Ⅰ はじめに
ムコ多糖症(Mucopolysaccharidoses以下MPS)は遺 伝性・進行性・稀少難病という特徴を持った難しい疾 患であり,日本における患者数が300人前後と極めて少 ない疾患である(戸松2005)。主な症状として種々の程 度の知的障害,著しい骨の変化,短い首,関節が硬く なる,粗い顔つき,角膜混濁,難聴,肝脾腫,心臓疾 患,低身長などがある。疾患の重症度と症状は個人に よりさまざまであり,患者の寿命は10歳から15歳と報 告されているが,中には成人に達してもADLが自立し ているケースもある。
難病の看護に関する先行研究を見ると在宅ケア,医 療ケア,家族のストレス,疾患の受容に関するものがほ とんどであり,遺伝性,進行性,稀少難病という特徴を 持った患者や家族の特徴やどのようなサポートが有効 であるのかという視点での研究は皆無に等しい。
MPSに関する先行研究では疾患について,骨髄移植 や酵素補充療法,無呼吸発作時の対処方法など疾患や 治療の概要を紹介するものにとどまっている。
稀少難病という背景から,医療者がこの疾患の患者 を診察・看護することは極めて少なく,MPSの患者や 家族がどのような医療ニーズを持っているのか明らかで はない。そもそも私達医療者はMPSという疾患が成長 発達過程でどのように進行していくのか理解していない ために,どのような看護ケアが必要なのかもわからない 状況である。
本研究の目的は,MPSという疾患が児の成長発達と 共にどのように進行していくのか,さらにその時の親の
思いを明らかにすることである。特に乳幼児期の疾患の 進行過程(子どもの変化)は医療機関等にかかる以前 であることが多く,親の記憶や記録に残されたものをた どる以外,方法がない。親の目から見たデータではある が,MPS児が成長発達と共にどのように疾患が進行し ていくのか明らかにする基礎的資料,疾患の早期発見 をするための資料になると考えた。また,子どもの成長 発達と疾患の進行度(子どもの変化),症状が明らかに なる事は親が育児や養育,子どもの寿命等の見通しを つける資料となると考えた。
Ⅱ MPSについて
研究にあたり,疾患の概略を記す。
ムコ多糖症とは,正式にはムコ多糖代謝異常症とい い,ムコ多糖を分解する酵素が,生まれつき欠けている ために発病する疾患である。ムコ多糖症は異なった酵 素の欠損によりハラー(IH型),シェイエ(IS型),ハン ター(Ⅱ型),サンフィリッポ(Ⅲ型)モルキオ(Ⅳ型),
マルトー・ラミー(Ⅵ型)スラィ(Ⅶ型)の7つの症候 群に分類されている。遺伝方式はハンター(Ⅱ型)症 候群が伴性劣性遺伝であり,それ以外は常染色体劣性 遺伝である。治療方法はハンター症候群では骨髄移植 という選択があるものの根本的な治療法は確立されて おらず,Ⅰ型は米国にて酵素補充療法が実施され,今 後欧州,カナダ,オーストラリアにおいても治療が可能 となる予定である。Ⅱ型は米国にて2004年から臨床試 験が実施されており,日本から4名の患者が参加した。
現時点では,骨髄移植以外のいずれの治療方法も日本
ムコ多糖症児とその家族に関する基礎的研究(1)
── 親が見た乳幼児期の子どもの変化 ──
久保 恭子
*・田村 毅
**生活科学
(2006年9月29日受理)
* 共立女子短期大学
** 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町 4-1-1)
国内で受けることはできない。また,最近では遺伝子治 療が注目され,各種モデルで検証が行われている状況 である。
日本におけるムコ多糖症疾患患者の背景であるが,
「日本ムコ多糖症親の会」と専門医が中心となって行っ ている「日本ムコ多糖症研究会」とが連携を取りながら 治療法,治療薬の開発推進,患者の状態の把握,保険 の適用,国庫助成など国への働きかけを積極的に行い,
さらに患者家族の互助交流,QOL向上へ向けて活動を 行っている。
Ⅲ 研究方法
調査対象者:MPS児をもつ9家族(母親8名 父親3名)。
対象者の選択方法:第1段階:MPS親の会(以下,親 の会)に研究の目的を説明し協力を依頼,同意を得た。
第2段階:MPS親の会発行の機関誌とともに,調査研究 の目的と依頼を明記した説明書を同封し,研究協力に同 意の得られた家族を対象とした。
調査方法:インタビュー調査と当時の日記や手紙の記述 内容を用いた。インタビューの内容は「子どもが生まれ てから,現在までにどのような変化や困難なことがあり ましたか」という質問に対して当時を想起して自由に回 答してもらい,逐語録をおこし分析を行った。日記や手 紙は当時を振り返る際に親が使用した。また,研究者が 日記や手紙から,子どもの変化や親の思いを分析した。
分析の方法:逐語録,日記や手紙から,成長発達の過 程で,親が気がついた子どもの様子(症状)とそれを どのような思いで受け止めたのか,語られたエピソード に沿ってまとめた。インタビューの場所は対象者の自宅 あるいは人の出入りの少ない場所で行った。
データ収集期間:2004年10月から2005年9月
倫理的配慮:対象者には親の会を通して,研究の目的・
方法を説明し同意を得た。さらにインタビュー時,再度,
口頭と書面で説明をし,話したくないことは話さなくて もいいこと,途中で中止したければその旨を伝えて中断 できること,今後,再度依頼する場合でも,目的等を説 明した後,同意を得てから実施すること,インタビュー の内容を録音した場合には,研究終了後速やかに処分 することを説明し書面にサインをいただいた。対象者の 中には親の会から出版されている冊子に子どもと親につ いて紹介した文章を書いたり,患者数が極めて少ない ことから誰が語ったデータであるのか特定される可能性 があることも話した上で了解をもらった。
Ⅳ 結果
1 )対象者の背景:
インタビュー時の子どもの年齢は8歳から23歳,男児 8名,女児1名であった。母親の年齢は38歳から58歳,
父親の年齢は42歳から61歳であった。インタビューの 時間は58分から2時間30分であった。
2 )概要
疾患の症状や進行度であるが,胎児期に問題を指摘 されたケースはなかった。出生時は巨大児というケース が2例みられた。乳児期は些細な音に敏感であり「抱っ こしても,ぐずる子ども」という育てにくさを感じる ケース(ケース4)も見られたが,それ以外は健康な子 どもと同じであると感じていた。1歳前後からコミュニ ケーションのとりにくさ,言葉の遅れなどの知的な障害 を呈し,身体的症状としては体の硬さ,難聴,アデノ イド,鼠径ヘルニアで整形外科,耳鼻咽喉科,小児科,
小児外科を受診していた。親は知的な問題を正常の範 囲内と考えており,身体的症状の原因も大きな疾患が隠 れているとは思っていなかった。知的な問題を解決する
表1 対象者の児の背景と面接対象者 ケース 出生児体重 病名 診断時年齢 インタビュー
時年齢 インタビュー
回数 面接対象者
1 4100g ハンター症候群 3歳 21歳 5回 両親
2 4150g ハンター症候群 5歳 16歳 4回 母親
3 少し大きめ ハンター症候群 3歳 10歳 1回 母親
4 3970g ハンター症候群 3歳 10歳 1回 両親
5 不明 ハンター症候群 3歳 21歳 1回 母親
6 2500g ハンター症候群 3歳 8歳 1回 父親
7 不明 ハンター症候群 5歳 8歳 1回 母親
8 不明 サンフィリッポ症候群 高校生 23歳 2回 母親
9 3800g サンフィリッポ症候群 3歳6 ヶ月 13歳 1回 母親
ために療育機関等でフォローされたが症状の改善が見 られず,検査の結果,3歳前後にMPSと診断に至った ケースが多かった。
親の思いは先行研究で報告されているようなドロータ やクラウスとケネルの障害受容のプロセスに沿っている が,特徴的なことは子どもの障害がわかったとき,母親 が安堵感を覚えたことであった。3歳以降の子どもの症 状の改善は見られず,親は子どもにとって最良の療育方 法の模索と選択,社会に対してMPSという疾患の啓蒙 活動などを行っていた。
親の特徴的な行動として,稀少難病であることから診 察できる医師が限定され,医師を選択できないこと,医 師との関係性に緊張や気配りを行っていた。
以下,① 親から見た子どもの症状の進行,② 診断 に至るまでの経過,③ 治療方法の選択,④ 疾患の特 徴と遺伝の問題,⑤ 代替医療について,⑥ 医師との 関係性の6点についてまとめる。
① 親から見た子どもの症状の進行
胎児期にトラブルのあった児はおらず,母親は高齢出 産が2名,流産の経験のあるものが2名,帝王切開で出 産した母親が2名いた。子どもの出生体重は2500gから 4150g(3名は不明)と巨大児というケースもあった。こ れらの母親は子どもに対して「元気で大きな赤ちゃん」
というプラスのイメージを持っていた(ケース1, 2, 3, 4, 9)。母親は乳児期の子どもを「流行性感冒に罹患しや すい」ものの「普通の子ども」と同じであると捉えてい た(すべてのケース)。
1歳前後より中耳炎を繰り返す(ケース1, 2, 3, 4, 5, 7),
難聴(ケース2, 3, 4, 5, 7),鼠径ヘルニア(ケース1, 2, 3),アデノイド(ケース1, 2, 3, 4),気管支炎を繰り返 す(ケース1, 2, 3, 4),言葉の遅れ(全ケース),物を投 げるなどの暴力的な行動(ケース1, 2, 3, 4, 8, 9),本の 内容はよく覚えているのに会話が成り立たない(ケース 2),歌は100曲くらい(正確に)歌えていたのに1番と 2番がすり替わる(ケース2),コミュニケーションがと りにくい(ケース2, 3, 4, 8, 9),どもり(ケース2),遊び に集中できない(ケース1, 2, 3, 4, 8, 9),独り言(ケース 2, 8, 9),多動(ケース2, 3, 4, 8, 9),靴が履けない(体 が硬い)(ケース1, 2, 3, 4, 6, 7),背骨が曲がっている
(ケース2, 6),首が短い(ケース1, 2),歩行開始が遅い
(ケース1, 2, 3, 4, 8, 9),つま先歩きのような独特な歩き 方(ケース2)をすることに気がついていた。その後,
療育機関でフォローをされるもののこれらの症状の改善 は見られなかった。
② 診断に至るまでの経過
1歳前後になんらかの異常を察知し1歳6 ヶ月健診時,
主として「言葉の遅れ」について保健所等で相談をし ていた(ケース1, 2, 3, 4, 7, 8, 9)。
子ども同士のコミュニケーションに関しても問題を感 じており(地域の公園で他児と遊べない)(ケース1, 2, 3, 4, 8, 9),行政などが行っている親子で参加できる子 育てサロン(ケース2, 3, 4),療育センターや保健所等 で行われている母子通園に通っていた(ケース1, 2, 3, 4, 7, 8, 9)。これらの施設では母子保健を担当する保健師,
保育士,言語療法士,心理判定員などとの関わりがあっ たが,スタッフから疾患を指摘されることはなかった。
地域の保育園に通園をしていたケースでは,保育士 から「体が硬いから専門医に診察をしてもらったほうが いい」(ケース6),「やっぱり言葉が遅れているから診察 を受けたほうがいい」(ケース7)という一言から,検査 を受けて診断に至っていた。
身体的な症状のフォローとして耳鼻咽喉科,整形 外科,小児科,小児外科を受診していた。耳鼻咽喉 科で処置を担当した看護師が「肘が十分に伸びない から,整形外科と小児科に受診をしてみたら」(ケー ス3),診 察した整 形 外 科医,小 児 科医,耳 鼻 咽 喉 科医から「眼が大きいから,独特の顔をしているか ら代謝の病気があるのかもしれない」(ケース1, 3, 4, 5, 6, 7, 9),独 特の顔つきで 検 査を勧めた医師ら は以 前にMPSの 子どもを見 たことが あり,最 初か らこの疾患を疑っており,短時間で診断に至ってい た。この疾患を診断するには「独特の顔つき」が判 断材料のひとつとなっていることが明らかになった。
診断までに時間のかかったケースでは,医師が知的 障害児,自閉症児と診断をした(ケース2, 9),知的な 問題は個性であると判断し検査を行わなかった(ケース 7),子ども自身が検査に対する拒否が強く,協力が得ら れずに診断名がつかなかったケース(ケース8)が見ら れた。また,病院で血液検査を行っても異常を発見で きなかったケース(ケース2, 6, 7, 9)もあったが,これ らの中で,主治医がMPSを疑っていたケースではさら に専門医のいる施設を紹介し,診断に至っていた。
母親は子どもが1歳6 ヶ月前後にみられた症状は「暴 力的なのは,男の子で元気がいい証拠」等,楽天的に 捉えていたが,療育機関等への通園でも改善が見られ ないこと,成長発達過程で他の子どもと比較して差があ る事から,2歳過ぎより「障害があるのではないか」と 感じ始めていた(全ケース)。この不安を父親や実母,
姑に話しても「母親の育て方が悪いからだろう」といわ れショックを受けており(ケース1, 2, 3, 4, 6, 7, 8, 9),ま た,普段子どもと接する時間の少ない父親は,母親ほ ど子どもの変化を深刻に捉えておらず,「我が子が他の
表2 診断年齢と診断までの経過・親の気がついた子ども変化
ケース 診断年齢 疾患の診断までの経過 乳児期 幼児期(1歳前後から就学前まで)
知的な問題 身体的な問題 1 3歳前 1歳6 ヶ月健診時,顔
つきを指摘
感染に弱い 首が短い
言葉の遅れ 気管支炎 中耳炎 鼠径ヘルニア アデノイド 2 4歳 2歳ごろより,医療機
関でフォローしてい たが,診断つかず。4 才で以前の検査デー タを確認して診断が ついた。
感染に弱い 首が短い 体が硬い
赤ちゃんみたいな柔 らかさがない
コミュニケーション 障害
言葉の遅れ 体が硬い 多動
中耳炎 難聴(3歳)
肺炎(2歳 5歳)
アデノイド(4歳)
鼠径ヘルニア
(1歳9 ヶ月)
3 3歳前 中耳炎の術前の検査 で,体の硬さを看護 師に指摘。小児科医 に顔つきを指摘。
コミュニケーション 障害
言葉の遅れ 体が硬い 多動
中耳炎 鼠径ヘルニア アデノイド
4 3歳 小児科医に顔つきを 指摘。
音に敏感
鼠径ヘルニア(2 ヶ月)
言葉の遅れ 体が硬い
中耳炎(2歳7 ヶ月)
難聴(3歳)補聴器 5 3歳 小児科医に顔つきを
指摘。
言葉の遅れ 中耳炎
6 3歳前 保育士が体の硬さを 指摘
体が硬い 独特の歩き方
(膝が伸びない)
7 6歳 2歳ごろより,医療機 関でフォローしてい た が,診 断 つ か ず。
小児科医に顔つきを 指摘。
言葉の遅れ 中耳炎
8 高校生 検査への拒否が強く,
診断できず。
コミュニケーション 障害
言葉の遅れ 多動
暴力的な行動 ボーダーライン 行動障害 9 幼児期 小児科医に顔つきを
指摘。
コミュニケーション 障害
言葉の遅れ 多動
暴力的な行動
子どもとどこが違うのかわからなかった」という発言も あった(ケース4, 9)。
診断名告知時の思いとして,母親は「ショックだった けど,今までの多動や問題行動が私の養育が悪かった のではなく,病気のためだった,ということが明らかに なってほっとした」という安堵感を持っていた(ケース
2, 3, 4, 8, 9)。
すべての親に共通した反応として「誤診ではないだ ろうか。何かの間違いであろう」「もっと情報がないの だろうか」と感じ,インターネットや親の会を通して,
情報収集を行っていた。ある父親は「専門書を調べて,
疾患のページに子どもの写真が載っていた。その子ども が自分の子どもとあまりにもそっくりだったので,この 病気に間違いはないのだ,と納得できた」(ケース4)と 話していた。
③ 治療方法の選択
ケース8・9は治療法がないため,親たちは代替療法 や子どもが楽しめるキャンプなどに積極的に参加してい た。ハンター症候群では骨髄移植について説明を受け ていた。そのうち,ケース4, 5, 6, 7は骨髄移植のリスク が高すぎる,骨髄移植後の無菌室での安静に不安があ る,脳へ効果がないということは神経症状に改善はみら れないということ(骨髄移植をしても知的な問題は解決 しない),持って生まれた寿命をまっとうさせたい,薬 が開発されるかもしれない,日常生活のリズムをつけて
(快食,快便,快眠の3つを管理する)楽しく生活させ たいという理由から骨髄移植を希望しなかった。
ケース3は骨髄移植の説明を受け,できる治療は受け させたいと考えていた。症状が比較的軽いこと,骨髄 バンクから短期間でドナーがみつかったこと,医療機関 からの協力が得られたことからMPSの診断,骨髄移植,
退院まで1年という短期間で行えていた。現在,骨の変 形と知的な問題は若干残っているが,骨髄移植後の後 遺症はみられていない。親は「子どもの寿命がのびた だけ,いかに暮らしやすく持てる力を十分に発揮できる ような生活をさせるためにはどうしたらいいのか」「う ちは運が良く骨髄移植ができ後遺症もなく暮らしていけ るけれど,希望をしても実施できない人や骨髄移植後の 後遺症のある人もいるからあまり,喜んではいられない」
という気持ちを持っていた。
ケース1・2は骨髄移植を希望して実施できなかった。
実施できなかった理由として,麻酔科医より「多動があ り,骨髄移植後の安静が保てない」「喘息や呼吸器系の 問題があるため,全身麻酔が危険である」という理由 から移植ができなかったと話した。親の思いとして「麻 酔科医は簡単に断る。小児科医は許可してくれたのに。
移植をしたらよくなるだろうという最後の希望で受診に いったのに,病名を聞いたときよりも残酷であった」と 話した。診断に時間を要した家族は「もっと早く診断が できればやれたことがあったかもしれない(骨髄移植を 受けられたかもしれない)」と話した。
すべてのケースが「どんな治療法を選んだらいいの かわからなかった。難しい選択だった。何をしたらいい のかわからなかった」と語っていた。
④ 疾患の特徴と遺伝の問題
結果②で前述したように,この疾患の特徴として独特 の顔つきから診断に至っていた。稀少な疾患であること から診断に時間がかかるケースもあり,母親は「自分の 養育が悪くて子どもに多動の症状があるのではないか」
と感じているケースもあった。
診断が確定をしたことにより,親は「誰に聞いたら病 気や治療のことがわかるのか」「日本語の文献がなくて,
外国の文献を訳した」「子どもにしてあげられることを 早く知りたい」「子どもにとって楽しいことはどんなこと なのか」「どうして病気になったのか(疾患の原因を知 りたい)」という情報を求めており,親の会に入会した り,インターネットなどから情報を集めていた。この過 程の中で,ハンター症候群のうちケース1, 2, 3, 4では,
遺伝疾患であることを親の会の冊子から得ており,「親 の会からの冊子で遺伝について知った。自分の血を呪っ た」「私が悪いのだと感じた。私のせいでごめんねと子 どもに謝った」「夫は『お母さんのせいじゃないよ』と 言ってくれたけど,夫の実家にもどったら『俺の血じゃ ない』と話していた」「姑が子どもを避けるようになっ た」「誰も私を攻めなかったけど,私が産んだ子がこん な子で悪いなって(家族や親戚に対して)思った。親 戚に謝ってまわった」「実家の母親に暴言を吐いた(自 分が保因者であるということは自分の母親の遺伝である と感じていた)」「親の会の冊子を隠して,父親に遺伝の ことがわからないようにした」と語っていた。
また,療育・育児において,父親は「一番大変なの は母親なので,母親が(育児を)やりやすいようにでき たらいい。親の精神状態が子育てに影響するから。親 が落ち着いて,子どもに優しくできたら子どもも落ち着 く。それは母親もわかっているみたいなので,なるべく 母親が落ち着いていられるように(支援)している」と 語っており(ケース1, 2, 4, 8),直接的な育児を行うとい うよりは母親をサポートすることを育児ととらえていた。
また,母親の育児方法を見て「もっと愛情を持って接す るべきだ」等と母親の育児姿勢や療育に対して父親が 意見をすることもあった。母親は「いつも世話をしない 人に意見をいわれたくない」「実際にできないことを求
めないで欲しい」といった気持ちを持っていた。
このように遺伝の問題,夫婦間での育児に対する意 見の相違が夫婦関係を悪化させることもあったが,その 後「父親が子どもを可愛がる姿を見て,お父さんのこと を許そうと思った」という言葉が母親から聞かれ,夫婦 関係は時間と共に改善をされていた。
⑤ 代替医療について
母親は子どもの寿命を少しでも長くすること,QOL の向上を目的に,予防接種や手洗い,歯磨きの励行し 感染予防を図る(全ケース),体力維持・向上のために 早寝早起きなど生活リズムを整える(全ケース),その ために散歩や階段昇降(全ケース),プール(ケース1, 2),リハビリ(ケース1, 2, 6, 8, 9),漢方薬(ケース1, 2, 9),無農薬食品(ケース1, 2, 8),プロポリスやハーブ 療法(ケース1, 2, 8),ノニジュース(ケース1, 2, 8),ア ルファルファ(ケース1, 2, 8),針療法(ケース1, 2, 8)
などの代替医療を取り入れていた。「治療方法がないと いうことだから,子どもにやってあげられることは何で もやる」と語っており,実際に多くのプログラムを取り 込み,経済的な負担を感じたり,母親の疲労が増大し たケースも見られた。どの親も児が短命である事を意識 しており,少しでも楽しい思いをさせてあげたいという 考えからキャンプなどに積極的に参加をさせていた(全 ケース)。また,子どもの疾患を理解して欲しい,治療 方法を確立して欲しいという願いから,骨髄移植の推進 活動や疾患の啓蒙活動に熱心に参加する親もいた(ケー ス1, 2, 3, 4, 6)。
⑥ 医療者との関係
親は診断名の説明を受ける際,医師から「(医師自身 も)教科書ではみて知っている病気だけど,初めて(患 者を)みた」滅多にみない病気だと言う言葉に「(子ど もが)実験台にされるのでは?」「これから先,どの先 生に診てもらったらいいのか」「この先生に嫌われたら,
子どもの治療ができなくなる」「一番良い治療を受けさ せたい。それでだめだったらあきらめる,他施設への受 診を希望したところ,担当医が憤慨され『今後,いっさ い診察治療しない』といわれ死ぬ気で謝って許しても らった」というエピソードが語られた。
ケース4では「診断がつく前から医師が丁寧に言葉を 選んで説明をしてくれた。そこで信頼関係ができていた からか,(診断名を聞いたときは)どの一言もつらかっ たけれど,そのときも医師は言葉を選んで話してくれ て,私たちに配慮をしてくれたようだった。とても感謝 をしている。治らない病気だったら,ほっておかれるの かと途方に暮れたが,病気の説明が終わったらこれから 先どうやって生活していくことが大切なのかということ
を1時間以上,説明をしてくれた」「『お母さん,子ども の成長発達のチェックは任せてください。一緒に頑張っ ていきましょう』『お父さん,一緒に頑張りましょう』と いってくれた言葉にとても励まされた」と話していた。
母親が子どもに行う療育方法や代替療法に関してで あるが,医師は「効果はないよ」と回答していた。この ことについて,母親は「簡単に(効果がないと)言わな いで欲しい。簡単にあきらめないで欲しい」「結局は親 身になってくれない」「私たちの気持ちを理解していな い」と語っていた。
Ⅴ 考察
ムコ多糖症は患者数が少なく,疾患の進行度にも差 があるため,子どもと親がどのような養育過程を過ごし ているのか,どのような問題を抱えているのか不明な点 が多い。今回,妊娠から子どもの就学前まででどのよう な変化があったのか語ってもらった。9事例という少な い事例数ではあるが,その中から見えてきたものをまと めていきたい。
1 子どもの症状の変化と早期発見について
乳幼児期のムコ多糖症の症状は,単なる発達の遅れ,
あるいは自閉症と誤診されることもあり,早期発見が難 しく見逃されやすい疾患であることが明らかになった。
また,先行研究ではムコ多糖症の症状として,特有の 顔つき,関節拘縮,巨舌などが認められることが多いと 報告されているが(田中 2004),今回の結果から,親 はこれらの症状よりも言葉の遅れや知的な障害に気がつ いていることが明らかになった。これはムコ多糖症の早 期発見につながる大切な情報であると考える。
今回の結果から小児代謝疾患の専門医であること,
以前にこの疾患を診察した経験のある医師では短時間 で診断に至っており,医療者がこの疾患に対する知識 をもっていることが早期発見につながっていることがわ かった。一つ一つの症状に特徴はないものの,子どもが 示しているサインのすべて(独特な顔つき,気管支炎を 繰り返す,鼠径ヘルニア,アデノイド,中耳炎を繰り返 す,歩行の状態,体の硬さなど)をある程度入手するこ とで早期発見ができると考える。親が最初に相談窓口 としている場所として母子保健担当の保健師,保育士,
言語療法士,心理判定員,また,医療機関の中でも耳 鼻咽喉科,整形外科医師,小児科医師が多いため,こ れらの人々に疾患の情報を提供することによって早期発 見につながると考える。
また藤田ら(2002)の先行研究では,札幌市の先天
代謝異常症ハイリスク・スクリーニングを試験的に実施 した結果,先天代謝異常症21例(発見率1.6%)を発見 できたという報告があり,財政的な面での問題はあるも のの早期導入が期待される。
早期発見をするメリットとして診断がついたことによ り,母親の養育態度と子どもの症状が無関係であると明 らかにできること(無用な自責の念を抱くことが無くな ること),治療方法の選択肢が広がること,症状の原因 や病名が明らかになることにより,親は今後の養育への 心構えを持てること,早期に適切な療育ができ,子ども 達が少しでも生活しやすくなるよう支援できるというメ リットがある。
2 医療者との関係
MPSのような稀少難病では診断,治療ができる医師 が限られ,患者・家族は自由に医師を選択することがで きない。このような背景から,患者・家族は担当医から 診察を拒まれ,子どもの治療やアドバイスをもらえなく なることを恐れていた。また,医師の一言,態度に非常 に敏感になっており,同時に医療者に対して多くの気づ かいや配慮を行っていることがわかった。専門医でなけ れば診断ができない,治療方法が示せない,治療方法 の開発ができないということは患者・親にとって専門医 が命綱であり,大きな信頼と期待を抱きつつ大きな気づ かいをしていた。
3 情報量について
家族は疾患や療育に関する情報が不足していると感 じていた。これは家族が通常の疾患と同様の情報量や 希望の持てるような情報を求めていることが推測され る。医療者は疾患や治療の情報を提供することだけで はなく,今後,疾患のおおまかな進行過程,親が子ど もにできる具体的な育児・療育方法,生活上の注意点,
親の会の存在等を説明していくことにより,生活への見 通しができるものと考える。
今後の課題として,育児の中でどのような育てにくさ があるのか,その際の対処方法など,具体的なことを明 らかにして支援方法を明らかにしていきたい。
Ⅵ 結論
今回の調査ではMPSという疾患が児の成長発達と共 にどのように進行していくのか,親によって把握された データから明らかにした。また,その進行に伴う親の思 いについて明らかした。その結果,
1 )乳幼児期はMPSという疾患が発見される時期であ
り,医療者が子どもの症状(サイン)を集めること で早期発見が可能になると考えられる。また,先 行研究で報告されている内容に加え,親は知的な 問題,言葉の遅れを疾患の早期の症状として捉え ていた。
2)早期発見が可能となることで,母親の養育態度と 子どもの症状が無関係であること,治療方法の選 択肢が広がること,症状の原因や病名が明らかに なることにより,親は今後の養育への心構えを持つ ことができること,早期に適切な療育ができ,子ど も達が少しでも生活しやすくなるよう支援できると いうメリットがある。
3 )親は子どもの疾患が遺伝であること,予後不良で あることに動揺していたが,養育方法について様々 な代替医療等を取り入れ,子どもが少しでも過ご しやすくできるように配慮していた。
4)稀少難病であることから,診断治療ができる医師 が限られており,専門医に大きな期待と信頼,気遣 いを行っていた。
今後の課題として
今回は9ケースという少ない数であり,この結果を普 遍化することは難しい。ケースの数をさらに増やし,多 面的に分析していく必要がある。
謝辞:本研究にご協力してくださった皆様に感謝いたし ます。
この論文の一部は第52回日本小児保健学会で発表し た。本論文は文部科学省研究費補助金基盤研究(B)(2)
(研究代表 田村 毅)をうけておこなったものである。
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12 )田中あけみ他:先天代謝異常症に対する骨髄移植 の効果,小児科43 2199-204 2002.
13 )田中正博:障害児を育てる母親のストレスと家族 機能,特殊教育学研究34 3 23-32 1996 14 )戸松俊治:米国における治験の経過説明,ムコ多
糖症研究会抄録集 2005 8月
15 )矢部和実:先天性疾患を持つ子どもの母親に対す る育児上の困難とその関連要因,日本小児看護学 会誌14 1 8-15 2004.
The present study aimed to clarify how mucopolysaccharidoses (MPS) progresses along with the growth and development of children with MPS based on the observations by their parents and to create basic data for acquiring suggestions regarding the early discovery of MPS and nursing support based on the thoughts of the parents of children with the disease. The results suggest that the parents of children with MPS realized several abnormalities during infancy, such as mental problems, language delay, and physical stiffness, and many were followed up at the routine 18-month health examination. The disease was identified in MPS children in many cases. Although the diagnoses in many cases were made in the infancy, specialists in metabolic disorders, and physicians who had previously treated MPS children were able to make earlier diagnoses. It is expected that better understanding of MPS by medical staff who are involved in 18-month health examinations for infantswill allow earlier disease discovery and thus earlier treatment of MPS.
Key words: mucopolysaccharidoses (MPS) infancy, progress of disease, changes in children, thoughts of family
A basic study on children with mucopolysaccharidoses (MPS) and their families ( 1)
── Changes in MPS children in their infancy based on observations by their parents ──
Kyoko KUBO*, Takeshi TAMURA**
Department of Home Economics Abstract
* Kyoritsu Woman’s Junior Collage
** Tokyo Gakugei University (4-1-1 Nukui-kita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184-8501, Japan)