曲線のヤコビ多様体における群演算の 幾何的様相
〜曲線で Let’s 足し算〜
楫研究室 石川 大蔵
概 要
代数曲線のヤコビ多様体の元は
,
適当なlinearly equivalent
を経由し て種数以下の点の形式和で表せることが知られている. 2
つの因子の形式 的な和を種数以下の点で生成される元として表す際に,
経由するlinearly
equivalent
がどのような有理射によって与えられるかを調べ,
かつ具体的に記述した
.
1 序
楕円曲線には加法群の構造が定義されることがよく知られている. 例えば, 平面上 { y
2= x
3− x }∪{∞} で与えられる楕円曲線 C の 2 点 P , Q の和 P + Q は, P, Q を通る直線 L
1と C とのもう一つの交点 R の involution R によって, P + Q ∼ R であった. 楕円曲線の場合, 曲線とそのヤコビ多様体は同一視で きるので, 楕円曲線の加法群の構造はそのヤコビ多様体での群演算として見な すことができる.
一方で曲線のヤコビ多様体の元は適当な linearly equivalent によって種数以 下の点で生成できることが知られている. 上の例では, linearly equivalent を 与える rational function ϕ は, L
2を involution を与える直線, L
i(i = 1, 2) の 定義方程式を l
iとすれば, ϕ = l
1/l
2∈ K(C) として与えられる. しかし, 種数 が 2 以上のとき, 群演算に現れる ϕ の具体的な形はあまり知られていないよ うに思われる. 本修士論文は, ヤコビ多様体の 2 元の和を linearly equivalent を通じて種数以下の点の和として表す際に, その linearly equivalent を与える
rational function ϕ がどのようなものかを考察し, かつ具体的に記述したもの
である.
2 諸定義
まず始めに, 全体を通じて使う概念を定義する:
Definition 2.1. 非特異な代数曲線 C について,
Jac(C) := Cl
0(C) = ker { deg : Cl(C) −→ Z} , を C のヤコビ多様体という. ここで,
Cl(C) = {
f inite
X
i
n
iP
i; n
i∈ Z , P
i∈ C } / ∼ ;
D
1∼ D
2⇐⇒ D
1− D
2= (f ) ; for ∃ f ∈ K(C).
特にこの同値類を linearly equivalent という.
Remark 2.2. Jac(C) の任意の元は, P
0∈ C を固定して,
f inite
X
i
n
iP
i− (
f inite
X
i
n
i)P
0; n
i∈ N , X
i
n
i≤ g, P
i∈ C
と表せる. すなわち, C 上の点 P に対応する Jac(C) の元 (P − P
0) の高々種 数個の和となる.
Jac(C) の 2 つの元 D
1, D
2の和 D
1+D
2が形式的に種数より大なる個数の 点での和となったとき, ある rational function による principal divisor を経由 して, 種数以下の個数の点での和に書き直せる. このときの rational function がどのようなものかを考察する. すなわち問題は以下のようになる:
Question 2.3. D
1, D
2∈ Jac(C) について, D
1+ D
2=
X
hi=1
n
iP
i− ( X
n
i)P
0s.t. h g(C) とする. 適当な linearly equivalent によって, D
1+ D
2=
h′
X
j=1
m
iQ
i− ( X
m
i)P
0+ (ϕ) s.t. h
′≤ g(C) となるが, このときの ϕ ∈ K(C) はどのようなものか.
3 Hyperelliptic curves
種数 g の hyperelliptic curve C を, { y
2= p(x) } ∪ {∞} , 但し p(x) は 2g + 1 次の多項式として与える. 以下の定義を与える:
Definition 3.1. C ∋ P := (a, b) の involution を P := (a, − b) で定義する. 特に ∞ := ∞ .
また, Jac(C) ∋ D が reduced form とは, D := P
n
iP
i− ( P
n
i) ∞ という形 で書け, 以下のすべての条件を満足するものとする.
(1) P
n
i≤ g,
(2) P
i̸ = P
j, P
j, ∞ if i ̸ = j, (3) P
i; branch point ⇒ n
i= 1.
Remark 3.2. (1) Jac(C) の任意の元に対し, linearly equivalent で reduced form な元が存在する.
(2) ある代数曲線 C
′に対し, C
′∩ C = { P
1, . . . , P
h} ⇒ P
1+ · · · + P
h∼ h ∞ (3) (P − ∞ ) ∼ (P − ∞ )
このとき 2 つの reduced form,
D
1:=
h1
X
i
P
i− h
1∞ , D
2:=
h2
X
j
Q
j− h
2∞ ∈ Jac(C); P
i̸ = Q
jについて, D
1+D
2の reduced form がどのような principal divisor を経由して 得られるかを考える.上の Remark から, P
i̸ = Q
j(1 ≤ ∀ i ≤ h
1, 1 ≤ ∀ j ≤ h
2) として良い. 実際, P + P ∼ 2 ∞ ゆえ, P
iと Q
jに involution の関係があれば, その 2 点を除いた点でも同じ元を生成できるからである.
D
1+D
2の reduced form を与えるような rational function は, F. Leitenberger によって以下の2つの関数を与えることで良いことが示されている:
degb(x) = (h
1+ h
2+ g − ε)/2, degc(x) = (h
1+ h
2− g − 2 + ε)/2.
但し, ε = (
0 (h
1+ h
2+ g : even) 1 (h
1+ h
2+ g : odd)
なる次数の b(x), c(x) ∈ C [x] において, P
i, Q
jが
b(x) − y · c(x) = 0 を満たすものを考えれば良い. 実際,
(b(x) − y · c(x)) · (b(x) + y · c(x)) = b
2(x) − y
2· c
2(x) = 0 を満たす C 上の点 は, b
2(x) − p(x) · c
2(x) = 0 を満たす.
deg(b
2(x) − p(x) · c
2(x)) ≤ h
1+h
2+g より, 新たに g 個以下の解 x
kを得る. こ の各 x
kに対し, b(x
k) − y · c(x
k) = 0 となるような y
kによって R
k= (x
k, y
k) とおけば,
D
1+ D
2∼ − X
(R
k− ∞ ) ∼ X
(R
k− ∞ )
従って linearly equivalent を与える rational function ϕ は, b(x) − y · c(x) と
各 R
iにおける involution を与える直線とで与えられることになるが, 本質的
なのは b(x) − y · c(x) であるゆえ, b(x), c(x) を定められれば良い.
Leitenberger は論文の中で, g = 2 のときの特に h
1, h
2= 2 の場合について上
の b(x), c(x) を具体的に与えている. (次数を見ると, degb(x) = 3, degc(x) = 0
ゆえ, 実際には b(x) のみを与えている.) それが次の定理である:
Theorem 3.3 (F. Leitenberger). D
1:=
X
2i=1
n
iP
i− 2 ∞ , D
2:=
X
4i=3
n
iP
i− 2 ∞ P
i:= (x
i, y
i) とする.
x
i̸ = x
j(if i ̸ = j) ⇒ b(x) = X
4i=1
y
i· Y
j̸=i
x − x
jx
i− x
jよって
ϕ = (y − b(x))/(l
1· l
2) ; 但し l
iは involution を与える直線の定義方程式 となる.
これに対し, 任意の種数 g かつ h
1+ h
2= g + s; (1 ≤ s ≤ g) としたまった く一般の場合の b(x), c(x) を与えた次の定理が, 本修士論文の主結果の一つで ある.
D
1+D
2が g +s (1 ≤ s ≤ g) 個の点で生成されているとき, n = [(g +s + 1)/2]
とすると, degb(x) = 2g − n, degc(x) = n − 1 である. すると, この n を用い て b(x), c(x) は以下のように表せる:
Theorem 3.4. D
1+ D
2:=
X
g+si=1
n
iP
i− (g + s) ∞ , (1 ≤ s ≤ g) とし, 各 P
i:= (x
i, y
i) はすべて相異なるもので, branch point の個数は g + s − n 以下 とする. このとき,
b(x) = X
1≤i1i2···in≤g+s
y
i1· · · y
in·
Y
k̸=i1,i2,···,in
(x − x
k) Y
k̸=i1,i2,···,in
(x
i1− x
k) · · · (x
in− x
k) ,
c(x) = X
i≤i1i2···in−1≤g+s
y
i1· · · y
in−1·
n
Y
−1l=1
(x
il− x) Y
k̸=i1,i2,···,in−1
(x
i1− x
k) · · · (x
in−1− x
k) .
特に,
ϕ = (b(x) − y · c(x))/(
Y
gi=1
l
i); 但し各 l
iは involution を与える直線の定義方程式.
proof. P
j(1 ≤ ∀ j ≤ 2g) が, b(x) − y · c(x) = 0 を満たせば良い. 各項で見る と, c(x
j) は, j ∈ { i
k}
lk=1−1の項では 0 になるので,
c(x
j) = X
1≤i1i2···in−1≤2g i1,i2,···,in−1̸=j
y
i1y
i2· · · y
in−1Y
k̸=j,i1,i2,···in−1
(x
i1− x
k) · · · (x
in−1− x
k)
一方 b(x) は, j / ∈ { i
k}
nk=1の項では 0 となるゆえ,
b(x
j) = X
1≤i1i2···in−1≤2g
y
jy
i1y
i2· · · y
in−1Y
k̸=j,i1,i2,···in−1
(x
i1− x
k) · · · (x
in−1− x
k)
= y
j· c(x
j)
Remark 3.5. (1) 種数が 3 以上のとき, b(α) = c(α) = 0 の場合, b(x) − y · c(x) = 0 からは y 座標が定まらないが, C 上の点で, T := (α, p
p(α)) とすれば, T も C 上 b(x) − y · c(x) = 0 を満たす点なので,
D
1+ D
2∼ X
(R
i− ∞ ) + (T + T − 2 ∞ ) = X
(R
i− ∞ ) + (l
1/l
∞) ; 但し, l
1は T の involution を与える直線の定義方程式, l
∞は無限遠直 線の定義方程式となる.
(2) branch point が g + s − n + 1 点以上あるとき, D
1+ D
2に現れる branch point の和は C のそれ以外の g − s + n 点以下の branch point の和になるので, この linearly equivalent のみで g 点以下の点で生成さ れている自明な場合である.
4 Space curves
空間曲線に対しても, 同様に群演算を与えるような rational function を考 える. 始めに次の値を定める:
N
m:=
µ m + 3 3
¶
− 1
N
mは m 次曲面がなす族の次元である. これを用いて lemma を与える:
Lemma 4.1. P
3∋ P
i(1 ≤ i ≤ N
m) を general にとる. C [x, y, z, w] の m 次 単項式を M
1, M
2, . . . , M
Nm+1とおく. このとき, { P
i}
Ni=1m⊂ H
mなる m 次曲 面 H
mの定義方程式は,
F
m(P
1, P
2, . . . , P
Nm) =
N
X
m+1i=1
det(v
1· · ·
z }| {
i− v
Nm+1· · · v
Nm) · M
i+ detA · M
Nm+1.
ここで, v
i=
t(M
i(P
1), . . . , M
i(P
Nm)) ; (1 ≤ ∀ i ≤ N
m), A = (v
1· · · v
Nm)
として, F
m= 0 で与えられる.
proof. P
j(1 ≤ j ≤ N
m) に対して,
N
X
m+1i=1
det(v
1· · ·
z }| {
i− v
Nm+1· · · v
Nm) · M
i(P
j) = − detA · M
Nm+1(P
j)
を示せば良い. 左辺を v
Nm+1において余因子展開する. A の (k, i) 成分にお ける余因子を ∆
k,iとすれば,
Nm
X
k=1
− M
Nm+1(P
k)
Nm
X
i=1
( − 1)
k+iM
i(P
j) · ∆
k,iここで,
Nm
X
i=1
( − 1)
i+kM
i(P
j) · ∆
k,iは, A の k 行ベクトルを j 行ベクトルに入 れ替えたものの行列式だから,
Nm
X
i=1
( − 1)
i+kM
i(P
j) · ∆
k,i= (
0 (if k ̸ = j), detA (if k = j).
以上より, (左辺)= − M
k(P
j) · detA =(右辺).
Remark 4.2. P
1, . . . , P
Nm∈ P
3を general にとると, P
1, . . . , P
Nm∈ H
mと なるような m 次曲面 H
mはただ一つである.
すると, この F
mを用いれば rational function を具体的に与えることがで きる. それが次の定理である:
Theorem 4.3. P
1, . . . , P
g+1∈ C を general にとる.
D
1+ D
2=
g+1
X
i=1
P
i− (g + 1)P
0∼ X
gi=1
R
i− gP
0を与える rational function ϕ は, P
1, . . . , P
g+1に対して
{ Q
i}
mdi=1−(g+1), { R
i}
gi=1⊂ C, { S
i}
Ni=1m−md, { T
i}
Ni=1m−md⊂ P
3\ C が存在 して,
ϕ = F
m(P
1, . . . , P
g+1, Q
1, . . . , Q
md−(g+1), S
1, . . . , S
Nm−md) F
m(Q
1, . . . , Q
md−(g+1), P
0, R
1, . . . , R
g, T
1, . . . , T
Nm−md) . proof. N
m≥ md ≥ g + 1 となるように m ∈ N とし,
H
m= Z(F
m(P
1, . . . , P
g+1, Q
1, . . . , Q
md−(g+1), S
1, . . . , S
Nm−md)), H
m′= Z(F
m(Q
1, . . . , Q
md−(g+1), P
0, R
1, . . . , R
g, T
1, . . . , T
Nm−md)) とおくと, { P
i}
g+1i=1, { Q
i}
mdi=1−(g+1)∈ H
mゆえ
H
m.C =
g+1
X
i=1
P
i+
md−
X
(g+1)i=1
Q
i.
次に { Q
i}
mdi=1−(g+1), { R
i}
gi=1, { P
0} ∈ H
m′ゆえ
H
m′.C =
md−
X
(g+1)i=1
Q
i+ P
0+ X
gi=1
R
i.
すると, H
m.C − H
m′.C = (F
m/F
m′) なので, D
1+ D
2=
X
gi=1