Oligella urethralis による尿路感染症に続発した菌血症の 1 例
1)国家公務員共済組合連合会虎の門病院呼吸器センター内科,2)公立昭和病院呼吸器内科,
3)同 感染症科,4)同 臨床検査科,5)東京女子医科大学感染症科
村瀬 享子
1)野田 一成
2)大滝 美浩
2)安田 順一
2)小田 智三
3)横沢 隆行
4)菊池 賢
5)(平成 26 年 2 月 28 日受付)
(平成 26 年 10 月 17 日受理)
Key words : Oligella urethralis, uirnary tract infection, bacteremia
序 文
Oligella urethralis(O. urethralis)は泌尿生殖器系か ら分離される片利共生菌であり,病原性は低いとされ ている1).今回報告する症例は,高熱と排尿障害を伴 う腎障害を認め,膿尿と炎症反応高値から尿路感染症 として入院となったが,尿培養と血液培養からO. ure-
thralisを認め,同菌による尿路感染症・菌血症と診断
した.入院前に繰り返し levofloxacin(LVFX)が投 与されていたことから菌交代が生じ,片利共生菌であ
るO. urethralisが病原性を示した可能性が考えられ
た.ヒトにおけるO. urethralisによる感染症の症例報 告は本邦では 1 例目であり,貴重な症例として報告す る.
症 例 症例:82 歳,男性.
主訴:発熱・呼吸困難.
既往歴:47 歳;肺結核,75 歳;硬膜下血腫手術,80 歳;脱水症・脳出血,膀胱憩室・前立腺肥大症の指摘 あり,その後,尿路感染症の再発あり,81 歳;脳梗 塞.
現病歴:2012 年 9 月より介護老人保健施設入所中.
2012 年 11 月に発熱を認め,血尿が出現したことから,
某医の往診を受けて尿路感染症と診断され,LVFX 500mg!日の内服を開始した.速やかに解熱したため 合計 9 日間で LVFX は終了となった.12 月初旬に再 度 38℃ の発熱を認め,尿路感染症の再発と診断され て LVFX の内服を再開した.翌日になっても解熱せ ず,息苦しそうにしていることから肺炎が疑われて当 院に救急搬送となった.
入院時身体所見:身長 156.0cm,体重 46.0kg,意識 JCS II-20,体温 39.6℃,血圧 144!74mmHg,脈拍 129!
分 整,SpO2 100%(酸素 2L!分 経鼻カニューレ),
呼吸回数 24 回!分,結膜に貧血・黄染なし,心音は III 音を聴取,呼吸音は清,腹部に異常所見なし,肋骨脊 柱角の叩打痛ははっきりせず,直腸診で痛がる様子は なし(介護度 4 であり,元々発語や反応はない状態で ある),陰茎・陰嚢に発赤や腫脹なし,下腿と足背に 浮腫あり.
入院時検査所見(Table 1):血液・生化学検査では,
WBC 11,820!μL,CRP 13.6mg!dL と炎症所見を認め た.BUN 28.0mg!dL,Cr 1.83mg!dL と腎機能障害を 認め,尿は肉眼的に混濁しており,沈渣で白血球と細 菌の増多を認めた.尿路感染症,腎機能障害の診断に て入院となった.
入院後経過:ceftriaxone(CTRX)2g!日と輸液療 法を開始した.第 2 病日に入院時に採取された血液培 養 2 セット 4 本中 2 本(好気培養ボトルのみ),及び 尿培養からHaemophilus様のグラム陰性短桿菌が検出 された.第 3 病日には意識が清明となり,経口摂取も 再開した.第 4 病日の血液検査で炎症反応は改善傾向 であったが,Cr 2.90mg!dL と上昇し,同日夕方に 39℃
の発熱を認めた.排尿は 1 日 800mL〜1,000mL 程度 みられていたが,下腹部が膨隆しており腹部超音波検 査を施行して膀胱の緊満を認めた.導尿の結果,1,800 mL の混濁した尿の排出を認めた.第 5 病日に当院泌 尿器科を受診し,前立腺肥大症による尿閉・膿尿を伴 う腎盂腎炎と診断されて同日転科となった.
本症例では入院時の血液培養好気性ボトルのみ 2 セットで培養陽性となり,グラム染色ではHaemophi- lus様のグラム陰性短桿菌を認めた.血液寒天培地と チョコレート寒天培地(共に日本 Becton Dickinson 症 例
別刷請求先:(〒105―8470)東京都港区虎ノ門 2 丁目 2 番 2 号
虎の門病院呼吸器センター内科 村瀬 享子
Fig. 1 A 16S rRNA analysis. The results confirmed the isolation of the same strain of Oligella urethralis from the patientʼs blood and urine specimens.
Table 1 Laboratory findings on admission.
Hematology Biochemistry Urianalysis
WBC 10,820 /μL TP 5.6 g/dL Muddines (+)
Neutro 94.0 % Alb 2.5 g/dL Specific gravity 1.010
Lymph 4.0 % T-Bil 0.4 mg/dL Protein (+/−)
Mono 2.0 % AST 15 IU/L Occult blood (3+)
Eosino 0.0 % ALT 7 IU/L Glucose (−)
LDH 145 IU/L WBC (3+)
Hb 9.8 g/dL ALP 167 IU/L
Plt 20.2×104/μL γ-GTP 11 IU/L Urine sediment
BUN 28.0 mg/dL RBC 10-19 /HPF
Cre 1.83 mg/dL WBC 50-99 /HPF
Na 129 mEq/dL Bacteria 2+ /HPF
K 4.5 mEq/dL
Cl 96 mEq/dL
FBS 81 mg/dL
CRP 13.6 mg/dL
and Company;BD)にサブカルチャーしたところ両 培地にカタラーゼおよびオキシダーゼ陽性を示す白 色・小型コロニーの発育を認めた.尿検体も血液寒天 培地と CLED 寒天培地(共に日本 BD)で培養した結 果,同様の白色コロニーの発育を認めた.尿と血液培 養から検出したグラム陰性桿菌を用いて WalkAway 96Si にて MicroScan NC 6.11 パネル(シーメンスヘ ルスケア・ダイアグノスティクス)で検査を行ったが 同定には至らなかった.そのため,ID32 GN(SYS- MEX・bioMerieux)および ID テスト・HN-20 ラピッ ド(日水製薬)を用いて検査を行ったところ前者では Oligella spp.,後者ではO. urethralisが最も考えられる 同定結果であった.当院の細菌検査室で使用している 同 定 キ ッ ト で は 確 定 に 至 ら な か っ た こ と よ り,
MALDI-TOF MS(Mcroflex LT,MALDI-BioTyper ver 3.0 Bruker Daltonik)を用いての菌種の同定を順 天堂大学感染制御科学教室に依頼した.その結果,尿 由来株,血液由来株ともにO. urethralisと同定された
(同定スコア 2.270!2.247 species level).16S rRNA gene sequence では本菌とO. urethralisDSM 7351T配 列はよく一致していた(Fig. 1).その後,当院でも 同定キットを追加して検査を行い,BD BBL CRYS- TAL N!H(日本 BD)と API 20 NE(SYSMEX・
bioMerieux)にてO. urethralisの結果を得た.本菌は Etest(SYSMEX・bioMerieux)にてミューラー・ヒ ントン寒天培地を用いて検出菌種の薬剤感受性検査を 行い,キノロン系抗菌薬すべてに耐性を示していた.
cefotaxime に感受性を 認 め た た め(Fig. 2),CTRX
Fig. 2 Results of drug susceptibility tests for the isolated bacteria. Left: The absence of a zone of inhibition to levofloxacin (disk diffusion method). Right: The minimum inhibitory concentration for levofloxacin was
>4 μg/mL (broth microdilution method).
CTRX
Table 2 Previous reports of Oligella urethralis infection.
Year of
report Author Age/
Sex Infection site Source Antibiotics Reference
1992 Mesnard R et al 83/M Septic arthritis Blood Joint liquid Amoxicillin 7
1993 Pugliese A et al 75/M Urosepsis Blood urine Sulbactam/ampicillin 1
1996 Riley UBG et al 69/M Peritonitis Peritoneal dialysate Vancomycin+ciprofloxacin 8 29/M Peritonitis Peritoneal dialysate Fluoloxacillin+ciprofloxacin
2001 Catala A et al 32/F Vagina Vagina secretion PolymyxineB+neomycine+nystatin 5
2001 Escobar S Mora et al 70/M Urinary tract Urine Trimetoprim/sulfametxazole 4
2006 Abdolrasouli A et al 73/F Urinary tract Urine Cefixime 6
2013 Murase K et al 82/M Urinary tract Blood urine Ceftriaxone this case
を継続して第 8 病日まで投与した.その後の症状や検 査結果の悪化を認めず,第 10 病日に退院となった.
考 察
Oligella属菌にはO. urethralisとO. ureolyticaの 2 菌 種がある.以前はMoraxella属菌として分類されてお り,好気性,オキシダーゼ陽性,インドール陰性,炭 水化物分解性の不活発なブドウ糖非発酵性の性質を持 つグラム陰性球桿菌である2).どちらも泌尿生殖器系 の検体から検出されることのある菌で,病原性は低い とされている.
当院で行った菌種同定検査では,前述のように確定 診断に至るまでにはかなりの時間と検査を要した.報 告例で同定キットによって診断したものは APINE
(bioMerieux)を使用していたが,その他はバイオケ ミカルテストと rapid enzyme system を併用して菌
の同定を行っていた.本症例では MALDI-TOF MS ならびに 16S rRNA による遺伝子解析を実施したと ころ,尿検体と血液検体ともにO. urethralisと同定さ れ,検出した菌株が同じものであったことからO. ure-
thralisによる尿路感染症からの菌血症であることが判
明した.MALDI-TOF MS は近年,迅速かつ安価で,
遺伝子同定と同等の菌種同定精度が得られることから 普及しつつある.本菌についても MALDI-TOF MS の同定結果と 16S rRNA 遺伝子解析結果は一致して おり,比較的分離頻度の低い菌 種 の 同 定 に 対 す る MALDI-TOF MS の有用性が確認できた3).
O. urethralisが病原性を示した報告例はこれまでに
6 報 7 例(そ の う ち 男 性 5 例1)4)〜8))あ り(Table 2),
4 例が泌尿生殖器系の感染であった1)4)〜6).膀胱・子宮 の術後や腎瘻など泌尿生殖器系の器質的異常が 2 例に
認められ,異常のない 2 例も原因不明の感染を繰り返 している症例であった.また,O. urethralisは片利共 生菌であり,病原性を示す場合は日和見感染の可能性 が考えられるとの報告があるが4),実際,報告されて いる 7 例中 2 例は腹膜透析を行っており,1 例は先天 性の脳障害で,2 例は癌に罹患して長期入院中であっ たことからO. urethralisが病原性を呈するには何らか の宿主の免疫不全の関与が考えられた.
O. urethralisは大半のβラクタム系抗菌薬に感受性
を示す一方,キノロン系抗菌薬に耐性を示す頻度が高 いことが知られている4)〜6)8).本症も合わせた 8 例中 7 例においてキノロン耐性のO. urethralisが検出された が,その全ての症例で前治療としてキノロン系抗菌薬 の投与歴が確認された.ST 合剤の投与が行われてい た症例もあったが,ST 合剤の耐性は認められなかっ た4).
これまでの臨床知見や組織移行性等の理由から,尿 路感染症ではキノロン系抗菌薬による初期治療が行わ れることが多い.特に LVFX は経口薬として投与で きかつ生体利用率が高く,静注投与と同程度の効果が 得られるものとして使用頻度は高い.JAID!JSC 感染 症治療ガイド 2011 でも膀胱炎,急性単純性腎盂腎炎,
複雑性腎盂腎炎の軽傷とカテーテル留置のない中等症 などにおいては第一選択薬としてフルオロキノロン系 が挙げられている9).本邦では尿路感染症の外来治療 では,キノロン系抗菌薬が投与される症例は多い.し かし,尿路感染症の主な原因菌である大腸菌において はセフェム系やペニシリン系薬剤に対して感受性があ る場合も多く,キノロン系薬剤を投与しなくても治癒 する症例も多い.泌尿・生殖器系のように常在菌が多 い場所への感染に対して,このように広域抗菌薬投与 を繰り返すことで抗菌薬選択圧がかかり,病原性は低 いが,抗菌薬耐性傾向のある菌種による感染症を誘発 してしまう可能性があると考える.
今回調べた報告症例から,O. urethralisの感染症の 発病には宿主の免疫力の低下や泌尿生殖器系の器質的 異常に加え,不適切な抗菌薬使用による誘発の可能性 があると考える.
本症例も脳梗塞後遺症から寝たきりとなり,嚥下機 能低下により食事摂取量も少なく,全身状態は良くな かった.さらに前立腺肥大症,膀胱憩室などの下部尿 路の器質的異常があることから施設入所以前より尿路 感染症を繰り返していたこと,発熱の度に LVFX が 投与されており,抗菌薬選択圧がかかりO. urethralis による尿路感染症・菌血症を引き起こしたことが推定
された.
本症例のように免疫力が低下した状態で施設に入所 している高齢者は増加傾向であり,入所中に発熱症状 を来す高齢者も増えているものと思われる.感染部 位・臓器の特定,原因微生物追及のための細菌検査実 施等,感染症診療の基本的な考え方を実践し,抗菌薬 適正使用を推進することが,抗菌薬耐性菌感染症発生 の抑制につながるものと考える.
なお,本論文の要旨は第 87 回日本感染症学会総会
(2013 年 6 月 横浜)にて発表した.
謝辞:本論文の作成にあたりましてご協力いただき ました愛知学院大学薬学部微生物学教室河村好章先生 に深謝いたします.
利益相反自己申告:申請すべきものなし 文 献
1)Pugliese A, Pacris B, Schoch PE, Cunha BA:
Oligella urethralis urosepsis. Clin Infect Dis 1993;17:1069―70.
2)小栗豊子:Moraxella nonliquefaciens.臨床と微 生物 2009;36:149―50.
3)Fernández-Olmos A, García-Castillo M, Morosini MI, Lamas A, Máiz L, Cantón R:MALDI-TOF MS improves routine identification of non- fermenting gram negative isolates from cystic fibrosis patient. J Cyst Fibros 2012;11:59―62.
4)Escobar More S, Marne Trapero C, Gascon Val M, Lopez Calleja AI:Infeccion urinaria por Oligella urethralis. Aten Primaria 2001;30:
620―3.
5)Catala A, Simha V, Guillotel B, Rousseau MC:
Infection genital a Oligella urethralis. La Presse Medicale 2001;30:1007―8.
6)Abdolrasouli A, Aligholi M, Hemmati Y:Qui- nolone resistance in Oligella urethralis-associated urinary tract infection. Iranian J Phamacol Ther 2006;5:83―5.
7)Mesnard R, Sire JM, Donnio PY, Riou JY, Avril JL:Septic arthritis due to Oligella urethralis.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1992;11:195―
6.
8)Riley UBG, Bignardi G, Goldberg L, Johnson AP, Holmes B:Quinolone resistance in Oligella urethralis-associated chronic ambulatory perito- neal dialysis peritonitis. J Infect 1996;32:
155―6.
9)清田 浩,荒川創一,石川清仁,尾内一信,中
村匡宏,蓮井正史,他:尿路・性器感染症.JAID!
JSC 感染症治療ガイド委員会.JAID!JSC 感染症 治療ガイド 2011.日本感染症学会・日本化学療 法学会,2011;p. 152―67.
A Case of Bacteremia Which Followed a Urinary Tract Infection byOligella urethralis
Kyoko MURASE1), Kazushige NODA2), Yoshihiro OTAKI2), Jun-ichi YASUDA2), Toshimi ODA3), Takayuki YOKOZAWA4)& Ken KIKUCHI5)
1)Department of Respiratory Medicine, Respiratory Center, Toranomon Hospital,
2)Department of Pulmonary Medicine,3)Department of Infectious Disease and 4)Department of Clinical Laboratory, Showa General Hospital,
5)Department of Infectious Disease Medicine, Tokyo Womenʼs Medical University
An 82-year-old bedridden man with sequelae from a cerebral infarction was admitted to a welfare insti- tution for the elderly. He developed a high fever and hematuria and was prescribed levofloxacin for the treatment of a suspected urinary tract infection. Although his condition improved, the symptoms subse- quently recurred;therefore, levofloxacin was again administered.
He remained febrile and was admitted to a hospital due to recalcitrant urinary tract infection. Immedi- ately after admission, he developed ischuria and pyuria. Urine and blood cultures at admission indicated the presence of levofloxacin-resistantOligella urethralis (O.urethralis). He recovered with ceftriaxone medication.
To our knowledge, this is the first report of bacteremia associated with a urinary tract infection caused by O. urethralisin Japan.
〔J.J.A. Inf. D. 89:274〜278, 2015〕