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認定こども園成立と幼稚園・保育所制度

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(1)

認定こども園成立と幼稚園・保育所制度

著者 瓜生 淑子, 川端 美沙子

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 57

号 1

ページ 81‑94

発行年 2008‑10‑31

その他のタイトル What Do New‑Type Qualified Integrated

Institutions,  Centres for Early Childhood Education and Care Bring to the Traditional Dual Systems for Young Children in Japan?

URL http://hdl.handle.net/10105/728

(2)

1.「1.57ショック」と保育所活用策への転換

1.1.90年代の保育所の拡大

1970年代から、育児ノイローゼや育児不安の問題に

取り組み、今日の社会的な子育て支援の世論形成や施策 に少なからず影響を与えてきた大日向は「行政も社会的 育児に舵取りに踏み切ったことはよいが,親の選択を可 能にする基盤整備ができていないところに問題がある」

と指摘した(

2005

)。ここで、「舵を切った」と言われ

た象徴的な事柄のひとつに、平成

10

年版の『厚生白書』

があげられる。そこには、「(育児にあたって、3歳まで は母親がという)三歳児神話には、少なくとも合理的な 根拠は認められない」や「育児不安や育児ノイローゼは、

専業主婦に多く見られる」(p.84. 括弧内は筆者の補足)

などの見出しが並んだ。戦後長らく「家庭基盤の充実」

を基本に家庭政策や労働力政策をとってきた政府が、白 書でこれほど立ち入ったところまで母親を論じたのに は、

1989

年度の合計特殊出生率の数値

1.57

に対する危機

認定こども園成立と幼稚園・保育所制度

瓜 生 淑 子 ・ 川 端 美沙子 *

奈良教育大学学校教育講座(幼年心理学)

(平成

20

年5月7日受理)

What Do New-Type Qualified Integrated Institutions, Centres for Early Childhood Education and Care Bring to the Traditional Dual Systems for Young Children in Japan?

URIU Yoshiko and KAWABATA Misako *

(Department of Early Childhood Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)

(Received May 7, 2008)

Abstract

The integration of kindergartens and day care centers is a crucial issue in early childhood care and education. In 2006, new-type qualified institutions opened for young children. They are supposed to offer not only care, but also education, even for children whose mothers are not working. This study investigated the history of the dual systems for early childhood care and education, and examined the needs of children and their parents. The results suggest that the government plans to reduce the cost of care and education for young children, especially the cost of care through the new system. Integrated institutions could have positive effect for children and their families, if they would offer high quality services for care and education.

Key Words: integration, kindergarten, day care center, new-type qualified institution

キ−ワ−ド:

認定こども園、幼保一体型施設、幼保一 元化

*

広陵町立真美ヶ丘第一小学校附属幼稚園

(3)

感が読みとれる。

二度のオイルショックを経て、80年代後半には、福 祉政策の見直しを掲げたいわゆる臨調路線にそった保育 所抑制策のもと、それまで増え続けてきた保育所予算が 大きく削減された。そのときの保育所運営費の国庫負担 比率の3割カット(1986)、5割カット(1897)は現在 に至っているものの(図表1)、

90

年代に入って、保育 所抑制策は修正を余儀なくされていくことになった。

具体的には、「長時間保育サービス事業の実施につい て」(1991)、「育児休業に伴う保育所等への年度途中で の円滑な受け入れ等について」(1992)を実施要項とと もに通達したのを皮切りに、

1994

年には、文部・厚 生・労働・建設の4省合同で「今後の子育て支援のため

の施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が策 定された。それを受けて、厚生・大蔵・自治の三大臣合 意により「緊急保育対策等

5

ヵ年事業」(

1995

1999

年)

が策定された。この時点ではその名に示すように、保育 所対策が中心になっていた。5ヵ年事業は予定通りには 達成されなかったものの、低年齢児受け入れの拡大、休 日保育・延長保育・病児保育等、多様な保育事業の展開 が進んでいくことになった。その後、保育所政策は、

「新エンゼルプラン(2000〜2004年」に受け継がれてい く。

1.2.幼稚園の保育所化

一方、もうひとつの就学前児童の施設である幼稚園で は、少子化の影響が80年前後から顕著になっていく。

園児総数は

1978

年の

2,497,730

人をピークに減少してい き、3歳児の増加傾向にもにもかかわらず、

2006

年に は1,726,520人となっている(図表2)(1)

幼稚園と保育所の違いは、既にいろいろなところで述 べられてきた(瓜生、

2002

)。所轄官庁の違いを前提と した、幼稚園・保育所の制度的二元化は日本だけの現象 ではなかった(近年、それが変わりつつある他国の状況 については後述)。二元化に対して、「子どもの権利」と いう視点を前面に、「幼保一元化」が長らく要求されて きた。これは主として保育所関係者の側からのものだっ た。これに対して、文部・厚生省は局長通知(1963)

によって、「幼稚園は幼児に対し、学校教育を施すこと を目的とし、保育所は、『保育に欠ける児童』の保育を 行うことを目的とするもので、両者は明らかに機能を異

図表2−1 幼稚園児数の推移 

図表1 保育所運営費(措置費)国家予算の推移

1986年には国庫負担率は、3割カット、1987年以降は5割カットと

なった。2004年度からは、公立保育所運営費が一般財源化された。

図表2 園児数の推移(1960〜2006年)

文部(科学)省『学校基本調査報告書』(各年5月1日現在)、厚生(労働)省の『社会福祉行政業務報告』(1971年度までは各 年12月末日現在。それ以降は10月1日現在)より作成。各年齢の折れ線はその年齢以下の年齢の子どもの数との合計を表示

(保育所児は満年齢ごと。幼稚園児は学年ごとだが、2001年以降は満3歳以上が年小児に含まれている。

図表2−2 保育所児数の推移 

(4)

にするものである。」との見解を確認し、これが今日に 至るまで、幼保一元化要求への公式の見解となってきた。

その後、中教審答申(

1971

)において、「将来は、幼稚 園として必要な条件を具備した保育所に対しては、幼稚 園としての地位をあわせて付与する方法を検討すべきで ある」といういわゆる「二枚看板論」が提案された。こ れには、保育所側の反発が強かった。やがて、

1980

年 代に入ると要求の構図が変わってくる。文部・厚生両省 の二元化行政のもと、「2歳児までは保育所が、それ以 降は延長保育機能を持った幼稚園が」という棲み分け論 が提案されてくる(全日本私立幼稚園連合会「幼稚園教 育の基本構想」、

1984

など)。幼稚園側からのこの提案 に、60年代以降、保育需要が拡大しつつあった保育所 側は応じるはずはなく、あくまで「保育園は保育に欠け る乳幼児のための児童福祉施設である」ことを強調した。

すでに、

1975

年には行政管理庁が「幼児の保育及び教 育に関する行政観察結果に基づく勧告」を出し、両施設 が別々に存在していることの非効率性を指摘し、文部・

厚生両省に対して、「連携を密にして両施設が適切に設 置されるよう、調整機能を発揮すべきである」と提言し て い た ( 池 田 ・ 友 松 、『 保 育 制 度 改 革 構 想 』、1997、

p.269)。それでも、文部・厚生両省のそれぞれの姿勢は

変わらず、二元化状況は引き続いていった。

90

年代に入ると、文部省は「幼稚園教育の振興につ いて(第三次)」(1991)によって、入園を希望する3歳 児以上の子どもが幼稚園教育を受けられるようにと、幼 稚園での三年保育の実施を公式に認めた。また、私立幼 稚園での夕方までの預かり保育実施の広がりを受けて、

1997年には「預かり保育推進事業」を予算化するなど、

保育所の保育形態への近接化を追認し始めた。その結果、

保育所よりも長時間開所の園や夏休み等も開所する園 も、私立園を中心に増えていく(図表3)。こうして、

低年齢化・長時間化という点で、「(とくに私立の)幼稚 園の保育所化」と呼ぶ状況が進展している。しかし、預 かり保育は予算化されたと言っても子育て 支援 の枠 の範囲でのもので、実際にはローテーションで担当教諭 をやりくりしているところが4割近くあり(文部科学省 幼児教育課、2006年(2))、また、おやつは市販品が一般 的であるなど、幼稚園にとっては午後の保育は、あくま で預かりであった(3)。保育所で全日保育として展開す る予算に比べれば、安上がりな待機児童対策として位置 づけられた側面は否めない。

1.3.幼児教育無償化等の提案

こうした状況にあって、幼稚園側からの批判は当然な された。中教審答申「子どもを取り巻く環境の変化を踏 まえた今後の幼児教育の在り方について」(

2005

)で は、広がる子育て支援の取り組みを「その取組の結果と

して、親や企業の際限のない保育ニーズをも受け入れ、

単なる親の育児の肩代わりになってしまうことがあると 懸念する声もある。この場合、特に低年齢児にあっては、

人を愛し、人を信じる心など、人との関係性の根幹を形 成する上で必要となる、信頼できる大人との1対1によ る絶対的な依存関係を確保することが難しくなり、子ど もの健やかな成長にとって何らかの影響があるのではな いかと懸念される。」と、幼稚園をも巻き込んで低年齢 化・長時間化していく保育状況に釘を刺している。答申 は、その上で、幼児教育充実の具体策として、「幼小一 貫教育の必要性」に言及した。ここで言う幼児教育は、

「幼稚園等施設」という聞き慣れない言い方で保育所も 含めているが、答申はあくまで幼稚園教育振興を意識し た内容となっている。

この答申が出た後に、自民党は2005年9月の総選挙 にあたり、マニフェストに「幼児教育の無償化」を掲げ た(4)。翌年の1月、党幼児教育小委員会は、「小学校教 育との連携・接続の強化と改善」として「幼小一貫教育

図表3−1 預かり保育の実施園数 

図表3−2 週あたりの実施日数(長期休業期間中を除く) 

図表3 預かり保育の実態

2007年6月1日現在(文部科学省幼児教育課調べ)

(5)

の必要性」をあげ、義務教育を前倒しするのか、現行の ままで「幼小一貫校」を創設するのかなど、具体案は複 数あるとしながらも、「学力低下」や「小1プロブレム」

への対処策として、幼児教育の強化策を打ち出そうとし た。しかし、同委員会は2006年4月、「幼児教育の無償 化等について」とする中間報告をまとめたものの、財政 面からの批判が強く、6月の「骨太方針

2006

」では

「幼児教育の将来の無償化について・・・総合的に検討」

するという表現にとどまった。翌年6月の安倍内閣の

「骨太方針2007」でもこの表現が引き継がれた。

2.幼保制度への外からの揺さぶり

自民党の「幼児教育無償化」のマニフェストの背景に は、私立幼稚園の保育料負担の不公平感の問題だけでな く、保育所化を求められる幼稚園に対する関係者の危機 感があった。記述が前後するが、90年代後半には幼保 制度への外からのゆさぶりが顕著になっていた。それは、

それまでの、幼稚園対保育所、文部省対厚生省という対 立の構図とは異なるものだった。

2.1.地方分権推進委員会から求められた 幼保連携

幼稚園は現在も「1日4時間を標準とする」制度であ るが(幼稚園教育要領)、預かり保育に加えて、給食や 弁当の普及によって、この点も実質変容してきた。対象 児も低年齢化してきた。しかし、90年代後半から、変 化はこと幼稚園にとどまらなくなった。「時代の変化に 対応した今後の幼稚園教育のあり方に関する調査研究協 力者会議最終報告」(1997)において、教員と保母(保 育士の旧名称)の合同研修や保育内容の共通化の拡大な どを推進することが必要だと述べられた。さらに、教育 課程審議会答申(

1998

)で「合築等による共用化など の運用の弾力化を促進する」ことが提案され、ソフト・

ハードの両面から幼保の連携強化が打ち出された。

ここで注意すべき点は、こうした幼保連携策が、「地 方分権推進委員会」という行財政改革に関わる委員会の

「第一次勧告」(1996)によって、「地域の実情に応じ、

幼稚園・保育所の共有化等、弾力的運用を確立する」と されたことである。この勧告は、実は、地方レベルで、

90

年前後より進展し始めていた「幼保一体型施設」の 取り組み−過疎化・少子化問題に国レベルより早く対応 し始めていた現実的な二元化打開策−に着目したもので あった。

この勧告のあと、文部省と厚生省は「幼稚園と保育所 の施設の共用化に関する指針」を発表し(1998年)、幼 稚園と保育所の合築、併設、同一敷地内に設置する際の 施設の共用化等の取り扱いについて示し、幼稚園と保育 所の施設・運営の共用化、職員の兼務などについて弾力

的運営の具体化へと踏み切った。これ以降、幼保をめぐ る2つの省庁のそれまでの独自路線は、規制緩和・構造 改革という政財界主導の方針に大きく揺さぶられてい く。

2.2.保育の場で進む規制緩和

しかしながら、待機児童問題は引き続き大きな社会問 題であった。

2001

年、小泉首相は所信表明演説で、歴 代首相として初めて保育政策に言及し、この問題の解消 を課題の一つに掲げた。新エンゼルプランに加えて、

「少子化対策プラスワン」(

2002

)を制定させた首相は、

最重要課題として「待機児童0作戦」と銘打った対策を 推進するとした。しかし、その推進は、従来の保育所制 度を様々な点で手直しして行われるものであった。手直 しは、

2000

年前後から急速に始まっていた。

そのひとつには、各地で

2000

年頃より、公立保育所 の廃止や民営化が進み始めたことがある。これは、地方 自治法改正(2003)によって指定管理者制度の規定が 盛られて以降、一層、本格化していっている(図表4)。

指定管理者制度の導入は、保育所に限らず、公立文化施 設や国立大学業務にまで及ぶもので、公設民営が様々な 分野で始まっていることの一端でもある。既に、2000 年には保育所の設置認可が企業やNPO、個人に開かれ るようになり(「設置主体制限の撤廃」)、

2001

年、三鷹 市が教育産業のベネッセに公設保育所の運営業務を委託 したことを皮切りに、育児産業のピジョンなどの企業経 営による認可保育所が展開しだしている。2004年度か ら公立保育所運営費が、さらに

2006

年にはその施設整 備費等も一般財源化された。一般財源化されたことによ り、その使途は自治体の裁量に任されることになり、結 果的に保育予算削減がおこっている。この点からも民営 化に拍車がかかっている(5)

また、

1998

年、短時間勤務保母を最低基準上の定数 の2割まで導入することを可能とする通知が出された が、さらに2002年にはこの2割規制が撤廃され、保育 士の非正規化が進んでいく。非正規保育士が単独でクラ ス担任をしていることが公立園でも稀ではないという調

図表4 保育所施設数推移(1956〜2006年度)

厚生(労働)省の『社会福祉行政業務報告』の各年度版より作成。

(6)

査結果もある(芳野、2006)。

また、1998年「保育所への入所の円滑化」通知によ って、産休明け保育需要などによって待機児の増える年 度後半においては「定員の

125

%まで受け入れられる」

と い う 入 所 定 員 の 弾 力 化 が 可 能 と さ れ た 。 さ ら に 、

2001年にはその125%上限枠自体が撤廃され、待機児童

対策として過密保育が容認されていった。子どもどうし の噛みつきの問題や、けが・事故の心配が保育者を悩ま せている(6)

さらに、認可外保育所の活用策がある。ベビーホテル は

1980

年初頭、死亡事故が相次いだことにより大きな 社会問題となり、認可保育所が不足する実態が浮き彫り になった。しかし、ベビーホテル自体、90年代後半か ら再び、増加傾向が顕著になっていく。こうした中、待 機児童を最も多く抱える東京都は、新たに認証保育所制 度を発足させ(

2001

)、園庭を必置としない等の都独自 の緩和した基準を満たせば「認証」を与えるという無認 可保育所活用策を開始した。劣悪な保育条件の園がある 事態は、都議会でも度々取り上げられ、マスコミでも報 道された(7)。これに対し、国は、認可外保育所に対し ては、認可保育所への移行を指導するとする立場を取る 一方で、2001年から認証保育所等、自治体助成による 認可外保育所に入所する児童を待機児童数から除外する こととするなど、認可外施設の活用策を事実上追認して いる。また、2005年度の税制改正で、認可外保育施設 の利用料は、国の認可外施設に対する指導基準を満たせ ば認可保育所同様に非課税扱いとしたことも、認可外保 育所にとっては追い風となっている(8)

2.3.保育所政策の転換

このように、

90

年代の保育所活用策は、福祉や労働 分野における規制緩和・構造改革という流れの中、限定 的なものに変容していく。その変容を総括的に示したの が、厚生労働省「次世代育成支援策の在り方に関する研 究会」の「社会連帯による次世代育成支援に向けて」

2003

年8月)という報告である。これは、少子化に関 して初めての法制化である「少子化社会対策基本法」と、

それに基づく10年の時限立法である「次世代育成支援 対策推進法」が

2003

年7月に制定されたことを受けて 出された。そこでは、これまでの子育て支援策は児童福 祉法を基本に「福祉」の考え方に基づき対象者・家庭を 限定して行われてきたが、保育所の利用世帯を見ても所 得課税世帯が多数を占めるようになり変化していること から、施設・制度を「福祉的対応から、普遍化・一般化 という流れにふさわしい在り方、利用しやすい仕組みへ と見直すことが適当である」と述べられた。つまり、今 日、保育所を利用する家庭の経済状況には変化があり、

保育所を利用しない家庭との公平感にも配慮すべきであ

って、「すべての親子を対象に、その必要に応じたサー ビス等への提供をめざすべきである」と述べ、それまで の「保育に欠ける」子どものために行ってきた保育所活 用を軸とした子育て支援策の見直しを表明した。これま で、厚生省は、保育所は「保育に欠ける」子どもを対象 とした施設であるということを最大の拠り所に、一元化 に消極的な態度を取ってきた。このことからすれば、大 転換とも言える内容となっている。

「すべての親子」を対象にするという場合、1つは保 育施設整備よりも家族手当等の現金給付を充実するとい う策がある。しかし、もう1つは、税金を保育施設に投 入するのでなく、子どもを持つ家庭に利用切符(バウチ ャー)を渡すという直接補助制度の導入という策がある。

この問題については、後述(4.2.)する。

このように保育所制度や政策の変容が顕著になってい く中、現行の幼保制度の土台そのものを揺るがしかねな いような制度が提案される。

3.総合施設モデル事業から認定こども園制度へ

2004年末に文科省所轄である中教審初等教育分科会

幼児教育部会と厚労省所轄の社会保障審議会児童部会 が、合同で「就学前の教育・保育を一体として捉えた一 貫した総合施設について(審議のまとめ)」を提出した。

その総合施設構想は、2005年から1年間のモデル事業

(35ケ園)を経て、「就学前の子どもに関する教育、保 育等の総合的な提供の推進に関する法律」、いわゆる

「認定こども園法」の成立(

2006

年6月)により、「認 定こども園」という名称で具体化していくことになる。

3.1.行財政改革としての「幼保一元化」

「総合施設」は、小泉内閣の「骨太方針

2003

」に盛 り込まれた「国庫補助負担金合理化方針」の中で「児童 育成のための体制の整備」として、その設置が提案され たことによった構想である。幼稚園・保育所、あるいは、

文部科学省・厚生労働省、いずれの側からも要望が出て いたわけではない。

実は、これに先だって首相の諮問を受けた地方分権改 革推進会議が「事務・事業の在り方に関する意見−自 主・自立の地域社会をめざして−」という最終報告

(2002)の中で、保健所や児童相談所の統合化と並ん で、幼保制度の一元化の問題について、「・・我が国の 現状に鑑みれば、地域によっては幼稚園と保育所はほと んど均質化しており、国が主張するような強固な差異は 感じられないのが実情である。・・・現在、幾つかの地 方自治体から幼保一元を可能とする旨の要望が出されて いる。・・・当会議としては、・・・基本的に地方ごと の判断で一元化も可能とする方向での検討を求めたい。」

(7)

(下線は筆者)と強い意欲を見せた。しかし、結論とし ては、「国の当局と意見の隔たりは大きい」と述べ、「地 域における幼保の一体的運営の事例集積や、両方の資格 者の増加状況等を踏まえつつ、平行して幼保の制度その ものの一元化について検討を行う」として、継続的検討 事項とせざるをえなかった。(最終報告で平成15年度中 に結論をつけるとまで言っていた幼稚園教諭と保育士の 資格の一元化についても見送られ、当面、「併有促進」

ということになった。これを受けて2004年から、現職 保育士を対象にした幼稚園教員資格認定試験が始まるこ とになった)。このため、骨太方針では「一元化」では なく、「総合施設」の設置が提案された。

3.2.認定こども園の発足へ

総合施設から認定こども園そのものについての中央で の議論が進む段階で、「一元化」という用語は姿を消し ていく。総合施設に関する上記「審議のまとめ」(2004)

で は 、「 多 様 化 す る 幼 児 教 育 ・ 保 育 の ニ ー ズ に 対 し、・・・、地域によっては、幼稚園や保育所といった 既存の制度の枠組みだけでは必ずしも柔軟な対応が困難 な場合があることを踏まえ、こうしたニーズに適切かつ 柔軟に対応することが可能な新たなサービス提供の枠組 みを示そうとするものである」として「新たな枠組み」

であることが強調されていた。朝日新聞社説(

2005

1

月15日付け)が、この「審議のまとめ」に対して、「一 本化への筋道を示せ」と題し、「いま求められているの は、3番目の選択肢をつくることではないはずだ。」と 論評していたことからも、当時の論調が「第三の施設」

であったことがわかる。翌年、通常国会に提出された法 案の名称(既述)からは、モデル事業の際の「総合施設」

という用語も消え、「教育、保育等の総合的な提供」と いう表現に変わった。国会議論で、政府は認定こども園 が第三の施設を創設しているのではなく、既存の幼稚園 と保育所を活用するために創設するのだとし、幼保を一 体的に設置する施設に関する法整備ではなく、あくまで 現行幼保の二元制度を前提としたものであると答弁して いる(9)。総合施設構想作成に関わった無藤も、「認定こ ども園」は「幼保の制度を維持し、その限りにおいて、

幼保の合同の施設を作るというものである。認定こども 園は・・・独自の教育・保育要領や基準や予算は特に設 けられていないか、最小限に抑えられている。あくまで 既成のものを活用する形で実施される」と解説している

2006

)。

このように、もともとは、行財政改革の一端として

「幼保一元化」が浮上したが、それを前面に掲げるには 幼保関係者の合意が得られないことから、「幼保一元化」

を掲げず既存幼保の活用ということで滑り出した。国会 での法案成立にあたっては、「事務手続きを一元化する

よう適切な措置を講ずること」「幼稚園教諭免許及び保 育士資格の併有促進」に加え、「国における保育に関わ る行政機関の連携強化、総合化についても検討を行うこ と」も付帯決議(参議院)として付け加えられており、

幼稚園・保育所の二元化の現状をめぐる様々な思惑が交 錯しての法成立であることが読みとれる。前述の無藤は、

総合施設モデル事業評価委員会委員長の立場にあった が、「総合施設モデル事業の評価について(最終まとめ)」

(2006年3月)の提出を待たず法案が提出されたと指摘 していることからも、認定こども園法が急ぎ成立させら れたことがわかる。

中央での認定こども園担当の部局として「幼保連携室」

が両省合同で創設された。そのホーム・ページ10のト ップには、まず、「就学前の教育・保育のニーズに対応 する新たな選択肢」と銘打たれている。続いて、4つの キャッチ・コピーが書かれているが、そのうちの一つに

「待機児童を解消するために、既存の幼稚園などを活用」

とあり、文部科学省の幼稚園活用への期待が見て取れる。

他方、各都道府県では、認定こども園の窓口の多く

71%)が既存の福祉部局にあり(日本保育学会課題研

究会、2007)、地方レベルでは、待機児童対策として期 待が大きいこともわかる。 いずれにしても、幼稚園・

保育所制度は、

2006

年の年度途中の

10

月1日から、認 定こども園という、これまでにない形態を出発させるこ とになった。発足当初、1,000園程度と見込まれていた が、最新の発表(幼保連携室、2007年8月1日)では

105

園となっている。

3.3.認定こども園とは 3.3.1.4つの形態

認定こども園には4つの類型がある。①認可幼稚園と 認可保育所とを組み合わせる幼保連携型、②認可幼稚園 が預かり保育によって長時間利用児(従来の保育所児に あたる)もカバーする幼稚園型、③認可保育所が短時間 利用児(同、幼稚園児)も受け入れ、預かり保育も可能 とする保育所型、④幼稚園・保育所いずれの認可もない 施設が短時間利用児・長時間利用児を保育する地方裁量 型である。さらに、幼稚園的機能と保育所的機能の組み 合わせ方に亜型があるので、図表5のように7タイプと なる。なお、幼保連携型の場合、幼稚園部分と保育所部 分が離れていても可能とされている。また、対象年齢を 何歳にするかは施設の判断なので、コストがかかる年齢 は対象としなくてもよい。

幼稚園として認可されている部分は補助金等の対象と なり、保育所として認可されている部分は交付金等の対 象となる(11)。④は認可外保育施設だが、自治体の判断 で交付金が受けられる。また、幼稚園として認可される 部分の子どもは従来通り、就園奨励費を受けられる。し

(8)

かし、③・④の場合の短時間利用児は、幼稚園としての 認可施設でないのでその対象とならない。したがって、

保育所型には短時間利用児が就園するメリットはあまり ない。

実際に認定を受けたこども園105園の内訳は図表6の ようになっている。幼保連携型が主であり、次に幼稚園 型である。また、私立園が主であり、過疎を抱える地域 に多い。東京都は平成20年度以降の見込み申請をあわ せると地方裁量型が52件になるとしている(12)。認証保

育所等は無認可施設なので保護者の不安もあるが、「認 定こども園」のお墨付きを得れば市民権を得やすくなる だろう。

3.3.2.認定基準

認定こども園の認定基準について、調理室を必置とす るのか、3歳児以上の職員配置を幼保どちらの基準にす るのかが関心を呼んだ。行財政改革から求められる規制 緩和の圧力の中、国は法案成立の年の8月、「指針」(以 下では、認定基準と呼ぶ)を示したものの、実質は各都 道府県が作成する条例に委ねた。現行幼保制度では、幼 稚園と比べると保育所の方が、職員配置数等、全体に手 厚く、費用のかかる基準になっている。調理室も保育所 は必置であり、外部委託が認められた(1998)とは言 え、多くが自園調理を守っている(13)

各都道府県の条例制定が予定期日(

10

月1日)に間 に合ったのは6県であった。慎重な議論を求める声が強 かったからである。それは、「総合規制会議」による

「規制改革推進のためのアクション・プラン

12

の重点検 討事項」(

2003

(14)で、「・・設置が検討される『就学 前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設』

については、その施設設備、職員資格、職員配置、幼児 受け入れなどに関する規制の水準を、それぞれ現行の幼 稚園と保育所に関する規制のどちらか緩い方の水準以下 とすべきである」とする、いわゆる「低位標準化」が表 明されたことが懸念を呼んでいたためである。3.1.で

「幼保一元化」が地方分権推進会議の「最終報告」で強 く求められていたことは述べたが、その求めが子どもの 保育に関わる視点からではなく、規制緩和からのもので あったことがよくわかる。既に、この最終報告で、調理 室に関して「義務づけを廃止する方向での検討を求めた い」と提案された。調理室の義務づけは、現行の幼稚園 を土台に「一元化」する際、もっともネックになると予 想されたことから、早くから廃止の槍玉に挙がってい た。

職員配置

各都道府県の条例では、長時間児はどの都道 府県も保育所並みの職員配置になった。しかし、短時間 児・長時間児とも保育所並みの基準としているのは、わ ずかに山形・山口・佐賀の3県で、残る都道府県ではほ ぼ国基準程度である。全体としては、従来の保育所基準 に比べれば、少な目の職員配置となっている。

調理室

調理室を必置としたのは北海道・青森・福井・

広島・山口の5道県のみで、大半は外部搬入を認めるも のとなった。「補助施設の設置」を求めていても、電子 レンジでもよいことになる。

このように、全体として、「低位標準化」が現実のも のとなっている。短時間保育児にとっては、現行の幼稚 園基準(保育者1人に

35

人の児童)からみれば、やや

図表5 認定こども園の4つの形態と7つの亜型

北海道庁保健福祉部子ども未来推進局の認定こども園制度の 資料を参考に作成

図表6 各都道府県の認定状況

2007年8月1日時点(幼保連携推進室)

(9)

高い基準の地域もあるが、実際には長時間保育の必要な 子どもが「短時間利用児」の立場で預かり保育を受ける ケースが現行幼稚園より一般化するであろうから、やは り、現行保育所基準と比べれば、条件の切り下げという べきである。

職員資格

国基準では、0〜3歳未満児については保育 士資格保有者、満3歳以上児については幼稚園の教員免 許状との併有が望ましいが、片方の資格しか有しない者 を排除しないよう配慮するとしている。つまり、併有を 条件としては求めていない。都道府県の基準を見ると、

満3歳未満児まではいずれも保育士資格を求めており国 基準と同じであるが、それ以上の年齢になると、「併有」

を求めているのが北海道・秋田・愛知・新潟の4道県、

26都府県が国指針と同じである。「どちらか一方でよ

い」としている県も

17

ある。待機児童の多い地域で基 準が緩い。東京都では、幼稚園型・地方裁量型では、4 割未満まで無資格者を容認する独自の基準を示してい る。

なお、国・都道府県、いずれも、満3歳以上の子ども の保育に際して、「学級担任は、幼稚園の教員免許状を 有する者でなければならない。」としている。保育士と 幼稚園教諭の資質等を区別していることは、同じ職場で 働くスタッフに差別意識や分断をもたらさないか、危惧 される。一定期間の経過措置を前提として資格併有を条 件として採用していくことになれば、誰もが担任になれ るので、そういう心配は回避できるであろう。しかし、

そもそも、3歳以上の保育に関してこのように幼稚園教 諭と保育士の職務を区別する必要があるのであろうか。

このような差異化が孕む問題点については、次章(4.1.)

で「教育」と「保育」の用語に関わって検討したい。

3.3.3.直接契約制度と保育料

入所にあたって直接契約制度を導入する布石は、97 年の児童福祉法改正時にすでにあった。それまでの保育 所入所は、市町村の責任で保育所に措置する「行政処分」

方式であったが、それでは利用者に対する権利侵害であ って時代にそぐわないとして、「保護者が保育所を選択 して申し込む」方式に変更された。しかし、現場の運用 面での実質は変更されず、各自治体は「保育に欠ける」

状況を把握した上で入所に責任を持つという旧来の手順 は継続されている。

これに対して、認定こども園では、直接契約制度とな った。心配された「保育に欠ける子ども」については、

国会審議を経て、自治体にその旨、届ける義務が課せら れた。しかし、保育料は、法律に「家計に与える影響を 考慮して」とあるが、原則、施設の自由設定である。ま た、国会論議でも問題になったことだが、家庭の経済状 態の激変等によって保育料が払えなくなった場合、認定

こども園は、私立園であれば、子どもの退園を求めるこ とが可能である。現行保育制度では、保育料にしても入 所の条件にしても、園の公私の区別はない。認定こども 園では低所得家庭に対する福祉面での後退が心配され る。

4.認定こども園の成立は何をもたらすか

川端(2008)は2007年6〜8月に近畿圏の1中核都 市の幼稚園・保育所で保育者アンケートを実施した(15)。 それによると、「認定こども園の創設によって、幼稚園

(保育所)が何らかの影響を受けると思うか」という設 問に対して5件法で評定を求めたが、いずれの保育者で も「とても思う」は0%だった。一方、「幼保一体型施 設が待機児童対策になると思うか」「幼保一体型施設に よって現行よりも多様な保育サービスに対応しやすくな ると思うか」については、幼稚園教諭の約50%がいずれ の設問にも「思う」と返答しているのに対して、保育士 はいずれにも

15%程度が「思う」と回答している。認定

こども園に関する具体的内容が一般には十分周知されて いないこともあって、この制度への危機感は強いとは言 えないが、幼保一体型施設についてまで問うと(認定こ ども園も形態としては、幼保一体型施設の1種である)、 幼稚園教諭の方が現行制度は何らかの変更を余儀なくさ れると思う率が高くなっている。

しかし、認定こども園制度は幼稚園制度にだけ影響を 及ぼすものであろうか。以下では、現行の保育所制度に 与える影響に注意しながら、この点、検討してみたい。

4.1.教育と保育の区別をめぐって

「保育」という用語は、日本の幼稚園の第一号である 東京女子師範附属幼稚園が発足した際に、規則の中で

「小児保育」「保育料」のように使用されていた。戦後制 定された学校教育法(1947)でも、「幼稚園は幼児を保 育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長する ことを目的とする。」(第7章

77

条)となっていた。そ の草案を準備した坂本彦太郎は、保育は保護・教育の略 で、外からの保護と内からの発達を助けることを一体と して考えることを言い表している概念だと説明している

(森上史郎・柏女霊峰編、『保育用語事典』、

2004

、p.1)。 英語ではearly childhood education and care (ECEC)

が日本語の保育にあたる。文部省によって作成された保 育要領(

1948

)は、戦後復興期にあってあえて子ども を二分せず、幼稚園・保育所の両方を対象として出され たものであった。しかし、学習指導要領とともに幼稚園 教育要領が刊行(1956)されて以降、幼稚園教育要領 から「保育」という用語は消えていき(

2008

年の改訂 でも同様)、幼稚園が学校教育の体系に位置づけられた

(10)

ことが明確になっていく。他方、保育所側からの一元化 要求に対して、1.2.で述べたように、文部省・厚生省 の局長通知(

1963

)では、一元化は目的が違う施設だ から無理だとしながらも、保育所に関して、「幼児の保 育については、教育に関することを含み保育と分離する ことはできない」とし、「保育所のもつ機能のうち、教 育に関するものは、幼稚園教育要領に準ずることが望ま しい」として、「準ずる」という表現ではあるが、保育 所の活動に教育が含まれることを認めるものとなった。

また、改正学校教育法(2006)の幼稚園に関する第 三章でも、その目的について、「幼稚園は、義務教育及 びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、

幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その 心身の発達を助長する」(22条)と記述され、旧法が踏 襲された。職務についても「⑤教諭は、幼児の保育をつ かさどる」(第

27

条)とし、さらに、「幼稚園の・・・

保育内容に関する事項は、・・・文部科学大臣が、これ を定める。」(25条)と旧法の表現を引き継いでいる

(下線は筆者)。実際、「保育内容」「保育案」「保育者」

という用語は、幼稚園の現場でも現在に至るまで使用さ れているし、幼保の保育者養成のテキストでも一般的に 使用されている。

このように、幼稚園では「教育」、保育所では「保育」

という使い分けがなされてきたわけではなく、「保育」

は「教育」を含む、より広い概念としてあった。しかし、

総合施設を提案した文書名やいわゆる「認定こども園法」

の正式名称は、2つの用語を並列し、区別している。こ のことは、就学前の子どもたちに、幼稚園であれ保育所 であれ、「養護(保護)」と「教育」を統一的に捉えて展 開していくとしたこれまでの保育観を否定することにも つながりかねない大きな問題である。しかも、総合施 設・認定こども園が提案される際、現行保育所には教育 機能がない、幼稚園には養護がないと、ことさら指摘す るマスコミの論調があった。研究者の間ですら2つの用 語の使い分けを受け入れていく傾向が稀ではなかった。

この用語の問題は、

2007

年度末の保育指針改定にお いて「保育のねらいと内容」が、「養護に関わるねらい と内容」「教育に関わるねらいと内容」とにわけて記述 され、また「教育」という用語が導入されたことともつ ながっている。保育所関係者の側に、積極的に「教育」

という用語を書き入れることで、幼稚園と同等のものを 提供できるということを強調したいとする立場も窺え た。同じ時期に幼稚園教育要領も小学校等に連動して改 訂されたが、「保育」や「養護」という用語は出てこな い。このことは、旧要領を踏襲している(既述)ことに 加えて、幼稚園関係者の中には、認定こども園や幼保一 体型施設が現実化している状況で、「幼稚園不要論」へ の対抗策として「学びの連続性=小学校教育への準備」

を強調するきらいがあったようだ(相馬、2008)。背景 には、「ゆとり教育」批判という学校教育全体をめぐる 動向もある。認定こども園発足が要領・指針の改訂の時 期とも重なることによって、幼稚園だけでなく保育所も 巻き込んで、幼少期にあって「教育」を「保育」より上 位に位置づけ、小学校での教科教育を先取りするような 実践が広がることが心配される。しかし、新しい要領・

指針が保育の現場の実践でどのように展開されていくの かについては、文言の検討だけで論評できるものではな い。別の機会にあらためて検討したい。

4.2.懸念される直接補助方式の導入

90年代後半から市場原理の導入等を盛り込む「社会

福祉基礎構造改革」の議論が厚生省の関係会議で進んだ。

そして、利用契約型福祉事業への転換の精神が盛りこま れ、社会福祉法が約

40

年ぶりに改正された(

2000

)。そ の 後 、 新 た に 作 成 さ れ た 規 制 改 革 推 進 3 か 年 計 画

(2001)(16)において、保育に関わる事項として、「利用 者への直接補助方式の導入ができないか、その可否につ いて検討する」ことが書き込まれた。それ以降、毎年、

3か年計画は改訂されていくが、2008年3月の改訂17 では、「利用者への負担の公平化を図るため、運営費等 の公的補助を施設に対して行う現行の制度から、利用者 に対する直接補助方式へ転換する必要がある」と一段と 進んだ表現となった。

直接補助方式は、既に述べたバウチャー方式のことで ある。今、日本で教育や保育で検討されているバウチャ ーは内閣府の分析レポートによれば、「個人を対象とす る使途制限のある補助金」と定義されている(内閣政策 統括官、2001)。バウチャーはもともとはクーポン(切 符)を意味し、バウチャーを何枚集めるかが施設運営を 規定する仕組みになっている。利用者集めのために施設 間の競争が展開するが、競争の結果、利用者にとってサ ービスが向上する、選択肢も増えると説明される。また、

施設にではなく施設利用家庭に補助を移すことにより、

認可園を利用できない家庭の不公平感をなくすことがで きると説明される。既に海外で保育バウチャーを取り入 れている国の事例がある。イギリスでは、保守党政権下 の

1996

年4月に試験的に保育バウチャーが導入された が、翌年5月の政権交代時に廃止された。民間の参入が あまり見られなかったので親の選択の自由の拡大が達成 されなかったこと、事務的経費の増大がかえってコスト を増加させたことなどが指摘されている。また、スウ ェーデンでは、一部の自治体(コムーン)で採用されて いるが、導入後10年を待たず、保育所の公立シェアが 激減した。イギリスの例に見るように技術的には様々な 問題もあるが、それをクリアすれば、政府コストの削減 等に有効な制度だと上記レポート(

2001

)は述べている。

(11)

直接補助方式は、保護者と保育所との直接契約方式を 前提に考えられており、事実、2001年からの規制改革 推進3か年計画でも「保護者が保育を希望する保育所に 直接申し込み、当該保育所が保育の可否の審査・決定を 行うことができる仕組みの導入の可否について検討す る。」と述べられていた。この点、2007年からの3か年 計画では、認定こども園発足によって直接契約方式が既 に導入されたことを受けて、「『認定こども園』における 直接契約、保育料の自由化等の実施状況等を把握・検証 し、保育所にも(直接契約方式を)導入することを検討 する。」(括弧内は筆者の補足)となった。さらに

2008

年からの3か年計画では、東京都の認証保育所制度の先 例をあげつつ、「利用者が保育所を選択する直接契約方 式を導入することにより、施設が選ばれるための工夫を し、多様なニーズに応じたきめ細かいサービスの提供が 行われるようにする必要がある」と述べられた。直接契 約制度が認証保育所や認定こども園で始まったことによ り、以前から俎上に上っていた現行保育所へのバウチャ ー制度の導入が現実味を帯びてきている。文科省の「教 育バウチャーに関する研究会」は、義務教育段階にこの 制 度 を 導 入 す る こ と に は 慎 重 な 意 見 を 述 べ て い る

(2006)。一方、就学前教育におけるバウチャー導入に ついては、「検討する余地がある」と含みを持たせてい る。導入をせまる規制改革派との間で、幼稚園・保育所、

とくに保育所が駆け引きの材料にされる可能性も考えら れる。

当然ながら、福祉や教育の場に行き過ぎた競争原理を 持ち込むことには不安や批判も多い。多くの私立園では バウチャーだけで親の支払いが完了するわけではないの で、「親の選択権の拡大」という謳い文句とは裏腹に、

家庭階層によって園の選択が決まってくる現実は、フィ ンランドの報告(前掲レポート、

2001

、pp.12-15)を見 るまでもなく予想がつく。直接補助方式が浮上する背景 には、2.3.で述べたように「福祉的対応から、普遍 化・一般化という流れにふさわしい在り方、利用しやす い仕組みへと見直すことが適当である」とする福祉施策 の転換がある。現行保育所制度は、親の経済力によって 園の選択が左右されるわけではないことから、アメリカ などと違って、施設間で親の経済格差が生じにくい仕組 みとなっている。直接契約方式・直接補助方式が導入さ れることになれば、こうした日本の保育所制度の根幹が 大きく揺さぶられることになりかねない。

5.これからの幼稚園・保育所制度を考える視点

5.1.子どもの生活の場の保障

「家庭の教育力の低下」が言われて久しい。個々の家 庭の努力の範囲を超えた社会的要因として、都市化・核

家族化・少子化がある。他方、親の生活スタイル・価値 観(家族観、育児観など)の変化がある。加えて、格差 の拡大による貧困の問題がある。これらの複合的な影響 の結果、少なくない子どもたちが子どもらしい生活を奪 われ、TVやビデオ、あるいは、幼児教育教材といった 不自然な擬環境の中で育っている。密室育児は、親子と の緊張を高めるか、放任の危険性につながりかねない。

これに対して、「早寝早起き朝ごはん運動」や「食育」

の取り組みが省庁あげて取り組まれ出した。しかし、官 製の運動には限界がある。なかなか寝付かないで夜遅く まで起きたがることの理由の1つには、子どもの昼間の 運動量が減っていることがあるからだ。朝食を抜いたり 食事が偏るのも、睡眠の問題に加えて、空腹感がおこら ない生活だからだ。子どもに子どもらしい生活をどう取 り戻して行くのかという大きな課題なのだ。しかも、そ の親自身も、幼少期をそのような環境で過ごさざるを得 なかった世代である。生活技術・育児技術も十分伝承さ れていない。加えて、子どもが社会性を身につけ、自我 を確立して行くには、特定の大人とだけの関係では不十 分で、多くの同世代の子どもたちと生活をともにする環 境が不可欠である。

今日、幼稚園や保育所でこそ、子どもの育ちが守られ る時代になってきた。それも、体を使って遊ぶ・人と一 緒に食べる・寝る・年齢に応じた仕事を受け持つなど、

かつての子どもたちに当たり前にあった様々な活動が、

子どもの時間の流れにそったゆったりとした生活の場で 保障される必要がある。長瀬(

2006

)は、認定こども 園制度を論ずる中で、今日的状況を考えれば、幼稚園で も、預かり保育による時間延長ではなく、生活の視点に 貫かれた7時間程度の保育を基本とすることが必要にな ってきているのではないかと述べている。給食やおやつ の提供が一般的になれば、同じものを一緒に食べる、い わゆる 共食 によって食育もより効果的に取り組める だろう。

ところで、大宮(

2007

)は、ベルギー、デンマーク、

フィンランドなどの例を引きながら、日本でも「保育の 権利」の法定化が必要だと提起している。まだ、なじみ が薄い概念だが、この間、公立保育所の民営化に関わる 訴訟が相次いでいる中で、保育の質を確保するための努 力を行政側に求める判決が、確定判決を含めて複数出て いることは、権利としての保育を認める流れとして注目 される(18)。子どもに充実した昼間の生活が提供できて いるのかが、現実の子どもの育ちに即して、社会的に問 われていかなければならない。単なる労働力対策や少子 化対策ではない視点から、幼稚園・保育所の充実が求め られているのである。

(12)

5.2.幼保一体型施設の必要性

待機児童が大きな社会問題である反面、保育所に関し ても、地域によっては少子化の影響で定員を満たしてい ない所もある。今後、少子化社会は確実に進展するであ ろうから、子ども数の確保という点からも、幼保一体型 施設の取り組みは避けて通れないだろう。また、上で述 べたように、幼稚園児にも現行より長い保育時間を保障 するとすれば、幼稚園児・保育所児を分ける必要はな い。

一方、行財政改革の立場からも「幼保一元化」が求め られてきたことは既に述べた。規制改革推進室は、本年 1月の地方分権改革推進委員会で「『認定こども園』を 幼保一元化へのステップと位置付け、その普及促進に向 けた取組を後押しし、三元化状態から、真の『幼保一元 化』に向けた更なる取組を進める」と説明している。し かし、その具体はと言うと「直接契約・直接補助方式の 導入」「保育所入所用件の見直し」「保育所の最低基準の 見直し」等なのである(19)。「幼保一元化」は、目標とし てではなく、あくまで規制緩和の結果として求められて いるのである。子どもにとって最善のものが検討されて のことではない。

海外に目を向ければ、北欧のスウェーデン、フィンラ ンドでは、既に幼稚園・保育所は一元化されている。デ ンマークでは、乳児は乳児保育所、幼児は幼児保育所

(幼稚園とも訳される)という区分があるが、両者に保 育時間の違いはなく全日保育である。90年代半ばより、

乳児・幼児の区分をしない「統合保育所」(aldersinte-

greret institution)が増え、 2002

年統計で保育施設数の

1/3を占めるようになった(小島、2004)

。その多くが学

童保育も併設しているから、生後6ヶ月から10歳もし くはそれ以上の子どもが生活する場となっている。近年、

日本から議員等の視察が相次いだようだ。日本の幼保一 体型施設や認定こども園の具体化にあたっても参考にさ れたのであろう。日本と異なるのは、統合する以前に、

乳児保育所と幼児保育所が、まず、保育時間の点で差が 解消されていることである。日本の場合、「幼稚園の保 育所化」が進んだと言っても、標準保育時間は、4時間 と8時間となっており、建前としての違いは大きい。認 定こども園が「幼稚園型」「保育所型」等、複雑な形態 になっているのも、こうした違いをあくまで前提として いるからである。この点、先に述べたように、幼稚園の 正規の保育時間が午後まで延長されるならば、短時間 児・長時間児と言っても、保育時間の違いは、一体的運 営にとってもほとんど問題ではなくなる。

その一方で、乳児を持つ母親の就労率も両国では大き く異なる。日本で、就労していない母親が長時間保育を どれくらい希望するかという問題がある。保育料の問題 もあるから、就労先が保障されないと利用しにくいし、

「3歳児神話は根拠がない」と言われても、迷う母親も 少なからずいるであろう。幼保一体化の進展には、一定 の時間も必要だと思われる。

いずれにしても、幼保一体化の具体化には、地域の実 情にあわせて現実的で柔軟な方法が認められるべきであ ろう。幼稚園児・保育所児によって事務が異なることな どについて事務の簡素化も必要だろう。しかし、現行二 元行政では限界がある。

5.3.子ども・家庭応援のための行財政施策の必要性 5.3.1.所轄官庁の一元化

幼保一体化が現実のものとなってきた現在、所轄官庁 の二元化は、以前にも増して実態に合わなくなってきて いる。80年代後半頃より、北欧を中心に行政の一元化 が進んできている。スウェーデン(教育省)、フィンラ ンド(厚生省)、デンマーク(社会省)、ニュージーラン ド(教育省)、ドイツ(青少年・家族・女性・福祉関係 省)(20)などである。イギリスでも2007年、子ども・学 校・家庭省に一元化された。

上で見てきたように、今世紀に入ってからの行政の対 応を振り返るだけでも、二元化による省庁の駆け引きが 伝わってきた。二元化によって幼稚園・保育所関係者が 分断されているようでは、これからの見通しが描ききれ ない。既に見てきたように、近年の政治動向は、官邸主 導で規制改革会議等が様々な分野について具体的な施策 を提案し、その筋書きで進んでいる。「子ども・家庭省」

のような責任省庁に一本化した上で、今後の幼稚園・保 育所制度のあるべき姿についても、子どもや親の守り手 として力を発揮していってほしいものである。

5.3.2.子ども・家族応援のための財政的な裏付けを

最後に、財政的問題について一点だけ指摘する。次世 代に負の遺産をこれ以上、先送りしないためには、就学 前保育の分野でも競争的環境のもと効率化が最大限追求 されるべきだという規制緩和路線が、予定通りの速度で はないにしても、確実に進行している。これに対して、

保育の「市場化」に対抗する現実的方策は、消費税増税 による目的税化か、育児保険の導入かの二者択一は避け られないとする意見も保育問題に詳しい識者の中にもあ る。しかし、図表7に見るように、公的な家族関係社会 支出(「児童手当」「育児休業補償」などの現金給付、保 育サービスへの支出、税控除)のGDP比はOECD29ヶ国 の中で下から5番目であり、子どもと家族に対する税の 投入が極めて低いことが内外から指摘されている。保育 所・幼稚園だけに税金を使いすぎているわけではないの だ(21)。保育サービス・現金給付、いずれも極めて低い のである。(図の下位

10

ヶ国を見ると、アメリカ・メキ シコを除くと、合計特殊出生率の低さともほぼ符合して

(13)

いることから、子育てに関わる税金投与が不十分である ことが、少子化という政治的課題とも直結していること がわかる)。未来を担う子どもたちを、幼いときから今 日の大人社会の競争と格差の波に放り出すわけにはいか ない。

6.まとめと今後の課題

幼稚園と保育所の制度的統一を求める「幼保一元化」

要求の歴史は長い。しかし、近年、それを政策側が求め るようになった。認定こども園は現行の幼稚園・保育所 制度を前提としながら、2006年から発足した。本研究 は、主として

1990

年代からの保育所政策の変遷と幼稚 園・保育所の関係を振り返りながら、認定こども園が浮 上してきた背景を分析し、今後の就学前保育の政策や幼 稚園・保育所制度に与える影響を検討した。認定こども 園制度は、福祉の規制緩和の流れに沿った面が強く出て おり、現行保育所制度に対して「直接補助方式(バウチ ャー制度)」導入の呼び水ともなりかねないことがわか った。また、給食は外部搬入でもよしとする地方もあり、

職員配置も十分とは言えない基準が取られているなど、

現行保育所基準以下の水準が定着していくことが危惧さ れた。認定こども園は、法律制定5年後に見直されるこ とになっている。とくに待機児童の多い地域では、保育 の質を低下させる牽引車にならぬよう、注意をして見て いく必要がある。

他方、今日の子どもの育ちの問題を見据えたとき、幼 稚園・保育所はいずれも、「家庭教育の補完」という役 割を超えて、家庭では得られない世界を提供していく役 割が求められている。子どもたちがそこで充実した時間 を送るためには、幼稚園でも給食や昼寝の時間が標準の 保育時間に取り入れられることも、今後、検討されてよ いのではないだろうか。幼保の一体化は、少子化のもと で、すでに地域によっては、子ども集団を保障するため

に避けて通れぬものになってきている。このため幼保の 一体化は認定こども園発足以前から、地域の取組として 実践段階に入っている。幼稚園児と保育園児の保育時間 の違いが縮小していけば、一体的運営のハードルは小さ なものになるだろう。あわせて、所轄省庁の一元化など、

時代に合わせた行財政施策も必要である。その際、経済 効率からではなく、子どもの立場に立った検討が求めら れる。

本研究では、財政的側面については十分、論じられな かった。公立保育所の運営費等が一般財源化され、次は 民間保育所の一般財源化だとも言われている。一般財源 化の結果、保育所に回る予算が削減される事態がおこっ ており(注(5)参照)、財政面の分析が重要な課題に なっている。また、制度として立ち後れている学童保育 についても触れられなかった。就学前保育との接続を考 えていく必要がある。自民党が取り上げていた義務教育 年限の引き下げについては、産業構造審議会の基本政策 部会も、「格差解消のために幼小期からの教育の充実を」

として、就学前教育の無料化や義務教育開始年齢の引き 下げなどを提言した(2007年10月)。ヨーロッパの動向 も踏まえ、この問題も分析して行く必要がある。これら については、論を改め、検討していきたい。

(

)

少子化自体は保育所にも影響を与え、

1980

年以降、園児数 は一旦減少したが、

1994

年以降、増加に転じている。

2006

年の保育所児は

2,118,079

人である。

(2)

全国保育団体連絡会・保育研究所編 2007 保育白書2007 年版、ちいさいなかま社、p. 186.

(3)

改訂「幼稚園教育要領」(2008年)では預かり保育が要領 に位置づけられ、しかも名称が「教育課程に係る教育時間 の終了後等に行う教育活動」と変わり、教育活動の一環で あることが強調された。

(4)

就学年齢の引き下げについては、1966年、当時の中村梅吉 文部大臣発言に端を発し、検討されたことがあったが、今 回は保育所児も含めた幼児教育の無償化という点で、新し い内容となっている。

図表7 OECD29カ国の公的家族関係支出(対2003年GDP比)

OECD家族関係データベースより作成(http://www.oecd.org/dataoecd/55/58/38968865.xls)

横波線は平均ライン(2.4%)

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