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Academic year: 2021

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(1)

調査拒否理由としての「忙しさ」の意味について

小島 秀夫

*

・篠原 清夫

**

(2012 年 11 月 16 日 受理)

On the Meaning of “Busyness” as a Reason for Refusal

Hideo K OJIMA * and Sugao S HINOHARA * (Received November 16, 2012)

問  題

 社会調査においては回収率の低下が問題とされており,調査不能の理由としては調査拒否が増加 している。たとえば,統計数理研究所の「国民性の研究第 12 次全国調査」の結果では,回収率が 53% であり,調査不能の理由として「拒否」が 48% となっていることが報告されている ( 第 12 次 日本人の国民性調査委員会 2009)。ここで問題となってくるのが,対象者はなぜ調査を拒否する のかといった理由である。調査拒否の理由を知ることで,その原因を解明し調査方法の改善などに よって回収率を上昇させることが可能となる。そうして目的もあり調査拒否の理由についての研究 も実施されている。しかしながら,我が国においてはこの分野の研究もあまり進展しておらず,調 査拒否理由の研究としては山内・米倉(2002),小島・篠原(2004),篠原(2009),善教(2012)

や岩田(2012)などがあるにすぎない。善教の研究を除いては,これらの研究では調査拒否の主要 な理由として「忙しさ」が挙げられている。

 しかしながら,ここでの疑問は調査拒否の理由としての「忙しさ」には 2 つの意味があるのでは ないかということである。その 1 つは実際に忙しい場合であり,他の 1 つは「関わりあうのがめん どうである」とか「調査がめんどうである」,「調査に疑問を感じる」,「調査の後になにかあるので はないか」や「調査員が信用できない」といった感情が根底にあり,その言い訳としての「忙しさ」

というものである。後者の表現は,日常的には電話で商品の購入をもちかけられたりした場合に,

さしさわりのない拒否の表現としてよく使用されているものである。こうした「忙しさ」の内容が どのような構造になっているのかを解明するためには,調査拒否者に拒否の理由を1つ挙げてもら うだけでは不十分である。本研究は調査拒否の理由を複数回答してもらった結果を分析することに よって,調査拒否理由としての「忙しさ」の内部構造の解明を目的とするものである。

茨城大学教育学部社会情報研究室(〒

310-8512 茨城県水戸市文京 2-1-1).

三育学院大学看護学部(〒

298-0297 千葉県夷隅郡大多喜町久我原 1500).

*

**

(2)

データと方法

 ここで使用されるデータについて説明しておくこととする。我々は 2000 年 11 月に全国の小・

中学校の一般教師 4,000 名を対象に郵送調査法を使用して調査を実施した(小島・中村・篠原  2002)。その調査の後,調査対象者から 1,000 名をランダムに抽出し,調査拒否理由の調査を郵送 調査法を使用して実施した。この調査は 2001 年 1 月に実施したが,調査対象者には全国調査に回 答してくれた人も回答してくれなかった人も含まれている。この調査の回収率は催促状などを使用 しなかったにも関わらず,回収率は 59.2% となった。調査票はきわめて簡単なものであり,調査票 は小島・篠原(2004)に掲載されている。

調査拒否の理由

 本研究では「途中まで回答し,調査票を返送した」人,「何も回答せず調査票を返送した」人,「回 答しなかった」人を調査拒否者と定義する。分析の対象者は 107 名である。その内訳は「途中まで 回答し,調査票を返送した」人は 0 人(0%),「何も回答せず,調査票を返送した」人は 2 名(1.9%),

「回答しなかった」人が 105 名(98.1%)であった。前回の調査で回答せずに今回の調査に回答して きた人の人数は少ないけれども,調査拒否の理由を知る手がかりになるとは思われる。

 調査拒否の理由を明らかにするために,調査票を返送しなかった人に対して「では,そのように なさったのはどのような理由によってでしょうか。以下の中から該当するものすべてに○をつけて 下さい」と質問し,「個人のプライバシーに関わる質問があった」や「だれが調査をしているのか 不安を感じた」など「その他」を含め 41 項目を用意し,その中から該当するものをすべて選んで もらった。その結果は,以下のようになった。「 」は略式表記を示し,b01 などは変数名,( ) 内の数字は比率を示している。

(1) 個人のプライバシーに関わる質問があった「プライバシー」b01(11.2%)。

(2) だれが調査をしているのか不安を感じた「調査主体」b02(22.4%)。

(3) 体調が悪かった「体調」b03(6.5%)。

(4) 忙しかった「忙しい」b04(61.7% )。

(5) 質問の量が多すぎた「質問量」b05(39.3%)。

(6) 調査票をすててしまった「捨てた」b06(2.8%)。

(7) これまでに調査に協力したことがなかった「協力なし」b07(0.9%)。

(8) あいさつ状の説明が不十分であった「挨拶状」b08(6.5%)。

(9) 調査の内容に関心が持てなかった「調査内容」b09(9.3%)。

(10) なんとなくやる気がしなかった「やる気なし」b10(13.1%)。

(11) あちこちから調査の協力依頼を受けることが多すぎる「調査多い」b11(5.6%)。

(12) 宛名に住所や氏名の誤記があった「誤記」b12(1.2%)。

(13) お礼が少なすぎる「お礼」b13(1.9%)。

(14) 個人が特定される不安を感じた「個人特定」b14(19.6%)。

(3)

(15) 質問があいまいである「曖昧」b15(1.9%)。

(16) そもそも調査は信用できない「信用」b16(7.5%)。

(17) 調査票をどこかに置いたままにしてしまった「置き忘れ」b17(9.3%)。

(18) 自分の利益にならないことはやりたくない「自分の利益」b18(0.0%)。

(19) 同じような質問・回答形式が多くあきあきしてしまった「あきた」b19(7.5%)。

(20) 調査の目的が不明である「調査目的」b20(18.7%)。

(21) 自分の意見を他人に明らかにするのが好きではない「自分の意見」b21(1.9%)。

(22) 調査が何の役に立つのか疑問を感じる「調査の意義」b22(28.8%)。

(23) 調査はわずらわしいと感じる「わずらわしい」b23(11.2%)。

(24) 以前に調査に協力していやな思いをしたことがある「いやな思い」b24(2.8%)。

(25) 調査の結果を知ることができない「調査結果」b25(7.5%)。

(26) あいさつ状に大学の公印がなかったため「公印」b26(3.7%)。

(27) 自分が回答者として適しているとは思えなかった「適任」b27(13.1%)。

(28) 調査票をなくしてしまった「紛失」b28(3.7%)。

(29) 調査の結果がどのように利用されるか不安である「結果利用」b29(25.2%)。

(30) 教育現場から遊離した質問が多かった「遊離」b30(6.5%)。

(31) 自分がなぜ選ばれて回答者になったのか不安である「回答者」b31(36.4%)。

(32) 調査票をポストに入れるのを忘れてしまった「ポスト」b32(6.5%)。

(33) 調査結果が勝手に解釈される可能性がある「解釈」b33(15.9%)。

(34) 精神的に疲れていて回答する気にならない「精神的疲れ」b34(15.9%)。

(35) 調査者のおしつけを感じた「おしつけ」b35(23.4%)。

(36) 調査の後になにかあるのではないかと不安を感じた「後の不安」b36(7.5%)。

(37) 文部省の助成を受けた調査であることに反発をおぼえた「反発」b37(1.9%)。

(38) 開封しなかったので中身が分からなかった「開封なし」b38(1.9%)。

(39) 調査に協力する義理はない「義理」b39(13.1%)。

(40) ポストが近くにない「ポスト」b40(3.7%)。

(41) その他 (18.1%)。

 こうした結果をみると,調査拒否の理由として「忙しい」の比率が大きいことが明らかにされる。

では,調査拒否理由相互間の関連はどのようになっているのであろうか。この点を明らかにするた めに,ここではクラスター分析を使用した。その結果が,図 1 に示されている。図中の変数はそれ ぞれの調査拒否理由に対応している。たとえば,b07 は「協力なし」を示している。

 このクラスター分析の結果を見ると b04「忙しい」が最後の変数としてクラスターに吸収されて いることが理解できる。この変数の近くに位置するものとしては,b01「プライバシー」,b33「解釈」,

b20「調査目的」,b39「義理」,b34「精神的疲れ」,b14「個人特定」,b35「おしつけ」,b02「調査 主体」,b29「結果利用」,b22「調査の意義」,b31「回答者」と b05「質問量」であることが明らか にされる。このクラスター分析の結果からも「忙しさ」は,ただ単に物理的に忙しいということを 示しているわけではないことが推察できる。

(4)

 さらにこの点を明確にするために,ここではこれらの 13 変数を使用して,潜在クラス分析

(latent class analysis)を実施してみることとする 。 潜在クラス分析についてここで簡単に説明し

(5)

ておくこととする 。 最近の潜在構造分析の発展については McCutcheon(1987)や Hagenaars and McCutcheon(2002)で知ることができる。潜在クラス分析は潜在構造分析の一分野である。簡単 のために,いまカテゴリカルな変数 A,B,C があるとするとモデルは,

     

と表現できる 。 ここで変数 X は潜在変数であり, はセル(i,j,k,t)の確率である 。 さらに はサンプルがある潜在集団(クラス)に入る確率を示し, はあるサンプルがある潜在 集団に所属する場合に変数 A のあるカテゴリーに属する確率を示す 。 ここでの分析ではカテゴリー はすべて「ある」「なし」の 2 カテゴリーでとられている。 と も同様である 。 ここ では3変数で説明したが,変数はもっと多くても問題はない。モデルの適合度は

x

値などを調 べることによって明らかにされる。ここでの分析は潜在構造分析ソフト Latent GOLD(Vermunt and Magidson 2000)を使用した 。

表 1 モデルの適合度

 表1に分析結果が示されているが,BIC はモデルの適合度を示す指標であり,その値が小さいほ どモデルはデータに適合していると判断される 。 分類誤差はサンプル全体のうちどれほどの比率が そのモデルで誤って分類されたかを示すものであり,その値が小さいほどモデルの適合度は良いと 理解される 。 モデル M(1) は 1 つの潜在クラスを仮定したものであるが,統計的に有意である 。  M(2) は 2 つの潜在クラスを仮定したものであるが,BIC は最も小さくなっている。M(3) は 3 つの 潜在クラスを仮定したものであるが,統計的に有意ではないが,分類誤差が M(2) と比較してやや 大きく,かつ BIC もやや大きい。したがって,ここでは M(2) を最適モデルとして採用できる。

 表 2 に 2 つの潜在クラスの構成比とクラスが与えられた場合のそれぞれの理由の確率が示され,

図 2 にはクラス 1 とクラス 2 の特徴が図示されている。潜在クラス 1 は全体の 85% を占めている が「質問量」の比率が相対的に高くなっており,実際に時間的に忙しい集団を示していると判断で きる。これに対して潜在クラス2は全体の 15% を占めるが「解釈」「調査目的」「義理」「個人特定」「お しつけ」「調査主体」「結果利用」「調査の意義」「回答者」の比率が高くなっており,全体的に調査 に対する不信や不満を感じている集団と判断できる。こうした意識が複雑に絡み合った結果として,

このクラスの人々は調査拒否の理由として「忙しい」を挙げていると推察できる。クラス 1 とクラ ス2の「忙しい」の確率がほぼ等しいことが注目される。したがって,われわれがこれまで調査拒 否の理由として考えてきた時間的に「忙しい」という理由の比率はやや低めにとらえるべきである といえる。

(6)

表2 潜在クラス分析結果(モデル M(2))

図2 クラスの特徴

回収率を上昇させるための提言

 最後に回収率を上昇させるための提言を示しておくこととする。この分析結果からも明らかなよ うに,調査に対する不信感・疑惑や個人の非社会性(井田 2010)の問題が存在している。こうし た人々の疑惑や不信感を払しょくするためには,調査の有用性を学校教育などで教えていくと同時 に,一般の市民が納得するような調査の実績を積み重ねていく必要があると思われる。また,実際 に社会政策に役立つような調査を実施し,社会政策に調査を生かしていく努力が必要であろう。私 見では,調査は調査のみの目的で実施され,その結果が社会政策に生かされていないように思われ る。その原因は不明であるが,社会政策と調査の融合が図られるべきであろう。

(7)

引用文献

第 12 次日本人の国民性調査委員会 .2009.『国民性の研究 第 12 次全国調査― 2008 年全国調査―』統計数理研 究所研究レポート 99,統計数理研究所 .

Hagenaars,Jacques and Allan L.McCutcheon(eds.).2002.Applied Latent Class Analysis. Cambridge,Cambridge University Press.

井田潤治 .2010.「調査実務から拒否することを拒否する人々」『市場調査』287,pp.14-16.

岩田香奈江 .2012.「世論調査をめぐる人々の意識―より良い調査実施のためにー」『統計』2012 年 10 月号,

pp.29-36.

小島秀夫・篠原清夫 .2004.「郵送調査における調査拒否の理由」『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学,芸術)』

53,pp.133-140.

小島秀夫・中村朋子・篠原清夫 .2002.「教師の全国調査の計画と実施」『茨城大学教育学部紀要(教育科学)』

51,pp.189-199.

McCutcheon,Allan L.1987.Latent Class Analysis.Newbury Park,Sage.

篠原清夫 .2009.「面接調査における調査拒否の理由」『人間科学』26(2),pp.73-83.

Vermunt,Jeroen K. and Jay Magidson.2000.Latent Gold User’s Guide.Belmont,Statistical Innovations Inc.

山内利香・米倉律 .2002.「調査不能の現状と課題~『あなたから見た世論調査②』から~」『放送研究と調査』

2002 年 8 月号,pp.110-125.

善教将大 .2012.「回答拒否者の論理― JGSS を用いた一般的信頼感と「協力の程度」の分析―」『日本版総合的 社会調査共同研究拠点 研究論文集』11,pp.259-271.

(付記)調査拒否理由の項目作成において元関西大学の林英夫先生のご助言をいただいているが,内容について   の責任は筆者にある 。

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