訳 者 解 説 一八 八三 年に ビス マル クが 労働 者保 険制 度を ドイ ツに 制定 して 以来
、ヨ ーロ ッパ 諸国 を中 心に 社会 保険 の影 響は 絶大 な も のだ った
。ヨ ーロ ッパ 大陸 諸国 のみ なら ず、 イギ リス
、ラ テン アメ リカ
、そ して わが 国で も社 会保 険が 社会 保障 の中 核 を なし てい る。 とこ ろが この 社会 保険 制度 に対 する ゆる ぎな い信 頼は
、現 在多 くの 地域 で岐 路に 立た され てい る。 少子 高齢 社会 の到 来、 疾 病構 造の 変化
、多 様な 家族 形態
、就 労構 造の 変化
、科 学技 術の 驚異 的な 進歩 とい った
、先 進国
、途 上国 問わ ずに 展開 し て い る 事象 は
、 社 会保 険 の 存立 基 盤 を揺 る がし て い る。 各 国 の 社会 保 険 制度 は 規 模・ 範 囲 の大 小 を 問わ ず
、 何ら か の 修 正
・改 革を 迫ら れて いる
。 この よう な情 況で
、当 然、 社会 保険 の「 神話
」に これ 以上 依拠 しな い新 たな 社会 保障 制度 の模 索が 行わ れる こと も決 し て 不思 議で はな い。 その 一つ が従 来、 残余 的な もの とし て顧 みら れる こと が少 なか った
「無 拠出 制度
」の 再評 価で ある
。
─ ─
(
)
─ ─1
<
翻 訳>
ア ル マ ン ド ・ バ リ エ ン ト ス
「 税 財 源 の 社 会 保 障 の 役 割
」
山 田 晋
九 九
〇 五 一
〇
以 下に 訳出 する のは
、 ア ルマ ンド
・ バリ エン ト ス
(ArmandoBarrientos
) 教 授が
、InternationalSocialSecurityReview に 二〇
〇七 年に 発表 した 論文
「税 財源 の社 会保 障の 役割
」Barrientos,A.“TheRoleofTax-FinancedSocialSecurity.”Inter-
nationalSocialSecurityRevie
w
60 (2–3),(2007):pp.
99 –117
. であ る。 アル マン ド・ バ リエ ント スは ブ ルッ クス 世界 貧困 研究 所(theBrooksWorldPovertyInstituteBWPI
)教 授・ 所長 で、 同 時 にブ ラ ジル
・ アフ リカ 国際 研究 イニ シア ティ ブ
(theInternationalResearchInitiativeonBrazilandAfrica
) 共同 代表 で ある
。教 授は ケー ント 大学 で博 士号 取得 後、 エセ ッ クス 大学 の開 発 学研 究所
(InstituteofDevelopmentStudies
)研 究員
、マ ン チェ スタ ー大 学の 環境
・ 教育
・ 開発 学大 学院
(SchoolofEnvironment,EducationandDevelopment
)教 授な どを 歴任 し て いる
。 なお バリ エ ント ス教 授は
「 社会 保障
(socialsecurity
)」 を 極め て広 くと らえ てお り、 公共 事業 にち かい もの も本 論文 の 射 程範 囲に おい てい る。 この 点は 疑問 なし とは しな いが
、無 拠出 制の 社会 保障 制度 を全 般的 に論 じて いる とい う本 論文 の 意 義を 損な うも ので はな い。 し たが っ て訳 出に あた って も、 原 文Tax-FinancedSocialSecurity
を「 税 財源 の社 会保 障」 と 訳 し、 教授 の意 図を 尊重 した
。 ラテ ンア メリ カの
「条 件付 き現 金給 付制 度」 の評 価に つい ては 山田 晋「 ラテ ンア メリ カの 社会 政策
~社 会保 障法 とな り 得 るか
?」 明治 学院 大学 社会 学部 付属 研究 所・ 研究 所年 報三 九号
(二
〇〇 九年
)五 五~ 六〇 頁を 参照 され たい
。
─ ─
<
翻 訳>
修 道 法 学 三 七 巻 二 号
(
)
─ ─2
九 八 九 五
〇 九
ア ル マ ン ド
・ バ リ エ ン ト ス
「 税 財 源 の 社 会 保 障 の 役 割
」 先進 国と 途上 国の 双方 にお いて
、税 財源 の社 会保 障の 役割 の再 評価 が強 力に 主張 され てい る。 過去 二〇 年近 く、 貧困 と 脆 弱性 の新 しい 動向 は、 税財 源の 社会 保障 の役 割が より 強化 され ると いう こと を招 いた
。先 進国 にお いて
、い くつ かの 例 外 があ るに しろ
、一 九八
〇年 代に は失 業が 増加 し、 人口 の変 化は 税財 源の 社会 保障 の残 余的 な役 割を 変化 させ てき た。 途 上 国に おい ては
、急 速な 社会 的・ 経済 的転 換は
、税 財源 の社 会保 障の 著し い拡 大に 結果 し、 それ は中 期的 には 増大 して ゆ く 過程 であ った
。先 進国 と途 上国 を通 して
、労 働市 場に おけ る労 働の 変化 と、 世帯 構成 の異 種混 在状 態の 増加
、─ それ は 世 帯に おけ る労 働移 民の イン パク トの 内容 でも っと も良 く観 察さ れる
─は
、税 財源 の社 会保 障の 変化 した 役割 を示 唆し て い る。 本稿 はこ れら の変 化を 描写 し、 税財 源の 社会 保障 の再 評価 に貢 献す るこ とを 目的 とす る。 税財 源の 社会 保障 は、 貧困 の世 帯あ るい は個 人を ター ゲッ トと した
、多 くを 税歳 入を 財源 とす る給 付と サー ビス によ っ て 構成 され る。 本稿 との 関係 でい えば ため に、 特に 途上 国に 議論 の焦 点が 強く あて られ てい るこ とを 考慮 すれ ば、 税財 源 の 社会 保障 は、 社会 扶助 と密 にオ ーバ ーラ ップ する
。税 財源 の社 会保 障も 社会 扶助 とと もに 厳密 に定 義す るの は難 しい
。 社 会保 険制 度に 対す る政 府補 助( とり わけ 公務 員に 関す る拠 出を カバ ーす る政 府補 助) は税 財源 であ るが
、必 ずし も貧 困 世 帯を 志向 する もの では ない
。本 稿は これ らの 補助 に焦 点を 当て るも ので はな い。 途上 国に おい て貧 困世 帯に 焦点 を当 て た プロ グラ ムの ため の寄 贈者 から の財 政的 支援 は、 また ほと んど 税財 源で ある が、 異な った 管轄 であ る。 税を 財源 とす る 国 内的
・国 際的 支援 の相 対的 な重 要性 を明 らか にし なが ら、 本稿 では これ らの もの も検 討対 象と す
社 会扶 助に 関し て は
、本 論文 は貧 困世 帯に 対す る通 常の 形態 に焦 点を 当て る。 緊急 の制 度に つい ては 議論 の対 象と しな い。
( 1
る)
。
─ ─ ア
ル マ ン ド
・ バ リ エ ン ト ス
「 税 財 源 の 社 会 保 障 の 役 割
」( 山 田
)
(
)
─ ─3 九
八 八 五
〇 八
税財 源の 社会 保障 にお ける 変化 は、 先進 諸国 にお ける 社会 扶助 の成 長に おい てた だち にに 明ら かに なっ てい る。 受給 者 の 数に おい ても
、G DP に占 める 比率 にお いて もで ある
。途 上国 にお ける 大規 模な プロ グラ ム、 中国 や韓 国の 最低 生活 水 準 制度 やブ ラジ ルの 反貧 困プ ログ ラム であ るボ ルサ
・フ ァミ リア
(BolsaFamilia
) など であ る。 変化 はま た質 的で もあ る。 こ の次 元は おそ らく 最も 顕著 であ るが
、十 分に は理 解さ れて いな い。 先進 諸国 の間 で、 貧困 世帯 を支 援す るこ とは
、そ の状 況だ けで はな く、 その 原因 にも 注意 を払 うこ とが 必要 であ ると い う 認識 が広 まり つつ ある
。貧 困世 帯の 所得 の不 足を 補う 所得 給付 は、 彼ら の家 庭を 貧困 状態 にお とし めて しま う要 素を 解 決 す るた めに 十分 では ない
。 O EC D諸 国に おけ る
「 総体 的
(holistic
)」 アプ ロー チは
、 生 活の 最低 基準 を達 成す ると い う 経 済的 支 援と
、( 生活 の) 基 盤 的な 不足 に 対処 する た めの 社会 的 支援
、 そ して 労働 市 場へ の編 入 によ り家 庭 を助 け るた めの
─そ れゆ え、 彼ら の自 律を 回復
・再 獲得 する 雇用 支援 を結 びつ けて いる とAdema
は記 述し た。 税財 源の 社会 保 障は
、生 活の
「 ディ セン トな 基 準(decentstandard
)」 を カバ ーす ると いう 目 的だ けで な く、 社 会的 統 合 と 自律 とい う幅 広い 目的 も獲 得し た。 途上 国に おい ては
、貧 困は 多元 的な もの であ り、 長期 にわ たり 継続 する とい う理 解 が 広く 共有 され てい るが
、よ うや く最 近に なっ て政 策策 定と 実施 に十 分に 組み 込ま れる よう にな った
。新 しい 形態 の税 財 源 の社 会保 障は
、貧 困世 帯の 消費 のた めの 支援 を提 供す るだ けで なく
、教 育と 保健 に対 する 家庭 の投 資を 促進 する 試み で あ り、 不運 なリ スク から 彼ら を保 護す る試 みで ある
。こ れら の質 的な 変化 は、 税財 源の 社会 保障 の役 割の 変化 を理 解す る 鍵 とな る。 税財 源の 社会 保障 の質 的・ 量的 変化 は、 社会 保障 の他 の要 素─ 特に 拠出 制社 会保 障制 度へ の関 係と
、制 度間 のリ ンケ ー ジ のた めの 関係 に重 要な 問題 を惹 起す る。
─ ─
<
翻 訳>
修 道 法 学 三 七 巻 二 号
(
)
─ ─4
九 八 七 五
〇 七
本稿 の構 成は 以下 のと おり であ る。 次章 では 先進 国と 途上 国の 双方 にけ る税 財源 の社 会保 障の 傾向 を概 観す る。 その 後、 途 上国 の税 財源 の社 会保 障の 新し い形 態に
、い くつ かの 例と 共通 の特 徴を 描写 しな がら
、焦 点を 当て る。 第三 に、 焦点 と 範 囲、 デザ イン
、特 徴、 評価
、展 開な どを 論じ なが ら、 途上 国に おけ る税 財源 の社 会保 障の 新し い形 態の 分析 を提 示し
、 最 後に 結論 を提 示す る。 一 税 財 源 の 社 会 保 障 の 傾 向 先進 国と 途上 国の 双方 にお いて の最 近の 傾向 は、 税財 源の 社会 保障 の重 要性 の増 大を 示し てい る。 先進 国に おい ては
、 一 九八
〇年 代に 失業 が増 大し
、人 口の 高齢 化、 家族 構成 の変 化─ が、 社会 保障 制度 にお ける 税財 源の 社会 保障 の重 要性 の 増 加と 結合 して いる
。途 上国 にお いて は、 急速 な経 済的
・社 会的 転換 ある いは アフ リカ での その 欠如
─が
、貧 困者 と脆 弱 な 者と
、政 治的 動揺 の双 方に 対応 する ため の政 策と して
、税 財源 の社 会保 障の 成長 を促 進し てき た。 税財 源の 社会 保障 の 増 大は
、先 進国 と途 上国 の地 域の 研究 と政 策分 析に も見 いだ すこ とが でき 先進 国に おい ては
、二
〇世 紀中 盤に は、 税財 源の 社会 保障 制度 の下 降あ るい は少 なく とも 停滞 をみ た。 同時 に、 社会 保 険 の適 用範 囲は
、労 働力 人口 と人 口の より 広い セク ショ ンへ と拡 大さ れた
。し かし
、一 九八
〇年 以来
、こ の傾 向は 逆転 し、 そ して 支援 を得 てい る人 口の 比率 とし て、 ある いは 社会 扶助 に分 配さ れた 公的 支出 の割 合と して 測定 され た場 合に も、 税 財 源の 社会 保障 は、 著し い上 昇を 示し てき た。 傾向 の方 向性 にお ける 変化 を説 明す る主 要な 要素 は、 第一 には 一九 八〇 年 代 の失 業の 上昇 の結 果と 関係 があ った し、 労働 市場 の変 化と 結び つい てい た。 経済 的脆 弱性 への 直接 的影 響を 伴う
、人 口 高 齢化 と家 族形 態の 多様 性の 増加 は、 税財 源の 社会 保障 にお ける 上昇 傾向 を強 める のを 促し た。
( 2
る)
。
─ ─ ア
ル マ ン ド
・ バ リ エ ン ト ス
「 税 財 源 の 社 会 保 障 の 役 割
」( 山 田
)
(
)
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八 六 五
〇 六