早稲田大学大学院理工学研究科
博士論文概要
論文題目
Some non-abelian extensions over Z
p-extensions p-class field towers and
Z
p拡大上の非可換拡大と p 類体塔
申請者
藤井 俊 Satoshi FUJII
数理科学専攻 数理哲学・数学史研究
2005 年 6 月
申請者はZp拡大の非アーベル岩澤理論の研究を行ってきた. まず非アーベル岩澤理論 について説明を行おう. Zp拡大の理論は代数体のイデアル類群を扱うために1950 年代に 岩澤健吉氏によって創始され, 1959年に出版された論文に於いてZp拡大の理論の大きな 結果の一つである岩澤類数公式が世に現れた. 類体論により, 代数体kのイデアル類群の Sylow p部分群A(k)は最大不分岐アーベルp拡大L(k)のガロア群Gal(L(k)/k)と同型で ある. 岩澤氏のアイデアは,Zp拡大K/k上の最大不分岐アーベルpro-p拡大, および最大 p外不分岐アーベルpro-p拡大を考察し,それぞれのガロア群へのGal(K/k)の作用を見る ことにより深い理論が眠っていることを探しだしたのであった. そこでZp拡大の理論の 拡張として, 非可換な拡大である最大不分岐pro-p拡大や最大p外不分岐pro-p拡大のガ ロア群をZp拡大上で扱う, ということが考えられる.
まず不分岐拡大についての結果について述べよう. kを有限次代数体, pを素数とす る. K/k をZp拡大とし, Γ = Gal(K/k)をそのガロア群, knをK/kの第n層, すなわち [kn:k] =pnとなるただ一つのK/kの部分体とする. ˜L(kn)/kn, ˜L(K)/Kをそれぞれ最大 不分岐pro-p拡大, ˜Gn = Gal( ˜L(kn)/kn), ˜G= Gal( ˜L(K)/K)をそれぞれそのガロア群とす る. Γのp-cohomological dimension が1なので, ΓはG˜に作用していることに注意. 尾崎 学氏(島根大)はG˜n, ˜Gの降中心列Ci( ˜Gn),Ci( ˜G)とその隣接商Xn(i) =Ci( ˜Gn)/Ci+1( ˜Gn), X(i) =Ci( ˜G)/Ci+1( ˜G)を考察し, 岩澤加群の一般化となるZp[[Γ]]加群の無限系列X(i)を 高次岩澤加群として定義した. X(i)のZp-rank, すなわちX(i)にQpをテンソルしたベクト ル空間の次元が常に有限であることを尾崎氏は示し, その次元λ(i)(K/k)を高次岩澤λ不 変量と定義した. 岩澤類数公式は,岩澤不変量を用いてknのイデアル類群のp-部分の位数 の挙動を記述したものであるが, イデアル類群の拡張であるXn(i)の位数を上記高次岩澤λ 不変量を用いて記述することは出来ないか?という問題が考えられる. 申請者はこの問題 に対して次を示した.
定理 1. K/kの岩澤µ不変量が0で, K/kで分岐するKの素点はただ一つとする. この とき#Xn(2) =pλ(2)(K/k)n+O(1)が成り立つ.
中心類体論を用いてXn(2)とknのイデアル類群を結びつけて,大本の岩澤類数公式から 大体の位数の挙動を知ることができるのだが, Zp拡大における単数群の挙動を捉えると いう困難を乗り切ることによって上記の定理は証明される. 現在では尾崎氏によって, 岩 澤µ不変量が0であるZp拡大において, 全ての十分大きな全てのnに対して, #Xn(i) =
pλ(i)(K/k)n+ν(i)(K/k) となる整数ν(i)(K/k)が存在することが示されていることに一言触れて
おく. 定理 1は尾崎氏の結果のさきがけとなるものであった.
さて, kを代数体として, ˜L(k)を最大不分岐pro-p拡大とする. ˜L(k)は類体論成立当 初から考察されていおり, 現代においても様々な問題を有する興味深い対象である. 例 えば, ˜L(k)は常に有限次拡大ではないか, という問題があったが, 1960年代にGolodと
Shafarevichによって無限次拡大になりうることが示された. 他方,イデアル類群のSylow
p-部分群が巡回群であれば常に有限次拡大となる. このようにL(k)˜ は有限次にも無限次 にもなり得る一般的な結果を得ることが難しい対象なのである. 例えば現在でも次のよう な問題がある.
問題 1. kのイデアル類群のp階数が2で, L(k)/k˜ が無限次拡大となるkは存在するか?
また,近年p進表現に関わる予想の不分岐拡大への特殊化,および不分岐ガロア群とリー マン面の基本群との類似という観点から次のような問題も考えられている.
問題 2. L(k)/k˜ が無限次拡大のとき, Gal( ˜L(k)/k)に位数有限の元が存在するか?
申請者は然るべきZp拡大K/kにおいて, ˜G = Gal( ˜L(K)/K)が有限生成自由pro-p群 となれば, 上記の問題が肯定的に解決されることを示した.
定理 2. pを奇素数, kをCM体でk+をその最大総実部分体とする. またk∞/kを円分 的Zp拡大とする. さらに以下を仮定する.
(1) ˜G= Gal( ˜L(k∞)/k∞)は階数λ≥2の自由pro-p群, (2) pはk∞/Qで不分解,
(3) k+の類数はpと素.
このときp ≥ 5, dimZ/pZA(k0)/A(k0)p = 2, またはp = 3, A(k0) ' Z/3aZ × Z/3bZ (a, b≥2)ならば, L(k˜ 1)/k1 は無限次拡大.
定理 3. pを奇素数, kをCM体でk+をkの最大総実部分体とする. 以下を仮定する.
(1) A(k0)+ ' X+ ' Z/pZ, (Xはk∞の岩澤加群, X+は複素共役の作用に関する+パー ト),
(2) pはk/Qで不分解で, k∞/kでpの上にある素点は完全分岐, (3) Gal( ˜L( ˜L(k+)k∞)/L(k˜ +)k∞) は階数≥2の自由pro-p群.
このとき, もしdimZ/pZA(kn)/A(kn)p = dimZ/pZX/pX ≥6ならば, #Gal( ˜L(kn)/kn) =∞ かつGal( ˜L(kn)/kn)は位数pの元を持つ.
注意として定理2において,λ= 2の場合はk1のイデアル類群のp階数は2となる. Γの
作用とGal(k/k+)の作用を見ることにより無限次であることを示した. 定理 3 は近年の
pro-p群論の結果を用いることによってZp拡大上での最大不分岐pro-p拡大のガロア群の
構造を決定し, その中に位数有限の元が存在することが岡野 恵司氏 ( 早大 ) によって示 されており, それをやはりΓの作用によって下に情報を落とすことにより示される. 以前 から類体塔の研究は群論との結びつきが重要であった.
さてここで次が問題となる. Gal( ˜L(K)/K)が自由pro-pとなるZp拡大K/kは存在す るのであろうか?申請者が知る限り, 現在までそのような例は知られていないようであ る, 1990 年代にそのような体を探す試みがあり, それによればk上のpの外不分岐な最
大pro-p拡大のガロア群の構造が非常に重要である. この拡大はShafarevich, Kochの研
究を起源にもち, 現在でも様々な目的で研究されつづけている. 近年多変数岩澤理論にお いても, その拡大の構造の重要性が深く認識されていているようである. そこで申請者は k =Q(√
−m)が虚二次体の場合にk上のpの外不分岐な最大pro-p拡大Mkのガロア群の 構造を記述する試みを行った. ここで拡大で最初に問題となるのがGal(Mk/k)が非自明 な関係式を持つか否かと言うものがある. まずそれについて解説しよう. pをpの上にあ るkの素点とし, kpをpに関するkの完備化とする. kp(p)/kpを最大pro-p拡大とすると, 自然な埋め込みMk ,→kp(p)からコホモロジー群の制限写像
H2(Gal(Mk/k),Z/pZ)−→Y
p|p
H2(Gal(kp(p)/kp),Z/pZ)
が誘導され,この Kernelが非自明であるときGal(Mk/k)は非自明な関係式を持つという.
局所体の最大pro-p拡大のガロア群の構造は完全に決定されており, Mk/kのガロア群の 関係式が全て局所体ガロア群の関係式からきているかどうか,ということが一つの問題と なるわけである. 虚二次体k =Q(√
−m)の場合は類体論から次がいえる.
命題 1. pを奇素数とする. このときGal(Mk/k)が非自明な関係式を持たないための 必要十分条件は, Gal(Mk/k)が自由pro-p群であるか, またはp = 3, 3 6= m ≡ 3 mod 9, 3-h0Q(√3m) となることである.
実二次体の非自明な関係式を持つ場合については,小松 啓一氏 ( 早大) の結果がある.
以下で本質的に用いられる手法は Kummer 理論と円分的Zp拡大の理論である. χをkに 対応するDirichlet指標,ωをmodulo p のTeichm¨uller 指標とする. まず Kummer 理論を 用いることにより次が示される.
定理 4. pを奇素数とする. このときGal(Mk/k)が自由pro-p群であるための必要十分 条件は, 次の3条件の内一つを満たすことである.
(1) p≥5, Aωχk(µp)(={a∈Ak(µp)|τ a=ωχ(τ)a, τ ∈Gal(k(µp)/Q)}) = 0.
(2) p= 3, k=Q(µ3).
(3) p= 3, AQ(√3m) = 0, m6≡3 mod 9.
定理 4 の場合を除いてGal(Mk/k)の構造を記述することは困難であるが, 現段階で次 の場合にうまく記述 ( modulo ある閉正規部分群で, であるが ) することができる. F を 階数3の自由pro-3群, F =hx1, x2, γiとする. さらにH =hγαx1γ−α, γβx2γ−β|α, β ∈Zi とする. HはF の閉正規部分群であり, F/H 'Zpであることに注意.
定理 5. (1) p = 3, k = Q(√
−m), 3 6= m ≡ 3 mod 9とする. また, J をkのガロア 群の生成元とする. もしQ(√
3m)の円分的Z3拡大の第1層Q(√
3m)1の3-イデアル類群 の位数h0Q(√3m)
1 が3で割れなければ, あるHの元rが存在して, r ≡([γ, x1]x−31 )1−J mod [H,[H, H]]かつ, Gal(Mk/k)' F/(r)F となる. 但し, (r)F はrで生成されたF の閉正規 部分群とする.
(2)X0を円分Zp拡大k(µp∞)/k(µp)上pが完全分解する最大不分岐アーベルpro-p拡大のガ ロア群とする. (X0)ωχ (ωχ-部分の定義は定理4と同様)がアーベル群としてZ/pcZと同型 とし (1≤c), さらにp= 3である場合, m 6≡3 mod 9とする. このときあるHの元rと整 数a∈pZが存在して, r≡(x−p1 c[γ, x2]x−a2 )1−J mod [H,[H, H]]かつ, Gal(Mk/k)'F/(r)F となる.
命題 1 から定理 5 の場合, (1) の時は非自明な関係式を持たず, (2) の場合は非自明な 関係式を持つことが分かる.
以上の全ての結果は,Zp拡大K/kのガロア群Gal(K/k)の単数群,不分岐pro-p拡大,最
大p外不分岐pro-p拡大への作用を見るという非可換岩澤理論的手法を用いることにより
示されているのである. Mk/kの構造は上で述べた通り, 様々な岩澤理論と関わりがある ことが知られており, 申請者はさらにこの方面への研究を考えている.