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ばく露評価の不確かさの影響と発症 モデルについて

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(1)

携帯電話使用と脳腫瘍の疫学研究に関 するシミュレーションによる検討

ばく露評価の不確かさの影響と発症 モデルについて

首都大学東京大学院 理工学研究科 電気電子工学専攻 16882325 萩原 真輝

指導教員 多氣 昌生 教授

(2)

目 次

1章 序論 3

1.1 研究背景 . . . . 3

1.2 本論文の目的 . . . . 3

1.3 本論文の構成 . . . . 4

2章 発がん過程のモデルについて 5 2.1 はじめに . . . . 5

2.2 Armitage-Dollモデル. . . . 5

2.3 ばく露がある場合の相対リスク . . . . 7

2.4 まとめ . . . . 8

3 Armitage-Dollモデルを用いたトレンド解析 9 3.1 はじめに . . . . 9

3.2 導出方法 . . . . 9

3.3 導出結果 . . . . 10

3.4 まとめ . . . . 13

4 Armitage-Dollモデルを用いた症例対照研究シミュレーション 14 4.1 はじめに . . . . 14

4.2 シミュレーションの流れ . . . . 14

4.3 仮想的な人口集団の設定 . . . . 15

4.4 携帯電話所有開始年齢の設定. . . . 15

4.5 通話時間と端末の出力電力の設定 . . . . 15

4.6 脳におけるばく露量 . . . . 17

4.7 Armitage-Dollモデルを用いた発症シミュレーション . . . . 18

4.8 症例対照研究シミュレーションの方法. . . . 19

4.8.1 症例と対照の選択. . . . 19

4.8.2 ばく露評価 . . . . 20

(3)

4.8.3 オッズ比の計算 . . . . 21

4.9 トレンド解析の方法 . . . . 22

4.10 シミュレーション結果 . . . . 23

4.10.1 高周波電磁界に発がん性がないと仮定した場合. . . . 23

4.10.2 瞬時発生率のばく露応答が線形の場合 . . . . 27

4.10.3 瞬時発生率のばく露応答がステップ関数の場合. . . . 42

4.11 まとめ . . . . 57

5章 結論 59

謝辞 63

本研究に関する研究業績 65

(4)

1章 序論

1.1 研究背景

携帯電話端末から発生する高周波電磁界ばく露と脳腫瘍の関連性の検討が国際的な疫学 研究で行われてきた。その中で、13ヶ国が参加し、大規模な国際共同研究として行われた 症例対照研究[1]では、通話時間が1640時間以上とされるカテゴリーで、グリオーマ(脳 腫瘍の一種)のオッズ比(=相対リスク)が1.4であると報告された。この症例対照研究 では、症例群(脳腫瘍患者)と対照群(脳腫瘍に罹患していない人)の被験者に携帯電話 の使用履歴などをインタビュー調査し、症例群と対照群の過去の携帯電話使用の時間や回 数の違いから、高周波電磁界ばく露と脳腫瘍の関連性が検討されている。しかし、通話時 間や回数が同じでも、端末の出力電力、電波の周波数、脳内のSAR分布等が異なると脳 に吸収される高周波電磁界のエネルギー量は異なる。また、報告される通話時間や回数に も誤差が含まれる[2]。このような不確かさのため、正しくばく露評価ができていない可 能性があり、症例対照研究の結果の意味が明確でない。

先行研究で、トレンド解析(高周波電磁界に発がん性がある場合の、携帯電話の急激な 普及に伴う脳腫瘍の発症率の年次推移を導出し、実際の年次推移と比較する検討)[3] び、症例対照研究におけるばく露評価の不確かさの影響の検討[2]が行われた。ばく露開 始からがんの相対リスクの増加が遅れて現れると考えられており、トレンド解析[3]では 恣意的に遅れを仮定している。そのため、恣意的に結論が変わってしまう問題がある。ま た、ばく露評価の不確かさの影響の検討 [2]では、上記の遅れが考慮されていない。携帯 電話が1990年代から普及し始めたことと、上記の遅れがあることから、症例対照研究を いつ行うかということを含めて、ばく露評価の不確かさの影響の検討を行う必要があると 考える。

1.2 本論文の目的

本論文では、携帯電話使用と脳腫瘍の疫学研究に関する考察を、発がん過程のモデルを 用いたシミュレーションによって行う手法を開発することを目的とする。発がん過程のモ

(5)

デルを用いることで、ばく露開始から相対リスクが増加するまでの遅れを恣意的でなく仮 定でき、携帯電話使用と脳腫瘍の疫学研究に関する考察を行うことができる。

国際的な症例対照研究[1]において、累積通話時間が1640時間以上のばく露群でオッズ 比が1.4と報告された脳腫瘍はグリオーマ(脳腫瘍の一種)である。そのため、本論文で の脳腫瘍はグリオーマとする。

1.3 本論文の構成

本論文の構成を以下に示す。

1章では、研究背景と研究目的について述べた。

2章では、発がん過程のモデルであるArmitage-Dollモデルについて述べた。

3章では、Armitage-Dollモデルを用いたトレンド解析について述べた。

4章では、Armitage-Dollモデルを用いた症例対照研究のシミュレーションについて

述べた。

(6)

2章 発がん過程のモデルについて

2.1 はじめに

ばく露開始から相対リスクの増加までの遅れを恣意的でなく仮定し、携帯電話使用と 脳腫瘍の疫学研究に関する考察を行うため、発がん過程のモデルについて調査した。第2 章では、本論文で使用する発がん過程のモデルであるArmitage-Dollモデルについて説明 する。

2.2 Armitage-Dollモデル

Armitage-Dollモデルは1つの細胞ががん化するまでにk回のイベントが必要であると

いうモデルである[4]。図2.11つの細胞ががん化するまでの過程を表している。以降、

2.1: Armitage-Dollモデル

初期状態の1回もイベントが起きていない状態を状態1と称する。λiは状態iの細胞に起 きるイベントの瞬時発生率であり、微小時間dtの間に状態iの細胞にイベントが起きる確 率はλidtである。ばく露の影響で、瞬時発生率が増加すると仮定することで、ばく露の影 響を表現できる。本論文では、ばく露がないときのλiiによらず、αと仮定する。この とき、細胞がN 個あり、t歳でN 個の細胞のうち1つががん化する確率f(t)は、

f(t) =N αktk1

(k1)!eαt (2.1)

となる。

次に、パラメータの求め方について説明する。式2.1がグリオーマの年齢別発症率に合 うようにパラメータを求めた。パラメータを求めるため、1つの細胞ががん化した時点か

(7)

ら診断されるまでの期間を無視した。つまり、N 個の細胞のうち1つの細胞ががん化し た年齢を診断年齢として、グリオーマの年齢別の発症率からパラメータを求めた。本論文 では、グリオーマの年齢別発症率のデータが利用できなかったため、日本人男性の脳・中 枢神経系のがんの年齢別発症率(1984–2000年の平均)[5]と、脳腫瘍の年齢別発症数に おけるグリオーマの割合(1984–2000年の平均)[6]の積をグリオーマの年齢別発症率の データ(図2.2)とした。k = 1,2,3, ...として最小二乗法を用いてパラメータを求めた。

その結果、k= 3N α3 = 6.89×109で誤差が最小となったため、本論文ではk= 3 Armitage-Dollモデルを用いる。

症例対照研究 [1]の研究対象者が30–59歳であるため、本論文では携帯電話使用と脳腫 瘍の疫学研究に関する考察は、30–59歳を対象に行うこととした。そのため、20歳以下で Armitage-Dollモデルがグリオーマの年齢別発症率に合っていないが、Armitage-Doll デルを用いることとした。

2.2: グリオーマの年齢別発症率[5] [6]

(8)

2.3 ばく露がある場合の相対リスク

ばく露の影響で瞬時発生率が増加すると仮定することで、ばく露の影響を表現すること が可能である。s歳から1回目のイベントの瞬時発生率がx倍となる場合、t(s)歳で1 つの細胞ががん化する確率Is(t)は式2.2で表される[8]s歳からk1回目のイベントの 瞬時発生率がx倍となる場合、t(s)歳で1つの細胞ががん化する確率Is(t)は式2.3 表される[8]s歳からk回目のイベントの瞬時発生率がx倍となる場合、t(s)歳で1 の細胞ががん化する確率Is(t)は式2.4で表される [8]f(t)は式2.1の、ばく露がないと きにt歳で1つの細胞ががん化する確率である。

Is(t) =f(t) + (x1)N ak

(k1)!(ts)k1 (2.2) Is(t) =f(t) + (x1)N ak

(k1)!(tk1sk1) (2.3) Is(t) =f(t) + (x1)N ak

(k1)!tk1 (2.4)

本論文で使用するk= 3の場合のArmitage-Dollモデルで、20歳から常に瞬時発生率が 2倍になる場合の相対リスク(=Is(t)/f(t))を図2.3に示す[8]。青のグラフは、20歳か 1回目のイベントの瞬時発生率のみ常に2倍になる場合、黄色のグラフは、20歳から2 回目のイベントの瞬時発生率のみ常に2倍になる場合、赤のグラフは、20歳から3回目の イベントの瞬時発生率のみ常に2倍になる場合の相対リスクである。ばく露で何回目のイ ベントの瞬時発生率が増加するかによって、相対リスクの増加の仕方が変わる。後の状態 の細胞にばく露が影響するほど、相対リスクが急に増加する。

先行研究[3]のトレンド解析では、ばく露開始から相対リスクの増加までの遅れを恣意 的に決めているが、Armitage-Dollモデルを用いることで図2.3のように恣意的でなく、相 対リスクの増加を仮定することができる。

(9)

2.3: ばく露による相対リスク

2.4 まとめ

Armitage-Dollモデルは1つの細胞ががん化するまでにk回のイベントが必要である

という発がん過程のモデルである。Armitage-Dollモデルのパラメータをグリオーマの年 齢別発症率のデータ [5] [6]から求めた結果、k = 3となったため、本論文ではk = 3

Armitage-Dollモデルを用いることとした。ばく露の影響でイベントの瞬時発生率が増加

すると仮定することで、ばく露の影響を表現することが可能である。何回目のイベントの 瞬時発生率が増加するかによって、相対リスクの増加の仕方が変わり、後のイベントに影 響するほど、相対リスクが急に増加する。Armitage-Dollモデルを用いることで、ばく露 開始から相対リスクの増加までの遅れを恣意的に決めることなく、携帯電話使用と脳腫瘍 の疫学研究に関する考察を行うことができる。

(10)

3 Armitage-Dollモデルを用いたトレ ンド解析

3.1 はじめに

2章で説明したk= 3Armitage-Dollモデルを用いてトレンド解析を行った。ここで は、携帯電話を所有した時点から、1回目のイベントの瞬時発生率がx倍になる場合、2 回目のイベントの瞬時発生率がx倍になる場合、3回目のイベントの瞬時発生率ががx になる場合の3通りで、携帯電話の急速な普及に伴うグリオーマの発症率の年次推移を導 出し、実際の年次推移と比較した。また、ばく露開始から相対リスクの増加までの遅れを 恣意的に決めた場合の年次推移とも比較した。

3.2 導出方法

nii年の出生数、pisi年生まれのs歳の携帯電話の所有率、f(t)2章の2.2で説 明したArmitage-Dollモデルを用いた場合の、ばく露せずにt歳で発症する確率(式2.1)、

Is(t)s歳から常に一定のばく露を受ける場合にt(s)歳で発症する確率とする。この とき、i年生まれで、s歳で携帯電話を所有開始する人数は以下の式で表される。

ni(pispi(s1)) (3.1)

i年生まれでj歳でグリオーマを発症する人数mij は以下の式で表される。

mij =ni(1pij)f(j) +

j s=0

ni(pispi(s−1))Is(j) (3.2)

ni(1pij)f(j)は、i年生まれでj歳までに携帯電話を所有していない人の中で、j歳で発 症する人数である。ni(pispi(s1))Is(j)は、i年生まれでs(j)歳から携帯電話を所有 した人の中で、j歳で発症する人数である。

暦年y年のage1歳からage2歳の発症率を以下の式で求める。

age2

j=age1mij

ini ,(y =i+j) (3.3)

(11)

age2

j=age1mij は、y年のage1歳からage2歳の発症数である。

iniは、y年のage1歳か

age2歳の人口である。

ばく露開始から相対リスクの増加までの遅れを恣意的でなく仮定する場合、Is(t)2 2.3で説明したs歳からイベントの瞬時発生率が常にx倍になるときのt(s)歳で発症 する確率である(式2.2–2.4)。1回目のイベントの瞬時発生率がx倍になる場合は式2.2 2回目のイベントの瞬時発生率がx倍になる場合は式2.33回目のイベントの瞬時発生率 x倍になる場合は式2.4である。遅れを恣意的に決める場合のIs(t)は、ばく露開始か l年後に相対リスクがRRになるとき、以下の式で表されるとした。

Is(t) =

f(t) (t < s+l) RR×f(t) (ts+l)

(3.4)

3.3 導出結果

niには、図3.1の日本の1941–2004年の出生数[9]を用いた。ただし、1944年から1946 年のデータが欠落していたため、1943年から1947年まで直線補間した。pij には、図3.2 の出生年別年齢別の携帯電話所有率のデータ [11]を用いた。図3.20–60歳の携帯電話 の普及率(携帯電話所有者数/人口)に変換すると図3.3となった。総務省から報告されて いる携帯電話の普及率(携帯電話の契約数/人口)[10]と近い傾向であった。

先行研究[3]では携帯電話を所有してから10年後に相対リスクが1.5になるとしている ため、遅れを恣意的に決める場合は、l= 10RR= 1.5とした。先行研究[3]では、過去 の携帯電話使用と脳腫瘍の症例対照研究の結果を基に相対リスクが1.5とされている。遅 れを恣意的でなく仮定する場合は、相対リスクが1.5程度になるようにx= 2とした。例 えば、20歳からx= 2となった場合の相対リスクは図2.3である。以上の条件で、30–59 歳のグリオーマの発症率の年次推移を求め、実際の年次推移と比較した。

導出結果を図3.4に示す。k= 3Armitage-Dollモデルを用いて、ばく露開始から相 対リスクの増加までの遅れを恣意的でなく仮定する方法の場合、携帯電話を所有してから 常に1回目のイベントの瞬時発生率が2倍になるとした場合は、2005年頃から増加し始め た。2回目のイベントの瞬時発生率が2倍になるとした場合は、1996年頃から増加し始め た。3回目のイベントの瞬時発生率が2倍になるとした場合は、1987年頃から増加し始め た。遅れを恣意的に決める方法では、2005年ごろから増加し始めた。この結果はばく露 開始から相対リスクの増加までの遅れを何年にするかで、恣意的に変わってしまう。また x= 2の場合は、ばく露で1回目のイベントの瞬時発生率が増加する場合の年次推移と実

(12)

際の年次推移を比較すると、高周波電磁界に発がん性がある場合でも2010年の時点では 大きな差異が見られない。高周波電磁界に発がん性がある場合でも、グリオーマの発症率 の年次推移に増加が見られるのは2010年以降になる可能性があるので、今後の年次推移 をよく観察する必要があることが示唆された。

3.1: 日本の出生数 [9]

3.2: 出生年別年齢別携帯電話所有率

(13)

3.3: 携帯電話の普及率

3.4: グリオーマの発症率の年次推移

(14)

3.4 まとめ

k= 3Armitage-Dollモデルを用いて、高周波電磁界の発がん性を仮定した場合のグ

リオーマの発症率の年次推移を導出し、実際の年次推移と比較した。Armitage-Dollモデ ルを用いることで、ばく露開始から相対リスクの増加までの遅れを恣意的でなく仮定し、

グリオーマの発症率の年次推移を導出することができた。k= 3Armitage-Dollモデル を用いた場合、高周波電磁界ばく露で1回目のイベントの瞬時発生率のみ増加する場合は、

高周波電磁界に発がん性がある場合でも、グリオーマの発症率の年次推移に増加が見られ るのは2010年以降になる可能性があるので、今後の年次推移をよく観察する必要がある ことが示唆された。

(15)

4 Armitage-Dollモデルを用いた症例 対照研究シミュレーション

4.1 はじめに

k= 3Armitage-Dollモデルを用いて携帯電話使用とグリオーマの症例対照研究のシ

ミュレーションを行った。症例対照研究のシミュレーションでは、携帯電話が1990年代 から普及し始めたことと、ばく露開始からがんの相対リスクの増加まで数年遅れると考 えられていることから、「症例対照研究をいつ行うか」ということを含めて下記の検討を 行った。

報告される通話時間の誤差のオッズ比への影響(先行研究 [2]と同様)

携帯電話端末の出力が出力電力制御によって大きく異なるため、同じ通話時間でも ばく露量が異なることのオッズ比への影響(先行研究[2]では検討されていない)

4.2 シミュレーションの流れ

まず、症例対照研究のシミュレーションを行う準備として、仮想的な人口集団に出生年、

携帯電話所有開始年齢(ばく露開始年齢)、通話時間、端末の出力電力を実測データを基 に設定し、グリオーマの発症シミュレーションを行う。本論文では、脳に吸収される高周 波電磁界のエネルギー量が、脳全体の平均SAR(出力電力に依存)と累積通話時間の積 で計算されると仮定した。これを「脳におけるばく露量」と称する。脳におけるばく露量 は、個人のグリオーマの発症シミュレーションで使用し、相対リスクの増加に寄与する。仮 想的な人口集団全員分の発症シミュレーションが終わったら、症例対照研究のシミュレー ションを行い、脳におけるばく露量でばく露評価した場合のオッズ比と、累積通話時間で ばく露評価した場合のオッズ比を比較する。この比較により、端末の出力が出力電力制御 によって大きく異なるため、同じ通話時間でもばく露量が異なることの影響を検討するこ とができる。また、先行研究[2]を参考にして、報告される通話時間に誤差が含まれる場 合も検討する。また、仮想的な人口集団のグリオーマの発症シミュレーションの結果から、

グリオーマの発症率の年次推移が得られるため、同時に年次推移も求める。

(16)

4.3 仮想的な人口集団の設定

シミュレーション上の仮想的な人口集団は日本の1941年から2004年までの日本の出生 数に基づく。日本の出生数は人口動態調査 [9]を用いた(図3.1)。ただし、1944年から 1946年のデータが欠落していたため、1943年から1947年まで直線補間した。図3.1の一 人一人に携帯電話所有開始年齢(ばく露開始年齢)、通話時間、出力電力を設定し、発症 シミュレーションを行った。

4.4 携帯電話所有開始年齢の設定

携帯電話の所有開始年齢は、図3.2の出生年別年齢別の携帯電話所有率のデータ[11] 基づいて設定した。携帯電話所有開始時点をばく露開始時点とした。仮想的な人口集団の 出生年別年齢別携帯電話所有率が図3.2のデータに一致するように、携帯電話所有開始年 齢を設定した。

4.5 通話時間と端末の出力電力の設定

通話時間と端末の出力電力の設定には、先行研究で行った実態調査の結果 [12]を用い た。これは10歳から24歳の198人が約1ヶ月間、通話情報記録端末(SMP)を利用し、

得たデータである。SMPCDMA2000方式の端末であるため、本論文での携帯電話は第 三世代の携帯電話端末を想定している。図4.1198人の対数(常用対数)表示した通話 時間[/]のヒストグラムを示す。ただし、0/月であった1人を除外した。

(17)

4.1: 常用対数をとった通話時間[/]のヒストグラム [12]

4.1のデータに対するシャピロウィルク検定(正規性検定)で正規性が確認された

p= 0.176>0.05)ため、常用対数表示した通話時間[/]は、平均 0.210(約1.6/ 月)、標準偏差0.632µ±σが約0.4–6.9/月)の正規分布に従うとした。この正規分布 に従う乱数を発生させ、対数から真数へ変換し通話時間[/]を設定した。ただし、乱 数が大きくなりすぎる場合があるので、仮定した正規分布の99.9パーセンタイル値であ 189/月を超えた場合は、189/月とした。本論文では、年齢や出生年による通話時 間の変化はデータが入手できなかったため考慮せずに、携帯電話を所有してからの通話時 [/]は一定であると仮定した。

次に、図4.2198人それぞれの対数(1mWを基準としたデシベル:dBm)表示した SMPの出力電力の平均値のヒストグラムを示す。

(18)

4.2: 出力電力の平均値[dBm] [12]

4.2のデータに対するシャピロウィルク検定で正規性が確認された(p= 0.910>0.05 ため、出力電力[dBm]の平均値は、平均-2.92 dBm=0.51 mW)、標準偏差6.84µ±σ

が約0.1–2.5 mW)の正規分布に従うと仮定した。この正規分布に従う乱数を発生させ、

出力電力[dBm]を設定した。ただし、第三世代の携帯電話端末の出力電力は23 dBmを超

えないので、乱数が23 dBmを超えた場合は23 dBmとした。また、出力電力は設定され た値で常に一定と仮定した。

通話時間と端末の出力電力は利用できるデータが限られていたため、年齢によらず常に 一定と仮定した。つまり、携帯電話を所有してからのばく露量は常に一定である。また、

出生年によって傾向が異なるのは、携帯電話所有開始年齢のみであるため、本論文で時代 の流れを表すのは携帯電話所有開始年齢のみである。

4.6 脳におけるばく露量

本論文では、脳に吸収される高周波電磁界のエネルギー量、つまり脳におけるばく露量 は、脳全体の平均SAR(端末の出力電力に依存)と累積通話時間の積とした。携帯電話の 出力電力に対する脳全体の平均SARは、第三世代携帯電話端末の実機に基づく数値モデ

(19)

ルを人体モデルの頭部右側に配置した場合の計算結果[13]に基づき仮定した。携帯電話の 出力電力が1 Wのときの脳全体の平均SARを表4.1に示す。表4.1の脳全体の平均SAR の平均値である4.69 mW/kgを、出力電力が1 Wのときの脳全体の平均SARとした。つ まり周波数、頭の形や大きさの違いは考慮しなかった。

4.1: 出力電力が1Wのときの脳全体の平均SAR [13]

周波数・人体モデル 脳全体の平均SAR[W/kg]

835 MHz・成人モデル 5.69

835 MHz・小児モデル 7.67

1950 MHz・成人モデル 1.49

1950 MHz・小児モデル 3.83

設定した通話時間と端末の出力電力の値から脳におけるばく露量を計算し、発症シミュ レーションで用いる。

4.7 Armitage-Dollモデルを用いた発症シミュレーション

k= 3Armitage-Dollモデルを用いた発症シミュレーションの方法について説明する。

0歳(初期状態)で状態1の細胞数N1N 個、状態2の細胞数N20個、状態3の細 胞数N30個あるとする。0歳から∆t歳ごとにそれぞれの状態の細胞数の変化を以下の 式で計算した。

∆N1=N1λ1∆t (4.1)

∆N2=N1λ1∆tN2λ2∆t (4.2)

∆N3 =N2λ2∆t (4.3)

発症年齢は状態3の細胞のうちどれか1つにイベントが起きた年齢とする。これは∆t ごとに0から1の一様乱数を生成し、その一様乱数がN3λ3∆t以下であるか判定すること で可能である。

3章の結果より、高周波電磁界ばく露で1回目のイベントの瞬時発生率(λ1)のみ増加 すると仮定した。本論文では、ばく露による瞬時発生率(λ1)のばく露応答関係を2種類 仮定した。1つは、ばく露量に対して線形に増加する場合(式4.4)、もう1つはステップ 関数で表される場合(式4.5)である。

λ1 =α(1 +βD) (4.4)

(20)

λ1 =

α (D < θ)

(Dθ) (4.5)

ここで、D∆t間の脳における露量である。αはばく露がないときの瞬時発生率、β ばく露の寄与の程度を表すパラメータである。通話時間が4.2.3で仮定した正規分布の99 パーセンタイル値(58.3/月)、出力電力が図4.2のデータの平均値(1.69 mW)のとき の、∆t間の脳におけるばく露量をDとする。D=Dのとき、λ12510倍となる 3通りのβの値それぞれで仮想的な人口集団全員分の発症シミュレーションをした。また、

θは、通話時間が4.2.3で仮定した正規分布の90パーセンタイル値(12/月)で、出力 電力が図4.2のデータの平均値(1.69 mW)のときのばく露量とした。x25103 通りを仮定し、それぞれのxで仮想的な人口集団全員分の発症シミュレーションをした。

ばく露応答関係2通りで、それぞればく露の寄与の程度を3通り仮定したので、合計で6 回仮想的な人口集団全員分の発症シミュレーションをした。

本論文では∆t= 1とし、途中での死亡を考慮せず60歳までシミュレーションをした。

また、細胞数は107個とした[7]。そのため、ばく露がないときの瞬時発生率αは、2章の 2.2で求めたN α3 = 6.89×109より、α = 8.83×106となる。また、λ2 =λ3 =α ある。

4.8 症例対照研究シミュレーションの方法

4.8.1 症例と対照の選択

仮想的な人口集団全員分の発症シミュレーションの結果をもとに、症例(グリオーマ患 者)と対照(グリオーマに罹患していない人)を集める。本論文では、症例対照研究を行う 時期の影響を検討するため、症例の診断時期の異なる3通りの症例対照研究をシミュレー ションした。すなわち、症例を2000年から2004年に30歳から59歳で診断された人とす る場合(症例対照研究 [1]と同様)、2010年から2014年に30歳から59歳で診断された 人とする場合、2020年から2024年に30歳から59歳で診断された人とする場合の3通り

(それぞれ症例対照研究123と称する)である。症例は、仮想的人口集団において上 記の条件をそれぞれ満たした人全員とした。対照は、症例対照研究1では、1症例につき 同じ出生年で2004年までに診断されてない人1人をランダムに選択した。症例対照研究 2では、1症例につき同じ出生年で2014年までに診断されてない人1人をランダムに選択 した。症例対照研究3では、1症例につき同じ出生年で2024年までに診断されてない人1 人をランダムに選択した。

(21)

4.3: 症例の診断時期

4.8.2 ばく露評価

症例と対照を選択した後、以下の4つの場合(14)でばく露量評価を行った。

1脳におけるばく露量でばく露評価をする場合

累積通話時間でばく露評価をする場合

2報告される通話時間が真の通話時間である場合 報告される通話時間に誤差が含まれる場合

3非差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合[2]

4差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合[2]

14 について説明する。

1 脳におけるばく露量

本論文では、脳におけるばく露量は、脳全体の平均SAR(出力電力に依存する)と累積 通話時間の積とした。症例の累積通話時間は、携帯電話を所有した年齢から、グリオーマ と診断された年齢までの累積通話時間とした。症例の累積通話時間は、携帯電話を所有し た年齢から、マッチングした症例がグリオーマと診断された年齢までの累積通話時間とし た。また、報告される通話時間は真の通話時間とした。

(22)

2 報告される通話時間が真の通話時間である場合

症例の累積通話時間は、携帯電話を所有した年齢から、グリオーマと診断された年齢ま での累積通話時間とした。対照の累積通話時間は、携帯電話を所有した年齢から、マッチ ングした症例がグリオーマと診断された年齢までの累積通話時間とした。

3 非差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合 [2]

報告される通話時間をϵ×真の通話時間とする。ϵは対数正規分布に従う。対数をとった ϵの平均値をµ、標準偏差をσとする。µは想起バイアス、σはランダム誤差の大きさを表 す。非差別的というのは症例と対照で差がないという意味である。ここで仮定するのは、

非差別的な想起バイアスと、非差別的なランダム誤差であり、症例と対照共にµ= 0.37

σ= 1.21とした。この値は、報告された通話時間とプロバイダまたはSMPの記録を比較

して得られた値である。ただし、症例と対照で別々に調査された値ではない。µ0より 大きいため、通話時間を真の通話時間よりも多く答える傾向があることを表している。

4 差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合 [2]

報告される通話時間をϵ×真の通話時間とする。ϵは対数正規分布に従う。対数をとった ϵの平均値をµ、標準偏差をσとする。µは想起バイアス、σはランダム誤差の大きさを表 す。ここで仮定するのは差別的な想起バイアスと、非差別的なランダム誤差であり、症例 µ= 0.37σ= 1.21、対照はµ= 0σ= 1.21とした。症例のµ0より大きく、対照 µ0であるため、症例のみ通話時間を真の通話時間より多く回答する傾向があること を表している。症例のみ通話時間を多めに回答するバイアスはオッズ比の過大評価に寄与 する。症例のみ通話時間を多めに回答するバイアスは、どの程度オッズ比が過大評価され るか検討するための仮定である。ランダム誤差の大きさは症例と対照で同じである。ラン ダム誤差はオッズ比を1に近づける[2]

4.8.3 オッズ比の計算

ばく露評価を行った後、ばく露量で参照群(非ばく露群)とばく露群に分類する。参照 群とばく露群の区分は、症例対照研究1では、ばく露量が20パーセンタイル値未満の人 を参照群、20パーセンタイル値以上の人をばく露群とした。さらに、ばく露群を10分位 法によって細分化した。症例対照研究23では、ばく露量5パーセンタイル値未満の人 を参照群、5パーセンタイル値以上の人をばく露群とした。また、症例対照研究1と同様

(23)

にばく露群を10分位法によって細分化した。参照群とばく露群に分類し表4.2のように なった場合、オッズ比を式4.6で求める。症例群のばく露群の人数Ciと対照群のばく露群 の人数Diは、ばく露量の少ない順にi= 1,2,3, ...,10とする。また、ばく露量の少ない方 からばく露群1,2,3...,10と称する。CiDiの和はそれぞれのばく露群で等しい。

4.2: 分類した結果 症例群 対照群 参照群 A B ばく露群 C1 D1

C2 D2

C10 D10

ORi= Ci/A

Di/B (4.6)

オッズ比が1より大きい場合、ばく露の影響でグリオーマに罹りやすくなることを意味 する。逆に1より小さいとばく露の影響でグリオーマに罹りにくくなることを意味する。

オッズ比の95%信頼区間の下限値が1より大きい場合に有意にリスク増加が認められる。

症例対照研究123それぞれについて、4.8.214 のばく露評価方法それぞれで対 照を選び直したシミュレーションを200回繰り返し、オッズ比を求めた。オッズ比は200 回の平均値と、疫学研究で用いられる95%信頼区間の代替として、2.5及び97.5パーセン タイル値の区間を示す。また症例と対照の人数は200回の平均値を示す。

4.9 トレンド解析の方法

仮想的な人口集団の発症シミュレーションの結果から、グリオーマの発症率の年次推移 を求めることができるため、症例対照研究のシミュレーション結果に加えて年次推移の結 果も示す。i年の発症率は、i年の発症数をi年の人口で割った値である。本論文では、日本 人男性の脳・中枢神経系がんの年齢別の発症率[5]と、脳腫瘍の年齢別の発症数におけるグ リオーマの割合(1984-2000年の平均)[6]の積をグリオーマの年齢別の発症率として、実 際の年次推移を求めた。症例対照研究[1]の研究対象者が30–59歳であるため、30–59歳の 発症率の年次推移を比較した。実際の年次推移が、30–34歳、35–39歳、40–44歳、45–49

歳、50–54歳、55–59歳の発症率を平均した値なので、シミュレーションでも同様の方法

で発症率を求めた。

(24)

4.10 シミュレーション結果

4.10.1 高周波電磁界に発がん性がないと仮定した場合

グリオーマの発症率の年次推移(1983–2034年)を図4.4に示す。症例の診断時期が

2000–2004年の場合の症例対照研究のシミュレーション結果を表4.3に示す。症例の診断

時期が2010–2014年の場合の症例対照研究のシミュレーション結果を表4.4に示す。症例

の診断時期が2020–2024年の場合の症例対照研究のシミュレーション結果を表4.5に示す。

また、ばく露群10のみの結果を表4.6に示す。

4.4: グリオーマの発症率の年次推移(発がん性がないと仮定した場合)

図 3.3: 携帯電話の普及率
図 4.1: 常用対数をとった通話時間 [ 時 / 月 ] のヒストグラム [12] 図 4.1 のデータに対するシャピロウィルク検定(正規性検定)で正規性が確認された ( p = 0.176 &gt; 0.05 )ため、常用対数表示した通話時間 [ 時 / 月 ] は、平均 0.210 (約 1.6 時 / 月)、標準偏差 0.632 ( µ ± σ が約 0.4–6.9 時 / 月)の正規分布に従うとした。この正規分布 に従う乱数を発生させ、対数から真数へ変換し通話時間 [ 時 / 月 ] を設定した。
図 4.2: 出力電力の平均値 [dBm] [12] 図 4.2 のデータに対するシャピロウィルク検定で正規性が確認された( p = 0.910 &gt; 0.05 ) ため、出力電力 [dBm] の平均値は、平均 -2.92 dBm ( =0.51 mW )、標準偏差 6.84 ( µ ± σ が約 0.1–2.5 mW )の正規分布に従うと仮定した。この正規分布に従う乱数を発生させ、 出力電力 [dBm] を設定した。ただし、第三世代の携帯電話端末の出力電力は 23 dBm を超 えないので、乱数が 2
図 4.3: 症例の診断時期 4.8.2 ばく露評価 症例と対照を選択した後、以下の 4 つの場合( ⃝1 – ⃝4 )でばく露量評価を行った。 • ⃝1 脳におけるばく露量でばく露評価をする場合 • 累積通話時間でばく露評価をする場合 – ⃝2 報告される通話時間が真の通話時間である場合 – 報告される通話時間に誤差が含まれる場合 ∗ ⃝3 非差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合 [2] ∗ ⃝4 差別的な想起バイアスと非差別的なランダム誤差がある場合 [2] ⃝1 – ⃝4 について説
+7

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