小学生の非認知的スキルの測定に関する基礎的研究
A Fundamental Study on Measurement of Non-cognitive Skills of Elementary School Students
加藤 智(Satoshi KATO)
1 はじめに-問題の所在と研究の目的-
近年,「非認知的スキル(non-cognitive skills)」の重要性が国際的に注目されている。非認知的ス キルが注目を集めるようになったのは,2000 年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン
(Heckman)の研究成果によるところが大きい1。ヘックマンは,40 年にわたる追跡調査により,
記憶力や学力,知能指数(IQ)などのいわゆる「賢さ」に関する認知的スキル(cognitive skills)
よりも,認知的ではないスキル,すなわち,忍耐力や協調性といった非認知的なスキルが社会的 成功に結びつきやすいことを指摘している。OECD(2015)は「健康に関する成果と主観的ウェル ビーイングの向上,反社会的行動の減少などに特に強い影響を及ぼしている」2と非認知的スキル の重要性を指摘している。
我が国でも,非認知的スキルは注目されつつあり,国立教育政策研究所(2017)は国内外の非 認知的スキルに関する広範な文献研究を行い,その研究成果をまとめている3。そして,2017年(高 等学校は2018年)に改訂された学習指導要領では,育成を目指す資質・能力の一つに,学びを人 生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間性等」が掲げられた。「学びに向かう力,人間 性等」とは,「主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統 制する能力,自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力など,いわゆる『メタ認知』に関する もの」と「多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力,持続可能な社会づくりに 向けた態度,リーダーシップやチームワーク,感性,優しさや思いやりなど,人間性等に関する もの」と整理されており4,これらの資質・能力は非認知的スキルに該当するものと解釈すること ができる。
このように,ますます注目を集める非認知的スキルであるが,学校教育においては,その測定 手法について十分な検討がされているとは言い難い。先述した国立教育政策研究所の研究におい て,児童期や青年期の非認知的スキルの文献調査については整理されているが,学校現場におい て育成された非認知的スキルを幅広く測定する方法は開発されていない。また,中学生や高校生 であれば,質問項目を増やすことで,非認知的スキルを幅広く測定する量的な研究を実施するこ とは比較的容易と考えられる。その一方で,小学生については,その発達段階上,質問項目には 制限があり,非認知的スキルを幅広く測定する量的な研究を実施することには困難がつきまとう。
それゆえ,これまで小学校においては児童の記述した文章やインタビューなどによる質的な研究 が行われてきたが,文章力やコミュニケーションスキルに依拠するところが大きく,これらのス
17
16
キルが未発達な小学生の実態を捉えることには限界がある。
そこで本研究は,小学生を対象とした量的に非認知的スキルを測定するための質問紙について 検討し,小学校において活用可能な質問紙の開発の一助とすることを目的とする。
2 本研究が対象とする非認知的スキル
非認知的スキルの議論は複雑で,その定義についての合意が形成されているとは言い難い。本 研究では,「修正可能な」コンピテンスとしての非認知的スキルに着目する。ガットマンとショー ン(Gutman, L.M. & Schoon, I., 2013)は,表1のように,8種類の非認知的スキルについて,
測定の質,可塑性,非認知的スキルと他の結果との因果関係,エビデンスの強さを示している5。 ガットマンとショーンが整理した以下の非認知的スキルは,我が国でも広く援用されている6。
表1 非認知的スキルの調査結果の概要
測定の質 可塑性 他の結果への影 響
エビデンスの 強さ 1. ⾃⼰認識(Self-perceptions)
1-1 能⼒に対する⾃⼰概念
(Self-concept of ability) ⾼ 中 利⽤不可 中
1-2 ⾃⼰効⼒感(Self-efficacy) ⾼ ⾼ ⾼ 中
2. 動機付け(Motivation)
2-1 達成⽬標理論
(Achievement goal theory) ⾼ 中 低-中 中
2-2 内発的動機付け
(Intrinsic motivation) ⾼ 中 低-中 ⾼
2-3 期待-価値理論
(Expectancy-value theory) 中 利⽤不可 中-⾼ 中
3. 忍耐⼒(Perseverance)
3-1 活動への従事(Engagement) 中 利⽤不可 利⽤不可 低
3-2 やり抜く⼒(Grit) 中 利⽤不可 利⽤不可 低
4. ⾃制⼼(Self-control) 中 利⽤不可 低 中
5. メタ認知⽅略(Meta-cognition) 中 中-⾼ 中-⾼ ⾼ 6. 社会的コンピテンス
(Social competencies)
6-1 リーダーシップスキル(Leadership skills) 低 利⽤不可 エビデンスなし 低 6-2 社会的スキル(Social skills) 中 中-⾼ 低-中 ⾼ 7. レジリエンスとコーピング
(Resilience and coping) 中 ⾼ 低 中
8. 創造性(Creativity) 中 利⽤不可 エビデンスなし 低 Gutman, L.M. & Schoon, I.(2013)p.40 より引用
3 小学生を対象とする非認知的スキルの測定に関する質問項目の検討
ガットマンとショーンが行った8つの非認知的スキルに関するメタ解析研究では,「自己効力 感(self-efficacy)」,「動機付け」,「メタ認知方略」,「社会的スキル(social skills)」の4つ のスキルは,エビデンスの質および他の非認知的スキルへの影響がすべて「中」(medium)以上 であることが示されている。その他のスキルはすべて「低」(low)あるいはエビデンスが存在し ない。本研究では,明確なエビデンスが存在し,他のスキルへの波及効果が明らかになっている 4つのスキルを対象とし,小学生を対象とする非認知的スキルを測定するための質問項目を検討 する。
⑴ 自己効力感
「自己効力感」はバンデューラ(Bandura, 1997)が「個人がある状況において必要な行動を効果 的に遂行できる可能性の認知」7と定義している。学習場面に限らず,様々な状況おける良好なパ フォーマンスに繋がることが示されている8。
自己効力感の測定にあたって,本研究では,妥当性や因子構造が確認されている自己概念尺度 として,Marsh(1988)のSelf−Description Questionnaire−I(SDQ-1:自己記述質問票)より「一般 的自己」(自尊感情)および「学業」に関する質問を抽出した9。SDQ は, Shavelson et al. (1976) の提唱した階層的・多次元的自己概念モデルの検証のための尺度として開発され,SDQ-I は小学 生用となっている10。一般的自己に関する尺度については,富岡(2011)によって日本語に翻訳さ れ,児童の学業的・社会的・情緒的自己概念や自尊感情を領域別に測定できる尺度として実施さ れており,高い妥当性が示されている11。学業的な自己概念(Academic Self-Concept)について,SDQ- Iでは「国語」「算数」「教科全般」の達成度に関する項目が設定されている。さらに,我が国に おいて児童期の子どもの自己効力感を測る尺度として広く使用されている「児童用のセルフ・エ フィカシー尺度」12があるが,本研究では,富岡(2013)が児童の行動の積極性や将来についての 前向きな見通しについての項目として抽出した項目を使用する13。
自尊感情尺度
わたしは自分が好きです。
わたしはたくさんじまんできるものを持っています。(例:よい友だちがいる,スポーツが 得意,計算が早い)
わたしは自分のしたいと思うことがじょうずにできます。
自己概念(教科)
わたしは〈教科〉でよい成績をとります。
わたしは〈教科〉が好きです。
わたしは〈教科〉が得意です。
自己効力感
やりたくないことでも,一生懸命やる。
どんなことでも,どんどん自分から挑戦していくほうだ。
計画を立てるときは,きっと自分にはできると思っている。
19
18
なにかをやろうと決めたら,すぐにとりかかる。
困ったことでも,自分にはなんとか乗り越えられると思う。
⑵ 動機付け
「動機付け」は,自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)に基づくと,自律と他律の観点から,内発 的動機付けと外発的動機付けと分けて論じられる14。そして,自律性の高さが,児童生徒の心理的 ウェルビーイングの高さを予測することが示されている15。
西村ら(2011)は,①内的調整,②同一化的調整,③取り入れ的調整,④外的調整の4つの調整 スタイルを測定する自律的学習動機尺度を作成している16。
内的調整
学校の勉強をするのは,問題を解くことがおもしろいからだ。
学校の勉強をするのは,むずかしいことに挑戦するのが楽しいからだ。
学校の勉強をするのは,勉強すること自体がおもしろいからだ。
学校の勉強をするのは,新しい解き方や,やり方を見つけられるとおもしろいからだ。
学校の勉強をするのは,自分が勉強したいと思うからだ。
同一化的調整
学校の勉強をするのは,将来の成功につながるからだ。
学校の勉強をするのは,自分の夢を実現したいからだ。
学校の勉強をするのは,自分の希望する高校や大学に進みたいからだ。
学校の勉強をするのは,自分のためになるからだ。
学校の勉強をするのは,勉強するということは大切なことだからだ。
取り入れ的調整
学校の勉強をするのは,勉強で友だちに負けたくないからだ。
学校の勉強をするのは,友だちより良い成績をとりたいからだ。
学校の勉強をするのは,まわりの人にかしこいと思われたいからだ。
学校の勉強をするのは,友だちにバカにされたくないからだ。
学校の勉強をするのは,勉強ができないとみじめな気持ちになるからだ。
外的調整
学校の勉強をするのは,やらないとまわりの人がうるさいからだ。
学校の勉強をするのは,まわりの人から,やりなさいといわれるからだ。
学校の勉強をするのは,成績が下がると,怒られるからだ。
学校の勉強をするのは,勉強するということは,規則のようなものだからだ。
学校の勉強をするのは,みんながあたりまえのように勉強しているからだ。
また,期待価値理論(expectancy-value theory)に基づくと,達成する動機は,生徒の成功への期 待と活動または課題の全体的な価値に対する認識から構成され17,学業的な成功に対する期待と
学校教育に対する個人的な価値を高める介入は,将来的な成果に大きな影響を与え得ることが示 されている18。期待価値の項目として,Eccles & Wigfield(1995)は,成功期待(ability / expectancy),
内発的価値(intrinsic interest value),獲得価値(attainment value / importance),利用価値(extrinsic
utility value)を示しているが19,市原・新井(2006)は,獲得価値と利用価値を区別しないモデル
の有用性を論じている20。本研究では,市原・新井(2006)が示した「成功期待」,「内発的価値」,
「獲得・利用価値」の尺度を参考に,それぞれの尺度から2項目の計6項目を作成した。
成功期待
これから先,学校の勉強でよい結果を出すことができると思う。
これから先,学校の勉強が得意になると思う。
内発的価値
学校の勉強が楽しいと思う。
学校の勉強が好き。
獲得・利用価値
学校の勉強は,あなたの将来に役立つと思う。
学校の勉強は,普段の生活でも役に立つと思う。
⑶ メタ認知方略
「メタ認知方略」は,「学習に最も役立つ方略の考え方と選択,監視,計画に意識を集中させ ることによって,自分の学習行動とプロセスに影響を与える目標志向的な取り組み」21とされる。
メタ認知方略には,目標設定,計画と問題解決,自分の長所と短所の認識,成長や理解のモニタ リング,いつどのような方略を使うべきかについての認識などの要素が含まれており22,多くの学 業成果に肯定的な影響を与えることが明らかとなっている23。
メタ認知方略に関する尺度としては,Schraw & Dennison (1994) によって開発された52項目か らなるMetacognitive Awareness Inventoryが知られている24。我が国では,阿部・井田(2010)によっ て作成された成人用メタ認知尺度がある25。この尺度は,コントロール尺度9項目,モニタリング 尺度11項目,メタ認知知識尺度8項目の3つの下位尺度,全28項目からなる。
メタ認知能力を簡便に測定するための自己評定式質問紙として,市原・新井(2006)は,佐藤・
新井(1998)26が用いたメタ認知尺度15項目について,学習方略に含めることが適切であると思 われる項目を除いた9項目を使用し,メタ認知能力を測定している27。
勉強している時に,やっていることが正しくできているかどうかを確かめますか?
勉強を始める前に,これから何をどうやって勉強するかを考えますか?
勉強する時は,どんな内容なのかを考えてから始めますか?
勉強する時は大切なところはどこかを考えながら勉強しますか?
勉強する時は最初に計画を立ててから始めますか?
勉強する前に,これから何を勉強しなければいけないかについて考えますか?
21
20
勉強している時,たまに止まって,一度やったところを見直しますか?
勉強している時,自分がわからないところはどこかを見つけようとしますか?
勉強している時は,やった内容を覚えているかを確かめますか?
⑷ 社会的スキル
社会的スキルやリーダーシップは,人が他人と交流したり関係を構築したりするための社会的 コンピテンスに含まれるものとして整理されている。リーダーシップは,他人の思考,行動,感 情に影響を与える能力であるが,実験的エビデンスはほとんど示されていない。一方で,社会的 スキルは,「他者と効果的に対話し,社会的に受け入れられない反応を避けることを可能にする,
社会的に受け入れられる学習行動」28と定義される。学業成績や心理的健康に良い影響を与えるこ と29,成人期の起業家活動を予測すること30を示す研究がある。
ゴールドステインらは,若者にとって必要な社会的スキルを,①基本的なスキル,②より高度 なスキル,③感情処理のスキル,④攻撃に代わるスキル,⑤ストレス処理のスキル,⑥計画のス キルの6種類に分類している31。この分類に基づいてゴールドステインらが作成したスキルのリ ストをもとに,菊地(1988)が項目を作成したKiSS-18がよく知られている32。
小学生用の社会的スキルの測定に関して,嶋田洋徳ら(1996)は,「小学生用社会的スキル尺 度」を開発している33。この尺度は,「向社会的スキル」,「引っ込み思案行動」,「攻撃行動」
の3つの下位尺度から構成されている。本研究では,円滑な人間関係を営むために必要な行動を 獲得していることを測定する向社会的スキルを社会的スキルとして質問項目を設定することとす る。
向社会的スキル
友だちがしっぱいしたら,はげます こまっている友だちを,たすける 友だちのたのみをきく
友だちに,しんせつにする
あいての気もちを,かんがえて話す ひきうけたら,さいごまでやる
友だちのいけんに反対するときは,わけをいう
4 小学生を対象とする質問紙の作成と信頼性の検討
以上,4つの非認知的スキルの測定に関する小学生用の質問項目を挙げてきた。先行研究にお いて,これらの質問項目の信頼性はそれぞれ検討されているが,複数の非認知的スキルを測定す る質問紙であれば,質問数が多くなり,測定の信頼性が揺らぐ可能性がある。以下では,対象が 小学生であることを考慮し,その発達段階や特性を踏まえた質問紙の作成のために必要な配慮事 項を挙げ,その上で質問紙の信頼性について検討する。
⑴ 小学生に対する質問紙調査を実施する場合の配慮事項
本研究が対象とする小学生に対する質問紙の作成にあたっては,成人を対象とする場合に比べ,
内容や形式に対する配慮が必要である。
桜井(1998)は,質問紙調査の実施が可能となる年齢は「小学校3年生ぐらい」としており,そ の理由として,「文字がきちんと読め,質問に使用されている言葉の意味がわかる」,「自分のこ とを一定の基準にしたがって評定できる」,「30分くらいは一つのことに注意を集中していられ る」ことを挙げている34。宮下(1998)によれば,一般的に小学生や中学生など年齢の低い調査対 象者に対して質問紙調査を実施する場合は,「全体の項目数が少なく,教示を含めて15~20分程 度が適当」としている35。青木・井邑(2012)は,宮下の指摘を受け,「教示を含めて20分以内 ということになると,その項目数は多くても50項目以下でなければならない」と論じている36。 さらに,小学生に質問紙調査を実施するにあたっては,評価カテゴリー数にも配慮する必要が ある。評価カテゴリー数が多くなるほど,調査対象者に負担がかかるだけでなく,評価カテゴリー 間の区別が難しくなり,調査の信頼性が低下するからである。一方で,評価カテゴリー数が2や 3などと少ない場合は,因子分析が計算不能となる頻度が高くなることが指摘されている37。青 木・井邑(2012)は,小中学生の負担を軽減し,小中学生の特性を的確に評価できる評価カテゴ リー数を検討し,限定的な領域での調査であるものの,4件法でも5件法でも同様の結果が得ら れること,宮下(1998)が,「どちらともいえない」という評価カテゴリーを除いた4件法を採用 することが適切としていることから,小学生(および中学生)を対象とする質問紙調査の評価カ テゴリー数は4が妥当であると結論付けている38。
以上のことから,小学生に対する質問紙調査を実施する場合の配慮事項をまとめると,以下の ようになる。
(a) 調査時間は教示を含めて20分以内
(b) 質問紙の項目数は50項目以内
(c) 評価カテゴリー数は4
⑵ 小学生の非認知的スキルを測定する質問項目の検討
以上の配慮事項をもとに,児童生徒の負担を減少させつつ,かつ,非認知的スキルを測定する ために妥当な質問紙を検討する。
質問項目については,先行研究を踏まえ,表2のように設定した。特定の教科領域に関する質 問項目については,「教科全般」に関する質問文,あるいは,今後非認知的スキルの育成が期待 されるであろう「総合的な学習の時間」39に関する質問文を設定している。
23
22
表2 4つの非認知的スキルを測定するための質問項目一覧
尺度名 下位尺度 質問文 能力に対
する自己 概念
一般的自己 自分が好きだ
たくさんじまんできるものを持っている(例:よい友だちがいる,スポーツ が得意,計算が早い)
自分のしたいと思うことがじょうずにできる 総合的な学習の時間
に関する自己概念
総合的な学習の時間が好きだ 総合的な学習の時間の活動が得意だ 教科全般に関する
自己概念
学校の勉強が得意だ 学校の勉強が好きだ
自己効力感 やりたくないことでも,一生懸命やる
どんなことでも,どんどん自分から挑戦していくほうだ 計画を立てるときは,きっと自分にはできると思っている なにかをやろうと決めたら,すぐにとりかかる
こまったことでも,自分にはなんとか乗り越えられると思う 学習全般
に関する 動機付け
内的調整 学校の勉強をするのは,問題を解くことがおもしろいからだ 学校の勉強をするのは,むずかしいことに挑戦するのが楽しいからだ 学校の勉強をするのは,勉強すること自体が面白いからだ
学校の勉強をするのは,新しい解き方や,やり方を見つけられるとおもしろ いからだ
同一化的調整 学校の勉強をするのは,将来の成功につながるからだ 学校の勉強をするのは,自分の夢をかなえたいからだ 学校の勉強をするのは,自分のためになるからだ
取り入れ的調整 学校の勉強をするのは,勉強で友だちに負けたくないからだ 学校の勉強をするのは,友だちより良い成績をとりたいからだ 外的調整 学校の勉強をするのは,やらないとまわりの人がうるさいからだ
学校の勉強をするのは,まわりの人から,やりなさいといわれるからだ 学校の勉強をするのは,成績が下がると,怒られるからだ
期待-価 値理論
成功期待 これから先,学校の勉強でよい結果を出せると思う これから先,学校の勉強が得意になると思う 内発的価値 総合的な学習の時間の活動が楽しいと思う
学校の勉強が楽しいと思う
獲得・利用価値 総合的な学習の時間で学んでいることは,自分の将来に役立つと思う 総合的な学習の時間で学んでいることは,ふだんの生活でも役に立つと思う 学校の勉強は,自分の将来に役立つと思う
学校の勉強は,ふだんの生活でも役に立つと思う メタ認知
方略
メタ認知方略 勉強を始める前に,最初に計画を立ててから始める 勉強する時は,大切なところはどこかを考えながら勉強する
勉強する前に,これから自分は何を勉強しなければいけないかを考える 勉強している時はたまに止まって,一度したところを見直す
勉強している時は,自分がわからないところはどこかを見つけようとする 勉強している時は,やった内容を覚えているかを確かめる
社会的コ ンピテン ス
向社会的スキル 友だちが失敗したら,はげます こまっている友だちを,助ける 友だちのたのみを聞く 友だちに,親切にする
相手の気持ちを,かんがえて話す ひきうけたら,最後までやる
友だちのいけんに反対するときは,わけを言う
表2は、45の質問項目で構成されている。したがって,上で述べた小学生に対する質問紙調査 を実施する場合の配慮事項を満たしている。
⑶ 質問項目の信頼性の検討
本研究では,実際に小学生を対象とした質問紙調査を実施することによって,測定の信頼性を 検討する。調査方法については,表2の質問項目から成り立つ質問紙について,国公立小学校16 校に在籍する5年生から6年生の児童計 1,327 名を対象として質問紙調査を実施した。実施期間 は,新年度になって数ヶ月が経過し,学級が落ち着く時期であることを想定し,2019年6月~7 月とした。実施する学校の選定にあたっては,地域の偏りがないように,東北地方,関東地方,
中部地方,関西地方,九州地方からそれぞれ1~4校程度の学校に直接依頼した。学校規模につ いても偏りが生じないように,小規模校(学級数11以下),中規模校(学級数12~18),大規模
(学級数19以上)をそれぞれ2校以上含むように選定した。質問紙調査は,それぞれの児童が所 属する学級担任に依頼して実施した。学級担任には,調査実施前の注意事項,調査実施手順につ いての解説を記した実施要項を配付し,調査実施方法を統一した。なお,それぞれの先行研究に おいて評価カテゴリー数は異なっているが,既に述べた理由で,すべての質問の評価カテゴリー を4(「よくあてはまる」,「どちらかといえばあてはまる」,「どちらかといえばあてはまらな い」,「まったくあてはまらない」)に統一している。
信頼性の検討にあたって,Cronbachのα係数を算出した。その結果は表3の通りである。本質 問紙で得られたα係数の値は,先行研究で明らかとなっているものと同等あるいはそれ以上の値 であり,本質問紙は内的整合性の高い,信頼性を十分にもつものと判断できる。
表3 4つの非認知的スキルの質問項目に関する信頼性分析結果
尺度名 α 下位尺度 α
能力に対する自
己概念 0.893
一般的自己 0.727
総合的な学習の時間に関する自己概念 0.834 教科全般に関する自己概念 0.771
自己効力感 0.845
学習全般に関す
る動機付け 0.777
内的調整 0.887
同一化的調整 0.823
取り入れ的調整 0.856
外的調整 0.789
期待-価値
理論 0.871
成功期待 0.834
内発的価値 0.682
獲得・利用価値 0.827
メタ認知方略 0.867 メタ認知方略 -
社会的コンピテンス 0.858 向社会的スキル -
25
24
6 おわりに
本稿では,小学生の非認知的スキルを測定するための質問項目について検討を行い,4つの非 認知スキルを測定する信頼性のある質問紙を作成した。今後は,この質問紙を使用し,非認知的 スキルの育成に対する介入的研究の効果について分析が行われることで,非認知的スキルの育成 に資する効果的な教育プログラムについて検討することができるだろう。
本研究は小学生を対象にした質問紙の検討にとどまっているが,今後は中学生や高校生を対象 とした質問紙についても同様に検討していく必要がある。中学生や高校生であれば,小学生より 様々な制限を受けないと想定されるが,成人用にデザインされた質問紙がそのまま使えるわけで はなく,中学生や高校生の発達段階や特性を踏まえた質問項目が検討されねばならない。この点 については,今後の課題としたい。
〔付記〕本稿は,JSPS 科研費若手研究 18K13181(研究代表者:加藤智)および愛知淑徳大学研究助成費 18TT02(研究代表者:加藤智)の助成を受けた研究成果の一部である。
注
1 Heckman, J. J. (2013). Giving kids fair chance. MTI Press.
2 OECD(2015). Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills, p.13
3 国立教育政策研究所(2017)「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての 研究に関する調査報告書(平成27年度プロジェクト研究報告書)」(研究代表者:遠藤利彦)
4 文部科学省中央教育審議会教育課程部会企画特別部会論点整理,p.11
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/sonota/1361117.htm(2019年8月末確認)
5 Gutman, L. M., & Schoon, I. (2013a) The impact of non-cognitive skills on outcomes for young people.
Education Endowment Foundation, p.40 6 著名な研究として,以下がある。
中室牧子(2015)『「学力」の経済学』ディスカバー・トゥエンティワン 7 Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control. New York : W.H. Freeman.
8 Holden, G. (1992). The relationship of self-efficacy appraisals to subsequent health related outcomes: A meta-analysis. Social Work in Health Care, 16, pp.53-93
9 Marsh, H. W. (1988). Self Description Questionnaire : A theoretical and empirical basis for the measurementof multiple dimensions of preadolescent self-concept : A test manual and a research monograph, New York : Psychological Corporation.
10 Shavelson, R. J., Hubner, J. J., & Stanton, G. C. (1976). Self-concept: Validation of construct interpretations. Review of Educational Research, 46, pp.407–441
11 富岡比呂子(2011)「日米の小学生の自己概念―自己記述質問票(SDQ-I)の心理測定的検討」
日本パーソナリティ心理学会『パーソナリティ研究』19(3),pp.191-205
12 福井至・飯島政範・小山繭子・中山ひとみ・小松智賀・小田美穂子・嶋田洋徳・坂野雄二(2009)
『GSESC-R児童用一般性セルフ・エフィカシー尺度』こころネット株式会社
13 富岡比呂子(2013)「児童の自己概念と自己効力感―学校適応感との関連性について―」創価 大学教育学会『創大教育研究』22,pp.79-93
14 Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1885) Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. New
York, NY: Plenum.
15 Burton, K. D., Lydon, J. E., D’Alessandro, D. U., & Koestner, R. (2006). The differential effects of intrinsic and identified motivation on well-being and performance: Prospective, experimental, and implicit approaches to self-determination to theory. Journal of Personality and Social Psychology, 91, pp.750-762 16 西村多久磨・ 河村茂雄・櫻井茂男(2011)「自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成 績を予測するプロセス̶内発的な学習動機づけは学業成績を予測することができるのか?̶」日 本教育心理学会『教育心理学研究』59(1),pp.77-87
17 Atkinson, J. W. (1957) Motivational determinants of risk-taking behavior. Psychological Review, 64, pp.359-372
18 Cohen, G.L., Garcia, J., Purdie-Vaughns, V., Apfel, N., & Brzustoski, P. (2009). Recursive processes in self-affirmation: Intervening to close the minority achievement gap. Science, 324, pp.400-403
19 Eccles, J. S., & Wigfield, A. (1995). In the mind of the actor: The structure of adolescents' achievement task values and expectancy-related beliefs. Personality and Social Psychology Bulletin, 21(3) , pp.215–225 20 市原学,新井邦二郎(2006)「数学学習場面における動機づけモデルの検討:メタ認知の調整 効果」日本教育心理学会『教育心理学研究』54(2),pp.199-210
21 Zimmerman, B. J. (2001) Theories of self-regulated learning and academic achievement: An overview and analysis. In Zimmerman, B. J. & Schunk, D. H. (Eds.), Self-regulated learning and academic achievement: Theoretical perspectives. Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum, pp.1-38
22 Pintrich, P. (2000) The role of goal orientation in self-regulated learning. In Boekarts, J., Pintrich, P., &
Zeidner, M. (Eds.), Handbook of Self-Regulation Burlington, MA: Elsevier Academic Press. pp.451-529 23 Higgins, S., Hall, E., Baumfield, V. and Moseley, D. (2005) A meta-analysis of the impact of the implementation of thinking skills approaches on pupils. In Research Evidence in Education Library. London:
EPPI-Centre, Social Science Research Unit, Institute of Education.
24 Schraw, G. & Dennison, R.S., (1994). Assessing metacognitive awareness. Contemporary Educational Psychology, 19, pp.460-475
25 阿部真美子・井田政則「成人用メタ認知尺度の作成の試み : Metacognitive Awareness Inventory を用いて」『立正大学心理学研究年報』1,pp.23-34
26 佐藤純・新井邦二郎(1998)「学習方略の使用と達成目標及び原因帰属との関係」『筑波大学 心理学研究』20,pp.115-124
27 市原学,新井邦二郎(2006),上掲書
28 Gresham, F. M., & Elliott, S. N. (1990). Social Skills Rating System: Preschool, Elementary Level.
American Guidance Service, p.1
29 Teo, A., Carlson, E., Mathieu, P.J., Egeland, B., & Sroufe, L.A. (1996). A prospective longitudinal study of psychosocial predictors of achievement. Journal of School Psychology, 34, pp.285-306
30 Schoon, I., & Duckworth, K. (2010). Leaving School Early - and Making It! Evidence From Two British Birth Cohorts. European Psychologist, 15(4), pp.283-292
31 Goldstein, A. P., Sprafkin, R. P., Gershaw, N. J., and Kline, P. 1980 Skill Streaming the Adolescent : A Structured Learning Approach to Teaching Prosocial Skills. Research Press
32 菊池章夫(1988)『思いやりを科学する』川島書店
33 嶋田洋徳・戸ヶ崎泰子・岡安孝弘・坂野雄二(1996)「児童の社会的スキル獲得による心理的 ストレス軽減効果」『行動療法研究』22(2),pp.9-20
34 桜井茂雄(1998)「質問紙法は何歳から可能なのか?」鎌原雅彦・宮下一博・大野木裕明・中 澤潤(編)『心理学マニュアル-質問紙法-』北大路書房,p.109
35 宮下一博(1998)「質問紙法の基礎」鎌原雅彦・宮下一博・大野木裕明・中澤潤(編)『心理 学マニュアル-質問紙法-』北大路書房,pp.10-21
36 青木多寿子・井邑知哉(2012)「児童生徒への質問紙作成に関する注意点―しなやかさ尺度の 評定カテゴリー数からの検討―」『広島大学大学院教育学研究科紀要』61(1),p.10
37 萩生田伸子・繁桝算男(1996)「順序付きカテゴリカルデータへの因子分析の適用に関するい くつかの注意点」『心理学研究』67,pp.1-8
27
26
38 青木多寿子・井邑知哉(2012),上掲書,p.13
39 OECD(2015)は,我が国の非認知的スキルの育成を担う教科等として「総合的な学習の時間」
を挙げている。
OECD(2015). Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills, p.100
学ぶ姿勢
Learning Attitude佐藤実芳(Miyoshi SATO)
はじめに
子ども達の教育を考える際、高学歴志向が強い現在の日本では、偏差値の高い志望校に合格 することを中心に考える傾向が強いと感じられる。子ども達にとって、志望校に合格すること は大切なことである。しかしそれが学びの終着点ではなく、志望校に合格した後の人生の歩み が更に重要である。
学校教育に関して学習指導と並んで重要な意義をもつものが、生徒指導である。2010 年に文 部科学省が策定した『生徒指導提要』では、その意義について「生徒指導とは、一人一人の児 童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指し て行われる教育活動」で あり、「児童生徒自ら現 在及び将来における自己 実現を図っていくた めの自己指導能力の育成を目指す」と記されている。生徒指導とは、児童・生徒の問題行動を 改めて教員の指導に従わせることではなく、児童・生徒の社会性を育み積極的に行動すること ができる人間に成長させることを目指す活動なのである。そしてその最終目標は、児童・生徒 の自己実現であり、自らを指導することができる自己指導能力の育成である。人工知能社会の 到来を目前に控えた今日、その社会を力強く生き抜くためには、偏差値で評価される知的能力 以上に求められのが、社会性であり、自己指導能力である。
将来社会人として困ることがない人間に育てることが、教育の役割である。社会人になれば、
偏差値では評価されなくなる。高学歴ニートの存在が、そのことを証明している。社会人にな るまでに、社会への適応 力、何事に対しても「学 ぶ姿勢」を獲得すること が必要である。「学 ぶ姿勢」があれば、全人格的な学びが可能になり、それによりどのような困難な課題も乗り越 えることができるからである。
現在の学校教育こそ、子ども達を自立した社会人として育てる教育的視点が重要である。本 稿では、武蔵野東学園の創設者である北原キヨの教育、愛知県立東郷高等学校初代校長の酒向 健の教育、宮崎県小林市の小・中学校での立腰教育を中心とした教育から、子ども達を自立し た社会人に育てるには、どのような教育が必要なのかを検討する。
1.武蔵野東学園
武蔵野東学園は、北原勝平・北原キヨ夫妻が 1964 年に開園した幼稚園が始まりで、その後 小学校、中学校、高等専修学校、教育センターを開設した。同学園の健常児と自閉症児1)の「混 合教育」2)と、自閉症児に対する「生活療法」の教育実践は、海外で も高 く評価さ れ、アメリ