博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本申請論文は、看護師の多様化するライフスタイルを支える仕事とはどのようなものか、
その概念を明らかにするとともに、その仕事がどの程度実現できているかを測定する尺度 を開発することを目的としている。看護師就業者数の多くが女性であり、結婚・出産・育 児といったライフイベントが職業継続にもたらす影響は大きく、さらに大学院教育や高度 実践看護師、副院長への看護職の登用といったキャリア形成の道も開かれてきている。こ のように就業している看護師を取り巻く状況はここ数年大きく変化してきており、働く 人々の価値観もそれに伴い多様化してきている。こうした就業看護師のライフスタイルへ の支援として、仕事と生活の調和の実現が注目され、「仕事と生活の調和(ライフ・ワーク・
バランス)」を測定する尺度も開発されてきた。しかし、個々の生活について管理者が介入 していくことは実質的に難しく、仕事の側面から看護師のライフスタイルを支えるという、
看護の人的資源管理の側面に焦点を当てた研究はない。こうしたことを背景に、本申請論 文では、「看護師のライフスタイルを支える仕事の実現が看護師の仕事への満足感を向上さ せ、ひいては生活満足感への向上に寄与する」とした『spillover-model』を基盤とした概 念枠組みを設定した。
研究は大きく 4つのプロセスを踏んだ。第1段階では、看護師のライフスタイルを支え る仕事の構成概念を明らかにするため、文献検討と看護師へのインタビュー調査を行った。
その結果、6 つの構成概念を抽出し、『看護師のライフスタイルを支える仕事』を「多様 な働き方ができる職場において、支援的な職場風土の中で自発的な調整を行いながら、仕 事と生活の時間を確保し、看護師としての自尊心を保ちながら健康的にいきいきと働ける こと」と定義をした。第2 段階は構成概念ごとに質問項目を作成し、看護研究者らによる 内容的妥当性の検討を経て、全 47項目からなる尺度を作成した。第3段階はパイロット調 査として、関東地区の臨床看護師413 名を対象に信頼性・妥当性の検討を行い、項目分析 および探索的因子分析の結果から5~6 因子構造のいずれかであることを推測した上で、最 終段階へ移行した。第4段階では、全国の臨床看護師852 名を対象に、信頼性・妥当性の 検証を行った。その結果、最終的に 5 つの下位尺度【心身のゆとり】【休暇の取りやすさ】
【上司の支援姿勢】【自尊心の保持】【時間外労働の削減】から成る 31 の質問項目で構成 される尺度を開発した。なお信頼性については、Cronbach のα係数が尺度全体で 0.896、 下位尺度で0.692~0.856であり、テスト-再テスト法による安定性の検討において2 回の テストでの信頼性係数の変動もなく、相関係数 0.409~0.496で有意な強い相関の結果を示 した。一方妥当性については、基準関連妥当性として、看護師のライフスタイルを支える 仕事実現度尺度と主観的幸福感尺度および日本語版 McClosky and Mueller Satisfaction
Scale (JMMSS)との間に強い正の相関がみられたこと、さらに構成概念妥当性として、
Rosenberg 自尊感情尺度合計得点と本尺度の【自尊心の保持】得点、及び 3次元組織コミ
ットメント尺度合計得点と本尺度の【上司の支援的姿勢】【自尊心の保持】得点が、それぞ れ有意な相関を示したことから検証した。最終的に確認的因子分析において、GFI=0.858、
AGFI=0.834、RMSEA=0.067 の値を示し、因子構造のモデルは適合したと結論づけてい
る。
博士学位論文審査の要旨
本申請論文は、個々の看護師が豊かな人生を送るために、自身のライフスタイルを支え る仕事が実現できているかを、従来の「仕事と生活の調和」ではなく、看護管理者が活用
できるspillover-modelを拠り所として概念枠組みを設定している点に独創性がある。さら
に得られた構成概念が、労働環境の改善や周囲からのサポートに留まらず、看護師の心理 面での健康状態や専門職としての誇りといった、看護管理者が看護師の内的因子に関わっ ていくことの重要性を示した点に本研究の新奇性がある。これらの研究成果は、看護師が 生き生きと働ける医療施設の方向性を指し示すと同時に、看護管理者が看護師への具体的 な支援の方策を開発したり、看護管理学、特に人的資源管理に関する研究へ多くの示唆を 与えるものとして、本研究は高く評価できると考える。
論文審査及び最終試験では、文献検討の手順と内容、概念抽出から統合化へのプロセス の適切性、流出モデル(spillover-model)の確認、妥当性の理論的根拠、研究成果の独創 性、研究成果の実践への応用、今後の研究の方向性などについて質疑がなされた。これら に対する申請者の回答や意見は、概ね妥当であり、研究の限界を踏まえた今後の課題につ いても真摯に受け止め、更なる分析についても言及された。
以上のことから、本論文は博士(看護学)の学位論文に相当する水準にあり、学位申請 者は博士(看護学)の学位を授与するにふさわしい専門的知識と能力を備えていると判断 した。