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年 俸 制 と 日本 的雇 用慣行 の変容

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年 俸 制 と 日本 的雇 用慣行 の変容

大 梶 俊 夫

1.は じ め に

年 俸 制 が 広 が って い る。 富士 通 で は1994年4月 か ら課 長 以 上 の 管 理 職7000 人 を対 象 に年 俸 制 を導 入 して お り,年 収 格 差 は300万 円 まで 拡 大 した 。新 日 本 製 鉄 で も1995年 か ら課 長 級 の3800人 に ま で対 象 を拡 大 し,年 功 給 部 分 を な

く して業 績 ・能 力 に 応 じた給 与 と し,そ の 結 果 年 収 格 差 は270万 円 とな っ た。

年 俸 制 は 製 造 業 だ け で採 用 され て い るわ け で は な い。 広 告 業 界最 大 手 の 電 通 で も96年4月 か ら局 長 級 の120人 を対 象 に 導 入 し,秋 に は 部 長 以 上 に対 象 を 広 げ る予 定 で あ る。 ダ イ エー で も97年5月 か ら管 理 職3000人 に年 俸 制 を適 用 す る予 定 で あ り,、数 年 後 に は全 社 員 に広 げ る計 画 で あ る1)。 ま た 朝 日新 聞 社 で も年 俸 制 を適 用 した3年 任 期 の編 集 委 貝 を募 集 す る と と もに,従 来 の 編 集 委 貝 の一 部 に も年 俸 制 を導 入 す る とい う2)。

これ まで の 日本 的 雇 用 慣 行 と よば れ る もの は,年 功 的 賃 金 ・昇 進,い わ ゆ る終 身雇 用 とよ ば れ て きた長 期 雇 用 慣 行,企 業 別 組 合 な ど を主 な柱 に して お り,こ れ らは相 互 に 密 接 に 関連 し なが ら安 定 的 な 雇 用 シ ス テ ム を築 い て きた と考 え られ る。 し たが っ て年 俸 制 が 多 くの 企 業 に 導 入 され よ う と して い る現 状 は,従 来 の 日本 的 雇 用 慣 行 に 変 更 を迫 る もの とい わ ざ る を え な い。

本 稿 で は,こ う した年 俸 制 の 広 が りに 着 目 し,年 俸 制 と よば れ る賃 金 制 度 の 内容,そ れ が 導 入 さ れ よ う とす る背 景,従 来 の 日本 的 雇 用 慣 行 に対 して年 俸 制 の もつ 意 味,年 俸 制 の 抱 え る問題,労 働 組 合 の 対 応 な ど を検 討 す る。 特 に 日経 連 が95年5月 に 発 表 した 『新 時 代 の 「日本 的 経 営 」』 を今 後 の 日本 企 業 の 雇 用 管理 の 方 向 性 を示 す もの と捉 え,そ れ との 関 連 で年 俸 制 の 意 味 を論 究 した い と思 う。

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2.年 俸 制 の 広 が り

まず 年 俸 制 の 広 が りを確 認 した い。 各 種 調 査機 関 が年 俸 制 の 導 入 状 況 に つ い て 調 査 して お り,長 銀 総 研 コ ンサ ル テ ィ ン グ が1992年 に行 っ た 調 査 で は 導 入 率 は8.8%で あ り,日 本 生,産性 本 部 生 産 性 研 究 所 の 同 じ年 の 調 査 で は10.4

%と い う数 字 に な っ て い た。 また 労 働 省 が 「平 成6年 賃 金 労働 時 間 制 度 等 総 合 調i査」 で 示 した 導 入 率 は4.3%で あ り,こ こ数 年 の 調 査 の な か で は 最 も低 い数 字 で あ っ た。 これ は 調 査 対 象 企 業 が従 業 員30入 以 上 の企 業 とな って い て, 中小 企 業 が 多 く含 まれ て い る こ とが 影 響 して い る と思 わ れ る。他 の 調 査 は ほ ぼ 上 場 企 業 を対 象 に して い る。 日経 連 が 会 員 企 業 を対 象 に した 「平 成6年 給 ・べ 一 ス ア ップ実 施 状 況 調 査 」 で は14.4%の 導 入 が み られ た。 労務 行 政 研 究 所 が1987年 以 降 隔 年 で行 っ て い る 「人事 労 務 管理 諸 制 度 実 施 状 況 調 査 」 に

よ れ ば,年 俸 制 の 導 入 率 は87年 が6.4%,89年8.7%,91年8.3%,93年11.6

%,95年15.3%と な って お り,年 と と も年 俸 制 が 広 が っ て い る こ とが示 され て い る3)。 この よ うに,調 査 に よ っ て 導 入率 の 数 字 が 多少 異 な る と は い え, 各 種 調 査 結 果 が 示 唆 して い る こ とは,上 場 企 業 に 限 定 して い え ば1割 強 の企 業 にす で に年 俸 制 が 導 入 され て い る とい う事 実 で あ る。

で は こ れ ま で年 俸 制 を採 用 して い な い 企 業 で は 導 入 を ど う考 えて い る の だ ろ うか。 この 点 を明 らか に す る ため に,社 会 経 済 生 産 性 本 部 生 産 性 研 究 所 が 96年5月 に発 表 した調 査 結 果(『 わ が 国年 俸 制 の 現 状 と展 望96年 調査 』)を 検 討 して み よ う。 こ の調 査 は全 国 の 上 場 企 業2230社 を対 象 に96年1月 に行 わ

れ た もの で,回 答 は510社,回 収 率22.9%で あ っ た 。 そ の 結 果i年 俸 制 導 入 企 業 が9.8%4),具 体 的 な 計 画 ・予 定 を もっ て い る企 業 が7.6%,将 来 的 に は 導 入 を考 え て い る企 業 は60.6%で あ った 。 これ に 対 して 現 在 導 入 して お らず, 今 後 も導 入 す る予 定 の な い企 業 は20.2%で あ っ た 。 生 産 性 研 究 所 で は92年 秋

に も同種 の 調 査 を行 っ て い るが,そ れ と比 較 す る と導 入 率 は0.6ポ イ ン ト低 くな っ て い る もの の,「 導 入 す る予 定 は な い」 とい う企 業 は 前 回 調 査 の57.4

%に 比 べ て37ポ イ ン ト も低 下 して い る。 ま た 「将 来 的 に は導 入 を考 え て い る」 企 業 も前 回 よ り46ポ イ ン トも増加 して い る。 年 俸 制 導 入 に 踏 み切 っ た企 業 の数 は そ れ ほ ど増 大 して は い な い とは い え,多 くの企 業 で 導 入 が 現 実 的 な

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年俸制 と日本的雇用慣行の変容3

検 討 課 題 に な って い る こ とが 窺 え る。 報 告 書 は 「年 俸 制 は 今 後 直 ち に 急 速 に 広 ま る こ とは な い もの の,将 来 的 に は か な りの 企 業 に 広 ま っ て い くもの と考

え られ る」(15ペ ー ジ)と して い る。

こ の こ とは 既 に 導 入 した 企 業 の う ち,94年 以 降 に 導 入 した企 業 が54%と 半 数 を 占め て い る こ とか ら も推 測 で き る。 こ の2・3年 の 間 に 導 入 した 企 業 が 多 い の で あ る。 また 現 在 は まだ 導 入 して い な い が 予 定 は あ る とい う企 業 に, 導 入 時 期 を質 問 した結 果 で は,96年 中 に導 入 を予 定 して い る企 業 が55%,97 年 が27.5%と な っ て お り,こ の 調査 結 果 か ら計 算 して も,97年 に は 導 入率 が 16.3%,2000年 に は18.2%に まで達 す る こ とが予 測 さ れ る。 実 際 に は ま だ具 体 的 な 計 画 を決 定 して い な か っ た企 業 で も導 入 す る と こ ろが で て くるだ ろ う か ら,「 将 来 的 に は か な りの企 業 に広 ま って い く」 との 報 告 書 の 予 測 は可 能 性 が 高 い とい え よ う。

3.年 俸 制 の 意 味

で は 年 俸 制 とは どの よ うな賃 金 制 度 な の だ ろ うか 。 ひ と くち に年 俸 制 とい っ て も,実 際 は 導 入 して い る企 業 に よっ て 多様 で あ る。 プ ロ野球 選 手 の よ う に単 純 に年 間 報 酬 額 を決 定 す る もの か ら,月 俸 と賞 与 を積 み重 ね,そ の 上 に 諸 手 当 も残 して い る もの ま で,い ろ い ろ あ る。 前 記 の 生 産 性 研 究 所 の調 査 で は,調 査 に あ た っ て 年 俸 制 を次 の よ うに 定 義 して い る。 「年 俸 制 とは,基 的 に は 業 績 給 を念 頭 に お い た,従 業 員 に支 給 す る賃 金 の 基 本 とな る部 分 を一 年 間 ま とめ て 提 示 す る制 度 で あ る。」 こ こ で は,「 賃 金 の 基 本 とな る部 分 を一 年 間 ま とめ て 提 示 す る」 とい う曖 昧 さに よ って,多 様 な 現 実 の 年 俸 制 を包 み 込 む こ と を意 図 しな が ら,一 方 で は 「業 績 給 を念 頭 に」 とい うか た ち で性 格 づ け を 明確 に して い る。

年 俸 制 とは,月 俸 制(月 給 制)や 日俸 制(日 給 制)と 同 列 に単 に 賃 金 の計 算 期 間 を一 年 に 変 更 した制 度 で は な い。 年 間単 位 の 賃 金 決 定 をす る とい う こ

とは,仕 事 の 内 容 が 一 カ 月や 一 日で は評 価 で きず,年 間 単 位 で評 価 せ ざ る を え な い 人 を対 象 に して い る とい う こ とで あ る。 しか も年 問 単 位 で しか 評 価 が で き な い よ う な仕 事 内容 に は,そ の仕 事 に どれ だ け の 時 間 従 事 した か とい う 視 点 は ほ とん ど意 味 を もた な い 。 労 働 時 間 で 賃 金 が 決 定 で き る よ うな仕 事 に

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は年 俸 制 は 必 要 な い。 こ こに 業 績 主 義 あ るい は成 果 主 義 とい う,年 俸 制 の性 格 が で て くる し,年 俸 制 の 対 象 が ホ ワ イ トカ ラー,な か で も管 理 職 ・専 門職 で あ る こ と も これ に 関 連 す る。

菅 野 和 夫 は 多様 な年 俸 制 の 共 通 の要 素 と して,次 の5つ の 点 を指 摘 して い る5)。

① 賃 金 の 全 部 ま た は 基 本 的部 分 が 年 単位 で 設 定 さ れ る こ と。

② 額 の 決 定 に 際 して,労 働 者 個 人 と企 業(上 司 あ る い は経 営 トップ)の で個 別 的 話 し合 い が な され,ま た 経 営 側 の 集 団 的 調 整 も行 わ れ る こ と。

③ 年 俸 額 の決 定 は,前 年 度 の 業 績 が 基 準 とな る こ と。

④ 基 準 の 測 定 の ため に,年 度 ご とに 目標 設 定 が 行 わ れ,ま た前 年 度 の 目標 の 達 成 度 が 評 価 さ れ る こ と。

⑤ 定 期 昇 給 制 度 は な く,実 績 に よ っ て は額 の 据 え置 きや 減 額 もあ り う る こ と。

こ れ らの 共 通 要 素 か ら菅 野 は 年 俸 制 を 「労 働 者 に 対 す る賃 金 の全 部 ま た は 相 当部 分 を 当該 労 働 者 の業 績 等 に関 す る 目標 の達 成 度 を評 価 して年 単 位 に設 定 す る制 度 」 と把 握 して い る。 前 述 の生 産 性 研 究 所 の 定 義 とは 用 語 ・表 現 の 点 で 異 な るが,内 容 的 に は ほ ぼ 共 通 す る。 現 段 階 で の 年 俸 制 の 定 義 と して 妥 当 な もの とい え よ う。

しか し,こ う した定 義 を踏 ま え た と して も,現 実 の 年 俸 制 は 多様 で あ る。

日経 連 の 報 告 書 は,わ が 国 に現 在 導 入 され て い る年 俸 制 に は,賃 金 プ ラ ス賞 与 の 形 式 を と る,い わ ゆ る 「日本 型 年 俸 制 」 と,そ う した 区 別 を も た な い

「完 全 年 俸 制 」 とが あ る と した上 で,「 今 後 は企 業 業 績 を弾 力 的 に 反 映 し,賃 金,賞 与 とい うシ ス テ ム を生 か した 『日本 型 年 俸 制 』 を採 用 して い くべ きで

あ ろ う」 と して い る6)。 そ の 「日本 型 年 俸 制 」 とは 成 績 査 定 を と も な っ た職 能 給(月 給 制)の 十 二 倍 に年 間 賞 与 を合 計 した もの で あ る。 賞 与 は企 業 業 績 とそ れ へ の 個 人 の 貢 献 度 に よ っ て 決 定 され るか ら,こ の 「日本 型 年 俸 制 」 の 方 が 「完 全 年 俸 制 」 よ り も個 々 の企 業 業 績 を反 映 した フ レ キ シブ ル な 入 件 費 管 理 が 可 能 で あ る。 従 来 の 賞 与 や 一 時 金 が 果 た して い た,「 業 績 反 映 に よ る 総 額 人 件 費 管 理 」 の機 能 を残 して お く狙 い が あ る もの と思 わ れ る。

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年俸 制 と日本 的雇用 慣行 の変容5

4.年 俸 制 の 仕 組 み と現 状

年 俸 制 の 実 例 と して本 田技 研 の 場 合 を検 討 し よ う7)。本 田 で は92年6月 課 長 レベ ル 以 上 の全 役 職 者 を対 象 に 年 俸 制 が 導 入 さ れ た。 本 田 の 年 俸 制 は, 従 来 の 基 本 給 の 年 間合 計 に あ た る 「基 本 年 俸 」 と,年 間 賞 与 に相 当 す る 「期 間 業 績 給 」 で構 成 さ れ て い る。 両 者 の 比 率 は だ い た い65:35で あ る。 「基 本 年 俸 」 は,従 来 の 基 準 内賃 金(本 給+業 績 加 給+号 給 加 給)と 役 職 手 当 に あ た る職 務 給,住 宅 手 当,家 族 手 当 に 相 当 す る もの で,導 入 に あ た っ て は現 在 の 給 料 をべ 一 ス に年 俸 化 した。 導 入 後 は 前 年 度 の 評 価 に よ って 年 額 が 決 定 さ れ,そ れ を12で 割 っ た もの が 毎 月支 給 され て い る。 通 勤 手 当,食 事 手 当 な ど の 諸 手 当 も別 途 支 給 さ れ て い る。 評 価 に あ た って は,そ れ ま で の能 力 で は な く,困 難 度,重 要 度,達 成 度 を評価 軸 と した単 年 度 の個 人 業 績 とな る よ うに 改訂 され た 。 現 在 は テ ー ブ ル 型年 俸 制 に移 行 して お り,各 役 職 等 級 ご とに4

〜7ラ ン クの 「基 本 年 俸 」 テー ブ ル が 設 定 され て お り,個 々 人 の業 績 に よ っ て位 置 を決 め,評 価 結 果 に よ って は 大 幅 な ア ップ も可 能 とな っ て い る。 ま た 従 来 の 賞 与 は 本 給 に号 給 加 給 を足 し,こ れ に一 定 の係 数 を掛 け て算 出 し た も の が6割 で あ り,残 りの4割 は成 績 評 価 に よ って 加 算 す る とい う方 式 で あ っ た が,年 俸 制 の も とで の 「期 間業 績 給 」 で は年 功 的 な性 質 を もつ 号 給 加 給 が 反 映 され な くな り,業 績 に よ る加 算 の 幅 が大 き くな っ た た め,個 人 の 業 績 評 価 次 第 で 大 き く差 が で る よ うに な っ た。 つ ま り役 職 等 級 と評 価 が 同 じな ら年 齢 と関 係 な く 「期 間 業 績 給 」 は 同 じに な る。 また 下 位 の 役 職 で も評 価 が 高 け れ ば 上位 役 職 者 の支 給 額 を上 回 る こ と も可 能 と な っ た 。 しか し実 際 に は,評 価 はS,A,B+,B,B‑,C,Dの7段 階 の う ちAか らB一 の4段 階 で95

%を 占め て お り,そ れ ほ ど大 き く差 がつ く運 用 に は な っ て い な い8)。

以 上 が 本 田技研 に お け る年 俸 制 の 仕 組 み で あ るが,次 に様 々 な調 査 結 果 か ら年 俸 制 の 目的,対 象 者 な どの 現 状 をみ て み よ う。

まず 導 入 目的 で あ るが,生 産 性 研 究 所 の調 査 結 果 で は 「業 績 評 価 を明 確 に す る た め 」 とい う理 由 が も っ と も 多 く71.4%を 占め(3つ ま で の 複 数選 択), 以 下 「社 内 を活 性 化 し刺 激 を与 え るた め 」38.8%,「 目標 管 理 制 度 を徹 底 す

るた め 」36.7%,「 役 員 と同 様 な年 俸 制 に よ り経 営 参 加 意 識 を強 め る た め 」

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30.6%,「 高 い業 績 を上 げ た 人 の イ ンセ ン テ ィ ブ の た め 」26.5%,「 画 一 的 賃 金 管 理 か ら個 人別 賃 金 管 理 へ 移 行 す る た め 」26.5%,「 年 功 給 の 見 直 しな ど 従 業 員 年 齢 構 成 の 変 化 に対 応 す るた め 」20.4%,「 一 人 当 た り人 件 費 の 伸 び を抑 え る ため 」8.2%と な っ て い る。92年 の 調 査 と比 較 す る と,「 業 績 評 価 を 明 確 に す る た め 」 が 多数 で あ る こ とに 変 化 は な い が,「 役 員 と同 様 な年 俸 制 に よ り経 営 参 加 意 識 を強 め るた め 」 は前 回 調 査 か ら46ポ イ ン トも数 字 を落 と

して い る。 また 「年 功 給 の 見 直 し な ど従 業 員 年 齢 構 成 の 変 化 に 対 応 す る た め 」 が,今 後 導 入 を予 定 して い る企業 の 導 入 理 由 の なか で は38.4%を 占め る な ど,年 俸 制 の 広 が りの なか で 導 入理 由 に 変 化 が み られ る9)。

ま た 雇 用 情 報 セ ン タ ー が95年10月 に 行 っ た調 査 で も,「 よ り業 績 主i義 を 強 め た 賃 金 決 定 を行 う た め 」 と い う回 答 が 飛 び 抜 け て 多 く(80.0%),以

「経 営 陣 の0員 で あ る こ との 自覚 を促 す ため 」60 .0%,「 従 業 員 の イ ン セ ン テ ィ ブ 強 化 〜 モ ラー ル 向 上 の ため 」53.3%と 続 い て い る。 こ こ で も導 入 予 定 企 業 の理 由 と して は 「経 営 陣 の一 員 で あ る こ との 自覚 を促 す た め 」 は26.7%と か な り少 な くな っ て お り,代 わ りに 「高齢 化 等 で年 功 賃 金 の是 正 が 必 要 に な っ た た め 」 が13.3%か ら44.0%へ と増 大 して い るlo)。導 入 目的 が,経 営 参 加 意 識 の 強化 とい っ た ソ フ トな もの か ら,総 額 人件 費 の 抑 制 とい うハ ー ドな 方 向 に シ フ トして い る こ とが 確 認 で き よ う。 労 働 大 臣官 房 政 策 調 査 部 の行 っ た 「日本 的 雇 用 制 度 ア ンケ ー ト調 査 」 で も,年 俸 制 の 導 入 ・拡 充 を計 画 して い る企 業 は 全 体 で30.3%で あ るの に 対 して,「40代 後 半 の 大 卒 ホ ワ イ トカ ラ ー に過 剰 感 が あ る」 は答 え た企 業 の な か で は,45.6%が 年 俸 制 の 導 入 ・拡 充

を考 え て い る。 人 件 費 の抑 制 が 切 実 な企 業 ほ ど年 俸 制 の 導 入 を考 え る とい う 構 図 に な っ て い る こ とが わ か る11)。

次 に 年 俸 制 の 対 象 者 で あ るが,生 産 性 研 究 所 調 査 で は部 長 クラ スが もっ と も多 く82.2%で あ り,次 い で課 長 ク ラ ス が40.0%で あ っ た。 係 長 ク ラス に 導 入 して い る企 業 は2.2%と 少 な い。 年 俸 制 が 業 務 遂 行 プ ロ セ スや 生 計 費 と無 関 係 に 賃 金 を決 定 す る シ ス テ ム で あ る以 上,仕 事 上 で そ れ な りの 裁 量 と権 限 を も ち,家 族 を扶 養 し う る一 定 以 上 の 年 収 が あ る こ とは 導 入 の 前 提 で あ ろ う。

し た が っ て,現 状 で は お もに 上 級 管 理 職 に 適 用 さ れ て い る も の と思 わ れ る12)。対 象 者 に 関 して は 雇 用 情 報 セ ン ター の 調 査 結 果 もほ ぼ 同様 で あ る。

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年俸 制 と日本 的雇用 慣行 の変容 7

5.年 俸 制 の 背 景

この 数 年 間 で 年 俸 制 が普 及 した きた 背 景 に は,い くつ か の 要 因が 考 え られ る。 第1は,ホ ワ イ トカ ラー 化 の進 農 で あ る。 ホ ワ イ トカ ラー一の職 種 を管 理 職 ・専 門 技 術 職 ・事 務 職 ・販 売 職 と考 え れ ば,就 業 人 口の過 半 数 は い まや ホ

ワ イ トカ ラー が 占め る よ うに な って きて い る。 そ して ホ ワ イ トカ ラー 化 の傾 向 は今 後 も ます ます 強 ま る と予 想 され る。 若 年 層 に は い わ ゆ る3Kを 嫌 い, 肉体 的 に楽 で,清 潔 か つ 安 全 な仕 事 を求 め る性 向 も強 い。 ま た情 報 化 の 進 展 の な か で,今 後 必 要 と され 需要 の伸 び る職 種 は ソ フ ト開 発 な どの ホ ワ イ トカ ラー 職 種 で あ る。 逆 にME化 や 自動 化 の 影 響 や 生 産 性 の 向 上,企 業 の 海 外 進 出 な ど に よ っ て,ブ ル ー カ ラー 職 種 は 減 少 が 予 想 され る。 こ う し た こ とか ら ホ ワ イ トカ ラー は今 後 も増 大 し,比 重 を高 め る こ とが 予 想 され,産 業 分 野 の い か ん を問 わ ず ホ ワ イ トカ ラー の 管 理 ・処 遇 が 企 業 に とっ て 重 要 な経 営 課 題 とな っ て い る。

ホ ワ イ トカ ラー 化 は た ん に 量 的拡 大 を意 味 す る だ け で は な い。 これ か らの 日本 企 業 を考 え る と,ホ ワ イ トカ ラー の 生 産 性 を 向上 させ る こ とは重 要 な課 題 で あ る。 これ まで 日本 企 業(特 に 製 造 業)は ブ ルー カ ラー の 生 産 性 を上 げ る こ とに 力 を注 い で き た。 それ が 日本 製 品 の 国 際 的 競 争 力 の 向上 につ な が っ て い た。 しか し今 や ブ ル ー カ ラ0の 生 産 性 上 昇 は 限 界 に ま で達 した とい わ れ て お り,今 後 は ホ ワ イ トカ ラー の 生 産 性 こ そが 企 業 に と って 重 要 に な っ て き て い る。 しか し これ まで は,あ ま り積 極 的 に ホ ワ イ トカ ラー の 生 産 性 の 問 題 に 取 り組 ん で こ な か っ た。 ブ ル ー カ ラー の 仕 事 が そ の 成 果 や 進 展 状 況 を観 察 ・評 価 しや す い の に 対 して,ホ ワ イ トカ ラー の仕 事 は何 か を企 画 した り, 開 発 した り,判 断 した りす る こ とが 多 く,非 定 型 的 な もの が 多 い。 した が っ て そ の仕 事 内容 に つ い て も評 価 が 難 し く,そ の こ とが 生 産 性 の 向 上 に 積 極 的 に 取 り組 む こ と を妨 げ て い た とい え よ う。 しか もホ ワ イ トカ ラー の仕 事 は そ の 質 ・量 と もに外 か ら管 理 す る こ とが しに くい。 ベ ル トコ ンベ ア ー の よ うに 他 律 的 に労 働 ペ ー ス を コ ン トロー ル す る こ とは で き な い。 生 産 性 を を あ げ よ う とす れ ば,労 働 者 に イ ン セ ン テ ィ ブ を与 え,本 人 の 意 欲 を引 き出 す しか な い。 こ う した こ とか ら,ホ ワ イ トカ ラー の 労 務 管 理 と生 産 性 向 上 の 手 段 と し

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て 年 俸 制 が 求 め られ て い るの で あ る。

背 景 的 要 因 の 第2に は 高 齢 化 の 進 展 が あ る。 団 塊 世 代 が 中 高 年 に達 した こ とに よ っ て,多 くの 企 業 で従 業 員 の 平 均 年 齢 が 上 昇 して い る。 また今 後,若 年 労 働 力 が減 少 す る こ と を考 えれ ば,長 期 的 に も企 業 内 で も高 齢 化 が 進 展 す

る こ とが 予 想 され る。 年 功 的 賃 金 制 度 の も とで従 業 員 の 高 齢 化 が 進 め ばi人 件 費 コス トが 上 昇 す る こ とは 明 らか で あ る。 国 際 的 な競 争 力 を維 持 して い く

ため に も,人 件 費 コ ス トの こ れ 以 上 の 上 昇 を さけ た い と考 え る こ とは 経 営 側 と して は 当 然 で あ ろ う。 年 功 的 一 律 処 遇 に代 わ る もの と して,年 俸 制 に よ る 個 別 管 理 が 志 向 さ れ る わ け で あ る。 これ と関 連 して 第3の 要 因 をあ げ れ ば, 経 済 の低 成 長 化 が あ る。 企 業 業 績 が 右 肩 上 が りに上 昇 し続 け る時 代 で あ れ ば 年 功 的処 遇 を維 持 す る こ と も可 能 で あ っ たが,現 在 は そ の よ うな状 況 に は な い 。 デ フ レ的 状 況 の な か で,総 額 人 件 費 を抑 制 す る手 段 と して年 俸 制 が 考 え られ て い る側 面 が あ る。

ま た,直 接 に年 俸 制 の背 景 とな る要 因 で は な い が,一 般 的 な能 力 主 義 管 理 を支 え る背 景 と して は 労 働 者 の 意 識 の 変 化 も重 要 な要 因 で あ る。 年 功 的 な一 律 な処 遇 で は な く,能 力 に よ って格 差 のつ く処 遇 を求 め る意 識 は,若 い世 代 を 中心 に増 加 して きて い る。 『平 成7年 版 国 民 生 活 白書 』 に よれ ば,「 年 功 序 列 か ら能 力 中心 の 賃 金 制 度 へ の切 り換 え を好 ま しい と思 う者 の 割 合 」 を1987 年 と1992年 とで 比 較 す る と,20歳 代 の 男性 で は56.4%か ら72.8%へ,30歳

の 男 性 で は52.8%か ら71.7%へ,60歳 代 以 上 の 男 性 で も42.5%か ら61.5%へ と増 加 して い る13)。5年 間 で,能 力 主 義 の 受 容 へ と意 識 は 大 き く変 化 して い る。 さ ら に,同 期 入社 の なか で どの程 度 の 賃 金 格 差 をつ け る こ とが望 ま し い か を調 べ た調 査 で も,50歳 代 前 半 で は現 状 とほ ぼ 同 じ程 度 の格 差 を望 ま し い と して い る の に 対 して,30歳 代 前 半 ・40歳 代 前 半 で は現 状 よ りも大 きな格 差 を望 ん で い る14)。能 力 主 義 や 賃 金 格 差 を積 極 的 に 受 け 入 れ よ う とす る こ

の よ うな意 識 の 広 が りが,年 俸 制 普 及 の 背 景 とな つ て い る と思 わ れ る。

以 上 述 べ た よ うに,年 俸 制 の 背景 に は 日本 企 業 を取 り巻 く状 況 の変 化 が あ る。 経 営 側 が こ う した変 化 を ど う捉 え,ま た そ の なか で今 後 の方 向性 を ど う 定 め,年 俸 制 を ど う位 置づ け て い るか を確 認 す る ため に,日 経 連 が 発 表 した

新 時 代 の 「日本 的 経 営 」』 を検 討 し た い。1995年5月 に だ さ れ た 日経 連 の

新 時代 の 「日本 的 経 営 」』 で は 以 下 の よ うに変 化 の 方 向 を捉 え て い る。 まず

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年俸制 と日本的雇用慣行の変容9

「長 期 継 続 雇 用 」 に つ い て は,人 材 の 育 成 ・活 用,労 使 関 係 ・雇 用 の 安 定 に よ る モ ラー ル の 維 持 な ど の役 割 を果 た して きた と して 評 価 し,「 今 後 と も基 本 的 に 大 切 す べ き雇 用 慣 行 」 で あ る と して い る。 しか し こ の 「長 期 継 続 雇 用 」 の 問 題 点 を も指 摘 して い て,① 年 功 制 の も とで は 高 齢 化 に と も な っ て ポ ス ト不 足 や 人件 費 の 増 加 が お こ る,② 同 質 性 の 強 い組 織 風 土 が従 業 員 の 自主 性,自 立 性,独 創 性 を阻 害 す る,③ 企 業 偏 重 型 生 活 ス タ イ ル が社 会 や 家 庭 の バ ラ ン ス を崩 して い る,な どの 点 を をあ げ て い る。

そ の 上 で 「長 期 継 続 雇 用 」 は 雇 用 の 柔 軟 性 と矛 盾 す る もの で は な か っ た と の見 解 に 立 って,従 来 と られ て き た雇 用 調 整 の た め の 施 策 と して,① 時 間 外 労働 の 弾 力 的 運 用,② 賞 与 ・一 時 金 の 業 績 反 映 に よ る総 額 人件 費 管 理 の 重 視,

③ 事 業 主 の 雇 用 保 険 負 担 に か か る雇 用 調 整 助 成 金 の 活 用 を指 摘 して い る。 常 傭 労 働 力 は ミニ マ ム に抑 え,残 業 時 間 の 増 減 に よ っ て 好 況 期 ・不 況 期 の 労 働 力 調 整 をお こ な い,さ らに 企 業 業 績 に よ って事 後 的 に ボー ナ ス の 多寡 を決 定 す る こ とで,人 件 費 コス トを調 整 す るな どの 雇 用 調 整 シ ス テ ム が機 能 して い

たか ら こ そ,「 長 期 継 続 雇 用 」 の慣 行 は 可 能 だ っ た とみ て い るの で あ る。

新 時代 の 「日本 的 経 営 」』 は 今 後 の 雇 用 シ ス テ ム に つ い て,人 間 中 心(尊 重)と い う理 念 の も とで,産 業 構 造 の 転 換,労 働 市場 の構 造 変 化,従 業 員 の 就 労 ・生 活 意 識 の 変 化 に柔 軟 に 対 応 で き る よ うに しな け れ ば な ら な い,と べ る。 そ して 個 人 の働 きが いや 自己 実 現 を達 成 す る た め に は,雇 用 関係 に お いて 企 業 と個 々 人 の 意 思 が 明 確 に され る こ とが 必 要 で あ り,「 個 別 管 理 の 方 向 が よ り明 らか に な る」 とい う。

そ の上 で,従 来 の よ うな 包 括 的 ・0元 的 な管 理 で は,今 起 こ りつ つ あ る労 働 市 場 の 構 造 変 化 に対 応 で きな い と して,新 しい タ イ プ の 雇 用 シ ス テ ム が 生 み 出 され る とい う。 具 体 的 に は,長 期 継 続 雇 用 を前 提 とす る 「長 期 蓄 積 能 力 活 用 型 」,長 期 雇 用 を前 提 と しな い 「高 度 専 門能 力 活 用 型 」,多 様 な就 業 意 識 を もつ 「雇 用 柔 軟 型 」 の 三 つ の グ ル ー プ に分 け た雇 用 関係 を考 え て い る。 第 1は 「長 期 継 続 雇 用 」 に 立 っ て,企 業 と して も働 い て ほ しい と思 い,従 業 員 と して も働 きた い とい う グ ル ー プ で あ る。OJTを 中 心 と し てOff・JTや 自己啓 発 に よ っ て 長 期 に わ た っ て 能 力 を開発 し,そ れ に よ っ て 蓄 積 さ れ た能 力 を活 か して い こ う とす る グル ー プ で あ る。 第2は 「長 期 継 続 雇 用 」 を前 提 に しな い が,専 門 的 熟練 お よ び能 力 を も っ た グル ー プ で,そ の 時 そ の 時 の 企

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業 の 要 請 に 応 え,課 題 の 解 決 に 当 た れ る人 た ち で あ る。 第3は お もに一 般 職 や 技 能 職 に 充 当 さ れ る有 期 の 雇 用 契 約 に基 づ く人 々 で あ り,主 体 は定 型 的 業 務 を遂 行 す るパ ー トの従 業 員 で あ るが,ほ か に 専 門 的 業 務 に携 わ る派 遣 社 員 や 契 約 社 員 も含 まれ る。 こ の グル ー プ は就 業 意 識 の 点 で もi余 暇 活 用 型 か ら 専 門 的 能 力 の 活 用 型 ま で 多様 で あ る。 年 俸 制 は こ れ らの グ ルー プ の う ち,第

1グ ル ー プ の うち の 管 理 職 と第2グ ル ー プ の全 体 に 適 用 さ れ る賃 金 制 度 で あ る と され て い る。 す な わ ち年 功 賃 金 に代 わ っ て,今 後 の 日本 企 業 の 中核 的 賃 金 制 度 と して年 俸 制 を位 置づ け て い るわ け で あ る。 特 に 第1の グ ル ー プ に対 して年 俸 制 を適 用 す る こ とは,「 長 期 継 続 雇 用 」 の 抱 え る問 題 点 の 解 消 を も 期 待 して い る とい え よ う。 報 告 書 は 「長 期 継 続 雇 用 」 を今 後 も維 持 した い と しつ つ も,そ の 問 題 点 と して① ポ ス ト不 足 や 人 件 費 の 増 大,② 自主 性 ・独 創 性 を阻 害 す る組 織 風 土,③ 企 業 偏 重 の 生 活 ス タ イ ル,の3っ を あ げ て い た。

③ は別 に す る と して,① と② は 年 俸 制 に そ の解 決 が 期 待 され る問題 点 で あ る。

① の 人 件 費 の 増 大 に つ い て は,年 俸 制 の 目的 と して 総 額 人 件 費 コ ス トの 抑 制 が あ る こ と をす で に 述 べ た が,年 功 制 の よ うに 企 業 業 績 とは独 立 に 人件 費 が 増 大 す る制 度 で は な く,あ くまで も企 業 業 績 と リン ク した 人 件 費 の 伸 長 が 可 能 に な る制 度 と して 年 俸 制 が考 え られ て い る と思 わ れ る。 ② の 同 質 的 な組 織 風 土 の 改 革 に つ い て も,個 別 管 理 を徹 底 し,従 業 員 を差 別 化 す る年 俸 制 を導

入 す る こ とで 組 織 の 活 性 化 が期 待 さ れ て い るの で あ る。

こ の よ うに 『新 時 代 の 「日本 的 経 営 」』 の な か で年 俸 制 の もつ 意 味 は き わ め て 重 い。 従 来 の終 身 雇 用 と年 功 制 の 一 組 の セ ッ トに代 わ っ て,多 様 な賃 金 制 度 と多様 な雇 用 形 態 か ら な る複 数 の セ ッ トを用 意 しよ う とい うの が,こ で描 か れ た雇 用 シ ス テ ム の 将 来 構 想 で あ る。 そ して企 業 の 中核 部 分 に は 「長 期 継 続 雇 用 」 と年 俸 制 の セ ッ トを適 用 し よ う と して い るわ け だ が,問 題 は こ

の 両 者 の 適 合 性 が 保 証 され て い る わ け で は な い,と い う点 で あ る。 だ が,そ の検 討 をす る前 に 労 働 組 合 の 対 応 に つ い て み て お こ う。

6.年 俸 制 へ の 労働 組 合 の 対 応

現 在 ま で の とこ ろ,年 俸 制 に 対 す る労 働 組 合 の 対 応 を直 接 に調 査 した デ ー タ は ほ とん ど な い15)。 雇 用 情 報 セ ン タ ー の 調 査 で は,会 社 側 に 対 して,「 年

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年俸制 と日本的雇用慣行の変容11

俸 制 導 入 に 際 して の労 働 組 合 や 従 業 員 の 意 向」 を質 問 して い る。 そ れ に よ る と 「積 極 的 だ っ た」 が6.7%,「 お お む ね 協 力 的 だ っ た 」 が40.0%,「 どち ら と も い え な い 」 が46.7%で あ る の に 対 し て,「 余 り協 力 的 で な か っ た 」 と

「反 対 が 強 か っ た 」 ど ち ら も0%と い う結 果 に な っ て い る16)。 こ れ に よれ ば 労 働 組 合 は年 俸 制 導 入 に協 力 的 で あ っ た とい うこ とに な る。 現 状 の 年 俸 制 の 対 象 者 が お もに管 理 職 で あ る こ と も あ っ て,労 働 組 合 は 反 対 す る とい う行 動 に は 出 て い な い もの と思 わ れ る。 しか し この 調 査 は労 働 組 合 に 直 接 尋 ね た も の で は な く,あ くまで も会 社 側 の 判 断 で しか な い 。 ま た 設 問 の仕 方 も 「労 働 組 合 や 従 業 員 の意 向 」 とな っ て い て,組 合の 意 向 な の か,従 業 員 一 般 の 意 向

な の か も明確 で は な い 。 したが っ て,こ こか ら直 ちに 労 働 組 合 は年 俸 制 に 協 力 的 で あ る とい う結 論 を導 き出 す こ とは で きな い。 なお 生 産 性 本 部 が 平 成4 年 に行 っ た 同 形 式 の 調 査 で は,「 積 極 的 」 は0%,「 反 対 が 強 か っ た 」 が16.2

%と な っ て い る17)。

労 働 組 合 に 対 して 直 接 行 われ た 調 査 と して は,労 働 省 の 「平 成7年 労 働 組 合 活 動 等 実 態 調 査 」 が,年 俸 制 そ の もの に つ い て で は な い が,「 人 事 ・賃 金 制 度 の能 力 主義 化,能 力 給 化 につ い て 」 労 働 組 合 が どの よ うに み て い るか を 調 査 して い る18)。 そ れ に よ る と,「 能 力 主 義 化,能 力 給 化 は 当 然 の 方 向 で あ り,積 極 的 に 評 価 す る」 とす る組 合 が6.9%,「 労 働 者 の能 力 評 価 方 法 が 妥 当 で あ れ ば,納 得 す る」 が44.0%,「 や む を得 な い動 き だ と して も,そ れ に よ っ て 労 働 者 が 不 利 に な らな い よ うな措 置 が 必 要 で あ る」 が34.2%,「 労働 者 の 労 働 条 件 の低 下 につ なが り,も っ と よい 改 定 の 方 策 が あ る と考 え て い る」

が2.5%,「 能 力 主 義,能 力 給 化 は評 価 方 法 等 に 問 題 点 が 多 く,現 状 の ま ま の 方 が ベ ター で あ る」 が10.3%,「 そ の 他 」2.1%と い う結 果 で あ る。 積 極 的 に 賛 成 して い る組 合 は 多 くは な い が,か とい っ て 否 定 的 ・反 対 とい う組 合 もそ れ ほ ど 多 くは な い。 全 体 と して は 消 極 的 に受 け 入 れ て い る組 合 が 多数 を 占め て い る よ うで あ る。 産 業 別 に み る と,全 体 の4割 を 占め る製 造 業 の 組 合 で は

「問題 点 が 多 く,現 状 の 方 が ベ ター で あ る」 とい う回答 が7.3%で あ るの に 対 して,サ ー ビ ス 業 の 組 合 で は 同 回答 が30.5%を 占め て お り,「 能 力 主 義 化 」 に 対 す る労 働 組 合 の 認 識 は産 業 別 で か な り異 な っ て い る。 運 輸 ・通 信 業 の 組 合 も 「労働 条 件 の低 下 につ なが る」 が6.3%,「 現 状 の 方 が ベ ター 」 が15.6%

と否 定 的 な見解 が 相 対 的 に 多 い 。 組 合 員i数規 模 別 で は,5000人 以 上 の 組 合 で

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は15.1%が 積 極 的 に 評 価 す る」 と し,「 現 状 の 方 が ベ ター 」 とい う回 答 は 無 か っ た の に 対 して,100〜299人 規 模 の 組 合 で は 「積 極 的 に 評 価 す る」 は 6.4%で,逆 に 「現 状 の 方 が ベ ター 」 は9%で あ っ た。 概 して 規 模 の 大 き い 労働 組 合 で は 「能 力 主 義 化 」 に 対 して肯 定 的 な見 解 の 比率 が 高 い が,小 規 模 の 組 合 で は 否 定 的 な 見解 の 占め る比率 が 増 加 して い る。

同調 査 で は 「能 力 主 義 化 」 に つ い て の 見 解 を問 う前 に,実 際 に 「能 力 主 義 化 」 な どの 人事 ・賃 金 制 度 の 改 定 の有 無 と,そ れ に 対 す る労 働 組 合 の 関 与 状 況 に つ い て も調 査 して い る19)。 そ れ に よ れ ば,職 能 資 格 制 度 や 職 務 給 の 見 直 し,複 線 型 人事 管 理 の導 入 な ど,制 度 の 改 定 が あ っ た と回 答 して い る組 合 は42.9%で あ る。 そ の な か で 「能 力 主 義 ・実 績 主 義 の 導 入,強 化 」 が あ っ た とい う組 合 は47.3%(M.A.)で あ り,こ れ は全 体 で の 比率 で は20.3%に る。 約2割 の 労 働 組 合 が 「「能 力 主 義 ・実 績 主 義 の 導 入,強 化 」 に 直 面 し, そ れ を受 け 入 れ て い る こ とに な る。 た だ し,こ の 改定 が 組 合 員 を対 象 に行 わ れ た の か,あ るい は 非 組 合 員 の 管 理 職 に だ け 適 用 され た の か は 明 らか で な い 。

こ う した 人事 ・賃 金 制 度 の 改 定 に お け る組 合 の 関 与 状 況 に つ い て は,「 労 使 協 議 機 関 で協 議 し た」 が81.4%(M.A.),「 団体 交 渉 を行 っ た」 が33.8%,

「そ の他 」5 .7%で あ っ た。 協 議 の 内容 は 「同意 事 項 と して 協 議 した 」 が28.1

%(「 協 議 し た」 の な か で の 比 率 。M.A.),「 協 議 事 項 と して 協 議 し た 」 が 67.2%,「 意 見 聴 取 事 項 と して 協 議 した 」 が9.3%,「 説 明 報 告 事 項 と して 協 議 した」 が17.9%で あ る。 複 数 回答 な の で,「 団体 交 渉 を行 っ た 」 と 「同 意 事 項 と して協 議 した」 とが どの程 度 重 複 す るの か が わ か らな いが,人 事 ・賃 金 制 度 の 改 定 に あ た っ て労 使 の 交 渉 が 公 式 に行 わ れ て い る割 合 は33.8%か 56.E%に 過 ぎな い 。 前 述 の 「能 力 主i義化 」 に対 す る認 識 で わ か る よ うに,多

くの 労 働 組 合 が 条 件 付 きな が ら 「能 力 主 義 化 」 を肯 定 して い るわ け だ が,そ う した付 帯 条 件 を現 実 化 す る た め に も,制 度 の 改 定 に あ た っ て は 労 使 間 で の 交 渉 を正 式 に行 う こ とが 必 要 だ ろ う。 そ うで な け れ ば,労 働 組 合 は職 場 に お け る規 制 力 を ます ます 失 う こ とに な ろ う。 因 み に,「 団体 交 渉 を行 っ た」 組 合 の 比 率 を産 業 別 に み て み る と,製 造 業 で は22.9%と 低 い の に 対 し て,運 輸 ・通 信 業 は49.3%,サ ー ビ ス 業 で は48.7%と 高 いi数字 を示 して い る。 運 輸 ・通 信 業 とサ ー ビ ス 業 の 労 働 組 合 は,「 能 力 主 義 化 」 に 対 して 否 定 的 見 解 を示 す 率 が 比較 的 に高 か っ た が,そ こ で は労 使 間 の 交 渉 も団体 交 渉 と して行

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年俸制 と日本 的雇用慣行 の変 容一13 わ れ る率 が 高 い こ とが わ か る。

人 事 ・賃 金 制 度 の 変 容 に 対 す る 労 働 組 合 の 見 解 に つ い て は,社 会 経 済 生 産 性 本 部 労 使 協 議 制 常 任 委 員 会 の 「産 業 構 造 変 化 へ の 対 応 施 策 と労 使 関 係 の あ り方 に 関 す る 調 査 」(1994年9月 実 施)で も調 査 を行 っ て い る20)。 「昇 進 ・ 昇 格 時 の 選 別 を 強 め る 」 こ と に 「賛 成 」 と 回 答 し た 組 合 が65.8%,「 反 対 」 が3.4%,「 ど ち ら と も い え な い 」 が29.5%で あ っ た 。 ま た 昇 給 の 査 定 幅 を 拡 大 す る 」 に 対 して は 「賛 成 」 が47.4%,「 反 対 」 が12.0%,「 ど ち ら と も い え な い 」 が38.9%で あ っ た 。 い ず れ も,今 や 多 数 の 労 働 組 合 が,一 律 の 年 功 的 昇 進 ・昇 給 を 守 る こ と をや め,個 入 間 格 差 の 拡 大 を 受 容 し て い る こ と を 示 して い る。 し か し 同 時 に,「 労 使 に よ る 最 低 賃 金 水 準 の ル ー ル 化 」 と 「労 使 に よ る適 正 賃 金 格 差 の ル ー ル 」 に 「賛 成 」 と 回 答 し て い る 組 合 も,そ れ ぞ れ 77.4%,68.8%を 占め て お り,無 制 限な 能 力 主 義 や 競 争 主 義 を 認 め て い る 訳

で は な い こ と も窺 え る。

7.お わ り に 年俸 制 の意義 と課題

年 俸 制 は 広 ま りつ つ あ るが,現 状 は部 長 職 な どの 管 理 職 に ほ ぼ 限 定 され て お り,し た が っ て労 働 組 合 の対 応 が 問 題 に な る段 階 で は な い。 た だ 将 来 的 に は 管 理 職 だ け で は な く,「 一 部 の 一 般 職 」 に も導 入 す る予 定 の 企 業 が 多 く,

そ うな る と組 合 が 対 応 す べ き問題 とな る。 ま た年 俸 制 は 管 理 職 に 適 応 され, 直 接 に は一 般 従 業 員 に 適 応 さ れ な い とは い って も,年 俸 制 の 導 入 が 職 場 全 体 の 能 力 主 義 化 に拍 車 をか け る結 果 に な る こ とは 考 え られ る。 した が っ て 現 段 階 で も労働 組 合 は年 俸 制 に典 型 的 に み られ る能 力 主 義 管理 に ど う立 ち 向 か う か が 問 われ て い る。 しか し現 状 で は何 らの 対 応 も,対 抗 の た め の理 論 構 築 も な され て い な い よ うで あ る。 よ うや く取 り組 み が 始 ま っ た と こ ろ で あ る。

しか し将 来 的 に は年 俸 制 の 適 用 範 囲 は か な り広 が る こ とが予 想 され る。 そ れ は,日 経 連 が 将 来 の 雇 用 シ ス テ ム を構 成 す る と予 測 して い る3つ の グル ー プ の う ちの 二 つ の グ ル ー プ に 年 俸 制 の=適用 が 考 え られ て い るか らで あ る。 し た が っ て 管 理 職 営 業 職,技 術 職 な ど ホ ワ イ トカ ラー の か な りの 部 分 が 将 来 的 に は年 俸 制 に よ る賃 金 を受 け取 る こ とが 予 想 され る。 ま た年 俸 制 の 影 響 は た ん に適 用 範 囲 が 広 ま る こ とに と ど ま る もの で は な い 。 た と え管 理 職 に だ け

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限 定 して導 入 した と して も,そ の 管 理 職 の 指 揮 の も とに あ る職 場 は掲 げ た 目 標 達 成 に 向 か って シ ビ ア な雰 囲 気 に な る こ とは 当 然 予 想 され る。 年 俸・制 に よ っ て厳 し く査 定 さ れ る管 理 職 は,部 下 に対 して も査 定 を厳 格 に行 い,そ の こ とに よ っ て 業 績 を上 げ る こ と をめ ざす は ず で あ る。 現 在 の 賃 金 制 度 は形 式 的 に は能 力 主 義 だ が,実 際 は 年 功 的 に 運 用 され て い る と,会 社 側 も労 働 組 合 側 もみ て い る21)。だ が 年 俸 制 の 導 入 ・拡 大 に よ っ て,現 在 の 形 式 的 な 能 力 主 義 が 現 実 的 な成 果 主 義 ・業 績 主 義 へ と変 容 して い くこ とは 充 分 予 想 さ れ る。

従 来 の 能 力 主 義 的 賃 金 制 度 が 個 人 の仕 事 遂 行 能 力 を評 価 の 対 象 に した の に対 して,年 俸 制 は あ くま で も結 果 と して の 仕 事 に 対 す る評 価 で あ る。 ヒ トに対 す る評 価 か ら仕 事 に対 す る評 価 へ とい う原 理 の 転 換 は,年 功 的 な部 分 を切 り 落 と し,ド ラ イ な評 価 を可 能 に す るの で は な い だ ろ うか 。 従 来 の 能 力 主 義 と

は違 っ て,業 績 主 義 に 基 づ く年 俸 制 の 新 し さが こ こ に あ る。

も ち ろ ん年 俸 制 自体 も実 際 に は年 功 的 に 運 用 さ れ る可 能 性が な い わ け で は な い。 問題 に な るの は 評 価 の 客 観 性,公 平 性 で あ る。 被 評 価 者 が 受 け 入 れ 難 い よ うな評 価 ・査 定 が な され る よ うだ と,年 俸 制 へ の 批 判 が 強 ま り,実 質 的 に は格 差 をつ け ず に年 功 的 に処 遇 す る とい う こ とに な りか ね な い。 した が っ て評 価 者 で あ る上 司 の 評 価 能 力 の養 成 や,妥 当 な評 価 基 準 の確 立 が な け れ ば な ら な い。 査 定 内容 が 公 開 され客 観 化 され る こ とが 必 要 で あ る。 さ らに,仮 に評 価 が受 け 入 れ 難 く,年 俸 契 約 が 成 立 しな い と きに は職 場 を変 え る可 能 性 が 開 か れ て い な け れ ば な らな い。 適 正 に評 価 が 行 わ れ な け れ ば 転 職 す る とい う選 択 肢 を もつ こ とが,評 価 され る側 の 交 渉 能 力 を高 め る こ とに な る。 逆 に い え ば,貴 重 な人 材 を失 うか も しれ な い とい う リス クが あ るか ら こ そ,会 は納 得 させ られ る評 価 を し よ う と努 め るの で る。 そ の こ とが 上 司 の 評 価 能 力 を高 め,評 価 基 準 の 妥 当性 を強 め る こ とに な ろ う。 転 職 の 可 能 性 が 閉 ざ さ れ た な か で の 年 俸 制 は,一 方 的 な評 価 ・査 定 の押 しつ け とな って,労 働 条 件 の 切 り下 げ の 手 段 に しか な らず,結 果 と して 従 業 員 の 意 欲 を喪 失 させ,職 場 の 雰 囲 気 を暗 くす るだ け で あ ろ う。 開 か れ た転 職 市 場,労 働 市 場 の整 備 が 年 俸 制 の 前 提 とな る課 題 で あ る。

だ が この こ とは それ ほ ど容 易 な課 題 で は な い 。 な ぜ な ら開 か れ た転 職 市 場 を整 備 し,労 働 市 場 に お け る流 動 性 を高 め る こ とは 「終 身雇 用 」 の 問 題 と関 わ って くるか らで あ る。 「終 身雇 用 」,正 確 に 表 現 す るな ら長 期 雇 用 慣 行 につ

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年俸制 と日本的雇用慣行の変容15

い て は 経 営 側 も労働 側 も維 持 して い きた い との希 望 が 強 い。 た とえば 「新 時 代 の 『日本 的 経 営 』」 の な か で も 「長 期 継 続 雇 用 は 戦 後 わ が 国 に 定 着 し,人 材 の 育 成 ・活 用,労 使 関 係 ・雇 用 の安 定 に よ る モ ラー ル ア ップ の維 持 な ど を 通 じて,企 業 の 発 展 に 大 い に 寄 与 し」 た と認 識 し て お り,「 今 後 と も大 切 に す べ き雇 用 慣 行 で あ る」 と して い る22)。 ま た1994年 に 大 企 業2000社 を対 象 に行 わ れ た 「日本 的 雇 用 制 度 ア ン ケー ト調 査 」 で も,今 後 の終 身雇 用 の あ り 方 を ど う考 え る か とい う設 問 に対 して,56.3%の 会 社 が 「原 則 と して これ か

ら も終 身 雇 用 を 維 持 して い く」 と回 答 して い る。 そ の ほ か の 回 答 と し て は

「部 分 的 な修 正 はや む を得 な い」 が35 .7%で あ り,「 基 本 的 な見 直 しが 必 要 で あ る」 は5.8%に す ぎ な い23)。 こ の よ うに 長 期 雇 用 慣 行 に つ い て は そ の 役 割 が 評 価 され,維 持 して い く との 意 向 が 強 い。 だ が,年 俸 制 の 前 提 と して転 職 市 場 を整 備 す る とい うこ とは,中 途 採 用 をか な りの 量 で行 う とい うこ とで あ

り,実 質 的 に 長 期 雇 用 慣 行 が 崩 れ る こ と を意 味 す るだ ろ う。 この 点 で,年 制 の 導 入 と 「終 身 雇 用 」 の維 持 とは矛 盾 す る側 面 を もつ の で あ る。

さ らに制 度 の 持 つ機 能 とい う面 で考 え て も,年 俸 制 は 終 身雇 用 の長 所 と し て捉 え られ て い た役 割 を掘 り崩 して い く可 能 性 を も って い る。 藤 村 博 之 は, 長 期 雇 用 慣 行 に よ る雇 用 の安 定 が 労 働 意 欲 を高 め て い る との 立 場 か ら,長 期 雇 用 慣 行 が な くな っ た場 合 に 人 々 の 仕 事 に対 す る取 り組 み 姿 勢 に 与 え る影 響 を6つ に分 け て 検 討 して い る24)。 そ れ は,① 課 題 設 定 が 短 期 の 視 点 か ら行 わ れ,中 長 期 の 発 展 に 無 関 心 に な る,② 他 者 で も通 用 す る̲̲..̲rf的能 力 の 向 上 に努 め る よ うに な り,企 業 特 殊 的 能 力 の養戒 に は 消 極 的 に な る,③ 自分 に 与 え られ た課 題 遂 行 の み に努 力 し,組 織 全 体 の 生 産 性 向上 は 二 の 次 に す る よ う に な り,組 織 内 の助 け合 い を軽視 し,結 果 と して 誰 も しな い仕 事 が 発 生 す る,

④ 仲 間 の雇 用 を危 う くす る こ とは しな いか ら,要 員 削 減 に つ な が る改善 に は 取 り組 ま な くな る,⑤ 上 司 の評 価 を 第1に 考 え る結 果,顧 客 満 足 を忘 れ て し

ま う,⑥ 金 銭 的 報 酬 に 固執 し,今 期 の業 績 を直 ちに 報 酬 化 す る こ と を望 み, 来 期 以 降 に つ なが る仕 事 の 停 滞 が お こ る,の6点 で あ る。 こ の うち,①,③,

⑤,⑥ は年 俸 制 に よ っ て も引 き起 こ され る可 能 性 が 高 い し,② も可 能 性 が な い とは い え な い 。 つ ま り長期 雇 用 慣 行 が 維 持 され て い た と して も,そ の も と で年 俸 制 が 導 入 され れ ば,長 期 雇 用 慣 行 を な く した場 合 と同様 な影 響 を うけ る こ とが 考 え られ るの で あ る。 前 述 し た よ うに,年 俸 制 を積 極 的 に 活 用 す る

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た め に は転 職 市 場 の 整 備 が 前 提 とな り,そ の こ と 自体 が 長 期 雇 用 慣 行 を崩 し て い く結 果 に な ら ざ る を え な い。 しか も年 俸 制 は 長 期 雇 用 慣 行 の メ リ ッ トを 帳 消 しに して し ま う危 険 性 も孕 ん で い る。 年 俸 制 と長 期 雇 用 慣 行 との 両 立 は か な り困 難 な 課 題 で あ る とい わ ざ る を え な い 。

(注)

(1)「 朝 日新 聞 」,1996年3月28日,朝 刊 。 (2)「 日 本 経 済 新 聞 」,1996年2月19日,朝 刊 。

(3)社 会 経 済 生 産 性 本 部 生 産 性 研 究 所 『わ が 国 年 俸 制 の 現 状 と 展 望96年 調 三査…』,P.16.

(4)調 査 結 果 は1割 弱 で あ る が,同 書 に よ れ ば 「実 際 の 年 俸 制 導 入 は 本 調 査 結 果 よ り も 多 少 高 い と 思 わ れ る 」 と 推 測 さ れ て い る 。 そ の 根 拠 と し て,前 回 (92年)調 査 に 比 べ て 導 入 後 数 年 を 経 た 企 業 か ら の 回 答 が 少 な か っ た こ と な ど が あ げ ち れ て い る 。

(5)菅 野 和 夫 「『年 俸 制 』」,『 日本 労 働 研 究 雑 誌 』,1994年1月,No.408,p.74.

(6)日 本 経 営 者 団 体 連 盟 『新 時 代 の 「日 本 的 経 営 」 挑 戦 す べ き 方 向 と そ の 具 体 策 一 』,p.89.

(7)以 下 の 記 述 は,亀 山 直 幸 「年 俸 制 導 入 と 日 本 型 雇 用 慣 行 」(『 日 本 労 働 研 究 雑 誌 』,1995年6月,No.423,pp.61〜67)と 浅 川 栄 一 ・茅 野 広 行 ・町 田 秀 樹 『年 俸 制 で 会 社 が 変 わ る 』(日 本 能 率 協 会 マ ネ ジ メ ン ト セ ン タ ー)を 参 照

し て い る 。 た だ し 亀 山 論 文 で は 本 田 技 研 はB社 と し て 記 述 さ れ て い る 。

(8) (g}

tlo) (11) (12) (13) (14}

(15)

亀 山,前 掲 書,p.66。

社 会 経 済 生 産 性 本 部 生 産 性 研 究 所,前 掲 書,pp.23,24.

雇 用 情 報 セ ン タ ー 『年 俸 制 の 進 め 方 と 課 題 』pp.168,179.

労 働 大 臣 官 房 政 策 調 査 部 編 『日 本 的 雇 用 制 度 の 現 状 と 展 望 』pp.183〜184.

社 会 経 済 生 産 性 本 部 生 産 性 研 究 所,前 掲 書,p.22.

経 済 企 画 庁 編 『平 成7年 版 国 民 生 活 白 書 』,p.398.

労 働 大 臣 官 房 政 策 調 査 部 編 『日 本 的 雇 用 制 度 のi現 状 と 展 望 』pp.172‑一 一173.

連 合 は 本 年7月 に は じ め て 「賃 金 制 度 に 関 す る 特 別 調 査 」 を 行 っ た が,こ の なか で 年 俸 制 の 導 入 を は じめ と した様 々 な 賃 金 制 度 改 定 の動 きに 対 す る労 働 組 合 の 考 え方 に つ い て 回 答 を求 め て い る。 しか し,調 査 結 果 は まだ 発 表 さ

れ て い な い。

(16)雇 用 情 報 セ ン ター 『年 俸 制 の 進 め 方 と課 題 』p.176.

(17)同 書,p.42よ り引 用 し た。

(18)労 働 大 臣 官房 政 策 調 査 部 編 平 成8年 版 日本 の 労 働 組 合 の 現 状II労 使 関

(17)

年俸制 と 日本 的 雇用慣行 の変 容17 係 総 合 調 査 労 働 組 合 活 動 等 実 態 調 査 報 告 』P.78.

(19)同 書,pp.74〜77.

(20)社 会 経 済 生 産 性 本 部 『1995年 版 労 使 関係 白 書 雇 用 変 革 時 代 の 人事 ・賃 金 ・労 使 関係 』pp.214〜215.

(21)同 書,p.94,「 貴 社 の 人 事 ・賃 金 制 度 は年 功 的 で あ る とお 考 え で す か 」 と い う設 問 に対 し て,「 制 度 も運 用 も年 功 的 で あ る」 と い う回 答 は 会 社 側17.4

%,労 働 組 合 側17.5%f「 制 度 は 能 力 主 義 的 だ がT運 用 は 年 功 的 で あ る」 は 会 社 側46,6%,労 働 組 合 側53.4%,「 年 功 要 素 と能 力 要 素 が 併 存 して い るが, 能 力 要 素 が 多 い 」 は会 社 側32.4%,労 働 組 合 側27.4%,「 制 度 も運 用 も能 力 主 義 で あ る」 は会 社 側2.8%,労 働 組 合 側1.3%で あ り,「 制 度 は 能 力 主 義 的 だ が,運 用 は 年 功 的 で あ る」 との 回 答 が 会 社 側 も労 働 組 合 側 も と もに 最 も多 か っ た。

(22)日 本 経 営 者 団 体 連 盟 『新 時 代 の 「日本 的 経 営 」 挑 戦 す べ き方 向 とそ の 具 体 策 』p.30.

(23)労 働 大 臣 官房 政 策 調 査 部 編 『日本 的 雇 用 制 度 の 現 状 と展 望 』p.88.

(24)藤 村 博 之 「日本 型 雇 用 慣 行 は も うダ メ な の かa長 期 雇 用 と人 材 育 成 の 将 来 」 『日本 労 働 研 究 雑 誌 』,1995年7月,No.423,pp.50〜60.

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