,意識的に形 成される。環境物品の「使用」が容易であって も,継続的な使用は,当該主体に暗黙知を形成 させるかもしれない。そして,知識の形成は,
当該主体に行動の定着をある程度保証すること になる。
形式知は,安易に破棄されることは少なく,
また,意識的な活用ができるため,応用的な行 動を可能にするかもしれない。一方,暗黙知は,
形式知と比べて,意識的な活用は容易でなく,
その応用も容易でないといえる。また,行動の
表 1 知 識 の 4 分 類
合 意 的 知 識 場 の 知 識
形 式 知 A 群 B群
暗 黙 知 C群 D 群
出 所 ) 筆 者 作 成
日野道啓
継続を保証する程度も相対的に低いと考えられ る。当該主体が気付かないうちに,新たな暗黙 知に影響されるかもしれないためである。いず れにしても,その知識の意識的な活用の余地は,
「近位項」に注視する限り,制限されてしまう。
(3)環境技術の普及一「移転」と「定着」−
最後に,環境技術の普及について整理してお く。本稿では,環境技術の普及を次の2つの側 面から把握する。第1に,「移転」である。これ は,複数の主体に注目し,同一の環境技術が主 体 間 に 広 ま っ て い く 過 程 を と ら え る も の で あ る。この過程では,学習が必ずしも必要でない。
なお,移転には,技術の送り手と受け手を結び つける,移転チャネルの存在が欠かせない。本 稿では,市場という移転チャネルを通じた価格 という情報伝達による移転に注目する。第2に
「定着」である。これは,単一の主体に注目し,
当該主体が新たな技術を利用できるようになる 過程をとらえるものである。この過程では学習 が必要になる。
Ill.環境物品貿易の自由化効果 1 . 3 つ の 自 由 化 効 果
環境物品貿易の自由化効果を消費に関連させ て考えると,次の3つに整理できる。第1に,
価格による知識の補充である。Hayek[1949]
が主張した通り,価格という情報は,各主体の 不足する知識を補う効果をもつ。そもそも価格 は,一定の情報量である。買い手である消費者 にとって消費の意思を示し,また売り手である 生産者にとって生産の意思を示す。一方,商品 に多様性があり限定合理下において,消費者は,
選好の対象となる商品の基本性能や生産方法等 を完全には知らない。とくに,「商品の非特性」
と呼べる,商品の「使用」でその性質が顕在化 しないもの,または「使用」に影響を及ぼさな い性質については知らない。環境物品の自由化 における価格の役割を改めて考えると,Hayek [1949]の分析と異な9,補われる知識は場の知 識 ( B お よ び D 群 ) で は な く , 合 意 的 知 識 ( A 群)である。自由化による価格の変化という情 報を媒介にして,環境物品の消費を誘導する。
その結果,環境物品の消費が発生し,消費者の 不足する環境技術に関する知識が補われたと考
えられる現象が生じる。学習をともなわない,
一過′性の行動の変化である。
本来,価格では伝達が難しい 情報であるが,
政策によって作り出した価格差あるいは価格の 低下によって伝達を試みる。くわえて,価格を 引き下げることで,「購入」を刺激する作用もも つ。その結果,消費者は,環境負荷の低減に資 する物品を,暗黙裡に「選択」,「購入」するので ある。消費者の意識に働きかけ「選択」のみに 影響を与えるエコラベルとは,異なる効果であ る。その一方で,環境物品の「使用」には直接 的な影響は及ばない。ただし,対価をともなっ て入手した物品であるため,「使用」する可能性 は極めて高いといえる。
第2に,環境技術の普及の潜在性とその更新 性である。市場には「契約関係の再構築機能」
がある。関係を構築する主体の組み合わせおよ び取引される環境技術が事実上無制限である。
環 境 物 品 貿 易 は 環 境 技 術 を 普 及 さ せ る 有 力 な チャネルであるといえる2.
第3に,環境物品の消費による学習効果であ る。環境物品貿易の自由化は,上記の通り,「選 択」,「購入」そして間接的に「使用」に影響を及 ぼし,その結果,学習効果を生む。とくに,環 境物品の「使用」は,当該主体に特定の行動を 生じさせ,その過程で,当該主体に新たな知識 を形成させる可能性をもつ。「選択」と「購入」
についても,その継続は,当該主体に,価格の 低下という「近位項」と環境負荷の低減という
「遠位項」を結びつける可能性をもつ。
2.定着効果とその支援策の重要性 (1)移転について
上記の3つの効果を移転と定着という観点か ら,さらに検討する。
前節で述べた,第1の効果である「価格によ る知識の補充」,そして第2の効果である「環境 技術の普及の潜在性とその更新性」は移転に関 連するものである。実施される環境技術は,取 引される環境物品の種類によって異なる。「環境 対策に必要な物品」の場合は,「使用」によって 環 境 技 術 が 実 施 さ れ る 。 環 境 対 策 を 誘 発 し 環 境 負荷の低減を実現する。そして,「類似の用途を
も つ 物 品 に 比 べ て 相 対 的 に 環 境 負 荷 の 低 い 物 品」の場合は,環境負荷の低減は消費よりも,
主 と し て 生 産 を 通 じ て 実 現 さ れ る 。 消 費 は , 当 該生産を誘発する作用をもち,また代替財の生 産のディスインセンティブとなる。
ただし,移転による環境効果には次の2つの 留意点がある。第1に,いわゆる「N字カーブ のジレンマ」である。環境負荷の低い物品であっ ても,その利用数の増大によって,環境負荷の 低減が相殺されてしまう場合がある。環境物品 の大量生産,大量廃棄は,もっとも避けるべき 事態である。第2に,価格設定の困難さである。
その原因の①として,関税および非関税障壁の 削減・撤廃による価格の低下は,実のところ容 易ではない。なぜなら,類似の代替財と関税上 の区別が容易でないためである。物品の区分に は国際統一商品分類(HS)が利用されるが,
HS6桁分類でも分類できない商品は多々ある。
原因の②として,価格調整による価格の上昇で ある。当該物品に対する世界的な需要が増大し 数量調整によって対応できない場合,価格調整 が生じる。結果,当該物品の消費は落ち込むこ
とになるが,類似の代替財が存在するケースで は,消費の落ち込みにくわえて代替財の消費拡 大という事態を生むかもしれない。さらに,根 本的な問題点である原因の③として,知識の問 題を指摘できる。環境物品の選定は,A群の知 識に基づくものであり,その客観的根拠は必ず しも担保されていない。しかし,こうした事態 は,潜在技術の顕在化,つまり新しい環境物品 が市場に供給されることでさらに深刻化する。
新たな技術的手段の登場それ自体は望ましいこ とであるが,合意的知識はその都度,更新の必 要性に迫られる。ただし,現状のWTOを舞台 にした交渉では,コンセンサスを得た更新方法 はない。
(2)定着について
以上の留意点がある移転と異なり,第3の効 果である「消費による学習」は定着に関連する も の で あ る 。 定 着 は 次 の 3 つ の 効 果 を 生 む 。 第 1に,履歴効果である。価格水準に関係なく,
環境物品の継続的な「選択」および「購入」を 実施させるものである。第2に,波及効果であ る。「選択」,「購入」および「使用」以外の他の 消 費 行 動 あ る い は 他 の 環 境 物 品 の 消 費 を 通 じ て,環境技術を実施させるものである。物品の
「修繕」の実施は,大量生産,大量廃棄という事 態を回避しよう。第3に,応用効果である。こ れは,環境物品の新しい消費の仕方,つまり新 しい器具的手段を発見および実施させるもので ある。
履歴効果は,「選択」および「購入」の実施に よる,AおよびC群の知識の形成によって生じ る可能性がある。同様に,波及効果は,「使用」
によるBおよびD群の知識の形成,応用効果は,
「使用」によるBおよびD群の知識の形成によっ て生じる可能性がある。
(3)形式知化の重要性
上記の通り,環境物品の自由化は,環境技術 の移転効果にとどまらず,定着効果をもたらす と考えられる。ただし,学習の結果形成される 知 識 の 多 く は , B お よ び D 群 で あ り , 暗 黙 知 を 形式知に変換する支援策(たとえば,技術支援・
指導,環境教育等)によって,その効果はさら に高まると考えられる。
IV.むすび
本稿では,環境技術に注目して,環境物品貿 易の自由化効果について再考した。その結果,
日野[2009]やStern[2007]が注目した移転効 果 だ け で は な く , 学 習 効 果 に よ っ て 生 じ る 定 着 効 果 が よ り 重 要 で あ る と の 結 論 を 得 た 。 く わ え て,環境技術の定義を検討し,移転および定着 効果について仮説を提示し,さらに技術指導・
支援の意義について確認した。
最後に,今後の課題を述べる。第1に,仮説 の検証である。自由化による代替効果の検証や,
技術支援・援助と貿易あるいは環境負荷の関係 を検証しなければならない。後者に関しては,
技術支援・援助の実施は暗黙知を形式知化させ る作用をもつと把握することで,貿易あるいは 環境負荷に及ぼす効果を分析する。第2に,
APECを舞台にした自由化交渉の検討である。
本 稿 で は W T O に お け る 自 由 化 交 渉 を 素 材 に して分析したが,周知の通り,近年交渉は停滞 している。その一方で,自由化交渉にWTOよ りも長い歴史をもつ,APECの意義は高まって いる。
(付記)本稿は,日本生命財団研究助成(平成23
H野道啓
年度環境問題研究助成)「非関税障壁への対応を めぐる環境物品交渉の新たな展開の研究」およ び科学研究費補助金若手研究(B)「環境技術移転 と学習作業をもつ環境物品貿易の交渉実態に関 する研究:APECを中心に」の成果の一部であ
る。
参 考 文 献
Arrow,K.J.[1974]TheLimitsofO噌江"如一
伽",W.W.Norton,NewYork(村上泰亮 訳[1976]『組織の限界』岩波書店).Hayek,F.[1949]んα加伽alis加α〃Eco‑
nomic0γ"er,Routledge&KeganPaul, London(嘉治元郎・嘉治佐代訳[1990]『ハ
イ エ ク 全 集 3 − 個 人 主 義 と 経 済 秩 序 』 春 秋 社).
OECD[2002]乃加α,で2sSus加加α"eHousehold Cons""ゆ伽"?T初"ぬα"α肋/〃esin OECDCountries,Paris.
Polanyi,M.[1966]TheTacitDimension, Routledge&KeganPaul,London(高橋勇
夫訳[2003]『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫.Stern,N・[2007]TheEconomicsofα〃α"
C〃"ge:TheS花γ〃Review,Cambridge UniversityPress,Cambridge.
馬場敬治[1936]「技術と社会』日本評論社.
原光雄[1960]『技術論』弘文堂.
日野道啓[2009]「現代の環境問題と市場的手段 の意義」『経済学研究(九州大学)』76(1):
147‑170.
日野道啓[2011]「環境物品交渉の性質と構図」
『日本貿易学会年報』48:91‑99.
注
1本稿における消費の定義は,「消費者の一連 の行動」(OECD[2002])である。つまり,消 費者の当該物品に関する,「選択」,「購入」,「使 用」,「維持」,「修繕」,「廃棄」の過程をとらえ
るものである。
2詳し〈は別稿にて論ずる。