数列の収束
前節で、有理数の体系から実数が定義されました。もっとも本質的だったのは「実数の 連続性」でした。実数の連続性がきちんと定義できたので、数列の収束や関数の連続性に ついても厳密に議論できるようになりました。
高校時代に、数列の収束について勉強しました。ある数列{an}∞n=1がn→ ∞のときα に収束するとは、
「数列anにおいて、nを限りなく大きくするとき、anが一定の値αに限りなく近づく」
ことだと、高校の教科書で説明されています。しかし、「nを限りなく大きくする」とか、
「anが一定の値αに限りなく近づく」というのはどういうことでしょうか? 実は、ニュー トンとライプニッツが17世紀の終わりごろに微分積分学を発見して以来100年以上の間、
この言葉の意味は曖昧でした。この言葉の意味が現在理解されているように厳密に定義 されたのは、微分積分学の発見から150年ほどたった19世紀の前半から半ばにかけてで す。19世紀になって、現在でも使われているε-δ論法という技法が開発され、数列の収束 や関数の連続性が厳密に議論できるようになりました。さらに20世紀の中頃に、無限大 や無限小を直接扱えるような超準解析(nonstandard analysis)という枠組みも発見されま した。この節では、19世紀以来微分積分の分野で標準となっているε-δ論法について説明 します。
高校時代に、「n→ ∞のとき1/n→0である」、つまり
n→∞lim 1 n = 0
であることを学びました。このことをもう少しきちんと考えてみましょう。すぐわかる ことは、どんな正の数、例えば0.01を持って来ても、nがある数以上ならば1/n < 0.01 を満たすということです。この場合は、n ≥ 101であれば、1/n < 0.01となります。さ らに、0.00001を考えても、n≥ 100001ならば、1/n < 0.00001となります。任意の正数
ε > 0が与えられても、前節やったアルキメデスの原理より正整数N0を十分大きくとれ
ば1< N0εとなります。よって、n ≥N0ならば1/n < εが成り立ちます。これを踏まえ て、 数列{an}∞n=1の収束を次のように定義します。
定義 1 任意の正数ε > 0に対して、ある正整数N0が存在し、n ≥ N0 ならば
|an−α| < ε となるとき、数列{an}∞n=1はα ∈Rに収束する (converge)といい、
αをその極限 (limit)という。
この定義の「気持ち」を理解するために、高校数学の数列の収束の定義を次のように書 き換えてみましょう:
「正数ε >0をどんなに小さくとっても、
nを十分大きくとれば|an−α|< εが成り立つ」
これで、だいぶ定義1に近づいてきましたが、まだ「nを十分大きくとれば」の部分が曖 昧です。そこでその部分を、「あるN0 ∈Nが存在し、nがn≥N0となるぐらい大きけれ ば」と思うわけです。まとめると、定義1の「気持ち」は次のようになります。
「正数ε >0をどんなに小さくとっても、あるN0 ∈Nが存在し nをn≥N0となるぐらい大きくとれば、|an−α|< εが成り立つ」
この定義は、なかなか分かりにくいと思いますが、練習問題を解くことでなれるようにし てください。
さて、高校で習った通り、n → ∞とき数列anがα に収束するということを、
n→∞lim an=α
と表します。また、収束の定義を論理記号を用いて
(∀ε >0)(∃N0 ∈N)(∀n∈N) [n≥N0 =⇒ |an−α|< ε]
などと書きます。よって、この否定、つまり「数列anがαに収束しない」ということを 論理記号で書くと、
(∃ε >0)(∀N0 ∈N)(∃n∈N) [n≥N0 かつ |an−α| ≥ε]
になります。これを通常の日本語に直すと、
ある正数ε >0が存在して、任意の正整数N0に対し ある整数n ≥N0があり、|an−α| ≥εとなる
のようになります。日本語の方は、自分の好みやセンスにしたがって書き直してください。
演習問題: (1)命題「数列{1/n}∞n=1がn→ ∞のとき0に収束する」が成り立つことを 定義1に従って証明する際に、アルキメデスの原理が使われていることを確認しなさい。
(2)命題「数列{1/n}∞n=1がn→ ∞のとき0に収束する」が真であることを仮定すれば、
アルキメデスの原理が証明できることを示しなさい。(ヒント:与えられた正実数a, bに 対して、ε:=a/bとおく。)
この演習問題から、命題「limn→∞1/n = 0」とアルキメデスの原理は同値であること がわかります。さて、収束の定義になれるためには、つぎのような問題を数多くこなすこ とが必要です。
演習問題: 以下のことを、数列の収束の定義に従って示しなさい。ただし、数列{an}, {bn} ⊂Rはそれぞれα, β ∈Rに収束するとします。
(1) lim 1
n+ 1 = 0 (2) lim 1
2n = 0 (3) lim(an+bn) =α+β
(4) lim
n→∞(can) =cα, c∈R (5) lim
n→∞(anbn) =αβ (6) lim
n→∞(an/bn) =α/β ただし、bn, βは0でないものとする。
(7) ある自然数N0が存在し、全ての自然数n≥N0についてan ≤bnならば、α≤βで ある。
(8) (挟み撃ちの原理)さらに数列cnを考える。ある自然数がN0が存在し、全ての自然
数n≥N0についてan≤cn ≤bnであり、かつα=β ならば、cnもαに収束する。
ここで、数列の収束について基礎となることを述べます。まず、数列{an}が単調増加 (monotone increasing)であるとは、全てのn ∈Nについてan ≤ an+1が成り立つことで す。また、数列{an}が上に有界 (bounded from above)であるとは、ある実数M ∈Rが 存在し、全てのn ∈ Nについてan ≤ Mが成り立つことです。次の定理が、非常に重要 です。
定理 2 上に有界で単調増加な数列{an}∞n=1は、収束する。
証明:仮定により、集合X :={an}∞n=1 ⊂R は上に有界なので、上限supXが存在する。
上限の定義より、すべてのn ∈Nに対してan ≤supXである。また、任意のε > 0に対 してaN0 ∈Xが存在し、supX−ε < aN0 ≤ supXとなる。すると、数列{an}の単調性 より、全てのn≥N0について
supX−ε < aN0 ≤an≤supX つまり supX−an < ε が成り立ちます。これは、まさに
n→∞lim an= supX
であることを意味します。
さらに、数列{an}が、単調減少(monotone decreasing)である、下に有界(bounded from
below)であるということも同様に定義できます。次の系が成り立ちます。
系 3 下に有界で単調減少な数列{an}∞n=1は、収束する。
数列が上にも下にも有界であるとき、単に有界 (bounded)であるといいます。さて、数 列{an}∞n=1の部分集合Y ⊂ {an}が無限個の要素を持つとき、Y をもとの数列の部分列 (subsequence)といいます。しばしば、Y を{ank}のように書きます。次の定理が成り立 ちます。
定理 4 数列{an}∞n=1が有界ならば、収束する部分列{ank} ⊂ {an}が存在する。
証明: 数列{an}が有界なので、有界閉区間[α1, β1]が存在して、全てのn∈Nについて an ∈ [α1, β1]が成り立ちます。ここで、部分区間[α1,(α1+β1)/2], [(α1 +β1)/2, β1]を考 えると、少なくともどちらかの閉区間には{an}の無限個の点が含まれているはずです。
そのような部分区間を[α2, β2]とします。明らかに、[α2, β2] ⊂ [α1, β1]となっています。
さらに、部分区間[α2,(α2 +β2)/2], [(α2 +β2)/2, β2]のうち無限個の{an}の点を含む方 を、[α3, β3]とします。このようにして閉区間[αk, βk]を定義していきます。つまり、全て のk∈Nについて、
(i) 閉区間[αk, βk]内には、{an}の要素が無限個含まれる。
(ii) [αk, βk]⊂[αk−1, βk−1]⊂[α1, β1]、かつβk−αk= (αk−1−βk−1)/2 = (α1−β1)/2k−1. となっているとします。このとき、数列{αk}は上に有界な単調増加列であり、数列{βk} は下に有界な単調減少列なので、どちらも収束列であることがわかります。さらに、上の (ii)より、2つの数列の極限は一致することもわかります。その極限をγ と書くことにし ます:γ := limk→∞αk = limk→∞βk. ここで、数列{an}の部分列を、次のように選びま す。まず[α1, β1]からは、a1を選びます。さらに、k > 1については、閉区間[αk, βk] に 含まれる無限個のanの中で、添字nがn > nk−1を満たす最も小さいものをnkとしま す。するとnk > nk−1であり、またank ∈ [αk, βk]、つまりαk ≤ ank ≤ βkが成り立ちま す。よって、挟み撃ちの原理から{ank}も収束列でその極限はγであることがわかります:
limnk→∞ank =γ. つまり、{ank}が求める収束部分列でした。
この節の最後に、数列の収束に関してもっとも重要な概念であるCauchy列について考 えてみましょう。
定義 5 数列{an}∞n=1がCauchy列 (Cauchy sequence) であるとは、
(∀ε >0)(∃N0 ∈N)(∀n, m∈N) [n, m≥N0 =⇒ |an−am|< ε]
が成り立つことである。
Cauchy列の定義を日本語に翻訳すると、
「任意の正数ε >0 に対してある自然数N0が存在し、
自然数n, mがn, m≥N0 を満たすならば|an−am|< εとなる」
のようになります。日本語の方は、自分のセンスと好みに合わせて書き換えてください。
この定義は少し分かりにくいかもしれませんが、要するに
「正整数n,mが大きくなるにつれて、anとamはいくらでも近くなるよ」
ということです。次の定理が、数列の収束に関してもっとも重要なものです。
定理 6 数列{an}∞n=1が収束列であるための必要十分条件は、{an}がCauchy列 であることである。
証明: (十分性) 数列{an}∞n=1がCauchy列であると仮定します。そのとき、{an}が有界 であることを示しましょう。定義より、ある自然数N0 ∈Nが存在し、n, m≥N0ならば
|an−am| <1となります。特にm =N0として、
|an−aN0|<1 つまり aN0 −1< an< aN0 + 1, ∀n≥N0
がわかるので、
M := max{a1,· · · , aN0−1, aN0 + 1}, m:= min{a1,· · · , aN0−1, aN0 −1}
と定義すると、すべてのn∈Nについてm ≤an≤M がなりたつことがわかり、{an}が 有界であることが示せました。
数列{an}が有界なので、収束部分列{ank} ⊂ {an} が存在します。その極限をγとし ましょう。以下、数列{an}自身がγに収束することを示します。今仮定されていること、
分かっていることは、{an}はCauchy列であるということと{ank}がγに収束するという ことです。つまり、「任意のε >0に対して、
あるN0 ∈Nが存在し、n, m≥N0ならば|an−am|< εが成り立ち、かつ あるN1 ∈Nが存在し、nk ≥N1ならば|ank −γ|< εが成り立つ」
ということです。よって、N2 := max{N0, N1}とおくと、n, nk ≥N2ならば
|an−γ| ≤ |an−ank|+|ank−γ|<2ε
がわかります。これは、{an}がγに収束することを意味します。以上で、{an}が収束列 であることが示されました。
(必要性) 数列{an}が収束列であれば、Cauchy列であることを示すのは、そんなに難し くありません。演習問題にします。
演習問題: 数列{an}が収束列であれば、Cauchy列であることを示しなさい。