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『自治体政策法務~地域特性に適合した法環境の創造』

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Academic year: 2021

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(1)

 国と自治体との関係において、第一 次地方分権改革から第二次地方分権改 革・地域主権へとつながる今日において、

もっとも大きな変化は、国・自治体の「法」

をめぐる変化であろう。機関委任事務の 廃止、国の法令による規律密度の緩和な どの分権改革は、国民・住民にとっては、

一見、地味にみえるが、個々の自治体が その気になれば、それぞれ個性のある政 策を展開することが可能となり、住民に とって劇的な変化を体験することができ る。しかし、逆に自治体が漫然と何もし なければ、何も変わることはなく、住民 は分権の成果を実感することはない。こ のような状況下では、自治体にとっては、

政策法務こそがきわめて重要な意味をも つことになろう。本書は、「自治体政策 法務」について、必要不可欠な諸要素を 織り込み、かつ最新の動きに対応したも のであって、自治体関係者にとっては、

バイブル的な意味をもつ大変有用な書で ある。

 本書は 8 章で構成され、第 1 章で基本 構造を示したうえで、第 2 章で地方分権

改革の中での自治体政策法務の位置づけ を明らかにし、第 3、第 4、第 5 章で、自 治体政策法務の三本柱(北村喜宣・第一 章序文)といわれる執行法務、評価・争 訟法務、立法法務について、詳説してい る。さらに、第 6 章 住民自治と政策法 務、第 7 章 都道府県・市町村関係と政 策法務、第 8 章 自治体政策法務のマネ ジメントと検討対象を広げて、全体とし て自治体政策法務にかかる課題をすべて カバーできるような構成をとっている。

 執筆者は、行政法・地方自治法の大学 研究者が中心であって、錚々たる大御所 教授と新進気鋭の若手が並んで執筆して いるが、さらに、自治体の実務担当者も 10 名入っているのが特徴的である。現実 に、自治体実務担当者の中で、自治体の 事務についての法的・政策的能力が育っ てきていることがうかがわれ、分権型社 会の将来に向けての心強さを感ずる。今 後は、自治体職員相互のネットワークを 広げていくことが必要であり、本書はそ のための取掛りになると考えることもで きよう。

【書評 1】

北村 喜宣・山口 道昭・出石 稔・礒崎 初仁 編著

『自治体政策法務~地域特性に適合した法環境の創造』

(有斐閣、2011 年)

小 幡 純 子

(2)

 以下では、各章でとりあげられた内容 をごく簡単に概観していくこととしたい。

[第 1 章 自治体政策法務の基本構造]

 1.「自治体における執行法務の課題」

(山口道昭)は、政策法務の中での執行法 務の位置づけを明らかにする。特に国法 の執行法務の中の「法創造的執行」とし て、自主的法令解釈、要綱の制定、例外 処理としての決裁等による対応が挙げら れているが、条例制定に至らない政策法 務の実態把握として適切であろう。2.「自 治体における「評価・争訟法務」の意 義と課題」(出石稔)は、法務における マネジメントの位置づけを明確にしたう えで、自治体における「争訟法務」の台 頭、争訟の頻発とともにそれに向き合う 自治体の取組みの方向性が示されている。

3.「自治体立法法務の課題」(礒崎初仁)は、

立法法務の重要性を明確にしたうえで、

法的課題として、条例と法律・憲法の関 係を論じた上で、立法法務の政策的課題・

実務的課題を示し、体制づくり・人材育 成の充実を提言している。

[第 2 章 地方分権改革の中の自治体政策 法務]

 4.「小規模市町村と事務処理の方策」(大 森彌)は、平成の大合併後の検証の必要 性、事務の共同設置の状況、小規模町村 の事務執行の姿から、都道府県による新 たな補完の仕組み・その是非が論じられ ている。5.「分権改革と「自治体法文化」」

(磯部力)は、第一次分権改革の「未完 性」について論じたうえで、質の変化、

自治体らしい法政策の展開、さらなる分 権改革の必然性、自治体法文化の創造と いう課題が提示されている。6.「自治体 における課題解決と政策法務の役割」(森 田朗)は、高齢化社会等の自治体が置か れている現状と課題を示したうえで、今 後は、ダウンサイジングの発想が必要と されること、行政計画手法の活用が有効 であることが提示されている。7.「自治 体政策法務をサポートする自治法制のあ り方」(松本英昭)では、自主的法令解 釈の余地の拡大、条例による法令の規定 の補正を許容する法律の通則的規定の提 案、いわゆる条例の上書権に関する筆者 の見解が述べられ、国の自治法制のあり 方として重要な指摘がなされているとい えよう。8.「コミュニティと自治体政策法 務」(名和田是彦)は、政策法務の対象と してのコミュニティをクローズアップし、

自治基本条例と自治体内分権の制度設計 の試みを具体的に検討し、まちづくりに おけるコミュニティルールの規範的基盤 を明らかにしている。9.「地域社会にお ける合意形成と自治体政策法務」(阿部昌 樹)は、合意形成プロセスの制度化の必 要性を論じ、当事者の範囲や住民投票の 投票権者の範囲、ワークショップなど多 様な手法の採用などについて論じている。

[第 3 章 執行法務の課題]

 10.「自治体の法解釈自治権について」

(3)

(人見剛)は、自治体の法解釈自治権の 根拠づけを論じた上で、自治体の法解 釈自治権を妨げるものとして、中央照 会型法務と法律案の立案者が中央省庁 であることを挙げ、法令解釈をめぐる 国・自治体間の紛争の解決手法を提示し ている。11.「自治体執行法務と審査基 準・処分基準」(野口貴公美)は、自治 体の「引写し審査基準」の問題とその 発生原因を検討し、基準設定のあり方論 や基準策定手続の整備を課題解決のた めに掲げる。12.「国・自治体間関係に おける法制と財政―国庫支出金を中心に」

(金井利之)は、義務的事業、自主的事業、

普通的事業、衡量的事業に分け、それぞ れの国庫支出金のもつ意味を論じ、自治 体の政策選好を貫徹しやすい制度を展望 する。13.「法執行の実効性確保」 (北村 喜宣)は、自治体政策法務における「実 効性確保」論を論じ、制裁、誘導、行政 強制などの措置を検討し、執行状態のア カウンタビリティシステムの整備が重要 であることを提言する。14.「執行法務の 適正化に向けた課題―コンプライアンス と苦情対応を例にして」(田中孝男)は、

執行法務の適正化論として、自治体(職 員等)の非違行為への対応、さらに、よ り広く不当行為の是正のための執行法務 を取り上げる。15.「「民による行政」の 法的統制」(山本隆司)は、民による行政 の統制基準、評価基準・評価主体の多様 化とともに民による行政の個々の政策評 価の必要性を論ずるものである。

[第 4 章 評価・争訟法務の課題]

 16.「法制評価システムの構築」(福士明)

は、法制評価の類型を論じ、自治立法評 価のシステムなどについて詳説している。

17.「神奈川県における条例の見直しシス テムの導入」(井立雅之)は、平成 19 年 から導入された神奈川県の「条例サンセッ トシステム」について、見直しの視点・

効果等について論じる。18.「評価法務の 課題―法制評価の実践から見る効果と課 題」(衣笠章)は、鳥取県における条例評 価と棚卸し的見直しについての状況を紹 介している。19.「法執行の評価・見直し」

(伊藤智基)は、オンブズマン制度を取り 上げて法執行の評価・見直し機能の分析 を行うもので、川崎市市民オンブズマン 制度の具体例を提示してその有効性を論 じている。20.「行政事件訴訟法と訴訟法 務」(鈴木潔)は、行訴法改正の影響にも 触れ、分権時代の訴訟法務のあり方とし て、訴訟担当組織の確立・統制の必要性 を論ずる。21.「自治体の行政不服審査法 への対応」(藤島光雄)は、不服申立て の動向、行政不服審査法改正法案への対 応などについて論じ、自治体にとっての 苦情処理制度の導入・相談窓口の設置の 重要性を指摘する。22.「実務から見る行 政不服審査制度の見直しの論点―東京都 の事例から」(和久井孝太郎・中村倫治)

は、平成 19 年の行政不服審査制度検討 会最終報告を取り上げ、東京都の現場か ら見た制度改善の論点提起を行っている。

23.「政策法務としての争訟法務」(出石稔)

(4)

は、争訟法務として、勝訴した場合・敗 訴した場合の対応を論じ、訴訟を通じた 政策法務的対応について具体例を挙げな がら検討を行う。24.「自治体訴訟法務と 裁判」(阿部泰隆)は、「違法行政と闘う」

という立場から、自治体における法令コ ンプライアンスの不備等を指摘し、行政 側の自浄力への期待・顧問弁護士として 新司法試験合格者の採用等の改善策が提 示されている。

[第 5 章 立法法務の課題]

 25.「憲法と条例―人権保障と地方自 治」(渋谷秀樹)は、法の下の平等、財 産権規制、表現行為規制等を取り上げ、

憲法と条例の関係について、詳細な検討 を行っている。26.「分権時代の条例制定 権―現状と課題」(岩橋健定)は、条例 制定権をめぐる解釈論、立法論を展開し、

将来に向けて、裁判所の信頼を得るよ うな条例制定への課題が提示されている。

27.「法令の規律密度と自治立法権―地方 分権改革推進委員会の検討を踏まえて」

(礒崎初仁)は、規律密度の現状と問題点、

第二次分権改革の規律密度見直し論につ いて詳細に論じる。28.「自治体立法法務 はいかに可能か ?―政策学からの検討」

(伊藤修一郎)は、政策学からみた立法政 策論と立法過程論を論じ、法学的アプロー チとは異なる政策論と政策法務との連携 の必要性を提言している。29.「自治立法 のあり方と政策法務―より良き条例を目 指した枠組みへの展開に向けて」(川﨑政

司)は、条例の特性、条例事項、立法事実、

住民との近接性等を論じながら今後の課 題を提示する。30.「条例制定過程の現状 と課題―すぐれた条例を創出する条例制 定過程とは」(山本博史)は、千葉県の実 例を紹介しながら、条例制定過程のあり 方を論ずる。

[第 6 章 住民自治と政策法務]

 31.「議会の政策法務―住民代表や合議 体という議会の特性から考える」(江藤 俊昭)は、議会への政策法務と議会によ る政策法務の 2 つの側面を取り上げ、さ らに、議会からの政策法務の視点を追加 して論ずる。32.「地域コミュニティの政 策法務―福祉の視点から」(石川久)は、

自治組織からの裁判提起などを通して、

持続可能な仕組みとしての地域コミュニ ティの重要性を論じる。33.「コミュニ ティ形成のためのまちづくり条例」(早川 淳)は、ワンルームマンション建築規制 条例などの実例を引きながら、コミュニ ティ形成への道を提示する。34.「審議会 が住基ネット離脱を提案―審議会は行政 のおかざりではない」(清水勉)は、長野 県本人確認情報審議会の経験からの問題 提起がなされている。35.「情報共有の政 策法務―自治体情報法制の今日的課題」

(藤原静雄)は、情報公開、公文書管理、

個人情報保護という局面での今日的課題 を提示する。36.「市民参加の政策法務」

(山口道昭)は、市民参加条例の類型を 示し、政策の法化という課題を提示する。

(5)

37.「市民協働の政策法務」(原島良成)は、

市民協働論について、公法学の発想から 深掘りした論点提示がなされている。

[第 7 章 都道府県・市町村関係と政策 法務]

 38.「都道府県・市町村関係の制度と 実態―自治紛争処理委員制度は機能した か」(今井照)は、我孫子市と千葉県の 紛争事例を取り上げ、紛争処理システム の課題を提示している。39.「都道府県条 例と市町村条例」(田村達久)は、地方自 治法 2 条 16 項後段の規定を検討し、条 例間関係調整のための法的対応の課題を 提示する。40.「条例による事務処理の特 例の現状とこれから」(千葉実)は、事 務処理特例制度の運用の現状と課題を論 じ、効果を実感できる権限移譲への改善 の方向性を提示する。41.「都道府県と市 町村の関係の制度と課題―権限移譲を中 心に」(大石貴司)は、大都市特例制度や 中核市への権限移譲の実態を分析する。

[第 8 章 自治体政策法務のマネジメント]

 42.「自治体政策法務の推進体制―現状 分析と今後の課題」(嶋田暁文)は、政策 と法務の不一致などの課題を提示し、長 期型政策法務研修との連携など、改善提 案を掲げている。43.「自治体政策法務と 人材育成―政策形成と法務の融合をめざ して」(小池治)は、困難な政策課題に 挑戦していく政策人材の必要性を説く。

44.「「政策法務」推進のための組織と仕

組み―千葉県における取組を通じて」(高 梨みちえ)は、千葉県における政策法務 組織の設置と政策法務の推進体制につい て紹介しその成果を示している。45.「予 防法務のしくみの構築を目指して―静岡 市の行政リーガルドック事業の試行的取 組」(平松以津子)では、静岡市の政策 法務推進計画の取組みとして、リーガル ドック診査・研修・リーガルチェックシー トを活用した事務の法的点検が紹介され ている。

 以上のように本書に所収されている項 目は 45 にも及び、多岐にわたる政策法務 の要素が網羅されているといえよう。惜 しむらくは、一つひとつのテーマがきわ めて有益であるのに、分量が少ないため、

読み手にとっては、多少物足りない印象 が持たれる項目もあるところであろうか。

逆に、広い分野に亘る政策法務に関する 論稿がこの一冊で尽くされているといえ ることは大きなメリットといえよう。ま た、末尾には、事項索引、法令索引、条 例索引、判例索引があるため、辞書的な 使い方も可能となる。

 本書の多くの執筆者が指摘しているよ うに、分権時代においては、自治体の政 策法務能力は大変重要となると同時に、

それによって自治体間格差が広がる可能 性も存する。本書によって、各自治体が 政策法務への取組みを強めることによっ て、わが国の国・地方の社会システム全 体がより良き方向に向かうことを期待し てやまない。

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