うたの色々 : 翻訳は詩歌の詩化または死化?
著者 クランストン エドウィン A.
会議概要(会議名, 開催地, 会期, 主催 者等)
会議名: 日文研フォーラム, 開催地: 国際交流基金 京都支部, 会期: 1999年3月16日, 主催者: 国際日 本文化研究センター
ページ 1‑61
発行年 2000‑03‑01 その他の言語のタイ
トル
What's the translator doing to our poems?
シリーズ 日文研フォーラム ; 116
URL http://doi.org/10.15055/00005694
第116回 日 文 研 フ ォ ー ラ ム
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うたの色々:翻 訳 は詩歌の詩化または死化?
What'stheTranslatorDoingtoOurPoems?
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エ ド ウ ィ ンA .ク ラ ン ス ト ン EdwinAugustusCRANSTON
国 際 日本 文 化 研 究 セ ン タ ー
日文研フォーラムは︑国際日本文化研究センターの創設にあたり︑
一九八七年に開設された事業の一つであります︒その主な目的は海外
の日本研究者と日本の研究者との交流を促進することにあります︒
研究という人間の営みは︑フォーマルな活動のみで成り立っている
わけではなく︑たまたま顔を出した会や︑お茶を飲みながらの議論や
情報交換などが貴重な契機になることがしばしばあります︒このフォー
ラムはそのような契機を生み出すことを願い︑様々な研究者が自由な
テーマで話が出来るように︑文字どおりインフォーマルな﹁広場﹂を
提供しようとするものです︒
このフォーラムの報告書の公刊を機として︑皆様の日文研フォーラ
ムへのご理解が深まりますことを祈念いたしております︒
国際日本文化研究センター
所長河合隼雄
● テ ー マ ●
うたの色々:翻 訳は詩歌の詩化または死化?
What'stheTranslatorDoingtoOurPoems?
● 発 表 者 ●
エ ド ウ ィ ンA.ク ラ ン ス ト ン EdwinAugustusCRANSTON
ハ ー バ ー ド大 学 教 授 Professor,HarvardUniversity 国 際 日 本 文 化 研 究 セ ン タ ー 客 員 教 授 VisitingProfessor,Int「1ResearchCenterforJapaneseStudies
1999年3月!6日(火)
発表者紹介
エ ド ウ ィ ンA.ク ラ ン ス ト ン
EdwinAugustusCRANSTON
ハ ー バ ー ド大 学 教 授 ProfessorofJapaneseLiterature,HarvardUniversity
国 際 日 本 文 化 研 究 セ ン タ ー 客 員 教 授1998‑99 VisitingProfessor,Int'1ResearchCenterforJapaneseStudies
1954年 1963年 1966年
1965年 1972年
ア リ ゾナ 大学 卒 業(英 文学)
ス タ ン フ ォー ド大 学 大 学 院修 士 号 取 得(日 本 文 学)
ス タ ン フ ォ ー ド大 学 大 学 院 博 士 号 取 得(日 本 文 学 学 位 論 文
「和 泉 式 部 日記:研 究 と翻訳 」) ハ ー バ ー ド大 学 で就 職 ハ ー バ ー ド大 学 日本 文 学教 授
主 な 著 書 ・翻 訳 ・等:
・7偽 ε1加 ηL̀、Sん漉̀わ 肱D̀αryJ/1丑oηzα πcθqμ んε11θ̀侃 σoμr古 .HarvardUni‑
versityPress,1969,
・1翫 θ σ0μrの 野 α齔̀0ὴπ 」⑳ απθSεル 古 απ4L琵 θ臨 μrθ」8θZθC古̀0π8〃0肌 古んθ 王1b⑫ 侃4砺4θCoZZθc亡̀oπ8(withJohnM.RosenfieldandFumiko
E.Cranston),FoggArtMuseum,HarvardUniversity,1973.
・ ノ1「肱 んαA祕 んoZo8y
,「lzbZωmθ0π θ'既 θGθm厂GZ̀s亡 θπ̀η80砺p,Stanford UniversityPress,1993.AwardedtheUS.一JapanFriendshipTranslation
PrizeandtheArisawaPrize.
・ ℃armine‑Purple:ATranslationofEnji‑Murasaki
,lTheFirstNinety‑
EightPoemsofYosanoAkiko'sM諷 αrβgα7ὴ,"Jbμ アπαZqμ んθ.Assoc̀α 古ゴoπ q/7セ αcんθrs(ゾ 」 己pαπθsθ,25.1(199!)
・"HanselandGretel'sIsland:FiveProsePoemsbyMizunoRuriko
,量' 野̀qπ αr孟θ7・Z二y,fall1994.
♂'Shinkei's1467DokuginHyakuin
,TranslatedwithCommentary,"H己r一 ひαア4Jbz乙rπ αZ(:ゾAs̀α 古̀cS古 μd̀θs,54.2(1994).
どうして︑僕のような充分に生まれつきの言語的才能に恵まれていない人が︑
外国の言葉の勉強に一生を費やさなければならなかったのでしょうかと時々︑い
や︑しょっちゅう︑自分に問うのです︒もっと楽な︑満足感のある生き方もあっ
た筈です︒無駄な勉強で︑目を悪くするだけです︒
変な言い訳ですが︑次のようなうたに出合うためだったでしょうか︒
囚囚幻qH⁝①ハ﹀昌O昌●
GQ臣﹁餌蜜pヨp三
勾二憎=のげマ9D蜜⊆匹昌o
}(ONOロO=①昌一
内Oひ○のげ一bρOけω二︻口O﹁=
囚O一b日Oω⊆憎⊆閃鋤昌P
静かに降る雪のように︑うたが僕のどこかに降って来て積もる︒そして︑同じ
どこかから静かにひとながれの言葉が流れ出ます︒
○<O憎けずO≦ず詳㊦﹃=δ
弓ず①≦三ひ①の50≦審=9p昌αα①①娼①昌P
弓三ω図$﹁o昌昏①図①9︒﹁
Q8①ξ昏①冨碧①αと三・づσq冒αq
9讐εぎの目冤&蠶αげ①p・賽
本当に変な言い訳ですね︒
若かりし頃・よく屋根の上に登って︑夕やけ︑月の出︑星空を眺めました︒た
しかに︑長い々々眺めでした︒何かことばに出しにくいことを感じていたことも
たしかです︒しかし︑詩人にも︑翻訳者にもなろうとは思いませんでした︒あの
ころ︑特に中学の頃︑むしろ考古学者か古生物学者になりたかったのです︒高校
に進んで︑直ぐ科学のむずかしさを覚えて︑あきらめてしまいました︒でも︑そ
れは別の話です︒
その時期に︑二番目の兄からの影響が強くなり︑文学や外国語に興味が湧き︑
僕も兄の勉強振りを真似しようとし始あました︒碌には出来ませんでしたが︑そ
の結果︑詩歌と翻訳の世界に引かれて︑しまいました︒
兄が大学に進んで︑一年生の時︑パーシ博士の古代ローマ文学のクラスの学期
末試験の答案(いわゆるブルーブック)を出す前︑なにげなしにその裏にヲエ
ネーイス﹂のある所①の自分が作った次の英訳を付け加えました︒
一2一
Topas lifts the golden lyre
And strikes as Atlas taught to play;
He sings the moon's far wandering fire And toiling suns eclipsed by day.
The echoes of the trembling strings Repeat the mystery of man,
And whence the myriad living things And from what sire all life began;
I
CrD
Whence are the lightnings, whence the rain, Arcturus and the Hyades,
The storms that burst upon the main And hasten o'er the sullen seas;
Inquiring why the winter sun
ぎoo$冨bご昌σq①ω守oヨ詳の臣σq算
ud①ho同①夢①α鋤民g︒h三=①昌σq誓δ傷o⇒ρ
○﹁芝ず畧傷①冨遂昏o=5αq霞ぎσq巳σqげけ.
ジェスチャーとして︑非常に凝っていると︑僕は感心しました︒勿論︑バージ
ルの原文が韻を踏んでいませんし︑韻律的に全く別のものです︒実.は︑兄はこれ
を﹁訳﹂として考えていないようです︒﹁﹀ユ9︒営9葺05﹂(翻案)と言っています︒し
かし︑何と言っても︑生きている詩に成りえていることだけは嬉しいことです︒
特に僕らの高校のバージルのクラスでの下手な直訳を考えたら︒
詩も作り︑翻訳も作るーあの頃︑兄の活動が活発でした︒いろんな言語を習っ
て︑いろんな文学の詩を訳してみていました︒特に僕が好きだったのは︑ダンテ
の﹁地獄篇﹂の中の有名なパオロとフランチェスカの不倫の恋を物語る︑甘くて
悲しい一節でした︒この場合︑兄の訳はダンテのテルツアリマに忠実に従ってい
ました︒手許に有りますが︑少し長いので︑割愛します︒②
さて︑僕も高校を出て︑大学に進みました︒あらゆる方面で兄の真似を続けま
した︒フランス語を勉強して自分もとうとう一回位は詩の訳を作ってみようとい
う気になりました︒そういう気を僕に起こさせたのは︑中世の詩人フランスワビ
一4一
ヨンの﹁絞首刑にされた人達のバラード﹂(ゆ㊤一一P餌①αΦロQ勺9Pα二〇D)でした︒たしかに
苦しみの文学に引かれていましたが︑この訳が大学時代の只一つの実験でした︒
経験として意味があったでしょうが︑先生に笑われやしないかと思って︑敢えて
ブルーブックに出すことなく︑ノートに仕舞い込んでしまいました︒③まだ翻訳者
になろうと思いませんでした︒
日本との出合いはまた別の話ですが︑最初の日本のうたとの出合いは︑かすか
に覚えているような気がします︒どこで読んだか覚えていませんが︑かなり若い
時に次の短歌の英訳を発見しました︒
弓げ①怠︼BΦH≦①昌けけOの8ヨ︽匹の譜﹁
<﹃﹃o巨Hδ<①山⊆昌①59=﹁p巨ざ
弓げ①≦冒け霞巳σqげけ.ω
国ぞ①憎≦一昌α≦9ωoQOOO缸けげ9Dけ
弓ゴ①ω餌昌色①二ぎσqω≦奠ΦRk冒σq.
これを読んだ時受けた印象は微妙なものでした︒言いにくいような︑心に染み
入る悲しさと土ハに︑異国風の何らかが潜んでいるように覚えました︒日本のこと
をまだ何も分からなかった時でした︒その時︑偶然に︑このうたを通して︑和歌
の情緒に触れることが出来ました︒どうして自分の姉か妹がそんなに恋しいか︑
.ω9巳①島昌σq︒︒︒は何ものか︑分からなかった︒しかし︑第二句の.羮ぴo巳=o<Φα
彗①岑9蕁亘図・の・⊆5自島霞9・亘図.には心を打つ強さと同時に︑おかしいほどの珍しさ
を覚えました︒後から分かったことですが︑この訳は紀貫之の
おもいかね妹がり行けば冬の夜の
河風さむみ千鳥なくなり(ωHGQ署"NN6
のアーサー・ウェーリィの直訳でした︒④直訳にも神秘的な美の可能性があるとい
うことを思い知らされました︒
長年たって︑ようやく大学院に入って︑日本文学の勉強をし始あました︒今度
は和歌の原文との出合いも待っていました︒日本文学の作品で︑最初の︑翻訳を
通してでなくて︑原文から直接に強い印象を与えられたのは和泉式部の
暗きより暗き道にぞ入りぬべき
はるかに照らせ山の端の月(ωHGQ××"一ωハ巴
といううたでした︒イメージとしても︑メッセージとしても︑はっきりしていて︑
ことばとことば︑句と句の繋ぎ合わせが簡単で︑まっすぐ心にも︑脳にも訴えま
した︒これだったら︑翻訳なんか不必要ではないでしょうか︒
一6一
しかし︑やはり︑‑これも兄の影響でー青春時代から起って来た︑自分も詩
を作りたいという動機も加わって︑仕舞いには︑すぐ理解出来るうたでも︑どん
なに分かりにくいうたでも︑和歌の英訳が自分の宿命的な仕事であるように考え
るようになりました︒
古いうた︑いにしえ昔の詩歌は︑何である.でしょうか︑特に異国のことばの︒
沈黙の固まりか︑学問の対象か︑それとも︑生きた人間のうたこえか︒どのよう
な棒でその固まりを突いたら生きて来るでしょうか︒歌ってもらいたいうたを聞
いて︑そのリズムを掴んで︑そのくりかえしをダンスのパートナーとして踊って︑
何か適当なものが出来るかも知れません︒
八雲立つ出雲八重垣
妻ごみに八重垣作るその八重垣を(囚口)
ぎ①碍﹃マ90二9ーユのぎσq
H鬯きo鋤昌①おげ窪o缸h88
弓o窪oδω①8図≦罵①
﹀⇒①碍げ窪o匡h霹8Hσ巳己i
>5Po厂昏畧9σqげ雋o己h①目色
うるは愛しとさ寝しさ寝てば
こも刈り薦の乱れば乱れさ寝しさ寝てば(国"︒︒9
日げ畧げ①9︒畧図︒︒ohぎρ
HhHop5げ巴冨さ言︒︒けげ巴げ①さ
ピ貯①巴O匹①匹憎⊆o︒げ①oD
ピ①算9け聟σqδ富品δ夢①p
HhHo㊤昌σ巴冨さ冒のけげ&げ興・
こういう古代歌謡は手を出して︑﹁どうぞ﹂と言ってくれる場合が多いのです︒
うたの命がリズムとくりかえしに存在します︒古代歌謡ばかりでなく︑和泉式部
も与謝野晶子も好んで似たような繰り返しを使います︒
長歌にも繰り返しが根本的な方法として現れています︒長い詩の場合︑短歌の
場合と同じように︑訳文が原文の句の数に合うことが理想の一つと考えられるで
一8一
しょう︒やはり︑詩の構造が大切です︒そして︑構造的なチャレンジに取り組む
ことが翻訳者の楽しみの一つです︒﹁古事記﹂に出て来る八千矛の神と妻の須勢理
毘賣の命のやりとりのうたがよい例になるでしょう︒まつ︑夫の八千矛が妻のす
おどせりひあの嫉妬にたえかねて︑出雲をすてて︑大和に行くよと威します︒この歌
謡のセリフが演じられたような印象を与えます︒家出する夫が飛び立つ鳥のよう
に︑自分の姿をいろんな鳥に変えてみます︒そうしているうちに︑繰り返しの句
が重なって︑うたになります︒
囚誌窃 Z二げ9DけPヨP昌O
囚⊆円O犀一b日ゆ吋①のプ一〇
ζ㊤けQの二び=ooP昌一
臼〇二図oの9
0犀詳oo9け〇二
ζ自昌9D8冒二けO閃一
匡po鼠$σq一ヨo
国O﹁①≦鋤h自ロoP≦9N⊆ ﹂o雫げΦ箒団げ置o犀
尻け﹃①憎P一b日①昌けけび鋤けHけ9D犀①
弓opΩo﹁昌ヨ図︒︒Φ罵
ぎヨ図2=9D霞pと
切貯畠ohけげ①o鴫ぎσq
勺8ユロσq畠o≦昌9Dけ詳︒励げ﹁①霧戸
固餌b℃ぎσq畧ω≦ぎσqω"
弓げ①oDΦO一〇けずOωαO昌Oけげ①OObρ①§①1
10
15
20
Hetsunami So ni nukiute
Sonidori no Aoki mikeshi o
Matsubusa ni Toriyosoi Okitsutori Muna miru toki
Hatatagi mo Ko mo fusawazu
Hetsunami So ni nuklute
Yamagata ni Makishi
Atate tsuki Someki ga
I cast them away,
Waves that draw down the shore.
Kingfisher green Is the raiment that I take
To adorn myself
In my full array;
Bird of the offing Peering down at its breast,
Flapping its wings:
These too do not become me - I cast them away,
Waves that draw down the shore.
Indigo
Sown in mountain fields:
Pounded
Dye-plant
I
CD
25
30
35
Shiru ni Shimekoromo o
Matsubusa ni
Toriyosoi Okitsutori Muna miru toki
Hatatagi mo Ko shi yoroshi
Itoko ya no Imo no mikoto
Muratori no Wa ga mureinaba
Hiketori no Wa ga hikeinaba
Nakaji to wa
Juice-stained
Is the garment that I take To adorn myself In my full array;
Bird of the offing Peering down at its breast,
Flapping its wings:
This will do quite well.
My young darling, Dear and honored lady,
When like flocking birds I go flocking with my men,
When like a following bird I go following off with them,
Even though you say
I