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新直轄道路が周辺地域に与える影響について
~秋田県を事例として~
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU14617 村上 恭平
1 はじめに
1
2005
年10
月の道路関係四公団の民営化と併せて、国が直轄事業として高速道路を整備・管理する新直轄 方式が採用された。それによって、国が整備・管理す る無料高速道路である新直轄道路ができることになっ た。新直轄道路は、国及び都道府県が費用負担するこ ととなっているが、費用負担する都道府県に便益が帰 着しているのか、また、費用負担していない都道府県 に便益がスピルオーバーしているか否かについては十 分な検証がなされていない。
本研究では、秋田県を事例として、新直轄道路が供 用されたことによって、費用負担している都道府県に 便益が帰着しているのか、また、発生する便益が新直 轄道路と接続した既存高速道路の周辺地域にスピルオ ーバーしているのではないか、という問題意識のもと、
新直轄道路が周辺地域に及ぼす影響について、地価及 び交通量を用いて分析する。
2 新直轄道路の概要 2.1 新直轄方式導入の背景
日本では、全国の高速道路を一体と見なし、道路ネ ットワーク全体の収支に基づいて料金を決定する料金 プール制によって高速道路建設が進められている。道 路関係四公団が民営化される以前では、料金プール制 によって、各路線の費用、収入が合算されることによ り、採算が取れる良い路線の収入が、採算が取れない 悪い路線の債務返済の不足分に回されることになり、
安易な不採算路線の建設に繋がっていた。
そのため、道路関係四公団が民営化される際には、
採算性を重視した事業経営の実施が求められ、新会社 の採算が超える部分について、その財源は国及び地方 公共団体が負担することとなった。そして、政府与党 申し合せにより、料金収入により管理費が賄えないな ど、新会社による整備・管理が難しいと見込まれる区 間については、国と地方の負担(国:地方=3:1)に
1
本稿は論文の要約であるため、参考文献等は論文を参照されたい。よる新たな直轄事業として、新直轄方式が導入された。
2.2 新直轄道路の特徴
新直轄道路は、国が管理するため、無料で開放され ることになる。また、新直轄道路は、高速道路会社が 開放している有料高速道路と異なり、有料開放した場 合には、採算が取れない高速道路である。しかし、無 料で開放したとしても、混雑せず、社会的総余剰が固 定費用を上回るため、建設することによって、社会全 体の効率性を高めることができ、国が整備・管理する ことが正当化される。
2.3 新直轄道路供用によって生じる事象
新直轄道路が建設される周辺地域では、一般道に比 べて新直轄道路を利用した方が、走行時間が短縮され るため、その分だけ住民の活動範囲が拡大されるメリ ットがある。また、周辺の一般道から利用者が新直轄 道路に流れるため、一般道の渋滞緩和に寄与するとい う効果も期待できる。しかし、住民の活動範囲が拡大 することによって、消費行動の範囲も拡大し、商業施 設が衰退する恐れがある。
また、新直轄道路と接続した既存高速道路の周辺地 域においても、高速道路で繋がっていることで、新直 轄道路が整備された地域の住民の活動範囲拡大によっ て、人が流入し、それによって商業施設が賑わう効果 が出ると予想される。また、今まで一般道を使ってい た区間が新直轄道路に変わることで、商品を早く、安 く仕入れることができるため、商業・工業施設の立地 環境は向上すると考えられる。しかし、新直轄道路の
料金
通行者数 0
D2
D1 MR2
MR1
PMC AC
X1 X2 P1
P2
図1 新直轄道路の特徴
新直轄道路は、D1 のように、赤字 が発生し、採算が取れない高速道 路である。D2 のような場合には、
利潤が発生するため、有料で開放 することができる。
なお、私的限界費用を 0 として、
考えている。
2
周辺地域同様に、住民の消費行動の範囲拡大によって、商業施設が衰退する恐れもある。
3 仮説
第
1
章で述べた問題意識に基づき、以下の2
つの仮 説を提示する。仮説
1
:新直轄道路のIC
の周辺地域には、新直轄道路 供用による便益が帰着しているのか。仮説
2:新直轄道路供用による便益が、新直轄道路と
接続した既存高速道路の
IC
の周辺地域にスピ ルオーバーしているのではないか4 新直轄道路が周辺地域に与える影響についての実 証分析
4.1 実証分析 1(仮説 1 の分析)
4.1.1 分析の方法
新直轄道路の
IC
の周辺地域に、新直轄道路の供用に よる便益が帰着しているのかを計測するために、ヘド ニック・アプローチを用いた実証分析を行う。分析に あたっては、秋田県の岩城IC~金浦 IC
間の各IC
から 半径5km
圏内の都道府県地価調査地点における価格 をトリートメントグループとし、トリートメントグル ープと同様に秋田県内の海岸沿いの地域で、最寄りのIC
から5km
より離れた都道府県地価調査地点におけ る価格をコントロールグループとする(図2
参照)。また、分析期間は、
1996
年に本荘IC~岩城 IC
間の整 備計画が決定したことから、それ以前で、バブル崩壊 後の地価の影響を考慮し、1995
年から2014
年までと し、固定効果モデルによるDID
分析を行う。4.1.2 推計結果
表1 仮説1の推計結果①
被説明変数:ln都道府県地価調査価格
推計モデル1 推計モデル2 変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差 トリートメントダミー×供用後ダミー 0.00912 0.0146
トリートメントダミー×供用開始年ダミー -0.0218 0.0250 トリートメントダミー×供用1年目ダミー -0.0254 0.0250 トリートメントダミー×供用2年目ダミー 0.0296 0.0320 トリートメントダミー×供用3年目ダミー 0.0335 0.0318 トリートメントダミー×供用4年目ダミー 0.0418 0.0318 トリートメントダミー×供用5年目ダミー 0.0450 0.0337 トリートメントダミー×供用6年目ダミー 0.0639 0.0337 *
年次ダミー Yes Yes
定数項 9.952 0.0176 *** 9.951 0.0175 ***
観測数 672 672
決定係数 0.818 0.822
ユニット数 39 39
***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
表2 仮説1の推計結果②
被説明変数:ln都道府県地価調査価格
推計モデル3 推計モデル4
変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差
トリートメントダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.0561 0.0151 ***
トリートメントダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー -0.137 0.0231 ***
トリートメントダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0458 0.0179 **
トリートメントダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー -0.294 0.0262 ***
トリートメントダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー -0.310 0.0417 ***
トリートメントダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0985 0.0155 ***
年次ダミー Yes Yes
定数項 9.958 0.0168 *** 9.957 0.0148 ***
観測数 672 672
決定係数 0.835 0.872
ユニット数 39 39
***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
4.1.3 考察
地価は、新直轄道路供用後に上昇傾向であるが、統 計的に有意な結果とはならなかった。これは
IC
からの 距離や用途地域別の正と負の影響が混在していること が原因と考えられる。しかし、供用6
年目には、有意水準
10%で地価が上昇していることから、新直轄道路
の
IC
の周辺地域には、時間はかかるものの便益が帰着 していると考えられる。用途地域別に観察すると、住居系地域で供用後に地 価が上昇しており、住民の活動範囲の拡大、利便性が 向上しているものと考えられる。また、その他地域の 地価が上昇しており、周辺地域の開発の需要が高まり、
利用価値が上がっているのではないかと考えられる。
実際に、分析地域の都市計画外では、県内
3
地区の家 畜市場が、IC
周辺に統合移転した事例や、当該自治体 職員へのヒアリングでIC
周辺に道の駅があることと の相乗効果で住宅の建築が進んでいるとの話があった。また、
IC
からの距離を観察すると、近距離では地価が 上昇しており、近いほど利便性が高く、便益を高める 効果があると考えられる。トリートメントグループ コントロールグループ
図2 仮説1分析地域
3
4.2 実証分析 2(仮説 2 の分析)4.2.1 分析の方法
実証分析
1
で分析した新直轄道路は、現時点で、秋 田県の南に位置する山形県まで繋がっていないため、他県に対してスピルオーバーが発生しているかについ て分析することができない。そのため、新直轄道路に 接続した同一県内の既存有料高速道路の
IC
の周辺地 域に、新直轄道路供用による便益がスピルオーバーし ているかについて分析を行う。分析にあたっては、秋田北
IC~横手 IC
間をトリートメントグループとし、トリートメントグループと同様に東北地方で、県庁所 在地周辺から東北自動車道に伸びている山形北
IC~
宮城川崎
IC
間をコントロールグループとする(図3
参照)。そして、新直轄道路が供用されたことによっ て、整備されていない秋田北IC~横手 IC
間のIC
の周 辺地域に便益がスピルオーバーしているかを分析する。なお、分析にあたっては、交通量と地価、それぞれ を被説明変数として分析する。交通量については、各
IC
の日平均出入交通量を用いて、新直轄道路供用後の 影響及び供用年数による影響を分析する。また、地価 については、各IC
の半径5km
圏内の都道府県地価調 査地点における価格を使用した。分析期間については、高速道路の延長や、高速道路 の無料化実験の影響を考慮し、2003年から
2009
年ま でとし、固定効果モデルによるDID
分析を行う。4.2.2 推計結果(交通量)
表3 仮説2の推計結果(交通量)
被説明変数:ln日平均出入交通量
推計モデル1 推計モデル2
変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差
トリートメントダミー×供用後ダミー 0.0876 0.0406 **
トリートメントダミー×供用開始年ダミー 0.0739 0.0535 トリートメントダミー×供用1年目ダミー 0.101 0.0535 *
年次ダミー Yes Yes
定数項 8.014 0.0239 *** 8.014 0.0241 ***
観測数 84 84
決定係数 0.071 0.073
ユニット数 12 12
***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
4.2.3 考察
供用後に交通量が、有意水準
5%
で増加しているこ とから、新直轄道路を利用して仮説2
の分析地域に流 入する人数、もしくは新直轄道路を利用して仮説1
の 分析地域方面に移動する人数が増加したと考えられる。また、供用
1
年後から統計的に有意に交通量が増加し ていることから、交通量には早い段階から影響が出て いると考えられる。4.2.4 推計結果(地価)
表4 仮説2の推計結果(地価)①
被説明変数:ln都道府県地価調査価格
推計モデル1 推計モデル2
変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差
トリートメントダミー×供用後ダミー 0.00928 0.0118
トリートメントダミー×供用開始年ダミー 0.0119 0.0154 トリートメントダミー×供用1年目ダミー 0.00664 0.0154
年次ダミー Yes Yes
定数項 11.02 0.00703 *** 11.02 0.00704 ***
観測数 379 379
決定係数 0.864 0.864
ユニット数 57 57
***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
表5 仮説2の推計結果(地価)②
被説明変数:ln都道府県地価調査価格
推計モデル3 推計モデル4
変数名 係数 標準誤差 係数 標準誤差
トリートメントダミー×供用後ダミー×近距離ダミー 0.0525 0.0207 **
トリートメントダミー×供用後ダミー×遠距離ダミー 0.00193 0.0120
トリートメントダミー×供用後ダミー×住居系地域ダミー 0.0199 0.0131 トリートメントダミー×供用後ダミー×商業系地域ダミー -0.0547 0.0170 ***
トリートメントダミー×供用後ダミー×工業系地域ダミー -0.0267 0.0245 トリートメントダミー×供用後ダミー×その他地域ダミー 0.0679 0.0174 ***
年次ダミー 省略 省略
定数項 11.02 0.00697 *** 11.03 0.00666 ***
観測数 379 379
決定係数 0.867 0.879
ユニット数 57 57
***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す。
4.2.5 考察
IC
から近距離では有意に地価が上昇し、遠距離では 効果が見られないことから、新直轄道路供用による便 益のスピルオーバーは、IC
から近い地域にしか及ばな いと考えられる。そして、スピルオーバーの範囲が小 さいために、広域での分析では有意な結果になっていトリートメントグループ
コントロールグループ 秋田県
山形県
図3 仮説2分析地域
4
ないと考えられる。一方で、仮説1
では効果が現れる までに時間がかかっていたため、より長い期間を分析 対象とすることで広域の分析であっても効果が現れて くる可能性がある。しかし、本分析から、限定的では あるが、新直轄道路と接続した既存高速道路のIC
の周 辺地域に便益がスピルオーバーしていることが明らか となった。また、その他地域の地価の上昇については、新直轄 道路の供用後に、
IC
の日平均出入交通量が増加してい ることから、例えば、交通量が増加したことで、商業 施設を建設しても採算が取れるようになるなど、土地 の魅力が上がった可能性が考えられる。5 政策提言
実証分析の結果から、新直轄道路供用によって発生 した便益が高速道路の周辺地域に帰着していることが 明らかとなった。また、供用年数が経つほど地価は上 昇傾向にあることから、今後さらに便益が高まること が予想される。
また、本研究から、新直轄道路の供用後に、新直轄 道路と接続した同一県内の既存高速道路の
IC
の周辺 地域に対してスピルオーバーが発生していること、都 市計画外等の地域の地価が上昇していることが明らか となったことから、その点に関連した政策提言を行う。第一に、スピルオーバーの評価を提案したい。本研 究から新直轄道路と接続した同一県内の既存高速道路 の
IC
の周辺地域に対してスピルオーバーが発生して いることが明らかとなった。しかし、現行の道路整備 の費用便益分析においては、道路整備による直接効果 として、走行時間短縮便益、走行経費減少便益、交通 事故減少便益の3
便益のみが便益の分析対象となって おり、間接的に発生するスピルオーバーについては、評価されていない。しかし、スピルオーバーを評価し ない場合、便益を過小評価することになり、本来建設 されるべき新直轄道路が建設されない可能性や、高速 道路会社が有料で開放できたものを新直轄道路として 無料開放してしまう可能性もある。したがって、現行 の費用便益分析を改め、スピルオーバーも評価対象と すべきと考える。
第二に、土地利用規制の検討を提案したい。本研究 から都市計画外等の住居・商業・工業系以外の地域の 地価が、新直轄道路の供用後に上昇しており、その地
域の開発需要、利用価値が上昇していると考えられる。
都市計画外等の地域では用途指定などの土地利用規制 が不十分であるため、無秩序な開発が進む恐れがある。
無秩序な開発が進むことで、市街地が分散され、新た なインフラ整備費や維持管理費がかかるなど、行政コ ストが肥大化する可能性がある。また、住宅、工業施 設などが混在する市街地が形成される可能性もある。
複数の用途が混在した場合、例えば、住宅と工場の混 在が進んだ地域では、新たに入居する住民と既存工場 の間で騒音、公害問題が発生する可能性があり、適切 な規制が必要であると考えられる。そのため、既に新 直轄道路が供用されている地域においては、新直轄道 路が供用されたことによる影響と自治体の都市計画の 方針と照らし合わせて、必要な土地利用規制について 検討すべきと考える。また、今後、新直轄道路を整備 する地域にあっては、将来的な予測を立て、土地利用 規制の見直しを含めた都市計画の変更や事業展開をす べきと考える。
6 終わりに
本研究においては、他の道路の整備・延長、地域の 再開発等の環境の変化について、十分にコントロール することができなかった。また、供用後から時間が経 過した秋田県を事例に分析を行ったが、他の地域と比 較することで、新直轄道路による便益がどのような条 件ならば、より高い効果が出るのかが分析できると考 えられる。今後、分析を精緻化することで、より正確 な新直轄道路の便益の計測を期待したい。
また、本稿執筆時点では、秋田県の新直轄道路が他 県と繋がっていなかったため、他県に対してスピルオ ーバーしているかについては分析することができなっ た。本研究の結果から新直轄道路が他県に繋がった場 合には、その便益がスピルオーバーする可能性が示唆 される。その場合には、費用負担していない都道府県 も便益を受けるため、応益負担の観点からは望ましく ない状況となる。そのため、今後、他県に対して、ど の程度スピルオーバーしているかの分析についての研 究が進められることを期待したい。