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公共サー ビスにおける市場 - 準市場か らの接近

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(1)

公共サー ビスにおける市場 ‑ 準市場か らの接近

児 山 正 史

は じめに

近年の公共サー ビス改革 において、「 市場」の要素の導入が重要 な位置を 占めている。例 えば、

NPM (New PublicManagement)(

新公共管理) とは、「 市場 メカニズムの活用、エー ジェンシー への権限委譲、成果志向 ・顧客志向の業績測定などを中核 とした改革」の思潮 と手法であるとされる ( 西尾

200

1

〕10)

。また、階統制 とは異なるガバナンスの形態 として、市場、ネッ トワーク、コミュ ニティが挙げ られることもある

(pierreandPeters[2000日 4‑22)

公共サー ビスにおける市場の要素を表現するために、「 準市場」「内部市場」「 計画された市場」「 公 的市場」など、多様な概念が、多様な意味で用い られている。 これ らの うち、 日本でもよく用い られ ている 「 準市場

(quasimarket)

」に関 しては、 すでに概念の整理を行った ( 児山

2004〕)̀1 ‑。

しか し、

他のさまざまな 「 市場」に関 しては未整理であ り、多様な研究の相互理解、相互交流が困難な状況に ある。そ こで、本稿は、「 準市場」の整理に用いたものと同 じ枠組を使 って、さまざまな 「 市場」を 整理することにより、公共サー ビスにおける市場に関する研究を理論的に蓄積 してい くための基礎を 提供することを目的 とする。

以下、第 1章では、公共サー ビスにおける 「 市場」を整理するための枠組を提示する。第 2‑ 4章 では、この枠組を使って、「 内部市場」な どの修飾語つきの市場、公共サー ビスにおける市場の諸要素、

そ して、

NPM

論における市場を整理する。

1

章 市場の枠組

本章では、公共サー ビスにおける 「 市場」を整理するための枠組を提示する。以下、市場の概念、

その類型、市場が機能するための条件、の順に述べる。

1

.市場の概念

本稿では、「 市場」を

2

つの軸で捉える ( 表

1

) 。第

1

に、費用の負担者が政府か利用者か、第

2

に、

当事者 ( 政府、供給者、利用者)

(2

'間の関係が命令‑服従関係か交換関係かである。利用者がサー

ビスの費用を負担 し、当事者間に交換関係がある方式が 「 市場」である。対極的に、政府が費用を負

担 し、当事者間に命令一服従関係があるものが、伝統的な公共サー ビスの方式 ( 非市場)である。非

(2)

市場では、政府 と供給者は上級機関と下級機関の関係にあ り、政府は利用者を各供給者に割 り当てる 権限を持つ ( 例えば、 日本の公立小中学校) 。従って、公共サー ビスに 「 市場」の要素を取 り入れる とい うことは、 利用者が費用を負担すること、または、当事者間に交換関係をもたらす ことを意味する。

1

市場の概念

当事者間の関係 命令 ‑服従 : l 交換 費用の負担者 政 府 非市場 f : 1 準市場

荏 :「 非市場」は、一般的には市場以外のすべてのものを含むが、ここでは表のような意味に限定する。

本稿でい う 「 準市場」は、政府が費用を負担 し、当事者間に交換関係がある方式 ( 表の右上の 「 準市場

」)

で ある。なお、利用者が費用を負担 し、当事者間に命令 服従関係がある方式 ( 表の左下の

「(

準市場

)」)

の例 としては、 自校方式の学校給食が挙げ られるo

出典 :筆者作成

このように費用負担の軸 と当事者間の関係の軸を区別 して 「 市場」を把握するのは、次のような理 由による。第 1 に、近年の公共サー ビス改革における 「 市場」の要素の導入は、政府による費用負担 を基本的に維持 しなが ら行われている。例 えば、「 準市場」 とい う概念を提示 したレグラン ド

(.Le Gran d)

らは、1

988

年以降のイギ リスの福祉国家改革について、「 サー ビスへの国家の資金提供は 維持されたが、サー ビス供給のシステムは変化 した」 と述べていた

(LeGrandandBartlett【199313)

。 第

2

に、経済学における 「 市場」の本質は、「 交換

( 取引、売買)である。「 市場」の最も簡単な定 義は、「 財の交換がなされる場」 とい うものである ( 武隈

1999〕5)

本稿では、 政府が費用を負担 し、当事者間に交換関係がある方式を 「 準市場」と呼ぶ。準市場が 「 準」

であるのは、サー ビスの費用を利用者ではな く政府が負担するか らである。準市場が 「 市場」である のは、当事者間に交換関係があるか らである。ただ し、準市場では、費用の負担者 とサー ビスの利用 者が必ず しも一致 しないため、交換関係は非対称で複雑なものになる。l こ i J

「 交換」の本質は、経済主体間での財・ サー ビスと対価の移動である ( 奥野・ 鈴村

1985〕3)

。従って、

交換の前提は、その当事者が意思決定の主体であるとい うことである。また、交換関係が成 り立って いるとい うためには、財 ・サービスの移動 と対価の移動 との間に関連性がなければならない。以上か ら、当事者間の交換関係は、サー ビスの供給に関する意思決定の権限を供給者が持つ こと、同じく利 用に関する権限を利用者が持つ こと、そ して、サー ビスと対価の関連性が明確であることからなる。

なお、政府 と利用者の費用負担の割合や、交換関係の有無 ( 供給者の権限、利用者の権限、サー ビ スと対価の関連性)には、さまざまな程度がある。従 って、市場、準市場、非市場は連続的である。

1 28

(3)

2.

市場の類型

市場はさまざまな類型化が可能であるが、 ここでは、政府が資金を提供する 「 準市場」を念頭 に、

サー ビスの利用に関する意思決定の権限の所在に基づいて、「 政府購入型

「 専門職購入型

「 利用者 選択型」に類型化する ( 表

2)

2

市場の類型

利用 に関す る権 限

政府 専門職 利用者

供給 に関する権限 政 府 専門職購入型 利用者選択型

出典 :筆者作成。 )

「 政府購入型」は、政府 ( 広義)の機能をサー ビスの購入 と供給に分離 し、( 購入者 としての)政府 が利用者のために供給者か らサー ビスを購入するものである ( 例 えば、民間委託) 。 これは、供給者 がサー ビスの供給に関する意思決定の権限を持つ こと ′ 4'を前提 とするが、利用者は権限を持たない。

次に、「 利用者選択型」 は、サー ビスの利用に関す る意思決定の権限を利用者 (またはその近親者) が持つ ものである ( 例えば、 学校選択制) 。 しか し、 供給者が権限を持つ場合 とそ うでない場合がある。

さらに、 これ らの中間 として、サー ビスの利用に関する意思決定の権限を、利用者の代理人を務める 専門職が持つ型

(

「 専門職購入型」) もある 、 5、 。 ここで も、供給者が権限を持つ場合 とそ うでない場 合がある

̀6 ト

3.

市場の条件

「 市場」を導入するだけでは、それが意図 した結果を生み出す とは限 らない。市場が機能するため には、一定の条件を満たす必要がある。 「 準市場」の概念を提示 した レグラン ドらは、準市場の成功 の基準 として、効率性、応答性

(responsiveness)

、選択、公平、の

4

つを挙げる。その上で、準市 場の成功に影響を与える条件 として、市場構造、情報、取引費用 と不確実性、動機、いい とこ取 り、

を挙げる

(BartlettandLeGrand日993

】 ) 。 ここでは、次章以降の記述に関連する条件、すなわち、市 場構造 ( 競争) 、情幸 臥 動機について見てお く

(1

)市場構造 ( 競争)

レグラン ドらによると、市場によるサー ビスの分配が効率的、応答的で、選択肢を提示するために は、市場は競争的でなければならない。つまり、多 くの供給者 と多 くの購入者がいなければな らない。

また、供給者が市場か ら退出する可能性、すなわち、倒産の リスクに直面 していることも必要である。

(ibid.,20‑

1 )

準市場においても、供給者間の競争の欠如が問題を生 じさせることは明 らかである。単一の支配的

(4)

な供給者は、独 占の力を利用 して、価格を引き上げた りサー ビスの量や質を切 り下げた りすることが できる。 また、競争の脅威がなければ、供給者は顧客のニーズ と欲求に応答 しな くてもよい。そ して、

独 占は、定義上、選択肢を提示 しない 。 ( i bi d. ,20)

しか し、購入者間の競争の欠如は、少な くとも利用者の観点か らは、より問題が小 さい とも考えら れる (ここで レグラン ドらは政府購入型を想定 している) 。政府は利用者の利益になるように独 占の 力を行使すべきであるといえる。 また、支配的な供給者が存在する場合には、その力を相殺するため に、大規模な購入者が必要不可欠になるともいえる。 ( i bi d. ,20)

しか しなが ら、 この議論にも反論がある。購入者が独 占の力を利用 して厳 しい交渉を行えば、供給 者 との関係を損ない、その士気 と意欲を低下 させ、ついには供給者を廃業に追い込むかもしれない。

また、独占的な供給者の力を相殺するために独 占的な購入者が必要であるとい う議論に対 しても、両 者の関係が親密にな りすぎる危険性があるとされる O ( i bi dリ21 )

(2)情報

レグラン ドらによると、市場が効率的に作動するための重要な条件は、供給者 と購入者が、特にサ ー ビスの価格 と質に関 して、安価で正確な情報を持つ ことである。供給者は、適切な価格をつけるた めに、その活動の費用を計算できなければな らない。購入者は、供給者が質を切 り下げて費用を削減 する機会を制限するために、サー ビスの質を監視できなければな らない ( i bi dリ24) 。なお、情報 とい う条件は、政府や利用者が選択肢の存在を知 るためにも必要であ り、「 選択」 とい う基準にも関わる と考えられる。

(3)

動機

レグラン ドらによると、供給者が少な くとも部分的には金銭的報酬によって動機づけられていなけ れば、市場のシグナルに適切に応答することはない。 また、利潤最大化の動機が市場の効率性のため に常に必要だ とい うわけではないが、産出最大化のような非営利組織が持つ と思われる動機は効率性 にはつながらない とされる ( i bi d.

,30‑1

) Oなお、供給者の動機は、「 公平」 とい う価値を どれだけ重 視するか、 どの利用者の 「 選択」を優先的に受け入れようとするかにも関わるであろう

そ して、供 給者の動機は、公的組織 と民間組織、営利組織 と非営利組織の間で異なると考えられる。

本章では、公共サー ビスにおけるさまざまな 「 市場」を整理するための枠組を提示 した。公共サー ビスに 「 市場」の要素を取 り入れるとい うことは、「 利用者による費用負担」 または 「 交換関係」の 導入を意味する。「 交換関係」には、「 供給者の権限

「 利用者の権限

「 サー ビス と対価の関連性」 と い う要素がある。政府が資金を提供 し、当事者間に交換関係がある方式を 「 準市場」 と呼ぶ。 ( 準) 市場は、サー ビスの利用に関す る意思決定の権限の所在に基づいて、「 政府購入型

「 専門職購入型」

「 利用者選択型」に類型化することができる。 また、市場が機能するためには、「 競争

「 情報

「 動機」

な どの条件を満たす必要がある。次章以降では、 この枠組を使 って、公共サー ビスにおけるさまざま な 「 市場」を整理する。

130

(5)

2

章 内部市場 ・計画された市場 ・公的市場

公共サー ビスにおける市場を表現するために、「 準市場」の他にも、「内部市場

「 計画された市場

「 公 的市場」な ど、修飾語つきの市場の概念が用い られている。本章では、 これ らの概念を上述の枠組に 基づいて整理する。

1

.内部市場

「内部市場

(intemalmarket)

とい う概念は

、 1990

年以降のイギ リスの医療制度を対象に、「内 部 または準市場」のような形で、「 準市場」と置き換え可能なもの として用い られることが多い

(Ferlie

1994日 05

など) 。イギ リスの医療では

、 1990

年の国民保健サー ビスおよびコミュニティケア法によ り、次のよ うな改革が実施 された。従来、主要な病院はすべて国営だったが

、 1990

年以降、病院の 多 くは 「 基金

(Tmst)

」として独立 した。そ して、 各地区の保健当局 ( 国の機関)と予算保持一般医 ( 注

(5)を参照)が、住民や受け持 ち患者のために病院か ら医療サー ビスを購入することになった (

武 川 ・塩野谷編

1999

〕など) 。 これは、政府購入型 と、( 供給者の権限拡大を伴 う)専門職購入型である と

える。

イギ リスの 医療 の 「内部市場」 の起 源 は

2

つ あ る。

1

つ は、 アメ リカのエ ン トーベ ン

(A.C.

Enthoven)が提唱 した 「

国民保健サー ビスのための内部市場モデル」である。 このモデルでは、各 地区の保健 当局が地 区の住民の医療のための予算を与えられる ( 予算は住民の人数に比例す る)。保 健当局は住民に対する医療の責任を持ち続けるが、サー ビスを 自分で提供することもできる し、他の 地区か ら購入することもできる

(Enthoven[1985】38‑40)

。 これは政府購入型の起源である。 もう

1

つは、イギ リスのメイナー ド

(A.Maynard)が提唱 した 「

一般医のための予算」である。一般医は、

患者数に比例 した収入を得て、その収入を 1次医療に使 うだけでな く、必要に応 じて病院やその他の サー ビスを購入するためにも使 う

サー ビスは、民間でも公共でも、最 も安い部門か ら購入すること ができる。 このような制度下の国民保健サー ビスを、メイナー ドは 「 競争的な内部の国民保健サー ビ スの市場 システム」 と呼んだ

(Maynard[1986]46)̀7

' 。 これは、予算保持一般医、すなわち専門職購 入型の起源である。

なお、 マ リン

(PM.Mullen)

、1990

年の医療改革の実施前には、「 内部市場」とい う言葉に

Ⅰ型」

Ⅲ型」の

2

つの意味があったと指摘する

「 Ⅰ型」では、保健 当局が住民のための資金を受け取 り、住民の健康 と医療に対する特別な責任を持ち、住民のニーズに合わせてサー ビスを供給 した り他 の供給者か ら購入 した りする。 また、予算保持一般医も 「Ⅰ型」に含 まれている。他方

、「

E型」で は、住民が治療を求めて どこへでも行 くことができる。 この型は 「 患者が最 も順番待ちの少ない所を 探 し出 し、 保健 当局に請求書が送 られる」と言われる

(Mullen[1990】34‑5,46)

。本稿の枠組でいえば、

「 Ⅰ型」は政府購入型 と専門職購入型

、「

Ⅲ型」は利用者選択型に相当する。ただ し、実際に行われた

改革は基本的に I型であった ( i bi d.

,48)0 ̀8 '

(6)

2.

計画された市場

「 計画された市場

(plannedmarket)

とい う概念は、ソル トマ ン ( R

,B.Saltman)

とフォンオ ッ タ‑

(C.YonOtter)

らによって、北欧やイギ リスの医療制度を対象に用い られている

(saltmanand YonOtter【19921;SaltmanandYonOttereds.【1995)

「 計画された市場」は、「 計画」 と 「 市場」の連続体の中央に位置づけられる ( 図

1

)。その特徴は、

国家権力の行使を通 じた新 しい市場の意 図的な創出である。 これに隣接す るのは 「 規制 された市場

(regulatedmarket)

」と 「 適応的計画

(adaptiveplan ning)

」である。「 規制された市場」は、 社会的・

経済的に破壊的な行動を制限す るために、既存の市場 システムに国家権力が介入す ることを含む。他 方、「 適応的計画」は、組織の階統制の下位 レベルに位置する小 さな組織 に対 して、計画過程 を分権 化す ることを含む

(saltmanandvonOtter【1992日7 )

「 計画された市場」 と 「 規制 された市場」の違 いは交換 関係が生 じた経緯にあ り、「 計画 された市場」 と 「 適応的計画」の違いは交換関係の有無 で あるといえる。

1

計画された市場

適 応 的 計 画 計画 され た 市場

制 され た 市 場 完全に計画

出典 :

SaltmanandvonOtter【1992116.

完全に市場

と こ ろ で、「計 画 さ れ た 市 場 」 は、「公 的 競 争

(publiccompetition)

と 「混 合 市 場

(mixed market)

とい う

2

つのモデルに区別 され る。 まず、「 公的競争」 は、公的資本 の、政治的責任を負

う供給者 に限定 されてお り、患者が医者 と治療場所を選び、それが施設の予算 と職員のボーナスをも た らす ( i bi d. ,83‑4) 。次 に、「 混合市場」 は、公共 ・民間の混合 した市場を作 り出 し、民間資本の供 給者が既存の公的資本の施設に対抗 して契約に応募できる。 ここでは、地 区の公共団体の管理者がサ ー ビス契約の設計や交渉な どの責任を持つ。患者は管理者の善意 と判断に依存 している。 この混合市 場モデルの実施 は、イギ リスでは予算保持一般医の創設によって複雑化 した とされ る ( i bi d. ,84) 。本 稿の枠組でい うと、 「 公的競争」は ( 供給者の権限が小さい)利用者選択型、「 混合市場」は政府購入 型 と専門職購入型に相当する。

3.

公的市場

「 公的市場

(publicmarket)

とい う概念の使用例は、少な くとも

2

つある。

まず、 ピエール ( a.

Pierre)

は、イギ リスの 『 市民憲章

仲 を念頭に次のよ うに述べ る。市民権

132

(7)

に関する最近の議論は、市民を顧客 とみなす ことによって、個人がさまざまな供給者や公的 ・私的 サー ビスの間で選択する権利を与えられるとしている。市民を顧客に変換することは、購買力を顧客 に与え、「 公的市場」を作 り出す ことを意味する。公的市場では、公共サー ビスのさまざまな ( 型の) 供給者の選択 として、 この購買力が発揮される

(pie汀e【1995】59)

。 ここで想定されているのは利用 者選択型である。

なお、 ピエールによると、「 公的市場」は次の

3

点において他の型の市場 とは異なる。第 1に、供 給者の市場への参入が公的規則によって制限されている。第 2に、購買力が個人の資金よりも個人へ の公的な権利の付与から生 じる。第

3

に、そこで分配される財やサー ビスは、かつては公的組織によ って供給されていた ( i bi d. ,68170) 。第 1の特徴は 「 競争」 とい う条件に関わ り、第

2

のものは政府 による資金提供を意味 し、第

3

のものは市場の導入の経緯に関わるといえる。

次に、ウッズ (

pA.Woods)

らは、イギ リスの学校選択を念頭に、公的市場が次の要素か らなる とする。 まず、「 市場」の要素は、( ∋選択 ( 消費者が選択肢の中か ら選ぶ こと) 、( 参多様性 ( 選ぶ対 象 となる選択肢を提供すること) 、( 彰競争 ( 生産者が消費者を引きつけようと努力すること)、@需要 に応 じた資金提供 ( 生産者の収入が消費者の需要によって決まること) 、⑤ 自己決定 ( 分離 した生産 者が自分 自身の管理に責任を持つ こと)である

(woodsetal.【1998日 38)

。 これ らは本稿の枠組で次 のように整理することができる。① 「 選択」は利用者が権限を持つ こと、② 「 多様性」は市場の条件 としての競争を意味する。③ 「 競争」は同 じく動機に関わる

rIO

) 0④ 「 需要に応 じた資金提供」はサ ー ビス と対価の関連性、⑤ 「自己決定」は供給者が権限を持つ ことを意味す る。次に、「 公的」な要 素 とは、コミュニティ全体の利益を代表 し、そのニーズに応えるための構造であ り、①行為 ( 政府の 執行部門) 、②代表 ( 民主的制度)、③公共サー ビスの監視 ( 助言、監視、訓練などを行 う公的機関) 、 からなる ( i bi d. ,1 38) 。 これは公的関与を広 く指 している。

本章では、「 内部市場

「 計画された市場

「 公的市場」 とい う概念を整理 してきた。 これ らの修飾

語つきの 「 市場」の定義や特徴の大部分は、本稿の枠組で体系的に整理することができた ( 表 3) 0

ただし、修飾語の部分の うち、市場の導入の経緯や公的関与の強さは、枠組の中に位置づけることが

できなかった。

(8)

3

公共サー ビスにおける 「 市場」 ( 修飾語つきの市場)

類型 市場の概念 市場の条件 その他

政 府

購入型 専門職 購入型 利用者 選択型 利用者 の 費用負担 交換関係 競 争 情報 動機 供 給 者

の 権 限 利 用 者 の 権 限 サー ビス と 対 価 内部市場

イギ リスの医療 ( ⊃

(

( ⊃

エントーベン

(

メイナー ド ( ⊃

マリン Ⅰ型 ( ⊃( ⊃

□型

計画 された市場

l

l 公的競争 混合市場

( つ × 公的市場

l ピエール (〕

荏 :「 市場」の定義 ・特徴 ・要素のうち、主要な部分のみを記入 した。

例えば、政府購入型は供給者の権限を、利用者選択型は利用者の権限を当然の前提とするが、一部を除き省 略 した。

出典 :筆者作成。

( 表 4、 5も同様。)

3

章 公共サー ビスにおける市場の諸要素

本章では、公共サー ビスにおける 「 市場」の諸要素を列挙 して比較的詳 しく説明 している

3

つの例 を取 り上げ、本稿の枠組で整理することを試みる。

1

.グ レナスタ‑ 「 さまざまな種類の市場」

イギ リスのグ レナスター

(H.Glennerster)は、「さまざまな種類の市場」 として、次の ものを挙

げている。(

Glennerster1997]39‑42)

①私的市場における現金 :国家のサー ビスをすべて廃止 し、それ と同価値の現金を個人に与える0

②バ ウチャー :バ ウチ ャー

(11

才を発行 して個人や家族に与え、規定されたサー ビスのために使 うよ うにする。

③準バウチャー :消費者が学校や医者を選択する自由を持ち、契約 した学校や医者が政府か ら所定 の額の金銭を 自動的に与えられる。

④特定の支出に対する税な どの還付 :認可された社会的 目的のために金銭を支出 した個人が税を還 付される。

( 9準または内部市場 :イギ リスの医療改革のように、購入者 と供給者の役割を分離 し、保健 当局が 病院か らサー ビスを購入 した り、一般医が購買力を与えられた りする0

以上の 「さまざまな種類の市場」を本稿の枠組で整理すれば、①〜④は利用者選択型、⑤は政府購

134

(9)

入型 と専門職購入型であるといえる。

2.

フィッシャー 「 市場を作る仕組み」

同 じくイギ リスのフィッシャー

(C.M.Fisher)

は、「 市場を作る仕組み」 として、次のものを挙 げている

。 (Fisherl1998】174‑8)

①公的組織を結果に直面させる :公的組織を市場の規律に応答的にさせるために、公的組織を訴訟 や倒産の可能性に直面させる。例えば

、1980

年代末以降、イギ リスで生み出された公共サー ビス供 給のための多 くの組織は、サー ビス供給の契約を勝ち取ることによって収入を得なければならず、そ れができなければ消滅することになる。

②購入者 と供給者の区分 :市場に買手 と売手を存在させるために、公共サー ビスの購入者 と供給者 を分離 し、両者が交渉 ・取引できるようなメカニズムを作 り出す。購入者 と供給者の分離は多 くの方 法で行われる。最も簡単な方法はサー ビス水準に関する合意であ り、組織を供給者 と購入者に分離 し て、両者がサー ビスの種類 ・量 ・質や料金に関する合意を結ぶ。 ここから一段進んだものが競争入札 であ り、サー ビス供給の契約が入札にかけられて、内部の組織だけでな く外部の民間 ・公共の組織も 入札することができる。イギ リスの強制競争入札はその一例である。強制競争入札は一括契約に基づ いてお り、特定の期間 ( 通常は数年間)に必要なすべてのサー ビスの供給について合意する。 この強 制競争入札を拡張 したものが内部市場であり、購入者は通常、スポッ ト契約を用いて、一回限 りのサ ービスを広範な供給者か ら購入する

(12'。

③準市場 :準市場では、消費者 と緊密に接触する集団に購買力が与えられる (しか し消費者 自身に は与えられない) 。 この例は予算保持一般医である。 この 「 準市場」の概念が レグラン ドらのもの と 異なっていることはフィッシャーも認めている。

④バウチャー :サー ビスの利用者がバウチャーや利用資格を与えられ、自分が選択 した供給者から サー ビスを購入するために使 うことができる。

⑤資金の競争入札 :フィッシャーによると、資金の競争入札の主要な特徴は、公的組織の入札が競 争の上で判定され、最高のものだけが資金を得ることである。その主要な例は

2

つ挙げられている。

1

つは、地方 自治体が都心再開発事業のために中央省庁の資金に応募するものである。 もう

1

つは

PFI

であ り、そこでは民間組織が開発に出資する権利を求めて入札する

̀】3

' 。

⑥民営化 :民営化の下では、公的組織の株式が売却され、その所有権は公共か ら民間の組織に移さ れる

以上がフィッシャーのい う「 市場を作る仕組み」である。次に、これ らを本稿の枠組で整理 してみる。

① 「 公的組織を結果に直面させる」 ことは、供給者に対 して意思決定の権限を与えると同時に、その

結果に対する責任を取 らせることであるといえる。また、このことは、市場の条件 としての動機に影

響を与えうる。さらに、倒産 ( 市場か らの退出)の可能性は、競争 という条件にも関わる。② 「 購入

者 と供給者の区分」 ( サー ビス水準に関する合意、競争入札、内部市場)は、いずれ も本稿でい う政

(10)

府購入型である。そ して、③ 「 準市場」が専門職購入型、④ 「 バウチャー」が利用者選択型に相当す る。⑤ 「 資金の競争入札」は、 資金調達の手法における 「 市場」であ り、 本稿の枠組には収まらない

(14'。

㊨ 「 民営化」は、供給者の権限の拡大を意味すると同時に、供給者の動機にも影響を与えうる。

3.OECD

「 市場型メカニズム」

OECD

は、公共部門における ( または公共部門による)「 市場型メカニズム」の応用の可能性に関 する報告書を 1 993年に発表 した。そこでは 「 市場型メカニズム」は次のように定義されている。「 市 場型メカニズムの概念は、市場の少な くとも 1つの重要な特徴が存在するすべての仕組みを含む ( 読 争、価格設定、分散 した意思決定、金銭的誘因など

)」(OECD【19931

ll ) 。 ここで例示されている 「 仕 組み」を本稿の枠組で整理すると、「 競争」は市場の条件 としての競争、「 価格設定」は利用者の費用 負担、「 分散 した意思決定」は供給者や利用者が意思決定の権限を持つ こと、「 金銭的誘因」はサー ビ ス と対価の関連性であるといえる。

OECD

が検討を加えている 「 市場型メカニズム」は次のようなものである 。

(ibid.,2012)

(

DIT

サー ビスの領域における複雑な外部契約

②病院における市場の模倣 :市場 システムの特徴を模倣する試みには、主に次の要素が含まれる。

すなわち、病院機関に認められた管理 と予算の自律性、競争、費用削減 とサー ビス改善の制度的誘因、

費用や質を比較する指標の設計、サー ビスや価格に関する資金提供組織 との交渉、である。

③漁業における財産権市場

④バウチャー とそれに類似 した仕組み

⑤中央行政内部の財 ・サー ビスの供給のための内部市場 :これは、公共部門内部で公共部門のため に生産される財 ・サー ビスに関わる ( 役所の建設 ・維持、物品調達、法務 ・印刷サー ビスなど) 0

⑥公害規制における取引可能な権利

これらの 「 市場型メカニズム」を本稿の枠組で整理すると次のようになる。① 「 外部契約」は政府 購入型を意味する。② 「 病院における市場の模倣」は、 1つのメカニズムではな く多数の仕組みから なっている

(ibid.,77)0

「 病院機関の 自律性」は供給者が権限を持つこと、「 競争」は市場の条件 とし ての競争を意味する。「 費用削減 とサー ビス改善の誘因」 も競争を指 している

̀15'

「 費用や質を比較 する指標」は、市場の条件 としての情報の整備であるといえる。「 サー ビスや価格に関する資金提供 組織 との交渉」は、サー ビスと対価の関連性を意味 している。③の漁業権市場は、⑥の排出権取引 と

ともに、本稿の枠組には収まらない。④ 「 バウチャー」は利用者選択型、⑤ 「 内部市場」は政府購入 型 ( かつ、政府 自身が利用者であるもの)に相当する

̀16

) 0

本章では、公共サービスにおけるさまざまな 「 市場」の要素を本稿の枠組で整理 した。大部分の要 素は整理することができたが、 整理 しきれないものもあった。すなわち、 資金調達に関する 「 市場」( 読 争的資金や

PF

I ) と、資源保護や環境保護のための漁業権や排出権の設定 ・取引である0( 表

4)

136

(11)

4

公共サービスにおける 「 市場」 ( 市場の諸要素)

類型 市場の概念 市場 の条件 その他

政 府

購入型 専門職 購入型 利用者 選択型 利用者の 費用負担 交換 関係 競争 情 報 動機 供 給 者

の 権 限 利 用 者 の 権 限 サー ビス と 対 価 グ レナス ター

現金 ○

バ ウチ ャー ○

準バ ウチ ャー ○

税還付 ○

準/ 内部市場 ○○

フィッシャー

結果 に直面 ○ ( ⊃ ○

購入と供給の区分 ( ⊃

準市場 ○

バ ウチ ャー ○

資金の競争入札 ⊂ )

民営化 ( ⊃ ( ⊃

OECD

市場型メカニズム 価格設定 分散 した意思決定 金銭 的誘 因 競争

外部契約 ( ⊃

病 院の市場 自律性 交渉 競争、 誘因 指標

漁業権 市場 ○

バ ウチ ャー

()

内部市場 ○

排 出権取引 ○

4

NPM

論 における市場

ここでい う

NPM

「 論」 とは、実際に行われている

NPM

型改革ではな く、それ らを整理 して捉 え よ うとす る試みを指す。

NPM

の捉 え方は多様であるが、 ここでは、イギ リス、アメ リカ、 日本 の

NPM

論の中か ら、「 市場」の要素 について比較的詳 しく説明 しているものを取 り上げて、本稿の枠 組で整理する。

1

.イギ リス

「 市場」の要素に注 目したイギ リスの

NPM

論 としては、 ウオルシュ

(K.Walsh)

のものが代表的 である。

ウオルシュによると

、NPM

の大きな特徴は、公共サー ビス組織の運営への市場 メカニズムの導入、

すなわち、公共サー ビスの市場化である

(walshl1995】x

i ) 。そ して、市場に類似 した重要な変化 とし て、料金徴収、契約、内部市場、 自律的な単位の創出、を挙げる ( i bi d.

,x

xi ) 0

①料金徴収 :料金徴収は、利用者か らの料金徴収だけでな く、内部の料金徴収 も含む。利用者か ら の料金徴収は、アメリカを例外 として、公共部門の改革においてほとん ど役割を果た して こなかった。

変化の焦点は内部の料金徴収にある。そ こでは、公共サー ビス組織の構成単位が内部市場で活動 し、

組織のある部分が、他の部分か ら受けるサー ビスに対 して料金を支払 う 。 ( i bi d リ 1 03)

(12)

②契約 : 公共部門は、実際のサー ビス供給者 と契約を結ぶ。契約の

3

つの主要な様式は、純粋な ( 公 的組織 との)内部契約、( 官民の)競争入札、( 民間との)外部契約である 。

(ibid.,110,121

)

③内部市場 :内部市場はイギ リスの医療において最も発達 した。内部市場は

3

つの重要な特徴を含 む。第 1に、サー ビスの購入 と供給に関する明示的で分離 した役割の創出、第 2に、 これ らの分離 し た役割間での内部的な準契約

117

)と取引協定の締結、第

3

に、料金徴収 と会計システムの開発である。

(ibid.,138‑9)

④ 自律的な単位の創出: サー ビス供給者が独立の単位 として設立され、それ 自身の予算を管理する。

政府の内部でこれを行 う方法 としては、組織の下位 レベルの管理者に財務管理を委譲するもの と、公 共サー ビスの中に内部機関を設立するものがある。具体例 としては、 イギ リスの医療サー ビスの基金、

国庫補助学校

̀18

) 、エージェンシー (

19

)などがある 。

(ibidリ164‑5,181191)

以上のような 「 公共サー ビスの市場化」の要素を本稿の枠組で整理すると次のようになる。① 「 料 金徴収」のうち、「 利用者か らの料金徴収」は利用者の費用負担、「 内部の料金徴収」は政府購入型 ( かつ、

政府 自身が利用者であるもの)を意味する。② 「 契約」( 内部契約、競争入札、外部契約)は、いず れも政府購入型である ( 2 0 ' 。③ 「内部市場」は、イギ リスの医療を念頭に置いていることか ら、政府 購入型 と専門職購入型を指す といえる。内部市場の

3

つの特徴の うち、「 購入 と供給の分離」は供給 者が権限を持つ こと、「 準契約 ・ 取引協定」 と 「 料金徴収」はサー ビスと対価の関連性

̀2】

) 、そ して、「 会 計システム」は費用に関する情報の整備 として位置づけることができる。最後に、④ 「自律的な単位 の創出」は、供給者が権限を持つ ことを意味する。

2.

アメ リカ

オズボーン

(D.Osborne)

とゲ‑ブラ

‑ (T.Gaebler)

の 『 行政革命

(ReinuentingGoueTnment)

』は、

アメリカの

NPM

論の代表的な著作であ り、また、「 市場」の要素を強調するものでもある。

オズボー ンらは、『 行政革命』において、企業家的政府

(entrepreneurialgovernment)

の共通点 として

10

項 目を挙げている

(osborneandGaebler[1992日 9/3

1 ) 。そ して

、10

番 目の「 市場志向の政府」

に関する章の中で、「 本書で論 じてきたことの多 くは、市場志向の政府 とい う項 目の下で要約できる」

と述べ る。そ こには、「 市場志向の政府」の章で取 り上げ られたシステムの変化だけでな く、競争、

顧客の選択、成果に関する責任、公企業も含まれる

(ibid.,309/282)

。以下、 これ らに関する項 目を、

『 行政革命』の章立ての順に見てい く

① 「 触媒 としての政府 :船を漕 ぐより舵取 りを」:公企業はこの項 目に含 まれる。オズボーンらに よると、企業家的政府は、政策決定 ( 舵取 り

(steering

) )をサー ビス供給 ( 漕 ぐこと

(rowing))

か ら切 り離す システムに移行 し始めている。舵取 り組織は、政策を定め、公共 と民間の実施組織に資金 を提供 し、業績を評価するが、 自分 自身で実施の役割を果たす ことはほとん どない。

(ibid.,26,35,40/

38‑9,46,50)

② 「 競争する政府 :サー ビス供給に競争を注入する」:公共対民間、民間対民間、公共対公共の競

138

(13)

争がある 。 ( i bi d.

,84189/89193)

( 参 「 成果志向の政府 :投入ではな く産出に資金提供する」:学校などの施設に対 して、投入 ( 生徒 数など)

̀ZZ

Jではな く成果 ( 成績な ど)に応 じて資金を提供する。その前提 として、成果を測定 し、

成果に関する情報を持つ必要がある 。 ( i bi d.

,139/13

7)

④ 「 顧客志向の政府 :官僚制ではな く顧客のニーズに応える」:公共サー ビスの供給者が顧客のニ ーズに応えるようにする最善の方法は、顧客に資源を渡 して選択 してもらうことである 。 ( i bi d. ,1 80/

169)

⑤「 市場志向の政府 : 市場を変化の挺子にする

」:

ここでは多種多様な仕組みが挙げられている。まず、

公共 目的を実現するために市場を構築 した例 として、アメリカの連邦住宅省が新 しい住宅ローンを開 発 し、それを銀行が転売できるように流通市場を作 り出 したことが挙げられている。 もう 1つの例は、

空き瓶や空き缶の回収のためのデポジッ ト方式である。また、 環境保護のための排出権取引や環境税、

職業訓練に必要な購買力 と情報を労働者に与えること、低所得家庭の保育のための税額控除やバウチ ャーも挙げられる。 この他に、政府が市場を再構築する方法 として、市場のルールの設定、消費者へ の情報提供、バウチャーや検査の義務化による需要の創出、民間企業 と交渉 して地域開発に融資させ たり、建築規制の緩和 と引き換えにインフラを整備 してもらうこと、融資などによって企業や団体の 結成を促す こと、預金保証や融資保証などの形で民間部門とリスクを共有すること、中小企業などへ の融資、成人の教育 ・訓練などの買手 と売手の仲介、税による誘導、開発業者にインフラの費用を負 担させる開発者負担金

(impactfee)

、利用料金の徴収などが挙げ られている。 さらに、市場に基づ く規制政策

(

「 命令よりも誘因を」) として、排出権取引や環境税の他に、公認のエコマー クなども挙 げられる。 ( i bi d.

,280‑306/258‑80)

以上のような 「 市場志向の政府」( 広義)の要素を、 可能な限 り本稿の枠組で整理 してみる。( ∋ 「 触

媒 としての政府」は政府購入型、② 「 競争する政府」は市場の条件 としての競争である。③ 「 成果志

向の政府」のうち、「 成果に応 じた資金提供」はサー ビスと対価の関連性の明確化、「 成果の測定」は

サー ビスに関する情報の整備を意味する。④ 「 顧客志向の政府」は利用者選択型である。⑤ 「 市場志

向の政府」( 狭義)は、本稿の枠組に収まらない要素を多 く含む。 まず、枠組で整理できるのは次の

3

つである。第 1に、職業訓練のための購買力の付与や保育等のバ ウチャーは、利用者選択型に相当

する。第 2に、利用料金の徴収は、利用者の費用負担を意味する。第 3に、各種の情報提供 ( 職業訓

練のための情報提供や仲介など)は、市場の条件の 1つ としての情報に関わる。次に、枠組に収まら

ないものは次の

3

種類に整理できる。第 1に、環境保護や開発抑制などのための、規制に代わる経済

的誘因の活用である ( デポジッ ト制、排出権取引、環境税な どの税による誘導、そ して、 目的によっ

ては開発者負担金や利用料金の徴収) 。第

2

に、地域開発やインフラ整備のための民間資金の活用で

ある ( 開発者負担金はここにも含まれる) 。第

3

に、特定の企業 ・団体の活動を支援 した り ( 新商品

の開発、規制による需要創出、企業 ・団体の結成促進、 リスクの共有、融資) 、市場の法制度を整備

する ( 住宅ローンの転売市場の構築)など、公共 目的のために経済的取引に介入することである。

(14)

3.

日本

ここでは、まず、 日本の代表的な

NPM

論の うち、「 市場」の要素を比較的詳 しく説明 している大 住荘四郎 と山本清のものを取 り上げる。次に、「 市場」の要素を特に重視 した

NPM

論を検討 し、市 場の類型や条件を区別することの意義を示す。

(1 )代表的な NPM 論

まず、大住荘四郎によると、

NPM

理論の核心は、民間企業における経営理念 ・手法、成功事例な どを可能な限 り行政現場に導入することを通 じて、行政部門の効率化 ・活性化を図ることにある。具 体的には、①経営資源の使用に関する裁量を広げる代わ りに、業績 ・成果による統制を行 う、そのた めの制度的な仕組み として、②市場メカニズムを可能な限 り活用する ( 民営化手法、エージェンシー、

内部市場な どの契約型システムの導入)、③統制の基準を顧客主義へ転換する、④統制 しやすい組織 に変革する、とい うものである。この中で特に重要 とされるのは、 ( 丑と②である。( 大住

1999〕1、〔2002 ll‑3)

市場メカニズムの活用の手法 としては、公的企業の民営化、広義の民営化 ( 民間委託、バウチャー 制度な ど)

、PFI

、エージェンシー制度、擬似 ( 内部)市場 システムな どが挙げ られる。「 公的企業の 民営化」 とは、公的企業の所有形態を政府から民間所有に変更すること ( 株式会社化)である。広義 の民営化の うち 「 民間委託」 とは、特定のサー ビス供給を民間事業者 ( 営利企業、非営利団体)に委 託するものである。同 じく 「 バウチャー制度」 とは、政府が補助金をサー ビスの受益者に与え、受益 者 自身に特定のサー ビスを提供する事業者を選択させようとい うものである

。「PFI

とは、社会資 本の設計 ・資金調達 ・建設 ・運営な どを、できる限 り民間企業に委ねようとする制度である。「 エー ジェンシー」は、イギ リスで 1 988年に導入された機関であ り、中央政府機関のうち ( 政策の企画立 案から区別される)具体的な業務の執行に携わる部門を分離 し、独立機関とするものである。エージ ェンシーは独立 した組織 として中央省庁から分離され、組織運営や予算執行な どの運営面での裁量が 著 しく拡大される。また、業績 ・成果志向であるため、業績に応 じた給与 ・ボーナスの支給 も一定の 範囲内で容認される。「 擬似市場」 とは、行政のより中枢の部門へ契約型システムを導入するもので あ り、機構 ・組織の分離を伴わないものである。例えば、都市計画などの計画策定業務、 ごみの リサ イクル計画のような企画業務について、より上層の部門との契約形態をとることや、人事管理業務を 各部局 との個別業務契約の形で行 うことな どである。( 大住

2002〕152‑9)

以上のような 「 市場メカニズムの活用の手法」を本稿の枠組で整理すると次のようになる。「 公的 企業の民営化」は、供給者の権限の拡大を意味すると同時に、供給者の動機にも影響を与えうる。「 民 間委託」は政府購入型、「 バウチャー制度」は利用者選択型である

。「PFI

」は資金調達の手法であ り、

本稿の枠組には収まらない。「 エージェンシー」は、供給者の権限の拡大、サー ビス と対価の関連性 の明確化、そ して、それらを前提 とした政府購入型を意味する。「 擬似 ( 内部)市場」は政府購入型 ( か つ、政府 自身が利用者であるもの)を意味 している

(23

' 。

次に、山本清は、

NPM

の運営原理 として、成果志向、顧客志向、市場機構の活用、分権化の

4

140

(15)

を挙げる。 この うち、市場機構の活用に関 しては、住民がサー ビスの対価の全部または一部を支払 う こと、バウチャー ( 特定の商品 ・サー ビスの購入券)を住民に支給 して購入させること、政府 ・自治 体を購入者 と供給者に区分することを挙げている。ただ し、前二者には限定 ・限界があるとする。ま た、市場機構が働 く要件 として、需要側 と供給側が複数存在 し、同 じ情報を保有 していることが必要 であると述べる。( 山本

2000〕14,17‑9)

「 市場機構の活用」に関する上記の要素を本稿の枠組で整理すると、次のようになる。「 住民が対価 を支払 うこと」は利用者の費用負担、「 バウチャー」は利用者選択型、「 購入者 と供給者の区分」は政 府購入型である。市場機構が働 く要件の うち、「 需要側 と供給側が複数存在すること」は市場の条件

としての競争、「 情報の保有」は同 じく情報を意味する。

表 5 公共サービスにおける 「 市場」 ( NPM論)

類 型 市場の概念 市場 の条件 その他

政 府

購入型 専 門職 購 入型 利用者 選 択型 利用者の 費 用負担 交換 関係 競争 情 報 動機 供 給 者

の 権 限 利 用 者 の 権 限 サー ビス と 対 価 ウオル シ ユ

料金 徴収 内部 利 用者

契約 ○

内部 市場 ○

(

購入 と供給 の分離 準契約. 料金徴収 協定、 会計シ テム

自律的単位の創出 ○

オ ズボー ン他

触媒 ⊂ )

競争 O

成果志 向 資金 提供 測定

顧客志 向( 選択) ○

市場志 向 八■ウ チャー 利用料金 情報 提供

大 住

公的企業の民営化 ( ) ⊂ )

民 間委託 ○

バウチ ャー制度 ( ⊃

PF Ⅰ

ジ ェンシ ー⊂ 〕 ○ ( )

準 (内部)市場 ( )

山本

住民 が支払 う ○

バ ウチ ャー ○

購入と供給の区分

(

需要 .供給が複数 0

同 じ情報の保有 0

注 :※‑規制に代わる経済的誘因、民間資金の活用、公共 目的のための経済的取引への介入。

(2) 「 市場」を重視 した NPM 論

最後に、「 市場」の要素を特に重視 した日本の

NPM

論 として、久保木 匡介 と毎熊浩一のものを取

(16)

り上げる。いずれも、「 市場」 と供給者の 「自由

「自律性」 との相魁 ・ 矛盾を主張 している。 しか し、

市場の類型や条件を区別 して論 じる余地がある。以下では、両者の主張を紹介 した上で、本稿の枠組 を用いて検討を加える。

まず、久保木匡介によると、

NPM

の二大構成要素は 「 管理の 自由」 と 「 市場志向」である。「 管 理の自由」 とは、下級管理者への権限委譲によって 「自由」を与え、より能率的でかつ顧客 としての 市民の要求に応答的なサー ビス提供を行 うことである。他方、「 市場志向」 とは、サー ビス提供が 「 市 場における競争」という環境の中で顧客 との 「 契約」という形で行われることである。( 久保木

2000

168‑9)

久保木は、イギ リスにおける

NPM

改革において、「 管理の 自由」 と 「 市場志向」の相魁が生 じた と主張する。久保木によると、 初期エージェンシー化の時期

(1991

年の市民憲章や市場テス ト

(market testing)

の導入以前)には、「 管理の 自由」の追求が、戦後のイギ リス行政史上かつてないほどの刺 度的 ・組織的な保障を持って展開 していた。エージェンシーは政策の執行 ・管理やサー ビス提供を行 う組織 として独立 し、その管理は大臣や上級公務員か ら相対的に自立 した組織の中で追求されるべき もの となった ( 同上

、172‑4)

。 しか し、特に市場テス トの導入は、

NPM

の中の 「 市場志向」の原理 を正面か ら追求するものであった ( 同上

、178)

。市場テス トは次のように実施される。まず、公務員 制内部の特定の業務について、その存続の是非を検討する。存続の必要性が認め られた場合、民営化、

外部委託、エージェンシー化の

3

つの選択肢が検討される。民営化の判断が下 らなかった業務に関 し ても、 これまで業務を行ってきた部局 と同種の民間企業を公開入札で競争させ ( 市場テス トを受けさ せ)、勝 った方に業務の実施を行わせる。市場テス トにおいて、エージェンシーは他の民間企業 との 競争関係の中で、ライバルよりも低コス トで目標を達成できることを示さなければならな くなった ( 同 上

、180‑

1 ) 。そ して、市場テス トによる強制的な能率性追求 と目標達成は 「 管理の 自由」を侵害 し、

それがエージェンシーの長官や職員に多大なス トレスとインセンティブの低下をもたらした。 ここに おいて 「 管理の自由」 と 「 市場志向」は明 らかに対立 しているとされる ( 同上

、18

7) 0

次に、毎熊浩一は、

NPM

が 「 他律的」な統制 と 「自律的」な裁量 とい う

2

つの顔を持つ とする。

毎熊はこの二面性を行政責任論の土俵において捉え直す。毎熊によると、行政責任は 「 アカウンタビ リティ

(accountability)

と 「レスボンシビリティ

(responsibility)

に区別される。前者は各種の 統制制度によって確保される 「 他律的」責任、 後者は終局的には行政官の内面に委ね られる 「自律的」

責任である。( 毎熊

2002〕103)

NPM

で新たに重視されることになったアカウンタビリティは、「 管理式」アカウンタビリティと「 市 場式」アカウンタビリティである。前者は、監査、監察、業績評価などの管理型監視技術による統制、

後者は、市場あるいは競争圧力による統制である。それぞれ、ス トーン ( B

.Stone)の5

類型のうち の 「 マネジェリアリズム

(managerialism)

と 「 市場」に対応するとされる。 これ らのうち、「 市場 式アカウンタビリティ」 とは、従来中心的であったヒエラル ヒ‑的統制にかえ、統制手段 として、文 字通 り市場ない し競争原理を活用するものである。 ここでは、 代理人たる行政にとっての 「 本人」は、

142

(17)

市民やその代表者ではな く、より直接に消費者が想定 されている。( 同上

、103‑6)

毎熊は、「 市場式アカウンタビリティ」と「レスボンシビリティ」との矛盾を主張する。毎熊によると、

この矛盾は、イギ リスにおいて、市場テス トな どの市場志向プログラム とエージェンシーの 自律性 と の相克 とい う形で顕現 した。毎熊は、上述の久保木の要約を引用 して、市場テス トがエージェンシー の 「 管理の自由」を侵害 し、それが長官や職員にス トレス とイ ンセンティブの低下を もたらしたとし ている。( 同上

、113‑4,110)

以上、「 市場」を特に重視 した 日本の

NPM

論を紹介 してきた。 これ らは、「 市場」 ( 市場テス ト) と供給者 ( エー ジェンシー)の 「自由

「自律性」 との相魁 ・矛盾の可能性を指摘 したものであ り、

その限 りで意義がある。 しか し、市場の類型や条件を区別 して論 じる余地がある。

第 1に、久保木のい う 「 市場志向」や毎熊のい う 「 市場式アカウンタビリティ」は、おそらく本稿 でい う利用者選択型に相当する。上述のように久保木 は、サー ビス提供が顧客 との契約 とい う形で行 われる と述べていた。 また、毎熊 も、「 代理人たる行政に とっての 『 本人』は、市民やその代表者で はな く、より直接に消費者が想定 されている」としていた。ス トー ンも、「 消費者主権

「 顧客に 『 退出』

の機会を作 り出す」な どの表現を用いてお り、明 らかに利用者選択型を想定 している

(stone【1995】

511,520)

。他方、久保木や毎熊が 「 市場」 と供給者の 「自由

「自律性」 との相魁 ・矛盾の論拠 とす るのは、市場テス ト、すなわち、本稿でい う政府購入型である。従 って、上のように規定 された 「 市場」

と供給者の 「自由

「自律性」 との相魁 ・ 矛盾を論証する材料 としては、 市場テス トは不適切であろう。

ただ し、毎熊は、「 市場式アカウンタビリティ」を単に 「 市場あるいは競争圧力による統制」 と定 義 している。 また、「 市場式アカウンタビリテ ィ」に関する説明の中で、狭義の民営化、外部委託、

バウチャー制、市場テス ト、エージェンシー、内部市場 システムな ど、さまざまな仕組みを挙げてい る ( 毎熊、同上、

106)

。従って、「 市場式アカウンタビリティ」は利用者選択型だけでな く政府購入型 を含む ともいえる ( ただ し、その場合 はス トー ンの類型 との対応関係が問題 になる)。 しか し、市場 テス ト ( 政府購入型)の下で生 じた現象を根拠に、利用者選択型を含めた 「 市場式アカウンタビリテ ィ」一般について論 じることには飛躍がある。 これは次の点にも関わっている。

2

に、久保木 と毎熊が 「 市場」 と供給者の 「自由

「自律性」 との相魁 ・矛盾の論拠 としていた 市場テス トでは、供給者側のエージェンシーに官民間の競争が導入される一方で、購入者側に競争が 導入された形跡はない。つまり、 この市場は 「 買手独 占」の条件下にあるといえる。買手独 占の下で は、 レグラン ドらが指摘 していたように、購入者が独 占の力を利用 して厳 しい交渉を行い、供給者の 士気や意欲を低下させる危険性がある。 市場テス トの下でのエー ジェンシーの「 管理の 自由」の侵害や、

長官のス トレス、職員のイ ンセンティブの低下は、 このような視点から分析することもできる。それ に対 して、市場テス ト導入以前の初期エージェンシー化の時期には、供給者側にも競争が導入されて お らず、独 占的な購入者 と独 占的な供給者が契約を結ぶ 「 双方独 占」の市場構造にあった。 このよう な条件下では、力関係が購入者側に偏 ることな く、供給者 も 「 管理の自由」を享受することができる。

なお、市場テス トが買手独 占の市場構造にあることは、それが政府購入型で、かつ、供給者が公的組

表 3 公共サー ビスにおける 「 市場」 ( 修飾語つきの市場) 類型 市場の概念 市場の条件 その他 政 府 購入型 専門職 購入型 利用者 選択型 利用者 の費用負担 交換関係 競 争 情報 動機 供 給 者の 権 限 利 用 者の 権 限 サー ビス と 対 価 内部市場 イギ リスの医療 ( ⊃ ( ⊃ ( ⊃ エントーベン ( ⊃ メイナー ド ( ⊃ マリン Ⅰ型 ( ⊃( ⊃ □型 ○ 計画 された市場 ll 公的競争混合市場 ○ ○ ( つ × 公的市場 l ピエール (〕 荏 :「 市場
表 4 公共サービスにおける 「 市場」 ( 市場の諸要素) 類型 市場の概念 市場 の条件 その他 政 府 購入型 専門職 購入型 利用者 選択型 利用者の費用負担 交換 関係 競争 情 報 動機 供 給 者の 権 限 利 用 者 の 権 限 サー ビスと 対 価 グ レナス ター 現金 ○ バ ウチ ャー ○ 準バ ウチ ャー ○ 税還付 ○ 準/ 内部市場 ○○ フィッシャー 結果 に直面 ○ ( ⊃ ○ 購入と供給の区分 ( ⊃ 準市場 ○ バ ウチ ャー ○ 資金の競争入札 ⊂ ) 民営化 ( ⊃

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