一論 文‑ 高 岡 短 期 大 学 紀 要 第1 0巻 平 成9年1 0月 Bu11・Taka oka N atio n al College,Vol.1 0,Octobe r 1 9 9 7
銀 の日 切 りに つ いて 目切 り工程 と鎚 目の 形態に関する考 察
中 村 滝 雄 ・ 横 田 勝
( 平成9 年5月3 0 日受理)
要 旨
本報で は, 優 れた錨が製作される 工程のう ち 披 切 削物に触 れる鍍 目の形 態や立 ち上がり方を決 定づける
「目 切 り」 を取 り あ げ, 詳 細に その工程 を 調 査 しS E M 観察など を 含めて考察を した。 岡崎 氏の手 打 ち鏡 と 同 氏の手に よ る機 械 打 ちの鍍, そして市販さ れ てい る機 械 打 ち 錬の比 較 調 査 結 果は, ①氏の手 打 ち 鍍に は鐘 目の形 態 と 立 ち 上がり方に微妙な相違が認めら れたo ②それ らは, 切削性に優 れてい ることが判明 し
た。 ③そ れ は 帽 切り」 に使 用 さ れる聖に 工夫さ れていることが明 かになっ た。
キ ー ワ ー ド
手打ち 鍍・ 機 械打ち鍍, 日切り, 聖の刃 先, 刃角の配分, 切削性, S E M 観察
1 緒 言
人が道 具 を手にして作 業を すると き, その行為が快 適に行 われ る かどう かは, 作業能率に留 ま ら ず精 神 的にも 大 き な 意味を持っ て い るo 鍍 を使用 する人は それに よっ て被切 削物を切 削 中, その手に伝わっ てく る 感触を微妙に感 じ取 り, 反 応 し な が ら視 覚的な確 認 を行っ て次の行 為を決定 し, 対処 して い る。 例え ば・ 鍍 を 通 して手に伝わる抵 抗 感 ( 引 っ掛かり) な どの感 触 と・ 硬い ・ 柔 らかい などの材質感 や 一 回の ス トロ ー クでどの ぐ らい切削できた か, 切削面の形 と 仕 上 が りはど う か, 切 削層の出 方, 量, 形 な ど を 確 認 しな が ら瞬 時に判断 して次な る行為の 予 想 を 立て, 力の入 れ 具 合や切 削 角 度・ ストロ ー クの速 さ などの意 志 を 手 か ら 鐘に伝 達 して作 業を行っ て いる。 こ の作業が 適切な 速 さであ れ ば作業は リズムカル にな り能率が 上 がることに な るo ま たこれら 一 連の作業が快 適か どうか ば, その道 具が使 用 者の意に叶 うか どうかで判 断 さ れ, さらに思 惑以上の効 果が得 られ たと きに 「快 適さ」 を 感 じる。 著者等は, 岡 噺 偲 ( 以 降
0 氏と記 す) の手 打 ち 鋸に優 れた切 削 能 力があ り 耐 久 性 も 兼ね備 えて い る と よく 耳にする。 そ して今まで使 用 して いた鋸 を0 氏に修 理 を依 頼 し・ 打 ち直し*2を しても らう例も あると 聞 く。 事 莱, 著者等の 一 人 も従来 使 用 して いた鐘に は得 られな か っ た切 削 力や使い勝 手の良 さに驚いた。
切削行 為におい て目 切 りにか かわる快 適さには, ①鋸が被 切 削物に良 く 噴い込 む, ②摩 擦 力 が大 き くて運 動 抵 抗が大 きい, ③同 じ仕事量に対して切削量が多 くt 短 時 間に作 業が終 了 す 産業工芸 学 科
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る, ④切 削面が美しく仕上 がる, ⑤使用者の意に叶 う 切削ができる, ⑥耐久性, 持 続性に優 れ
て いる, ⑦ 種々 の形 態 や 場所にあっ た細工的な 切削ができ る, な どが 上 げ られるが, これ ら鍍
の製作工程 と切 削 性, 使い勝手な どの総合的 な研 究は はとんど 見 られ ない1 ) o
前報において優 れた鍍が製作さ れる要 因は, 材 料( 銀 地) の鍛 造に始ま り焼き 入 れの仕 上 げ
に至るまでに多くの工夫や道 具があ ること を著 者等の 一 人は報 告した。 その製作過程 中特に工 夫さ れて いる 工程は, ←脱炭 部の除去→ 「日切 り」 ←焼き 入 れ→ であ り, これ らは それ ぞ れに難 しい工程であ る と と もに手打ち 鍍の切 削 性 を 左 右 すると 思 わ れる重要な 工程であること を指摘 した。 本報ではこ の切 削 行為にお ける快適さを参考に, こ の世から消え去ろう と して い る手打 ち 鐘の製 作工程のう ち ←日切 り」 の工程 を 詳 細に記 録 すると と もに, 優 れた日 切 り とは何 か, ぉよびそれ を 生み出す日切 り 整 とはどの よう な 形 態 と性質を有するのか, これ らにつ いて考 察 する た め, 手打ち 鍍 と機械 打ち鍍につ い て比較 検討した。
2 盤の材 料と日 切りエ程
2 . 1 鍍の材料
前報2 ) で報告 した ように, 鏡の材料に は炭素工具 鋼S K ‑ 2 E を 用い・ 日切 り工程が行わ れ
るまでには ①銀 地 を各種形 態にする た めの鍛 造成形 を す る ( S K ‑ 2 E の鍛 造 温度は9 5 0 ‑
1 00 0oC) , ②銀 地 を軟化 させ て日 切 り を し や す く する た め, また鋼の組 織 を均 一 にする た めに 加 熱 し焼鈍 する (焼鈍 温 度75 0 ‑ 78 0 。c), ③加 熱 処 理による 脱炭部を グラ イ ンダー で除 去 する
( グラ イ ンダ ー 砥 石の粒度# 3 6) , などの前 処 理工程 を 経た後に目切 り作業を 行 っ て いたo
2 . 2 手打 ち 鍍の目 切LJ 工程
2 . 2 . 1 目 切 りの前 準備
グラ イ ンダ ー に よっ て脱炭部が除 去 さ れた銀 地の面を さ らに軽 く 細目鍍で切削し, 榔3を 薄 く 塗布する。 切削は錨 地に喰い込ん で残留してい るグラ イ ンダ ー 粉 ( 砥石の粉末) を 取 り 除 き, 日切 り 聖 ( 以降窒 という) の欠 け を防止 する た めであるo 油 を 薄 く 塗 布 す るのは, 打ち 途 ん だ ときの聖と銀 地の摩 擦 を少なく して窒の離 れ を良く する た めである。 摩擦が 大 き く離れ が 悪いと 打たれた聖 と と もに縫目が引 き込 ま れ, 先 端の立 ち 上がり 角度が低 くな っ て優 れた縫 目 が立た ないばかり か, 次の鑓 目 を 打つ べく 窒の設 定 が 不 規 則になっ て鍍目の不揃いを 起こしや すい。
2 . 2 . 2 鍍 地の滑 り 止め
金 床の上に置いた銀 地 が 目 切 り 窒 を打つ 衝撃によ っ て滑 らないように川 砂 を少し置 き, ‑ ン
マ ‑ で細かく 砕 く。
2 . 2 . 3 鍍 地の安 定と移 動
娠 地 を 砕か れ た川 砂の上に置い てその両 端 を 足の親 指と人 差 し指の間に挟み込み, 固 定さ せ て目 切 り を 行 う。 日 切 り 作 業が10 ‑ 1 2回 位 ( 約1 ・Oc m) 続く と 整の移 動幅が 大 き くな る た め, 鍍 地 を 左に送る ( 移 動さ せ る)○ その作 業 も図1 に示 すように挟み込んで いる足で行 う。 両 足
のか か と や土 踏 ま ずで金 床の側 面 手 前 を挟み, 常に銀 地の安 定と送 りの正 確さを 確 保 する。 こ
鈍の目 切 りについ て 5 1
の両者が 保持でき ないと 空で打っ た衝 撃に よ っ て銀 地が金床か ら浮 き, 金床の上 を 不 規 則に移 動 し,日 切 り さ れた鍍目が反 り 返 っ たり不揃いになる。 さ らに銀 地のね じ れによる歪 み も引き 起 す。
2 . 2 . 4 下 目 打 ち
下目の目 切 り*4は, 金 床の前端か ら1 / 3 の ところで銀 地 を斜めに設 定 する。 これは錨 地の 芯 と 窒が作る鑓 目 (下目) の角度 を決定 するも
の である。 日 切 り 窒は親 指 と 人 差 し指, 中 指の 三本で持ち, 薬 指, 小指は銀 地や金 床に軽 く 触 れる ように添 えて*5, さ らに暫 を持っ た手の手 首 近 く を 左 足の甲のところに添 えて聖の傾斜や 角 度 と 送 りの安 定 を 保持する。 聖の打ち 込 む角 度は約7 0o に設 定 さ れる ( 図1) 。
金 床 上の左 右の位 置は聖 を 持つ左手の移動範 図1 下 目 打ち
目切L) 整
砕か れ た 川砂 竣地
囲で決 ま る。 その範囲 以外に移動させる と 窒の設定 す る角 度や 鋸目の傾斜や ピッ チ に変 化を与 えて安定性を保 持でき な く な り, 鋸目の不揃い, 立 ち 上 が りの角 度や高さに影響を 及 ぼ す か ら
である。
窒の移動や設 定は, 打ち上げた鍍目の先端に触れ ないように飛 び越え, 鍍 目の根元の変化 ( 立 ち 上がり 始め) を 窒の先で感 じ取 り 決 定 する。 図2 に示 すように, こ の聖の移動 と聖の刃 角 ( 後 述) によ っ て鍍 目の ピッチ が決 定 さ れる。
打ちこまれた聖 跡の角 度 縫目の立 ち上 が りは じ め
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目切り聖刃先の動 き
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図2 下 目打ち (手打ち) 聖 刃 先の動 きと ピッ チの決 定
5 2 中 村 滝 雄 ・横 田 勝
金 鎚は右手の薬 指, 小指と手のひらで軽 く握り, 他の3 本の指は添 える ようにして手首 を 返 さ ず, 決して力を入れて打っので はな く 金 鎚の重 さ を利用 して窒 を打つ。 必要以 上の力 を 入 れ
て斑の でき ないようにする注 意 が 必要である。 金 鎚で窒 を打ち 込んだ後の反 動は余りなく, 吹
な る打 撃のた めに金 鎚 を 上 げるには打ち 込んだ直後に人 差 し指 と 中指で持ち 上 げる。 親 指は,
持ち 上 げ た 金 鎚 を振りはじ め る と きに柄に作用 させる。 前 報2 ' で報 告した金 鎚の柄の消 耗し た 変形*6は, こ の操 作の繰り 返 しに よ るもの である。
片面の下 目打ち が終わると 銀 地 を裏返 して, 目切り を した面の鍍目を痛め ない よう 金 床の上
に厚さ約0.8m mの アルミ ニ ウム板を敷い て反対側の下目 を切る。 平銀 以外の丸や半 丸 三角鎌
などの変形のものは, 金 床 上で安定 させ, 立 ち 上 げた鑓目を痛めない ようにア ル ミニ ウムや 鋼
の治 具 を 使 用 する。 日切 りは片 面づ っ複 目 まで仕 上 げ ず, 鍍の表裏が な るべく 同 じ条件で行 わ れる ように進め ていく。 これは片面を多 く打ち 過 ぎると 反 り を 生 じさせ, ま た傾 斜をつ けて目 切り を していく関係上 ね じれ が 生 じ, 反対側の日切り が困難になっ た り, 反り や ね じ れの歪 み が直ら な く なっ て しま う か らである。
2 . 2 . 5 上 目 打 ちの前 準備
下 目の先端を細 目鍍でごく わずか切 削する。 こ の作業は, あ ま りにも鋭く 立 ち 上が っ た鍍 目
の先端が被切削物を切削すると同時に欠けの現象を 起こしてしま うの で, 先端の角度を多 少大 き く してお くこと が 必要にな る か らである。 ま た, 上目用の繋が先に切っ た鍍目 (下目) の上 をス ム ー ズに移動できる ように行わ れるの である。 鍍目には基本的に複 目 と単目 が あるが, 早 目のと きは当然 ながら上 目 打 ちの工程は行わない。
2 . 2 . 6 上 目 打 ち
上 目打ち を行 う と きは図3 に示 すように銀 地 をは ぼ真 横にして金 床の上に設 定 し, 窒は金床
の中央 左 側 端 か ら1 / 2 ( 主に 1 / 4 周 辺) の 問 を移動 させ日切 り を 行 う。 下目打ち とはぼ同 じ 要領で上目用 (複目) 甲聖に持ち替え, 整の う ち 込 む角 度は約7 0o であるが, 下目よ り 心持 ち 立 ち 上 げる ように目切 り を行う。 鍍目の傾斜
は, 下目 と 交 差 する ように角度を 設 定 する。 金
鎚で打つ リズム は下目打ちより 早 く して多 少振 り 上 げ幅 も 小さく, 弱 く 打 ち 込 む。 その打 ち 加 減は, 下 目打ちの 強さの 10に対して, 上目打ち
図3 上目 打ち
の強さは 8 の割 合である。 こ のように打つ強さ を 変 える理 由は二 つある。 ①上 目打 ちは, 下 目 が打たれて い て縫 目の先 端に日 切 り を することになり 聖の当た る面 積が少なくな るの で, 同じ 強さで打 っ て しま う と 窒 が 深 く 入 り 過 ぎてしま う。 ②上 目用の誓 が打 撃によっ て下 目の先 端 を 曲 げてしまわ ないようにする た めである。
鎚の日切 りについ て 53
2 . 3 機械打ち鈷の目 切LJ 工程 2 . 3 . 1 目 切 りの前準備
図4 は関 西 鑓工作 機械製作所で製造 さ れ た 鑓工作機の概略図で, 昭和1 4年に 0 氏が購入 した もの である。 ストロ ー クの強さは, シリ ンダ ー の上にあるハ ンドルでスプリングを 調 整 し, ス
トロ ー クの回数や銀 地の送 り, つま り 鐘の大 き さ や 鋸 目の粗さに応 じてギアを選択 ・ 決 定 して
設 置 する。
図4 鍍工作 機
2 . 3 . 2 鍍 地の設 定
半円 柱状の ベ ッ トの上に厚 さ約1.5 m mの ア ルミニ ウム板 を敷き, 鎌 地 を 設 置 する。 ベ ッ ドの
面は自 由に角度が変え ら れる ようにな っ て い て, 微 妙な窒の角度に反 応 したり, 甲丸や丸など
の曲 面に対 して鍍 目の列に対応 した角 度に設 定さ れ, 日 切 りができる ような構 造 ( 半 円 柱 状 内
で) になっ てい る。 鍍 目 列の設 定は, ベ ッ ドの端にある穴に丸棒を 差 し込 み, 列ごとに角 度を 決定 しt‑手で持ち日切り を行う。 な おその穴は目 切 りの列に対応 して い る。 これ らの概略 図 を 図5 に示す。
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調節レ バ ー 差し 込み 穴
半円状内で自 由に動 く
図5 機 械 打 ちの鍍 目 列の設 定
2 . 3 . 3 聖の設 定
シリ ンダー の先端にボルトに よっ て日切 り窒 を 設 置 する。 窒が鍍 地の面と平 行に ストロ ー ク し, ス プリ ングの強さ が 適度に利くように ク サ ビを 入 れて長 さ も 調 節 を す る。 シリンダ ー は垂 直に対して 75o に傾斜させ, 整は鍍目の角 度に 傾けて設 定 する ( 図6)0
2 . 3 . 4 下 目 打 ち
図 7 に示 すように, 銀 地 が ず れない ように
フ ッ クに差 し込み, 誓と向かい合 っ た鉄板で水 平 を 出 しながら銀 地の面を 押さえて目 切 り を行 う。 こ の押さ えの鉄 板の役 目は, 窒の刃 先 と銀 地の関 係 を 一 定にし, またベ ッ ドは自 由に角度
が変 わる が平の場 合, 鑓 地の移 動中 ガイ ドと し
て同じ水平 面 を維持 し, 同じ条 件で日 切 り を 行 うこと が できる ようにする た めである。
鏡の先 端は根 元に比べや や細 く また薄 くな っ
図6 機 械 打 ち 目 切り聖の設 定と押さ えの鉄 板
て い るの で, 根 元が固 定さ れてしま うと先 端は 図7 錨地設 定の フッ ク