「 公共的差止訴訟」 における 救済過程 の構造 とその展開
(2)‑ アメ リカにお け る 「公共 的 イ ン
ジサンクシ ョン訴訟」 につ いて'‑
川 嶋 四 郎
目 次
第 1章 序論
‑ 問題の提起‑
第 1節 は じめに 第2節 私見の概略 第3節 考察 の視角
第2章 「公共的イ ンジャンクション訴訟」事件 の典型例
‑ その生成 と展開‑
第 1節 は じめに 第2節 Brown事件 第3節 Wyatt事件 第4節 若干 の分析 第3章 救済方法の形成過程
第 1節 基本的な諸問題
(以上39巻4号)
1.は じめに
‑ 問題 の限定‑
2.救済方法 の形成過程 における2つの段階 と裁判官 の役割 3.権利侵害 と救済方法
1)救済権限の基礎
‑ 「包括的権利侵害」 の認定‑
2)権利 と救済方法 との結合度
‑ 救済方法を形成 するための基本的な方向性‑
4.「社会的情報」 の収集 と評価 5.被告 の非協力的な態度
〔127〕
(以上本号)
128 商 学 討 究 第40巻 第3号
第2節 具体的救済方法 を形成す るための選択的アプローチ 1.被告依拠型
2.裁判所選定型 3.裁判所主導型
1)補助者 を用 いないで独 自に形成す る場合
‑ 伝統的な救済形成方汝‑
2)スペ シャル ・マスターに依存す る場合
‑ 新 たな救済形成方法‑
4.和解尊重型 5.若干 の分析
第3節 裁判所 による裁量的な救済形成 1.エクイティ上 の裁量権
2:救 済形成 の指針 .
1)救済方法 の有効性 2)救済方法の非干渉性 3.判決内容 の特定 と違憲性 4.裁判官の積極的活動 の源泉 第4章 救済方法の実現過程
第5章 救済方法の形成 および実現 に対す るコン トロール 第 6章 丁般的特質 と 「公共的イ ンジャンクション」
第7章 結論
‑ 「救済法」 の構造 と日本法への示唆‑
第 3章 救済方法の形成過程 第 1節 基本 的な諸問題
1.は じめに
‑ 問 題 の 限 定 ‑
「公共的イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件 には,これまで述 べて来 た よ うに, 救済方法の具体的な内容 および性質 に関 して,従来 の伝統的な訴訟事件 とは際 立 った相違 を示す 「救済方法の多様性 とい う特殊性」が存在す る。 た とえば, 公立学校 における人種 による別学解消訴訟事件で は,権利侵害 (合衆国憲法第
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(2) 129 14修正 の平等条項違反) が認定 された場合で も,学区内の各学校 の人種 の割 合 を どのよ うにすべ きか,特別校 (た とえば,専門的な学校 や特定 の人 種 か らな る学校等) を設 けるべ きか,通学 区を どのよ うに改編 すべ きか,バ ス通 学 によ るべ きか,教職員 の配置を どのよ うにすべ きか,さ らに近隣の住 宅政 策 を も見 直すべ きかな どの種 々の問題 につ いて,その様 々な組合せ によ り,あ る個 別 事 件 の処理 のための多種多様 な具体的救済方法が存在す ることにな るのであ る。
このよ うに,「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟 」 事 件 にお いて は,権 利 侵 害 と 具体 的救済方法 との対応関係 が,いわば1対多対応 の関係 にあ ると言 うことが で きるのであ る。 したが って,この種 の紛争 の解決 を求 め られた裁判 所 は,具 体 的救済方法 (「公共的 イ ンジャンクシ ョン」)の形成過程 において,いか に し
て当該紛争 の解決 のために最適 な具体的救済方法 を選択 し形成 して行 くべ きか とい う難問 に直面 す ることにな る。 このよ うな問題 と取 り組 む裁判所 は,その 固有 の裁量権 を行使 す ることによ り,多 くの可能 な具体的救済方法が合 憲 的 か つ合法的 とな るよ うに形成 して行 くのであ る(116)0
「権利」 自体 とは異 な るこのよ うな 「救済方法」 の独立的な領域 の存在 につ いての認識 が一般 に普及 したのは,BrownI・BrownII判 決(117)以 後 で あ る。
これ らの判決 ののちに,この判例理論 が応用 されて行 く過程で,特 に救 済方 法 の詳細 に注意が向 け られて来 たので あ る(118)。 そ して,人 種 に よ る別学 の解 消 が求 め られた事件以外 に も,多岐 にわた るその他 の事件類型 で,裁 判所 が 「公 共的 イ ンジャンクシ ョン」判決 を形成 しそれを実現 しつつ あるので,今 日では,
どのよ うな権利 が保護 され るべ きか とい う問題 を超 えて,救済方法 の具体 的 内 容やその有効性 ・適切性 をめ ぐる問題 に,議論 の焦点 が移行 しつつ あ る と言 え
(116)W.Fletcher,TheDiscretionary Constitition/InstitutL'OnalRemedies
and JudicalLegiti'naマy,91Y ALEL.J.635,644‑45,658‑60,693 (1982) (hereinaftercitedasW.Fletcher,Discretionary Constitution.).
(117)これについては,前述 した第2章第2節を参照。
(118)J.Weinberg,Introduction.・TheCourtsasSocialReformers,6L AW
&H UMAN B EHAV.97,99(1982) 〔hereinaftercited asJ.Weinberg,Social ReforTnerS.).
130 商 学 討 究 第40巻 第3号
るであろ う。
このよ うに,「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」事 件 は,伝 統 的 な訴訟 事件 類型 の中 には見 出せなか った新 たな訴訟類型 であ り,そ こにお け る手 続 (「救
済過程」 (救済形成 および救済実現 の過程)) や救済方法 (「公 共 的 イ ンジ ャン クシ ョン」)は,全 く新奇 な ものであ る(119)。裁判 所 は,常 に,救 済 の成 果 につ いて個人 的な関心 を持 ち,現実 の救済方法 の存在 しない ところに被害者 を放 置 す るような ことにな る訴訟手続上 の障害 を排 除 し(120),救 済方 法 の存 在 しな い よ うな請求権 の審理 は行 なわない ことを保障す るために,念入 りに訴訟 手続 を 創造 して来 たのであ る(121)。
そ こで,本章 で は,「公共的イ ンジャンクシ ョン訴 訟 」 にお け る救 済 方 法 の 形成過程で,裁判所 が,どのよ うな手続 的な工夫 によ って,最適 な具体 的救 済 方法 を創造 して行 くべ きか とい う問題 につ いて考察 を加 えて行 くことに したいO そのために,現在 のアメ リカ合衆国 におけるこの種 の事件類型 の現状 を直視 し, その考察 の素材 と したい。 そ して,「公共的差止訴訟」 にお け る最 善 の被 害 者 救済過程 の創造 を模索 して行 きたい。 そのためには,た とえば,提訴 前 (お よ
(119)A.Chayes,RoleoftheJudge.Supranote24at1284,0.Piss,The SupreTneCourt1978Term,Foreword:TheFormsofJustice,93HARV・ L REV.1,2(1979) [hereinaftercited as0.Fiss,FormsofJustice.).
ButseeT.Eisenberg& S.Yeazell,TheOrdinary and theExtra‑
ordinar)′inInstitutionalLitigation,93HARV.L.REV.465,467,510 (1980)
〔「公共的インジャンクション訴訟」事件において特殊なことは,手続や救済方法 ではなく,認定された新たな実体権であるとされる.〕.SeealsoComment(J.
Johnson),EqitableReT7WdiesIAnAnalysisofJudicialUtilization of NeoreceiuershipstoImpleTnentLargeScaleInstitutionalChange,1976 WISS.L.REV.1161.1179〔一般的に,元来エクイティ上の権限は,合衆国憲法第
3条の下で,常に連邦裁判所が利用することができるので,Brown判決 は,実際 に新 しい救済方法を創造 したのではなく,その判決は,救済方法が新 しい状況に適 合するように伝統的なクエイティ権限を拡大することの望ましさを判示 したもの に過ぎないとされる。〕.
(120)D.Zeigler,RightsRequireReTnedies.sLLPranote101at666.
(121)J.Weinberg,The Bureaucratic Judiciary: The Future of Court‑ Ordered Change,6LAW& HUMAN BEHAV.169,170 (1982) [hereinafter citedasJ.Weinberg,BureaucraticJudiciary.〕.
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(2) 131 び提訴後) における被害者 (原告) の政治 部 門 に対 す る諸 種 の働 きか け(122)ち 注 目に値す る し,また,救済方法 の形成過程 における裁判官 の役 割 の詳 細 な分 析 も不可欠であ る。 しか し,本稿 で は,まず,救済方法 の形 成過 程 自体 (手 続 的な枠組 み) の考察 に焦点 を絞 ることに した い。
近時,アメ リカにお いて は,一方 で,プ リ トライ アル (pretrial) にお け る 広範囲かっ強力 なデ ィスカバ リー制度 が発展 し(123),裁判 所 によ るそ の手続 の 適切 な監督活動 を端緒 と して,しか もまた,他方 で,和解 の促 進 が プ リ トライ アル ・カ ンフ ァレンス (pretrialconference)における目標 とされた こともあっ て(124),特 に 「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件 に取 り組 む裁判官 は,極 め て丁一般 的 に言 って,口頭弁論前つ ま りプ リトライアル段階か ら判決後 の いわ ば ポス トトライアル (posttrial)段階 (執行段階) に至 るまで,伝統 的な受動 的 イ メー ジか ら脱 却 して,新 た な能 動 的 な 「経 営 者 的 裁 判 官 像 (managerial judge)」に変容 を遂 げて来 た(125)。 しか もまた,この種 の訴訟事件 は,慈善事業, 教育関係 の組織 ,私人 の寄付 および政府等 によって1960年代 に設立 された 「公 益 ロ‑ ・ファーム (pubicinterestslaw firm)」に よ る積 極 的 な訴 訟 活動 に
(122)Seee.g.J.Fishman,L.Rose& S.Trost,With AllDeliberate Delay:SchoolDesegregationinMountVerTWninLIMITSOFJUsTICE,SuPra note48at359,375‑409(1978)〔ここには,約10年にわたる政治的な活動が記述
されている。〕.
なお,勿論この種の訴訟の提起およびその遂行それ自体,政治的なプレッシャー の一形態である.Seee.g.W.Fletcher,DiscretionaryConstitution.Supra note116at637& n.9.
(123)SeeJ.FRIEDENTH皿,M.KANE & A.MILLER,CIVILPROCEDURE,420‑23(West 1985),高橋宏志 「米国ディスカバ リー法序説」『法協百年論集第3巻 〔民事法〕』
527頁 (有斐閣 1985),Seealsoinfranote124,216.
(124)FED.R,CIV.P.16(a)(5) (1983). 小林 「プ リトライアル手続の肥大化 と 1980年・83年の連邦民訴規則の改正」『前掲書 (『アメ リカ民事訴訟法』)(註13)』 181頁 (初出 1984)参照。
この点に関する比較的早期の文献として,たとえば,H.Fisher,JudicalMedia‑
tion:HowItWor・hsThroLLgh Pre‑TrialConfereTWe,10U.Cm L.REV1 453(1943)を挙げることができる。
(125)J.Resnik,ManagerialJudges,96HARV.L.REV・374,378‑80,391‑402 (1982).
132 商 学 討 究 第40巻 第3号
よ って も支 え られて来 たので ある(126)。 しか し,本稿 で は,救済方法 の形 成 過 程 の手続的な枠組 の検討 に不可欠 な限 りで裁判官 の役割 を論 じ,その詳細 な検討 およびその他 の諸問題 の考察 は後 日に譲 りたい。 ちなみに,この救済方 法 の形 成過程 は,我 が国 の民事訴訟上 の判決手続 に相 当す るもので あ る。
ところが,このよ うな具体 的救済方法 の創造 に関す る諸種 のアプローチ 自体 の問題以前 に,裁判所 は,それをめ ぐる制度 に固有 の法律上 あ るい は事 実 上 の 諸問題 に不可避的 に直面す ることにな る。 本稿 で は,それ らの問題 のす べ て に っ いて論及す ることはで きないが,以下 で はまず,この種 の訴訟事件 につ いて,
「公共的イ ンジャンクシ ョン」 とい う救済方法 の創造的な形 成 に と って不 可 避 的な若干 の問題 につ いて検討 を加 えて行 くことに したい。
2.救済方法の形成過程 における2つの段階 と裁判官の役割
「公共 的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」 にお ける救済方法 の形成 は,通 常 ,明示 的 また は黙示的 に,2つの段階 に分離 して行 なわれている(127)。 まず,第 1段 階 は 「権利侵害 につ いての判決」 (宣言判決 declaratory decree) に至 るまで の 過程 であ り,次 に,第 2段階 は 「救済方法 につ いての判決」 (イ ンジャンクショ
ン判決 structuralinjunction)に至 るまでの過程 であ る(128). この2つ の段 階 (126)SeeD.Horowitz,OrganizationalChange.Supra note26 at1276‑79,
id.THECoURTSAND SocIALPoLICYll(TheBrookingsInstitution1977).
(127)Seee.g.A.Chayes,RoleoftheJudge.Supranote24at1293194,D.
HoROWITZ,THECoURTSANDSocIAlJPoLICYSLLPranote126at617,35‑36.
(128)SpecialProject:RemedialProcess.Supra note26at791‑92& n.16, F.Coffin,TheFrontierofRemedies:A CallforExploration,67CALIF・
L.REV.983,984‑85,995(1979) [hereinaftercited asF.Coffin,Frontier ofRemedies.〕.SeealsoC.Diver,PoliticalPowerbroker.supra note 26at6ト64.
このような 「2段階的裁判」の形式が,アメリカの刑事訴訟における有罪か無罪 かの判定段階と量刑の段階との分離に近似 し,かっまた,アメリカの行政機関の活 動におけるルールを策定する段階と現実に規制活動を行な う段階との分離 に類似 することを指摘 し,「公共的インジャンクション訴訟」事件における 「2段階的裁 判」が,既存の制度の枠内に十分に納まりうるとする者 もある。SeeJ.Weinberg, BureaucraticJudiciary.Supra note121at171,id.SocialReformers.
Supra note118 at105,id.JudicialAdjunct.infra note261 at387‑88
& nn.80,81.Cf.0.FISS・THECIVILRIGmSINJUNCTIONSuPranote25at31.
●
「公共的差止訴訟」 における救済過程 の構造 とその展開(2) 133 は,ともに我 が国の民事訴訟 における判決手続 に対応す る部分で分離 され て い るのであるが (判決手続 内での 「2段階的裁判」),両者 は,裁判 官 の役 割 の点 で顛著 な差異 を示 しているとされてい る。 このよ うな救済方法 の形成過程 にお ける2段階を経 て,「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件のシナ リオ(129)が徐々 に書 かれ,そ してそれが実現 されて行 くのである。
まず,第 1段階 は,過去 の資料 を もとに して現在 の権利 侵 害 を認 定 し,具体 的救済方法 の由来すべ き基礎 を宣言判決 によ り確定す る段階 で あ る。 「公 共 的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」 において は,確か に,この段階 で も,伝統 的 な訴訟 とは異 な る種類 の 「権利」 の侵害が問題 とされ る限 りで,裁判官 の役割 も伝統 的な訴訟 における もの とは異 な っている。 しか しなが ら,この段階 にお け る裁 判官 の役割 は,後 に述べ る第2段階 におけるそれ と比較 して,伝統 的 な裁判 官 像か らの帝離 の度合 いが比較的少 ないのである。す なわ ち,この段階で裁判 官 は,通常,当事者 の提 出 した資料 を もとに,過去 に生 じた権利 侵 害 を認定 す る 職務 に携 わ るに過 ぎないのであ る。 そ して
,
「権利侵 害 につ いて の判決 」 にお いて は,通常 ,将来形成 され るべ き救済方法 の内容 につ いて,基 本 的 な指針 が 明記 され るのであ る(130)。 ここで は,裁判官 が,いわば受動 的でかつ本来的 に司(129)R.Goldstein,A Swarm SongforRemedies:EquitableReliefin the BurgerCourt,13HARV.C.R.‑C.L.L.REV.1,65‑68 (1978)lhereinaf‑ tercitedasR.Goldstein,SwannSong.〕.これによれば,その シナ リオ は,
まず救済方法の形成過程 については,次の通 りである。①判決遵守のための指針 の 付 いているまたは付 いていない宣言判決 の言 い渡 し,②誠実 な判決遵守 (救済原案 の作成) のための時間の付与,③不履行の理 由を尋ね るヒア リングの実施,④付 随 的な救済 を求める原告 の申立て,⑤被告 に対す る詳細 な救済方法 の原案提出命令,
⑥原告 に対す るその種の原案提出命令 または原告 お よび被告 に対 す る原案交渉命 令,⑦裁判所 の形成 した原案 および (または)原案 を作成すべ きマスターの任命 に 関す るヒア リングの実施,⑧具体的救済方法 を命 じる判決 の言渡 し。 そ して,救済 方法 の実現過程 については,次 の通 りである。①資料 ・情報 を収集 し判決 の実現具 合 いを審査 し補助す る権限を もったマスターまたは監視委員会 の任命,②判決 の誠 実 な遵守のための時間の付与,③ レシーバ ーの任命,救済を遅延 させ る州法の無効 化,制度 ・施設 の閉鎖,州公務員の更迭,予算支出命令,その他介入 的 な諸種 の行 為,④裁判所侮辱罪の発動。
(130)ぷeee・g.Brownlcase.supranote29at495&n.13,Hartv.Community SchooIBoardofBrooklyn,383F.Supp,699,756‑58(E.D.N.Y.1974)
●
134 商 学 討 究 第40巻 第3号
法 的 な役 割 を演 じる ことにのみ終始 す るので あ る(131)。 この段 階 で ,裁判 官 は, 客観 的 かつ公 平 な姿勢 を保 持 しな けれ ば な らず ,時 の政治 や世 論 か らは独 立 し て活 動 しな けれ ば な らな い(132)とされ るので あ る(133)0
これ に対 して,一 旦権 利 侵 害 が認定 され た の ち に,「公共 的 イ ンジ ャ ンクシ ョ ン」 とい う救済 方 法 が具体 的 に形 成 され て行 く第 2段 階 で は,これ こそ ま さ に 具体 的救 済方 法 の形 成過 程 と言 うべ き段 階 で あ るが(1叫),裁 判 官 の役割 は,伝 統 的 な訴訟 にお け る場 合 とは大 き く異 な るので あ る。 す なわ ち,「公共的 イ ンジャ
ンク シ ョン訴 訟 」事 件 が ,あ る大 規 模 な公 的制度 ・組 織 の改善 を 目的 と した も ので あ るた め,裁判 官 は,広 汎 な将 来 的展垂 の もとで ,積 極 的 な資 料 ・情 報 の 収 集活 動 を行 な い,具 体 的救 済 方 法 を形 成 す るた め の巧 み な選 択 的 テ ク ニ ック (‑ 本 章第 2節 ) を利 用 して,最 適 な 「公 共 的 イ ンジ ャ ンク シ ョ ン」 を創 出 し て行 か な けれ ば な らな いので あ る。 したが って ,裁 判 官 は,伝 統 的 な裁 判 官 像
〔公立学校における人種による別学解消訴訟事件〕.SeealsoWyattcase.Supra note63at1343〔補充的な判決〕.
(131)SpecialProject:RemedialProcess.supranote26at791‑92,F.Coffin, FrontierofReTnedies.Supranote128at984185,Note,ComplexEnfor‑ cement:UnconstitutionalPrison Conditions,94 HARV.L.REV.626,638 (1981)〔hereinaftercitedasNote,ComplexEnforcemeTu.〕.
(132)0.Piss,FormsofJustice.SLLPranote119atll‑17,51‑52,58.
(133)「公共的インジャンクション訴訟」事件の場合,裁判所 は,通常,この 「権利侵 害についての判決」の中で 「管轄の保持 (retentionofjurisdiction)」を明記 し, それに基づいて,具体的救済方法の創造活動を行なうことになる。
なお,この段階で,権利の確認が適切なかたちで原告の保護に役立たない場合 に は,裁判所 は,被告が自発的に何 らかの措置を取 ることを信頼 しつつ,継続 的な権 利侵害を阻止するために,伝統的な訴訟事件で用い られている単純な 「禁止的イン
ジャンクション (prohibitoryinjunction)」を発令すべきであるとす る論者 も あ る。SeeDevelopmentsin theLaw:Section 1983andFederalism,90 HARV.L REV.1133,1248 (1977) thereinaftercited asDevelopmentsISec‑ tion1983.).
(134)しか し本稿では,訴えの提起か ら 「権利侵害についての判決」に至 る過程を も含 めて,救済方法の形成過程 と呼ぶ ことにしたい。なぜな らば,その第1段階の判決 でまさに具体的救済方法の創造のための根拠が確定 され,しか も多 くの場合にその 判決の中で,救済方法を具体化す るための基本的な指針が示 され,救済方法の形成 過程 における重要な中間点をな していると考え られるか らである。
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(2) 135 であ る受動的なイメージを脱 し,能動的かつ積極的 に訴訟運営 を行 な うことが, 不可避 的 に要求 され ることにな るのである(135)。 この段階か ら,裁判官 は,救 済 形成 (ひいて は救済実現) における両 当事者 による 「将来的な諸計画 の策定」
な どに関 して,個人 的 に も密接 に関与 す る ことにな るので あ る(136)。 融 通性 が あ りかつ実効性 がある救済方法 を形成す るために,裁判官 は,自己 の権 利 に一 定 の限界 のあ ることを認 めっつ も,特定 の 「社会」で有効 に機能す る具 体 的救 済方法 を形成す るよ うに努 めなければな らず,時 には妥協 しなければな らな い こともあ るのであ る(137)。 とりわ け,「公共的 イ ンジャンクシ ョ ン訴 訟」 事件 に おいて は,救済方法 の実現過程 を も踏 まえた救済方法が形成 され るべ きである。
「公共的 イ ンジャンクシ ョン」判決 の執行 が被害者救済 の成否 の鍵 とな るので, 裁判官 は,この形成過程で積極的かつ能動 的な役割 を演 じるべ きで あ り,古 典 的な意味での裁判官 の中立性 の要請 に対 して は,一定 の譲歩 が期待 されて い る のであ る(138)(139)。
この よ うな2段階的な構成 につ いて,弁護士 の R.Goldstein氏(140)は,次 の
(135)SpecialProject:RemedialProcess.Supranote26at791‑92,R.Gold‑
stein,Swarm Song.Supranote129at4‑5,49150,79180,F.Coffin,Fron‑
tierofRemedies.Supranote128at984185,C.Diver,PoliticalPoweT・‑ broher.Supranote26at62‑64,W.Fletcher,DiscretionaryConstitution.
Supra note 116 at638‑39,D.Rudenstine,InstitutionalInjuTWtions,4 CARDOZOL.REV.611,634(1983),Note,CoTnPlexEnforceTnent.SuPranote 131at638.
(136)A.Chayes,Roleof theJudge.Supra note24 at1284,J.Resnik, ManagerialJudges.Supranote125at391.
(137)0.Piss,FormsofJustice.Supranote119at46,54‑55,57.
(138)SeeD.Rudenstine,InstitutionalInjunctions.Supranote135at633‑ 637,D.Horowitz,OrganizationalChange.Supranote26at1304.
(139)これに対 して,P.Gewirtz教授は,権利 と救済方法との相互依存関係の緊密さ および正当性の観点 (上述の第2段階は司法活動の正当性の点で問題があるとす る立場)から,このような2段階的構成を批判する。そして,このような2分法は,
「汚れなき権利 (pureright)」 ・ 「汚れた救済 (dirtyremedy)」を生み出すお それがあるとされる.SeeP.Gewirtz,ReTnediesandResistance,92YALE L REV.585.678(1983) 【大林文敏 「論文紹介」1985‑2『ア メ リカ法』80頁】 . Seealsoinfranote206.
(140)R.Goldstein,Swarm Song.Supranote129at80.
136 商 学 討 究 第40巻 第3号
よ うに評価 されてい る(141)0
(このよ うな構成 を採用すれば,過度 に介入的な司法的活動 が阻止 され, 法 原理 に基 づ いた公正 な行為 を促 進 し, しか も,「社 会 的 な政 策 (social policy)」とい う複雑 な問題 に取 り組 む司法部 の能力 を保障 す る とい う点 で, 連邦最高裁判所 の利点 ともな るのであ る。 この種 の訴訟 における事実審裁判 官 は,控訴審裁判官 と比較 して,専門的知識 をよ り一席 必要 とされ るので,
このよ うな2段階的構成 を採 ることによ り,全 く新 たな種類 の事実認定 や利 益衡量 とい う職務 に携 わ らずをえない裁判官が
,
「公共 的 イ ンジ ャ ンク シ ョン」 の内実 を減殺 して しま うことを妨 げるであろ う。
権利 に関す る審理 は,法原理 に基づ き法的推論 によ り行 な われ,それ は, 我 々の政治的 な文化 の重要 な一部 を構成 す るものであ る。 これに対 して,救 済方法 に関す る審理 は,経済 的,社会的そ して政治的な資料 ・情報 の分析 に 裁判所 を巻 き込 む ものであ る。 これ ら2つの審理 の相互依存関係 の存在 によ り,権利 に関す る法的推論 は,法原理 に基づ く考慮 による実務 的 な改善 の努 力を伴 いっつ,現実 の執行 の経験 に照 らして行 なわれて行 くのである。 2段 階的な構成 を採 らなければ,このよ うな審理 の可能性 を消 し去 って しま う。 権利 と救済方法 との結合 の度合 いを強化す ることによ り,裁判官 の救 済形 成 活動 を切 り詰 めて しまえば,最高裁判所 は,権利 の効果的な実現 を大 き く制 約 して しま うことにな るので あ る。)
このよ うな第 2段階 の必要性 について,大 きな基本的一因をな しているのは, この種 の訴 訟 事件 の有 す る救 済方 法 の多様性 とい う特質 で あ ろ う。 つ ま り,
「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件 にお いて は,まず,伝統 的 な訴訟 とは
(141)ちなみに,我が国においても,権利と救済方法との判断を分けて行なうことに好 意的な文献として,佐藤 「基本的人権の保障と救済」『前掲書 (『現代国家 と司法 権』)(註2)』284‑85頁 (初出 1985),拙稿 「前掲論文 (「『公共的差止訴訟』の基 本的手続構造」)(註8)」457‑58頁などを挙げることができ,疑問視する見解 とし て,大沢 「構造的差止命令とその抑制の可能性」『前掲書 (『現代アメリカ社会と司 法』)(註22)』160貢 (初出 1987)などを挙げることができる。これらの検討は,
第7章で行ないたい。
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(2) 137 異 な り,裁判官 は,あ る実体法上 の権利侵害 の認定 か ら論理必然 的 に特定 の具 体的救済方法 を選択 的 に形成す るとい う作業 に従事す ることを余儀 な くされ る
のである。 しか も,裁判官 の このよ うな職務 は,後 に述 べ るよ うな 「公共 的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件 に固有 の諸種 の ファクターによ り,一層複 雑 化 し 困難化す ることになる。 すなわち,この種 の訴訟で求 め られている救済内容が, 大規模 かつ専門技術的な公的制度 ・組織 の改善 にあ り,詰 ま ると ころ,現 在 あ
るいは将来 における長期的でかつ広範囲 にわた る被告 の専 門技術 的な行為 の規 制 であるとい うことか ら,裁判官 は,能動 的な活動 を通 じて,いわ ば立 法事 実 的な事実 (‑本節4)を収集 しなければな らな くな るのであ る。 しか も,本来 的 に当該制度 ・組織 の専門技術的な知識 や情報 に精通 してい るはず の被 告 が, 多 くの場合救済方法 の具体化 のさいに協力的な態度 を示 さない (‑本節5)こ とか ら,当該専門分野 について は素人であ る裁判官 が,現行訴訟 制度 の既 存 の 枠組 みの中で,最適 な具体的救済方法 を創造 して行かなければな らないので あ る。 したが って,「公共的イ ンジャンクシ ョン訴 訟」 事 件 の裁判 官 は,と りわ け 「救済方法 についての判決」 に至 るこの第 2段階 において,能動的かつ積 極 的な役割が期待 されているのである。 そ して現実 に,諸種 の訴訟手続上 の テ ク ニ ックを活用 して,この難題 に取 り組 んでい るのであ る。
このよ うな 「公共的 イ ンジャンクシ ョン訴訟」 の第 2段階 にお ける裁判官 の 新 たな役割 の諸態様 について は後 に具体 的 に見 ることと して (‑本章第 2節),
まず,裁判官 が このよ うな積極 的な役割 を演 じるさいに生 じる諸問題 について, 検討 して行 くことに したい。
もとよ り,この種 の訴訟事件 において,裁判所 は,「公共的 イ ンジャンクシ ョ ン」 とい う新 たな救済方法 を通 じて,公 的な制度 ・組織 の改善 に取 り組 ん で い る。 そ こで は,固有 のエクイテ ィ権限 (equitablepower)を行使 す る こ とに よ り,このよ うな司法上 の職務 を遂行 してい るのであ る。 ところが,その さい に裁判官 は,公的な政東 を変更す る内容 の判決 を言 い渡 し,ときに はそれ に公 的な資金 の増加 を盛 り込 む よ うに命 じることもあ るとい う点 で,「立 法者 」 的 な性格 を帯 びる。 これ は,本質的 には立法者 の職務 であ るとされ る社会 的 に有