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子育て支援センター「ベアリス」における

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Academic year: 2021

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はじめに

 立正大学社会福祉学部は2016年に創設20周年を迎えた。これを受けて,学部内では2014年 度に複数のプロジェクト研究が設定された。本研究は「地域子育て支援センターの現状と課 題」のプロジェクトテーマに基づいて行われたものである。本研究が成り立つまでには幾つ かの前段階を経ている。まず,その経緯から記す。この研究に先立つ2011年に,埼玉県熊谷 市と立正大学社会福祉学部の連携により,熊谷キャンパス内に地域子育て支援拠点として熊 谷市子育て支援センター「ベアリス」(以下,ベアリスと記す)が設立された。その設立の経 緯については,本誌の志村(2017ⅰ))によって,詳細な報告がなされている。志村が行ったベ アリス設置に関する聞き取りの内容は,迫田氏(元立正大学教授)によるものである。その 設置目的は地域の子育て家庭への貢献であるが,迫田元教授は,学生の学びの場であるべき だと考えていたという。既存の熊谷市の子育て支援センターと大きく異なる点として,ベア リスは教育機関である大学キャンパス内に設置されているということが挙げられよう。2016 年は,ベアリスが設立されて 5 年が経っており,現状を把握することによって,ベアリスと 大学との連携がどのような形で効果を成し得ているのか,検証が可能な時期になってきたと 思われる。

 大学と子育て支援センターの連携に関する先行研究では,木田・水内・増田(2001ⅱ))や森 下・室(2011ⅲ))によって,大学側が相談事例集を作成する取り組みや実習指導室との連携に ついて報告がなされている。本研究は,学生が音楽の授業時間内に子育て支援センターへ赴 き,利用者にむけて音楽活動を行うという取り組みから,新たな知見が得られるものと期待 して,子育て支援センターと大学との連携の意義と学生への教育効果を検討するものである。

この取り組みは,2009年に「保育実習 2 の研究」の授業内で学生が記した「実習事前指導シー ト」の中に,保育実習での音楽活動に対する不安が複数みられたことがきっかけとなり,ベ アリスが開設された2011年から始まったものである。この状況を改善する手立てとして,教 科「音楽Ⅰ」では,キャンパス内に設置されたベアリスを,授業の一部で活用することとし

*立正大学社会福祉学部子ども教育福祉学科

キーワード:子育て支援センター,大学との連携,弾き歌い

子育て支援センター「ベアリス」における 音楽授業の活用

Application of music lesson

in Child-Raising Support Center “ BEARIS ” 板野 晴子

Seiko Itano

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た。

 学生の実践の経過を学部20周年のプロジェクト研究の機会に検討を行うことにより,子育 て支援センターが大学キャンパス内に設置されていることの意義を明確にすることができる と考えた。よって,本研究では,授業「音楽Ⅰ」で行ったベアリスでの弾き歌いの実践から,

大学と子育て支援センターの連携についての意義を明確にすることを目的とする。ただし,

この取り組みは学部20周年記念のプロジェクト研究が計画される前から行われているもので あるため,学生による実践の記録は研究用に準備されたものではなかった。しかしながら,

学生の記述は 2 回に亘る実践の振り返りから,彼らの意識の変容を読み取ることが出来る部 分も含まれており,資料としての価値を有していると思われるため,本研究の検討には,当 時の記録を用いるものとする。

1 .学生の基礎的な能力

⑴ 学生の音楽経験

 本学部子ども教育福祉学科の学生の殆どは,保育士,幼稚園教諭,小学校教諭を目指し,

将来の進路として考えている。保育・教育の場において,表現活動や授業における音楽的能 力は必須であり,本学科のカリキュラム上,音楽Ⅰは必修,音楽Ⅱは選択必修として位置づ けられている。音楽Ⅰでは,学生の音楽経験を考慮したクラス分けを行うために,音楽学習 の環境,期間について入学時に簡単なアンケートを取っている。小学校,中学校で行われる 音楽授業以外での音楽学習経験(民間の音楽教室での学習,部活動,サークルを含む)を有 する学生は半数以下であり, 1 年次の前期から履修する音楽Ⅰで行われる「子どもの歌の弾 き歌い」に戸惑う学生は少なくない。義務教育期間の 9 年,さらに高校の芸術教科で音楽を 選択していた学生であっても,音楽授業のみでは,ピアノ演奏や弾き歌いの手法までは習得 していないというのが実態である。

⑵ 現場で求められる音楽的能力

 本学の学生たちが希望する職種は,保育士,幼稚園教諭,小学校教諭である。それらの職 種において求められる音楽的能力は以下のとおりである。

  1 )保育士試験ⅳ)

・音楽表現に関する技術

 幼児に歌って聴かせることを想定して,課題曲の両方を弾き歌いする。

・ 求められる力:保育士として必要な歌,伴奏の技術,リズムなど,総合的に豊かな 表現ができること。

・課題曲: 1 .『かたつむり』   2 .『オバケなんてないさ』

 保育の場においては,「音楽表現」として童謡を歌うという活動がなされるため,ピアノま たはギターによる伴奏をしながら歌う,弾き歌いができることが求められている。提示され

(3)

た課題曲からも分かるように,ゆっくりとした簡易な曲だけではなく,活発で複雑なメロ ディ,動きのあるリズム,♯や♭が使用された調,子どもの興味を惹く歌詞によって作られ た曲でも活動できるかどうかが求められている。

  2 )幼稚園教諭試験

・ 一般的な採用試験として実技試験を実施する園も多く,内容はピアノや保育実習が 大半ですⅴ)

 上記に見られるようにピアノが試験に課せられる園も多い。特に,童謡の弾き歌いの他に,

ソナチネ,ソナタなどのピアノ曲の演奏を課している園もあり,幼稚園教諭には子どもとの 活動の中で音楽を愛好する姿勢に併せて,音楽教育の能力が求められていることが判る。

  3 )小学校教員採用試験

 小学校教員採用試験において,平成26年度採用(25年度実施)から実技を免除した埼玉県 の例に見られるような自治体が多くなってはいるが,その一方で,長野県や滋賀県のように,

ピアノ演奏,歌唱の他にリコーダー演奏も加えられている状況もあり,実技試験の実施に関 して,その対応は自治体によって様々である。

 上記⑴と⑵の内容とを比較すると,本学学生の入学当初の音楽の基礎的な能力と,保育者,

教育者として求められる音楽の能力との間にある隔たりは小さくない。特に,小学校の採用 試験においてピアノを課す自治体が減っているという現状について,その背景には,昨今の 教育現場においては,教科の専門化を推め,専科の教員が授業を担当するという取り組みが なされつつある,ということが挙げられる。また,優秀な人材を実技で不採用にしてしまう という問題に対する対応であるということも言われている。しかしながら,学校によっては 音楽専科が音楽授業を担当しない状況もあるため,小学校教員を目指す学生は,学年ごとに 4 曲設定された共通教材24曲および「君が代」の,計25曲を指導するための音楽的能力を培 うことが望まれるのである。もちろん音楽授業は共通教材のみが扱われるものではなく,愛 唱歌も教材として使用され,表現(歌唱・器楽・音楽づくり),鑑賞といった音楽の内容を子 どもたちに教育することからして,学生の音楽の基礎的能力を育成することは必須とされる。

⑶ 実習に対する学生の不安感

 本学部内においては学生の教育,生活全般について,教員間での情報共有がなされている。

特に,学生が学外で活動する実習については,実技担当教員である筆者と,実習担当教員と の間での連携は欠かせない。「はじめに」の項でふれた「実習事前指導シート」は,「保育所 実習 2 」の授業内で,学生が 1 回目の保育所実習を終えての振り返りを行い,次への課題を 考えるために書かれたものである。回答日は2009年 6 月30日である。この回答の一部に音楽 活動に対する不安が見て取れたため,実習担当教員の了解を得て書き写した。教科担当者と して,音楽の演奏技術を向上させるのみではなく,実践の場を提供することにより,子ども

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に向き合った音楽活動について,学生がイメージしやすい取り組みをする必要があると感じ た。学生の基礎的能力は,演奏技術よりも,実践力の裏付けがあって伸長する,と考えて始 めた取り組みが,ベアリスの利用者の前で童謡を弾き歌いする,という音楽活動の実践であっ た。実習事前指導シートの回答項目は「現時点での将来の目標」,「事前準備で取り組みたい こと(事前の講義で取り上げてもらいたいこと)」,「実習に対する不安について教えてくださ い」が表面にあり,裏面には個人の取り組みについて記載するスペースとなっている。筆者 が提供を受けたのは「実習に対する不安について教えてください」の項目に対する回答であっ た。

〈実習事前指導シート:実習に対する不安に関する回答ⅵ)

自分がどのような立場でいればいいか,実習生はどのような行動をしていればいいのかわからな かった。

うまく先生・職員・保育士の方々と付き合っていけるのか 子どもとの接し方・うまい声かけの仕方がわからない

部分実習などを行う時のはじめ方をどうしたらよいかわからず不安だった。

これといった不安要素はないが,なかなかない経験のため不安になっていた。

ピアノがはたしてひけるのか

保育士との関係・実習ノートのまとめ方

保育士さんとの関係,正しい言葉かけ,部分実習的なもの

ピアノが苦手なので弾くよう言われた時は,上手に弾けないので焦ってしまった。自分が弾いた ことがない曲を出された時どうしようと不安に思う。

体調や精神状況が良くない時,実習に集中できるか。教わった手遊びや作った遊び道具などを使っ て良いと言われたが,保育者が別の手遊び等を行っている時,別の場で始めても良いのか 子どもとうまく関われるか

保育士の方とうまくコミュニケーションが取れるのか 実習ノートの書き方,絵本の読み聞かせ,体調面

積極的にやっているつもりなのだが,先生からは積極的に見られないことはある。

童謡や手遊びなどのレパートリーが少ない。

先生とうまくやっていけるのか

手遊びや紙しばい等,まだあまり分からない頃だったので事前に準備はしていても,実際にでき るか不安だった。また,うまくうちとけられるかも不安だった。

体調を崩してしまわないか,実習記録の毎日まとめられるか,手遊びはどのようにしたらよいか。

子どもとの関わり方,子どもの名前がちゃんとおぼえられるか。

ちゃんと実習を乗りきられるのか,給食(苦手なものがでてきた時など)。

子どもたちの前でどのような道具を使って(自分でつくったり)どうすればよいかわからなかっ た。

 上記から,子どもや保育士との関わり方の他に,実技として音楽をどのように扱うのか,学 生が保育の現場をイメージできていないことから出た不安であったことが想像できる。

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2 .ベアリス訪問による学生の意識の変化

 下記は,ベアリス訪問時に学生に配布し,記入させたプリントである。ここでは項目のみ 記したが,実際は記入する余白が入り,A 4 版一枚である。

〈ベアリスでの実践記録のプリント〉

1 回目(2014.5)曲名「      」 1 .上記の曲を選んだ理由を記してください。

2 .音楽に関する不安,悩みなどがあったら記してください。

3 .第 1 回目の実践を振り返り,次への課題を記してください。

2 回目(2014.10)曲名「      」 1 .上記の曲を選んだ理由を記してください。

2 .音楽に関する不安,悩みなどがあったら記してください。

3 .第 2 回目の実践を振り返り,次への課題を記してください。

 記入させる項目は,保育園,幼稚園,小学校における音楽活動について,どう感じている のか,不安はあるのか,を具体的に把握すること,ベアリスへ年に 2 回訪問することにより 学生の不安感が軽減するかを読み取ることを目的にして設定した。記入用紙は,2011年から 2015年まで同様の形式のものを使用している。今回の分析には2014年の記録から,履修番号 が連続している10名を抽出した。なぜなら,ベアリスでの実践後は授業時間の終了間際であ り,十分な記録の時間をとることは困難で,未記入のグループもあったからである。この状 況の中で, 2 回分の記述が比較的書き込まれているグループの記録を資料とした。

 授業ではグループレッスン,個人レッスンそれぞれに課題の曲を学習しているが,ベアリ ス訪問時は,学生が自ら選択した童謡を利用者の前で実践することとした。本学科の音楽履 修者数は, 1 学年100名である。2014年は再履修者,再々履修者を合わせて107名がベアリス での弾き歌いの実践を行った。 1 コマ50名が ML 教室でグループレッスンを受ける週と,音 楽講師 5 名に振り分けられて個人レッスンを受ける週とが隔週で設定されている。ベアリス 独自の行事も鑑みつつ,グループレッスンの週に前期 1 回,後期 1 回の年間 2 回は訪問でき るように計画した。活動時間は 1 グループ30分, 1 人につき,任意で選択した 1 曲を利用者 の前で弾き歌いを行った。

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〈ベアリスでの実践記録〉

( 1 回目  1 )

A かえるのうた(みんなでクワッのところも歌えるノリの良い曲だから)

B むすんでひらいて(弾いていて手遊びが簡単にできるから)

C むすんでひらいて(小さい子も一緒にできると思った,安定して弾ける曲だった)

D 七夕(七夕の行事が近かったから)

E ちょうちょう(この曲しか弾けなかったから)

F むすんでひらいて(みんなが楽しく歌って踊れると思ったから)

G むすんでひらいて(手遊びをしながらできると思ったから)

H ぶんぶんぶん(みんな知っているので)

I むすんでひらいて(グループでかぶらないようにしたため)

J ぶんぶんぶん(その時弾ける歌だったので)

( 1 回目  2 )

A 小学校教諭のピアノのレベルがどの程度なのか知りたい。

B 全体的に不安なので自主練習を頑張りたい。楽しめるピアノを弾けるようになりたい。

C 音符の読みが不安で,音符を理解するまでに時間がかかるけど,練習練習……たくさん練習してなんとか弾けています。

D ピアノのこの先が不安。どんどん難しくなり,時間がどれくらいとれるかが不安。

E *未記入

F 音符も読めなくて,練習が大変な面が多くあります。

G あがり症なので,練習の時はばっちり弾けるが,人前だと弾けなくなってしまう。

H 人前だと緊張する。

I うまく弾けない曲が増えてきて,見てすぐに弾けるようになるのかと不安に思いました。

J テストが終わる度に弾けた曲が弾けなくなってしまう。

( 1 回目  3 )

A 緊張した。手が震えてしまったので,緊張になれたい。

B ボロボロで全然弾けなかった。始める前にひと呼吸おいて自分のリズムで弾き始める。

C 緊張したけど,子どもの前で失敗せずに弾けたので,楽しさを感じた。もっとレベルの高い曲を弾きたい。

D 初めて弾いて,間違えてしまった。慣れるようにする。

E 緊張で弾き間違えてしまった。でも子どもたちが元気よく歌ってくれて嬉しかった。

F 楽しく弾けましたが余裕がなくて子どもの顔を見ることができませんでした。次の曲は「この曲しか弾けないから」ではなく,「楽しめると思ったから」という理由で選びたい。

G あまりに緊張しすぎてつまずいた。準備をしっかりして,余裕をもって挑みたい。

H 緊張するのでリラックスする。ピアノを人前で弾くことが苦手なので慣れたい。

I 緊張してうまく弾けなくても子どもたちが興味をもってくれて楽しかった。余裕をもつ。

J ピアノは弾けたけど,歌えなかった。緊張してもしっかり弾いて,子どもたちに楽しんでもらいたいです。

(7)

( 2 回目  1 )

A 大きな栗の木の下で(自分が今一番自信がある曲だから)

B きらきら星(みんな知っている曲だし,手遊びもできる曲だから)

C おつかいありさん(子どもも身振り手振りで一緒にできると思ったから)

D 大きな栗の木の下で(手遊びがあり,子どもたちが楽しめると思ったから)

E 夕やけこやけ(秋っぽいから)

F ちょうちょう(みんなが知っている曲で身近な歌だと思ったから)

G 大きな栗の木の下で(前回のとは違う曲を弾きたいと思い,唯一弾ける曲だったから)

H 山の音楽家(楽しいし盛り上がるから)

I 欠席

J 山の音楽家(弾けるようになった)

( 2 回目  2 ) A *未記入

B 施設への就職の場合,やっておいた方がいいことなどありますか。

C *未記入

D 小学校の曲はもっと難しいので,しっかりできるか不安。

E *未記入

F やっぱりピアノがあまり得意ではないです。

G *未記入 H *未記入 I *未記入 J *未記入

( 2 回目  3 )

A 雰囲気がわかっていたので前回ほど緊張はしなかったが左手があまり動かなかった。まだ不完全だったので,完璧にしておく。

B 一回目に比べて自分らしく,自分のリズムで弾けた。もっと大きな声で歌う。

C 練習では上手くいってたのに,本番前に緊張してひっかかってしまった。失敗しないくらい準備してからやる。

D 間違えずに弾けた。前回よりも緊張しなかった。もう少し,声をかけられるようにしたい。

E 間違えずに弾けたが,声をあまり出せなかった。盛り上げるように,楽しくやりたい。

F 今回はしっかり弾きながら歌うことができました。まだ楽譜から目を離せないので,しっかりと暗譜したいと思います。

G 間違ってしまい,戻って弾いてしまった。間違っても戻らないように日々の練習努力する。

H 緊張した。声をしっかり出す。

I 欠席

J 急いでしまった。ペースを崩さないように弾く。

 上記のAからJまでの10名の記録から, 1 .曲の選定とその理由, 2 .音楽に関する不安 感, 3 .実践の振り返りと課題 の 3 項目について,学生の意識に変化が見られたのかを検

(8)

討する。

1 .曲の選定とその理由

  1 回目の訪問時は,まだピアノ学習が浅かったため,演奏可能な曲も限られている。グルー プ内での曲目の重複が見られた。四分音符,八分音符を中心にしたリズム,旋律も順次進行 が中心となっている曲を選択している。 2 回目の訪問時は,スキップやリタルダンド,軽快 なテンポなど,リズムに変化が見られる曲であり,跳躍進行の旋律,F dur,D dur という調 性の曲を選択している。

  1 回目の曲の選定理由については,自ら曲を選択できるということであったが,「この曲し か弾けない」,「その時弾ける歌だった」という理由が挙げられ,選ぶという以前の状況であっ た。学生自身に,グループで同じ曲を何度も利用者に活動してもらうことは避けたいという 考えはあったようだが,結果的にはレパートリーの少なさが露見している。しかしながら,

2 回目では,「自信がある」「弾ける」という前向きな言葉が見られ,子どもと一緒に活動す ることをイメージするだけではなく,季節感を取り入れること,音楽の美しさを感じとらせ たいという教育的視点や取り組みが見られるようになった。

2 .音楽に関する不安感

 教育現場に必要なレベルについて,ピアノのテクニックに関する不安,音楽の知識に関す る不安,人前で音楽活動をすることに対しての不安,緊張,悩みなどが記されている。不安 を訴えなかった学生は10名中 1 名であった。 2 回目になると,これらの不安は軽減されてい る。自分の将来のために,さらに何を手掛ければよいのか,という積極的な問いが発せられ た。また,小学校の教材が具体的にわかるようになっている。ピアノが不得手なままである,

と自己分析している学生もいるが,不安を述べる学生の割合は減少した。

3 .実践の振り返りと課題

  1 回目は10名中 9 名の学生が,緊張から思うような音楽活動にならなかったと振り返って いる。しかし, 2 回目は緊張という言葉は減少している。課題として, 1 回目は,自分が想 定した活動をするためには,準備をすること,場に慣れることである,という気付きを挙げ ている。 2 回目は「完璧に」「盛り上げるように」という前向きな言葉が見られる。さらに,

利用者への声がけや暗譜の必要性,声量など,自分が弾き歌いする際に,留意すべき事項を 明確に捉えることが出来ている。

3 .子育て支援センターと大学の連携の成果と考察

 厚生労働省は地域子育て支援拠点事業の概要の一部として,子育て支援センター等の拠点 施設における中・高校生や大学生等ボランティアの日常的な受け入れ・養成の実施を示して

(9)

いるⅶ)

 ボランティアをした生徒らによって,「保育に関心を持った」という報告がなされている が,これと比較すると,本学科の学生は,既に保育・教育への関心は持ち合わせており,ボ ランティア的利用とは異なり,さらに一歩,実践的に立ち入った活動内容であったため,特 色ある取り組みを成したといえよう。

 音楽授業でベアリス訪問を行うことになった経緯に再度触れるが,学生が音楽活動につい ての実習不安を挙げていることから,教科として,単に弾き歌いの為の歌やピアノの演奏法 や技術を伝授するのみではなく,教室から外へと実践の場を求めてみようと考えたことがきっ かけとなっている。特に,実習という一つ一つの活動が評価に結びついてゆく環境で,実際 に目の前の子どもたちとの関係を築きながら,自分の音楽的力量を披露しなければならない という状況は,まだ保育・教育の現場での実践経験が浅い学生にとってはストレスフルであ ることは容易に想像できた。今回のベアリス訪問は,事前に利用者の年齢構成や全体の人数 などが判らない状況の中での実践であったため,音楽技術そのものよりも,その場にすぐ対 応できる学生の力を育成するための環境を,十分に活かすことができた取り組みであった。

このように,実習に対する不安を減少させること,また,子どもたちの側にたった活動を考 えることが出来るようになったこと,など,ベアリスでの実践は,学生が自信をもって実習 に臨むことが出来る方法として有効であったといえる。

 本学による「音楽Ⅰ」での取り組みにより,学生らは利用者を前にした音楽的活動の実践 を積み上げることで,子どもらを見つめる保育者・教育者としての姿勢を考えるに至ってい る。これは学内授業のみでは得られなかった,成果の一つといえるだろう。この数年の取り 組みを経て,学生自身から,また,音楽のレッスン担当の講師の先生方からも,ベアリスで の経験が,実践力の向上に効果的であった,という感想も出ている。更に,ベアリスの職員 の方々からは,演奏に対する意見,子どもへの接し方,施設の利用法,ボランティアおよび アルバイト生の受け入れについての案内など,多くの教示を頂くことができる場でもあった。

職員の方々からのアドバイスを,学生達はリアルさを伴って受け止めたようで,これは,実 習への事前準備の場として非常に有効であったと言える。一方の利用者からは,「(将来入る であろう)保育園での,自分の子どもの様子がイメージできた」,「このような機会は他の支 援センターにはないので良かった」,「子どもが学生さんと一緒の空間にいることができ,と ても嬉しい」という,ベアリスの特徴的な活動として理解され,おおよそ好意的な感想を得 た。この実践に複数回立ち会った利用者からは,「季節の歌,手遊び,リトミックをしてほし い」という要望だけではなく「こちらで何か協力できることがあれば喜んでします」という 申し出も頂いた。この取り組みによって,利用者からの学生への期待感と共に,利用者がベ アリスに対してどのような活動内容を望んでいるのかも明確に捉えることが出来た。このこ とは授業者にとっても,授業内容へ反映させる貴重な資料となった。20周年プロジェクトの 立ち上げ以前から行ってきたこの活動は,授業改善のヒントを得る一助となった。結果,大

(10)

学の授業の活動の一部を,ベアリスとの連携に活用することによって,ベアリスは,地域の 方々への福祉的役割のみではなく,学生,利用者,施設の三者の意識の繋がりを深めると共 に,教育的役割も併せ持つものであることが明らかになった。

おわりに

 現在,ベアリスを授業で活用する取り組みは他教科にも広がりつつある。今後は大学内に おける教科間の連携を図り,学生への教育に還元するのみならず,利用者の満足度のさらな る向上を目指してゆくことが出来れば,と考えている。このことは熊谷市と大学が連携して いるベアリスの特色化を一層深めることになると期待できよう。

 最後に,この研究は,立正大学社会福祉学部設立20周年記念プロジェクトA「地域子育て 支援センターの現状と課題―熊谷市内の地域子育て支援センターの調査を中心に―」に対す る助成を受けて執筆したものであることを付記しておく。

ⅰ)志村聡子「立正大学社会福祉学部子育て支援センターの開設と展開―初代センター長へ の聞き取り―」(2017)pp.13-24

ⅱ)七木田敦,水内豊和,増田貴人「子育て支援センター間の連携と大学研究機関の地域支 援」日本保育学会大会研究論文集(54)pp.220-221(2001)

ⅲ)森下順子,室みどり「大学と地域子育て支援センター連携による子育て広場―平成21年 度の試み―」信愛紀要(51)pp.67-73(2011)

ⅳ)一般社団法人全国保育士養成協議会「保育士試験を受ける方へ」www.hoyokyo.or.jp/

exam/(2016.11.2閲覧)

ⅴ)東京都私立幼稚園連合会「教職員をめざす方へ」http://toshiyo.net (2016.11.2閲覧)

ⅵ)「保育所実習 2 」(2009)による資料提供を受けたものを筆者が書き写したものである。

ⅶ)厚生労働省 HP「子ども・子育て支援」http://www.mhlw.go.jp(2015.11.30閲覧)

参照

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