校務分掌組織とその運営についての一考察
著者 松井 秀史
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 17
ページ 215‑222
発行年 2008‑03‑31
その他のタイトル School Division of Duties and its Management
URL http://hdl.handle.net/10105/689
1.はじめに
近年、情報化や科学技術の発展、グローバル化にお ける競争の激化や類を見ない少子高齢化の進展など社 会の変化は急激かつ複雑で、それに伴う人々の生活や 意識の変化は、社会の諸相において錯綜した状況を生 み出している。
教育も例外ではなく、学校教育に目を向ければ、子 どもたちの学習意欲の低下、不登校、いじめなどの問 題をはじめ、特別な教育的支援を必要とする子どもた ちへの指導の充実、日々の生活における安全確保も大 きな課題となっている。
また、最近では家庭の教育力の低下から、子どもた ちの基本的な生活にかかわる問題に対する指導の必要 性が高まるとともに、子どもの教育に共通の視点を持 てない保護者の増加が、学校における教育活動の円滑 な運営に支障を来すことも珍しくない。
その結果、こうした問題に対する対応の難しさもあっ て、教員の資質や学校の教育力が厳しく問われる状況 となっている。さらに、国全体の規制緩和や地方分権 に基づく教育改革に、それぞれの学校が主体性をもっ てどのように取り組んで行くのかも焦眉の課題となっ
ている。
ことの善し悪しは別として、社会が成長という一つ の方向を向き、学校へ行くことが個人の幸せにつなが るという共通の認識を持てた時代には、教員は教員で あるが故に尊重され、学校はその存在意義を示すこと が出来ていた。
しかしながら、現在、教員や学校を取り巻く状況は 大きく変化している。指導の内容や方法が多岐にわた り複雑化するとともに、価値観の多様化が社会共通の 認識を揺るがし、人として生きていく上で不易と思わ れることにまで説明し理解を深める対応が求められる 状況になっている。
こうした状況の下では、一人一人の教員がその対応 力を高めることはもちろんのことではあるが、学校が 組織としての機能を高めることがより一層必要となっ ている。教職員全員が一致して自校の子どもたちを育 てる上での目標を共有し、それを達成しようとする明 確な意思を外に示しながら長期的な展望に立った取組 を進めるとともに、それぞれの部署が有機的な連携の とれるチームワークをもって、日々生起する事象に機 に応じて的確な対応力を発揮出来るような組織づくり とその運営が必要である。
校務分掌組織とその運営についての一考察
松井秀史
(奈良教育大学教育実践総合センター)
School Division of Duties and its Management
Hidefumi MATSUI
(Center for Educational Research and Development, Nara University of Education)
要旨:社会の急激な変化に伴い、学校教育に求められる内容もますます多様で複雑・高度化している。子どもたちの 学習意欲の低下や不登校、いじめの問題をはじめ、特別な教育的支援を必要とする子どもたちへの指導の充実、日々 の生活における安全確保などの課題、また、多様な価値観を持つ保護者への対応に加え、国全体の規制緩和や地方分 権に基づく教育改革に学校が主体性を持ってどのように取り組んでいくのかという課題もある。このような状況にお いては、教職員全員が一致して自校の子どもたちを育てる上での目標を共有し、それを達成しようとする姿を外部に 明確に示しながら長期的な展望に立った取組を行うとともに、日々生起する事象にチームワークで的確に対応出来る ような組織づくりとその運営が必要である。小論では、こうした視点から学校の校務分掌組織とその在り方について 考察を行いたい。
キーワード:校務分掌 school division of duties, 共通目的 common purpose, 協働意志 willingness to cooperate, コミュ ニケーション communication
このような視点を踏まえながら、小論では、学校の 校務分掌組織とその在り方について考えてみたい。
2.学校運営上から見た現状と課題
学校を取り巻く環境の変化に伴い、学校が求められ る内容も多様で高度なものになっている。それについ て、平成16年中央教育審議会答申(「今後の学校の管理 運営の在り方について」)では、例えば、
・ グローバル化や情報化などの社会の変化に的確 に対応する国際競争力のある教育
・ 個性や能力の伸長をより一層重視した教育 ・ 豊かな情操や社会規範意識をはぐくむ教育の充
実
・ 不登校状態にある児童生徒や学習障害(LD)、 注意欠陥/多動性障害(ADHD)など特別な配 慮を必要とする児童生徒に対するきめ細かな指導 の充実
が求められるようになっているとしている。1)
さらに例を挙げれば、これら以外にも、いじめをな くす指導の充実やキャリア教育、環境教育や食に関す る教育、地域の文化財や伝統芸能を大切にする教育、
防災教育など実に多様な課題があり、いずれも早急に 実効性のある取組を行うことが求められている。
しかしながら、こうした学校教育に対する期待に対 し、現在の公立学校教育が十分に応えられていないと いう厳しい指摘がある。その要因として、前述の答申 では我が国の公立学校教育が画一的で柔軟性や多様性 に乏しいこと、閉鎖性が強いことなどを挙げているが、
ここで改めて現在、公立学校が置かれている状況やそ の背景にある教員の意識、また、学校という組織の特 質とそこから生じる問題点について考えてみたい。
2.1.基本的な問題点
まず、もっとも基本的なこととして学校の教育目標 にかかわる問題が挙げられる。公立学校にはこれまで 自らが行う教育について、教育目標を中心に据え、理 論的、体系的にわかりやすく説明しようする姿勢に不 足していたということがある。
このことは、学校が自らその教育について評価し、
それについて保護者や地域に意見を求める「自己評価 結果」の公表率が、平成17年度、公立学校(大学、高 等専門学校を除く)において前年度から15.5ポイント 増加したとは言え、全国で58.3パーセントにとどまっ ている状況にも現れている。2)
学校には教育目標があり、その教育目標の達成に向 けて教育活動が進められるが、現状では、それがどの ような考え方のもとに定められ、個々の教育活動がど のような有機的なつながりを持って教育目標を達成す
ることにつながっているのかが十分に説明されていな いために、それぞれの教育活動の意味が十分理解され ず、様々な批判を招いている。
特に最近では、保護者の間に性急で直接的な効果を 求める声が強く、長期的な視点に立って計画的に子ど もたちの成長を図ろうとする学校の取組が理解されず に齟齬が生まれるケースが多い。子どもを抱えた保護 者の不安や学校に対する地域社会の期待は大きく、そ れに対して平素から学校は何を考え、どういう意図を 持ってそれぞれの教育活動を行っているのかというこ となどについて、より一層丁寧で分かりやすい情報の 提供と説得力のある説明が必要となっているが、そう した認識を学校が組織として持ちきれていないところ に基本的な問題がある。
また、その前提となる教育目標が形骸化していると いうこともある。教員には、教育は内面にかかわる営 みであり、子どもたち一人一人の資質・能力や適性が 異なるため、一律に一定の尺度に基づく到達目標を設 けることは難しいとする認識が一般的である。その結 果、教育目標には抽象的な言葉(内容)が並べられ、
具体的な教育活動が計画されるに当たって、教育目標 との関連性が十分議論・整理されていないために、教 員でさえ日頃それを意識することが少ない、あるいは ほとんどないという状況がある。
しかしながら、まず教育目標があって、その達成の ために教育課程が編成され、様々な教育活動が立案さ れて、指導の重点項目や学年目標、学級目標が定めら れるのである。すべての教職員が、社会の動向を踏ま え、どのような目標を持って自校の子どもたちを導い ていくかについて十分な議論を行ったうえで教育目標 を設定し、具体的な教育計画を立てることが大切で、
そのプロセスを通して教職員が互いの教育観を知り、
共通理解を図っていくことができ、協働的な校務運営 の基盤が醸成されていくのである。
教育の目的が人格の完成という高度に抽象的なもの であり、それを追究する学校の教育目標も長期的な見 地から抽象的になることは避けられないが、自校の子 どもたちの実態や地域の実情を踏まえ、丁寧な議論を 経て、教育目標策定への意思形成が図られるというプ ロセスが大切にされるべきであり、そのプロセスが学 校運営の基盤になるのだということがどれほど認識さ れているかが問題である。
2.2.組織の特質から生じる問題点
こうした基本的な事柄に加えて、学校という組織の 特質から生じる問題点もある。
その一つに意思決定と対応が遅いということが挙げ られる。
学校の組織は、よく「ピラミッド型」ではなく「な べぶた型」と言われる。このタイプの組織では、自由
で闊達な議論が行われる反面、抽象的な原理原則が繰 り返され、意見を集約する機能が働かないことも多く、
早期の取組が求められているにもかかわらず、建前が 優先され組織としての意思形成に時間がかかるという 問題を抱えている。
校長が教職員の意見を整理し、リーダーシップを発 揮しながら方向付けを行う必要があるが、「なべぶた型」
と呼ばれるように、教職員に職階意識が低いためにリー ダーシップを発揮できず、意思形成に時間がかかった り、ひどい場合には曖昧なまま意思決定が行われず、
前例踏襲という安易な結論に終わることさえある。
学習指導の改善、いじめ問題への対応、地域と連携 した行事への参加など、迅速な対応が求められている ことに対して、それにかかわっている子どもたちや保 護者、地域の人々などの立場に立って客観的な判断が できず、そのことが学校に対する信頼にかかわってい るという認識が不足しているという問題がある。
二つ目に教員及び学校の閉鎖性の問題がある。
学校では日々の教育活動における実際の指導、なか でも特に学級経営と教科指導の場面においては、その すべてが実質的には教員一人一人に委ねられているこ と、また、教員自身が不完全さを認めたくないという プライドもあってどうしても閉鎖的になりやすい傾向 がある。
こうしたことは、いわゆるなべぶた型の組織である 学校では、組織の構成員である教員がすべて平等で、
互いの自主性や個性を尊重するという建前のもとにそ れぞれの領域を侵さないという相互不干渉を良しとす る教員特有の職員室文化ともいうべきものが影響して いる。
そしてこの閉鎖性は、情報の収集や共有においても 隘路を生じやすく、いじめの指導などにかかわって情 報の把握が遅れ、学校が最初にいじめのあったことを 否定しておきながら、外部の様々な指摘を受けて調査 をした結果、その存在を認めるなどということが起こっ たりする。
また、こうした閉鎖的な文化の中では、校内におけ る公開授業や授業研究によって授業改善が行われるこ ともないし、進路指導や生徒指導の事例研究も行われ にくく、情報の共有も望めない。校内の優れた教員の 持つ指導技術の広がりや外部で実施される研修内容の 伝達も行われない。そして何よりも教員それぞれが指 導内容や技術を共に学びながら成長しているという連 帯の感情が生まれない。教員が本来持っている意欲や 向上心を呼び起こすための契機となる機会や場が日常 的に設定されるような組織になっているのかという問 題がある。
三つ目に、校務分掌組織の構成上の問題として、教 員が多くの分掌を複合的に掛け持ち担当するために、
それぞれがどの部分で主体的に責任を持つのかという
ことが曖昧になっているということがある。
教員は、一人で学級担任であると同時に教務部など 何かの部の一員、さらに児童会(生徒会)やクラブ
(部)活動の指導者、PTAや地域・関係機関との調整 など何役もの役割を担っている。その上に、その時々 の学校の研究テーマや課題への対応のために、委員会 や係などが設置され、整理されないまま積み重なって 年々分掌が増加するため、教員はさらに多くの分掌を 重なり合って担当するということが見られる場合があ る。こうした状況では分掌が本来の意味で機能せず、
効果があがらないまま責任も曖昧になっているという ことがある。
これとは逆に、学校を取り巻く環境が大きく変わり、
研究すべき新しいテーマや対応すべき新しい課題が生 じているにもかかわらず、組織は旧態然としたままで、
新しいテーマの研究や課題に対する組織としての取組 の意思や必要性を教員にほとんど感じさせないような 場合もあり、こうした組織では当然士気もあがらず、
責任の所在が不明確だということになる。
取り組むべき課題に対する認識を深め、学校全体の 取組の方向性や取組への積極的な意思を示す上で、常 に組織として起こりうる課題に対応できる体制となっ ているかについて、組織の整合性や合理性等の観点か ら十分整理できていないことが問題である。
四つ目に、教員には自らの職務を限定的にとらえよ うとする傾向があるという問題がある。
学校教育法第28条第6項に「教諭は、児童の教育をつ かさどる」とあるが、かつてこれをきわめて限定的に とらえ、同第3項の「校長は、校務をつかさどり、所 属職員を監督する」という条文にある「校務」と「教 育」を対立させ、児童に直接関わる教育以外の校務は 排除するという主張があった。そうした影響もあって 一部の教員には、学校の事務・施設管理や保護者・地 域社会との交流などに積極的に関わりたくないという 傾向があって、学校が外部に対して閉鎖的で保護者や 地域社会との連携がスムーズに進まない要因の一つと なっている。3)
教員のつかさどる児童の教育は、教員にとって中心 的な業務であるが、それだけで教育が進められるもの ではない。分掌のそれぞれが有機的なつながりの中で 教育活動を支えるものになっているのである。
とりわけ、社会の変化に伴い学校だけで教育を完結 させることが出来なくなっている現在、積極的に地域 社会との連携や社会参加をつかさどる分掌を組織に明 確に位置づけるなど、教員が「児童の教育」に広い視 点でかかわる組織づくりができているかどうかという ことが課題である。
五つ目に、公立学校では、原理原則が大切にされる あまり画一的で硬直化し、子どもたち一人一人の個性 や能力に応じた指導についての寛容度、柔軟性が低い
という問題がある。
公立学校においては、特に平等性・公平性などにつ いての理解が一面的であることが、しばしば教育の硬 直性を招き、グローバル化や情報化など社会の変化の 中で個性や適性を重視し、社会のニーズに的確に対応 した教育を求める保護者等の意識と大きく乖離してい る状況がある。OECD-PISA2003やIEA-TIMSS2003の 国際学力テスト結果から、我が国の子どもたちの読解 力の低下や生活のありよう、学習意欲についての課題 が指摘され、国際的に通用する学力の育成が求められ ているにもかかわらず、学校現場ではあまり話題にな らないということもその現れであろう。
グローバル化の中で知の大競争時代と言われ、個性 や創造性がますます求められる時代にあって、公立学 校としての使命を踏まえながら、子どもたち一人一人 の個性・適性や能力を適切に伸ばすための教育を実現 するために、今後、それぞれの学校が組織として、教 育内容や手法をどのように工夫・改善していくのかと いう課題がある。
これらに加えてもう一つの大切なこととして、教員 という立場の特殊性とそうした立場の教員が集まる学 校という集団・組織の特質から生じる問題について触 れておきたい。
教員は教員となった時点で、子どもたちにとって指 導者であるという前提を無条件に与えられている。そ して当然ながら知識や経験等において子どもたちを遙 かに凌ぐものを備え、子どもたちの上に立っている。多 人数が集まる集団で、このような関係性を持った組織 は学校をおいて他にはなく、教員は社会的に見て特殊 な位置に置かれていると言える。 こうした立場上の特 殊性が、教員の社会的な視野の狭さにつながり、「教 員の世間知らず」、「学校の常識は世間の非常識」と揶 揄され、学校が社会の変化に大局観を持って対応でき ていないと非難されることにつがっている。
また、マスコミ等で報じられる教員の不法行為も、
教員の子どもたちに対するそうした立場の優位性から、
子どもたちの人格を無視した結果として生じてきてい ることも多い。
教員一人一人が、また、教員が組織として自らと子 どもたちとの関係のありようについて、日常的にどれ ほど自らの心に問いかけることができる組織であるの かということが、忘れられてはならない問題である。
3.課題の改善に向けて
学校運営上の課題には様々なものがあり、その中に は、学校だけでは解決のできない法制度上・財政上の 問題や、その運用及び人事に関わる事柄などで教育委 員会等との関係において考えなければならない問題も ある。しかしながら、学校には本来的に学校に帰属し、
学校自身が主体性を持って解決しなければならない運 営上の課題があり、これらは学校の自主的・自立的な 取組なしには改善されない。およそほぼこの10年間に おける制度改正も、学校裁量権の拡大を図りながら、
学校が自主性・自立性を確立し権限移譲に見合うしっ かりとした受け皿になることを促している。
これまで述べてきた課題もこうした観点から見てき たものである。学校運営上、校長のリーダーシップが 求められるのは当然であるが、ここでは特に、学校と いう組織及びその構成員である教員が持つ組織文化の 特性に関わって、その改善の方策を考えることにした い。上意下達によって組織は動くように見えても、真 に変わるものではなく、組織として向上するためには それを構成する人間の関係と行動が変わらなければな らないからである。
学校の組織改善のために、これまで様々な提案が行 われてきた。例えば、平成10年中央教育審議会答申で は、学校運営組織の見直しの中で校務分掌について次 のように述べている。4)
各学校において、
()教職員一人一人の専門性を生かして、その能力 を最大限に発揮させること
()学校が地域の信頼を確保し、特色ある教育活動 を展開するために明確な教育方針の下に組織的、
一体的な教育活動を展開すること
()今日の学校が抱える様々な課題に対して地域や 子どもの状況に応じて柔軟に対応すること
()学校の裁量権限の拡大に対応して、学校の管理 運営の一層の適正を確保すること
などの観点から、学級担任、教科担任をはじめとして 様々な校務を分担する組織体制を整備し、効果的かつ 効率的な学校運営を行う必要がある。
こうした指摘は校務分掌組織の編制に関わる基本的 な考え方と言えるが、これらのことも踏まえながら、
これまで述べてきた問題点に関わる改善のための具体 的な対応を考えてみたい。
3.1.プロセスの重視と積極的な情報提供
組織は共通目的(組織目的)、協働意志(貢献意欲)、 コミュニケーションの三つの要素によって成り立つと 言われる。学校にとって組織目的は教育目標であり、
それを達成するためには教職員がコミュニケーション を十分行った上で合意が形成され、協働意志をもって 日々の教育活動が実施されることが不可欠である。
教員であれば、誰もが子どもたちに伝えたいことを もっている。こんな子どもに育てたい、そのためにこ んな先生でありたい。そんな教員一人一人の思いを寄 せ集め、子どもたちの実態や地域の実情を踏まえて議
論を重ね、最終的にまとめられたものが学校目標であ る。言葉は短く抽象的であっても、教員一人一人の思 いが込められている。それが学校目標の持つ価値であ り、こうした議論を経ない学校目標は力を持たない。
教員が学校運営への参画意識を持てるかどうかの基 本はここにある。議論を通して互いの教育観や子ども の認識の仕方も理解できる。そして何よりもこうした 議論を通して、教員自身が自らの指導を学校の進もう とする方向との関わりの中で体系的に説明できる力と 自信を身に付けられることになる。
学校が日々生起する問題に対する対処を優先せざる を得ず、教員は学校全体が向かおうとする方向が見え ないまま焦燥感を抱いているという話や、職員室でも 同僚同士が話をする機会がめっきり減ったなどという 話を聞くにつれ、効率性に終始せず、プロセスを大切 にする研修を適宜実施することが必要だと思う。それ が教育活動に丁寧さと生気を与えることになる。
また、こうしたプロセスを保護者や地域社会に、或 いはもっと広くホームページ等で広報することが学校 に対する理解をより一層深めることになる。今、多く の学校では、目指す学校像や子ども像、教師像を示し ているがそれは議論の行き着いたところであり、折に 触れ、そこに至ったプロセス、そしてその進捗状況な どについて、具体的に子どもたちの活動する姿や教員 の取組を紹介しながら発信することにより、保護者や 地域社会の安心感や信頼感が増すだろう。
広報の手段にも工夫が要る。紙ベースではその頻度 や届く範囲も限定的である。これも大切にしながら、
ホームページなどを積極的に活用する時代になってい る。今、情報はウェッブと口コミが相乗しながら広がっ ている。広報については、提供する情報の量や内容の 深浅、適宜性、提供範囲などを多面的に考え、その時々 にどの媒体を使うかなどを戦略的に考える役割を担う 部署を、校務分掌組織に明確に位置づけることが必要 になっている。
3.2.意思形成のスピード化
校務分掌組織は、基本的にどの学校においても校長 をトップにそれを補佐する教頭、その下に運営(企画)
委員会、職員会議、次に各部、各係があり、これが一 つの系統となっている。学年主任や学級担任は別のも う一つの系統となっていて、多くの教員は学級担任を しながら、部や係の分掌を担当するという形を取って いる。これらに加えて、重点テーマの研究等を行う委 員会が別に置かれ、担任や部、係とは別に、これらの 枠組みを超えたメンバーで構成されているということ が一般的である。
普通、学校の意思形成に関わっては、運営(企画)
委員会が全校的な見地から各分掌の意見の調整を行っ たり、長期的な展望を持って構想を立てる重要な役割
を担っているが、規模が10名程度と比較的多いことや 主に各分掌の代表者で構成され、その立場から脱却で きないといったことなどのために、期待される役割を 果たせず、単なる職員会議の事前の調整会議のような ものに陥ってしまっているという場合が往々にして見 られるようになっている。
取り組まねばならない課題が多く、しかもスピード 感を持った対応が求められる現在、それに適合する組 織の在り方を考える必要性が生まれてきている。その ために現状の組織を活性化する手だてとして、校長の リーダーシップの下に真に大局的な観点から情報の収 集を行い、他の教員等とのコミュニケーションを図り ながら将来の学校像の検討を行い、学校としての総意 をまとめていく少人数の言わば戦略チームをつくり、
そこからの企画案をベースに、各分掌を動かすことが 現状を打破する有効な方策の一つになりうると考える。
その際、これについては、一部の教員による独断的 な学校運営と受け止められないよう十分な配慮が必要 である。その任に当たった教員については、日頃から 他の教員とのコミュニケーションを大切にし、それぞ れの教員と学校運営に関する思いを日常の会話の中で 交わしたり、斬新な情報を提供したりすることなどに よって、望ましい方向に向け共に変わっていこうとす る雰囲気を醸成し、改革に向けてのスムーズで適切な 意思形成を図っていくことが大切である。
3.3.手づくりの研修で組織を活性化
教員の閉鎖性やそのために生まれる学校組織の特質 が学校教育の停滞を生んできた。その変革のために意 識改革の必要性がよく言われるが、言葉で意識改革を 叫ぶだけで組織は動かないし変わらない。
要はまず、組織を動かすために学校内部のオープン 化を図ることであり、そのための機会や場を設けるこ とである。言わば、形から入り、中身を整えるという ことである。
そのために、例えば、多くの教員が様々な目で捉え た子どもたち一人一人の姿を集約し、一人の子どもの 全体像として共有するために生徒指導会議を開催する ことや、中・高等学校であればそれに加えて例えば指導 困難な学級の教科担当者の集まりを持ってみること、
また、学校カウンセラーと学年会との連絡会を実施す ることなどが考えられる。
要は、教員間のコミュニケーションの流れを良くす るような仕掛けを行うことがねらいである。
学習指導に関してなら、教科ごとのスキルの交換会 を希望グループごとに随時開催したり、月に1度は授 業を公開し合うなどの申し合わせをつくるなど、積極 的な教員の交流が生まれる機会や場を設定することで ある。
教員にとって知りたいこと、求めることの答えは、
学校の外ではなくむしろ中にある。同僚は優れた教師 であり、カウンセラーでもあるのだ。的を得た校内研 修はこうした発見の扉を開き、コミュニケーションの 楽しさを教えてくれる。
したがって校務分掌における研修担当組織は、大上 段にテーマを振りかざすのではなく、日常のコミュニ ケーションの中から教員のニーズをさりげなく把握し、
はっきりとした具体的なテーマに絞った研修を実施す ることによって、みんなの迷っている事柄の解決に向 けての道筋をつける、或いは、そこまで至らなくても 問題や悩みを共有できる雰囲気をつくっていく、そん な役割を目指すべきであり、そのような研修が行われ ている学校は元気である。
3.4.校務分掌組織の重点化
子どもの数が多かった時代には教員の配置も多く、
新しい課題が見つかればそれに対応する分掌を作り、
校務を細分化しながら教員を振り分けていくことが可 能であった。現在、子どもの数がいわゆる団塊ジュニ ア世代の6割程度になっているにもかかわらず、ほと んどの学校では基本的に組織編制が変わっていない。
多くの分掌があって、協働の名の下にそれぞれの分掌 に複数の教員が重なり合って割り当てられているが、
当事者意識が薄れ効果も上がらないと同時に、こうし た環境が教員の負担感を高め、疲労感を深めている。
学校の規模にかかわらずカバーしなければならない 業務があるということはあるが、校務分掌組織が教育 目標を効率的に実現するために編制されるものである という本旨からすれば、校務の優先順位を決め、分掌 の統合を行うことにより、教員一人一人の分担数を減 らし、能力や適性、専門性を生かせる環境をつくるこ とが必要である。
法令上、校務分掌は、学校教育法施行規則第22条の 2に「小学校においては、調和の取れた学校運営が行 われるためにふさわしい校務分掌の仕組みを整えるも のとする。」とあるだけで、関連することでは学校教 育法第28条に校長をはじめ小学校の「職員」とそれぞ れの職務内容の大枠が示されていること(中学校、高 等学校については、第40条、第51条に準用規定)、同法 施行規則22条の3,4,5,6で、小学校における教務主 任、学年主任など連絡調整及び指導、助言を行う主任 等の設置と職務についての大枠が示されていること
(中学校、高等学校については、第55条、第65条に準 用規定があることなど)を除き、その他特別の定めは ない。2)
また、実際の組織編制に当たっては、地方教育行政 の組織及び運営に関する法律第23条第5号で教育委員 会の職務権限として学校の組織編制に関することが挙 げられているが、校務についての細部にわたる内容や それを分担する組織に関する具体の部分は、当事者で
ある学校に委ねられている。しかも近年、特色ある学 校づくりが叫ばれ、学校の裁量権の拡大が行われてい るのである。学校は横並びの発想から脱却し、思い 切って実情に応じた校務分掌組織を編制すべきである。
3.5.校務への認識と理解の深化
かつて教員にとって本来の仕事は教育活動で、その 他の校務は雑務だとする考え方が根強く、今も一部に はそうした意識が潜在的に存在する。しかしながら、
近年、学校の自主性・自立性を確立し、自らの判断で 学校づくりに取り組むことができるよう学校の裁量権 が拡大されてきていること、また、家庭の教育力の低 下から派生する様々の問題に学校が無関係ではいられ ないこと、さらに学校内外で子どもたちの安全確保に 配慮しなければならないことなど学校を取り巻く環境 が大きく変化するに伴い、校務や教育活動の持つ意味 も変化し、狭量な感覚では責任を果たせなくなってい る。
学校は限られた人的、物的資源の中で様々な課題に どう対応していくのか、何が足りなくて、どこに支援 を依頼し、連携を求めていくのか、そのためには校務 をどう捉え、分掌組織はどうあるべきかを常に検討し ながら学校運営を進めなければならない必要に迫られ ている。
こうした状況の中で、校務についての的確な理解と 円滑な遂行を図る手だてとして、各学校が子どもたち や地域の実態を踏まえて、それぞれの分掌の内容(目的、
目標、範囲等)や執行の手順・留意点を明らかにした 校務分掌規程を作成することが必要である。地域に よって差はあるが、現在、小・中学校においては校務 分掌の組織表はあっても、その運営などについての校 務分掌規程がなく、教育委員会の管理運営規則を運営 の拠り所にしている学校は非常に多い。
学校の実態により、各分掌に持たせる機能や役割は 異なるはずで、規程を作成したり、見直したりするこ とにより、各分掌の内容(目的、目標、範囲等)や執行 の手順・留意点が明らかになるとともに、子どもたち の教育に欠かせないものでありながら限られた学校の 内部資源では手の回らないことへの手だてをどうする かもその過程で議論することになる。こうしたプロセ スを経ることによって、校務分掌に対する理解が深ま るとともに、責任に対する自覚も生まれるだろう。校 務には便宜上の分類はあっても、教員がかかわらなく てもよいものがあるなどという考え方はなくなるはず である。
また、校務分掌組織表については、単なる学校の内 部情報として作成するだけではなく、教育活動を推進 する組織の役割と責任を示す情報として、外部に対し ても明らかにすべきである。その際、現状の「教務部」、
「生徒指導部」、「保健衛生部」など内部の役割分担的
な表し方ではなく、「学力をつける」、「いじめをなくす」、
「安全を守る」、「仲間づくりをすすめる」、「たくまし い身体をつくる」など子どもたちや保護者の視点から、
具体的に教育活動をはじめとする学校の取組が理解し やすいような形で示せるよう簡潔に整理することも大 切にすべきである。そのことが、外部からの学校組織 理解に役立つとともに、教職員自身の校務に対する認 識をも深め、雑務意識を払拭する手だての一つになる と思われる。
3.6.抽象から具体の取組への進化
「知の大競争時代」と言われてすでに久しい。グロー バル化の進展に伴い生き残りにかける競争が激しく、
模倣から独創への転換が求められる中、子どもたちの 多様な能力・適性、興味・関心等、一人一人の特性等 に応じることができるよう個に応じた指導の充実を図 ることが今最も重要な課題となっている。
そのために、子どもたちを一つの尺度ではなく、多 元的・多様な尺度で見、一人一人のよさや可能性を見 いだし、それを伸ばすという視点に立った教育が叫ば れ、少人数授業や習熟度別授業の導入、高校では選択 科目の充実などが進められるようになっている。学習 指導においても生徒指導においても、今後、こうした 個に応じた取組がさらに広がっていくことが大切であ る。そのためにはより一層充実した教員配置が求めら れるが、現時点においても学校に加配という形で配置 された教員をこうした発想で活用しようとする姿勢が 必要で、単に教員の負担を一律に軽減するための方途 として捉えられるべきではない。学校として指導の重 点を何処に置くのか、組織の編制にそのことが明らか になる工夫が必要である。
また、あまりにも形式的でかたくなな平等主義や画 一的な教育に子どもたちも保護者もすでに欺瞞を感じ ている。教育活動を進めていくうえで、子どもたち一 人一人の多様な能力や適性、興味・関心を伸ばすため には何が必要なのか、それぞれの学校で、子どもたち や地域の実態を踏まえて、原則論ではなく、具体的な 教育の方法論について、もっとつっこんだ議論が行わ れ、多様な教育方法が取り入れられるような柔軟な組 織づくりが求められている。
3.7.校務分掌組織の的確な評価
学校運営の改善を図るためには様々なアプローチの 仕方があるが、本論では校務分掌組織の在り方や教員 の意識・行動のありようを分析し、改善の工夫や手だ てを考える道筋を辿ってきた。その理由はすでに少し 触れたが、校長のリーダーシップもさることながら、
基本的には学校にかかわるすべての教職員の、それぞ れの学校の教育目標(組織目的)についての共通認識 と、協働意志(貢献意欲)、そして相互のコミュニケー
ションといういわゆる組織の三要素がうまく絡み合い ながら円滑に循環していることが第一義的に大切だと 思うからである。
そして、こうした循環を円滑に保つためには、教育 活動の実施主体としての校務分掌組織の在り方とその 運営についても適切な評価を行うことが欠かせない。文 部科学省の「義務教育諸学校における学校評価ガイド ライン」においても、自己評価、外部評価が、ともに 学校運営の改善に資するためのものであり、PDCA サイクルに基づき継続的に学校改善を進めていく必要 性を明示している。5)
そのことを踏まえ、校務分掌組織とその運営につい ての評価に関わる観点について述べたい。
校務分掌組織の評価に当たっては、まず、教育内容 や具体的な教育活動との関わりという観点から、
① 教育目標を達成するという視点で説明できる組 織となっているか
② 教科、領域、総合的な学習など教育課程の円滑 な実施を促進する組織となっているか
ということがある。
次に、組織の運営という観点からは、
① 各分掌の基本目的とそれに照らして所掌範囲が 明らかであるか
② 各分掌に配置される教職員の構成が適切で、
リーダーシップが明らかであるか
③ 各分掌の連携体制がどの教職員にも明らかに なっているか
④ 不必要な分掌の細分化が行われていないか ⑤ 危機管理の視点が明確か
⑥ 子どもたちとの関係性を自律的に振り返ること ができるものとなっているか
ということが欠かせない点である。
また、人事的な観点からは、
① 個々の教職員の希望や専門性が生かされている か
② 個々の教職員のキャリアの中での位置づけがさ れているか
③ 仕事量の上で公平性が保たれているか
④ 教職員の人間関係を生かせるものとなっている か
ということがある。人事管理的には、教員の希望や専 門性を生かすことと、キャリアを通じて教職の多様な 能力を身に付けるために様々な分掌を担当することと の整合を図ることには難しい点もあるが、客観的に見 てそのバランスがどう図られているかということは、
評価の大切なポイントになるだろう。
学校運営が円滑に行われ、教育効果が上がるために は、教職員が積極的な参画意識を持てるような校務分 掌組織が必要であり、そのためにも学校全体で、まず 個々の教職員が上述の視点から評価を行い、次にすべ
ての教職員の評価をまとめて客観的な分析を行うこと が必要である。
その分析の過程においては、個々の教員の意見を改 めて聞くことが大切であるが、最終的には、校長が責 任をもって学校としての自己評価としてまとめること は当然である。
また、学校の組織編制にかかわっては、教育委員会 の所掌でもあることから、教育委員会から専門的な見 地に立った評価を受けることも、今後の学校の特色づ くりや人事を考えていく上で重要な事柄である。
いずれにしても、こうした観点からの評価が適切に 行われることによって、校務分掌組織が効果的に機能 しているかという検証が行われ、改善へのステップに なる。当然ながらこれはまた校務分掌組織の編制に当 たっての基本的な原則にもなるのである。
4.おわりに
最初にも述べたように、学校は、現状として、いじ めや不登校への対応、基本的な生活習慣に関わる指導 事項の増加、価値観の多様化による指導の困難性など 様々な教育課題を抱えている。それに加えて、大量採 用時期に採用された教員の高齢化に伴い、組織の年齢 構成のいびつさやその結果としての同僚性の喪失など、
組織が自律的に活性化するための条件にも問題を抱え ている場合もある。しかし、こうした状況は当面変わ ることはなく、それを解消する特効薬が見つかるわけ でもない。
このような状況においては、学校は、組織としての 主体性をもって、教育活動を活性化させるために与え られた資源を最大限に活用することが必要となる。そ れが内部的には、与えられている人的・物的資源の活 用であり、そのことがすなわち校務分掌組織の編制と 運営を如何に改善するかということになる。また、学 校で出来ないことについては地域の人材や地域の教材、
関係機関や団体など外部資源の力を借りる仕組みを作 るということになる。
このように考えてみると、校務分掌組織の在り方と その改善という学校における極めて内部的な事柄が、
実は開かれた学校づくりそのものを意味するのであり、
学校の特質としての閉鎖性を打ち破り、活性化を図る 契機となるのである。
社会の変化に的確に対応し、子どもたちや保護者、
地域のニーズに応えていくためにも、学校には、組織 として、共通目的と協働意志、コミュニケーションが 自律的に調和を保ち、スパイラル的な循環の中で進化 し続けるような組織づくりと運営が求められている。各 学校においては、今後も適切な校務分掌組織の編制と その運用に向けた取組が継続的に行われることが望ま れる。
【参考文献】
1)中央教育審議会(答申) 2004『今後の学校の管理 運営の在り方について』
2)文部科学省 2007『学校評価及び情報提供の実施 状況(平成17年度間 調査結果)』
3)永岡順、小林一也(編) 1998『校務分掌』ぎょう せい pp.12-16
4)中央教育審議会(答申) 1998『今後の地方教育行 政の在り方について』
5)文部科学省 2006『義務教育諸学校における学校 評価ガイドライン』
6)天笠茂 2006『学校経営の戦略と手法』ぎょうせ い
7)木岡一明 2003『新しい学校評価と組織マネジメ ント』第一法規
8)日本学校教育学会(編) 2002『学校教育研究』日 本学校教育学会
9)岩城信一(編) 1991『新教員研修読本』教育開発 研究所