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化学物質総合管理法

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-化学物質総合管理法の骨子案と今後の課題-

化学生物総合管理 第3巻第2号 (2007.12) 117-144頁

連絡先:〒112-8610 東京都文京区大塚 2-1-1 E-mail: [email protected] 受付日:2007年12月6日 受理日:2007年12月25日

【報文】

化学物質総合管理による能力強化策に関する研究(その 6 )

‐化学物質総合管理法の骨子案と今後の課題‐

Study on Strategies for Capacity Building of Chemicals Integrated Management (6) - A Proposal of Draft Framework for the Law on Integrated Management

of Chemicals in Japan and Next Problems -

星川欣孝・増田優

お茶の水女子大学 ライフワールド・ウオッチセンター Yoshitaka HOSHIKAWA, Masaru MASUDA Life-World Watch Center, Ochanomizu University

要約:化学物質に係る日本の管理制度の現状は、数多くの法規や行政事務に分散して ますます複雑化し、実効性や効率性だけでなく、整合性や透明性にも欠けたまま推移 している。そのため、こうした現状を変革して社会の化学物質管理能力を抜本的に向 上させる方策を検討してきた結果、もっとも有効な方策は国際的に合意された管理概 念や管理制度を体系的に取り入れた化学物質総合管理の法律を導入し、その法律の執 行を担う唯一の独立行政機関と総合評価機関を設置することであると判断した。この 報文ではその考え方に基づく法律の骨子について一つの試案を提示する。そして、骨 子を構成する各要素の概要および考え方を逐条的に説明し、加えて、その法律の導入 に関連して今後検討が必要となる現行関連法規の整理統合という課題への取り組みに ついてその考え方を考察する。

キーワード:化学物質総合管理法、独立行政機関、総合評価機関、包括的初期リスク 評価、規制改革

Abstract: There are no legal systems concerning integrated and/or comprehensive chemical management in Japan, so we propose here a draft framework for the law on integrated management of chemicals. It is composed of objectives, basic strategies, definition of important processes of assessing chemical risks to the human health and the environment, a standardized procedure of risk management for protection of the health of people (workers, consumers and general publics) and the environment related to actual uses of chemicals, six basic systems for systematic management of chemicals, an independent administrative agency, a comprehensive evaluation institute and so on. We consider, further more, the way of introducing the law into Japanese existing regulatory systems related to chemical management.

Keywords: Chemicals integrated management law, Independent administrative agency, Comprehensive evaluation institute, Integrated initial risk evaluation, Regulatory reform

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-化学物質総合管理法の骨子案と今後の課題-

化学生物総合管理 第3巻第2号 (2007.12) 117-144頁

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1.化学物質の総合管理に関する法律制定の重要性

国内の社会経済活動及び市民生活で使用される化学物質(以下、取扱化学物質という)の適 正な管理は、化学物質に関わりを持つそれぞれの当事者 (事業者、作業者、消費者など) がリス ク原則に基づいて人および環境への影響を最小限にするよう主体的に自主管理することを基礎 とする。そして、こうした管理の実務を社会に定着させる法律の役割は、適正管理の全体的枠 組みを明示的に規定し、社会全体のリスク管理能力を向上させる施策を講じ、そして、当事者 の主体的な自主管理の実際を社会に公開する手続き等を定めることである。ここでリスク原則 とは、化学物質総合管理の基本原則の一つであり、化学物質の人および環境に対する危険有害 性(ハザードという)に基づく管理でなく、ハザードに人および環境の曝露の程度を加味した 実際の影響の可能性(リスクという)を基礎とする管理を意味する (表1参照; 星川他, 2005b)。

表1 化学物質総合管理の基本原則‐「総合管理原則」‐

しかし、日本の現行法制にはリスク原則に基づいて化学物質を包括的に管理する化学物質総 合管理の法律がない (図1参照)。このことが根源的な原因となって、化学物質の人および環境 に対するハザードを包括的に評価し、その結果に人(作業者、消費者、一般市民)および環境 の曝露の程度を加味してリスクを実効的に管理する慣行が社会に定着していない。このような 共通認識が定着していない日本の実態は、アスベスト、ダイオキシン、内分泌撹乱物質などへ の場当たり的で計画性に欠けた対応やハザードの分類および表示に関する世界調和システム (GHS: Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals) への国際 的な協調性や整合性に欠けた対応などに表れている (星川, 2005; 星川他, 2006c)。

一方、海外の状況を眺めると、米国および欧州共同体 (現欧州連合: EU) は、1970年代には

OECD (経済協力開発機構) の理事会決議に呼応して化学物質管理の理念・方針を抜本的に改め、

包括的なハザード評価を基礎とするリスク原則に基づいた化学物質総合管理の法制に移行した。

そして最近では、例えばEUにおけるREACH規則 (化学物質の登録、評価及び認可に関する 規則)への改革に見られるように、これまでに蓄積した経験や技術の進展を取り入れて化学物質 総合管理を実効性、効率性および透明性がより高い総合管理体系へと進化させている (図2参 照; 星川他, 2005, 2007)。

このような欧米との格差に加えて、最近では、日本の化学物質管理の法律制度はアジア地域 諸国の管理適正化の流れからも取り残されている。アジア諸国の管理適正化の契機は、主に 1992年6月の国連環境開発会議 (UNCED) で採択された人類の行動計画 (アジェンダ21第

1.実態に則した管理(リスク原則)

ハザードのみならず曝露も加味したリスクの評価を基礎とする管理 2.科学的方法論による評価と管理

科学的知見と論理的思考に依拠した評価と管理 3.国際調和の尊重

国際的に調和のとれた方法論や制度の尊重 4.当事者の主体的管理の重視

曝露の個別実態に則した自主管理の重視 5.情報の共有

リスクの評価や管理に必要なハザード情報や曝露情報の共有 6.知的基盤の整備

科学的方法論と科学的知見の充実及びその集大成・体系化による基盤の整備 7.専門人材の育成と教養教育の充実

専門的人材の育成と教養教育の充実による社会の認識水準の向上

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-化学物質総合管理法の骨子案と今後の課題-

化学生物総合管理 第3巻第2号 (2007.12) 117-144頁

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図1 化学物質管理にかかわる法律制度の日本の現況

図2 EUにおける化学物質総合管理法制の進化

毒物及び劇物取締法(1950年12月制定)

消防法・危険物の規制に関する政令(1959年9月制定) 高圧ガス保安法(旧高圧ガス取締法:1951年6月制定)

化学物質審査規制法(1973年10月制定)

化学物質(排出把握)管理促進法(1999年7月制定) 労働安全衛生法(1972年6月制定)

有害物質含有家庭用品規制法(1973年10月制定) 有機溶剤中毒予防規則 特定化学物質障害予防規則 鉛中毒予防規則

四アルキル鉛予防規則 粉じん障害予防規則、その他

消費生活用製品安全法(1973年6月制定) 家庭用品品質表示法(1962年5月制定) 火薬類取締法(1950年5月制定)

危険

消費者製品

大気汚染防止法(1968年3月制定)、悪臭防止法(1971年6月制 定)、オゾン層保護法(1988年5月制定)、水質汚濁防止法(1970 年12月制定)、ダイオキシン類対策特別措置法(1999年7月制 定)、土壌汚染対策法(2002年2月制定)、その他

環境

新規化学物質審査

安全データシート交付 ハザード分類

製造・輸入

貯蔵

使用 回収・廃棄 優良試験所規範

輸送安

販売

化学

初期リスク評価 容器ラベル表示

輸送

爆発性の物、発火性の物、

引火性の物、その他政令 指定物

道路運送車両法、鉄道営業法、

船舶安全法・危険物船舶運送・貯蔵規則

(1957年8月制定)、

航空法施行規則(1962年7月制定)、

その他

海洋汚染及び海上災害防止法(1970年12月制定)

(化学物質総合管理にかかわる法規)

危険物質の分類・包装・表示の法規統一化に関する指令67/548/EEC 危険調剤の分類・包装・表示の法規統一化に関する指令1999/45/EC 危険な物質と調剤の上市・使用制限の法規統一化に関する指令76/769/EEC 既存化学物質のリスク評価と管理に関する規則(EEC)793/93

労働者の安全衛生の改善促進対策の実施に関する指令89/391/EEC 労働者の化学物質リスクからの安全衛生保護に関する指令98/24/EC 労働者の発がん性物質・変異原性物質曝露リスクからの保護に関する指令 2004/37/EEC

消費者製品に関する指令2001/95/EC

危険貨物の道路輸送の法規統一化に関する指令94/55/EC 危険貨物の鉄道輸送の法規統一化に関する指令96/49/EC 総合汚染予防管理に関する指令96/61/EC

欧州汚染物質放出・移動登録制度の設置に関する規則(EC) 166/2006 危険物質関連の重大事故危険性の管理に関する指令96/82/EC

R E A C H

(GHS)

届出新規化学物質の人及び環境へのリスク評価の原則に関する指令93/67/EEC 既存化学物質の人及び環境へのリスク評価の原則に関する規則(EC)1488/94 優良試験所規範(GLP) の適用・検証の法規統一化に関する指令87/18/EEC 安全データシート(SDS) に関する指令91/155/EEC

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19章) に基づく国際的な連携活動である。この活動では社会の化学物質管理能力を強化するた め、まず現状と問題点をナショナル・プロファイルの作成によって明確にし、それを基に改善 行動計画を策定して実行する。この活動はその後、持続可能な発展に関する世界首脳会議 (WSSD, 2002年9月) におけるアジェンダ21の完全かつ加速度的な実施の合意を経て、2006 年 2 月の国際化学物質管理会議 (ICCM) において採択された国際化学物質管理の戦略的取組 み (SAICM: Strategic Approach to International Chemicals Management) によって強化さ れた (星川他, 2005b, 2006a, 2006d)。

こうした国内外の現況に鑑みれば、国際的に合意された管理制度や取組みとの整合性を改善 し、かつ、日本の化学物質管理能力を強化するために、政府が一体となって現行関連法規を抜 本的に見直して化学物質総合管理法制に変革することが喫緊の課題となっている。そして、化 学物質総合管理法制において中核となる化学物質の包括的管理を担う「化学物質の総合管理に 関する法律 (仮称)」(以下、化学物質総合管理法と略称する)の骨子を立案するに当たっては、

既に提案した20項目の規定事項を考慮することに加え (表2参照; 星川他, 2006d, 2007b)、表 3に提示する個々の要件が満たされる方向で現行法制を全体的に見直し、基本的な管理制度を 再構築し、それを機能的に執行する行政体制を整備することが肝要である。

表2 化学物質総合管理法に想定される主な規定事項

① 基本理念/基本方針に関する規定

② 法規の適用範囲に関する規定*

③ 政府、事業者および国民の責務に関する規定

④ 化学物質のハザード情報の整備に関する規定

⑤ 化学物質の生産・輸入量や用途といった曝露関連情報の整備に関する規定

⑥ 情報の公開と事業者の企業機密情報の保護に関する規定

⑦ ハザードデータなどの共有化に対する補償に関する規定

⑧ 人及び環境に対するハザードの包括的評価に関する規定

⑨ ハザードの分類とラベル表示等に関する規定

⑩ 新規化学物質の届出審査制度に関する規定

⑪ 人及び環境への初期リスク評価に関する規定

⑫ 人又は環境への有害影響が強く懸念される化学物質の規制に関する規定

⑬ 一元的所管行政機関に関する規定

⑭ 総合的評価機関の整備に関する規定

⑮ 関係省庁との調整・協調に関する規定

⑯ ハザード評価、曝露評価及びリスク評価にかかわる調査に関する規定

⑰ 他の調査機関との連携に関する規定

⑱ 情報管理基盤の整備に関する規定

⑲ 人材の育成に関する規定

⑳ 利害関係者の参加に関する規定

註:*法規の適用範囲については、全ての化学物質、全ての用途、全ての影響、全ての管理の 視点、全ライフサイクル、全ての当事者および全ての制度や手段であることを前提とする。

2.化学物質総合管理法の骨子案の要点

化学物質総合管理法制において中核となる化学物質の包括的管理を担う化学物質総合管理 法の骨子について一つの試案を添付資料に提示する。骨子案の構成は表4のとおりであり、

特徴的な基本事項の要点および考え方を以下に説明する。

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表3 化学物質総合管理法制に求められる要件 1.化学物質総合管理の概念に基づく現行法律体系の抜本的変革

国内で取り扱われている化学物質(自家消費を含む)を包括的に管理する新たな行政 事務を起こし、現在省庁に分散している諸関係事務を統合し整理する。

2.複数の法律に分散して非効率な基本的管理制度の統合と抜本的な機能向上

基本的な管理制度を体系化して法定の一元的制度とし、化学物質総合管理法を所管す る行政機関がそれらを包括的に所掌する。

3.深化と多様化の著しいハザード評価やリスク評価への適応力の強化

法律の執行を支援し、かつ、化学物質のハザードとリスクの評価および調査を中核的 に担う総合評価機関を創設して専門的な人材を糾合する。

4.化学物質管理に関する行政施策および行政事務の省庁間協働の確保

化学物質管理に関係する全省庁の協議・調整の場を常設して協働を促進し、事務局に は化学物質総合管理法を所管する行政機関を当てる。

5.社会の管理能力および制度運用の透明性の向上

化学物質を取り扱う当事者の責務を法律に規定し、化学物質に関する情報の共有化を 推進し、行政施策の策定や行政事務の実施過程への市民参加等の措置を講ずる。

表4 化学物質総合管理法の骨子案の構成 第1章 総則

1.目的 2.適用範囲 3.基本方針 4.定義等

5.指針等の整備 6.社会各層の責務 第2章 管理の標準的手順

第3章 基本的管理制度

1.化学物質管理の実態調査 2.取扱化学物質の評価

3.新規化学物質等の評価 4.高懸念化学物質の生産・使用の確認 5.当事者間の情報共有 6.情報管理及び情報公開

第4章 執行体制の整備

1.一元的所管行政機関の設置 2.関係省庁間の協働 3.総合評価機関の設置 4.他の評価機関等との連携 第5章 雑則

1.当事者の営業上の機密情報及び財産権の保護と補償

2.社会の意見集約の場の設置 3.専門人材育成と教養教育 4.化学物質総合管理中期計画の策定及び年次報告書の公表

骨子案は主に、経済協力開発機構 (OECD) の理事会決議、国際労働機関 (ILO) の条約およ びアジェンダ 21(第 19 章)などの国際合意文書に規定される化学物質総合管理の考え方を参 照して作成した。日本の現行法規との関係は後で考察する。

(1)目的

化学物質総合管理法の骨子案ではこの法律の目的を表5に示すように規定した。つまり、こ の案では化学物質にかかわる社会のリスク管理能力を抜本的に向上させることを究極的な目標 と位置付けた。そして、それを実現する最も重要な施策は、化学物質を体系的に管理する標準 的手順および基本的管理制度を明白に規定することであると判断し、しかも、それらの運用を 確実にするため、包括的かつ一元的に執行する行政事務を新たに設けることを明示した。

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日本の現状を改善して化学物質管理の実効性、効率性および整合性を向上させるためには、

「化学物質総合管理」という新たな行政事務を起こして省庁に分散している管理制度を整理し 統合することが不可欠であると考える。

表5 化学物質総合管理法の目的の案文

この法律は、国内の社会経済活動及び市民生活において使用される化学物質(以下、取 扱化学物質という。)が人及び環境に与えうる影響を最小限に管理するため、化学物質の特 性である人及び環境に対する危険有害性(以下、ハザードという。)を包括的に評価して分 類し、その結果に人及び環境の化学物質への曝露の程度を加味して実際の影響の可能性(以 下、リスクという。)を包括的に初期評価し、そしてリスクを適正に管理することを基本と する管理の標準的手順並びに国際的に整合した基本的管理制度を規定し、かつ、これを一 元的かつ体系的に運用することにより、化学物質管理の実効性、効率性及び整合性を改善 するとともに、制度運用の透明性と他の関連法規との協働性を高めて社会のリスク管理能 力の向上を図ることを目的とする。

(2)定義等

骨子案の定義等には、「ハザード評価」、「ハザード分類」、「曝露評価」、「初期リスク評価」お よびハザード評価やリスク評価における「詳細調査」の定義を加えている。これらの用語はす でに様々に使われているため、管理の標準的手順や基本的管理制度におけるこれらの用語の意 味を特定しておく必要がある。

これらの管理実務はいずれも科学技術的な方法論に依拠しており、実施する者が誰であろう と、その成果は社会の共通財産となるものである。したがって、それらの定義は国際的な整合 性を重視して定めるのが最も実効的かつ効率的である。具体的には「ハザード評価」、「曝露評 価」、「初期リスク評価」およびハザード評価やリスク評価における「詳細調査」の定義は、OECD が確立し既存化学物質の点検プログラムで使用しているスクリーニング情報データセット (SIDS) の概念などに基づいて定めることとした (OECD, 2000, 2007)。したがって、「ハザー ド評価」や「初期リスク評価」を実施する場合に必要となる最小限の情報データの範囲は、原 則としてOECDが策定した高生産量 (HPV: High Production Volume) 化学物質の点検マニュ アルに記載されるSIDS情報項目に基づいて定めることとなる (表6参照)。一方、「ハザード分 類」の定義は、国連経済社会理事会 UNESC) が勧告した化学物質の分類および表示に関する 世界調和システム (GHS) に基づいて定めることとした (UN, 2005)。

なお、これらの管理実務の具体的内容は、基礎となる国際モデルが経験の蓄積や科学技術の 進展によって常に改訂されるため、国際モデルの改訂などに応じて柔軟に修正しうる方法で規 定しておく必要がある。また、OECD の HPV 化学物質の点検プログラムについては、日本の 行政にも化学産業にも長年の取組みの経験があり、法制化の選択肢として最も適している (江

馬, 2006)。さらに、これらを化学物質総合管理法に規定することには、化学物質の包括的なハ

ザード評価、曝露評価およびリスク評価のあり方について社会に共通指針を提示する意義があ り、これにより日本の化学物質管理の透明性は格段に向上する。

(3)社会各層の責務

骨子案においては事業者および政府の責務に加えて、作業者、消費者および市民の責務の規 定を社会各層の責務として加えることとした。これらの規定を加える理由は、化学物質の適正 管理の基礎が化学物質に関わりを持つすべての当事者の主体的な自主管理にあることを明示す るためであり、努めて具体的な記述とした。

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表6 OECD/SIDS情報項目

(註)・青字は曝露関連情報を示す。

(4)管理の標準的手順

骨子案の特徴の一つは、化学物質を管理する標準的な手順を明示したことである。この標準 的手順は図3に示す化学物質総合管理の基本体系を規定文に置き換えたものである。この手順 は化学物質に関わりを持つそれぞれの当事者の主体的な自主管理の手順としてだけでなく、化 学物質総合管理法制の全体に共通する管理の標準的手順として規定することとした。

図3 化学物質総合管理の基本体系

日本において化学物質への人および環境の実際の曝露をハザードに加味してリスクを管理す

Ⅰ.物質情報

1.物質の識別情報(Chemical Identity)

-CAS番号

-名称

-構造式

-評価される化学物質の組成 2.流通量(生産・輸入推定量)

3.使用類型(カテゴリー及び使用タイプ)

4.曝露発生源(作業者曝露、消費者曝露 及び環境経由の間接曝露)

Ⅱ.物理化学的性状 1.融点

2.沸点 3.相対密度 4.蒸気圧

5.分配係数:n-オクタノール/水 6.水溶解度

7.解離定数(解離物質の場合)

8.酸化還元電位

Ⅲ.環境中運命 1.光分解性

2.水中安定性(加水分解する官能基ないか、

加水分解されないと一般に認められる化学 物質群は定性的に記述)

3.媒体間の移動分配(分配経路を含み、実 験かQSARによるヘンリー定数、エアロゾ ル化、揮発性、土壌吸着性)

4.好気性生分解性

Ⅳ.哺乳類毒性

1.急性毒性(人曝露状況で投与経路選定)

2.反復投与毒性(新規試験は人曝露状況 に最も関係する投与経路)

3.遺伝毒性(2種エンドポイント)

4.生殖発生毒性(受胎能と発生毒性を評価 できるデータ)

5.人の曝露経験(入手可能な場合)

Ⅴ.環境毒性 1.魚類急性毒性 2.ミジンコ急性毒性 3.藻類毒性

データ・情報の整備

(ハザード、使用・取扱、評価書・指針、法規制、技術)

ハザード評価

(分類、量-反応評価)

曝露評価

(作業者、消費者、環境生物等)

詳細評価

(ハザード、曝露、リスク)

リスク管理

(事業、社会)

ハザードコミュニ ケーション

GHS、SDS等)

曝露コミュニケー ション

(曝露シナリオ書)

リスクコミュニケーション

(取扱注意書、リスク評価書)

マネジメントコミュニケーション

(環境報告書、CSRレポート等)

初期リスク評価

(初期リスク評価書)

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る慣行が社会に定着しにくい理由の一つは、現行法制の取締法的な規制概念にこれが欠落して おり、また、関連法規の管理手順を調和させる行政手続きも定められていないためである。こ うした現状を根本的に改めて社会のリスク管理能力を向上させるためには、化学物質総合管理 法においてリスクに基づく管理の標準的手順を明示的に規定し、これを実践する措置を講じて 社会に定着させることが肝要である。

(5)基本的管理制度

骨子案には化学物質総合管理法の基本的な管理制度として6つの制度を規定した。それらは 次の各制度であり、それぞれの規定内容は前述した管理の標準的手順と密接に関連しており、

しかも、いずれの制度も相互に関連付けられている (図4参照)。 それぞれの制度の要点について以下に説明する。

[骨子試案に規定する6つの基本的管理制度]

1.管理の実態調査制度 2.取扱化学物質の評価制度

3.新規化学物質等の評価制度 4.高懸念化学物質の生産・使用の確認制度 5.当事者間の情報共有制度 6.情報管理および情報公開制度

図4 管理の標準的手順と基本的管理制度の関係

1)管理の実態調査制度

国内で取り扱われる自家消費を含めたすべての化学物質、すなわち、取扱化学物質をリスク 原則に基づいて包括的に管理する化学物質総合管理においては、化学物質の取扱管理の実態、

つまり、化学物質の生産(輸入を含む)・使用および管理の状況を正確に把握することが必須要 件である。このことは、OECD の化学物質総合管理に関する最初の理事会決議において生産・使 用等の統計データを整備することが第1の要件として掲げられたことからも明らかであり、米 国や EU の法制には当初から法定の実態調査制度が整備されている (星川他, 2007b)。

しかし日本には、これに類する法定制度が整備されていない。そのため、実態の把握が十分 に行われていない。骨子案における管理の実態調査では、他の法令により労働安全衛生、製品 安全、環境保全などのリスク管理の視点でハザードやリスクが評価される場合を除いて、すべ

包括的ハザード評価・分類 包括的初期リスク評価

詳細調査

(ハザード、曝露、リスク)

リスク管理対策確定 1.管理実態調査制度

2.取扱化学物質評価 制度

3.新規化学物質等評価 制度

4.高懸念化学物質確認 制度

5.当事者間情報 共有制度 管理情報基盤整備

6.公開データベース 年次報告書 管理の標準的手順

(事業者・行政共通)

新法の中核的機能で、

評価機構の整備が必要 他の関連法規

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ての化学物質の管理実態について基礎的データを収集することを掲げた。そして、調査の対象 者は化学物質を生産または輸入する事業者だけでなく、化学物質を使用する事業者も含めるこ ととし、調査の範囲は、表6に示した OECD/SIDS 情報項目に規定される物質情報に加えて、事 業者の自主管理の裏付資料であるハザード分類、曝露シナリオ書、初期リスク評価書、安全デ ータシートなどの整備状況の調査とした。OECD/SIDS 情報項目の物質情報とは、業者の名称、化 学物質の識別情報などの他に、曝露関連情報である取扱量、用途、人および環境の主な曝露発 生源などである。

なお、この実態調査は5年程度の間隔を置いて継続的に実施することとした。収集した情報 は、取扱化学物質の一覧表を編纂する基礎データとするほか、次項に説明する取扱化学物質の 評価制度や公開データベースを構築する基礎情報として利用する。

2)取扱化学物質の評価制度

骨子案における取扱化学物質の評価制度の第一の目的は、管理の実態調査で把握された取扱 化学物質について人および環境に対するハザードを包括的に評価して分類し、流通量、用途、

取扱条件などの曝露関連情報を用いて行われる人(作業者、消費者、一般市民)および環境の 曝露の見積もりの結果をハザード評価の結果に加味してリスクの初期評価を行うことである。

そして、それらの結果に基づいてハザード、曝露およびリスクに関する詳細調査やリスク管理 対策の必要性を確認することとした。言い換えると、この評価制度は化学物質総合管理の根幹 となる制度である。この制度の下で取扱化学物質のハザード評価と初期リスク評価を統一的な 規準を適用して行うことにより、高懸念化学物質や他の法規の危険有害物質の定義への該当性 を判断する共通基盤が整備され、とりわけ他の法規による危険有害化学物質の指定の実効性お よび透明性が格段に改善される。

しかし、国内で取り扱われる化学物質の種類は極めて多い。そのため、取扱化学物質のハザ ード評価や初期リスク評価は、化学物質総合管理法の準則で定める手続きおよび実施計画に従 って優先性の高い化学物質を選定しながら段階的に行う必要がある。評価対象化学物質を段階 的に選定する規準は、一般的には流通量、用途などの曝露関連情報、既知の高懸念化学物質や それらとの構造類似性などのハザード関連情報などに基づいて設定される。

取扱化学物質の評価の手続きは、評価対象化学物質を取り扱う当事者が主体的な自主管理の ために整備し、または、作成した関連データや関連情報について自ら再評価することから始め られる。そして、当事者はその再評価の結果を含めて保持する関連データや関連情報を整理し て準則に基づき所管省庁に届け出る。届出後の評価の具体的手順は以下のように想定される。

そのため、関係省庁間の協働を確保する体制を整備することがこの制度の円滑な運用のために 必須条件となる。

① 政府は、この調査の対象化学物質について自ら収集したハザード情報に加えて、当事者が 提出するハザード情報及びハザードの評価や分類の結果などを精査して、対象化学物質の 人及び環境に対するハザードの評価と分類を確定し、ハザードに関して追加調査の必要性 および高懸念化学物質や他の法規の危険有害化学物質への該当性を判定する。そして、他 の法規の危険有害化学物質の定義に該当すると判定した場合には該当法規による規制の必 要性について所管省庁と協議する。

② 政府は、また、この調査の対象化学物質について自ら収集した曝露関連情報及びリスク評 価情報に加えて、当事者が提出する取扱量、用途、生産・使用の状況などの曝露関連情報 およびリスク評価の結果などを精査し、自らも人及び環境に与えうる影響の初期リスク評 価を行って曝露又はリスクに関する追加調査の必要性および他の法規によるリスク管理対 策の必要性について判定する。そして、他の法規によるリスク管理対策が必要であると判

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定した場合には該当法規による規制の必要性について所管省庁と協議する。

③ 政府は、これらの評価の結果等を情報管理基盤の構築に活用する。

3)新規化学物質等の評価制度

新規化学物質等の評価制度は、国内での取扱化学物質の一覧表を作成した時点以降において 取扱いが新たに予定される化学物質(新規化学物質)および取扱化学物質の一覧表に収載され る化学物質であっても、人または環境に対するハザードが新たに見出されたり、取扱量、用途 などが大幅に変化したりしてハザード評価、曝露評価および初期リスク評価を改めて行う必要 があると準則に定められる化学物質の取扱いについて、当事者からの届出に基づいてハザード 評価、曝露評価および初期リスク評価を行うことを目的とする。

化学物質のハザード評価、曝露評価および初期リスク評価は、一般的に評価を実施する時点 において利用可能な情報に基づいて行わざるを得ない。したがって、既にハザード評価や初期 リスク評価を実施した取扱化学物質であっても、その後、人または環境に対するハザードが見 出されたり、取扱量や用途の大幅な変化により人または環境の曝露の状況が大きく変化したり する場合について、ハザード評価や初期リスク評価を再度実施する制度を整備しておく必要が ある。それゆえ、この制度は前項の取扱化学物質の評価制度を補完する制度と位置付けること ができる。したがって、具体的な評価の手順および内容は、取扱化学物質の評価制度に準じて 行うのが適切である。

骨子案におけるこの制度は、ハザード評価、曝露評価および初期リスク評価を改めて行う必 要がある場合について準則において規準を設定し、その規準に該当する場合について当事者が 自ら行ったハザード評価、曝露評価および初期リスク評価の結果、およびそれらの結果に基づ いて作成したハザード分類、曝露シナリオ書、初期リスク評価書、安全データシートその他の 資料等を添付して政府に届け出る制度である。

4)高懸念化学物質の製造・使用の確認制度

骨子案における高懸念化学物質の製造・使用の確認制度は、人および環境に対するハザード が分類規準に照らして著しく強いか又は強いことが懸念される化学物質の生産および使用につ いて、政府があらかじめ初期リスク評価または詳細リスク評価を行い、その結果に基づいて生 産または使用に対して一律に適用される制限等を規定し、当事者からの届出により該当する生 産または使用の方法およびリスク管理対策の計画について確認する制度である。

高懸念化学物質の生産または使用の制限等としては、初期リスク評価または詳細リスク評価 の結果に基づいて、生産および使用の禁止のほか、特定の用途での使用の禁止や制限などを必 要な範囲で定めることとする。この制度の基本的な考え方は、人および環境に対するリスクを 適切に管理することが技術的または経済的に難しい化学物質は、リスクの弱い代替物質や代替 方法がない場合に限り、規定される生産または使用の制限等においてのみ生産または使用を許 容するというリスクの未然防止の概念である。

5)当事者間の情報共有制度

総合管理原則に基づく化学物質の適正管理においては、化学物質に固有の人および環境に対 するハザードの包括的な情報に加えて、化学物質への人および環境の曝露に関する情報を社会 で共有することが必須の要素である(表1参照)。とりわけ人および環境の曝露は化学物質を取 り扱う方法によって様々であるため、化学物質を実際に取り扱う当事者の主体的な自主管理が 管理体系の中核となる。それゆえ、当事者の間で化学物質のハザード情報だけでなく、人およ び環境の曝露に関する情報を共有する仕組みを明確にしておく必要がある (図5参照)。 そのため骨子案においては、当事者間の情報共有制度として、①化学物質のハザード情報

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を生産者が川下事業者と共有するための安全データシート (SDS: Safety Data Sheets) および

②化学物質の使用過程における曝露情報を使用者が川上事業者と共有するための曝露シナリオ 書 (ESD: Exposure Scenario Documents) の交付制度を設け、それら文書の作成について指針 または手引きを策定することとした。ここでESDとは、化学物質の生産工程や使用工程につい て化学物質の排出・漏洩の状況を調べて人および環境の曝露の程度を見積もる過程の詳細およ び結果を記述した文書であり、現在、OECD が数多くの工程の標準的な ESD を作成するプロ ジェクトを産業界とともに取り進めている (窪田他, 2005)。

図5 当事者間の情報共有制度(ハザード/曝露コミュニケーション)

ただし、これら文書の法定による義務的な作成および交付については、必要となる場合を特 定するのが一般的である。それゆえ、SDS の作成および交付については、すべての化学物質およ び特定の危険有害化学物質を含有する製品の取引に際して供給者が作成して使用者に交付する こととし、一方、ESD の作成および交付については、当事者が自らの化学物質取扱の実態につい て人および環境の曝露を評価する際に作成し、その曝露情報に基づいて他の者がリスク評価を 行う際に交付することとした。

なお、当事者間の情報共有の他の手段である化学物質を収納した容器または包装へのハザー ド表示については、化学物質およびそれを含有する製品の危険有害性に応じた容器・包装の表 示制度として、国際的な勧告規準 (GHS 等を基本とする) を基礎とした指針に従って統一的な ラベル表示や標札を付すこととした。

6)情報管理および情報公開制度

社会全体のリスク管理能力を高めて化学物質の適正管理を実現するためには、取扱化学物質 に関する情報ならびに化学物質のハザード評価、ハザード分類、曝露評価およびリスク評価に 関係する情報を網羅的に共有しうる体系的に構築された情報管理基盤を整備することが不可欠 である。

骨子案における情報管理基盤は、それらの機能により二つの制度に分けられている。一つは 当事者が化学物質総合管理法の諸規定に基づいて所管行政機関に届け出る営業上の機密情報を 含めた法執行のための情報管理基盤であり、他の一つは、法執行のための情報管理基盤から当 事者の機密情報を除いて構築される社会の管理能力を高めるための公開データベースである。

これらの情報管理制度で取り扱う情報には2種類の情報がある。一つは取扱化学物質に関す る情報で、その代表的な情報には管理の実態調査で収集した情報、ハザードの包括的な評価と

SDS・GHS

ハザード評価 曝露評価 リスク管理 リスク評価

ハザード評価 曝露評価 リスク管理 リスク評価

ハザード評価 曝露評価 リスク管理 リスク評価

曝露情報

生産業者

中間業者

使用業者 SDS・GHS

ESD ESD

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分類の結果、曝露評価の概要、初期リスク評価の概要、ハザード、曝露またはリスクに関する 詳細調査の概要、リスク管理対策の概要、および国内外の関連情報などがある。他の一つは、

化学物質のハザード評価、曝露評価およびリスク評価に関する一般的な情報で、その例には国 内外の行政機関や民間機関が作成した化学物質の評価書、人および環境に与えうる影響を評価 する方法論や手順に関する指針や手引書などがある。これらの情報のデータベースを構築する 際に特に留意すべきことは、当事者の営業上の機密情報を適切に取り扱うことに加えて、これ らの情報を体系的に分かりやすく整理して当事者に利用しやすくすることである。

なお、所管行政機関が法律の執行状況、国内外の動向及び今後の取り組みについて定期的に 報告書を作成して公表することも情報共有の重要な手法であり、これについては後で述べる。

(6)化学物質総合管理法の執行体制の整備

化学物質管理に関する現行法規を抜本的に見直し、新たに化学物質総合管理法を導入して化 学物質総合管理法制に変革する場合、その中核となる化学物質総合管理法に規定されるハザー ドの包括的な評価と分類、包括的な曝露評価、人と環境への影響の包括的かつ総合的な初期リ スク評価などの事務を円滑に遂行し、他の化学物質関連法規による管理との整合性を確保する 新たな執行体制を整備する必要がある。

そのため骨子案においては、化学物質総合管理法を一元的に所管する行政機関を設置すると ともに、その執行を全面的に支える独立した専門機関である総合評価機関を整備する。そして、

これらの機関と他の関係省庁や評価調査機関が協議・調整しながら協働する仕組みを整備する こととし、その在り方について一つの具体案を提示した (図6参照)。それぞれの要点を以下に 説明する。

図6 化学物質総合管理法制における関係行政機関等の協働体制

1)一元的所管行政機関の設置

化学物質総合管理法は、化学物質を包括的に管理する新らたな法律である。そのため、この 法律の執行にかかわる事務を担う行政機関を新たに設置する必要がある。しかし、骨子案の化 学物質総合管理法は体系的な法律制度を新たに規定するものであり、既存の法律を改正して化 学物質総合管理を実現させることは困難である。同様に、既存行政機関の枠組みの延長線上で 執行機関を構築することは適切でなく、新たな行政機関を設置する必要がある。

化学物質の管理に関してはすでに数多くの法規が制定され、それぞれの法規を担う執行部門 が多くの省庁に分散して存在している。そうした状況において化学物質総合管理法に期待され

一元的所管行政機関

(執行部門、企画調査部門)

(内閣府所属)

総合評価機関

(評価部門、調査部門、教育部門)

[独立専門機関]

関係省庁等の

協働の場

・・・・

調

調

・・・・

(行政) (独立専門機関)

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る役割は、他の関連法規に共通する管理要素であるハザード評価、ハザード分類、曝露評価、

初期リスク評価、ハザードコミュニケーション関連制度などを一元的に運用して、化学物質管 理の実効性、効率性および整合性を全体的に改善することである。それゆえ、化学物質総合管 理法の執行を担う新たな行政機関の所掌事務は、リスク管理の視点に係る事務を担う他の行政 機関との関連性が密接であり、必要に応じてこれら関係省庁との協議・調整の任務を遂行し日 常的に協働しうる体制を確保する必要がある。化学物質総合管理法を担う新たな行政機関がこ のような協働を円滑に遂行するためには、これを内閣府に設置するのが最も適切であると判断 し、その名称を化学物質総合管理庁(仮称)とした。また、化学物質総合管理法制への変革に 際して他の省庁が現に所掌する事務の再配置が不可欠であることから、一元的所管行政機関の 設置に関する骨子案の案文を表7のように作成した。

表7 一元的所管行政機関の設置に関する案文

(1)政府は、この法律に基づいて化学物質総合管理を包括的に所掌する行政機関を内閣府 に新たに設置し、現在、省庁に分散している関連事務を整理して統合する。

(2)この行政機関の名称は化学物質総合管理庁とし、この法律の執行を一元的に担う執行 部門に加えて、化学物質総合管理にかかわる政策の企画立案及び国内外の技術的進展や 政策的動向の調査を総括する企画調査部門を設置する。

そして、化学物質総合管理庁と他の関係省庁との意見交換や協議・調整を円滑に遂行し、協 働の実を挙げるための仕組みとして、化学物質総合管理にかかわる全省庁の協働の場を併設し、

その下に必要に応じて共通課題に取り組む作業部会を設置することとした。

この関係省庁間の協働の場に期待される日常的な役割は、化学物質総合管理にかかわる国内 外の問題や動向の情報を共有し、国際機関の決議等への対応、技術的な進展や新たな科学的知 見などについて関係省庁間で共通認識を涵養することである。そして、化学物質総合管理法の 執行との関連では、取扱化学物質等のハザードの包括的な評価と分類、曝露評価、初期リスク 評価および追加の調査に協力するとともに、その結果として他の法規の危険有害化学物質の定 義に該当する化学物質を新たに見出したり、更なる詳細評価やリスク管理対策の必要性を見出 したりした場合に、関係省庁間で具体的な措置について協働することなどである。

2)総合評価機関の設置

一元的所管行政機関が化学物質総合管理法を円滑に執行するためには、ハザードの包括的か つ一元的な評価と分類、包括的な曝露評価および包括的な初期リスク評価など、6つの基本的 管理制度の執行・運用について化学物質総合管理庁を全面的に支える専門的かつ独立的な総合 評価機関の併設が不可欠である (星川他, 2007a, 2007b)。

このような総合評価機関は化学物質管理にかかわる日本の中核となるべき評価機関であり、

骨子案においてはその名称を化学物質総合評価機構(仮称)とした。総合評価機構が備えるべ き基本的な機能部門は、①ハザード評価、曝露評価、リスク評価、リスク管理およびデータ情 報の管理の業務を担当して法制度の執行・運用を行う評価管理部門、②毒性、生態毒性、体内 動態、トキシコゲノミクス、環境中挙動、曝露分析、疫学など広範な基礎学術領域の進展を専 門的に調べて評価管理部門を支える調査部門、ならびに③化学物質総合管理に精通した人材の 育成を支援する教育部門である。こうした機能は科学的基盤の上で専門家により遂行されるも のであり、それゆえ、この総合評価機構は独立した専門機関として機能することが肝要である。

関係省庁および独立行政法人などに分散している関連機能を統合して部分的に充足できると しても、新たに専門的人材を糾合して体制を整備する必要がある。とりわけ化学物質のハザー ドやリスクの評価の主要な要素である毒性試験や疫学調査の評価、人および環境にかかわる広

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範な曝露の評価やリスクの評価などの経験を有し、国際的な動向にも精通した充分な人員の評 価者を確保することが肝要である。

ただし、化学物質総合管理法の執行のために総合評価機構を設置しても、その機構が化学物 質のハザード評価、曝露評価およびリスク評価にかかわる全ての業務を落ちなく網羅すること は人材的に無理であり、また、非効率である。したがって、法執行上の優先度に基づいて総合 評価機構が直接担う業務を明確に規定し、その他の重要関連事項については、官民を問わずそ の能力を有する他の機関と連携して取り組む制度を整備する必要がある。そうした制度の例と して、化学物質の作用メカニズムの理解を深めるなどの基礎的調査、リスク評価の結果に基づ いて実施したリスク管理対策の妥当性を検証するため、現在既に集積している情報の活用を含 めて作業環境や作業者に関する疫学調査、中毒情報の収集、生活環境関連のモニタリング調査 などが考えられる。

(7)その他の重要事項

以下においては、化学物質総合管理法の骨子案に含まれるその他の重要事項として、1)管理 実務に係る指針等の整備、2)当事者が提出する営業上の機密情報および財産権の保護と補償、

3)社会の意見集約の場の設置、4)専門的人材育成と教養教育および 5)化学物質総合管理中期計 画の策定および年次報告書の公表の考え方について説明する。

1)管理実務に係る指針等の整備

当事者の主体的な自主管理を前提とする化学物質総合管理においては、それぞれの当事者の 責務を明確に規定することに加えて、それぞれの管理実務について指針または手引きを整備し ておく必要がある。指針等の策定は、化学物質管理の実効性や透明性を高めるために不可欠で あるだけでなく、国際貿易上の利便性を考慮してそれらを国際的に整合させて策定することが 国際競争力のために必須である。

国際的な整合性を考慮して策定すべき指針等の例を挙げれば以下のとおりである。

1)化学物質の人および環境に対するハザードの包括的評価に関する指針 2)化学物質の人および環境に対するハザードの包括的分類と表示に関する指針 3) 化学物質等の安全データシートの作成・交付に関する指針

4)化学物質等の生産・使用に関する曝露シナリオ書の作成に関する手引き

5)化学物質が人および環境に与えうる影響の初期リスク評価と追加の調査に関する手引き

2)当事者が提出する営業上の機密情報および財産権の保護と補償

骨子案が想定する化学物質総合管理法は、当事者の主体的な自主管理を前提として、当事者 が自主管理の実際に関する情報を所管省庁に届け出てそれを所管省庁が評価する制度を設けた り、化学物質の取扱管理に関する公開データベースを構築したりする。そのため、所管省庁が 保持する情報の中には当事者の営業上の機密情報や当事者が費用をかけて取得した情報が含ま れており、公務員に係る全般的な守秘義務とは別に、取扱化学物質等の評価や公開データベー スの構築において当事者の営業上の機密情報や財産権を保護し補償する措置を明白に講じてお く必要がある。ただし、営業上の機密情報を保護する事業者の権利は、危険有害化学物質に関 する情報に対する労働者、消費者および社会の知る権利と均衡させる必要がある。

3)社会の意見集約の場の設置

骨子案においては、化学物質総合管理法の執行上の課題あるいは化学物質の総合管理にかか わる課題への対応や政策の立案について、行政と事業者、労働者、消費者、市民などが意見交

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換を行って認識の共有化を図り取組みの方向を明確にする場を設置することとした。

このような場の具体的な例はワークショップやフォーラムである。こうした場の設置は、ア ジェンダ 21 などの国際合意文書においてたびたび推奨されており、法律の執行や新たな課題へ の対応に関する社会各層の意見を集約して共通認識を涵養し、化学物質総合管理の実効性や透 明性を向上させる手段として不可欠である。

4)専門的人材育成と教養教育

化学物質の適正管理を実現するためには、現行の錯綜とした化学物質管理体制を抜本的に体 系化して透明性の高い使い勝手のよい化学物質総合管理法制に変革することに加えて、化学物 質総合管理の実務を担当する専門的人材の確保が不可欠である。しかし、企業および行政にお いて化学物質管理を担う者の専門知識・技術としても、また、国民の一般教養としても、それ らを習得する場が極めて少なく、人材が絶対的に不足している。

骨子案においては、このような現状を改めるため政府が化学物質総合管理の実務を担いうる 専門家を養成する人材育成および高校や大学における一般教養としての化学物質総合管理の教 育について体制を強化することを明示し、加えて、化学物質管理の法執行に携わる行政官につ いて化学物質総合管理に関する能力の向上とそのための研修の必要性を付記することとした。

5)化学物質総合管理中期計画の策定および年次報告書の公表

日本の化学物質総合管理の実効性、効率性および整合性を向上させるためには、化学物質総 合管理を担う省庁の事務として、化学物質総合管理の現状を計画的に分析し改善のための課題 を明確にして取り組むための化学物質総合管理中期計画の定期的な策定および各年度の取組み の成果と課題をまとめて公表する年次報告書の作成が必要である。

化学物質管理の現状分析と改善計画の定期的策定は、ナショナル・プロファイルプログラム としてアジェンダ 21 に掲げられた世界共通の課題であり、関係省庁の密接な協働の下に事業者、

労働者、消費者、市民など社会の広範な活動を網羅して作成し、定期的に改訂することが国際 的に合意された責務でもある (星川他, 2006a)。

3.今後の課題

化学物質総合管理法の骨子案は、上記の説明で明らかなように、日本の管理体系にすでに取 り入れられている、あるいは日本がまだ取り入れていない国際的に合意された管理概念や管理 実務を化学物質総合管理という一つの概念を踏まえて体系的に組み立てれば、比較的容易に作 成することができる。したがって、このような化学物質総合管理法を導入して現行法律体系を 抜本的に変革するための今後の主な課題は、全体としての整合性を確保しつつ実効性と効率性 を向上させるために、化学物質総合管理法と既存の関連法規との関係をどのように整理して化 学物質総合管理法制に変革するかという点にある。

以下においては、まず化学物質総合管理法の視点からみた既存の関連法規の特異性や問題点 を分析し、その結果を基にして化学物質総合管理法制を実現させるために今後取り組むべき課 題の考え方について考察する。

(1)化学物質総合管理法からみた現行関連法規の主な特異性

化学物質総合管理法と現行関連法規との関係は、化学物質総合管理法に想定した管理の標準 的手順と対比させると図7のように表すことができる。図7において化学物質総合管理法が担 う主な管理手順は、取扱化学物質等に関する包括的な情報管理基盤の整備に始まり、ハザード の評価と分類、曝露評価、初期リスク評価などの包括的かつ一元的な実施とそれらの結果に基 づく高懸念化学物質の生産・使用の確認やリスク管理対策の確定までである。

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図7 化学物質総合管理法制における管理の標準的手順と現行関連法規の関係

一方、化学物質管理にかかわる錯綜とした日本の現行関連法規をみると、それらの中には、

化学物質等に係るリスク管理の視点の一部だけを扱っている法律や特定のハザードを有する化 学物質だけを対象とする法律などが混在しているだけでなく、図 1 に示したように、本来一つ の制度として導入すべき基本的管理手順を実効性や効率性を考慮することなくそれらの法律が こぞって導入している状況がある。

したがって、こうした錯綜とした現状を根本的に改善するために、情報管理基盤を整備して 透明性を高め、ハザードの評価・分類からリスク管理対策の確定までの管理手順を統合して体 系化し、実効性と効率性を抜本的に向上させることが化学物質総合管理法を導入する必然性の 論拠となる。現行関連法規を化学物質総合管理法制に変革するために今後解消すべき主な特異 性を整理すると以下の3点である。

1)第一の特異性は、国際的に合意された新たな管理手順の導入の仕方である。図1に示し た複数の法規に導入されている新規化学物質の届出審査、ハザードの分類、安全データシ ートの作成・交付、優良試験所規範、初期リスク評価などの管理手順は、日本が必要性を 認めて独自に開発して法律制度にしたものではない。いずれも日本がその重要性に気付い ていない間に外国政府が開発したり、国際的な論議を経て確立されたりしたものを個々に 導入してきたにすぎず、しかも、導入に当たって複数の法律がこぞって導入するという使 い勝手の悪い他の国に例を見ない事態を招いてきた。

2)第二の特異性は、それぞれの法規が化学物質のハザード評価、ハザード分類、ハザード コミュニケーション、初期リスク評価、リスク管理対策の確定と実施などに関わりを持っ ている。しかし、個々の法規のそれらの範囲はそれぞれの法目的に合致する範囲や程度に 限られている。こうした整合性の欠如が日本の関連法律制度を非効率で透明性に欠けるも のにしている。

3)第三の特異性は、現行関連法規がリスク管理の視点に基づいて全く体系化されていない 化学物質審査規制法 化学物質管理促進法 労働安全衛生法 消防法高圧ガス保安法・火薬類取締法

毒物劇物取締法 輸送安全関連法規 消費者製品関連法規 環境保全関連法規 その他関連法規 包括的ハザード評価・分類

ハザード/曝露コミュニケーション 包括的初期リスク評価

追加の詳細調査 リスク管理対策確定

リスクコミュニケーション

現行関連法規の 大幅改正が必要 情報管理と情報公開

リスク管理対策実施

化学物質総合管理法

包括的曝露評価

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ことである。したがって、それらの中には、化学物質等に係るリスク管理の視点の一部だ けを取り扱っている法律や特定のハザードを有する化学物質だけを対象とする法律などが 混在している。そのため、リスク管理の視点によっては類似した管理対策を複数の法律に 従って対処しなければならない現実がある。

(2)今後取り組むべき課題の考え方

上記した現行関連法規の3つの特異性は、いずれも化学物質を包括的に管理する独立した行 政事務が確立していないことに起因する。化学物質の包括的管理という行政事務が存在する状 況においては、新たな管理制度の導入が必要になった場合にその行政事務の基となる法規を改 正して一元的に対処したり、他の法規を所管する省庁と協働して対処したりすることが可能と なる。つまり、日本は時代変化に適合させて法律制度を全体的に見直すという規制改革 (Regulatory Reform) や、最近では民間の経営実務に学んでガバナンスを根本的に向上させる 行政の現代化 (Modernization) など OECD が 1990 年代から取り組んでいる活動への参画を怠っ ているために、国際的に見劣りする硬直的で実効性と効率性に乏しく使い勝手の悪い化学物質 管理の法律群に留まってしまっている (OECD, 1997, 2003)。OECD の規制改革に関する活動の概 要および日本の規制改革の実態にみえる特異性については稿を改めて考察する。

日本の錯綜とした化学物質関連法律制度の現状をみれば、化学物質総合管理の行政事務を新 たに起こすことが処方箋の核心となる。それゆえ、この報文において提唱する化学物質総合管 理法は、新たな行政事務を創設して現行法規を大幅に整理統合して両者の整合性を確保しつつ 導入しない限り実効性は期待できない。現行法規との整合性を確保しないまま化学物質の総合 管理にかかわる法律を導入すれば事態をさらに悪化させるだけである。

化学物質総合管理法との整合性を確保しつつ現行関連法規を大幅に見直して化学物質関連法 制を変革する方法には、上記の3つの特異性に対応して次の3つの方策がありうる。ただし、

いずれの方策も行政事務の分担管理の原則(いわゆる縦割り行政の根源)に抵触するため、政 府が一体となって取り組む仕組みを構築する必要がある。

1)国際的に合意された管理制度の導入の仕方を変えること

これは第一の特異性を解消するための方策であり、他の方策に比べて実行しやすい方策であ る。新規化学物質の届出評価制度にしても、安全データシートの作成・交付制度にしても、さ らにはハザードの分類および表示の GHS 対応にしても、化学物質総合管理という新たな行政事 務の下で一元的に運用することにより、効率性や透明性が格段に向上し、管理能力や国際協調 も大幅に改善される。

2)包括的なハザード評価、ハザード分類、初期リスク評価の結果を関連法規が共用すること これは第二の特異性を解消するための方策である。とりわけ化学物質の人および環境に対す るハザードの包括的な評価と分類は、化学物質に固有な特性にかかわる根幹的な管理実務であ り、科学的に一義的に定まる性格が強く国際的にも調和がもっとも進展している。国内の分立 した制度ごとに異なる結果になることは本来ありえないことである。国内の関連法規の間で危 険有害化学物質の定義に矛盾が生じている事態は払拭する必要がある。また、これらの包括的 な評価結果を共用することは、アスベスト対策や内分泌撹乱物質問題への対応で見られたよう な関係省庁間の連携不足の解決にも寄与する。

3)リスク管理の視点が共通する法律群を整理して統合すること

これは第三の特異性を解消するための方策である。その実行は3つの方策の中でもっとも困 難であろう。しかし、化学物質を適正に管理する基本が当事者の主体的な自主管理であること

参照

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