研究紹介:測地線の幾何学
印南信宏
平面幾何や空間幾何を小学校から高校まで習っています。これらの平面や空間は,ユーク リッド平面,ユークリッド空間と呼ばれます。線分,直線,二等分線,平行線,三角形,平 行四辺形,円,楕円,放物線,双曲線など習っています。そのときに,2点を結ぶ最短線,
距離が最も基本的でした。さて,地図帳の
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ページの上で2点を結ぶ最短線は,高い山や深 い谷を避けた方が短くできそうなので,ユークリッド平面のような線分ではありません。し かし,最短線は存在します。どのような曲線でしょうか。もっと一般に物体の表面は曲面,あるいは,曲面を貼り合わせたようになっていますが,その上の2点を結ぶ最短線はどのよ うに求められるでしょうか。
物体の表面上の曲線で,その上の十分近い2点を結ぶ最短線になっているとき,その曲線 を測地線と呼びます。通常は最短線だけではなく測地線を扱っていきます。これは,微積を 使って関数の最小値を求めるときに,極値は微分係数0で求めやすいが,それが最小である ことを示すのはなかなか難しいのに似ています。つまり,測地線は,変分法と呼ばれ方法で 特徴を掴めるのですが,最短線はなかなか理論的に求めることは難しいのです。ユークリッ ド幾何学における線分の役割を曲面上の最短測地線に任せて曲面上の幾何学を展開します。
例えば,三角形の2辺の長さの和は他の1辺より大きいという事実は,辺を最短測地線に変 更すると,曲面上でも正しくなります。平行線は,交わらない直線と考えることによって,
曲面上の平行線を考えることができます。曲面上の平行線に関しても,未解決問題がまだあ ります。
最近は,曲面上の最短ネットワーク問題を研究しています。曲面上に有限個の点が与えら れたときに,これらの点を最も短く結び合わせる問題です。2個の点の場合は,最短測地線 を求める問題です。ユークリッド平面で正三角形の頂点となる3点が与えられた場合は,重 心に点を追加して,重心から3頂点を結ぶものが最短ネットワークです。最短ネットワーク 問題の解を最小シュタイナー木と呼びます。新しく点を追加しないで,最短ネットワーク問 題を考えるときは,その解を最小全域木と呼びます。想像がつくと思いますが,コンピュー タを使っても最小シュタイナー木を求めるには,点の個数の増加に対して,計算量の増加は 非常に大きいです。それに対して,最小全域木を見つけるのは,コンピュータを使うと短時 間でできます。そこで,最小全域木で代用することを考えると,最小シュタイナー木と最小 全域木がどれくらい違うか理論的に知っておくことが重要になります。違いを知るには,差 か比を計算するのが普通の考えです。この研究では,比の方が使われます。有限個の点をど
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のように与えても
1 ≥
最小シュタイナー木の長さ 最小全域木の長さ≥ ρ
となる可能な限り大きな定数
ρ
を知ることが重要です。1968年にρ =
√23 であるとする 予想が出され,1990年に解決したとの報告がありましたが,2000年頃から疑いがも たれ,2008年に完全に証明法の欠陥が指摘され,未解決問題に戻りました。この経過に 幾分貢献しました。また,大学院生と協力して,曲面のシュタイナー比を求める研究を行っ ています。他にも測地線の幾何学として,次のテーマを研究しています。
1.
リーマン多様体上の凸関数,及び,凸集合:この研究から私の研究生活は始まりました。
2.
リーマン多様体上の平行線の理論:平行線の公理が成り立つリーマン多様体はユークリッド空間に限るか。平行線の定義 によって,この問題はまだ未解決問題です。
3.
共役点を持たないリーマン多様体の計量:共役点を持たないという性質と非正曲率という性質との違いに興味を持っています。
4.
測地流:平坦トーラスの測地流は,エルゴード的ではないが,トーラス上のエルゴード的な流 れに分解します。この性質に興味を持っています。
5.
平面凸ビリヤード問題:トーラス上の測地線の研究方法が使えて,双対的な性質が成り立ちます。この点が面 白い。
6.
古典的なリーマン幾何学の問題:曲面のボロノイ分割を研究するために,2点の二等分線の研究を始めました。
簡単ですが,研究内容の紹介を終わります。ご覧いただきありがとうございました。とこ ろで,上の不等式の中の左側の不等号が成り立つことを説明できますか。