修士論文要旨 (2007 年度 )
リーマン正規座標系を用いた色空間の均等化と色再現方式への応用 Construction of Uniform Color Spaces Using Geodesic Grids and
Application to Color Reproduction.
情報工学専攻 中村竜也 Tatsuya Nakamura
1 はじめに
半導体技術や画像処理技術,通信技術そして精密加 工技術の進歩により,画像関連デバイスは近年著しく 進化している. デジタルカメラや,ディスプレイ,プリ ンタなどでは,色再現域の拡大,通信機能の搭載,モバ イル化など, 高画質化だけでなく, ユーザーの利用環 境に合わせた多機能化、複合化が加速しており、扱う 色情報はさまざまな機器間でのやり取りのニーズが生 まれている.
異なる機器間での情報のやり取りでは,個々のデバ イスにおいてそれぞれ固有の色再現域や色再現特性を 持つことが知られており,そのため同じ画像データを 扱っても,デバイスが異なれば出力される色の見えも 大きく異なるという問題が起こる. そこで、共通の標 準色空間を設定し、各デバイスの色再現特性に基づい て色情報のやり取りを統一的に行うことで,異なるデ バイス間における色の差異を最小化することが出来る.
この標準色空間は、普通人の色知覚特性を反映した 色空間、つまり主観色差が色ベクトルの距離に等しい 空間を使われており、均等色空間と呼ばれている. し かし,均等化色空間の構築は難しく、現在知られている 均等化色空間は近似的なものが多い. また、均等色空 間に基づくデバイスの色再現特性に関しても、現在主 に使われているデバイスプロファイルでは、単調関数 による線形近似を用いてることが知られている. 従っ て、カラーマネージメントに使われるこれらの均等色 空間に基づいた色変換と処理方法は、高精細化が求め られる画像メディア処理においてその精度は不十分で ある.
そこで,本研究では、まず色空間のリーマン空間と しての幾何学特性に着目し, 色弁別閾値楕円によって 表される局所計量に基づき、測地線座標系を構成する ことで,均等色空間の構築法を示す. さらに,デバイス における色再現特性の構築法に本手法を適用し、より 厳密な色再現特性の構築法を示す.
2 均等色空間
均等色空間とは,空間中の色ベクトル間の距離によっ て表される色差が,知覚的な色差と等しくなるように 作成した空間であり、UCS(uniform color space)とも 呼ばれる. 均等色空間は,色再現において非常に重要で あるため今まで多くの方式が提案されてきた.
CIE(国
際照明委員会)はこれらを整理統合して,現在では次のL
∗a
∗b
∗(CIELAB)
均等色空間とL
∗u
∗v
∗(CIELUV)
均 等色空間を勧告している.CIELUV均等色空間では(1)
式,CIELAB均等色空間では(2)
式で示す三次元直交座標を用いる.ただし,明度に対応する
L
∗は両 色空間で同一のものが用いられる.L
∗= 116 ( Y
Y
n)
13− 16
u
∗= 13L
∗(u
0− u
0n) (1) v
∗= 13L
∗(v
0− v
0n)
a
∗= 500 {( X
X
n)
13− ( Y
Y
n)
13}
b
∗= 200 {( Y
Y
n)
13− ( Z
Z
n)
13}
(2)
ここで
u
0, v
0 はCIE 1976 UCS
色度図で定められ た色度座標,X, Y , Z
は対象とする物体の三刺激 値,X
n, Y
n, Z
n は完全拡散反射面の三刺激値であり,Y
n= 100
と規格化されている.また,CIELAB色空間,CIELUV色空間における
2
つの 物体色間の色差∆E
ab,∆E
abはそれぞれ次式で与えら れる.∆E
ab= √
(∆L
∗)
2+ (∆a
∗)
2+ (∆b
∗)
2(3)
∆E
uv= √
(∆L
∗)
2+ (∆u
∗)
2+ (∆v
∗)
2(4)
ただし∆L
∗= L
∗1− L
∗2(5)
∆a
∗= a
∗1− a
∗2, ∆b
∗= b
∗1− b
∗2(6)
∆u
∗= u
∗1− u
∗2, ∆v
∗= v
∗1− v
∗2(7)
である.前記の
2
種の色空間のほかに日本工業規格(JIS)
で は,アダムス-ニッカーソン(Adams-Nickernson)
色空 間とハンター(Hunter)
色空間も色差を求めるために, 参考として定めている.また,染料業界では広く使わ れ,英国BS 6923
に採用されたCM C(l : c)
色差式も,JIS
では参考として定められている.このように,い くつもの均等色空間が提案されていることは,いまだ 完全な均等性が実現されていないことの反映である.実際,CIEで勧告している
CIELAB
色空間とCIELUV
色空間はかなりの不均等性を残している.図
1: CIELUV
におけるMacAdam
楕円図
2: CIELAB
におけるMacAdam
楕円図
3: CIELUV
における等 彩度線図
4: CIELAB
における等 彩度線3 局所均等性と大域均等性
均等性には局所的均等性と大域的均等性の
2
種類が 考えられる.局所的均等性とは色空間中の微小距離と 知覚的な色差が等しくなることで,局所的均等色空間では
MacAdam
の楕円などの弁別楕円が全て真円となる空間になる.図
1,図 2
がそれぞれCIELUV
均等 色空間,CIELAB均等色空間におけるMacAdam
楕 円である.図1
のCIELUV
均等色空間の方が楕円が 円に近く,局所均等性に優れていると言える.大域的均等性とは色空間中比較的遠く離れた二点間 の距離と知覚的な色差が等しくなることで,大域的均 等色空間では等彩度線が同心円となる.図
3,図 4
が それぞれCIELUV
均等色空間,CIELAB均等色空間 におけるマンセル表色系の等彩度線である.図4
のCIELAB
均等色空間の方が等彩度線が同心円に近く,大域均等性に優れていると言える.現在知られている
UCS
は近似な物が多く,大域的かつ局所的に均等化さ れた色空間の構築には至っていない.4 均等色空間と色再現
仮に均等色空間を構築することができれば, デバイ スに依存しない色再現方式は,図
5
のように実現可能 となる.デバイス1の色空間を
C
1,
デバイス2
の色空間をC
2,
均等色空間をU
とすると,デバイス1のプロファ イルを写像p
1: C
1−→ U ,
デバイス2
のプロファイ ルを写像p
2: C
2−→ U
とすると, デバイス1
からデ バイス2
への色再現写像はf : C
1−→ C
2c
17−→ c
2= f (c
1) = p
−21◦ p
1(c
1) (8)
として実現できる.従って,ここでは,任意の色空間
C
iからU
への写像 の構成が重要である. 以下では, この写像を均等化写 像という. 均等化写像はプロファイル写像に等しいが, 厳密に求めることが難しく,現在使用されているプロファイル写像は,たとえば三つの単調関数のテンソル 積で表すなど,近似的なものがほとんどである.
図
5:
色再現方式5 均等色空間の構築方法
本研究では色空間のリーマン空間における局所均等 性と大域均等性の同一性
[4]
を利用し,局所的に均等化 を行い,局所的かつ大域的に均等な色空間を構築する.前述のように,均等色空間の構築が困難である要因 は,均等化写像の構成にある. 実際に,ある点の近傍に おける局所的均等化は簡単であるが,各点の近傍同士 における均等化の結果を,大域的に統合することは難 しい. 具体的には,均等化写像の局所線形近似を簡単 にまとめることができるが,大域的に各色ベクトルの 均等化空間における像を推定する有効な方法が知られ ていない. そこで,リーマン空間において局所情報で あるリーマン計量より,大域的な測地線が一意的に定 まることを利用して,リーマン正規座標系を構築する ことで,均等化写像を推定する方法を用いる. 具体的 に,局所情報である
MacAdam
楕円を単位円に修正す るようなリーマン計量を求め,それをもとに測地線を 算出し大域的に均等な色空間を構築する.それによっ て局所的かつ大域的に均等な色空間を構築することが できる.しかし,リーマン空間上では色差などの計算が煩雑 で,感覚的にもわかりにくい.そこで均等色空間はユー クリッド空間と微分同型である事を利用して,測地線 を直線に移るよう写像
f
を求めることで,リーマン空 間からユークリッド空間への写像を求めることが可能 である.またその写像を用いてMacAdam
楕円を変 換することで本手法の有効性を検証することも可能で ある.6 色空間の幾何学
二点
(u
1, u
2)
および(u
1+ du
1, u
2+ du
2)
間の距離ds
の平方がリーマン計量G(u)
を用いてds
2= du
TG(u)du (9)
= g
11du
1du
1+ 2g
12du
1du
2+ g
22du
2du
2で与えられるような空間をリーマン空間といい,色空 間はリーマン空間であるといえる.
ここでリーマン計量
G
は,以下のように定義され る. 例えば, MacAdam楕円より以下の式によって求 められる.G =
( g
11g
12g
21g
22)
g
11= b
2cos
2θ + a
2sin
2θ a
2b
2g
12= g
21= − 2 sin θ cos θ(a
2− b
2) a
2b
2g
22= b
2sin
2θ + a
2cos
2θ a
2b
2ただし,
a,b,θ
はそれぞれ弁別楕円の長軸,短軸,傾 きである.7 測地線
リーマン空間中にある二点を結ぶ曲線
x
i(t)
が長さ の極小値を与える曲線であるとき, つまり二点間の最 短距離であるとき,このような曲線をリーマン空間の 測地線と呼ぶ. ユークリッド空間では測地線が直線と なる.リーマン空間中にある曲線
x
i(t)
が測地線であるた めには,関数x
i(t)
は以下の式を満たす必要がある.d
2x
ids + Γ
ijkdx
jds
dx
kds = 0 (10)
となる. 記号
Γ
ijkはクリストッフェルの記号(Christof- fel symbol)
といい,Γ
ijk= 1 2 g
iα( ∂g
αj∂x
k+ ∂g
αk∂x
j− ∂g
jk∂x
α)
(11)
である. 測地線は弁別閾値楕円より求められたリーマ ン計量によって決定される.8 CIELUV 色空 間 に お け る リ ー マ ン 正 規座標系の構築
CIELUV
色空間上の任意の点でリーマン計量G
を求めるため,25点の
MacAdam
楕円のデータの補間 を行い,リーマン計量G
を算出し測地線を求めた.図6
が均等色空間のリーマン正規座標系を表している.測地線の始発点は標準光源
D65(0,0)を採用した.
-300 -250 -200 -150 -100 -50 0 50 100
-150 -100 -50 0 50 100 150 200 250 300
v*
u*
図
6: CIELUV
色空間におけるリーマン正規座標系9 均等化写像推定
均等色空間はユークリッド空間と微分同型であるこ とが知られている.そのことから,図
7
のように測地 座標の測地線が直線に,すべての等距離線が同心円に なるような写像を求めることで完全な均等色空間への 均等化写像が求められる.測地座標の格子座標を用い て,均等化写像を最小2
乗法を用いて算出した.図
8
では均等化写像によってMacAdam
楕円は単位円 に変換されることが確認され,本手法の有効性が検証 された.f
図
7:
リーマン空間からユークリッド空間への座標変換図
8: CIELUV
色空間におけるMaAdam
楕円の均 等化10 色再現特性構築への応用
色再現特性の構築には先に述べたとおり、デバイス ごとの色空間から均等色空間への写像
(デバイスプロ
ファイル)が重要である. そこで、色空間の均等化と 同様の手法を用い、各デバイスの色空間におけるリー マン正規座標系を求め、均等色空間との写像(デバイ
スプロファイル)を求めることにより、より厳密な色 再現特性を構築することができる.リーマン計量
色再現において、各デバイスごとの色弁別楕円を測 定することは困難である. そこで、下記のようなリー マン幾何の特性を用いてリーマン計量を推定する.
リーマン空間での点
y
とユークリッド空間での点x
の間においてy = f (x)
という関係が成り立つとき、yの近傍での微小距離は 写像
f
のヤコビアンDf
を用いてdy
2= dx
TDf
TDf dx (12)
で与えられる.
したがって式
(9)
と式(12)
により、リーマン計量は 以下のように定められる.G = (Df )
TDf (13)
11 リーマン正規座標系の構築
本研究では、色再現に用いるデバイスを分光分布測 定の簡便さの観点より、異なるメーカーのインクジェッ トプリンタ
2
種、EPSON製PM-970C、CANON
製MP790
を対象として用いた.使用したプリンタそれぞれにおける
CIELAB
色空 間上でのリーマン正規座標系を図9,10
に示す.図
9: PM970C
のCIELAB
色空間におけるリーマン正 規座標系図
10: MP790
のCIELAB
色空間におけるリーマン正 規座標系12 評価
構築したリーマン正規座標系を用いて式
(8)
より, 色再現写像を構築し,図11
に対し色変換を行うことに よって, 異なるプリンタ間の色再現を行った. 変換後 のカラーターゲットをプリンタで出力し,測色するこ とで, 再現性の向上が確認できた.図
11:
評価に用いたカラーターゲット図
12: PM970C
とMP790
による出力画像の比較図
13: PM970C
におけるMP790
の色再現結果図
14: CIELAB
色空間におけるMP790
とPM970C
の色再現前および色再現後の比較13 結論
本研究では,リーマン空間における局所等長と大域 等長の同一性に着目し,リーマン正規座標系を導入す ることで, CIELUV色空間における均等色空間の構築 および異なるプリンタ間の色再現特性の構築を行った.
まず, CIELUV色空間における均等色空間の構築につ いては, リーマン正規座標系を用いて均等化写像を導 出し, MacAdam楕円に適用することで, 楕円を単位 円に修正し,本手法によって求めた均等化写像による 均等色空間の大域均等化および局所均等化の効果を確 認することができた. また,色再現特性の構築につい ては,測色データを基にリーマン正規座標系を構築す ることで,均等色空間への各デバイスごとの均等化写 像を導出した. さらに, 式