牛 黎 濤
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(2) 36. で 支 配 的 地 位 に あ り、 自 らの 、 しか もそ の財 産 を相 続 す べ き 子 供 を生 育 し て い く(大 内 兵 衛 ほ か 、1971)と. 論 じて い る 。 ま た 、 一 夫 一 妻 制 の誕 生 は. 大 量 の 富 が 個 人 の 手 、 し か も男 子 の手 に 集 ま り、 ま た そ の富 が 他 の何 者 の 子 供 で もな く、 そ の男 子 の子 供 に受 け継 がれ て い か な けれ ば な ら な い こ と に よ る も の とい う指 摘 も あ る(大. 内 兵 衛 ほ か 、1971)。 つ ま り、 一 夫 一 妻. 制 が 対 偶 婚 と違 う とこ ろ は 、婚 姻 の 関 係 が よ り堅 固 な もの とな った 点 を 挙 げ る こ とが で き よ う。 こ の 時 代 の家 庭 は、 経 済 上 の 理 由 か ら兄 弟 姉 妹 を家 に 一 人 しか 残 さず 、 他 の 兄 弟 は 嫁 入 り ・婿 取 りな どで 、 別 に 家 を構 えた 。 出 家 して僧 にす る場 合 もあ るが 、要 す る に一つ の住 居 で は、子 供一 人 しか親元 で生 活 で きな か った の で あ る 。 ま た 、 甘 粛 省 南 部 の チ ベ ッ ト族 の 大 多 数 は 、 ・長 男 に嫁 を 迎 え る か 、 幼 女 に 婿 を取 る こ と に して い た 。 勿 論 個 別 の 家 庭 で は 家 の後 継 者 を作 る た め に 、 末 の息 子 に嫁 を迎 え る か 、 長 女 に婿 を 取 る こ と に も して い る。 こ う した独 特 な婚 姻 関 係 は 、 チベ ッ ト地 域 の 大 部 分 で 、 一 夫 一 妻 と な っ た 客 観 的 な原 因 の一 つ で あ ろ う。 な お 、 チベ ッ トで は 兄 弟 或 い は姉 妹 が結 婚 して も、 夫 婦 ど う しで 同 居 す る こ と は見 られ な い 。 チ ベ ッ ト族 の 家 庭 は 大 体 嫁 姑 同居 を嫌 うが 、 テ ン トの よ うな 移 動 式 住 宅 と遊 牧 民 の 生 活 習 慣 の ズ レが 要 因 とな り、 嫁 姑 の 間 で は 団 結 を守 りに く く、 一 緒 に 仲 良 く暮 ら し に くい と考 え られ た か らで あ ろ う。 つ ま り、 チ ベ ッ ト族 で は 数 世 代 同 居 とい っ た 大 家 族 は 、 余 り見 られ な い の で あ る 。 た だ し、 特 に牧 畜 地 域 に 見 られ る こ の よ うな一 夫 一 妻 制 の 家 庭 は 、 今 日 で言 う夫 婦 二 人 と子 供 一 人 の よ うな 核 家 族 で も な い 。 封 建 農 奴 制 社 会 の チ ベ ッ ト族 の 家 庭 は 父 母 、 子 供 と祖 父 母 か らな っ て い る の で あ る 。 この よ う な小 規 模 の 家 庭 が 形 成 され た 直 接 の 原 因 と して 、 ま ず 遊 牧 民 族 は水 と草 に 近 い と こ ろ で 生 活 しな けれ ば な らな い こ とが 挙 げ られ る 。 つ ま り、 夏 秋 冬 とい う年 に3度. の移 動 が あ る た め 、 引 っ越 す 際 に は 生 活 道 具 だ け で は な く. 食 料 な ども 運 ば な け れ ば な らな い こ と を考 え る と、 大 家 族 で は必 然 的 に荷 物 も 増 え、 移 動 に支 障 を き た す こ とが 考 え られ よ う。 ま た 、 解 放 前 の 遊 牧 民 族 は 牧 場 地 主 や 寺 院 な ど、 領 主 に よ る支 配 に よ っ て 生 活 そ の も の が 非 常 に貧 しか っ た 。 そ の た め 、 大 家 族 で あれ ば あ る ほ ど生 活 を維 持 す る こ とが 難 しい の で あ る。 さ ら に、 封 建 農 奴 制 の 下 で チ ベ ッ ト民 族 は 宗 教 の教 え を 守 らな けれ ば な らな い 。 チベ ッ ト寺 院 の規 定 に よれ ば 、 二 人 以 上 の 息 子 の.
(3) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の一 考 察 ‑恋. 愛 ・結 婚 ・家族 の モ ラル に つ い て‑. あ る 家 庭 は そ の うち の 一 人 を ラ マ僧2に しな け れ ば な らな い の で あ る。 こ う して遊 牧 民 族 の 家 庭 も相 嫁 同 居 を好 ま な い た め 、 家 庭 は 必 然 的 に小 規 模 とな っ た と考 え られ る の で あ る 。 一 方 、 農 業 地 域 に大 家 族 が 見 られ る 。 例 え ば 、 四 川 省 ア バ 地 域 の チベ ッ ト族 の 家 族 に は 、 漢 民 族 の 大 家 族 の 影 響 を受 け た た め 、 十 数 人 もの 家 族 を 有 す る 大 家 族 も 見 られ る 。 こ こ で は伝 統 的 に家 族 が 多 け れ ば 多 い ほ どよ い と され 、 数 世 代 同 居 が 家 族 和 睦 、 家 業 繁 昌 の象 徴 で あ る と され て い る の で あ る。 こ の よ うな 家 庭 は 、 自然 と人 々 の 賞 賛 と尊 敬 を受 け る。 さて 、 チ ベ ッ ト族 の 一 夫 一 妻 の 家 庭 で は 、 夫 婦 間 の 分 業 が チ ベ ッ ト民 族 の 習 慣 に従 っ て お り、 男 は 外 、 女 は 内 の こ とを切 り盛 り し、 共 に働 き な が ら子 供 を養 うの で あ る 。例 え ば 一 般 的 な 家 庭 の場 合 の財 産 は 、 牛10頭 余 り と馬1〜2匹. 、 さ らに テ ン トー 丁 と各 種 生 産 ・生 活 道 具 で あ る 。 夫 は こ れ. らや お 金 を 管 理 す る だ け で な く、 放 牧 や 商 売 、 裁 縫3な ど に携 わ り、 各 種 社 会 活 動 に 参 加 して 交 際 や 買 物 な ど を行 うの で あ る。 ま た 、 子 供 の 結 婚 の 決 定 権 も持 つ が 、 食 料 を 大 量 購 入 で あ る とか 、 多 く の家 畜 を売 りさば く よ うな 大 事 の 時 は 、 夫 は 家 族 に諮 る こ とも あ る の で あ る 。 つ ま り、 夫 が 家 長 な のだ が 、 家 族 ひ と りひ と りの 地 位 が大 体 平 等 で あ る こ とが チベ ッ ト族 の 家 族 の特 徴 で あ るた め 、 家 長 に 何 か 特 権 が あ る わ け で は な い 。 一 方 、 妻 の 仕 事 は 主 に 乳 搾 りや 蘇 油(牛. 羊 の 乳 を煮 詰 め た 油)作. り、 牛 糞 拾 い 等 の 家. 事 をす る の で あ る。 ま た 、 青 裸 麦 引 きや 放 牧 な ど に長 じ る女 性 も 少 な くな い の で あ る。 こ の よ うな 仕 事 に よ って 親 は 子 供 を 育 て 、 息 子 が20歳 、 娘 が 18歳 に な る ま で に 、 両 親 が 結 婚 を 認 め て あ げ る の で あ る 。 と こ ろ で 、 夫 が 老 い た り亡 くな っ た りした 場 合 につ い て 見 て み る と、 農 業 地 域 で は 、 家 の 財 産 を 父 系 家 族 が 相 続 す る。 つ ま り、 家 庭 に成 年 の 親 戚 や 養 子 が い て も 、 長 男 が 家 長 とな る の で あ る。 と こ ろ が牧 畜 地 域 で は 、 子 供 全 員 が 財 産 の相 続 権 を持 っ て い た の で あ る。 チ ベ ッ ト族 のす べ て の 地 域 で は 、 子 供 が い な い 場 合 は 、 チ ベ ッ ト族 の習 慣 に従 い 、 遺 産 は 寺 院 へ の 布 施 と して 処 理 され た 。 農 奴 の 家 庭 財 産 は 農 奴 主 に横 領 され る こ と も あ っ た 。. チ ベ ッ トの 一 部 辺 鄙 な地 域 で は 、 一 妻多 夫 ・一 夫 多 妻 の 現 象 も 見 られ る が 、 そ れ は 地 域 の割 に人 口が 少 な く、 出家 した 人 間 が 多 い な ど とい う さ ま. 37.
(4) 38. ざ ま な 自然 的 、 歴 史 的 条 件 の 下 で 生 じた 現 象 で あ り、 決 して 主 流 で は な い 。 これ に つ い て は 客 観 的 に 見 な け れ ば な ら な い だ ろ う。. 二 、 自 由恋 愛 につ い て 男 女 が 夫 婦 に な る ま で 必 ず 通 る段 階 と して恋 愛 が 挙 げ られ る が 、 恋 愛 は 自身 に含 ま れ る 人 生 観 や 価 値 観 、 民 族 習 慣 な ど を具 現 す る も の で あ る と言 え る。 愛 情 が温 か く美 しい も の で あ り、 多 数 の 青 年 男 女 に憧 れ られ て い た こ と は 、 い か な る時 代 の 人 々 に と っ て も 同様 で あ ろ う。 まず 、6世. ダ ライ ・ラマ で あ るチ ベ ッ ト族 詩 人 の 倉 央 嘉 措(ツ. ギ ャ ン ツ ォ 、1683〜1706)の. ァ ンヤ ン. 作 品 で 、 チ ベ ッ ト族 の 若 者 が 自由 に 恋 愛 す る. 時 の 真 情 を 表 現 した 恋 歌 を見 て み よ う。 心 の 中 で 熱 烈 に愛 して い る 伴 侶 に な っ て くれ るか と彼 女 に き く と 死 別 す る な ら と も か く と して 生 き て い る 限 り 決 して 離 れ は しな い と答 え た. み んな の中にい る時 わ れ らの 真 情 を あ らわ に しな い で 心 の 中 で 許 して い る な ら 眉 目で そ れ を伝 え れ ば よ い. ホ ト トギ ス が 邸 宅 か ら来 る 春 の息吹 を運ん できた 愛 す る人 に 会 え ば 心 身 共 に 限 りな く喜 ぶ(黄顯. ほ か 編 著 、1985). こ の よ うに 、 恋 愛 か ら結 婚 へ の 発 展 は 、 自然 に 育 まれ る も の で あ る 。確 か にチ ベ ッ ト族 の 近 代 社 会 で は 、 上 流 貴 族 こ そ 子 供 の恋 愛 と結 婚 を制 約 す る こ と もあ る が 、 庶 民 な ら従 来 か ら 自由 恋 愛 で あ り、 両 親 か ら干 渉 され る こ と な く、 自分 か ら相 手 を決 め るの で あ る。 さ ら に牧 畜 地 域 の よ うな広 範 囲 で あ っ て も 、 男 女 双 方 が 意 気 投 合 して い れ ば 両 親 の承 諾 が 不 要 とい う、.
(5) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラル につ い て‑. 自 由 さ も持 ち 合 わ せ て い る の で あ る 。 チベ ッ ト族 の 男 女 恋 愛 は 、 通 常3〜5年. と比 較 的長 く続 く。 そ の 間 、 恋. 愛 関係 に どん な 波 乱 が 起 き て も、 た と え恋 人 が 変 わ ろ う とも 、 両 親 は あ ま り干 渉 を しな い 。 そ の た め、 裕 福 な 家 の 子 供 が 貧 しい 家 の 子 供 を恋 人 に し た た め に、 両者 の 家 柄 が 釣 り合 わ ず 、 両 親 が 不 満 を持 った と して も 「この 子 は な ぜ こ の よ うな 恋 人 を求 め な けれ ば い け な い の 」(チ ベ ッ ト社 会 歴 史 調 査 資 料 叢 書 編 、1989)と. 、 小 言 ひ とつ だ け で 終 わ る と言 われ て い る 。 そ. れ は 、彼 らの社 会 で の 自 由 な恋 愛 が 、積 極 的 な 道 徳 的 意 義 を持 つ た め で あ る。. 1、 古 チ ベ ッ ト写 本 に 見 る恋 愛 観 敦 煙 出 土 の 古 い チ ベ ッ ト文 字 に よ る 写 本 に 、 次 の よ うな 物 語 が 載 っ て い る。 あ る所 に 「 金 波聶 基 」 とい う若 者 が い た 。 人 柄 が とて も よ い が 家 は とて も貧 し く、 飼 っ て い る 羊 も痩 せ て い る 。 彼 は毎 日羊 を飼 い 、 薪 を 拾 い 、 雪 の 日に は 罠 で鳥 を捕 っ て い た 。 あ る 日、 彼 は馬 の 尾 で 罠 を 作 り、 一 羽 の 孔 雀 を捕 ら え た 。 家 に帰 っ て か ら竹 篭 に入 れ て 飼 うこ とに した 。 と こ ろ が 、 翌 日母 親 と共 に 仕 事 か ら家 に帰 った ら、 皿 に は温 か い 食 事 と多 くの お 酒 が 盛 り付 け られ て い た。 食 べ る に は 食 べ た が 、 不 思 議 に思 っ て 考 え 込 ん だ の で あ る 。 そ こ で 彼 は薪 拾 い に 出 か け た よ うに装 っ て 隠 れ 、 部 屋 の 観 察 を始 め る と、 孔 雀 が 籠 か らゆ っ く り出 て き て 瞬 く間 に 美 しい娘 に変 わ っ た 。 そ して 部 屋 を掃 除 した り、 食 事 を作 っ た り し始 め た 。 そ の後 、 金 波 簸 基 は娘 を嫁 に し、 とも に 生 活 し始 め た 、 とい う物 語 で あ る。 こ の 物 語 に は 、 一 般 的 な チベ ッ ト族 の 青 年 が 、 美 し く働 き者 で 心 のや さ しい 女性 を嫁 に と っ て 幸 せ な生 活 を送 りた い とい う憧 憬 を、 十 分 に表 して い る と言 え よ う。 つ ま り、 「孔 雀 で さ え も 受 けた 恩 を忘 れ ず に 返 す 。 人 間 ど う し な らな お さ らだ 」 で あ り、 日本 に も 「 鶴 の 恩 返 し」 とい う、 似 た よ うな 説 話 が あ る 。. 2、 チ ベ ッ ト民 謡 に 見 る 恋 愛 観 チ ベ ッ ト族 の 民 謡4に は 、 愛 を 表 現 す る もの が 相 当 な 数 を 占 め て い る。 例 えば チ ベ ッ ト昌都 地 域 の 民 謡 に は 、 あなたが絹 、鍛子 をお好 きな ら. 39.
(6) 40. 共 に ラ サ の 街 を ぶ らぶ ら して こ よ う あ な た が 生 糸 、 木 綿 糸 をお 好 き な ら 康 定 城 の 街 を ぶ らぶ ら して こ よ う あ な た が ぶ ど うや 桃 、 李 を お 好 き な ら 怒 江 の 辺 を一 周 し て こ よ う あ な た が 葱 、 大 蒜 、 韮 をお 好 き な ら 野 菜 畑 を一 周 して こ よ う。 とあ る よ うに 、 自 由な 恋 愛 をす る若 い カ ップ ル の 、 生 活 を 愛 す る気 持 ち が 表 され て い る。 真 摯 な 愛 情 は チ ベ ッ ト族 青 年 の生 活 を よ り充 実 な もの に し た だ け で は な く、 苦 しい 生 活 に打 ち 勝 と う とす る若 者 の 、 自信 と勇 気 を 強 め た の で あ る。 また、 貴方 みたい な鳥がいれ ば 金 の鞍 が な くて も構 わ な い 貴 方 み た い な編 牛(ヤ. ク と赤 牛 との雑 種 牛)が. いれ ば. 茶 袋 が な く て も構 わ な い 貴 方 み た い な恋 人 が い れ ば 家 業 が な く て も楽 しい(索 代 著 、1999) とい う歌 に 見 られ る よ うに 、 恋 愛 中 の 男 女 に とっ て 、 どん な 生 活 で あ っ て も い つ も楽 しい も の で あ る。 チ ベ ッ ト族 の 多 くの 人 々 は 貧 しい 生 活 を送 っ て い る が 、 彼 らは 生 き て ゆ く上 で の 命 の意 義 と楽 し さ を 、 民 謡 に 表 現 した ので ある。. 3、 チ ベ ッ ト族 の 交 際 チ ベ ッ ト族 に とっ て 、祝 日、 例 え ば 年 に 一 度 の競 馬 大 会 、 チ ベ ッ ト暦 の 新 年 、 望 果 節 お よ び マ ニ 車 回 しや 縁 日な どの 宗 教 行 事 は 、 日頃 余 り顔 を合 わせ な い 人 々 も集 ま る た め 、 最 も 楽 しい 時 間 で あ り、 男 女 が 出 会 うひ とつ の機 会 で あ る。 例 え ば 菩 薩 の 前 で の 敬 度 な願 ほ ど き、 叩頭 、 競 馬 見 物 、 歌 舞 の 鑑 賞 、 豊 作 祝 い な ど行 事 は様 々 だ が 、 若 者 は そ こ に参 加 す る に あ た っ て着 飾 り、 服 飾 品 で 自分 の 美 し さ と財 産 を 見 せ つ け る の で あ る。 こ う して 男 性 が 女 性 を 見 初 め る と 「 酢 油 茶 」 を 飲 み に誘 っ た り、 踊 りに 呼 ん だ りす る の だ が 、 四川 省 松 溜 等 の チ ベ ッ ト族 居 住 地 域 で は、 未 婚 の 男.
(7) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家族 の モ ラル に つ い て‑. 性 が好 感 さ え 持 て ば 、 た とえ 見 知 らぬ 女 性 で あ って も 、 身 に付 けて い る 小 物 、例 え ば ス カ ー フ や マ フ ラ ー な どを 奪 うこ とで 、 これ か らの 交 際 の き っ か け とな る 。 ま た そ の 後 の 交 際 中 、 女 が 男 の 理 想 的 な 相 手 で な けれ ば 、 奪 っ て き た 小 物 を婉 曲 に本 人 に 返 す こ とで 、 双 方 の 関係 を終 わ らせ る こ と が で き る の で あ る。 これ に対 して 、 女 の 方 も 男 と交 際 した くな けれ ば 、 自 分 の親 友 又 は 家 族 に 奪 わ れ た 小 物 を 取 り返 して も らえ ば よい の で あ る(達 爾 基 、1991)。 さて 、 チベ ッ ト族 男 女 の愛 情 は 多 くの 場 合 、 共 同労 働 や 共 同 生 活 の 中 で 生 ま れ た も の で あ る 。 例 え ば 男 性 は 、 労 働 力 を 欠 く女 性 の 家 の た め に 羊 の 毛 を切 っ て あ げ た り、 家 畜 の屠 殺 、 畜 産 品 の販 売 な どを して あ げ た りす る。 一 方 で 女 性 は 、 人 手 の 少 な い 男 性 の家 の た め に 放 牧 、 搾 乳 、 酢 油 作 りを し て あ げ た りす る。 こ う して 日が た つ うち に双 方 の 愛 情 が 築 か れ て い く。 こ の よ うな労 働 の 合 間 の ひ と と き を通 じて 、 それ ぞ れ の 人柄 や 能 力 を よ く知 る の で あ る 。 つ ま り、 チ ベ ッ ト族 の祝 日や 集 ま り、 日常 の 生 産 労 働 は 、 み な男 女 の 自 由な 恋 愛 の た め に 良 い 条 件 を作 り、 彼 らの 間 で 友 情 と愛 情 を 育 む と同 時 に 、 地 元 の 人 間 関 係 を 融 和 させ る も の な の で あ る。 ち な み に チ ベ ッ ト族 にお け る一 般 的 な 見 解 と して 、理 想 的 な 男 性 とは 、 体 格 が よ くて 優 れ た 才 能 を持 ち、 慎 み 深 く道 徳 が 高 尚 な 生 産 技 術 者 で あ る と共 に、 商 売 上 手 で な けれ ば な らな か っ た。 特 に 競 馬 で 優 勝 した り、 狩 猟 や 放 牧 で 猛 獣 を捕 らえ た り、 或 い は 自然 災 害 に 対 して 献 身 的 に 人 を救 っ た よ うな 若 い 男 性 は 、 い ず れ も周 りの娘 か ら愛 され る。 そ の た め 、 多 くの優 秀 な 男 性 は 日常 に お い て 常 に積 極 的 に 困 難 に 挑 戦 し、 人 を助 け 、 人 間 関 係 を うま くす るた め 、 人 付 き合 い が とて も よ い の で あ る 。 ま た 、 い い 銃 とい い 馬 を持 っ て い れ ば 更 に女 性 に 喜 ばれ た のだ が 、 女 性 は そ の家 の 貧 富 を 余 り考 慮 しな い こ とが 特 筆 され る。 一 方 、 理 想 的 な 女 性 とは 綺 麗 で 優 し く、 親 孝 行 で家 を切 り盛 りで き る 人 で な け れ ば な らな い の で あ る 。 この よ うに 、 チベ ッ ト族 近 代 社 会 の 恋 愛 観 で は、 男 子 の 才徳 と女 子 の 家 事 ・勤 労 が特 に 重 要 視 され て い る の で あ る 。 な お 、 チ ベ ッ ト族 の 男 女 間 に は 漢 民 族 の よ うな 世 俗 的 タ ブ ー5が 少 な く、 互 い に 好 き で さ え い れ ば 一 緒 に な る こ と が で き る。 た と え ば 一 部 の 牧 畜 地 域 で は 、 夜 中 に男 が 女 の 家 に 行 っ て 女 をデ ー トに連 れ 出 す こ とが で き る が 、 女 の 家 族 が 阻 む こ とは 決 して な い 。 ま た チベ ッ ト族 の裕 福 な層 の 一 部 で は 、. 41.
(8) 42. 娘 が成 人 す る と わ ざわ ざテ ン トを 準備 して別 居 させ 、 恋 人 との 親 交 の た め に便 宜 を与 え る こ と も あ る(梁 欽 、1993)と. い う。 恋 人 同 士 の 交 際 が 多 け. れ ば 多 い ほ ど、 愛 情 が 深 く、 夫 婦 に な る可 能 性 も大 きい と家 族 は考 え て い る か らで あ る 。. 4、 自 由 な 恋 愛 か ら起 こ る無 私 自由 な 恋 愛 に よ り、 チ ベ ッ ト族 の 男 女 は 自 由 に 自分 の 恋 人 を 選 ぶ こ と が で き る わ けだ が 、 恋 人 に 対 して チ ベ ッ ト族 の 社 会 道 徳 は 愛 を 大 事 に し、 真 に 最 後 ま で 愛 し、 無 私 に捧 げ る よ う説 く。 『屍 語 物 語 』 に は 、 男 女 間 の 純 愛 を称 え 、 特 に チ ベ ッ ト族 の 女 性 が 幸 せ な 愛 情 を求 め るた め に 、 困難 を 恐 れ ず 身 を 捧 げ る 高 尚 な 姿 を賛 美 す る 、 次 の よ うな 物 語 が 載 っ て い る。 あ る娘 が 王 子 と深 く愛 し合 う よ うに な っ た が 、 王 子 は 死 ん で し ま い 、 娘 は 悲 し み に 明 け 暮 れ た 。 す る と王 子 の 霊 魂 は よ く娘 に 会 い に 来 る よ う に な っ た 。 し か し この よ うな 会 い 方 は所 詮 真 実 で は な い 。 す る と娘 は王 子 を 復 活 させ る方 法 が あ る か と き い た 。 王 子 は 「 方 法 な らあ る こ とは あ る が と て も危 険 だ 」 と答 え た 。 し か し娘 は 「どん な に難 し くて 、 危 険 で あ っ て も、 恐 れ は しな い 」 と心 を決 め た。 そ こ で教 え られ た 方 法 に従 っ て 、 顛 難 辛 苦 を経 た後、 「 死 域 」 の 呪 術 師 か ら 王 子 の 心 を奪 い 返 す こ とで 王 子 を 復 活 さ せ た(劉 俊 哲 編 、2003)。. 三 、 一般 民 衆 の 自 由結 婚 チ ベ ッ ト近 代 社 会 の な か で 、 親 が 子 供 の 結 婚 に 干 渉 す る"切. り回 し"は 、. 貴 族 の 中 で 流 行 して い た形 態 で あ る。 そ の た め 、他 の 階 級 に も あ る程 度 の 影 響 を及 ぼ した こ とは 推 測 で き る が 、 広 い 視 点 に 立 つ と、 チ ベ ッ ト族 の一 般 家 庭 で は 自 由 な結 婚 が 多 数 を 占め た 。 特 に 親 の 干 渉 に よ る結 婚 は 「 膠で 固 定 され た石 」 の よ うな もの だ と考 え られ た た め 、 も と も と切 り回 し に は 否 定 的(特. に 牧 畜 地 域 に は切 り回 しが 見 られ な い)だ. ったので ある。 もち. ろ ん 、 結 婚 の 自 由 とい っ て も親 の 意 見 を 求 め な い わ けで も な い が 、 実 際 に は親 に 自分 の 意 思 を 表 明 して 、 同 意 を求 め る こ とが 普 通 で あ る。 こ う して 男 女 の 自 由 な 結 婚 は 「鳥 と石 が 途 中 で 会 う6」 よ うな もの だ と され た の で ある。.
(9) チ ベ ッ ト族 にお け る結 婚 の 一 考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラ ル に つい て‑. こ こ で 、 一 般 家 庭 の 結 婚 ま で の流 れ を 見 て み る こ と に し よ う。 ま ず 、 新 郎 ・新 婦 双 方 の親 が 結 婚 に 同 意 す れ ば 、 男 性 側 が話 の 上 手 な 年 長 者 か ラ マ 僧 に 頼 ん で 仲 人 とな っ て も らい 、 女 性 側 の 家 に 「ハ ー ダ」 や 酒 、 銀貨 な ど の 土 産 を持 参 し、 正 式 に 求 婚 を行 う。 こ こで 女 性 側 もお 返 しの 「 ハ ー ダ」 を 送 る の で あ る7。 こ の 時 、 男 女 の 体 に 常 に 付 け る飾 り物 を 婚 約 の 贈 り物 と し、 仲 人 に交 換 して も ら うこ とで 、 正 式 に 婚 約 した こ とに な る の で あ る 。 な お 婚 約 を解 消 す る場 合 は 、 婚 約 の 時 に 交 換 した 贈 り物 を 相 手 に返 す こ とで 、 ご く簡 単 に婚 約 を解 消 す る こ とが で きた 。 チ ベ ッ ト族 の 伝 統 的 な 習 慣 に よ る と、 婚 約 解 消 の 際 は 基 本 的 に 反 対 され な い の で あ る 。 これ は 、 無 理 に 結 婚 して も よ い 結 果 を 招 か な い の だ か ら、 他 で 結 婚 を求 め れ ば い い と 考 え られ て い る か らで あ る。 そ の た め 、 原 因 が 婚 約 時 の 持 参 品 の 安 さ に あ っ た と して も、 そ れ ほ ど大 き な 問題 と な らな い の で あ る。 さて 、 結 婚 式 は どん な 階 層 の 人 で あ っ て も行 わ な け れ ば な らな い もの で あ り、 多 くの 場 合 は で き る 限 り盛 大 に 行 われ る が、 牧 畜 地 域 の チ ベ ッ ト族 の 中 で 半 数 以 上 を 占め る簡 素 な 結 婚 式 が あ る 。 式 当 日に 新 郎 が 友 人 た ち と と もに 新 婦 の 家 に行 き、 新 婦 を馬 に乗 せ て 連 れ 去 っ て し まい 、 新 婦 の親 は 娘 の 行 方 を知 らな い 風 を 装 う、 とい うの が式 な の で あ る。 こ れ ら全 て は 合 意 の 下 で 行 わ れ て い る も の だ が 、 双 方 の 家 庭 で 招 待 客 や 嫁 入 り道 具 の 準 備 な どの 経 済 負担 を軽 減 で き る効 果 を指 摘 で き る の で あ る(西 南 民 族 学 院 民 族 研 究 所 編 『野 原 チ ベ ッ ト族 調 査 材 料 』、P.113)。 一 方 で 、 上 流 社 会 の 子 供 の 場 合 の婚 礼 は 、 非 常 に厳 か に行 わ れ る。 ま ず 、 嫁 入 り道 具 と して もた せ る衣 服 や 装 身 具 、 牛 、 馬 な どが 非 常 に 多 い 。 次 に 婚 礼 を 挙 げ る 前 に 、新 郎 側 は30歳 前 後 の 女 性2人. を新 婦 の 家 に迎 え に 向 か. わ せ る が、 普 通 新 婦 側 の 家 に 一 泊 して か ら新 婦 を連 れ 出 す 。 そ して 新 婦 が 家 に 入 る時 に 新 郎 側 の 家 族 は 全 部 で 出 迎 え る が 、 歌 を 歌 い な が ら神 を敬 う しる し と して 酒 を地 面 に撒 くの で あ る 。 そ の後3日 し結 婚 式 を行 うが、4日. 間 に 来 賓 や 親 族 を招 待. 目に は 新 婦 が 里 帰 りを す る。 そ して 数 ヵ月 後 に新. 郎 が 再 び 人 を新 婦 側 に 向 か わ せ て 新 婦 を 連 れ 出 す こ とで 、 新 郎 新 婦 が始 め て 正 式 に夫 婦 に な り、 一 緒 に暮 す よ うに な る の で あ る 。 な お 、 こ う した 一 連 の流 れ で は 、 子 供 が 両 親 の 手 配 に不 服 を 申 し立 て る と、 世 間 の 非 難 を浴 び る こともあった ので ある。 と こ ろで 、 チ ベ ッ ト族 の習 慣 と して 「息 子 が 父 親 の職 業 を継 ぎ 、 娘 が嫁. 43.
(10) 44. に 行 く」 の が 当 た り前 で 、 娘 は 家 に残 るべ き で は な い の だ が 、 男 性 の婿 入 りも実 際 は 日常 的 に行 わ れ て い る。 例 え ば チベ ッ トの 一 部 で は 「 父崗 」 と 「 母崗 」 とい う言 い 方 が あ る。 家 業 が 父 親 の 名 義 で 残 され て き た も の を 「 父崗 」 とい うが 、 父 親 が早 死 に した場 合 や 、 男 の子 が い な い た め に 家 業 が 母 親 の 名 義 で 残 され て き た 場 合 を 「母崗 」 とい う。 こ こ に は 息 子 が い な い 家 庭 を 言 葉 で 表 わ す こ と で 、 婿 を求 め る一 面 を見 る こ とが で き よ う。. 四、 結 婚 の制 約 に つ いて 1、 階 級 の 厳 格 さ これ ま で 論 じて き た よ うに 、 チ ベ ッ ト族 男 女 の 恋 愛 と結 婚 は 基 本 的 に 自 由 な も の で あ っ た が 、 一 部 で は伝 統 社 会 の さ ま ざ ま な 制 約 を受 けた 場 合 が あ った。 ま ず 、 階 級 的 な 問 題 で あ る 。解 放 前 の チ ベ ッ ト族 の 貴 族 家 庭 で は、 自分 と違 っ た 階 級 の人 々 と 自 由 に交 際 は で き る も の の 、 結 婚 相 手 を 自分 で決 定 す る こ とが あ ま りで き な か っ た 。 チ ベ ッ ト族 は 家 柄 の観 念 が 非 常 に強 く、 結 婚 す る な ら家 柄 が つ りあ わ な け れ ば な らな い か ら で あ る。 特 に 貴 族 は 絶 対 に 平 民 と結 婚 す る こ とが で き な か っ た 。 当時 の 支 配 階 級 は 人 間 を3等9 級 に 分 け て い た が 、 封 建 貴 族 も 同 じ等 級 に 属 す る 間 で結 婚 を しな くて は な らな か っ た の で あ る。 特 に 貧 民 の 骨 は黒 い と され て い た た め、 貴 族 が 農 奴 の娘 を妻 に 嬰 る な らば 等 級 に傷 が つ き、 自 らの 高 貴 な血 統 を汚 す ほ か 、 自 分も 「 賎 しい 人 」 と蔑 まれ る の で あ る。 一 部 で は 、 下 級 家 庭 と恋 愛 関 係 を 結 ぶ こ と さえ も許 さな か っ た 。 こ う して 、 チ ベ ッ ト族 の 婚 姻 は基 本 的 に 同 じ等 級 内 の 「 家 柄 の 釣 り合 う」 結 婚 だ っ た の で あ る。. 2、 略 奪 結 婚 の 習 慣 略 奪 結 婚 は 、 チベ ッ ト族 の 古 代 部 落 間 に よ く見 られ る婚 姻 形 態 で あ る 。 例 え ば 封 建 社 会 農 奴 期 の 四川 省 ア バ 地 域 で は 、 婚 約 者 の な い 女 性 を 男 性 が 見 初 めた 場 合 、 何 人 か の屈 強 な男 を 女 性 の 立 ち 回 り先 に待 ち 伏 せ 、 隙 を 見 計 らっ て 彼 女 を強 引 に拉 致 す る の で あ る 。 翌 日の朝 、 男 性 側 は人 望 の あ る 口の うま い 長 老 数 人 に頼 ん で 、 高 級 な贈 り物 で あ る 「ハ ー ダ 」(薄 絹)な どを 携 え 、 女 性 側 の 家 に お 詫 び を し に行 っ て も ら う。 こ う した 既 成 事 実 を.
(11) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家族 の モ ラル に つ い て‑. 前 に 、 女 性 側 の 家 に 同 意 を 取 り付 け る の で あ る(達. 爾 基 、1991)。 も ち ろ. ん 略 奪 結 婚 とい う形 式 は 、 女 性 の 意 志 に 背 くも の で あ る。 そ れ に も か か わ らず 、 チ ベ ッ ト族 伝 統 社 会 の 中 で 道 徳 的 な 非 難 を 受 け る こ と は な く、 か え っ て 一 部 の チ ベ ッ ト族 は 、 この よ うな 略 奪 結 婚 を 良 い こ と と した 。 こ れ は 、 略 奪 結 婚 で結 ば れ た 妻 の体 と魂 は完 全 に夫 の も とに ゆ き 、夫 婦 は安 心 して 暮 らせ る だ ろ う との 考 え が あ っ た か ら で あ る。 チ ベ ッ ト族 の 叙 事 詩 『ケ サ ー ル(格. 薩 ホ)王. 物 語8』 に は 、 典 型 的 な 略. 奪 結 婚 の 話 が 見 られ る の で 、 紹 介 した い 。 嶺 国 の 将 軍 ・晃 同 は松 巴部 落 の 姫 「 梅 朶 措 」 を 奪 うた め 、 身 を 隠 す 木 風 輪 と花 結 神 輪 縄 を 持 っ て 松 巴部 落 に行 き 、 多 くの 異 常 現 象 を起 こ した 。 次 に 晃 同 は 、 占 い 師 に化 け て 「こ れ ら の現 象 は土 地 の 神 と戦 い の神 と が喜 ば な い た め起 こ した も の で あ り、 悪 い 兆 しだ 。 これ を避 け るた め に は 、 翌 朝 に 姫 ・梅 朶 措 を含 む7人 姉 妹 を神 山 に 向 か わ せ て 神 に祈 りを捧 げ 、 厄 よ け の祈 祷 を しな けれ ば な らな い 」 と言 い ふ ら した 。 部 落 の 首領 は そ の 話 を信 じ、 梅 朶 措 を含 む7人 姉 妹 を本 当 に 神 山 に 向 か わせ 、 神 に 祈 りを捧 げ る こ とに した 。 祈 りを 終 え た娘 達 が 引 き返 そ う とす る 時 、 待 ち 伏 せ して い た 晃 同 は 花 結 神 輪 縄 を 投 げ 、梅 朶 措 を 縛 り上 げ て 嶺 国 に 連 れ て 帰 り、 自分 の妻 としたので ある。 こ の 内容 は典 型 的 な 略奪 結 婚 だ が 、 略奪 結 婚 は往 々 に して 部 落 間 の 摩 擦 や 戦 争 を 引 き起 こ しか ね な い 。 そ の た め 『ケ サ ー ル 王 物 語 』 に は 、 略 奪 結 婚 を 引 き金 に勃 発 した 「 雷 嶺 戦 争 」 が記 され て い る の で あ る。 な お 、 略 奪 結 婚 は今 日既 に存 在 して い な い 。 3、 許 嫁 結 婚 の 習 慣 解 放 前 の 四 川 省 南 坪 チベ ッ ト族 居 住 区 で は 、 許 嫁 結 婚 が 普 遍 的 に 行 わ れ て い た 。 これ は子 供 が8〜9歳. の 時 、 男 性 側 の 両親 が 仲 人 に 頼 み 、 女 性 側. に 縁 談 を 申 し込 む もの で あ る。 同 意 を得 た 後 に、 吉 日を選 ん で 男 性 側 が 豚 の 頭 半 分 と酒 数 斤(1斤=0.5キ. ロ)を 持 参 して 「 妻 」 の実家 に礼 を言い. に行 く こ とで 、 女 性 側 は後 に 他 の 人 と婚 約 す る こ とが で き な く な る の で あ る 。 こ う して 毎 年 正 月 に は男 性 側 が 女 性 側 の 実 家 に 行 っ て 土 産 を送 り、 男 女 が20歳 頃 に な る と、 双 方 の 家 は二 人 の た め に 結 婚 式 を挙 げ る の で あ る。. 45.
(12) 46. 4、 農 奴 の 結 婚 権 は 農 奴 主 の もの 農 奴 主 が農 奴 の 親 に 代 わ っ て 、 農 奴 の お 見 合 い も し く は 出 会 い の機 会 を 作 る こ と は あ っ た が 、 農 奴 は経 済 的 に 非 常 に 貧 し く政 治 上 の力 も な い た め 、 結 婚 権 を 含 む 一 切 の権 利 を農 奴 主 が 管 理 して い た 。 っ ま り、 農 奴 間 の 結 婚 は 常 に農 奴 主 の 拘 束 と干 渉 を 受 け る た め 、 別 の 農 奴 主 に 使 わ れ て い る 農 奴 同 士 の結 婚 は 、 双 方 の 農 奴 主 が 賛 成 しな けれ ば 不 可 能 な こ とだ った の で あ る。 あ るチ ベ ッ ト族 の 民 謡 に は 、 心 は と っ くに 許 して い た が 、 体 が 不 自由 な だ け で あ る 。 力 強 い 公 家 は 彼(彼. 女)を. 奴 隷 の 名 簿 に 載 せ て い る か らだ (チ ベ ッ ト社 会 歴 史 調 査 資 料 叢 書 編 、1988) と あ る 。 こ こ に は 、 男 女 が 農 奴 主 の干 渉 を受 け ざ る を 得 な い 、 せ つ な い 気 持 ち を 見 る こ とが で き よ う。 な お 、地 域 差 が 大 き い た め に 注 意 を 要 す る こ とだ が 、 チ ベ ッ トの 農 業 地 域 で は、 女 性 農 奴 が 結 婚 す る場 合 の 二 つ の 特 徴 を 指 摘 して お き た い 。 一 つ 目は 身 代 金30両 を 納 め た 上 、 「土 司9」 の 許 可 を得 て 初 め て 結 婚 で き る こ と、 二 つ 目は特 に 四川 省 居 住 の チ ベ ッ ト族 の 場 合 、 農 奴 が 「土 司」 で 一 定 期 間 の 無 償 労 役 に 服 しな けれ ば な らな い こ とで あ る 。 一 方 牧 畜 地 域 の 場 合 は 農 奴 主 が 農 奴 の 結 婚 に つ い て の 支 配 や 干 渉 は 、 一般 的 に農 業 域 に 比 べ て ず っ と少 な い の で あ る 。 牧 畜 の 場 合 は 、 移 動 式 住 宅 で 、 管 理 し に くい と こ ろ も 言 え るだ ろ う。. 五 、 男 女の 自由 な婚 姻 へ の欲 求 こ こ ま で述 べ て き た よ うに 、 チベ ッ ト族 の 近 代 社 会 は 自 由恋 愛 で あ っ た 。 した が っ て 結 婚 も 自 由 とな る の は ご く 自然 な こ とで あ ろ う。 そ の た め 『ケ サ ール 王 物 語 』 に も、 ケ サ ー ル が 北 部 の 魔 の 国 を攻 め に行 く途 中 、魔 の 国 の 女 将 軍 ・ア ダ ラ モ は ケ サ ー ル の こ とが 好 き に な っ て 求 婚 した 。 ケ サ ー ル も彼 女 の 勇 猛 さ、 武 芸 に秀 で て い る 点 を気 に 入 り、 結 婚 す る こ とに 同 意 した 。 そ こ で 二 人 は 、 それ ぞ れ 魔 の 神 と嶺 の 神 を 証 人 と して 立 て て 互 い に 誓 っ た。.
(13) チ ベ ッ ト族 にお け る結 婚 の 一 考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラ ル に つ いて‑. そ の後 、 ア ダ ラモ は ケ サ ー ル を 城 内 に 請 じ入 り、 で き る 限 りの ご馳 走 を した 。 ケ サ ー ル は そ こで 暫 ら く留 ま り、 ア ダ ラモ と結 婚 した 。 とあ る よ うに 、 自由 な 結 婚 を 尊 ぶ チ ベ ッ ト族 の 姿 が 具 体 的 に 表 され て い る 一 節 が 見 られ る。 と こ ろ が近 代 農 奴 社 会 の 中 に は 、 家 柄 や 封 建 的 家 風 な どに よ り、 自 由 な 結 婚 を 尊 ぶ 姿 が ひ ど く捻 じ 曲 げ られ た こ と が あ っ た 。 例 え ば 先 に 述 べ た "切 り回 し"結 婚 は 、 多 くの チ ベ ッ ト族 男 女 に 莫 大 な 苦 痛 を もた ら した と 考 え られ る 。 そ れ に対 して 、 一 部 の 貴 族 の娘 な どは 愛 情 を忠 実 に貫 き 、 家 柄 や 等 級 観 念 を 打 ち破 って 平 民 の息 子 と結 婚 した の で あ る。 ま ず 、 ア バ 地 域 で伝 え られ て い る 長 歌 『梛 婦(ナ 柄 結 婚 や"切. ム)と. 嘉 措(カ. ソ)』 よ り、 男 女 が 家. り回 し"結 婚 に対 抗 す る 精 神 を 映 した 一 節 を見 て み よ う。. 東 の 山 が い く ら高 くて も 、 燦爛 た る お 天 道 様 を阻 む こ と が で きな い。 親 の 家 憲 が い く ら厳 し くて も、 私 と恋 人 の 愛 を 阻 む こ とが で き な い (チベ ッ ト社 会歴 史 調 査 資 料 叢 書 編 、1988)。 ま た 、 一 部 の チ ベ ッ ト族 の 民 謡 に は 、 役 人 様 は で た らめ を い う、 好 か な い 人 と一 緒 に な れ な ん て 。 目玉 と芒 先 は 一 緒 に な れ る か 、 い っ し ょに な れ る な ら、 私 達 も一 緒 に な ろ う。 父 さん と母 さん は で た らめ を い う、 愛 す る人 と別 れ た ま え な ん て 、 溶 け 合 っ た水 と乳 は 分 け られ るか 。 分 け られ る な ら、 私 達 も別 れ よ う(中 央 民 族 学 院 編 、1985)。 とあ る よ う に、 男 女 の 反 抗 精 神 が記 され て い る の で あ る。 さ ら に チ ベ ッ ト 族 の 民 間長 編 叙 事 詩 『不 幸 な 擦 瓦絨 に あ り』 を見 て み よ う。 これ は 、 恋 愛 中 の 男 女 が 結 婚 の 自 由 を追 求 す る た め、 旧 勢 力 に対 して 奮 闘 す る物 語 で あ る 。 主 人 公 の 若 い カ ッ プル は 一 生 離 れ な い と固 く誓 い あ っ た が 、 娘 の 両 親 は利 益 に 目が く らみ 、 女 を金 持 ち の牧 場 主 に 嫁 が せ た が 、 牧 場 主 の家 で は 蔑 まれ 虐 げ られ る と い っ た 生 活 を 送 っ て い た 。 後 に 女 の 恋 人 が 商 売 か ら. 47.
(14) 48. 帰 っ て 、 女 が既 に嫁 い だ こ と と苦 しい 生 活 を送 って い る こ とを 知 る と、 危 険 を 冒 して 女 を 牧 場 主 の 家 か ら救 い 出 した 。 しか しす ぐ に牧 場 主 に知 られ 、 男 は 牧 場 主 が 差 し 向 け た 追 手 に 打 た れ て 死 ん だ 。 女 は 悲 しみ 、 黄 河 に 向 か っ て歩 き な が ら 「 私 の 故 郷 に 行 く人 よ、 私 の 両 親 に伝 え て くだ さい 、 私 が 既 に 黄 河 に 身 を投 げ た こ とを 。 喉 が 渇 い た ら黄 河 の水 を飲 み 、 お 腹 が す い た ら黄 河 の砂 をお 食 べ な さ い 」 と言 っ て 自 らの 命 を絶 っ た 、 とい う。 こ こ に は 、 自 由 な 結 婚 を 追 求 して 身 を捧 げ た 気 持 ち を見 る こ とが で き よ う。 こ う し た 民 間 文 学 に も反 映 され た よ うに 、"切 り回 し"の. よ うに 制 限 さ. れ た 結 婚 に 反 対 す る た め 、 一 部 で は 「略 奪 結 婚 」 を演 じて ま で 、 愛 す る 人 と一 緒 に な っ た こ とも あ っ た 。 青 海 省 の 玉 樹 西 部 の 高 原 の あ る チ ベ ッ ト族 の 娘 は 、別 の部 落 の 男 性 と愛 し合 うよ う に な り子 供 ま で 産 ん だ 。 とこ ろ が 、 男 が 仲 人 を頼 ん で 娘 の親 に求 婚 した と こ ろ断 られ た た め 、 彼 は 娘 と約 束 し て 、 娘 が 労 働 に 出 か け る際 に彼 女 を 略 奪 す る こ と に した の で あ る。 娘 の 父 母 が 略奪 され た こ とを知 る と、 数 十 人 を 率 い て 娘 を連 れ 戻 しに 行 っ た 。 男 性 の 部 落 は 勿 論 応 じず 、 双 方 は 約 半 日ほ ど対 峙 して 、危 うく紛 争 とな る と こ ろだ っ た 。 結 局 別 の部 落 の首 領 が調 停 を行 っ て 、 娘 の 父 母 も この 婚 姻 に 同 意 した の だ が 、 こ の よ うな 「略 奪 結 婚 」 は実 際 上 の"切. り回 し"結 婚 に. 対 す る もの で あ り、 結 婚 の 自由 を追 求 した も の で も あ る と言 え よ う。 こ う して チ ベ ッ ト族 で は 双 方 の 親 か ら離 脱 して 結 婚 し、 成 立 した 家 庭 も 多 い 。 これ を 地 元 で は 「独 自 に テ ン トを 張 っ た 結 婚 」、 チ ベ ッ ト語 で は 「半突 」(口 を ぶ つ け る と い う意 味)と. 言 うが 、 この 意 味 は2つ. あ る 。1. つ は 、 家 族 が 多 す ぎ る と両 親 が 考 え て 、 牛 と家 具 とテ ン トを男 女 に分 け る こ とで 分 家 した とい う意 味 、 も う1つ は 親 に喜 ん で も ら え な い 結 婚 の と き に 、 男 女 が や む を 得 ず 家 を離 れ て 独 自に 分 家 した とい う意 味 で あ る。 この 種 の 分 家 は 、 チ ベ ッ ト族 の 一 般 家 庭 で は よ く 見 られ る も の で あ る 。 ま た 「独 自 に テ ン トを 張 っ た 結 婚 」 家 庭 は 、 男 女 双 方 が 互 い に 慕 っ て 一 緒 に な っ た もの だ か ら仲 良 く暮 らせ るの で 、 い い こ とで あ る と人 々 は 考 え て い る。そ のた め 「 独 自 に テ ン トを 張 っ た結 婚 」 家 庭 に対 して 、 チベ ッ ト族 社 会 は 寛 容 な の で あ る。 こ こ ま で 見 て き た よ うに、 チ ベ ッ ト族 に は等 級 ・家 柄 観 念 が 存 在 し、 父 母 に よ る"切. り回 し"結 婚 と、 農 奴 主 が 持 つ 農 奴 の 結 婚 権 とい う問 題 が 存. 在 して い た が 、 恋 愛 と結 婚 の 自 由 を大 胆 に 追 求 す るチ ベ ッ ト族 を 束 縛 す る.
(15) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一 考察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラル につ い て‑. こ とは で き な い の も 事 実 で あ っ た 。 現 在 の チ ベ ッ ト族 居 住 地 域 で は 、親 に 強 制 され て結 婚 す る よ うな現 象 は稀 に しか 見 られ な い 上 、 父 母 の 命 令 は 昔 ほ ど権 威 の あ る も の で は な くな っ て い る た め 、 男 女 が 結 婚 した い とい う場 合 は 、 親 と して も余 り反 対 意 見 に 固 執 し な くな っ て き て い る の で あ る 。. 六 、 離婚 、 再 婚 に関 す る道 徳 チ ベ ッ トの 近 代 社 会 にお い て 、 離 婚 の 手 続 き は非 常 に 簡 単 な もの で あ る。 まず 、 夫 婦 双 方 が離 婚 に 同意 した 場 合 は 、 本 部 落 の 首領 か 、 地 元 の 名 高 い 活 仏 に 届 け 出 る こ とで 、 離 婚 が 成 立 す る。 ま た 、 離 婚 後 の 財 産 分 割 も比 較 的 簡 単 で あ る 。 嫁 を と っ た場 合 の 財 産 は 全 て男 の も の 、 婿 を取 っ た 場 合 は 全 て 女 の も の とな り、 分 家 の場 合 は平 等 に財 産 を分 け合 う、 とい う程 度 で あ る 。 さ らに 子 供 の養 育 につ い て は 、 男 の 子 は 夫 側 に 、 女 の子 は 妻 側 で養 うも の と され る。 た だ し、 一 人 し か子 ど も が い な い 場 合 は寺 院 に 送 り、僧 か 尼 に す る の で あ る 。 な お 、 離 婚 の 意 志 が 一 方 に しか な い 場 合 、 「 離婚 税」 の 問題 が あ る た め、 離 婚 が難 し く な る 。 離 婚 を 言 い 出 した 側 が 「離 婚 税 」 を納 め な けれ ば な らな い か らで あ る 。 そ の 後 、離 婚 者 が 再 婚 す る こ とに な って も 、 特 に社 会 的 な軽 蔑 を受 け る こ とは な い 。 チ ベ ッ トで 軽 蔑 され る の は 、 家 庭 を持 つ 飽 き っ ぽ い 者 が 道 徳 者 で は な い と され る だ け で あ る。 た だ し、 離 婚 経 験 者 は 再 び 結 婚 の 意 思 を 持 っ て も、 多 くは 改 め て 式 を挙 げ た りせ ず 、 離 婚 経 験 者 同 士 で 同棲 生 活 を 始 め る。 つ ま り、 特 に 手 続 き は 行 わ な い の で あ る。 一 方 、 配 偶 者 を失 っ た 人 の 再 婚 は 易 しい も の で は な い 。 チ ベ ッ ト族 は妻 を失 っ た 男 性(鰥. 夫)の. こ とを 「 果 根 」、 夫 を 失 っ た 女 性(寡. 婦)の. こと. を 「油 薩 礪 」 とい うが 、 チ ベ ッ ト族 の近 代 社 会 の 世 論 で は 、 寡 婦 は 不 吉 な も の と して 蔑 視 され た 。 そ の た め寡 婦 の 再 婚 の特 徴 と して 、 チ ベ ッ ト族 の 習 慣 に基 づ い た 「転 房10」 を見 る こ とが で き る 。 これ は 、 夫 の 没 後2〜3 年 後 ま で 待 た ね ば な らな い 上 、 転 房 前 に 元 夫 の た め に諦 経 し た り、 霊 山 を 回 っ た り しな け れ ば な らな い 。 ま た 再 婚 の 際 に 土 地 の 使 用 権 を持 っ て い っ て は な らな い ば か りか 、 土 地 を 譲 渡 して もい け な い の で あ る。 さ ら に子 供 が 小 さい 場 合 は 転 房 先 に 連 れ て い け る が 、 大 き くな っ て い た 場 合 は 元 夫 の 家 に留 ま り、 家 業 を継 が な けれ ば な らな い の で あ る。 つ ま り、 寡 婦 の 再 婚. 49.
(16) 50. は か な り難 しい も の だ っ た の で あ る。. 七、近親結婚の禁止 チ ベ ッ ト族 に 見 られ る タ ブ ー は 、 主 に宗 教 や 生 産 に多 い が 、 婚 姻 面 で 最 大 の タブ ー は 「 近 親 結 婚 の 禁 止 」 で あ る 。 しか し、 古 来 よ り近 親 結 婚 が タ ブ ー視 され て き た わ けで は な い 。 一 部 に伝 わ る伝 説 で は 「あ る年 に洪 水 が 発 生 して 農 地 や 山 を 水 浸 しに し、 人 々 を溺 れ させ た 。 そ の 中 で 姉 と弟 の 二 人 だ け が 牛 の 皮 筒 に潜 り込 ん で 、1週. 間 余 り漂 流 した 。 水 が 引 く と生 き. 残 っ た の は二 人 だ け だ っ た 。 そ こ で や む を 得 ず 二 人 は 夫 婦 とな り、 現 在 の 人 類 を 生 ん だ 」 とあ る。 こ れ は、 近 親 結 婚 が チ ベ ッ ト族 の祖 先 の 中 に あ っ た こ と を伺 わ せ る一 文 で あ る。 ま た 実 際 、過 去 に 中 流 以 上 の 家 で は 家 柄 の 釣 り合 い を 求 め る た め 、 近 親 結 婚 も避 け られ な か っ た(達. 爾 基 、1991)と. い う。 こ う し た近 親 結 婚 は 、 身 体 に 障 害 を持 っ た 子 供 を 増 や す こ と に な り、 チ ベ ッ ト族 の祖 先 や 後 に 近 親 結 婚 を行 った 家 庭 を大 い に 苦 しめ る こ と とな っ た 。 そ の た め 、 チ ベ ッ ト族 は 近 親 結 婚 が 子 孫 の 健 康 と人 口の 質 に与 え た 影 響 に気 づ き、 近 親 結 婚 を民 族 全 体 の 最 大 の タ ブ ー と した の で あ る。 特 に 同 父 系 先 祖 の 男 女 の 間 で は 絶 対 に 結 婚 が 許 され ず 、 性 的 関 係 も 禁 じ られ て い る。 ま た 、 い と こ 同 士 の 間 の婚 姻 も禁 止 され て い る 。 一 部 に は 例 外 的 に 親 族 内 で も結 婚 す る こ とが で き る が、 一 般 的 に は 互 い に 親 族 関 係 で あれ ば 、 どん な遠 縁 で あ っ て も、 あ る い は どん な に深 く愛 し合 って い て も、 結 婚 は 許 され な い の で あ る 。 ま た 近 親 結 婚 とい う事 件 が 発 生 す る と、 世 間や 家 族 か ら非 難 され る の は勿 論 の こ と、 一 部 で は訴 え られ る こ とも あ る。 そ うな る と、 罪 が 軽 い と判 断 され た場 合 で も鞭 打 ち とな り、 重 罪 とな れ ば生 き埋 め に され る の で あ る 。 当 事 者 夫 婦 を牛 の 皮 袋 に い れ て川 に沈 め る こ と も あ る とい う(チ ベ ッ ト社 会 歴 史調 査 資 料 叢 書 編 、1988)。 西 洋 の 精 神 分 析 学 者 ・フ ロイ トに よ れ ば 、 タ ブ ー は 古 代 の あ る時 期 に 外 的 圧 力(あ. る種 の 権 威 と もい う)に よ り、 原 始 民 族 に加 え られ た あ る種 の. 禁 制 で あ る。 そ の 後 立 場 が 上 に あ る人 間 が 積 極 的 に受 け 入 れ て か ら、 社 会 的 権 威 を 通 じて伝 統 遵 守 とい う形 で 代 々 受 け継 が れ て い く が 、 そ れ に よ っ て あ る 民 族 に 「遺 伝 性 」 の あ る 心 理 的特 質 を も た らす(フ. ロイ ト、1986).
(17) チ ベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一考 察‑恋. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラル に つ い て‑. とい う。 これ を 『ケ サ ー ル 王 物 語 』 よ り見 る と、 雷 ホ 部 落 の 首領 で あ る 白 帳 王 が 、 地 元 に 鳴 薩 曲鐘 とい う美 女 が い る に も 関 わ らず 、 ケ サ ー ル の妻 の 珠 牡 を 奪 うた め に戦 争 を お こ した 、 とい う話 に 求 め る こ と が で き よ う。 も ち ろ ん 白帳 王 は 自分 の 部 落 に 美 女 が い る こ とを 知 らな い わ け で は な い 。 ま た 権 力 者 で あ るの だ か ら、 ほ しい ま ま に 振 舞 う こ とも 不 可 能 で は な い の で あ る 。 しか し 白帳 王 は葛 薩 曲鐘 を婆 らず に人 妻 を 奪 うこ と に した こ とな ど、 近 親 結 婚 の 禁 止 とい う原 則 に従 って 行 っ たこ とで あ ろ う。 首 領 が こ うす る 以 上 、 普 通 の民 衆 な ら更 に そ れ を 破 る こ と は な か っ た と考 え られ よ う。 こ う して 、 チ ベ ッ ト族 に お け る近 親 結 婚 の禁 止 とい う心 理 的 な 特 質 は 、 チ ベ ッ ト族 の長 い 歴 史 の 中で 自然 に家 庭 道 徳 に 入 り込 み 、 しか もそ の重 要 な 特 徴 の 一 つ とな っ た 。 つ ま り人 々 が意 識 的 に 近 親 と結 婚 しな い こ とは 、 理 性 を特 徴 とす る家 庭 の 道 徳 を遵 守 した 結 果 で あ る と と も に、 非 理 性 を特 徴 とす る タ ブー に 対 して 恐 怖 を感 じた結 果 で あ る と言 え よ う。. おわ りに 以 上 の よ うに 、 チ ベ ッ トの人 々 が 結 婚 す る上 で 、 タ ブ ー と家 庭 の 規 範 が 同 時 に存 在 して きた こ とに よ り、 チ ベ ッ ト族 特 有 の 結 婚 観 は 形 成 され て き た 。 これ は 、 チ ベ ッ ト族 の 社 会 に お け る経 済 や 政 治 思 想 の歴 史 的展 開 と 、 社 会 的 関 係 を具 現 した もの で あ る。 正 に これ らが 関 係 しあ うこ とで 、 恋 愛 、 結 婚 と家 庭 に 関 連 す る 、 一 連 の道 徳 の原 則 と規 範 が 生 み 出 され た もの で あ る と言 え よ う。 今 後 、 チ ベ ッ ト族 の恋 愛 ・結 婚 ・家 族 な ど の モ ラル を さ ら に研 究 す る た め に、 資料 に よ って 一 層 の 分 析 を 試 み た い 。. (大正大 学綜合佛教 研究所講 師) 参考 文 献: 大 内兵 衛 ほか 監訳 、1971、 『家族 、私 有 財 産 お よび 国 家 の起 源 』、 マ ル ク ス=エ ンゲ ル ス 全 集 第21巻 、大 月 書 店 王堯 、2004、 『 蔵 学 概 論 』、 山 西教 育 出 版 社 王家 偉 ほか 編 、2000、 『中国 西蔵 的 歴 史 地位 』、五 洲 傳 播 出版 社. 51.
(18) 52. 郭 長 建 ほ か 編 、2002、 『 チ ベ ッ ト民 俗 』、 五 洲 傳 播 出版 社 郭 長 建 ほ か編 、2002、 『チ ベ ッ トの物 語 』、 五 洲傳 播 出版 社 郭 長 建 ほ か編 、2002、 『チ ベ ッ トの文 学 』、 五 洲傳 播 出版 社 牛 黎 濤 、2001、 「 チ ベ ッ ト族 の配 偶 者 選 択 と結 婚 」、 大 正 大 学綜 合 佛 教 研 究 所 年報 第23号 牛 黎 濤 、2005、 「 チ ベ ッ ト族 の社 会 的 な 変 遷 につ いて 」、 大 正大 学 綜 合 佛 教 研究 所 年 報 第 28号 牛 黎 濤 、2005、 「 チ ベ ッ ト社 会 の変 化 とチ ベ ッ ト族 の道 徳観 」、佛 教 文 化 学 会紀 要 第14号 国 務 院 新 聞弁 公 室 編 、2001、 『中 国西 蔵』、 五洲 傳 播 出版 社 国 務 院 新 聞 弁公 室 編 、2005、 『中 国 の民 族 区 域 自治 』、 新 星 出版 社 黄 顯 ほ か編 著 、1985、 『倉 央嘉 措 お よび 情 歌研 究 』、 西 蔵 人 民 出版 社 曾 国 慶編 、2004、 『 チ ベ ッ ト族 の歴 史 ・文 化 』、民 族 出版 社 索 代 著 、1999、 『 チ ベ ッ ト族 文化 史 綱 要 』、 甘粛 文 化 出 版 社 、P426 ダ ライ ・ラ マ七 世 著 、1983、 『チベ ッ ト王 臣記 』、民 族 出 版 社 達 爾 基 著 、1991、 『ア バ 風 情録 』、西 南 交 通 大学 出版 社 チ ベ ッ ト社 会 歴 史 調 査 資料 叢 書 編 、1988、 『チベ ッ ト社 会歴 史調 査 』(二)、 チベ ッ ト人 民 出版 社 チ ベ ッ ト社 会 歴 史 調 査 資料 叢 書 編 、1989、 『チベ ッ ト社 会歴 史調 査 』(三)、 チベ ッ ト人 民 出版 社 チ ベ ッ ト昌都 民 謡 中央 民族 学 院 編 、1985、 『チベ ッ ト族 文 学 史』、 四川 民 族 出版 社 趙 乗 理編 、1991、 『ケ サ ール 王 物 語 』、 甘 粛人 民 出版 社 、 丹 珠 昂奔 、1993、 『チ ベ ッ ト族 文 化 汎 論 』、 中 国友 誼 出版 公 司 郵 宏碧 編 、1998、 『中 国 少数 民 族 人 口政 策研 究 』、 重 慶 出版 社 西 南 民族 学 院 民 族 研 究所 編 、 『 野 原 チ ベ ッ ト族 調 査 材 料 』 喬 根鎖 、2004、 『チ ベ ッ ト文 化 と宗 教 哲 学 』、高 等 教 育 出版 社 フ ロイ ト(オ ー ス トリア)著 、1986、 『トーテ ム と タブ ー』、 中国 民 間 文 芸 出版 社 山 口瑞 鳳 訳 、1971、 『チベ ッ ト文 化 』、岩 波 書 店 梁欽 著 、1993、 『江源 蔵 俗 録 』、 華 芸 出版 社 劉 俊 哲 ほ か編 、2003、 『チベ ッ ト族 の 道徳 』、民 族 出版 社. 注 1 一 妻 多夫 な どの 事情 に つ い て は. 2. 、拙 稿 「 チ ベ ッ ト族 の 配 偶 者 選 択 と結 婚 」(『大 正 大. 学綜 合 仏 教 研 究所 年報 』23・2001年)参 照。 テ ィ ソ ン ・デ ツ ェ ン王 は 、 七軒 の民 家 で一 人 の 僧 を養 う 「 七 戸 養僧 」 を 制 定 した 。 ま た仏 教 を 「 国教 」 に定 め、 「 す べ て の朝 政 ・政 策 は 、高 僧 に意 見 を求 め る。 す べ て の行 政 制 度 も教 律(仏 教 の教 義 と戒 律)を 準 則 とす る」 と規 定 した(『 中 国仏 教 』、.
(19) チベ ッ ト族 に お け る結 婚 の 一考 察‑恋. 第1期 、P146)。. 愛 ・結 婚 ・家 族 の モ ラ ル につ い て‑. しか し、 仏 教 の僧 伽 集 団 が 出 現 し た こ とに よ り、供 養 の 実 施 に. よ っ て 僧 侶 が 新 しい 特 権 階 層 と な り、 民 衆 の 負 担 は 増 大 した の で あ る 。 拙 稿 「チ 3. ベ ッ ト仏 教 寺 院 の組 織 と教 育 」(『松 濤 誠 達 先 生 古稀 記 念 論 集 』 に掲 載 予 定)参 照 。 チ ベ ッ ト族 の場 合 、裁 縫 は男 の仕 事 で あ る。 衣 類 が ほ ぼ 動 物 の 皮 で作 られ る た め 、. 4. 女性 は衣 類 を作 る こ とがで きな い 。 チ ベ ッ トに文 宇 が現 れ る前 か ら 、 民 謡 は 口承 に よ って 広 く民 衆 の 間 に伝 え られ て生. 5. き た。 そ の た め現 存 す るチ ベ ッ ト語 の文 献 で は 、民 謡 を 引い た例 が 多 く見 られ る。 漢 民族 の場 合 は 、結 婚 前 に異 性 との 接 触 が 厳 し く禁 じ され て い る た め 、 チベ ッ ト族 の よ うに振 る舞 う と、 厳 しい 罰 が 下 され るか 、 一 生 結 婚 出 来 な い の が 常識 で あ る。 こ う した事 情 につ い て は、 拙 稿 「 現 代 中国 に お け る社 会 変動 と家 族 」(『大 正 大 学 研. 6. 究 論 叢 』7・2000年)参 照。 空 を飛 ぶ 鳥 が投 げ られ た 石 に 当 た る程 度 の 確 率 とい う意 味. 7. 一 部 の地 域 で は婚 約 の 占い をす るが. 8. 一 ヶ月 か ら半 年遅 らせ て 改 め て婚 約 す る。 『ケサ ー ル 王物 語 』 は古 代 チ ベ ッ ト族 の 英 雄 「 ケサ ー ル 王 」 の伝 記 で. 。 縁 を指 す 。. 、 不 吉 な 結 果 が 出 た 場合 は諦 経 で魔 除 け を し、. 、 現在 で も民 間. に広 く知 られ る 、言 わ ば 漢 民族 に とって の 『西遊 記 』 の よ うな存 在 で あ る 。 内容 は、 チベ ッ トで吐 蕃 王 朝 が 滅 亡 して か ら三 〜 四 百 年 も続 い た 、割 拠 と内乱 の時 代 を映 し 9. た もの で あ る 。 土 司 につ いて は 、拙稿 「 チ ベ ッ ト仏 教 寺 院 の組 織 と教 育 」(『松 濤 誠 達 先 生 古 稀 記 念. 論 集 』 に 掲 載 予定)を 参 照 。 10 自分 と年 の あ ま り離 れ な い 、元 夫 の弟 との 再婚 。. 53.
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